ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第35話『大火山での襲撃』

 

 

―side:Vernyi―

 

アンカジ公国より北方に約100キロメートルの位置に存在し、見た目が直径約5キロメートル、標高3000メートル程の巨石…それがグリューエン大火山だ。

その形状も成層火山のような円錐状の山ではなく、溶岩円頂丘のように平べったい形であり、山というより標高と規模が並外れている巨大な丘と表現するほうが相応しいだろう。

 

グリューエン大火山は七大迷宮の一つとして周知されていながらオルクス大迷宮のように冒険者が頻繁に訪れるということはない。

というのもオルクス大迷宮の魔物のように魔石回収のうまみが少ないし、内部も危険かつ厄介で、更にまず入口にたどり着ける者が少ないらしい。

それもその筈、グリューエン大火山はすっぽりと覆われて完全に姿が隠されているとでも言わんばかりに巨大な渦巻く砂嵐に包まれている。

「あれじゃ砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりきますね」

「ユーリアの言う通りだな」

そしてこの砂嵐の中にはサンドワームを筆頭に様々な魔物が数多く潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだから、並みの実力ではグリューエン大火山を包む砂嵐すら突破できないと言われている。

「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」

「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」

「私も遠慮したいわね」

「私もだよ」

シア、ティオ、レムリア、シエラがそう言う中、私はトレーラーを牽引したオプティマスコンボイを加速させ、砂嵐の中へ突入させたのだった。

 

 

道中でサンドワームの襲撃がありながらも先へ進んだのだは良いのだが、傾斜角的にビークルモードのオプティマスコンボイで進むのが厳しくなってきた。

「総員、此処からはそれぞれの機体で進むぞ」

私の言葉に皆が了解と返し、それぞれがトランステクターと一体化し、ティオはウォーグレイを身に纏い、ミュウは巨大化したジェノザウラーに乗り込む。

トランステクターやウォーグレイ、ジェノザウラーの内部は外部の気温に応じて内部の温度を自動で調整する空調完備の快適空間だ。

「レッカーズ、行くぞ」

「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」

 

グリューエン大火山の内部はとんでもない構造となっていた。

まず、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っている。赤熱化したマグマが空中をうねりながら真っ赤に流れていく様はまるで巨大な龍が飛び交っているようだった。

無論、マグマは空中だけでなく通路や広間のいたるところにも流れており、地面と空中の両方に注意する必要があった。

 

私達はそんな火山の中を熱源感知を常時発動しながら進んでいた。

トランステクターやウォーグレイ、ジェノザウラーならある程度の高温にも耐えられるが、当たらないに越した事はない。

また、現れる魔物も炎属性の魔物ばかりだ。

例えばその身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中で口からマグマを吐くという雄牛型の魔物やマグマの中を泳いだりまるでドリルの様に回転しながら地面や壁、天井を進む独特の形状の硬い嘴を持つ蜥蜴の様な魔物、シーラカンスに二本の足が生えた様な見た目でマグマの中を泳いだり陸上を歩いたりする魔物などが現れた。

こういう時にはMSGのウォーターアームズが役に立つ。

実はこのウォーターアームズも改良を加えて単に高圧の水を出すだけでなく超低温レーザーも放つ事が出来る冷凍兵器も兼ねるようになった。

 

魔物を倒しながら進んでいくと、あちこち人為的に削られている場所を発見した。

ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れており、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いていた。

「ティオ、これが静因石か?」

と私はこの中で一番知識深いティオに問う。

「間違いない。静因石じゃ」

「という事は、此処はどうやら砂嵐を突破してグリューエン大火山に入れる冒険者の発掘場所のようだな」

しかしながら発見された静因石は…

「小さいですね」

「ほかの場所も小石サイズばっかりですね」

ユーリアやシアが言うように残されている静因石の殆んどが小指の先以下のものばかりだった。

「ほとんど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、そもそも小さいんだろうな」

「やはり表層部分では静因石回収の効率が悪すぎるんですかね」

「そうだろうな、ユーリア。一気に大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ」

 

 

更に先へ進みつつも、幾ら早く攻略した方が良いとは言えぶっ通しで探索する訳にもいかない。

「ハジメ、マグマから比較的に離れている壁を錬成して横穴を開けて欲しい」

「うん、わかった」

ハジメはそう言うと指示通りに錬成によってマグマから離れた場所に横穴を開け、私達全員が入った後、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。

更に"鉱物分離"と"圧縮錬成"を使って部屋の壁の表面だけ硬い金属でコーティングし、魔物やマグマの噴射に襲われないよう安全を確保する。

それらが終わると、私達はトランステクターとの一体化を解除し、ティオとミュウもウォーグレイの中から出る。

「トランステクターとかがあるから大丈夫だけど、生身で来るのはキツイよね」

「…香織の言う通り。これは生身じゃキツイ」

と香織とユエはそう言いながら水を飲む。

「…おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

「コンセプトですか?」

ユーリアの言葉にティオはこう返す。

「うむ。ヴェル殿から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ?神に挑むためのなら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。

