ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第34話『アンカジ救援作戦』

現在、ハジメとユエはランズィやその付人と共に農業地帯を訪れていた。

ランズィは未だに半信半疑であり、もしこの非常時に謀ったと分かれば即座に死刑にしてやると言わんばかりの心境である。

普通なら無理だと疑っていたランズィ達はスナールウィザードと一体化したユエが魔法を行使した瞬間に驚愕一色に染まった。

「"壊劫"」

スナールウィザードは右手を前方の農地に頭上に向けて真っ直ぐにつき出し、その先に黒く渦巻く球体が出現させる。

農地の上で球体は形を変え、薄く四角く引き伸ばされていって200メートル四方の薄い膜となった後、一瞬停滞した後に音も立てずに地面へと落下、そのまま何事もなかったかのように大地を押しつぶしたのだ。

大地は凄まじい圧力により盛大に陥没し、地響きが鳴り響く。

農地は一瞬にして超重力を掛けられ、200メートル四方、深さ5メートルの巨大な貯水所となった。

ハジメはランズィ達を見るが、彼ら全員が口を開けけ、目も見開いていた。

衝撃が強すぎて声が出ないようだ。

「…ハジメ」

「分かったよ、ユエ。アデプタイズ!ゴルドファイヤー、トランスフォーム!」

ハジメはゴルドファイヤーと一体化すると貯水池の中に入り

「錬成!」

と口にして貯水池の中を舗装していき、それが終わると貯水池から出てゴルドファイヤーとの一体化を解除する。

「こちら、ハジメとユエ。ヴェル、貯水池の準備は完了したよ」

『了解した。ハウリア達が到着するまでは普通の水をその中に』

「了解。ユエ」

「…ん、"虚波"」

スナールウィザードは大波を作り出して相手にぶつける水系上級魔法の一つである虚波を使う。

普通の術師では10から20メートル四方の津波が発生する程度だが、スナールウィザード(ユエ)が行使すると桁が変わり、横幅150メートル高さ100メートルの津波が虚空に発生すると一気に貯水池へと流れ込み、スナールウィザードはそれを連発する。

「…こんなことが…」

ランズィは信じられない光景にに呆然としながら眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じように光り輝く池を見つめる。

「取り敢えず、これで当分は保つと思います。あとはオアシスを調べているヴェル達次第ですね。それと、僕達の仲間が運んでいる改良された抗体水次第ですね」

「あ、ああ。いや、聞きたい事は色々あるが…ありがとう。心から感謝する」

 

 

一方、ヴェル、ティオ、ミュウ、ゼルフィはビィズの案内で件のオアシスを訪れていた。

「ビィズ殿、調査チームはどの程度調べたのじゃ?」

「資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質に関しては地下水脈は特に異常は見つからなかった。

もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度でオアシスの底まではまだ手が回っていない」

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

「いや、オアシスの警備と管理に"真意の裁断"というアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある。結界系のアーティファクトで、オアシスだけでなくアンカジを守っている。

砂の侵入を阻み、空気や水分など必要なものは通す作用があり、何を通すかは設定者の側で決めることが出来る。

そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る」

「つまり、オアシスに対して悪意のあるものと設定すれば、それが反応し、設定権者に伝わるのか」

「現在は調査などで人の出入りが多い上、既に汚染されてしまっていることもあり警備は最低限を残して解除されている。

しかし、本来オアシス全体を汚染されるなどありえない事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかった」

「なるほどな…ゼルフィ、何か捉えたか?」

「うん、エネルギー反応を確認、明らかに何かいる」

ゼルフィからの報告を受けたヴェルは

「ミュウ、ジェノザウラーに乗ってオアシスに向けてクローアームを伸ばし、纏雷で奴を誘きだしてほしい」

「わかったなの!いくよ、ジェノザウラー!」

ミュウの言葉にジェノザウラーは答えるかの様に答えるとその身を巨大化させ、同じティラノサウルス型であるグリムヴァルカンと同じ位のサイズとなると右手をオアシスに向け

「クローアーム!」

それを発射し、伸ばされた右手がオアシスに浸かると

「纏雷なの!」

と右手に電気を流す。

バチバチという音が響いた後、現れた"それ"は触手を伸ばしてジェノザウラーに襲いかかろうとするが、ジェノザウラーは脚部のスラスターを噴射して後ろに下がって回避する。

