ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第20話『漆黒の竜』

山脈地帯を前方に見据えて真っ直ぐに伸びた道を、トレーラーを牽引したビークルモードのオプティマスコンボイが爆走する。

サスペンションによって大抵の衝撃は殺してくれるので、街道とは比べるべくもない酷い道ではあるものの車内、そしてトレーラー内は快適な空間だった。

「じゃあ、ヴェルさんやユーリアちゃん、レムリアちゃんやシエラちゃんはそのアデプトテレイターと言う超人だったのか」

「だとしたらヴェルさんのあのステータスにも納得できる」

「良いですか、あくまでもヴェルさんからの許可を受けて話しただけですからね。無闇に言いふらさないように…もし破ったらどうなるか…わかりますよね?」

ユーリアはハンドガンを見せながらそう言う。親衛隊のメンバーである玉井と相川は首を縦に振り、同様に話を聞いていた園部、宮崎、仁村、菅原も頷く。

 

ユーリアはヴェルから許可を得て自分達がアデプトテレイターである事、何故第46太陽系の地球からハジメ達が住む地球やトータスに来たのか、何故旅をしているのかを親衛隊の面々に話した。

「しかし、南雲が羨ましい。こんなにも美少女に囲まれて毎日を過ごしているなんて」

と仁村は口にするが

「えっ、ハジメさんは香織さん一筋ですよ」

とシアは答えた。

「えっ!?そうなの?」

宮崎の言葉にユーリア、レムリア、シエラ、ユエ、シア、ゼルフィは頷く。

「…隙あらばいちゃいちゃしてる」

「まぁ、ヴェルが二人には結ばれて幸せになって欲しいから二人だけの時間を作るようにしているのもあるんだけどね」

ユエとシエラの発言にハジメと香織は顔を赤くしているし親衛隊の男子三名は

「リア充め…」

「リア充爆発しろ」

「末長く爆発してろ」

と呟いた。

「ユーリアはヴェルの事が好きすぎてヴェルの女になっているけどね」

とハジメは仕返しする。

「そうそう、隙あったらヴェルの隣にいるし、ヴェルによれば朝起きたらユーリアが隣にいたって事も日常茶飯事だし」

そこへ香織も加勢する。しかし、ユーリアは恥ずかしさで身悶えるどころか

「えへへ…そうですね」

と物凄い笑顔である。

「最早ライクの意味じゃなくてラブの意味で好きだよね」

ゼルフィの言葉にユーリアは頷く。

「「「百合だ…」」」

と男子三名が呟くのも無理はない。宮崎と菅原もキャーと言わんばかりに盛り上がっている一方、園部だけは昨日会ったシリアスなユーリアと今のユーリアのギャップに戸惑うしかなかった。

「ヴェルさんの女ですよね、ユーリアさんって。レムリアさんとシエラさんも割りとそうですけどね」

とシアは発言する。

「ちょ、私は別に…」

「私知ってるよ~ヴェルになでなでされている時のレムリアの幸せそうな顔にふりふりしてる尻尾、誉められている時だって尻尾ふりふり。ヴェルの前だとよく尻尾をふりふりさせているよね」

「レムリア!それを今言う!?そうシエラだって―」

「まぁ、私はそう言うのはオープンにするタイプだからね」

「それは知ってるわよ、生まれた時からずっと一緒だったから」

というやり取りに

「百合だ…百合ハーレムになってる…」

と誰かが呟いた事を付け加えておこう。

 

そんな様子を愛子はモニターを通して眺めていた。

因みにオプティマスコンボイ側の通信回線は現在切ってあるので、ヴェルや愛子が何を話しているかはコンテナに乗っている者達に伝わる事はない。

「風見さん、愛されてますね」

「悪い気はしない。それと、呼ぶときはヴェルで良い」

「はい、ヴェル…さん」

暫くの沈黙の後、愛子はヴェルに問う。

「ヴェルさんはどうして戦っているんですか?」

「それは…私が戦う理由が何なのか、という事か?」

ヴェルの言葉に愛子は頷く。

「そうだな…生きたい、仲間を守りたい、そして後悔したくない、そんなところか。

私が小学生の頃…まだ普通の人間だった頃だ。家族で銀行に行ったら銀行強盗が現れた。

銀行員は強盗へ反抗し、強盗は持っていた銃を落とし、それが私の前に落ちてきて私は拾った。

強盗は私から拳銃を奪い返そうとした。私はもし拳銃が強盗の元に戻ったら私の家族にも危害が加わるかもしれない…そう思って引き金を引いた。

強盗は死んだが、私はこの事がトラウマになって…銃を見ただけで吐いたし引きこもった…それから暫く経って私は家族と共に引っ越す事になった。誰も自分達を知らない地へと…しかし、その道中でジーオスの襲撃を受けて私一人だけ助かって…両親と母の胎内にいた私の新たな家族となる筈だった命は死んだ。

助けられた後、私はなんでもっと早く助けに来なかったんだと責めた。

そして私はアデプトテレイターになって戦う道を選んだ…私の様な者を生み出さない為、ジーオスへの復讐の為に。

その中で私はある人に出会った…私と同じアデプトテレイターである彼女は私にとって大切な人だった…本当の家族になろうと誓ったが…それは叶わなかった…彼女はあるジーオスとの戦いで死んだからだ。大勢の命を救うために。

