ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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この第3章も遂に終了、次回から第4章へ突入します。


第32話『愚かな勇者と戦女神の怒り』

「ヴェルさん、私も一緒に戦います」

グリムヴァルカンと一体化しているユーリアの言葉にオプティマスコンボイは頷くと

「ハジメ、香織はデカいジーオス擬きを、他は小さいのや魔人族を頼む」

と指示を出し、ベクターシールドの銃口からエネルギー弾を放ちつつグリムヴァルカンへ接近してジャッジメントソードを振るう。

グリムヴァルカンは盾でそれを防ぎつつ剣でオプティマスコンボイを切りつけようとするが、グリムレックスが装備したサムライマスターソードによって阻まれ、更には顔面に蹴りを入れられてしまう。

グリムヴァルカンは足裏のスラスターを噴射させてオプティマスコンボイやグリムレックスと距離を取るとブラスターを装備してそれを発砲するが、オプティマスコンボイのバックパックに装備されたブラスターによって相殺されるのだった。

 

 

一方、ゴルドファイヤーと一体化したハジメとメディカラートはG級ジーオスイミテイトと交戦していた。

ゴルドファイヤーは地面を錬成してG級ジーオスイミテイトの動きを封じつつ、背後へと回る。

G級ジーオスイミテイトはゴルドファイヤーに向けてエネルギー弾を放つが

「ハジメくんの邪魔はさせない!」

メディカラートはフリースタイルガンを発砲し、エネルギー弾を撃ち抜いていく。

その隙にゴルドファイヤーは背後へと回り込み、G級ジーオスイミテイトはゴルドファイヤーを叩き飛ばそうと尻尾を振るうが、ゴルドファイヤーは自身の足元を錬成して高く上げた後、跳躍して回避するとG級ジーオスイミテイトの背面へと飛び乗る。

「これでも喰らえ!」

ゴルドファイヤーはバタリングラムとなったバイオレンスラムをG級ジーオスイミテイトに突き刺し、その杭を打ち込む。それによってG級ジーオスイミテイトの背面装甲は砕かれたのだった。

 

「重吾!健太郎!助けを呼んできたぞ!」

と遠藤は二人に声をかける。

遠藤の"助けを呼んできた"という言葉に反応して、光輝達も魔人族の女もようやく我を取り戻した。

「お前達!無事か!?」

とメルド団長達は天之河達の元へ駆け寄る。

「メルド団長!?どうして此処に!?それにその装備は?」

と天之河はメルド団長に問う。

「これはヴェル達から贈られた物だ。これのお陰であの魔物と戦って生き延びたし、ヴェル達が助けに来てくれた」

そう話す二人の眼前ではG級ジーオスイミテイトと戦うゴルドファイヤーとメディカラートの姿があった。

「あのデカブツを二人がかりで…彼らは一体、何者なんだ!?」

天之河は動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟き、周りにいる全員が同じ事を思った。

雫や南風野、紅刃の話でヴェルがこの世界に持ち込んだトランステクターは9機あるとは聞いていたし、目の前の見知らぬ3機がそれらに該当するとは分かっていたが、誰がどの機体を使用しているのかまでは知らなかったのだ。

そして、その答えをもたらしたのは遠藤だった。

「はは、信じられないだろうけど…デカいジーオスイミテイトと戦っているあいつらは南雲と白崎だよ」

「「「「「「は?」」」」」」

遠藤の言葉に、光輝達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤は、無理もないかと思いながらも、事実だと言わんばかりに肩を竦めた。

「だから、南雲と白崎、南雲ハジメと白崎香織だよ。あいつらは鋼鉄の戦女神―ヴェルさんと旅をしてきてトランステクター持ちになってた。

しかもまるで信頼して、互いの事を理解しているかの様に連携が上手く取れてる。

トランステクター使わなくても強いぜ…俺達の誰よりも」

遠藤の言葉通り、ゴルドファイヤーとメディカラートの連携は互いの事を熟知しているかの様に上手く取れているのだ。

更にトランステクターを使用していない者達も様々なMSGを駆使して次々とジーオスイミテイトを討伐していた。

 