そして、オアシスの水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったのだ。

「どうやらあれが犯人みたいだな」

「なんだ…この魔物は一体…?バチェラム…なのか?」

と呟くヴェルとビィズ。

バチェラムとはこの世界に於けるスライム型の魔物である。

この手のスライム型の魔物といえば体長1メートルくらいである事が多く、周囲の水を操るような力もなく、少なくとも自身の肉体以外では触手のように操ることは出来なかったはずである。

しかし、今ヴェル達の前にいるバチェラムは体長10メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っている。

「ティオ、やるぞ」

「了解なのじゃ。ウォーグレイ、セットアップ」

「アデプタイズ!オプティマスコンボイ、トランスフォーム!」

ティオは橙色の肉体(インナー)に黄色と銀色の装甲を纏った人型の竜といった外見をしたウォーグレイを纏い、ヴェルはオプティマスコンボイと一体化する。

「ティオ、ミュウ。奴に恐らく斬撃や打撃は効果ないだろう。銃火器で仕留めるぞ」

オプティマスコンボイの言葉に二人は頷く。

ティオ―ウォーグレイは両腕にフリースタイルガンとフリースタイルバズーカを装備。オプティマスコンボイはバックパックの2つのブラスターを腕に装備する。

各々は銃火器を発砲して触手を迎撃する。

「ミュウ、魔力粒子砲の発射準備を。奴の核たる魔石を吹き飛ばせ。私とティオで時間を稼ぐ」

「わかったなの!いくの、ジェノザウラー!」

ジェノザウラーは踵のアンカーを展開して両足を地面に固定させると口を大きく開き、咥内の砲門から尻尾の先を一直線にさせる。

すると首の上部の装甲や脚部の装甲、更に尻尾の装甲が展開される。

展開した尻尾の装甲には放熱フィンがついているが、これは大気中に存在しているもしくはオプティマスコンボイやウォーグレイの武器から放たれ散乱した魔力及び魔力粒子を吸収し咥内の砲門に集束する為の集束フィンも兼ねている。

そして魔力粒子はジェノザウラーの咥内の砲門に集束され

「ティオ!」

「わかったのじゃ!」

タイミングを見計らってオプティマスコンボイとウォーグレイはバチェラムから距離を取ると

「魔力粒子砲、発射なの!」

ジェノザウラーから放たれた魔力粒子砲による強力な一撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻り、大量の水が降り注ぐ音を響かせながらオアシス激しく波立つ。

「…終わったのか?」

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はない。原因を排除した事で浄化されたのかと言えるのかは分からないが」

オアシスを汚染していた元凶が目の前で消滅したことを受け、同行していたビィズやランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。

「…どうだ?」

「…いえ、汚染されたままです」

部下は落胆した様子で首を振った。

元凶を排除しても一度汚染された水は残るという事実にビィズ達は落胆が隠せないようだ。

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない」

とティオはビィズを慰める。

「それに私にいい考えがある。丁度到着したみたいだからな」

ヴェルはティオにある事を頼むとアンカジの門へ向かうのだった。

 

 

―side:Vernyi―

 

 

私達がアンカジの門に行くと3機のジェット機型のMSG―ソリッドラプターがそれぞれ飛行ブースター型MSGであるレイジングブースターを装備し、下部には巨大なタンクを懸架させてその場に待機している。その脇には数機のルシファーズウイングが随伴している。

そして、その中の一機から人影が降りてきて、私の元へと駆け寄ってきた後、敬礼を行った。

「ヴェル様、ご所望の品をお届けに参りました」

ハウリア族の少年パルはハウリア族の中でも年少組なのだが、その実力で高い地位を得たらしい。

「ご苦労様、パル。早速だが私についてきて欲しい」

「了解!」

私はパル達を引き連れ、オアシスへと戻った。

「ティオ、現状はどうだ?」

「ヴェル殿に頼まれていた通りに汚染されたオアシスの水は全部抜いたのじゃ」

「ありがとう。よし、このオアシスにタンクの中の抗体水…いや"擬似神水"を入れる。残り2つのタンクの擬似神水はそれぞれ貯水池と医療院へ」

私の指示に残り2機のソリッドラプターはタンクをそれぞれ貯水池と医療院へ運ぶ。

尚、オアシスの水を改めてビィズの部下が鑑定すると汚染は綺麗に除去されている事がわかった。

「しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか…新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

