―side:Vernyi―
これから下山するというタイミングで襲撃か…
黒竜はウィルの姿を見つけるとその鋭い視線を向け、頭部を持ち上げ仰け反ると共に鋭い牙の並ぶ顎門を開けてそこに魔力を集束しだした。
ウィルを消すつもりか…
私は即座にトランステクターを出し
「アデプタイズ!オプティマスコンボイ、トランスフォーム!」
オプティマスコンボイとなってベクターシールドを皆の前に展開、直後に黒竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。
私はバックパックのブラスターを最大出力で発射し、出来るだけ黒竜のブレスを相殺する。
「くっ、これはちょっとキツいな…」
「ヴェルさん!私もいきます!アデプタイズ!グリムレックス、トランスフォーム!」
ユーリアはグリムレックスと一体化し、黒竜の背後へと回って大きく跳躍して踵落としを黒竜に喰らわせる。黒竜はブレスを強制的に中断させられた後、地面に落とされる。
「私達も行くです!」
「…ん!」
「「リンケージ!」」
「スラッグバスター―」
「スナールウィザード―」
「「トランスフォーム!」」
更にシアとユエがトランステクターと一体化して戦線に参加、スナールウィザードは魔力弾の連射で援護しつつスラッグバスターは両手にインパクトナックルを装備、それで黒竜を殴るとインパクトナックルの拳部分はパイルバンカーの様に打ち出される。
スラッグバスターの一撃に黒竜はバランスを崩して転倒、それでも黒竜はブレスをウィルに向けて放とうとするが私はバックパックのブラスターを発砲、更にハジメ達もリボルビングバスターキャノンなどで援護射撃する。
黒竜は立ち上がってこちら―というよりウィルに攻撃を仕掛けようとするが、スラッグバスターがインパクトナックルで殴って阻止。
グリムレックスは竜の弱点である尻回りの柔らかい場所に向かってサムライマスターソードを突き刺そうとするが、それに気付いたのか偶然なのか黒竜はその尻尾でグリムレックスを叩き飛ばす。
空中へと飛ばされたグリムレックスはジェットモードに変形、黒竜に体当りするとロボットモードへと変形して黒竜の頭を何度も殴る。
「…ユーリア!」
「はい、ユエさん!」
スナールウィザードの言葉にグリムレックスは黒竜から離れ
「"禍天"」
スナールウィザードは重力魔法による渦巻く重力球を作り出し、消費魔力に比例した超重力を以て黒竜を押し潰す。
しかもその威力はトランステクター未使用時と比べて更に倍増されている。
「…シア!」
「はいですぅ!」
スナールウィザードが禍天を解除した後、ビーストモードへと変形していたスラッグバスターが黒竜に突進。
スラッグバスターの角が勢いよく刺さった結果、黒竜の鱗や外殻は砕け、血が流れでる。
「もう一発ですぅ!」
スラッグバスターはロボットモードへと変形するとインパクトナックルを瞬時に装備して今も尚ウィルに向けてブレスを吐こうとする黒竜の頭を殴り、インパクトナックルの拳部分が打ち出され、黒竜の頭は地面に叩き付けられ、黒竜は血を吐いた。
「なぁ…ハジメ。違和感を感じないか?」
と私はハジメに問う。
「確かに…どれだけ攻撃を受けても僕達を襲おうとしている」
「正確にはウィルを狙っているんだろう」
「それにしてはどんだけ優先度高いんだって感じだけど」
「まるで私達の事なんてどうでもいいような…」
シエラと香織の言葉の後、私はある可能性に辿り着いた。
何が起ころうとも目的達成を最優先にする…私もその例を目にしている。
「もしかして…操られているんじゃ…」
「奇遇なだな、レムリア。私もそう思いたったところだ」
と私が答えた時、グリムレックスとスラッグバスターは黒竜にとどめを刺そうとしていたのだが…
『待って…ほしいのじゃ…』
と何処からとなく声…いや念話が聞こえてきた。私達の内の誰の声でもない…まさかとは思って
「戦闘中止!」
と皆に指示を出し、私はオプティマスコンボイとの一体化を解除して黒竜に問う。
「言葉が分かるのか?」
『そうじゃ…だが、このままでは…妾は…ゲホッ!死んでしまうのじゃ…思っていた…以上にダメージが…大きいのじゃ…』
「分かった。香織、彼女に回復魔法を」
「うん、分かったよ」
香織は黒竜に回復魔法をかける。傷やダメージが治った黒竜は立ち上がる。
『ありがとうなのじゃ…お蔭で洗脳が解けても危うく死ぬところだったのじゃ』
