ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第26話『海人族の幼女』

 

 

ヴェル達がフューレンに帰還した翌日。

「さてと、それでは今日は各自自由行動だ。もし何かあれば私に連絡してほしい」

ヴェルの言葉に皆は了解、と返し各自グループを作る。

ヴェルとユーリアとゼルフィ、ハジメと香織、レムリアとシエラとシア、ユエとティオという組み合わせである。

 

ハジメと香織は久々に二人っきりでデートを楽しんでいた。

「ハジメくん、このメアシュタットっていう水族館へ行ってみようよ」

「そうだね。それにしても内陸なのに海の生き物とか…気合入っているね。管理、維持、輸送と大変だろうに…」

「確かにそうだよね」

二人が訪れたメアシュタットは相当大きな施設であり、海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっていて多くの人で賑わっていた。

「中の様子は極めて地球の水族館に似ているね。若干の見にくさはあるけど」

「多分、大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術がないのかも」

二人が話している通り、水槽は格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、ハジメや香織からしてみれば若干見にくかったのだ。

そうやってメアシュタットを楽しんで一時間が経過した中、ハジメと香織はある水槽を発見した。

「ハジメくん、これって…」

「うん、シーマ○だよね」

二人が発見したのは二人が知っている某ゲームの人面魚そっくりな魔物だった。

ハジメは水槽の傍に貼り付けられている解説に目をやった。

「えっと…このリーマンは水棲系の魔物で、固有魔法"念話"が使えて、滅多に話すことはないらしいがきちんと会話が成立するらしく、確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名、みたいだね」

「ただ、物凄い面倒くさがりのようで、仮に会話出来たとしても、やる気の欠片もない返答しかなく、話している内に相手の人間まで無気力になっていくという副作用みたいなものまであるので注意が必要とのこと、ともあるね」

尚、このリーマンはお酒が好物で、飲むと饒舌になるが、一方的に説教臭いことを話し続けるだけで会話は成立しなくなるとも言われている。

「試してみる?」

「そうだね」

ハジメの言葉に香織は返答すると二人は念話でリーマンに語りかける。

『僕は南雲ハジメ、隣にいるのが―』

『白崎香織、ハジメくんの婚約者です』

『貴方は念話が使えるって聞いたんですけど、本当に話せますか?言葉の意味を理解できますか?』

ハジメと香織の言葉に

『あぁ、話せるし理解もできる』

とリーマンは答えた。

『本当に会話出来るんだ…』

『あの、リーマンってのは一体何なんですか?』

『お嬢ちゃん、人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。あと名はねぇから好きに呼んでくれ。

こっちも一つ聞きてぇ。お前さん達はなぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに…まるで俺と同じみてぇだ』

『えっと、僕達はこの世界に飛ばされて…召喚されてきた所謂異世界人なんです。今は同じく飛ばされてきた仲間とこの世界で出来た仲間と一緒に旅をしています』

『その道中で仲間の一人がもし食糧が尽きた時に魔物の肉を食べれないかと試行錯誤した結果、魔物の肉を問題なく食べれる手段を開発して私達はそれを試して、この力を得ました』

『お前さん達、若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ』

まぁ、チートなのもあってそこまで苦労している訳でもないのだが、ハジメと香織はあえて訂正しないでおくことにした。

『それじゃ、魔物には明確な意思があるんですか?』

『いや、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないな』

『魔物はどうやって生まれるんですか?』

『すまない、魔物が生まれる方法は知らないな…』

『他にも意思疎通できる魔物はいるんですか?』

『言語を理解して意思疎通できる魔物など俺の種族しか知らないな』

『それとこの魔物について何か知りませんか?仲間の何人かはこの魔物に家族を殺されたらしくて…似たような顔をした魔物を見たっていう情報でも良いので』

ハジメはある画像…そう、魔物ジーオスの画像を見せる。

『いや、こんな魔物は見たことないな…似たような顔をした魔物も見ていない』

『そうですか…ありがとうございます』

その後もハジメと香織はリーマンと話を続け、互いに"リーさん"、"ハー坊"、"お嬢"と呼び合っていた。端から見れば少年少女のカップルが一つの水槽を見ているだけというシュールな光景だが…

『リーさんはどうして此処に?』

『いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ』

二人には心当たりがあった…そう、ライセン大迷宮での事である。

『えっと、リーさん。その…ここから出たいですか?』

香織の言葉にリーマンは答える。

『そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ』

『リーさん。なら、僕が近くの川にでも送り届けるよ。どうやら、この状況は僕達の事情に巻き込んじまったせいみたいだし』

『数分後に迎えを寄越すから、信じて大人しく運ばれてくださいね』

『ハー坊…お嬢…へっ、若造どもが、気ぃ遣いやがって…何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。二人を信じて待ってるぜ』

