―side:Vernyi―
ハイリヒ王国の王宮での晩餐会の翌日から訓練と座学が始まった。
講師は騎士団長のメルド・ロギンスで、私達に12センチ×7センチ位の銀色のプレートを配り、説明する。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるもので、最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?
プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 "ステータスオープン"と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。
原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河が質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
メルド団長の説明の後、各々が用意された針を指に刺し、血を1滴ステータスプレートに落とす。
私は他の人よりも深めに針を刺す。
アデプトテレイターの肌は人間の様に柔軟だが、その強度や自己修復能力は人間より遥かに上であり、銃弾を喰らってもちょっとめり込んだ後に跳ね返してしまうし、刃物は鋭い分銃弾よりもちょっと痛い程度だがその傷は直ぐに回復する。
話を戻すが、私も血を1滴ステータスプレートに落とした。
『風見ヴェールヌイ 116歳 女 レベル:???
天職:鋼鉄の戦女神
筋力:12000+α(?????)
体力:12000+α(?????)
耐性:12000+α(?????)
敏捷:12000+α(?????)
魔力:12000+α(?????)
魔耐:12000+α(?????)
技能:金属細胞適合型不老生命体・可変外装・武装改造・歩く武器庫・毒無効・全属性耐性・物理耐性・戦女神の威圧・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・言語理解』
「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に"レベル"があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
レベルが表記されないのは…私が人間じゃないからかそれともレベル表記も仕事するのを辞めたのか…
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。
詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。
それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
武器なら間に合っている。
MSCバッグにはトランステクター以外の武器も入っている…このMSCバッグや入っている武器のお陰で"歩く武器庫"か…
「次に"天職"ってのがあるだろう?それは言うなれば"才能"だ。末尾にある"技能"と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。
戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが…百人に一人はいるな。
十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
私の職業は"鋼鉄の戦女神"か…これは職業なのか?いや、確かに100年前に私達アデプトテレイターは鋼鉄の戦女神と呼ばれた事はあるが…
「各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
私の各数値は12000で+αという事はそれ以上という事か…そして、その後に付いている数値…というか(?????)表記はおそらくトランステクターと一体化した時の数値か…
そしてメルド団長の言葉に天之河は自身のステータスを報告した。
『天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解』
平均の10倍だが…私の比じゃないな。
尚、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしいが"派生技能"という一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる"壁を越える"に至った者が取得する後天的技能があるらしい。
報告を聞いていると殆どが戦闘職だ。
因みに香織は治癒師…つまりヒーラーだった。
そして、ハジメは落ち込んだ表情を浮かべていた。
ハジメのプレートを見たメルド団長は見間違いかと言わんばかりににプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたり、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返し、歯切れ悪く説明した。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか…」
そんなハジメのステータスはこうだ。
『南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解』
なるほど…この世界の人々の平均値という事か…
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「…いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
以前からハジメをいじめていた屑か…吐き気がする。
屑はハジメからプレートを取り上げ大爆笑した。
「ぶっはははっ~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」
「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」
「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」
こいつらは人を貶める事でしか自分を誇示出来ないのか?もういい、こいつらには手加減なしで"お話"が必要だな。手加減してたら余計に調子に乗らせるだけだ。
「どうやら死にたいみたいだな、屑共が」
私は真っ先にハジメからプレートを取り上げた屑の首を思いっきり掴み、そのまま死なない程度に地面に叩き付け、ナイフを屑の顔に向ける。
屑の仲間達は私を襲おうとするが私は"戦女神の威圧"による殺気をハジメ、香織、雫以外の連中全員に放つ。
「お前達がやっている事はこいつみたいになっても…殺されても文句は言えない事だぞ」
「く、苦しい…助けて…」
「助けて、か…断る。お前はハジメがそう言っても続けるんだろ?貴様は私の恩人にして親友を侮辱した。万死に値する。
それにお前の様な奴が隊の士気を乱すからな。そういう奴は必要ないと思うがな」
「な、何をやっているんだ!殺す必要なんてないだろ!」
と天之河が私を止めようとする。
「殺す必要がない?はっ、これから戦争に参加しようと言った奴の台詞か?