後は昨日話した通りだ。

これまで多くの仲間を失って、その最期を看取ってきた。だからこそ今の私はこのレッカーズという仲間…家族を失わない為に戦う」

 

 

―side:Vernyi―

 

 

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なる北の山脈地帯…そこに到着した私達が目にしたのは生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所であった。

普段見えている山脈を越えても、その向こう側には更に山脈が広がり、北へ北へと幾重にも重なっている。

現在は4つ目の山脈まで確認され、5つ目以降は完全に未知の領域らしい。

5つ目以降の山脈越えを狙った冒険者がいたそうだが、山脈を越える度に生息する魔物も強力になるので叶わなかったらしい。

第一の山脈で最も標高が高いのが神山だ。

今回、私達が訪れた場所は神山から東に1600キロメートルほど離れた場所だ。

 

私達はそんな山脈の麓へ到着するとオプティマスコンボイやトレーラーから降りる。

見事な色彩を見せる自然の芸術は美しく思わず看取れてしまうのだが、今はゆっくり眺めている時間はない。

私はオプティマスコンボイとトレーラーを宝物庫に仕舞うと9機のキラービークを出し、ユーリア、レムリア、シエラ、ユエ、シアもそれぞれのトランステクターを出す。

「き、恐竜!?恐竜が5体も!?」

と親衛隊の一人、菅原…だったか?がそんな声を上げる。

「確かにティラノサウルス、トリケラトプス、ブラキオサウルス、ステゴサウルスは恐竜ですが、プテラノドンは恐竜ではありません、翼竜という恐竜とは別種の爬虫類です。そこをお間違えないように」

とユーリアは不機嫌そうにそう言う。

「ご、ごめんなさい…」

と謝る菅原。

「そりゃ詳しくない人から見たら翼竜も首長竜も恐竜と同一視しがちですけどね、彼らは恐竜と別種の爬虫類なんですよ…」

とユーリアは完全にいじけている。

「なぁ、南雲…あの娘は何であんなに恐竜に拘ってるんだ?」

と仁村はハジメに訊ねる。

「ユーリアの家系は曾祖父母の代から代々恐竜に纏わる職業に就いていたらしくて、彼女も物心ついた頃から恐竜などに関する知識をある程度身につけてたみたいで…

因みにユーリアの曾祖父母はヴェルと関わった事があるとか」

「マジか…」

 

そんなこんながありつつ、私達は冒険者達も通ったであろう山道を進んでいた。

魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。ならば、ウィル達冒険者パーティーも、その辺りを調査したはず…キラービーク各機と各トランステクターを先行させ、私達は山道を進んでいた。

因みにキラービークと各トランステクターが捉えた映像は私が持つ端末で確認することができる。

 

およそ一時間…私達は六合目に到達し、其処で一度立ち止まった。この辺りから痕跡を探し始めるのもあるが…

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか…けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか…愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな?休むぞ?」

「…ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か…」

畑山教師と親衛隊の体力が予想以上に低く、休む必要があるからな。

本来、召喚者のステータスはこの世界の一般人の数倍を誇るのだか、どうやら我々レッカーズの移動速度が速すぎてついていくのがやっとのようみたいだったからだ。

ハジメや香織、ユエ、シアはそこまで疲れてはいないし、私やユーリア、レムリア、シエラはそもそもアデプトテレイターだから疲れにくいしゼルフィにいたっては私が改造して作ったFAガールで動力がEN粒子だからな。彼女もキラービークやトランステクターと共に先行して空から捜索している。

 

私は詳しく周囲を探るのと休憩がてら近くの川に行くことにした

畑山教師に先に川へ行くと伝えた後、我々は山道から逸れて山の中を進む。

そうしてたどり着いた先にあった川は小川と呼ぶには少し大きい規模のものであり、我々の中で索敵能力が一番高いシアと次いで高いレムリアが周囲を探る。

皆が休憩し、息を整えた畑山教師と親衛隊も合流した後、私と隣に座っているユーリアがモニターをチェックしていると、スカイグライドが何かを発見したようだ。

「これは盾ですかね?それに、鞄も…」

「まだ新しいな…当たりかもしれない。総員に告ぐ、出発だ。手掛かりを見つけた」

 

モニターで確認した通り、ひしゃげて曲がっている金属製の小ぶりなラウンドシールドと、紐が半ばで引きちぎられた状態にある鞄が散乱していた。

そして、近くの木の皮が禿げているのを発見した。

「高さは2メートル程、何かが擦れた拍子に皮が剥がれたのだろう。高さからして人間の仕業ではない…」

「魔物との戦いがあったんでしょうか…?」

と畑山教師は呟く。

「恐らくは、な」

傷のある木は他にも幾つもあり、それらの木に沿って先へ進んでいると次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝、踏みしめられた草木、折れた剣や飛び散った血痕があった。

