ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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今回の話、前半はオリキャラの生徒と雫のお話となります。

そして、清水が原作と比べたら誰だお前状態になってしまいましたが、これも当初から決まってたりです。


第24話『認めてくれる人』

時はヴェル達が教会から離反し、天之河達が一度王宮へ戻ってから一週間後にまで遡る。

 

ヴェル達が離反した後の召喚者達は天之河の様に引き続き戦争に参加し、今は鍛える為にオルクス大迷宮を攻略を目指す者達と王宮の引き込もっている者達に別れていた。

その後、引き込もり組の中から愛子と同行する愛ちゃん親衛隊が現れる事になるのだが、それは別の話である。

 

そんな攻略組の中に一人の生徒がいた。

 

彼女の名は南風野(はえの)朱音。隠れオタクであり、7歳年下の妹(名前は朱莉というらしい)を持つ彼女は実のところ天之河に良い感情を抱いていない人物であるのだが、妹と違って趣味が関わらない限り大人しく目立ちたがらない彼女は友達などいなかった。

クラスメート達の多くが天之河の意見に流されて戦争参加に軽い気持ちで賛成する中、彼女は天之河に流されず、戦争反対派だった。

それ故に天之河に真っ向から反発した人物―ハジメや香織、雫の知り合いで偶々ハジメの弁当を届けに来て召喚に巻き込まれた風見ヴェールヌイの存在は彼女の印象に残る事となった。

 

しかし、戦争反対派は少数だったが故に流れを変える事は出来ずに全員が参加する事になった。

 

彼女は治癒師としての能力を持ってはいたが、それでも香織には及ばず、自ら「技能が香織の劣化版だ」と思ってしまったほどだ。

それでも戦争に参加しなければならないならやるべき事はやるしかないと訓練を行ったり暇さえあればこの世界の事を勉強したりした。

 

そんなこんなでオルクス大迷宮で実戦訓練を行う事になったのだが、そこでヴェルやハジメ、香織が使用したMSGやトランステクターに目を輝かせたのだが、話しかけようにも勇気が出せず、遂にはヴェルはハジメや香織を引き連れて天之河達…ひいては教会から離反、彼女はヴェル達に話しかけるチャンスを失ってしまったのだ。

 

一度王宮へと戻った後、オルクス大迷宮での実戦訓練が再開されるまで自主的に鍛える事にした朱音だったが…

 

 

森の中で治癒・回復系の魔法以外に覚えた魔法の実践を行っていた朱音はある音を耳にした。

「金属と金属がぶつかり合う音…私以外に誰かいるのかな…」

そう思い、彼女はその音を追って森の中を探索する。

そして、彼女が目にしたのは…

(八重樫さん…?どうしてこんな所に…それに…あれってでかくて色違うけどFAガールの迅雷!?何で迅雷が此処に!?ジンライ!?ジンライナンデ!?)

と頭の整理が追い付かない朱音だったが、運悪く小枝を踏んで音を立ててしまう。

「何者!?」

とその迅雷―迅雷紅刃は音がした方へ手裏剣を投げ、手裏剣は木に刺さる。

雫と紅刃が手裏剣の刺さっている所へ行くと…

「南風野さん!?どうして此処に!?」

咄嗟に頭を屈めていた朱音を発見した。

「こっそり見ていた私も悪いですけどね、いきなり手裏剣を投げてくるのもどうかと思いますよ!」

と涙目で紅刃に訴える朱音。

「す、済まない…不届き者かと思った」

と紅刃は謝罪する。

雫は朱音に手を差し伸べ、朱音はその手を握って立ち上がる。

「ありがとうございます」

「気にしなくて良いわよ。驚かせちゃった私達も悪いから」

「えっと、この娘の姿…フレームアームズ・ガールの迅雷、ですよね…色はともかく」

「南風野さん知ってるの?」

「はい!そりゃもう知ってますよ!ファクトリーアドバンス社が今の社名になる前から展開している同社の代表的なシリーズで、最初は各関節がフル可動して自由にポーズが取れる美少女プラモ界に革命を起こしたプラモデルとして始まって、アニメ化を経て、最近ではアニメ版と同じく簡単なプログラミングで行動可能な完成済みの美少女型ロボットとプラモデル形式の装甲・武器のセットも展開してて、将来は私もお迎えしたいなって思ってて―はっ、すいません…勝手に盛り上がってしまって」