「こちらこそ手荒なまねをしてすまなかった。ところで貴女は何者だ?言葉を話す竜など聞いたことがないが…」
「…もしかして、竜人族?」
『如何にも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ』
ユエの言葉に黒竜はそう答える。
「ところで竜人族って一体…」
「今から500年前に滅んだとされる種族の事です。彼等は竜、つまりドラゴンとしての姿と私達の様な人の姿を使い分けると言われています」
と園部に対しユーリアはそう説明した。
「その竜人族が何故一介の冒険者達を襲ったんだ?我々と交戦してもウィルの殺害を優先にしていた節があるが」
『妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ』
「なるほどな…詳しく話を聞かせてほしい」
『話を始める前に竜化を解いても良いかのう?竜化…つまり竜の姿は魔力を消費して維持しているが故に魔力が無くなると竜の姿を維持出来なくなるのじゃ』
「構わない」
黒竜はその体を黒色の魔力で繭のように包んで体を覆うと、その大きさを小さくしていき、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになった後、一気に魔力を霧散させる。
黒竜は長い黒髪に金色の瞳、20代前半くらいの見た目で着物を着た女性の姿となった。
「先ずは自己紹介をせねば。妾はティオ・クラルス。竜人族最後の一族、クラルス族の一人じゃ」
「私は風見ヴェールヌイ、レッカーズというパーティーのリーダーを務めている」
「それでは、風見殿。話そう、何があったのかを」
「ヴェルで構わない。何があったんだ?」
「竜人族の中には魔力感知に優れた者がいて、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したのじゃ。
我々竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるものの、流石にこの未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、我々にとっても不味いのではないかと、議論の末、遂に調査の決定がなされたのじゃ。
そして派遣されたのが妾じゃ」
「その来訪者が我々だな」
私の言葉にティオは頷き、話を続ける。
「本来なら山脈を越えた後、人型で市井に紛れ込んで竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりじゃったが…
その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたのじゃ。
当然、周囲には魔物もいるから竜化状態で睡眠状態に入っていたら黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れてのう。
恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった…」
「そして洗脳されてしまったのだな」
私の言葉にティオは頷く。
「じゃあ、何で抵抗しなかったのよ?」
と問う園部の言葉に答えたのはユーリアだった。
「竜人族の性質ですね。竜化状態で睡眠に入った竜人族はそれでこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り起きません。
この世界ではその事に因んだ諺があるくらいですね。
それでも、竜人族は精神力においても強靭さを誇るので、そう簡単に操られたりはしないのですが…今回は相手が悪かった、そうですね?」
ユーリアの言葉にティオは肯定する。
「そして男は他の魔物も洗脳していったが…その魔物の集団をウィル達に見られて、目撃者を始末するために差し向けらた、という事か?」
「その通りじゃ」
ティオから一通りの事情を聞き終えた後
「…ふざけるな」
ウィルは拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいたのだった。
―side out―
「…操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを!殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!
