ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第27話『鮮血の海』

 

―side:Vernyi―

 

 

ミュウやレムリア、シエラ、シアの話を簡単に纏めるとこうなる。

 

・海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられた

 

・数日(道中何人か死に、その者達は捨てられたらしい)かけてフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられ、そこには、他にも人間族の幼子が多くいて、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかった(売り飛ばされたらしい)

 

・ミュウの番になったところで、その日たまたま地下水路へと続く穴が開いており、咄嗟にそこへ飛び込んで逃げたが、意識を失った。

 

・その時、買い物をしていたレムリアが下水道から子供の気配がする事を感知し、三人で下水道の中を探索したら意識を失って打ち上げられていたミュウを発見、保護した

 

「なるほどな…それにしてもフューレンで違法な人身売買…一つ思い当たる節がある」

「思い当たる節ですか?」

シアの言葉に私は頷く。

「イルワから小耳に挟んだんだが…フューレンにはある裏組織が存在し、イルワ達も手を焼いているらしい。

彼等は明確な証拠を残さず、表向きは人材派遣などまっとうな商売をしているが、裏では違法な人身売買を行っている…人間族の子供を奴隷としてオークションに売り飛ばしたりしてな。

仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りで、根絶なんて不可能に近いそうだ」

「その組織の名前は?」

ハジメの言葉に私はこう返した。

「"フリートホーフ"だ」

その言葉にユーリア、レムリア、シエラは殺気を纏わせた。

「…あの時は最低限の情報しか与えられず、移動される時も目隠しをされて何処に拠点があるのか、私達が何処にいるのかすらわからなかったけど…」

「漸く手掛かりを掴めたよ…そっか連中は此処を…フューレンを拠点にしているんだね」

静かに怒りをぶつけながら言うレムリアとシエラ。

そして、ユーリアもまた静かに怒りを滾らせながら私に問う。

「ヴェルさん、連中を…フリートホーフのクソ共屑共を残らず血祭りにあげて良いですか…!」

「そうか…そうだったな…お前達もフリートホーフに因縁を持っていたな…

…良いだろう、お前達の手でケジメをつけてやれ」

「「「はい!」」」

ハジメや香織、ユエ、シア、ティオ、ゼルフィも何も言わないが賛成の様だ。

「そうと決まれば早速準備だ。お前達は準備を進めろ。私はイルワに事情を話してから合流する」

 

 

 

そして、私はミュウを連れてギルドのフューレン支部を訪ねた。

私が入ると周囲の冒険者達がざわめき始めた。

「おい、見ろよ…"鋼鉄の戦女神"だ」

「"鋼鉄の戦女神"ってベヒモスを単独で難なく討伐したあの戦女神か!?」

「それだけじゃないらしい。ウルの町を襲おうとした何万もの魔物の大群をパーティーメンバー数人と共にあっと言う間に倒したらしいぜ」

「あいつに歯向かう者は無事では済まないらしい」

「黒のレガニドなんか彼女の仲間に再起不能に追い込まれたとか」

「それにしても…容姿は美しいというかかわいいというか…」

「あいつを崇拝している連中もいるらしい」

「流石"豊穣の女神"と双璧を成す"鋼鉄の戦女神"だよな」

ふむ、だいぶ知れ渡ってきたか…まぁ、構わない。

私は受付嬢にステータスプレートを見せながら告げる。

「レッカーズのリーダー、風見ヴェールヌイだ。イルワと直接話がしたい」

「は、はい!少々お待ちを!」

 

そして応接室。

「やぁ、イルワ」

「今回はいったいどうしたんだいヴェル君?」

「実はトラブルが発生してな、彼女を見てほしい」

と私はミュウが頭に被っていた毛布を捲る。

「なっ、海人族…しかも子供じゃないか!?」

「レムリアとシエラ、シアが保護した…この街の下水道から子供の気配を感じて探してみたら、な」

と私はイルワに詳細を話した。

「なるほど、フリートホーフか…」

「ユーリア、レムリア、シエラは連中に因縁があるし、それに子供を拐って酷い事をする連中など私自身、これまでに幾度も見てきたが、そういった連中は胸糞悪いし怒りが沸いてくる」