人を殺せなきゃ戦争に参加したってやられるだけだぞ」
「だけど、檜山は俺達のクラスメートだ!仲間だ!」
「生憎だが私はそもそもお前達のクラスメートじゃないし偶々巻き込まれただけだ」
「だけど君も同じ様に転移してきた仲間じゃないか!」
「仲間、か…私がこの中で仲間と認識しているのはハジメ、香織…後は雫だけだな。後の連中は赤の他人でしかない…いや、この檜山とかいう屑は敵だな」
「だけど、人を殺すなんて駄目だ!間違ってる!」
「本当に戦争に参加しようとする奴の台詞か?良いか、お前が言った事はある意味ではメルド団長の様に戦場で戦う誇り高き戦士への侮辱だ」
「しかし…」
「まだわからないのか?良いか、手加減すれば己の命は勿論、大切な人の命も失われる事になるぞ。
これ以上言うのならお前も私の敵と判断して始末するぞ」
天之河はそこまで言って黙った。
尚、私が首を絞めていた屑は気絶し、失禁していた。
私は屑を蹴りで無理矢理起こし、こう言った。
「まぁ、言いたい事言ってすっきりしたし今日の所は貴様のその痴態で勘弁してやろう…だが、次はないと考えておけ」
私はメルド団長の方を向き
「講義を中断させて済まなかった」
「いや、構わないさ。寧ろその"誇り高き戦士達"っていう言葉に感謝しているくらいだ」
「私も現場で戦う戦士だったからな。あの発言が許せなかっただけだ」
私はメルド団長に自分のステータスプレートを見せる。そしてメルド団長は数秒間硬直した後、こう呟いた。
「各数値が12000だと…いや、+αという事はそれ以上か…」
その言葉に周囲がざわついた。
「おい…マジかよ…」
「各数値が天之河の120倍じゃないか…」
「いや、それが最低値で実際はそれ以上って事だろ…」
「とんだチートじゃねぇか…」
そんな周囲の言葉は無視してメルド団長は話を続ける。
「それに何なんだこの技能は…」
「各数値の後ろにある表記されていない不明の数値…これはおそらく技能の一つ…可変外装を使用した時の数値だろう」
「この技能といい年齢といい君は…いや、貴女は一体…」
メルド団長の言葉に私は他の人には聞こえない声でこう口にした。
「私はハジメ達とは異なる地球で生まれ、そこで人間ではない存在となって100年以上前線に立って戦ってきた戦士だ」
メルド団長からプレートを返して貰い、私はある事を頼んだ。私の頼みにメルド団長も承諾した。後は…"本人達"次第だ。
「ハジメ、香織。話がある。一緒に来てほしい」
「うん、分かったよヴェル」
ハジメはそう返し、香織も首を縦に振る。
「待ってくれ何処に行くんだ!」
天之河が呼び止めようとするが
「お前には関係ない」
と私は返してその場を後にした。
そしてとある個室に私達は移動した。
「さて、お前達に聞きたい事がある…悔しいか?屑共に馬鹿にされて悔しいか…!?」
私の言葉にハジメは真剣な眼差しでこう答えた。
「悔しい…悔しいに決まっているじゃないか!何でだよ!何で僕だけこんななんだよ!僕だって天之河くんみたいな戦闘職が良かった…!」
そして続いて香織がこう口にする。
「私も悔しいよ!大切な人が馬鹿にされて悔しいよ!ヴェルが動かなかったら私が動いてたよ!」
「そうか…なら問おう。力が欲しいか?」
「あぁ、欲しいさ…大切な人を…香織さんを守れる力が欲しい!」
「私も力が欲しい。ハジメくんを守れる力が欲しいよ!」
二人の真摯な思い…これを聞いたら叶えるしかないだろう。
「私に良い考えがある。二人は私が直接戦闘訓練を行う。そして、二人には武器を授ける…私が開発していた武器、素粒子コントロール装置を搭載したマルチサイジングギア…MSGとトランステクターを」
「でも、トランステクターってアデプトマスター用なんじゃ…」
