ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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前回の話に於いてゴジラやムートーの存在に触れたのですが、ハジメ達の地球はゴジラを始めとする怪獣(タイタン)や吸血鬼、まぞくや魔法少女が存在する魔境にして特異点であるのは当初から決まってました(怪獣(タイタン)に関しては第2話(もしくは最終話)でその存在に触れる案もありました)



第31話『戦女神達は再会する 後編』

 

オルクス大迷宮、70層にてメルド団長達と交戦していた魔人族の女だったが、グリムヴァルカンから勇者発見の報を聞いた。

「後は任せたよ、ジーオスイミテイト」

魔人族の女はそう言って戦線を離脱し、天之河達がいる89層へと向かった。

 

一方、天之河達はジーオスイミテイト相手に苦戦を強いられていた。

ドリフトライドと一体化した雫とパワードガーディアンを装備した朱音はグリムヴァルカンの対処に追われているので手助けが出来ない。

更にジーオスイミテイト達の中から他の個体とは異なるものが一体現れたのだ。

グリムヴァルカンに匹敵する大きさ―ジーオスでいうジェネラル級に該当する個体に天之河達は苦戦を強いられるどころか劣勢となっていた。

天之河はやむ終えず限界突破を使用して大型のジーオスイミテイト(以下G級ジーオスイミテイト)に挑むのだが…

「ぐぅう!何だ、こいつの強さは!俺は限界突破を使っているのに!」

「クゥワッキャ、キシャアァァァァァ!」

天之河は苦しそうに表情を歪めながら、限界突破を発動中の自分を圧倒するG級ジーオスイミテイトに焦燥感が募らせていく。

「ふん、手間取らせてくれるね。こっちは他にも重要な任務があるっていうのに…」

そんな中、魔人族の女も合流してきた。

「黙れ!お前は俺が必ず倒す!覚悟しろ!」

魔人族の女にそう返しつつ、このままではジリ貧だと思いダメージ覚悟で反撃に出ようとしたのだが…

「ッ!?」

それを実行する前に、天之河の限界突破の時間切れがとうとうやって来て、一気に力が抜けていったのだ。

しかも短時間に二回も使った弊害により今までより重い倦怠感に襲われ、踏み込もうとした足に力が入らず、ガクンと膝を折ってしまった。

G級ジーオスイミテイトはその隙を逃さず、力が抜けてバランスを崩した天之河をその尻尾で叩き飛ばしたのだ。

天之河は体をくの字に折り曲げ、血反吐を撒き散らしながら吹き飛んだ末に壁に叩きつけられた。

意識はたやすく刈り取られ、肉体的にも瀕死の重傷を負ってしまい、即死しなかったことが不思議なほど―というよりは死なないように手加減したのだろう。

「舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだね。グリムヴァルカン、一時休戦だ」

魔人族の女の言葉にグリムヴァルカンはドリフトライドと朱音への攻撃を止める。

「どういうつもり?私達に何を望んでいるの?わざわざ一時休戦にした以上、何かあるんでしょう?」

「やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。

前回は勇者君が勝手に全部決めていただろう?中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね」

「…光輝はどうするつもり?」

「ふふ、聡いね…悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう?

彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

「…それは、私達も一緒でしょう?今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

魔人族の女の提案に対し誰もが言葉を発せない中、中村は震えながら自身の意見を述べた。

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

クラスメイト達が驚く中、坂上は顔を怒りに染めて怒鳴り返す。

「恵里、てめぇ!光輝を見捨てる気か!」

「龍太郎、落ち着きなさい!恵里、どうしてそう思うの?」

「わ、私は、ただ…みんなに死んで欲しくなくて…光輝君のことは、私には…どうしたらいいか…うぅ、ぐすっ…」

中村は涙を零しながらも言葉を紡ぐ。そして中村に賛同する者が現れた。

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

「檜山…それは、光輝はどうでもいいってことかぁ?あぁ?」

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか?

それによ、八重樫と南風野もあのロボ恐竜野郎に劣勢じゃねえか。

このまま戦って二人までやられたら俺達は魔物どもだけじゃなくあのロボ恐竜野郎とも相手にしなきゃなんねーだろうが。

そうなったら俺達に勝ち目はない。お前は戦って死のうとでも言うのか?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇが!」

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら…生かしてあげようか?

もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。

その代わり、全員魔人族側についてもらうし、そこの馬鹿でかいのを扱う奴とトランステクター持ちはグリムヴァルカンと同じく操り人形になってもらうけどね」

魔人族の女に皆は動揺する。

「み、みんな…ダメだ…従うな…騙されてる…信用…するな…人間と戦わされる…奴隷にされるぞ…逃げるんだ…俺はいい…から…一人でも多く…逃げ…」

そんな中で天之河は息も絶え絶えになりながらも皆に逃げるように促した。

「…こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ?いい加減、現実を見ろよ!俺達は、もう負けたんだ!騎士達のことは…殺し合いなんだ!仕方ないだろ!一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

檜山は天之河に反論する。

「どうする?あぁ、助けは来ないだろうよ。騎士どもだって今頃はくたばっているだろうね」

魔人族の女の言葉に皆が再び動揺し、檜山が代表して提案を呑もうと魔人族の女に声を発しかけた…その時だった。

「…るさない…!」

力なく地面に伏していた天之河は小さな声で何かを呟きつつ立ち上がる。

「は?何だって?死にぞこない」

魔人族の女に対し天之河は俯かせていた顔を上げ、その眼光で魔人族の女を射抜く。

「ジーオスイミテイト!殺れ!」

「キシャアァァァァァ!」

ジーオスイミテイトが天之河に襲いかかろうとしたが、天之河から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がり、迫り来るジーオスイミテイトの頭部に右手の拳を振るうと、いとも簡単に粉砕してしまった。

「キシャアァァァァァ!」

仲間を殺られたジーオスイミテイトがまた一体、襲いかかる中、天之河は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

その一撃はジーオスイミテイトの首をへし折り、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。

ジーオスイミテイトは轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだ。

天之河は取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけると同時に竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流を自身の体へと収束し始める。

 

これこそ"限界突破"の終の派生技能[+覇潰]である。

通常の限界突破は基本ステータスの3倍の力を制限時間内だけ発揮するものであるが、上位の技能たる覇潰は基本ステータスの5倍の力を得ることが出来る。

しかし更に無理やり力を引きずり出す故に今の天之河では発動は30秒が限界で、効果が切れた後の副作用も甚大なものである。

 

しかし、天之河はそんなのお構い無しに怒りのままに魔人族の女に向かって突進し

「お前ぇー!よくもメルドさん達をぉー!」

大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。

魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にしつつ後ろへ下がるが、光の奔流を纏った聖剣によって砂塵の盾は切り裂かれ、その奥にいる魔人族の女の身体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛び、背後の壁に背中から激突した後、崩れ落ちる。

「まいったね…あの状況で逆転なんて…まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

傍にいる白鴉が固有魔法を発動するものの傷は深く直ぐには治らないし、天之河もそんな暇は与えないだろうし、グリムヴァルカンはドリフトライドと朱音の相手をするだろうから助けに来れない、G級ジーオスイミテイトに助けを求めようとも紅刃が邪魔するから完全にチェックメイトだと、魔人族の女は考えると、激痛を堪えながら右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出し、こう呟くのだった。

「ごめん…先に逝く…愛してるよ、ミハイル…」

 

 

一方、70層にてメルド団長達騎士団の面々はジーオスイミテイト達と今も交戦していた。

これまでの戦闘経験もあって彼らはヴェル達から与えられたMSGも直ぐに使いこなせる様になり、ジーオスイミテイト達に対して優勢となっていたのだ。

「早く光輝達の援護に行きたいが…」

メルド団長達がそう呟いた時だった。

突如として天井に大きな穴が開いて其処から複数の人影が現れたのだ。

「無事の様だな、メルド団長」

そう声をかけたのはその人影の内の一人。

「あぁ、この装備のお陰だ。ありがとう、ヴェル」

そう、その人物はヴェルだった。レッカーズの面々は遠藤と共にオルクス大迷宮をゴルドファイヤーと一体化したハジメが錬成によって地面に開けた穴から降りてきたという最短ルートで此処まで来たのだ。

「しかし、どうして此処に?」

その疑問に答えたのはヴェルではない。

「偶々この街を訪れていたヴェルさんに助けを求めたんです」

そう答えたのは遠藤だ。

「事情は彼から聞いた。魔人族に加えてアデプトマスターが現れたんだってな?」

「あぁ。そう聞いたし、その魔人族とは交戦もしたが…奴は光輝達の元へ向かった」

「だったらさっさとこのジーオス擬きどもを始末して雫や南風野の元へ向かうか」

 

 

そして、再び89層。

「ごめん…先に逝く…愛してるよ、ミハイル…」

手に持つロケットペンダントを見つめながら愛しそうな表情で呟く魔人族の女に、天之河は思わず聖剣を止めてしまい、愕然とした表情で目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろした。