「これまでにもかい?」

「資料画像があるが、いい気分がするものではないぞ…吐き気がするかもしれない」

私はそう言いつつある画像をイルワに見せる。

「これは確かに…」

「アデプトテレイターは自然発生することなどまずあり得ない。

誰かの手によって後天的になるか…最初からアデプトテレイターとして産み出されるのかのどちらかだ。

アデプトテレイターになれるのはその中でもほんの一握り…それ以外の者は画像の様に肉塊になるか身体の一部が変異して理性を失って怪物になるかだ。

そして、アデプトテレイターになれる可能性が高い者…金属細胞への適正が一番高いのは10代の少女だ。

私の故郷の地球ではそういった少女を筆頭に子供を誘拐しては無理やりアデプトテレイターにした挙げ句、兵器として運用するために洗脳した連中がいた。

そいつらのせいでアデプトテレイターは多くの人間から迫害されるようになった。

私の様に自らの意思もしくは助かるにはそれしかなかったという理由でアデプトテレイターになったのならいい…だが、誘拐してきて無理矢理アデプトテレイター化させて失敗したら供養もせず放置かゴミ箱行き…

そういったのを何度も見てきたからこそ子供を拐い、その未来を潰す連中を許せない」

「だから、フリートホーフも許せず潰す、か…」

イルワの言葉に私は頷く。

「正直に言えば、助かるといえば助かる。以前にも話した様に彼等は明確な証拠を残さず、表向きは真っ当な商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね…はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だからね」

「我々の眼前でこの様な事をしていればどうなるのか見せしめを兼ねて盛大にやるつもりだ。

イルワも我々の名前を使ってくれて構わない。

何なら、支部長お抱えの"金"だってことにすれば相当抑止力になるんじゃないか?」

「それは凄く助かるけど…良いのかい?」

「構わないさ。世話になるんだし、それくらいは、な。イルワなら、そのへんの匙加減もわかるだろう。

我々としては一般人に被害は出さないようにはするが、もし今後フューレンで裏組織の戦争が起き、一般人が巻き込まれたという事態になるのは私としても気分悪い」

「それで、そのミュウ君についてだけど…こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか…二つの方法がある」

「既に決めている。我々全員の総意でミュウを故郷へ送還する…我々の手で、な」

「わかったよ。君の…君達の意思を尊重しよう。後の事は任せてくれ」

「ありがとう、イルワ」

私はイルワと握手を交わし、ミュウに視線を合わせる。

「ミュウ、私はお前を連れ去り、売り払おうとした連中を始末してくるから此処で待っててくれないか」

「でも…」

「不安なのは分かる。しかし、これから我々がしようとしているのは悪い奴とはいえそれまで生きていた者の命を奪う事だ。とてもでないがお前を連れて行き、その光景を見せることなど出来ない」

「ミュウは…此処に来るまでに見てきたの…馬車にぎゅうぎゅう詰めされて、そんな中で死んでいった子を…そしてその子達が捨てられていくところを…だから、その子達の為に見届けたいの…」

「そうか…ならば、私と一緒に行こうか」

 

 

―side out―

 

 

例えるなら鮮血の海だろう。

 

『レッカーズ、イルワから正式な許可が降りた。殺ってこい』

というヴェルからのメッセージを受けたレッカーズの面々は一般人に被害を出さずにフリートホーフの構成員や関係者への攻撃を開始した。

フリートホーフの各拠点は次々に壊滅し、そこにいた構成員や関係者は全員殺され、辺り一面には血溜まりと人だったものが転がっていた。

「頼む!子供を養う為にはこうするしかなかったんだ!」

ある男はシエラにすがり付くが、シエラは彼を蹴り飛ばし

「自分の子供を養う為に他の子供を拐って売り飛ばすって…そんなの子供が知ったらどう思うのかな。それにさ、子供がいるなら真っ当な商売をすべきだったね」

シエラはそう言った後、ハンドガンの引き金を引き、その男の返り血を浴びるが意に介さず次々とフリートホーフの構成員や関係者を始末していった。

そして、その拠点を壊滅させた後

「そっちも片付いたみたいね」

MSGの一つたるラピッドレイダーに跨がっているレムリアが合流した。傍らには等身大サイズのスカイグライドが留まっている。

「うん、全員血祭りにあげたから次の拠点にいくところだよ」

「私もよ。最初は何人殺したのか数えてたけど、面倒くさくなって止めたわ」

「私もだよ」

その後も彼女達は各拠点を壊滅させていったのだった。

 