例えば、ヴェル殿が話してくれたオルクス大迷宮は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。ライセン大迷宮は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。このグリューエン大火山は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

「…ハラショー、攻略することに変わりはないから特に考えたことなかったが…試練そのものが解放者達の教えになっている訳か」

 

その後、休憩も終わり、私達は探索を開始したんだが…

「どうしたの、ヴェル?」

「いや、マグマが岩などで流れを阻害されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり時々不自然な動きを見せているなと思ってな。

宙を流れるマグマに至っては一部だけ大量にマグマが滴り落ちている。

通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならないだろうから気にも止めていなかったが…」

と私はハジメにそう答える。

「確かに"鉱物系探査"で見たら不自然な動きをしているね」

その言葉である事に気付いたのかティオはこう告げた。

「もしかしたら静因石が原因かもしれんのう。マグマそのものに宿っている魔力が静因石により鎮静されて、流れが阻害されているかもしれぬのじゃ」

「ならば、マグマの動きが強く阻害されている場所に静因石は大量にあるかもな。そうだと分かればそのポイントを探してみるか」

私達はマグマの動きが強く阻害されているポイントを探し

「ヴェル、見つけたよ!大量の静因石が埋まっている場所」

「ミュウも見つけたの!」

「私も見つけたわ!」

シエラやミュウ、レムリアが言うように大量の静因石が埋まっているポイントか多数発見された。

「よし、マグマの動きに注意しつつ採掘するぞ」

私達は相当な量の静因石を集めた後、予備用にもう少しだけ集めておこうと、とある場所に向かった。

そこは、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所だった。

ゴルドファイヤーと一体化しているハジメが錬成を使って即席の階段を作成して近寄る。

「鉱物系探査を使って見てみたけど、充分な量の静因石が埋まってる!」

「しかし、そこの静因石を採るとマグマが勢いよく吹き出すかもしれない。トレーラーを用意しておくから静因石を回収したら即座にトレーラーに退避しろ」

「うん、わかった」

私は宝物庫からトレーラーを出し、皆を乗せる。

このトレーラーにはマグマの高熱にも耐えられる様になっている。

ゴルドファイヤーと一体化しているハジメは錬成の"鉱物分離"を使い静因石だけを回収、静因石が取り除かれた壁はその奥からマグマを勢いよく噴き出す。

ハジメは咄嗟に飛び退いたてトレーラーの上に着地、マグマはまるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように穴を押し広げて一気に流れ込んだ。

トレーラーが流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートでグリューエン大火山の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていく。

 

道中、翼からマグマを飛ばしてくるコウモリが襲ってきたりしたが、ウォーターアームズで撃退した。

 

 

やがて洞窟の中に入ったり、滝の様に落ちたりしつつライセン大迷宮の最終試練の部屋よりも広大な空間へとたどり着いた。

 

空間は自然そのままの歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径3キロメートル以上はあり、地面はほとんどマグマで満たされ、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。

周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば削れているところもあり、空中にはやはり無数のマグマの川が交差し、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。

 

そして、マグマの海の中央に海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の小さな島があり、その上をマグマのドームが覆っていた。

「あそこが住処かな?」

とハジメは呟く。

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな」

「でも、そうなると…」

「最後のガーディアンがいるはず…ですよね、ゼルフィ」

ユーリアの言葉にゼルフィは頷く。

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

とシアは自分の考えを口にする。

「もしくはこれからあるのか…」

私がそう呟いた後、宙を流れるマグマからマグマそのものが弾丸のごとく飛び出してきた。

私はトレーラーに装備されたウォーターアームズから冷却弾を放ってそれを相殺する。

「総員、戦闘態勢!」

私達はトレーラーから降り、それぞれトランステクターと一体化し、ティオはウォーグレイを纏い、ミュウはジェノザウラーに乗り込み、ゼルフィも武装を展開する。

「あれが試練の相手のようだな…マグマスネークとでも呼ぶべきか?」

私達の前に現れたのはマグマで出来ている巨大な蛇だった。しかも複数もいる。

「魔石の位置も特定できない…」

とハジメ―ゴルドファイヤーは口にする。

「でも、倒すしかないですよ」

「ユーリアの言う通りだな…倒してみたらわかるかもしれない」

私はそう言いながらウォーターアームズや冷却弾などを使ってマグマスネークを討伐していく。

皆もマグマスネークの討伐を開始するが、奴らはまるでゴキブリや大量発生した時のジーオスの様に次から次へと現れては襲いかかってくる。

 