「ヴェルさん、これ、ペンダントでしょうか?」

シアが発見したのはペンダントらしきものだった。

「遺留品かもしれない。確かめてよう」

シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントというよりはロケットらしい。留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。

「おそらく、誰かの恋人か妻と言ったところだろう。大した手がかりではないが、古びた様子はない…もしかしたら冒険者一行の誰かのものかもしれない。回収しておこう」

更に探していくと遺品と呼ぶべきものが次々に見つかり、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していった。

日もだいぶ傾いており、そろそろ夜営の準備をしなければならないか…

『ヴェル、こっちに来て』

ゼルフィからの通信が入り、私達は現場に急行した。

 

大きな川、その上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しく、本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろう。

しかしその川は現在、途中で大きく抉れ、小さな支流が出来ていた。

「まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたみたいですね」

「そうだな、ユーリア」

抉れた部分は直線的であり、周囲の木々や地面は焦げている。

何本もの木が何か大きな衝撃を受けたのか、半ばからへし折られて、数十メートルも先に横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、30センチ以上ある大きな足跡も残されている。

「ここで本格的な戦闘があったようだな…」

「うん…この足跡、大型で二足歩行する魔物…確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいた筈だけど…この抉れた地面は…」

ハジメの言うブルタールはRPGのオークやオーガに該当する魔物だ。

上流に向かってウィル達は追い立てられるように逃げてきたようだが、これだけの戦闘をした後体力的にも、精神的にも町から遠ざかるという思考ができるか疑問に思うから更に上流へと逃げたとは考えにくい。

「足跡が川縁にあるということは、体力的に厳しい状況にあったウィル・クデタ一行は流されてそのまま逃げ込んだ可能性が可能性が高いな。下流へ行ってみるぞ」

下流へ下って移動すると、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。

私達は、軽快に滝横の崖を降りていき、滝壺付近に着地する。

更に気配感知に反応があった。

「気配感知に掛かった。感じから言って人間だろう。場所は…あの滝壺の奥だ」

「生きてる人がいるってことですか!?」

シアの言葉に私は頷く。

「反応は一人か…ユエ、頼めるか?」

「…ん、まかせて…"波城"、"風壁"」

ユエは高圧縮した水の壁を作る水系魔法の"波城"と風系魔法の"風壁"を発動させ、滝と滝壺の水が真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。

「それでは行くか」

滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞があっあ。

天井からは水と光が降り注ぎ、下方の水溜りに落ちてきた水が流れ込んでいる。

そして、その場所の一番奥に横倒しになっている端正で育ちが良さそうな顔立ち20代前半くらいの青年が見つかった。

彼の顔色は青ざめて死人のような状態だったが、まだ息はある。

倒れている人間は彼のみだ。

「大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているから、単純に眠っているだけみたい」

と香織は彼の容態を見た後、回復魔法をかける。暫くして彼は目を覚ました。

「ん…此処は…確か…」

そんなウィルに私は問う。

「お前は、ウィル・クデタか?」

「えっ、はい、そうです!私がウィル・クデタです」

「そうか、私は風見ヴェールヌイ。レッカーズというパーティーのリーダーをしている。

フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。生きていてよかった」

「イルワさんが!?そうですか。あの人が…また借りができてしまったようだ…

あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

いつぞやの糞貴族と比べて物凄くマシな人物みたいだな…というか今まであってきた貴族が屑ばっかりだったから彼みたいな善良な貴族は初めて会った。

それから、各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。

 

ウィルによると…

・五日前に私達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい、ウィル達は撤退に移ったが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。

・ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になり、追い立てられながら大きな川に出た。

 

・しかしそこへ漆黒の竜が出現、黒竜はウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃された。

 

・ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していた。

 

ウィルは話している内に感情が高ぶったからかすすり泣きを始めた。

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで…それを、ぐす…よろごんでる…わたじはっ!」

そんな事をほざくウィルの胸倉を私は掴み上げた。

「生きたいと願う事、生き残ったことを喜ぶ事の何が悪いんだ!?その願いも感情も当然にして自然にして必然、お前は人間として極めて正しい」

「だ、だが…私は…」

「それでも死んだ者達のことが気になるなら…生き続けろ。その人生、足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすれば、いつかは…今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るかもしれないからな」

「…生き続ける」

私はウィルを放し、誰にも聞こえないように呟いた。

「もしかしたら、私自身にも言っているのかもな。私自身、家族や友の死を今も引きずっている節があるからな」

皆が私が呟いた事が気になる(ユーリア、レムリア、シエラ、シアには聞こえていたみたいだが)のか見つめてくるが

「いや、なんでもない。ブルタールや黒竜の事は気になるが、今はウィルを連れて帰る事が最優先事項だ。下山するぞ」

ユエの魔法で私達は滝壺から出てきたのだが…

 

「グルルルゥゥゥゥゥゥゥ…」

 

滝壺から出た私達を歓迎したのは黒竜だった。

体長は7メートル程、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金色の目で私達を睨み付けながら低い唸り声を上げている。

恐らくオルクス大迷宮の奈落の底の九十層クラスの魔物と同等の力を持っているだろう。

 

「どうやらただで帰らしてはくれないみたいだな…」

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

 

 

 


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