そんなフューレンの商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れ、公的機関の目が届かない場所の一角にある七階建ての大きな建物があった。

そう、此処こそ表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織フリートホーフの本拠地である。

普段は静かで不気味な雰囲気なのだが、今は伝令などに使われている下っ端達などの出入りが激しく、騒然とした雰囲気を醸し出していた。

彼らは想定外の事態に困惑と焦燥、そして恐怖を感じていたのだ。

 

そして、そんなどさくさに紛れるように頭までスッポリとローブを纏った者がフリートホーフの本拠地に難なく侵入した。

『此方ユーリア。現在フリートホーフの拠点と思わしき到着。これより殲滅に入ります』

『此方ヴェル。了解した。連中を血祭りにあげてこい』

慌ただしく走り回る人ごみに向けてユーリアはガトリングを装備して発砲、辺りを血の海へ変えていきつつ装備を変えながら進んでいた。

 

そして、最上階の部屋では…

「ふざんけてんじゃねぇぞ!アァ!?てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

「ひぃ!で、ですから、潰されたアジトは既に80軒を超えました。襲ってきてるのは8人です!」

「じゃあ、何か?たった8人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか?あぁ?」

「そ、そうなりまッへぶ!?」

報告していた男が、怒鳴っていた男に殴り倒された。

「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。

そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる!一人につき、だ!全ての構成員に伝えろ!」

男の号令と共に、伝令係の男達が組織の構成員全員に伝令するため部屋から出ていこうとしたその時だった。

ユーリアはスパイクハンマーとなったバイオレンスラムで扉を木っ端微塵に粉砕、ドアノブに手を掛けていた男は、その衝撃で右半身をひしゃげさせると同時にスパイクに貫かれ、更にその後ろの者達も散弾とかした木片に全身を貫かれるか殴打されて一瞬で満身創痍の有様となり反対側の壁に叩きつけられた後、ハンドガンに持ち変えて発砲、頭や心臓を貫かれ絶命する。

「構成員に伝える必要はありませんよ。本人がここに居ますからね。まぁ、他の連中は始末しましたけど」

返り血を浴びながらも、今しがた起こした惨劇などどこ吹く風という様子なユーリア。

扉がいきなり爆砕したかと思うと、部下が目の前で冗談みたいに吹き飛んだりスパイクで身体を貫かれたり反対側の壁でひしゃげてたり撃たれて倒れている姿、鮮血の海という惨状にフリートホーフの頭であるハンセンは目を見開いたまま硬直していた。

ハンセンはユーリアの声で我に返ると、素早く武器を取り出し構えながらドスの利いた声で話しだした。

「…てめぇ、例の襲撃者の一味か…その容姿…チッ、リストに上がっていた奴じゃねえか。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ?まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思ってッ!?」

ユーリアはサムライマスターソードでハンセンの右腕を斬り、続いて左腕を斬る。

激しい痛みに堪えながらもハンセンは後ずさって逃げようとする。

「まさか覚えていないんですかねぇ。あぁ、いちいち覚えていられねーよですかね…一度は商品として貴族に売った元奴隷の事なんて」

ユーリアはハンセンを蹴り倒すとその股間を思いっきり踏みつける。通常の人間よりも強大な力を持つアデプトテレイターの一撃でハンセンの股間に付いていた物は粉砕される。

「お、お前まさか…あの時の死なない奴隷か…」

「えぇ、そうですよ。力を封じられた上でお前達の元へ渡り、あの糞貴族に売られた元奴隷ですよ」

「た、たのむ、助けてくれぇ!金なら好きに持っていっていい!もう、お前らに関わったりもしない!だからッゲフ!?」

「勝手に話さないで下さい。多くの子供の人生を食い物にしておいて、それは都合が良すぎるというものです。でも、その様じゃ何も出来ないでしょうけどね」

ユーリアは一度武器を引っ込め、その様子にハンセンは一度安堵するが…

「くたばってください、ゴミ屑の糞」

ユーリアはガトリングを零距離でハンセンに向けて発砲、ハンセンの胴体は蜂の巣になった後、それすらも撃ち抜かれて血となって消滅。

残された頭をユーリアはサッカーボールの様に蹴飛ばした後、フリースタイルバズーカで撃ち抜いたのだった。

「さてと、汚物は消毒しないとですね」

ユーリアがフリートホーフの本拠地に爆弾を設置して施設から出るのだった。

 