G級ジーオスイミテイトの背面装甲を破壊したゴルドファイヤーをG級ジーオスイミテイトは振り下ろそうとするが、ゴルドファイヤーはしがみついて離れようとはせず

「大人しくして!」

とメディカラートは蛇腹剣となったビーストマスターソードでG級ジーオスイミテイトの両前足を縛り、その場で踏ん張る。

「ハジメくん!今の内に!」

「ありがとう、香織!」

ゴルドファイヤーはボルテックスドライバーを装備すると露出したコアに向けてドリル刃を回転させる。

ボルテックスドライバーのドリル刃はやがてG級ジーオスイミテイトのコアを貫き、ドリル刃に刺さったコアをゴルドファイヤーはドリル刃ごと引き抜いて更にドリル刃からコアを外すとそれを空中へ投げ

「香織!」

「うん!」

メディカラートは空中に投げ捨てれたコア目掛けてフリースタイルバズーカを発砲、コアは爆散し、G級ジーオスイミテイトは崩れ落ちるのだった。

 

一方、オプティマスコンボイとグリムレックスは引き続きグリムヴァルカンと交戦していたのが、グリムヴァルカンに変化が訪れた。

グリムレックスに剣を振り下ろそうとしたグリムヴァルカンだったが、その剣を振り下ろす腕が途中で止まったのだ。

「ぐっ…ぐわぁぁぁぁ…」

グリムヴァルカンはまるで苦しんでいるかの様に動きを止め、ビーストモードに変形する。

そして、天井に向けて咆哮した後

『助…けて…止めて…』

という声が響き渡る。

「ヴェルさん、これってまさか…!」

「あぁ、完全ではないが洗脳されて動いている…そして、抗っている」

オプティマスコンボイはそう返すとグリムヴァルカンに問う。

「お前は何者だ?」

『ラ…フィ…は…ラ…フ…ぃ…う、ウァガァァァァァァァァ!』

グリムヴァルカンは苦しそうに再度咆哮すると天井に開いた穴に向かって背面のスラスターを使って飛んでいき、戦線を離脱したのだ。

「あいつがあんな状態になるまで追い込まれるし…ジーオスイミテイトどもは全滅するし…ホントに…なんなのさ」

魔人族の女は力なくそう呟いた。

何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕されるし、最大戦力だったグリムヴァルカンは洗脳に綻びが生じて撤退を余儀なくされてしまった。

誰の目から見ても勝敗は明らかであり、魔人族の女は最後の望みとしてオプティマスコンボイとの一体化を解除したヴェルに向けて魔法を放った後、逃走を図ろうと全力で4つある出口の一つに向かって走った。

ヴェルに向けて放たれた"落牢"は、ヴェルの直ぐ傍で破裂し、石化の煙がヴェルを包み込み、動揺する天之河達を尻目に魔人族の女は、遂に出口の一つにたどり着いたのだが

「はは…既に詰みだったわけだ」

「その通りだ。私に石化は効かない」

ヴェルはハンドガンの銃口を魔人族の女に向ける。

「この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

「いや、とっくの昔に人間を卒業した化け物とでも言うべきだろう。お前の言う操り人形と同種族のな」

「成る程…納得したよ」

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことはないかと聞くんだろうが、生憎だがお前の遺言なんぞ聞く気はない。

それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか…それと、あの魔物を…ジーオスイミテイトを何処で手に入れたのか吐いてもらおうか」

「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?馬鹿にされたもんだね」

「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情などどうでもいい。私は知りたいから聞いている。まぁ、推測はできるがな。ここに来たのは、本当の大迷宮を攻略するためだろ?

他の大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからお前達は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか…そしてお前達の親玉か誰かがあのジーオス擬きを与えたというところか」

「どうして…まさか…」

「お前の考えている通り、我々の目的も大迷宮攻略と神代魔法だ。それに、"ジーオス"とは100年も戦ってきたからな」

「あんたが言うジーオスって…まさかジーオスイミテイトの"原種"!?」

「やはりジーオスを元に作ったのか」

「私はジーオスイミテイトには"原種"がいるとしか知らないよ。あいつらも操り人形と同じく上から与えられた物だったからね。

もういいだろ?ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね。だけど…いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

「やれるもんならやってみろ。無理だろうがな」

ヴェルはハンドガンのトリガーを引こうとするが、天之河が待ったをかける。

「待て!待つんだ!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!

捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。ここは俺に免じて引いてくれ」

ヴェルは余りにツッコミどころ満載の言い分をする天之河に呆れながらトリガーを引いた。

ハンドガンから放たれたエネルギー弾は魔人族の女の額を貫き、彼女は息絶えた。

「おい、どうして―」

天之河の言葉を無視してヴェルは雫と紅刃に声をかける。

「二人とも本当に無事で何よりだ」

「えぇ、お陰様でね。ありがとう、ヴェル」

「礼には及ばない。私は友を助けにきただけだ。紅刃もご苦労様」

「はっ、有り難きお言葉を頂き感謝します、作製者(マイスター)ヴェル」

紅刃は忠誠心を示すかの様に片膝をついて頭を下げる。

「今後も頼んだぞ」

「はい、ヴェル様に栄光を(オールヘイルヴェールヌイ)

紅刃の言葉の後、天之河はしつこく言おうとしてくるが、ヴェルは彼を無視して続いて朱音に声をかける。

「こうして直に話をするのは初めてだな、南風野」

「えっと…その…はい、そうですね」

「そんなに緊張しなくても良いさ。よく頑張ったな。今後も宜しく頼む、"朱音"」

「あ、ありがとうございます!ヴェルさん!」

ヴェルの言葉に朱音は嬉しそうにそう返す。

「おい、どうして彼女を―」

しつこい勇者をヴェルは無視しつつ永山に声をかける。

「お前が永山か?」

「あぁ…いや、はい、そうです」

「話は彼―遠藤から聞いた。事態を冷静に把握し、仲間の能力を活かした良い判断だった。指揮官として優秀だな」

「お褒めに与り光栄です、鋼鉄の戦女神さん。あの時の貴女の"誰も死なないっていう考えは捨てろ。魔人族との戦争に参加するのなら人を殺す覚悟をしろ"という言葉を受けたから俺は今此処にいられます」

「ヴェルで構わないし、そんな堅苦しい話し方でなくても私は気にしないから大丈夫だ。

正直に言って今回の件でお前の事は高く評価している。今後、お前と遠藤にはMSGを与える。どんなのが欲しいか後で話をしよう」

「ありがとうございます、ヴェルさん!」

「ありがとうございます!」

と永山と遠藤は頭を下げる。

その一方で

「どうして彼女を―」

尚も天之河は言ってこようとするが

「あの鋼鉄の戦女神さん!ごめんなさい!」

谷口が遮った。

「シズシズやアカネル、紅刃さんから聞きました…戦女神さんがどんな辛い経験をしてきたのか…

鈴はあの時…召喚されて説明を受けた時、その場に流されて軽い気持ちで戦争に参加するって決めちゃって…」

と上手く言葉に出来ず涙を流す谷口の頭をヴェルは優しく撫でる。

「過ちというのは誰にでも起こりうる事、私だってそうだ。

大事なのはその過ちに気付き、どう変わるか、どう行動するかだ。お前はそれに気付けた。まずはそれだけでも上出来だ。あとどうするかはお前次第だ」

ヴェルの言葉を噛みしめながら谷口は力強く頷くのだった。

「さて、地上に戻るとするか」

とヴェルは言うが…

「皆、そいつから離れた方が良い。そいつは無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある」

天之河の言葉にクラスメイトの一部から空気読めという非難の眼差しが飛んだ。

「ちょっと、光輝!ヴェル達は私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。そいつがしたことは許されることじゃない」

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ!大体…」

雫は目を吊り上げさせて天之河に反論する。

クラスメイト達は、どうしたものかとオロオロするばかりであったが、元々ヴェルやハジメが気に食わなかった檜山達が天之河に加勢し始める。

「…くだらない連中」

「ほんとそうですよね。ヴェルさん、もう行きましょう」

ユエとユーリアは冷たい声音で天之河達を"くだらない"と切って捨てた。

二人の言葉によって辺りは一瞬で静寂で包まれ、天之河達がユエとユーリアに視線を向ける。

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。彼女の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君達は誰なんだ?助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて…失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」

「自分の胸に手を当てて考えてください」

ズレた発言をする天之河に対しユーリアは言い捨てる。

ユエに至っては話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。

一方のヴェルも天之河の阿呆さに溜め息を吐くとこう告げる

「おい、勇者(クソガキ)。お前に少しだけ指摘させてもらう」

「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

「お前は私が魔人族の女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達や騎士団員を殺しかけたあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。

だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラしたんだろ?見たくないものを見させられ、自分が出来なかった事をあっさりやられた事への八つ当たりを正しいことを言っている風を装ってしているだけだ。

まぁ、お前自身にその自覚がないだろうがな。まるでその息をするように自然なご都合解釈だ。なにも成長していない」

「ち、違う!勝手なこと言うな!無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

「それがどうした」

「人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」

天之河の言葉にヴェルは周囲に殺気を放ちながらこう告げる。

「人殺しが悪、か…じゃあ、お前はメルド団長達を始め兵士全てが悪とでも言うのか?

