ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第22話『ウルの町攻防戦 前編』

―side:Vernyi―

 

 

現在、私達は行きよりも早いスピードで北の山脈地帯からウルの町へ向かっていた。

道中、畑山教師の護衛騎士達が私が運転するオプティマスコンボイを魔物と勘違いして魔法を放とうとしたが、助手席に乗っていた畑山教師が止めさせた。

騎士隊長は飛び降りてこいと言わんばかりに腕を広げている…恍惚とした表情を浮かべて。

尚、私はオプティマスコンボイを更に加速させ、騎士達は進路から退避した。

「ヴェルさん、どうしてあんな危ないことを」

「止まれば事情説明を求められるに決まってるし、どうせ町で事情説明するのに二度手間になる」

「うっ、た、確かにそうです…」

 

 

その後、ウルの町の役場に役場に到着し、魔物の大群の事を報告したのだが、この町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達は皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、畑山教師やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

"神の使徒"にして"豊穣の女神"たる畑山教師の言葉だ。そして最近では魔人族が魔物を操るというのは公然の事実であることからも、無視できないのも当然だな。

 

因みにティオの正体と今回の黒幕が清水幸利である可能性については伏せることになっている。

ティオに関しては、竜人族の存在が公になるのは好ましくないので黙っていて欲しいと本人から頼まれたし、バレれば混乱に拍車をかけるどころか討伐隊が組まれてもおかしくないからだ。

黒幕に関しては未だ可能性の段階に過ぎないので不用意なことを言いたくないと畑山教師が譲らなかったためだ。

 

そんな中、畑山教師は私に頭を下げた。

「ヴェルさん、どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「どのみち戦うつもりだったから別に構わないが、貴女は生徒の事が最優先なのだと思っていた。

色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃないのか?」

「そうですね…元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。

でも、それが出来ないなら、今はこの世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。

そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが…」

「なるほどな…貴女は何処へ行こうが先生という訳か」

「貴女を完全に信頼しているわけではありません。私に黙って南雲君と白崎さんを連れ出したのですから…勿論、2人が自分の意思で貴女についていったのは理解しています」

「信頼しているわけではないのはお互い様だ。私達は見ず知らずの赤の他人だ…共通点は共通の知り合いがいる事だけの、な」

「ですが、今は貴女の力を…貴女達の力を信じています」

「分かった。共同戦線だ。喜んで力を貸そう」

と私も話し合いに参加し、終わった後は準備に取りかかるのだった。

 

町の住人達には、数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられたが、パニックになったのは言うまでもない。

しかし、"豊穣の女神"たる畑山教師の声と恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿、元から高かった知名度によって人々は一先ずの冷静さを取り戻した。

それから住人達は故郷は捨てられず場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通りに救援が駆けつけるまで逃げ延びる避難組に別れた。

尚、居残り組の中にも妻子だけでも避難させる者もいた。

 

 

 

「なぁ、俺達ファンタジーな世界に召喚されたんだよな」

「あぁ、ファンタジーな世界に来たのに…マシンロボみたいなロボが出てくるわファクトリーアドバンスのモデリングサポートグッズの武器っぽい武器が出てくるわ…いつの間にかSF世界になってやがる」

「マシンロボというよりダイアクロンやミクロマンの方が近いんじゃね?」

と親衛隊の男子3人はそう口にする。

ダイアクロンやミクロマン、マシンロボはハジメ達の地球にて西暦の時代に誕生し、アニメや漫画といったメディアミックスと併せて現在も続いている玩具シリーズだ。

モデリングサポートグッズはファクトリーアドバンス社が今の社名になる前から販売していたアクションフィギュアや他のプラモに対応したカスタムパーツや武器などのプラモシリーズで、私が作ったMSG(マルチサイジングギア)はこのMSG(モデリングサポートグッズ)の武器を参考にして作ったものだ。