ハジメと香織がメアシュタット水族館を後にした数分後、下部に籠が付いているキラービークが水族館内を飛行した末、リーマンの水槽を破壊、流れ出てきたリーマンを見事カゴにキャッチして追いかける職員達を怪我させず蹴散らして、外に出ると遥か上空へと消えていくという珍事が発生した。

因みにヴェルには予め許可は取ってある。

そして付近の川にキラービークは到着、籠を着水させてリーマンは川の中に入る。

『ありがとうな。ハー坊、お嬢』

『うん、リーさんもお元気で』

『こちらこそお話ありがとうございました』

とハジメと香織はリーマンと別れたのだが…

「ん?ヴェルからの非常呼集だ」

「いこう、ハジメくん」

 

 

一方、ユエとティオはカフェで優雅にお茶を飲みながら話には花を咲かせていた。

主に互いの種族の事などであるが…

「なぁ、ユエよ。お主はヴェル殿の事をどう思っているのじゃ?」

「…ヴェルの事?ヴェルは恩人。300年も捕らわれて…何年経ったかも分からなくなっていた私を救い出してくれて…家族として迎い入れてくれた」

「家族、か…」

「…ヴェルもユーリアもレムリアもシエラも家族を失った身だから自分にとってレッカーズは家族の様な存在って言っていた。

…ヴェルはジーオスという怪物に両親と母親の胎内にいた妹か弟を失ったって言ってた。

…ユーリアも目の前で家族を殺されたらしいし、レムリアとシエラはこの間の乱入してきた魔物に両親を殺されたと言ってた。

…それにヴェルは戦いの中で大切な人を失ったとも言ってた…そして100年の間に多くの仲間を失ったとも」

「我々の中で一番多くを経験しているのはヴェル殿だろうな」

「…だからこそハジメや香織にお節介を焼いているし、私達にも優しくしてくれる。それと日本にも連れて帰るって言ってた」

「日本、か…どんな所か楽しみじゃの」

「…ん!」

そんな会話をしていた時だった。

「ヴェル殿から非常呼集じゃの」

「…行こう…!」

「そうじゃの」

二人は会計を済ませた後、指定の場所へと向かった。

 

 

その頃、レムリア、シエラ、シアの三人は買い物を楽しんでいた。

「流石、フューレンですね。唯の露店でもレベルが高いです」

「食いすぎて太らないようにね」

とシアに注意するレムリア。

「後で運動するし…明日から少し制限するし…」

とブツブツ言い訳しながらもシアは露店の甘味を堪能していた。

レムリアとシエラも甘味を楽しんでいたのだが、レムリアはある地点を通りかかるとその表情を訝しげなものに変え足元を見下ろした。

「どうかしたの、レムリア」

「もしもの時の襲撃に対応できるようにと展開してた気配感知で人の気配を感知したのよ」

「でも、何が気になるんです?人の気配って言っても…」

「人だらけだよ?」

「いや、そうじゃなくて…私が感知したのは下の下水道よ」

「下水道?えっと、なら管理施設の職員とか?

「だったら、気にしないんだけど…何か、気配がやたらと小さい上に弱い…

…多分、これ子供ね…しかも、弱っている」

「だったら大変だよ!もしかしたら、何処かの穴にでも落ちて流されているのかも!」

シエラはそう言うと気配感知を展開し、シアも気配感知を展開。三人は下水道への入口を見付けるとその中に入っていった。

 

三人は下水道を散策していると一角に打ち上げられていた子供を発見した。

「この子、海人族の子供ですよね…」

シアが言う通り、その子供は海人族の子供だったのだ。

「息はあるみたい…取り敢えずここから離れよう。臭いが酷いよ」

「そうね…衛生上、此処にいるのは良くないし」

レムリアはその海人族の子供を毛布で包み、三人は人目がつかない路地裏を目指すのだった。

亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族である海人族は西大陸のグリューエン大砂漠を超えた先の海の沖合にある海上の町エリセンで生活している。

種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出している彼らは亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族である。

「ハイリヒ王国に保護されている筈の海人族が唯の事故で流されたとは思えませんね」

「確かに。犯罪臭がプンプンするよ」

「シア、この娘の世話をお願い。シエラはこの娘に着替えを買ってきて。私はヴェルに連絡する」

レムリアの言葉に二人は頷き、各自行動を開始するのだった。

 

 

―side:Vernyi―

 

 

