ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第4章『母子の再会、王都での戦い』
第33話『砂漠にある水の都』


 

―side:Vernyi―

 

 

グリューエン大砂漠は砂が微細で赤銅色をしており、常に一定方向から吹く風により砂は易々と舞い上げられ、大気の色をも赤銅色に染め上げていた。

更に様々な大きさの砂丘が無数に存在し、その表面は風に煽られて常に波立つと共に刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えてさせていた。

太陽系が照りつけ、その太陽からの熱を砂は余さず溜め込んで強烈な熱気を放っている。

40度を超える気温と悪路は旅の道としては最悪の環境だろう。

 

そんな環境の中をものともせず進む影があった。

 

 

そう、私が運転するトレーラーを牽引したオプティマスコンボイだ。

 

「外、すごいですね…普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが…流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

窓から外の光景を眺めていたシアとティオがしみじみした様子でそんなことを呟いた。

「前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!ヴェル様とハジメお兄ちゃんはすごいの!」

「凄いよね。ミュウ、冷たいお水飲む?」

「おやつもあるわよ」

「飲むぅ~。シエラお姉ちゃん、レムリアお姉ちゃん、ありがとうなの~」

シエラとレムリアはミュウと向かい合って座っていた。

ミュウは嘗て誘拐されて通った時との違いに興奮したようにキラキラした眼差しをしている。

このトレーラーにはあらゆる気候条件での長旅も快適に過ごせるように冷暖房完備となっている。

一方、オプティマスコンボイの車内では、助手席に座っていたユーリアが

「ヴェルさん、三時方向で何か騒ぎが」

「確かにそうだな…あれはグリューエン大砂漠にのみ生息するサンドワームだったか?」

このサンドワーム、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかるのたが、察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられている。

幸いなのはサンドワーム自身も察知能力は低い事だ。

「あいつらは偶然近くを通りかかったりしないい限り、遠くから発見され狙われるということはない筈だが…なんで、アイツ等あんなとこでグルグル回っているのか…?」

そう、サンドワームに襲われている者がいると仮定しててなしても何故かサンドワームがそれに襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているだけという事にヴェルは疑問を抱いていた。。

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

「確かにそう見える。だが、そんな事あるのか?」

「妾の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが…」

と二人が会話していた時だった。

「ヴェルさん!後方からサンドワームが来ます!」

「我々も不運だったか…トレーラー、アームズアップ!」

オプティマスコンボイが牽引しているトレーラーにガトリングが設置され、3匹の内の1匹を蜂の巣にする。

その状況に残りの2匹はガトリングから放たれる銃弾の雨の中を掻い潜ってくる。

「ヴェル、私が行ってくる」

「分かった」

しかしそこでレムリアがトレーラーの外に出て

「アデプタイズ!スカイグライド、トランスフォーム!」

スカイグライドと一体化、ガンブレードランスで1匹の頭を切り落とし、更にもう1匹に突き刺すとエネルギー弾を放って爆散させる。

スカイグライドはビーストモードに変形すると旋回しているサンドワームの調査に行く。

「ヴェル、白い衣服に身を包んだ人物が倒れているわ」

「という事はあのサンドワーム達はおそらくその人物を狙っていたんだろう」

「ヴェル、私があの人を看てくる」

「分かった。私も一緒にいこう」

私はオプティマスコンボイをその人物の側に停車させる。

私はトレーラーから降りた香織と共にその人物に駆け寄る。

エジプト民族衣装であるガラベーヤに酷似した衣装に顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていたその人物はうつ伏せに倒れており、フードによって顔が隠れていた。

「これって…」

その人物は若い二十歳半ばくらいの青年だったが、顔を苦しそうに歪ませ、大量の汗が浮かべていた。

「呼吸は荒く脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発しているな」

「しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているみたいに血管が浮き出てるし目や鼻といった粘膜から出血もしているよ」

「明らかにただの日射病や風邪というわけではないみたいだな」

香織は片手を青年の胸に置き、もう片手に自分のステータスプレートを持って診察用の魔法である浸透看破を行使した。

「…魔力暴走?摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

「何がわかったんだ?」

「う、うん。これなんだけど…」

香織が見せたステータスプレートにはこう表示されていた

 