「もしかして…南風野さんってオタクなの?」

雫の言葉に朱音は焦りながらこう答える。

「そ、そんな事ないですよ!?フレームアームズ・ガールのプラモを買って組んでは眺めたり妹やその友達と一緒にダイアクロンやミクロマンでブンドドしたりとかはないですよ!」

「いや、それじゃ認めていると同義よ。それに私は貴女がオタクと知って軽蔑したりしないわ。私の幼馴染みの香織だって彼女の彼氏の南雲君のおかげでオタクになったわけだしそもそもヴェル―鋼鉄の戦女神もオタクよ。この子…迅雷紅刃もヴェルがFAガールを魔改造して作ったものよ」

という雫の衝撃発言に朱音は驚愕するしかなかった。

「魔改造…これは魔改造とかってレベルじゃ…そもそも大きさが…」

「えっと、説明しても良いのかしら…?」

「暫くお待ちを」

と紅刃はヴェルに連絡を取る。

作成者(マイスター)ヴェルから許可が出た」

「許可が出るなんて意外ね」

「"彼女は多くの生徒達とは違い、あの場であのクソガキ勇者に流されずイシュタルを警戒している目をしていたから他の生徒達より信用できる"とのこと」

という訳で雫と紅刃は朱音にヴェルが何者であるかを語った。

その後、朱音は雫の様にヴェルの協力者になる事を決めると共に故郷に帰って妹と再会するという目的を叶えるために雫と一緒に勇者パーティーに入る事になった…その勇者に対しては意見の衝突が起きる事もあるらしいが…

 

あれから時が過ぎ、ヴェル達レッカーズがウルの町で魔物の軍勢と戦っている頃、雫と朱音は今日も強くなる為、オルクス大迷宮の攻略を目指す…ヴェルから送られたりハウリア族が密かに届けてくれたMSGをその手に持ちながら…

 

 

 

 