「確かに私が使用するオプティマスコンボイと既に完成している二機のトランステクターはアデプトマスター用だからお前達じゃまず身体が耐えられないし操縦も出来ない。
だが、私が皆から託されたトランステクターは3機だけじゃない。
未完成のトランステクターを二人に合わせて改造していく。素粒子コントロール装置やこの世界の魔法技術を駆使すればお前達でも使えるトランステクターが時間はかかるが出来るだろう。
だからまずはハジメと香織専用のMSGを最優先で開発する。後はお前達次第だ。この力を使う覚悟…この力は人を簡単に殺せる。その手を血で汚す覚悟があるか、だ」
私の言葉に二人は頷く。
「じゃあ、まずはこいつを殺してみろ」
私はある装置を起動させ、ゼルフィやメルド団長から得た情報を元にある"者"を形成する。
「これって…」
「まさか…」
「あぁ、ゼルフィやメルド団長から得た情報を元にEN粒子を使った対人戦用シミュレーターで魔人族のデコイを作成した。シミュレーターのデコイだからといって甘く見るな」
私はデコイに向かって訓練用の銃を発砲。デコイは頭を吹き飛ばされる。
「この様に血の飛び散りや殺した時の感触も出来る限り再現している」
「つまり、このデコイを殺せなければ人を殺すなんて無理だって事だよね」
「そうだ、香織」
さて、二人は出来るかどうか…
「じゃあ、まずは僕からやるよ」
ハジメはそう言い、私は彼に訓練用の銃を渡す。
「僕は大切な人を護りたい…その力を得るために!」
ハジメは銃を発砲、デコイの胸を貫くと共に血を模したエフェクトが飛び散る。
そして、ハジメは胃液を吐き出した。
「ハジメくん!」
「僕は大丈夫だよ…香織さん…」
ハジメは香織にそう返すと、私の方を向く。
「デコイでも殺す事は"重い"んだね…」
「でなければ訓練にならないからな」
「ヴェル、次は私にやらせて」
香織の言葉に私は訓練用の銃を渡すと共にデコイを出現させる。
香織はデコイの胸に向けて発砲、デコイは先程と同じ様に血を模したエフェクトを出しながら倒れる。
香織も同じ様に胃液を吐き出した。
「良いか、これは出来る限り再現したデコイだが、実物になるとお前達の身も血で汚す事になることを理解しておいた方が良い。
まぁ、どうしても無理ならば無理をしなくても良い。私も嘗てそうだったからな」
―side out―
―side:Hajime―
「私も嘗てそうだったからな」
「ヴェルにもそんな事が?」
「私だって元々は人間だ。普通に暮らしていただけ、のな…
私が初めて人を殺したのは小学生の頃…アデプトテレイターになる前の事だ」
ヴェルがアデプトテレイターになる前の話をする事は珍しかった。彼女が過去の話をするときは基本的にアデプトテレイターになってからの話ばかりだったからだ。
「私は当時、ロシアに住んでいてな、その日は両親と共にある銀行にいたんだが、其処へ2人組の銀行強盗が押し掛けてきて、その場にいた者達を脅し、銀行員に金をバッグに詰めるよう脅しをかけた。
強盗達が出入り口の方を向いた一瞬の隙をついた銀行員が拳銃を持った男にタックルを食らわせて、その拍子に男が持っていた拳銃が手から離れて私の前に落ちた。
強盗は襲い掛かろうとしたが、私は家族を…父親を…母親を…そして、母親のお腹の中にいる妹になる命を護りたいと思って拳銃のトリガーを引いて、その男に命中した。
強盗犯は警察に逮捕され、私が撃った男は警察が来た時には死亡していた。
人を殺したって実感した時、私は吐いて…そして周囲から人殺しとして軽蔑されるのが怖くて家に引きこもった。
それを見かねた母親はお腹の中の子が生まれたら私達を知らない何処か遠い場所へ引っ越そうと言った」
「それで…どうなったの…」