「ハジメ、そっちの様子はどうだ?」

「ヴェルに言われた通り、町の外周に8メートルの外壁を錬成しておいたよ」

ハジメはビークルモードのゴルドファイヤーで走行しながら外壁を作成し、それを終えたようだ。

尚、ハジメの錬成範囲は半径4メートル位で限界なのだが、トランステクター使用時はその倍に広がる。

「ありがとう、ハジメ。後は外壁にセントリーガンと連装砲を設置するだけだな」

セントリーガンと連装砲は樹海にある施設でハウリア族の面々が量産化に成功し、我々の元に送られてきたMSGの一つだ。

今回は町に接近してきた魔物への対処用に運用する事になった。

「セントリーガンと連装砲はみんなと町に残った人達が手伝ってくれたおかげで思っていたより早く設置が済むかも」

そうこう話をしていると騎士を連れた畑山教師が私を訊ねてきた。ティオも一緒にいる。

「ヴェルさん、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」

「順調に進んでいる。必要な物も我々で準備した。問題ない」

と私は端末を確認しながら答える。

「おい、貴様。愛子が…自分の"恩師"が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ?少しは…」

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「うっ…承知した…」

「あと言っておくが、私は彼女の生徒ではない。年も彼女より…それどころかお前より上だ。

召喚されたのもハジメに昼食を届けに行ったら巻き込まれただけに過ぎない」

私達の言葉に騎士隊長…デビッドは漸く黙った。

「ヴェルさん、黒ローブの男のことですが…」

「正体を確かめたいから見つけても、殺さないでくれと言いたいのだろう?」

「はい。どうしても確かめなければなりません。その…皆さんには、無茶なことばかりを…」

「取り敢えず、黒ローブを貴女の元へ連れて来よう。後は思う通りにすれば良い。だが、確約はできないぞ」

「構いません。無茶を言っているのはわかってますから…ありがとうございます。ところで…彼女はどうして不貞腐れているのですか?」

と畑山教師は私に抱き着いて離れず不機嫌そうに畑山教師を見ているユーリアの事を問う。

「あぁ、行きも帰りも特等席を貴女に取られたのだからな、だから不貞腐れているし私が此処に来てからは彼女の好きにさせている」

と答えておいた。

続いて私はティオに問う。

「何か用があるのか?」

「うむ…実は頼みがある」

「頼みとは何だ?」

「この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?

「ああ、そうだ」

「頼みというのはそれでな…妾も同行させてほしい」

「私としては構わないが、来訪者を調べるという任務があったんじゃないのか?」

「それはそうなのじゃが…それはヴェル殿達と一緒にいても出来る事。

妾は里でも、妾は一、二を争うくらいの実力者でな、特に耐久力は群を抜いておった。

じゃから、他者に組み伏せられることもなかった…しかし、そんな妾が反撃らしい反撃もできずに敗北してしまった」

「それで悟ったのか?自分はまだまだで世の中には自分より強い奴がいる、と」

「その通りじゃ。妾は知りたいのじゃ…ヴェル殿達"レッカーズ"の事を、そして妾自身も強くなりたい」

「我々の旅路は険しく命を落とすかもしれない」

私がそう言った後、ティオは片膝をついて頭を下げた。

「それでも、ついていきます。そして、貴女様に忠誠を誓います」

私はティオの頭を優しく撫でながらこう口にした。

「良いだろう、歓迎しよう。ようこそ、我らがレッカーズへ」

 