ビィズは首を傾げてオアシスを眺める。

「あくまでも私の推測だが……魔人族の仕業と考えるべきだろう」

「魔人族だと?ヴェル殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのか?」

「あぁ、いくつか、な。連中はウルの町で"豊穣の女神"を、オルクスで勇者一行を襲撃している。

おそらく今回のバチェラムも魔人族が作り出した物…つまり魔人族の魔物の軍備は整いつつあり、開戦を前に危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っていると考えるべきだろう。

"豊穣の女神"という食料供給を一変させかねない存在に聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのが何よりの証拠だ。

そして、このアンカジはエリセンからの海産系食料供給の中継点で、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所だ。しかも大砂漠のど真ん中という地理もあって襲撃を受けたのだとしても救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしくはない」

「魔物の事はこちらでも独自に調査はしていたが、あんなものまで使役できるようになっているとは…見通しが甘かったか」

「いや、仕方ないだろう。王都でも新種の魔物の情報を把握しきれていないだろう。

ウルの町での一件はちょっと前の事だが、勇者一行が襲われたのはつい最近の事で今頃あちこちで大騒ぎだろうからな」

私はビィズ氏にそう返す。

 

その後、私達は医療院に赴いて香織のサポートを行い、アンカジの民を治療していったのだった。

医療院の職員達は、上級魔法を連発したり複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたらしい。

民への治療が終わった後、パル達は樹海へと帰っていった。

そして、私達はランズィ氏から呼び出された。

「ヴェル殿、そしてレッカーズの皆様方、アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼をいう。この国は貴殿等に救われた」

ランズィ氏はそう言うとビィズ氏や部下達と共に深々と頭を下げた。領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだろうが、これも民を思う心愛国心が並々ならぬものであるからだろう。

それを周囲の部下達も理解しているからこそランズィ氏が一介の冒険者を名乗る我々に頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだろう。

そして、それは息子にもしっかり受け継がれているのか仕草も言動もそっくりだった。

「頭を上げて欲しい。ランズィ殿、貴方に頼みがある」

「頼みとは?」

「この先、我々は教会と敵対することになるだろう。もしそうなった時に後ろ盾になって欲しい。我々の味方になって貰えれば嬉しいが、最低でも中立の立場となってくれればありがたい。

この条件を呑んでくれるのなら防衛用の設備や一部の技術提供も行おう」

私の言葉にランズィ氏は少し考えた後、それを了承した。

それから私達は今後の事についてあれやこれやと話し合い、私達はグリューエン大迷宮へ挑むと同時に今後アンカジにもしもの事が起きた時に備えて静因石の採取も行う事になった。

量に応じて報酬を支払うとの事だ。

 

さて、後はグリューエン大火山にある大迷宮に挑むだけだが…問題はミュウの事だ。

彼女はまだ幼い…だからこそ護衛のジェノザウラーがいるとしても大迷宮へ挑むのには危険が大きすぎる…誰か一人と一緒に此処で待っておくべきだろう。

「ミュウ、私達はこれからグリューエン大迷宮に挑む事になるが、大迷宮の探索には危険が伴う。魔物とはいえ今まで生きていた物を殺したり…それでこそ魔人と殺し合いをすることになるかもしれない。私としては本音を言えば、その光景をお前に見せたくはない」

「あの、ヴェル様…ミュウも連れて行って欲しいの。

ミュウは今よりもっと強くなりたいの。もし、ミュウが強かったら、ママと今も一緒に居られたかもしれないの。

ママはきっと今もミュウの事を心配している…だからママに心配させないくらい…ううん、ママを守るれるくらいに強くなりたいの!」

「そうか…お前はまだ幼いが…幼いのに色んな経験をして、色んなものを見てきたんだったな」

私はミュウの頭を優しく撫でた後、真っ直ぐに向き合う。

「最終確認だ。この先、辛いことや見たくないものを目にすることになるだろう。今はわからなくとも、時を経て後悔するかもしれない…それでもついてくるか?」

私の言葉にミュウは力強く頷く。

「良いだろう。お前のその決意、この風見ヴェールヌイが受け止めた」

翌日、私達はグリューエン大火山にあるグリューエン大迷宮へ挑むのだった。

 