自衛の為に人を殺してしまった人や両親の仇を殺した人間も全員悪とでも言うのか?

100年前に死んだ私の仲間は両親を指名手配中の強盗犯に殺された…父親は車に轢かれて殺され、母親は彼女と共に強姦させられた後、精神崩壊して強盗犯に殺され、彼女は両親の仇を取り、強盗犯を殺した。この場合、彼女と強盗犯のどっちが悪人だ?同列だとでも言いたいのか?」

ヴェルの言葉に天之河は答えられないが、ヴェルは続ける。

「私が初めて人を殺したのは今のお前達より幼い頃の事だ。金を奪おうと銀行に現れた強盗に遭遇した私は連中が落とした拳銃を拾った。

もし再び奴等が拳銃を手にしたら更なる被害者が出ていたかもしれない。だから私は拳銃の引き金を引いた…家族を守りたい一心で。この場合はどっちが悪人なんだ?結果的に強盗を殺した私の方が悪で強盗の方が正しいとでも言うのか?」

ヴェルの言葉に言い返せない天之河。

「もしあいつを殺さなければ、無抵抗を装って隙をついてお前の仲間を殺していたかもしれない…お前はその責任を取れるのか?

良いか、人を殺す覚悟がないなら勇者なんて辞めろ」

ヴェルはもはや興味がないと言わんばかりに殺気を解いてハンドガンを仕舞う。

天之河は尚も反論しようとするがユエに阻まれる。

「…恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」

「なっ、俺は逃げてなんて…」

「よせ、光輝」

ユエに反論しようとする天之河を止めたのはメルド団長だ。

メルド団長は天之河に頭を下げて謝罪した。

「メ、メルドさん?どうして、メルドさんが謝るんだ?」

「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ…なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた。

ヴェルが言っていた通り、魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな…だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか…迷うようになった。

騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな…もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ。

私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった…申し訳ない」

メルド団長はそう言うと再び深く頭を下げ、クラスメイト達はあたふたと慰めに入る。

やはり彼にMSGを託したのは正解だった、とヴェルは笑みを浮かべていた。

 

 

その後、一行は色々ありつつも地上へと帰還し、オルクス大迷宮の入場ゲートを出た瞬間だった。

「ヴェル様ー!」

商人達の喧騒にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる者達も微笑ましいものを見るように目元を和らげていた。

ヴェルへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでヴェルと飛びつく。

ヴェルはそれを受け止めた後、頭を優しく撫でて目線をミュウに合わせる。

「ミュウ、良い子に留守番していたか?」

「うん!それでね、ティオお姉ちゃんとゼルフィお姉ちゃんが、そろそろヴェル様が帰ってくるかもって。だから迎えに来たの」

「そうだったか。そのティオ達は?」

「妾達は此処じゃよ」

と人混みを掻き分けてティオ、ゼルフィ、ジェノザウラーが現れた。

「おい、FAガールの次はゾイドかよ」

「どんだけ守備範囲広いんだよ」

と言うツッコミはさておき、ヴェルはティオ達に声をかける。

「ご苦労様。だが、こんな場所でミュウから離れないようにな。迷子になったら大変だし誘拐されるかもしれない」

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

「なるほど。それならしょうがない…その自殺志願者は何処だ?」

「ヴェル、私達がきっちり締めておいたよ。ジェノザウラーに至っては奴等にトラウマを刻み付けたし」

ゼルフィの言葉にジェノザウラーは得意気に短めに鳴く。

「そうか。よくやった」

ヴェルはジェノザウラーの頭を優しく撫でる。

ジェノザウラーは嬉しそうに鳴くと背中にミュウを乗せる。

 

その後、ヴェル達はロア支部長の下へ依頼達成を報告し、色々話をした後、早々に町を出ることにした。

そもそもレッカーズの面々がホルアドを訪れたのはロアにイルワからの手紙を届ける為だけであり、旅用品で補充すべきものもないのだ。

 