数十分は経っただろうか、全員でマグマスネークを100匹倒した所でマグマスネークの出現が止まった。

「出てこないですね」

とスラッグバスターと一体化しているシアはそう呟く。

確かにこれ以上出てくる気配がない。

「ヴェル、あれを見て!岩壁が光ってるわ!」

レムリアに言われた通り中央の島に視線を移すと岩壁の一部が拳大の光を放っていた。

保護色になっていてわかりづらいが、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれており、そこからオレンジ色の光が放たれている。

その数はマグマスネークの総討伐数と同じく100個、その全てが光っていた。

「もしかしたら、あれってあいつらの討伐数を示すものなんじゃないかな?」

「なるほど、ハジメの言う通りかもな」

と私が答えた時だった。

「グゥラァァァァァァァァァ!」

という咆哮が突然、響き渡ると私達の後ろの壁が破壊されて、ティラノサウルス型ロボットが現れ、私達に向けてエネルギー弾を放つ。

「くっ!」

私はオプティマスコンボイのバックパックに装備されたブラスターを発砲してエネルギー弾を相殺する。

「…グリムヴァルカン…という事は…」

ティラノサウルス型ロボット―グリムヴァルカンの後ろからある人影―赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男が現れた。

男は巨体を誇る純白の竜に乗り、その周りにはそれよりも小さな竜が幾つもいた。

この竜達はどうやらジーオスイミテイトではないようだ。

「魔人族か…私達に何の用だ?」

「貴様等こそ一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している」

「名乗るのなら自分から名乗れ」

「私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

「神の使徒、か。大仰だな。神代魔法を手に入れたから、そう名乗ることが許されたってところか」

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、"アルヴ様"は直接語りかけて下さった。"我が使徒"と。故に私は己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

「そうか…ならば、私も名乗ろう。私は風見ヴェールヌイ。レッカーズのリーダーにして鋼鉄の戦女神だ」

私達が臨戦態勢に入るとフリードはグリムヴァルカンに指示を出した。

「やれ」

「了解。アデプタイズ、グリムヴァルカン、トランスフォーム」

グリムヴァルカンはロボットモードへと変形し、私に向けて剣を振るうが

「はぁぁぁぁぁぁ!」

それをグリムレックスがサムライマスターソードで受け止める。

「ヴェルさん、こいつは私が食い止めますからあの魔人族を!」

「わかった!」

グリムレックス―ユーリアの言葉に私はそう返し、フリードの元へ向かうのだった。

 

 

―side out―

 

 

グリムレックスがグリムヴァルカンと交戦している一方、他の面々はフリードと彼が率いる竜達と戦っていた。

「私の連れているのが竜と人形だけだと思ったか?この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

フリードはそう言うと極度の集中状態に入り、複雑怪奇な魔法陣が描かれている大きな布を手にして詠唱を唱え始めた。

「このグリューエン大火山で手に入れた神代魔法か…」

オプティマスコンボイはそう呟く。

神代魔法の絶大な効果を知っているレッカーズの面々は、詠唱を妨害しようとフリードを攻撃しようとするが、小型の竜―灰竜が障壁を展開させ、突破されて消し飛んでも直ぐに後続が詰めて新たな障壁を展開する為、レッカーズの面々の攻撃はなかなかフリードに届かない。

「"界穿"!」

そうしている間にフリードの詠唱が完了し、フリードと白竜の前に光り輝く膜のようなものが出現、フリード達はそれに飛び込んだのだ。

「ヴェルさん!後ろです!」

スラッグバスター―シアの警告に従ってオプティマスコンボイは後方へ振り向くと同時にベクターシールドを構える。

オプティマスコンボイが振り向いた先には白竜の背に乗ってオプティマスコンボイを睨むフリードと大口を開けた白竜がいた。

膨大な熱量と魔力が白竜の口内に臨界状態まで集束・圧縮された後、オプティマスコンボイ目掛けて極光が放たれた。

光が収まった後、ベクターシールドにダメージが入りつつもオプティマスコンボイ自身は無傷だった。

「何というしぶとさだ…紙一重で決定打を打てないとはな」

「トランステクターはお前達が言うジーオスイミテイトの原種との戦闘を前提として作られているからな。この程度ではやられないさ」

「ジーオスイミテイトの原種と、か…なるほど、だとしたら納得できる」

「お前に聞きたい事がある。ジーオスイミテイトとグリムヴァルカンはお前達の神とやらが与えた物か」

「それがどうした!?」

「そうか…ならば、お前達の神も放ってはおけない」

オプティマスコンボイは二丁のブラスターを発砲、一方のフリードは白竜に火球で相殺するように指示し、白竜の火球でエネルギー弾は相殺される。

そしてフリードは白竜を高速で飛ばしながら、再び、詠唱を唱え始めるのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 


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