 

一方、ヴェルは毛布で包んでいるミュウを抱きつつハジメと香織に合流、奴隷のオークション会場へ到着するとスキャナーやキラービークなどを使って探索し、地下深くに無数の牢獄を見つけた。

入口に監視が一人いるが居眠りをしている。

ヴェル達は気配を遮断してその監視の前を素通りして行くと、中には、人間の子供達が10人ほどいて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。十中八九、今日のオークションで売りに出される子供達だろう。

 

人間族のほとんどは基本的に聖教教会の信者であることから、そのような人間を奴隷や売り物にすることは禁じられており、人間族でもそのような売買の対象となるのは神を裏切った者として、奴隷扱いや売り物とすることが許される犯罪者などである。

そして、ヴェル達には眼前で震えている子供達がそろってそのような境遇に落とされべき犯罪者とは到底思っていない。

「確か正規の手続きで奴隷にされる人間は表のオークションに出されるんだったな。ここにいる時点で、ミュウと同じく違法に捕らえられ、売り物にされていることは確定だろうな」

とヴェルが呟くと囚われていた子供の一人がヴェルに問う。

「お姉さん達は誰なの?」

少年の言葉に

「助けに来たんだよ」

「えっ!?助けてくれるの!」

ヴェルの言葉に、少年は驚愕と喜色を浮かべて、つい大声を出してしまい、その声は薄暗い地下牢によく響き渡った。

少年は慌てて口を両手で抑えるが、監視にはばっちり聞こえていた。

「何騒いでんだ!」

目を覚まして地下牢に入ってきた。

ヴェル達を見つけた監視の男は一瞬硬直するが

「てめぇら何者だ!」

と叫びながら短剣を抜いて襲いかかる。

何も知らない子供達はヴェル達が刺されて倒れる姿を幻視し悲鳴を上げたが、そんな事はありえない。

ヴェルは左腕でミュウを抱きつつ突き出された刃物を右手で無造作に掴み取ると、そのまま力を込めて短剣の刃を粉々に砕く。彼女が手を広げると刃の欠片はバラバラとこぼれ落ちた。

それが何なのか一瞬理解出来なかったのか、監視の男は茫然とした表情をしつつ手元の短剣に目を落とした。

そして、柄だけになっているのを見て何が起こったのか漸く理解した。

「なっ、なっ」

言葉を詰まらせながら顔を青ざめさせて一歩後退る監視の男に対しヴェルは大型ドリル型のMSG―ボルテックスドライバーを装備すると問答無用で監視の男の腹にドリルの先端を当てるとそれを回転させる。

監視の男の腹に開いた穴はどんどん大きくなり、終いには真っ二つになって絶命した。

「監視ならまず警笛鳴らせこの愚か者めが」

ヴェルが呆れた表情でそんな事を言いながら文字通り監視の男を瞬殺した光景に子供達は目を丸くして驚いていた。

一方、ハジメは錬成で鉄格子を分解、子供達の目には一瞬で鉄格子を消し去ってしまったように見えたため更に驚いてポカンと口を開いたまま硬直してしまった。

「ハジメ、香織。こいつ等を頼めるか?私もひと暴れしてくる。

直に保安署の連中も駆けつけるだろう。そいつらに預ければいい。後はイルワが色々手を回してくれるだろうから…細かい事は彼に任せよう」

「うん、わかったよ」

「任せて、ヴェル」

と返答するハジメと香織。

因みにヴェルはこれまで人を殺す瞬間をミュウには見せていなかったりする。

ヴェルが囚われていた子供達をハジメや香織に預けた後、あの少年がヴェルに声をかけてきた。

「助けてくれてありがとう、お姉さん!俺、これまでなんも出来なくて……」

彼はこれまで売られていった子供を励ましたりしていたらしい…自分も捕まっていたというのに中々根性のある少年だな、とヴェルは感心していた。

自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭をヴェルは優しく撫でる。

「悔しいなら強くなるしかない。今回は私がやっておく。次、何かあればお前がやればいい話だ」

ヴェルはそう言うと踵を返して地下牢を出て行った。

両手で撫でられた頭を抑えていた少年は呆然としていたが、次の瞬間には目をキラキラさせて少し男らしい顔つきとなって握り拳を握った。

そんな少年に微笑ましげな眼差しを向けていたハジメと香織は、子供達を連れて地上へと向かった。

 