そして、レッカーズの面々はホルアドから出発しようとしていた。見送りとして雫、朱音、紅刃、谷口、永山、遠藤、メルド団長の姿があった。

「永山、遠藤。お前達のMSGは我々の仲間であるハウリア族の者達が届けに来る。

注意しておいて欲しいが、MSGが与えられれてもお前達が有しているのはMSGを使用・運用する使用権限のみだ。私が許可した者以外は使用できないようなっている」

「あぁ、わかった。ありがとう、ヴェルさん」

と永山は礼を言い、遠藤も続けて礼を言った後、ヴェルは谷口に視線を向ける。

「谷口、お前は結界師だったな」

「はい、そうです。鋼鉄の戦女神さん」

「ヴェルで構わない。お前に合わせた装備も考えておこう。この度のお前の行動を讃えてな」

「ありがとうございます!」

と谷口は頭を下げる。ヴェルは続けて香織との話を終えた雫、朱音、紅刃に声をかける。

「雫、朱音、紅刃。お前達も元気でな。また共に戦おう」

「えぇ、今後一緒に戦う時は今より更に強くなるから」

「私もです!」

作製者(マイスター)ヴェル、御武運を」

そして最後にヴェルはメルド団長に声をかける。

「メルド団長、再び貴方と共に戦える時を楽しみにしている」

「あぁ、俺もだ」

二人が握手を交わした後、レッカーズの面々は見送られながら次の目的地へと出発するのだった。

 

 

 

 

第56太陽系の地球、日本の東京に存在するある施設。

南雲ハジメの両親…南雲愁と南雲菫、そしてヴェルが作ったFAガールのスティはある人物の招待により自宅のある愛知県からこの施設へやって来たのだ。

「着きました。ようこそ、"イフリティア財団"の日本支部本局へ」

と彼らを招待した人物が声をかける。

彼女は身長はヴェルと同じ位でベージュに近い色の髪をポニーテールに束ねている。顔立ちから10代半ばか後半辺りに見えるだろう。

 

彼女の名は"頼尽綾奈"…イフリティア財団に所属するアデプトテレイターである。

 

綾奈は受付嬢にIDを掲示した後、南雲夫妻とスティを連れてある部屋へと向かった。

「此処で暫く座ってお待ちください」

と綾奈に言われて彼らはソファに座る。

彼らがソファに座って直ぐ、扉がノックされ

「失礼します。お茶とお菓子を持ってきました」

とこれまた綾奈と年が近そうな少女がお茶とお菓子を持ってきたのだ。

「あぁ、ありがとう」

と彼女はその少女に礼を言い、少女は南雲夫妻にお茶を差し出す。

「あのっ!ヴェルさんの事を受け入れて優しくしてくださってありがとうございました!」

と少女は南雲夫妻に礼を言うと退室した。

「あの娘はもしかして…」

「第46太陽系の地球でヴェルの部下だった娘の一人です。私達が壊滅した第46太陽系の地球を調査しに行った時に保護しました」

と綾奈は答える。

「私からも礼を言わせてください。あの娘を…ヴェルを暖かく迎い入れてくださってありがとうございます」

と綾奈が頭を下げた時、扉が再びノックされ、ある人物が入室する。

その人物も見た目は彼女と同い年位に見えるだろうが、実際は彼女より歳上で上司にあたる。

「はじめまして、南雲愁さん、南雲菫さん。私イフリティア財団の責任者の一人にしてこの日本支部の最高責任者も兼ねている"アリス・イフリティア"と申します」

とその人物―アリス・イフリティアは頭を下げる。

 

イフリティア財団…それは古代ベルカの戦乱の後、この第56太陽系の地球に移住してきた"イフリティア一族"が設立した組織であり、この第56太陽系の地球に存在する組織の中でも政界やマスコミに介入できる程の大きな権力を有した組織である。

彼らは通常の警察等では対処できない人型種族や知的生命体―例えば闇の一族たるまぞくと称される者達や光の一族の巫女である魔法少女、吸血鬼といった者達が問題行為や犯罪行為などを行った際に警察行為を行って取り締まったり、超常的な現象の調査、更に怪獣(タイタン)の監視や対処を行ったりしている。

 

彼らもまた今回のハジメ達のクラスが召喚された件の調査を行っていたのだ。

そして、その大きな情報源となったのがスティが記録していたあの映像である。

「この度は情報提供していただき、ありがとうございました」

と頭を下げる。

「情報提供へのお礼というのもありますが、それ以前に貴方達には知る権利があります。現在の調査状況について話しましょう」

とアリスは南雲夫妻に自分達が知りうる事を話すのだった。

 

第56太陽系の地球(自分達のテリトリー)で好き勝手されて黙っている彼女達ではない。

 

彼女達がトータスへ介入を開始するのももう少し先の話である…

 

 

 

To be continue next stage…

 

 

 

 

 


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