『状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり』

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい…しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない…

このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も…」

香織は中級回復魔法の一つで状態異常の解除を行う万天を行使するのだが…

「ほとんど効果がない…どうして?浄化しきれないなんて…それほど溶け込んでいるということ?」

進行そのものを遅らせる程度だった。

「香織、魔力を強制的に抜く事は出来るか?」

「うん、やってみるね」

一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する光系の上級回復魔法"廻聖"によって香織は青年から余剰な魔力を抜くと魔力タンクに移していく。

やがて青年の呼吸が安定し、体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。それを見た香織は廻聖の行使をやめると初級回復魔法の天恵を発動し、青年の傷ついた血管を癒していく。

「ヴェル、この人が意識を取り戻したら神水を飲ませようと思うんだけど…」

「あぁ、分かった。構わない」

私は神水が入った小瓶を香織に渡す。

「あのままだと魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する可能性が高かったと思う。勉強した中では、こんな症状に覚えはないの…ユエとティオは何か知らないかな?」

知識の深いユエとティオに訊ねるが、二人も該当知識はないようだった。

「原因不明の未知の病、か…香織、空気感染する可能性もあるから念のために皆も診察してほしい」

私の指示を受けて香織はアデプトテレイターを除いた面々を診察したが、異常は見当たらないという状態だった。

そうこうしている内に青年は意識を取り戻した。

「此処は…」

「目が覚めたみたいだな。私は風見ヴェールヌイ。レッカーズというパーティーを率いている。鋼鉄の戦女神と言えばわかるか?」

「噂には聞いています…」

「じゃあ、お前は何者だ?」

「私の名はビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ。助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと…アンカジまで終わってしまうところだった」

「アンカジまで終わってしまうって何が起きているんだ?詳しく聞かせてほしい」

私はビィズ氏をトレーラーの中に案内する。

意識は取り戻したもののまともに立つことも出来ない状態でら砂漠の気温も相まって相当な量の発汗をしていたかは脱水症状の危険もあったからな。香織は私から受け取った神水を飲ませる。

香織が症状を確認すると、どうやら完治したみたいだ。

「さて、アンカジで何が起きているんだ?」

「四日前、アンカジにおいて突然、原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。

初日だけで人口27万人のうち3000人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が2万人に上った。医療院は直ぐに飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが…進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来ず、次々と患者は増えていくばかりか医療関係者の中にも倒れるものが現れ始めた。

進行を遅らせるための魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、なんの手立ても打てずにいる中、処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。その者は発症してから僅か二日だった。

そして、一人の薬師が液体鑑定をかけた結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれていることがわかった。

最悪の事態を想定しながら直ちに調査チームを組んでオアシスが調べられたのだが…案の定、オアシスそのものが汚染されていた」

「なるほどな…アンカジのような砂漠のど真ん中にある国において、オアシスは生命線だからな。

だからこそ、その警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。普通に考えれば警備を抜いて、オアシスに毒素を流し込むなどできないと言っても過言ではないほどに、あらゆる対策が施されているのに、か…」

「あぁ、一体どこから、どうやって、誰が…だが、それより重要なのは2日以上前からストックしてある分以外に使える水がなくなってしまったということだ」

「そして、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないということか」

「その通りだ。しかし、全くない訳ではない。砂漠のずっと北方にある岩石地帯かグリューエン大火山で少量採取でき、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊で貴重な鉱石"静因石"を使う方法だ。

粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来る。

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまうし、グリューエン火山に行って静因石を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。

それにどちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請、それも強権を発動して直接救援要請できる私やその家族が行く必要があった。

父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。

だから、私が救援を呼ぶために一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだが…」

「しかし症状は出ていなかったが…感染していたという事か。発症までには個人差があったのだな」

「その通りだ。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に…動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。護衛をしていた者達も、サンドワームに襲われ全滅してしまい私だけが生き残ってしまった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに…情けない!」