そして、ウルの町の外れでは…

魔人族の男はある薬が入った注射器を自分の身体に刺し

「あの方に栄光を―」

と言い残して肉塊へと成り果てた。

さっきまで人の姿をしていた物だったその肉塊に親衛隊は吐きそうになる一方、ヴェルは冷静にその肉塊―というより男が接種した薬を調べていた。

「僅かに金属細胞の反応が出ている…アデプトテレイター化したらそれでも良し、肉塊になったとしても相手に情報を漏らす事はないだろうからそれでも良し、という事か」

と分析したヴェルは立ち上がると清水の方を向いてハンドガンを手に持ち、銃口を清水に向ける。

「何をするつもりなんですか!?」

と抗議する愛子。

「何って…こいつを殺す、ただそれだけだ」

ヴェルはそう言うとレッカーズの面々に念話である事を伝え、彼らはその指示に従って状況を見守っている。

「どうして…清水君は騙されていただけなんですよ!」

「騙されていただけだとしても、魔人族側につくことを選んだ事、そして多くの人々を殺そうとした事は変わらない。いいからそこをどけ」

「そんなのお断りです!」

「だったら力ずくでも殺しにいく」

ヴェルはそう言うと何も持っていない左手で愛子を退かし、その行為に騎士達はヴェルに攻撃を仕掛けようとするが…

「貴方達の介入は認められていません。此処で介入が認められているのは畑山教師と親衛隊の生徒達のみです」

ユーリアはサムライソードの刃先を騎士達に向けてそう言う。

一方の親衛隊の面々はヴェルに対し魔法による攻撃でヴェルを妨害する。

「お前らはこいつを始末する事に賛成かと思っていたが、私の気のせいだったか?」

「確かに清水がやった事は取り返しのつかない事だし許せねぇって思ったけど―」

「こいつだって魔人族に利用され騙された被害者だ!」

「それにこいつも"親衛隊のメンバー"で"俺達の仲間"だ!殺されるのを黙って見てられるか!」

とヴェルを攻撃しながら答える玉井・相川・仁村の3人。

「そうか…だが、私からすればそんな事知った事ではない。それに私はお前らを信用している訳でも信頼している訳でもない」

そう答えるヴェルは歩みを止めず、そのヴェルを菅原はロープで動きを止めるが、ヴェルは力業でロープを引きちぎる。

宮崎も魔法でヴェルを足止めしようとするが、ヴェルはハンドガンで相殺する。

「私は魔法に適性があるわけではないが…単純な力と技術面などはお前達より遥かに上だ」

玉井は曲刀でヴェルを切りつけようとするが、ヴェルはフリースタイルシールドで防御、曲刀は折れてしまい、玉井はフリースタイルシールドで殴り飛ばされる。

園部は投擲用ナイフに魔法で炎を纏わせてそれをヴェルに向かって投げるが、ヴェルはハンドガンでそれをすべて撃ち落とす。

「お前らを信用・信頼できないのは香織や雫と違いいじめを受けていたハジメを助けなかったというのもあるが…お前ら自身があのクソガキもとい勇者に流されて簡単に戦争に参加すると決めたからだ。

あの場で勇者に流されず自分の意思で戦争参加を決めた若しくは警戒の眼差しをしていたのはハジメ、香織、雫以外だとそこにいる清水と今は雫と一緒にいるであろう南風野ぐらいだったな。

それにその程度の力で畑山教師の護衛ができるなんて本当に思っているのか?もしかして、親衛隊になったのも戦争で人を殺すなんて出来ないけど何かをやっている気になりたいからなんじゃないのか?」

ヴェルの冷たい眼差しと声色に親衛隊は沈黙する。

「…確かにそうかもしれない…」

しかし、その沈黙を破ったのは園部だった。

「確かに私達はヴェルさん達が抜けてから怖くて引き込もって…それも嫌で、何かをしてないと気が済まないから愛ちゃん先生親衛隊になった…でも、愛ちゃん先生を守りたいという気持ちは本物よ!」

園部の言葉に同調するかの様に親衛隊の面々は立ち上がり、ヴェルに立ち向かう。

 

一方の清水は未だに絶望から立ち直れていなかった。

魔人族側は自分を勇者として歓迎する…それは建前で彼らは自分を道具としか見ていなかった…彼自身を認めた訳ではなかったのだ。

そんな彼の元にハジメは歩み寄る。

「何だよ南雲…笑いたければ笑えよ…俺は天之河より…勇者よりすげぇんだって証明しようとして…結局は騙されてた馬鹿だって…」

「笑ったりしないよ…僕も清水君と同じ立場だったら同じ事をしていたかもしれないからね」

一拍置いてハジメはこう口にした。

「僕はトータスに召喚されて…皆と違ってこの世界ではありふれた職業の錬成師…それも能力もこの世界の一般人と殆ど変わらない程度で馬鹿にされて…悔しかった。

けれど、僕を認めてくれて、他の誰でもない僕の力や知識を必要としてくれた人達がいた。

彼女達がいなければ僕は今こうして生きていなかったかもしれないし、生きていたとしても変わり果てていたかもしれない。

彼女達のおかげで今の僕がいる…だからこそ彼女達の力になりたい…そう思いながら僕はこれまで頑張ってきた。

清水君から見ればお前は何様だよって話になるかもだけど。

まぁ、簡単に言えば大多数から認められなかったとしても、自分の存在や力を認めてくれる人がいる…後はどうするか自分次第って事かな」

「自分次第…」

「そう、その人達の為に強くなろうと頑張ったり知識や知恵を身に付けたり期待に応えようとするのとか、それらは自分次第」

「なぁ、南雲…俺にもいるのかな…俺自身を認めてくれる人って」

「そうだね…ヴェルは…ウチのリーダーは清水君の事を高く評価してたよ」

ハジメの言葉に清水は大きく目を見開く程に驚いた。

「確かに清水君がやった事、やろうとした事は誉めらた事じゃない。

けど、君は天之河君に流されずイシュタルさんに警戒の眼差しを向けていたってヴェルから聞いたし、それに君は自分の力を理解し、認めて貰おうと努力して、自分で行動を起こして、周りの協力ありきとはいえあれだけの魔物を自分の配下にした。