何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれた天之河の瞳を見た魔人族の女は、天之河が剣を止めた理由を正確に悟ると侮蔑の眼差しを返した。

「…呆れたね…まさか、今になってようやく気がついたのかい?"人"を殺そうとしていることに」

天之河は魔人族をこう認識していた。

残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらい、と。

だからこそ自分達と同じように、誰かを愛し、誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている"人"だとは思っていなかったか無意識にそう思わないようにしていたのである。

そしてその認識が覆され、自分が手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ人だと気がついてしまい、自分のしようとしていることが人殺しであると認識してしまったのだ。

かつてヴェルは天之河に、そして召喚された者達全員にこう言った。

 

"魔人族との戦争に参加するのなら人を殺す覚悟をしろ"

 

しかし天之河はヴェルの言葉を聞いても聞き入れてはいなかった…受け流していたのだ。

「まさか、あたし達を人とすら認めていなかったとは…随分と傲慢なことだね」

「ち、ちが…俺は、知らなくて…」

「ハッ、"知ろうとしなかったの間違いだろ?」

「お、俺は…」

「ほら?どうした?所詮は戦いですらなく唯の"狩り"なのだろ?目の前に死に体の"一匹"がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように…」

「…は、話し合おう…は、話せばきっと…」

聖剣を下げてそんな事を言う天之河に対し魔人族の女は軽蔑するともにグリムヴァルカンやジーオスイミテイトに指示を出した。

「全隊、攻撃開始!」

その指示に従い、グリムヴァルカンはドリフトライドと朱音への攻撃を再開し、ジーオスイミテイト達も他の面々への攻撃を再開する。

「な、どうして!」

「自覚のない坊ちゃんだ…私達は戦争をしてるんだよ!未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!何が何でもここで死んでもらう!ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!」

魔人族の女がそう言った後、仲間達を襲わんとするジーオスイミテイトを討伐せんとした天之河だったが、覇潰のタイムリミットが来た事、そして無理を重ねたきた代償として体が麻痺したように一切動かないという状態に陥った。

「こ、こんなときに!」

と悔しげな表情を浮かべる天之河。

一方の魔人族の女は白鴉の固有魔法で完全に回復し、天之河を殺そうとするのだが、何処からか魔人族の女に目掛けてエネルギー弾が放たれ、魔人族の女はそれを何とか回避した。

エネルギー弾を放ったのはドリフトライドだ。

ドリフトライドはグリムヴァルカンと戦いつつも天之河のピンチにサムライマスターソードの鞘が変形したライフルを魔人族の女に向けて発砲したのだ。

「あんたは殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」

「そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」

ドリフトライド…雫だって人殺しの経験などないし、経験したいなどとは間違っても思わない。

だが、戦争をするならいつかこういう日が来ると覚悟はしていたしヴェルからもそう言われて理解もしていた。剣術を習う上で人を傷つけることの"重さ"も叩き込まれているし、ヴェルや紅刃から対人戦の訓練も受けたりした。

それでも、人を殺す事が怖い事に変わりはない。

しかし、あのヴェルだって初めて人を殺した時―それも今の自分達より幼かった時に人を殺してしまい、それがトラウマになりながらも立ち向かい、多くの死を見てきた上で今も戦い続けている。

(私も負けてはいられない!)

そう思ったからこそ雫―ドリフトライドはその恐怖を押さえつけて戦う。

 

ドリフトライドはグリムヴァルカンの背後に回って背中に飛び乗り、頭部を破壊しようとするが、グリムヴァルカンは剣を地面に突き刺して代わりにドリフトライドを掴んで引き剥がし、壁に向かって投げ飛ばす。

グリムヴァルカンが再び剣を手にしてそれをドリフトライドに振り下ろそうとしたその時だった。

 

グリムヴァルカンの頭上に突如として巨大な穴が出現、グリムヴァルカンの前にある存在が着地する。

「無事か?雫」

その存在はドリフトライド―雫に声をかける。

「えぇ、何とかね。苦戦していたから助かったわ、ヴェル」

ドリフトライドはその存在…オプティマスコンボイと一体化したヴェルに返答する。

それを見たヴェル―オプティマスコンボイはグリムヴァルカンに視線を向ける。

「お前が件のアデプトマスターか。私が相手になってやろう」

オプティマスコンボイはジャッジメントソードとベクターシールドを装備し、グリムヴァルカンとの交戦を始めるのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

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