『ヴェル、こちらゼルフィ。魔物の集団を確認したよ。

到達まで三十分ってところで、数は5万強の複数の魔物の混成だよ』

「分かった。引き続き黒ローブの男の捜索を頼む」

とゼルフィに伝えたあと畑山教師の件で未だに不機嫌なユーリアにこう言う。

「そろそろ機嫌を直してほしいんだが…」

「だってですよ、ヴェルさんは"鋼鉄の戦女神"なんですよ。それなのに今回の手柄はあの教師のものになってヴェルさんはあの教師の教え子って事にされるんですよ」

「それに関しては後でどうとでもなるし、今回は私の知名度より畑山教師の知名度の方が高いから、それを利用するだけだ」

「それは分かっていますが…」

「頑張ったら褒美をあげよう。フューレンに戻ったら2人で買い物でも付き合うし夜の相手もしよう」

「…今度は私が主導権を握りますからね」

「私から主導権を握ろうなど100年早いな」

「今度こそ私が取りますよ!あっ…」

「どうした?」

「いえ、何でもないですよ」

ユーリアは機嫌が良くなったからか笑みを浮かべてそう返し、ハジメと香織に何かを伝えた後、戦闘準備に入った。

私は畑山教師達に魔物が近づいている事を報告し、畑山教師は不安な表情を浮かべる。

「数万増えたくらい何の問題もない」

「わかりました…どうか無事で…」

そう言って畑山教師は町中に知らせるべく駆け戻り、親衛隊や騎士達も畑山教師を追いかけて走っていく。

ウィルは、ティオに何かを語りかけた後、私達に頭を下げて畑山教師を追いかけていった。

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ」

「それはよかったな」

「そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

「それは頼もしい限りだ。援護を任せたぞ。それから魔力タンクを渡しておこう」

「感謝するのじゃ、ヴェル殿」

ティオに魔力タンクを渡した後、私はハジメと香織にアイコンタクトを取り、ハジメと香織は打ち合わせ通りに動く。

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!私達の勝利は既に確定している!なぜなら、私達には2人の女神が付いているからだ!」

ん?2人の女神?打ち合わせだと畑山教師一人の筈じゃ…

「そう、皆も知っている"豊穣の女神"愛子様とオルクス大迷宮にて多くの冒険者達が敵わなかったあのベヒモスを単独で倒した"鋼鉄の戦女神"ヴェル様です!」

おい、打ち合わせと違うじゃないか!?まさか…

そう思ってユーリアに視線を向けたら、ユーリアは咄嗟に視線を逸らした…犯人はお前か!

…まぁ、良い。後はどうとでもなれだ。

「我らの傍に愛子様とヴェル様がいる限り、敗北はありえない!愛子様とヴェル様こそ!我ら人類の味方にして、愛子様は"豊穣"と"勝利"を、ヴェル様は"守護"と"勝利"もたらす、天が遣わした現人神である!」

「私達は、ヴェル様の臣下にして愛子様の剣にして盾、彼女達の皆を守りたいという思いに応えやって来ました!見よ!これが、愛子様とヴェル様により教え導かれた私達の力です!」

香織はそう言うと、リボルビングバスターキャノンとフリースタイルシールドを取り出し、フリースタイルシールドを地面に打ち込んで固定、更にリボルビングバスターキャノンの銃身をその上に置いた。そして膝立ちになって構え、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンっぽい魔物に照準を合わせ、引き金を引いた。

リボルビングバスターキャノンから放たれた砲撃は数キロ離れたその魔物の一体を撃ち抜き、更に後ろに飛んでいた魔物をも撃ち抜いていく。

それを2発目、3発目と空の魔物を駆逐していく。

その魔物の中に慌てたように後方に下がろうとしている比較的巨大な魔物がいたのだが、その上に黒ローブの男の姿が確認されたので、私はハジメと香織に指示を出し、2人はその魔物の翼を撃ち抜いた。黒ローブの男は乗っているごと余波で吹き飛ばされ、宙に吹き飛ばされて、ジタバタしながら落ちていった。

私はゼルフィの黒ローブの男の捜索・確保を頼んだ。

 

空の魔物を駆逐し終わったハジメと香織は唖然として口を開きっぱなしにしている人々の方へ悠然と振り返り、最後の締めとしてこの言葉を張り上げた。

「「愛子様、万歳!ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)!」」

 

「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)!ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)!ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)!ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳!女神様に栄光を!女神様、万歳!女神様に栄光を!女神様、万歳!女神様に栄光を!女神様、万歳!女神様に栄光を!」」」」」」

 

不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ畑山教師と私を女神として讃える雄叫びを上げた。

遠くで、畑山教師が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐに私に向けられており、小さな口が

「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」

と言わんばかりに動いている。

いや、私だって何故そうなったのかとハジメや香織、主犯だろうユーリアに問い詰めたい…私の予定では畑山教師だけを担ぎ上げるつもりだったんだがなぁ…まぁ、良い。

 

「色々と聞きたいし言いたい事があるが…今は良い。レッカーズ、戦闘開始だ」

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 


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