僕の言葉にヴェルは静かに答える。
「私達一家はジーオスの襲撃を受けた。この襲撃で私は重傷を負うだけで済んだが…両親と私の妹になる筈だった命は失われてしまった。
それから数十秒後だった…ネストの面々が到着したのは…
意識を取り戻した私はもっと早く来ていれば両親と妹は、って隊員に八つ当たりしたりしたよ…
この襲撃で私は自身の四肢と家族の命を失った。
何もかも失い、絶望していた時にネスト隊員達の話からアデプトマスターの存在を、そして兵士になるには人を殺す覚悟が必要だと知った。
私は…悩み考えた末に家族の命を奪った奴らに復讐する為と私の様な者を一人でも多く減らしたい為にアデプトテレイターに…そしてアデプトマスターになる事を強く望んだ。
こうして全身義体型アデプトテレイターとなった。
私は義体に慣れる為のリハビリを行う時間や食事、睡眠の時間以外の時間はほぼ全て銃で人を殺したというトラウマを克服する為の治療を行う時間に費やした。
周りから無茶をしていると言われる事もあったが、続けたおかげで義体に慣れ、ネストの訓練校に入った頃にはトラウマを完全にではないが克服出来ていた。
そして其処で私と同じくアデプトテレイターとなった人と出会った。
彼女もまた私と同じ様に人を…自身の両親を殺した奴らに対し復讐として殺した過去があった。
彼女と私は共に兵士としてジーオスと戦い、戦友となり、大切な人になった…後は前に話した通りだ。
あの日の様に大切な人を失わない為に戦う…まぁ、失ってばかりだがな」
彼女が語った過去は僕が想像するよりも重いものだった…
彼女が兵士となったのも色々と考えて決めた事だ…そしてその時に人を殺す覚悟をした。
だからこそ簡単に戦争に参加しようと言った天之河くんに激怒したのだろう。
彼女の境遇を考えると自分達は平和な世界に生まれたんだなって思う。しかし、此処はそんな生まれ育った平和な世界ではない。
戦争が迫っていて日本の法律や常識は通用しない世界だ。
自分はおろか大切な人も命の危険に晒される…だからこそ必要なんだ…大切な人を守るために力が!
「ヴェル、僕は戦うよ…人を殺すとまた吐いちゃうかもしれない…ずっと慣れないかもしれない…
…でも、僕は失いたくないから…香織さんという大切な人を!ヴェルという大切な仲間を!だから力が欲しい!大切な人を守るための力が!」
「私も欲しい!目の前でハジメくんやヴェルを失うなんてそんなの嫌だから!」
「「その為なら覚悟を決める!」」
―side out―
―side:Vernyi―
「ヴェル、僕は戦うよ…人を殺すとまた吐いちゃうかもしれない…ずっと慣れないかもしれない…
…でも、僕は失いたくないから…香織さんという大切な人を!ヴェルという大切な仲間を!だから力が欲しい!大切な人を守るための力が!」
「私も欲しい!目の前でハジメくんやヴェルを失うなんてそんなの嫌だから!」
「「その為なら覚悟を決める!」」
それが二人の出した答え、か…
「悪くない、な…良いだろう、その覚悟、この風見ヴェールヌイが受け止めた」
私はMSCバッグからトランステクターやMSG開発に使う端末を取り出し、ある画像を見せた。
「これって…トランステクター?」
「そうだ。こいつは…いや、こいつらはかねてより開発が検討されていながらサイズや技術的な問題から開発が進んでいなかった機体だ。しかし、今の私には今まで培ってきた技術とこの世界の魔法技術がある。それらを駆使すれば完成出来るだろう。
ハジメにはこの機体、マスタングをベースとしたカスタムスポーツカーに変形し、高速戦闘を得意とした"ゴルドファイヤー"だ。