敵でなければ僕達レッカーズの一員としてスカウトしたかもってヴェルは言ってたよ」

「あの鋼鉄の戦女神が俺の事をそんな風に…」

清水の言葉にハジメや優しく頷く。

「それにさ、もういるじゃないか…君の力だけでなく君自身の存在を認めてくれて、心配してくれる人が。

そうでなければ愛ちゃん先生は君を探したりはしなかったと思うよ。それに親衛隊の皆は今ヴェルと戦っている…君の為に」

ハジメの言葉に清水は思わず涙を流した。

自分の事を…自分自身の存在を認めてくれている人は身近にいた、ただ自分自身が気付かなかっただけの事だったのだ。

「そうか…そうだったな…ほんと、俺って馬鹿だよな…俺の事を認めてくれている人は本当に近くにいたのに…それに気付かず馬鹿な事をして…」

清水幸利は涙を拭い、ハジメにこう告げる。

「南雲…お前ともっと早く友達になれたら良かったのにな」

「今からでも遅くないよ」

ハジメが差し伸べた手を幸利は握りしめ、立ち上がる。

「無事に日本に帰れたらアニメ談議とかしようぜ、ハジメ」

「うん、幸利君!」

ハジメはそう頷いた後

「ヴェルと戦うなら武器が必要だよね」

MSGの一つであるガンブレードランスを出し、幸利はそれを受け取る。

「ありがとう、ハジメ。それじゃ、行ってくる」

 

 

親衛隊の面々はヴェルに追い詰められていた。

自分達の実力を遥かに上回る実力、全属性耐性や高速魔力回復がありながらも魔法への適性がない故に魔法を使った攻撃は行わないが、その分をそれまでの経験や技術、そして武器でカバーする彼女(しかもこれでも手加減している)は親衛隊の面々が束になっても敵う相手ではなかった。

何度攻撃しようともそれは回避させられたり武器で相殺されたりするし、自分達の武器もヴェルによって壊されてしまう。

しかし、それでも親衛隊は諦めなかった。そして…

「生徒達だけに戦わせて、傷ついているのを見ているだけなんて…そんなの、何が先生ですか!?」

と愛子も立ち上がり、近くに落ちていた折れた曲刀の刃を拾ってはそれをヴェルに向けて投げるが、ヴェルはハンドガンを発砲してそれを弾き飛ばす。

ヴェルが愛子に振り向いた瞬間…

「鋼鉄の戦女神ぃぃぃぃぃ!」

幸利が背後からヴェルを斬りかかろうとしたのだ。ヴェルはそれをフリースタイルシールドで受け止め、更にフリースタイルシールドで殴り飛ばすが、幸利は地面にガンブレードランスを突き刺してその場に留まった後着地する。

「清水…お前…」

玉井の言葉に幸利はこう返した。

「皆…そして愛子先生、済まなかった!俺、漸く目が覚めた」

幸利の言葉に親衛隊の面々、そして愛子は嬉しさのあまり笑みを浮かべる。

「漸く分かったみたいだな」

ヴェルは満足したかの様に笑みを浮かべながらそう言うと、装備していたハンドガンとフリースタイルシールドを地面に捨てた。

その行為に幸利や愛子、親衛隊の面々が怪しむ中、ヴェルはこう告げた。

「お前達の事を認めよう。諦めず私に立ち向かったことと清水幸利に免じて。お前達の勝ちだ」

その言葉に緊張の糸が解れたのか幸利や愛子、親衛隊の面々は地面に座り込む。

「お前達には悪かったが、試させてもらった。

お前達が親衛隊として本当に相応しいかどうか、そして清水幸利…お前が"大切な事"に気付けるかどうかを。どうやら気付いたみたいだな」

「あぁ、気付けたよ…俺の事を認めてくれる人は身近にいたって事を」

幸利は親衛隊や愛子の方を向くと頭を下げた。

「みんな、今まで済まなかった!皆には迷惑と心配をかけたし、取り返しのつかない事もやってしまった。

けど、皆が良ければ…俺は親衛隊の一員としていても良いかな…?」

「当たり前だ、お前は親衛隊の一員だよ、清水」

と相川は答え、他の親衛隊の面々も頷く。

「ありがとう…皆…」

涙を流しながらそう告げる幸利。そんな幸利の元へ愛子は歩み寄る。

「先生…俺…」

言葉を詰まらせる幸利を愛子は優しく抱き締める。

「清水君、確かに貴方は取り返しのつかない事をしてしまいましたが、それに気付く事ができました。償いは私も一緒にやっていきます…だから、今は…おかえりなさい、清水君」

愛子の言葉に清水はこう返すのだった。

 

 

 

 

「ただいま、愛子先生…」

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 


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