 

―side out―

 

 

第56太陽系の地球。イフリティア財団に所属するアデプトテレイターである頼尽綾奈はある場所へと向かっていた。

「綾奈、これから何処に行くのよ?」

と彼女と同行していたスティは綾奈に訊ねる。

「ヴェル達が何処かに転移させられる前にある事件が起きたんだよ。

その事件というのが、ある3人家族の一家が姿を消したという物で、後日その内の2人…夫婦が遺体で見つかったけど、彼らの娘は見付からなかった…残っていたのは僅かな血痕や髪の毛くらいだったよ」

「それなら普通なら警察が何とかするんじゃない?」

「まぁ、確かにそうかもしれない。本来なら私達の管轄外の事かもしれない。

ハワイやサンフランシスコでのゴジラとムートーの件は別部署のモナーク班の担当だったし、ネオテーラやジャカエンは世界消防庁の管轄だったからね。

私達の部署も支援に駆り出されたりという事はあったけど。

まぁ、そんな事は置いておいて、この事件に関してはある一点から私達の部署の管轄になったんだよ」

「その一点って?」

「行方不明になった娘さんの血痕や髪の毛を調べてみたら…金属細胞との適合率が高かった…つまりアデプトテレイターにする事が出来る可能性が高かいという事だよ。

だからこそ私達の部署の管轄になったんだよ」

「なる程、ね」

「ほんでもってこれから行くのはその一家の親族のところ。こうやって定期的に会いに行っているんだよ。

特に行方不明になっている娘の従妹とその姪はその娘と歳も近いからショックや不安も大きいだろうからね」

そうやって話をしている内に2人はある家―表札に"伊津村"と書かれている家に到着。綾奈はインターホンを鳴らす。

「はい、って綾奈ちゃんじゃない!今日もありがとう」

「どうも、静江さん」

静江という名の人物から家に上がる様に言われ、綾奈はスティを連れて伊津村家に上がり、ある部屋に入った。

部屋には黒髪の少女とベージュに近い色の髪の毛の少女の姿があった。2人とも小学生位の歳で顔立ちも似ており、瞳の色も同じ色だった。

「あっ、綾奈さん!」

「綾奈さん!」

と2人の少女は綾奈に駆け寄る。

「元気だった?紫、陽花」

綾奈の言葉に黒髪の少女―紫とベージュに近い色の髪の少女―陽花は頷く。

「そうか、それは良かった」

と綾奈は紫と陽花の頭を優しく撫でる。

「綾奈さん、その娘は?」

と紫は綾奈に訊ねる。

「最近知り合った娘だよ」

「スティレットイクスよ。スティで構わないわ」

「私は伊津村紫!」

「伊津村陽花です」

「2人は姉妹なの?」

とスティは問うが、2人は首を横に振る。

「紫ちゃんは私の一つ年下の叔母さんだよ」

「えっ?どういう事?」

陽花の言葉にスティは混乱するが、すかさずに綾奈がフォローに入る。

「混乱するのも無理はないか。私だって最初は混乱したからな。

分かりやすく言うと静江さんが陽花の母親で紫の歳の離れたお姉さんで、静江さんが陽花を生んだ翌年に、静江さんの母親が紫を生んだという事だ」

綾奈の言葉にスティは漸く理解した。

その後、綾奈はスティと共に紫と陽花の相手をする。話をしたり一緒に遊んだりして時はあっという間に過ぎていき、2人が帰る時間がきた。

「綾奈さん、今日もありがとう!」

「スティさんもありがとうございました!」

と紫と陽花は綾奈とスティに礼を言う。

「うん、また来るわ」

とスティは笑みを返す。

「2人の大切な従姉の手掛かり、何時か掴んでみせるからね」

と綾奈は紫と陽花の手を握るのだった。

 

 

この時、綾奈は知る余地もなかった。その行方不明となっていた紫の従姉がトータスで生きているという事を…

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

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