香織は治癒師だからレスキュー車風にカスタムしたハマーH2に変形する"メディカラート"だ。射撃性能など単体での戦闘能力も申し分ないが、こいつは元々味方機の支援・援護を目的として開発が始まった機体だ」
「これが僕達の…」
「トランステクター…」
どうやら気に入ったみたいで何よりだ。
「ただ、こいつらはそれなりに時間がかかるだろう。
だから先にMSGを作る。そうしたらトランステクターが完成した時に武器がそのまま使えるからな」
私の言葉に二人は頷く。さて、これから何個かのMSGと2機…いや"3機"のトランステクターとその他諸々を作らないとな。
「で、お前は何時までこっそり覗いているんだ?雫」
「バレてたのね」
「気配を消してたつもりだろうが…私には気配を感じられたぞ」
「私もまだまだね」
「まぁ、こっちは100年以上も戦いに身を投じてたからな」
そう返して、雫は漸く物影から出てきた。
「八重樫さん!?」
「雫ちゃん!?何時から其処に!?」
「二人が吐いた辺りからずっとよ」
「雫ちゃんはみんなと訓練に参加しないの?」
「私の場合は自主練をするしかないから」
「そうか、雫は実家の八重樫流剣術を身に付けている。下手に他の剣術を習得させる訳にもいかないからな」
「そうよ。それで自主練に入る前に3人の様子が気になって来てみたの」
「なるほどな…だったら丁度良い。雫、お前にも問おう。ハジメや香織がそう望んだ様に力が欲しいか?そして"人を殺す覚悟"はあるか?」
「そうね…"人を殺す覚悟"に関しては今はまだわからないわ。きっと迷い悩んだりするかもしれない。
でも、私は生きて故郷に帰りたい。その為に出来る事はやっておきたいから」
「その為に力を望む、か…何処ぞかの勇者はよっぽどマシだ」
私はデコイを出現させ、訓練用の刀を雫に渡す。
私の意図を汲んだ雫はその刀でデコイを切り捨てる。
雫は一瞬ふらつくが、刀を支えにしながら何とか立っていた。
「ヴェルが持っている力は簡単に人を傷付けられる…いや、殺せるのね」
「元々は人類より遥かに強力なジーオスと戦う為の力だからな。もう一度問う。この力が欲しいか?」
私の言葉に雫は頷くのだった。
その日はどんな武器が欲しいかなど話し合ったりして終わり、翌朝から訓練を始めた。
午前中、香織は治癒魔法の鍛練を行い、ハジメは私の元でひたすら錬成の魔法の鍛練としてMSGやトランステクターの作成補佐や落とし穴などのトラップ作成を行う事でその精度を上げさせせる。
軽く昼食を取った後、ハジメと香織は私の元でひたすら戦闘訓練を行う。
時には私が直接相手をし、時には素粒子コントロール装置で私と同じ位の背丈になったゼルフィが相手をし、私が持ちうる戦闘技術や戦術を出来るだけ叩き込む。
雫も相手をして欲しいと頼まれた時は私が相手をする。
阿呆勇者こと天之河が二人もみんなと一緒に訓練に参加すべきだとほざいた事があったが
「彼らは自分達の意志で私の元で訓練を受けている。お前がどうこう言う権利はない」
と言って黙らせた。
そう言えば、ハジメと香織が私のパーティに入った時、二人のステータスプレートの技能欄にある技能が追加されていた。
"戦女神の加護・祝福"
これがどんな技能かはわからないが、この技能が追加されてから二人のステータスの各数値は大きく上昇していった。
そんなこんなで訓練やMSGやトランステクターの作成を行っていたある日、メルド団長から伝えることがあると呼び出された。
私達は他の者達と共にメルド団長からあることを告げられた。
「明日から実戦訓練の一環として"オルクス大迷宮"へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」
どうやらトランステクターの作成は間に合いそうにないな…
To be continue…