私はギルドから空き部屋を借りて装備改修や新たな装備の開発を行っている。ユーリアやゼルフィは時折私を手伝ってくれている。

「ユーリア、ゼルフィ。お前達は皆と行かなくて良かったのか?」

「はい、私はヴェルさんと一緒にいたいので」

「私も。そもそも食べ歩きとか出来ないし」

「確かにそうだな…食べる機能も追加してあげたいが…今の段階では無理だな…せめてユニゾンデバイスに関するデータがあればそれを組み込めるかもしれないが…」

「ユニゾンデバイス…ですか?」

「私の嘗ての上司のつばめさん…立木つばめが話してくれた次元世界の魔導師のデバイスの一つで、融合型デバイスや融合騎とも呼ばれるらしい。

古代ベルカ発祥のデバイスで、姿と意思を持っていて状況に合わせて使用者と融合(ユニゾン)し、魔力の補助などを行うことで魔力や感応速度などの能力を向上することが出来るらしい。

まぁ、融合するには使用する人間側にも適正が必要な上に使用者に合わせた微調整などの手間がかかる。

デバイスは姿も意思もある…つまりはっきりした自己があるため融合の際にデバイス自身が使用者を乗っ取ってしまう融合事故の危険性があって、実際に事故も起こったことから量産されることはなかったみたいだな。

つばめさんですら実物は見たことがなく、情報でしか知らないらしい」

「そんなものがあるんですね」

とユーリアは呟き、ゼルフィも驚いているようだ。

「そのつばめさんは今、どうしているんですか?」

「死んださ…ある任務で彼女の妹やその部下と共に出掛けたが…亡骸となって帰ってきた」

「そう…だったんですか…すみません…」

「気に病む必要はない。もう何十年も前の事だ」

暫く気まずい空気が流れる中、ゼルフィはある物に視線を移した。

「ヴェル、これはいったい…」

「あぁ、それはティオ用の武装…私達でいうトランステクターに当たるものだ。

私がこのトータスに持ち込めたトランステクター用のENドライバーは予め機体に組み込まれている分も含めて9基…それぞれオプティマスコンボイ、グリムレックス、ゴルドファイヤー、メディカラート、ドリフトライド、スロッグブラスト、スカイグライド、スナールウィザード、スラッグバスターに使われている。

残りはFAガール用の物や外部武装…つまりパワードガーディアンやルシファーズウイングに使われる物だ。

トランステクター用のENドライバーとその他のENドライバーは一部仕組みが異なっている。

だから、新たにトランステクターを作りたくてもそれ用のENドライバーがないから今のところは不可能。

で、作れるか作れないかは別としてティオにトランステクターが欲しいかと聞いたが、"妾には竜化形態があるしなくてもよい"と断られた。

だが、せめてトランステクターにおけるロボットモードに当たる武装だけでもティオに与えておきたいと考えて作ったのが…このエイペックスアーマータイプドラゴノイドウォーリアー…機体識別名称"ウォーグレイ"だ」

「確かにファンタジーとかでありそうな人型の竜…竜人って感じですよね」

「まぁ、実際にハジメ達の地球で見たゲームのキャラがデザインの元になっているんだがな」

そんな話をしていたら

『ヴェルさん、此方レムリア』

レムリアからの通信が入った。

「どうした?」

『トラブル発生、下水道にて海人族の子供を保護したわ』

「海人族?確かハイリヒ王国に保護されている亜人族だったな。その子供が何故このフューレン…に…いや、自力で来たと言うよりは何かに巻き込まれて来たのか?」

『私達も犯罪臭がするって考えてたの…下水道に流されていたらしい事を考えて。

今、シアがその娘の面倒を見ててシエラが着替えを買いに言っている』

「わかった。私達もそっちに向かう」

私はハジメと香織、ユエとティオに非常呼集をかけ、レムリアとシアがいる地点へと向かうよう指示した。

「ハジメと香織が一番近くにいるからすぐ合流できるようだ。私達も行く」

『わかったわ』

レムリアとの通信の後、私はユーリアやゼルフィと共に現場へと向かった。

 

そして現場では先にハジメと香織が到着しており、私達はユエとティオとほぼ同じタイミングで到着した。

「香織、容態はどうだ?」

「うん、大きな怪我はなかったんだけど衰弱してて…回復魔法をかけたところだよ」

香織から容態を聞いた後、その海人族の子供が目を覚ました。

私は彼女に目線を合わせ、自己紹介を行う。

「私は風見ヴェールヌイ。ヴェルと呼んでほしい。お嬢ちゃんの名前は?」

「…ミュウ…なの」

「ミュウか。よし、良い娘だ」

と私は海人族の子供―ミュウの頭を撫でる。

「ミュウ、お前がどうして此処にいるのか、何があったのか話してくれないか?」

私の言葉にミュウは頷くと自身の身に何が起きたのかを話し始めた。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 


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