オークション会場の客はおよそ百人ほどだが、その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに目当ての商品が出てくるたびに素性を隠したいからか声を出すことなく番号札を静かに上げる。

そして、先程も一人落札された直後だった。

ヴェルはゼルフィと合流し、会場内へと入った。

「ゼルフィ、奴隷の子供を保護したら空中へ避難し、ハジメ達と合流せよ」

ヴェルの指示を受けたゼルフィは了解、と返した後、奴隷の子供を捕まえると空中へと避難し、ヴェルはセントリーガンとガトリングを使って会場にいた者達を次々と射殺していく。

「お、お前、何者なんだ!何が、何で…こんなっ!」

オークションのスタッフの一人である黒服の男は混乱と恐怖に襲われながらも必死に虚勢を張って声を荒げる。

「見れば分かるだろう。見せしめだ、我々の目が届く所で子供の未来を奪う行為をしていた連中への、な。だから、終わりは派手にやらせて貰おうか」

ヴェルは黒服の男や生き残った者達の足や腕ををハンドガンで撃ち抜いて動けなくした後、改修されたキラービークが変形した飛行ユニットを背中に装備、ミュウと共に空中へ退避する。

 

「ミュウ、もういいぞ」

「ふわぁ!」

律儀に言いつけを守り耳を塞いでヴェルのやや平坦気味な胸元に顔を埋めていたミュウはヴェルの言葉に目をパチクリさせながら周囲を見渡し、驚きの声を上げた。

ミュウとヴェルは現在、町を一望できるほどの上空にいた。

地平線の彼方では夕陽が真っ赤に燃え上がるかの様に空を赤く染め上げながらまさに沈もうとしており、地上では人工の光が点々と輝き出しているという何とも美しい光景だった。

「お姉ちゃん凄いの!お空飛んでるの!」

ミュウは初めて見る雄大な光景に瞳を輝かせながらヴェルの胸元を掴んではしゃいでいる。

「そうだろう。それにこの後、ちょっと派手な花火が見れる」

「花火?」

「花火というのは…爆発による美しい芸術とでも言えば言いか」

「爆発?」

『ユエ、合図をしたら初めてくれ』

『ん…了解、ヴェル』

ヴェルの通信に答えたユエは早速準備を始める。

「始まるぞ、ミュウ。せーのっ、た~ま~や~」

「た~ま~や~?」

ヴェルはミュウと共に間延びした若干シュールな声を上げた後、起爆スイッチを押した。

フューレンの各地にあるフリートホーフの関連施設はレッカーズの面々が襲撃と共に設置した爆弾によって木っ端微塵に粉砕され、轟音をフューレン全体に響かせる。爆炎は猛烈な勢いで上空に上がり、周囲の建物と空を夕陽とは異なる赤で染め上げていた。

因みにフリートホーフと無関係の一般人が現場にいないことは確認済みである。

イルワやギルドの職員、この世界の警察に当たる保安暑の職員達によって既に避難させられている。

ギルドの職員や保安暑の職員達が協力的なのはイルワからの頼みであると同時に彼らもまたフリートホーフ等の裏社会の連中にこれまで辛酸を舐めさせられてきたからである。

「ふぇえええ!?」

「ミュウ、どうだ?驚いたか?」

「花火コワイ」

あまりにも爆発が壮絶だった事にミュウは震えながらヴェルにしがみついている。

更に爆破という合図をユエは受け取り、追い打ちをかけるようにヴェルとミュウがいる場所から少し離れた空に暗雲を立ち込めさせながら魔法で出来た4体の"雷龍"を生み出した。

雷龍達はそれぞれ別方向に雷を迸らせながら赤く燃える空を悠然と突き進み、あえて取り残していたフリートホーフの重要拠点四ヶ所に雷鳴を轟かせながら同時に落ちる。

雷光は周辺と空を染め上げ、建物は轟音と共に崩壊する。

今のフューレンは例えるなら空爆を受けた戦時中の町の様に爆炎と粉塵が至るところから上がり、夕陽と炎に照らされて赤く染まっていた。

 

 

 

この日、フューレンにおける裏世界三大組織の一つであるフリートホーフが半日で殲滅されたのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 


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