大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
「…今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」
しかしそれでもウィルは言い募ろうとするが、ユエが口を挟んだ。
「…きっと、嘘じゃない」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を!?」
ユエは食ってかかるウィルを一瞥した後、ティオを見つめながら語る。
「…竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は"己の誇りにかけて"と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに…嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは…いや、昔と言ったかの?」
ティオは竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうだった。
「…ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
「何と、吸血鬼族の…しかも三百年とは…なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は…"アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール"だったかのう?」
「…今はユエと名乗っている。大切な人達から貰った名前」
ユエの言葉にそうか、と呟くティオだったが、ウィルは未だに納得していなかった。
「それでも、殺した事に変わりないじゃないですか…どうしようもなかったってわかってはいますけど…それでもっ!ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって…彼らの無念はどうすれば…」
それ死亡フラグと瞬時にハジメ、香織、ユーリアはそう思ったが、口にはしなかった…ヴェルがそれで大切な人を失ったと聞いていたからだ。
ただ、そのヴェルも死亡フラグと思いつつ自分"達"も人の事は言えないので黙っていたりする。
「ウィル、ゲイルってやつの持ち物か?」
ヴェルは取り出したロケットペンダントをウィルに見せ、ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。
「これ、僕のロケットじゃないですか!失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!若い頃のママの写真が入っているので間違いありません!」
皆が面食らうのも無理はない。
ウィルは大切な物を取り戻して冷静にはなれたが、やはりティオへの憎しみは消えていなかった。
「大切な物が帰ってきたのは嬉しいですが、それとこれとは話は別です。彼女がまた洗脳されたら脅威になるから殺すべきです!」
それに対しティオは懺悔するかの様にこう告げた。
「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。
しかし、今は猶予をくれまいか…せめて、あの危険な男を止めるまで。
あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。
竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もあるし放置はできんのじゃ…勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」
とティオは頭を下げる。
「私達としては貴女と戦う理由・殺す理由はない。
洗脳が解かれた今、貴女は我々と戦う意思はないのだろ?」
ヴェルの言葉にティオは頷く。
一方のウィルは未だに納得しておらず、それを見かねたヴェルはウィルに対し殺気を放ちながらこう告げた。
「お前はこう言ったな、また洗脳されたら脅威になるから殺そう、と」
「それがどうしたって言うんですか…!?」
「それは建前で本当は彼女が憎くて復讐したいからなんだろ?」
ヴェルに図星を突かれ何も言えなくなるウィル。
「私は別に復讐など無意味だとか復讐が駄目だとかありふれた事は言わない。
私自身、戦う道を選び、力を得た理由の一つは両親と母の胎内に宿っていた弟か妹になる筈だった者の命を奪った怪物への復讐心だっからな。
復讐というのはやるとしても自分の手でやらなければ意味がない。だが、お前は自分には力がないから我々に頼ろうとしている、違うか!?」
ヴェルの言葉にウィルは言い返せず、他の者達も口出しなど出来なかった。
「武器なら貸してやる。だから、復讐したいのなら自分の手でやれ!」
ヴェルは宝物庫からサムライソードを出し、地面に突き刺す。
ウィルはサムライソードを引き抜き、ティオに向けて構える…その手は震えている。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ウィルは叫びながらサムライソードを振り下ろすが、その刃はティオを斬ることなく彼女の隣に振り下ろされた。
それを見たヴェルはため息を吐いてこう言った。
「お前、本当は"人の姿をした者"を斬ること…傷つけるのが怖くてできないんだろ?
私が彼女を殺さないと言って反対したのは復讐したいけど、自分には力がないし人の姿をした者を斬るなんてできないからだろ?」
ヴェルの言葉にウィルは何も言い返せなかった。
ヴェルはサムライソードを宝物庫へしまうのだが…
「ん…キラービークから通信か…」
キラービークから送られてきたのはとある場所に集合する魔物の大群の映像だった。
「これは…数は万単位というレベルだな。
しかも、どうやら既に進軍を開始している。
このまま行けば…一日あればウルの町に到達するだろう」
ヴェルの言葉に愛子達は目を見開く。
「は、早く町に知らせないと!避難させて、王都から救援を呼んで…それから、それから…」
と愛子はやるべき事を整理している。
「一旦町に戻るぞ」
とヴェルは皆に呼び掛けるが、愛子はある事をヴェルに訊ねる。
「ヴェルさん、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
「生憎だが、それらしき人影は見当たらないな」
愛子は顔を俯かせた後、こう口にした。
「私、残ります。黒いローブの男が清水君なのかどうかを確かめたいんです」
愛子の言葉に親衛隊は説得しようとするが、愛子の気持ちも分かるが故に何も言えなかった。
「魔物の餌食になりたいのなら残れば良い。我々は町に戻る」
ヴェルの言葉に抗議したのは園部だった。
「このまま大群を放置するんですか!?」
それに対しヴェルはこう返した。
「我々の最優先事項はウィルの保護だ。それに、此処で戦おうともお前達は足手まといでしかない」
ヴェルの言葉に親衛隊の面々は事実であるが故に何も言えなかった。
「それに町に戻って報告しなければ…もしこのまま此処で戦っている隙に魔物達が町に到着したらどうなる?
多くの人が町にいる…そんな状態で避難する時間もないし対策する時間もない状態で魔物に攻められたら被害者が増えるだけだ」
ヴェルの正論に愛子やウィル、親衛隊は渋々了承し、一行は下山するのだった。
To be continue…