次期領主になるであろうビィズ氏は責任感の強い民思いな人物みたいだな。

「君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい!」

ビィズ氏は私達に頭を下げる。暫くの沈黙の後、私は彼にこう告げた。

「頭を上げてほしい。我々は貴殿に協力しよう。まずはアンカジに案内してほしい。もしかしたら静因石なしでも何とかなるかもしれない」

私はそう返すと、ある人物へと通信回線を開く。

『はい、こちら樹海基地です』

「私だ、風見ヴェールヌイだ。大至急、カムに繋いで欲しい」

『はい、少々お待ちを!』

数秒後、目的の人物が通信に応じた。

『こちらカム。如何いたしましたか?ヴェル殿』

「抗体水の改良はどこまで進んでいる?」

『はい、回復力に関しては純粋な神水ほどではありませんが、解毒作用に関しては申し分なく、全体的に従来の抗体水よりも大幅に上がっております。臨床試験も成功しています』

私はカムから送られてきたデータを見る。これならいけるかもな…

「よし、…ならば、それをこれから指定するポイントに大至急出来るだけ多く運んで欲しい。人命がかかっている」

『わかりました』

カムがそう言うと通信は切られる。

「さて、水に関しては何とかなりそうだ。我々はアンカジに向かって準備を始めよう」

 

 

赤銅色の砂が舞う中、到着したアンカジは、フューレンを超える外壁に囲まれ、外壁も建築物も軒並み乳白色となっている。

外壁は不規則な形で都を囲み、各所から光の柱が天へと登って上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成している。

このドームが砂の侵入を防いでいるらしく、月に何度か大規模な砂嵐に見舞われても、曇天のような様相になるだけでアンカジ内に砂が侵入する事はないらしい。

時折、まるで水中から揺れる水面を眺めているかの様に何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がっており、美しく不思議な光景が広がっていた。

 

私達は、砂の侵入を防ぐ目的から魔法によるバリア式になっている光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。現状によって覇気がなかった門番は次期領主の姿を見るなり直立不動となり、覇気を取り戻した。

尚、アンカジの入場門は高台にあり、アンカジの美しさを最初に一望出来るようになっていた。

東側にあるオアシスは太陽の光を反射して煌めいており、その周辺には多くの木々が生えていて非常に緑豊かだ。

そしてその水は、幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠の中にあるとは思えない程小船があちこちに停泊し、町のいたるところに緑豊かな広場が設置されていている。

 

北側は農業地帯となっており、多種多様な果物が育てられているのがわかるし、西側には純白と言っていい白さで一際大きな宮殿らしき建造物があり、あれが領主の住む家なのだろう。

その宮殿の周辺は行政区になっているのか無骨な建物が区画に沿って規則正しく並んでいる。

 

アンカジは砂漠の国でありながら、まるで水の都だった。

今は通りに出ている者は極めて少なく、ほとんどの店も営業していないようで、暗く陰気な雰囲気に覆われていたが、本来はエリセンとの中継地であることや果物の取引で交易が盛んで、観光地としても人気のあることから活気と喧騒に満ちた都であった筈なのだろう。

「レッカーズの皆様にも活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間がない。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

 

ビィズ氏の顔パスで我々は宮殿内に入り、そのまま領主であるランズィ氏の執務室へと通された。衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

「父上!」

「ビィズ!お前、どうして…それにこの者達は…」

私は一歩前に出て挨拶をする。

「始めまして、領主ランズィ殿。私はレッカーズというパーティーを率いる鋼鉄の戦女神…風見ヴェールヌイと言う者です」

「鋼鉄の戦女神…噂には聞いているが…」

その後、私達は事情説明をした後、皆に指示を出す。

「香織、医療院と患者が収容されている施設へ、ユーリア、レムリア、シエラ、シアは香織の手伝いだ。

水の確保だが…オアシスが汚染され、その原因がわからない以上はどこかに仮の貯水池を用意しておかなくてはならない。領主殿、何処かに最低でも200メートル四方の開けた場所は?」

「うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが…」

「よし、ユエとハジメは貯水池の作成を頼む。

私とティオ、ゼルフィ、ミュウでオアシスの調査に行く」

私の指示に従い、皆は各班に別れてそれぞれの役割を果たしに行くのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 


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