―side:Vernyi―
翌朝、私はエリセンの人気がない広場を借りて皆を召集した。
「それでヴェル、こんな所に呼び出してどうしたの?」
とハジメは私に訊ねる。
「皆を呼んだのはミュウとレミアが正式に我々レッカーズに加入する事になった」
私の言葉に皆は驚くが、すぐに歓迎ムードとなって二人を暖かく迎え入れる。
「だから皆で二人を本格的に鍛えて欲しいという事で此処に召集した」
「なるほど、確かに広い場所の方が良いですからね」
「レミア、お前にはまずせめて自分の身を守れるよう皆から戦い方はMSGの使い方を学んで貰う。私も手が空き次第、訓練に参加する」
「わかりました、ヴェルさん」
「ハジメ、私と共に装備開発・改修を行うぞ」
「うん、わかったよ」
「それじゃ、各自行動を開始だ」
かくしてレミアの鍛練や装備開発・改修が始まるのだった。
そんな訳でまず私はハジメと共にある空き家で装備開発・改修を行っていた。
「それで、ヴェル。レミアさんの専用装備はどうするの?」
「それなら既に候補が上がっている」
私は端末にある画像をハジメに見せる。
「これらの内のどれかをレミア様にチューンナップする」
「レミアさんもゾイドでいくの?」
「あぁ、娘がゾイドだったから親もゾイドにしようという安直な考えだ」
「それどうつっこめば良いのさ…」
「後はレミアの戦闘スタイル次第だな…後方支援や銃撃戦が得意ならスティレーザーやレッドホーン系統、空戦がいけるならスナイプテラかサラマンダー、ストームソーダー、格闘戦が得意ならギルラプターといったところか。何ならグラキオサウルスに追加装備をつけるのでも良いだろう」
「ヴェル…聞きたい事があるんだけど良い?」
「ん?何だ?」
「何で候補に上がっているゾイドがどれも恐竜や翼竜型なのさ…ライガーとかもあるのに」
「私の趣味だ、良いだろう?」
「そうだろうとは思ったけどさ…」
「因みにハウリア達の報告によればラプトールやラプトリアは作成・量産化が出来て一部は親衛隊の連中が試験運用をしているらしい。
話によれば馬より早いし衝撃吸収装置のお陰で快適らしい」
「あれ、この世界ってファンタジー世界だったよね?SF世界じゃないよね?」
「こう言う言葉があるだろ?"地球なめんなファンタジー"だ」
「ヴェルが持ち込んだ技術は地球というよりトランスフォーマー由来の、宇宙人由来の技術だよね!?」
「細かい事を気にしたら負けだ。私だってハジメから見ればある意味宇宙人だ。それはそうと"空間魔法"を取得したから宝物庫の量産化もやらないとな」
「それもそうだね」
かくして私達はまず宝物庫の量産化を開始、成功した。
もし私達と敵対する者達が手にした時や手にした者が私達と敵対行動をとった時の安全装置として私の意思で機能を停止できるよう細工を施している。
「あのさ、ヴェル」
「何だ?」
「昨日レミアさんと何かあったの?」
「少し話をしただけだ。彼女は今度こそ娘を守れるように強くなりたいと願い、力を欲した。だから、私はレミアとミュウを正式に迎い入れたに過ぎない。
大切な人を守りたいという気持ちは私にもよくわかる。私だってそうだからな。
それに、大切な人を失う事はとても辛い事だからな…」
「ヴェル…」
「私だってあかりの死を100年経った今でも引きずっている。もし間に合っていれば彼女は死なずに済んだんじゃないか、とな」
「もし彼女にまた会えたらさ、どうしたい?」
「そうだな…まずは一発殴らせろだな。"勝手に一人で先に死にやがって、私が…皆がどれだけ悲しんだ事か…"って」
私の言葉にハジメは苦笑いを浮かべる。
「そして、思いっきり抱き締めてこう言うだろうな。"一人で任せてしまって済まなかった"と」
そんな話をしつつ宝物庫はある程度量産する事ができた。
「さて、私は皆の様子を見てくるか」
「うん、此処は僕に任せてよ」
「あぁ、頼んだ」
という訳で例の広場に戻るとレミアが背面にキラービークを、手にはウォーターアームズを装備して同じ装備を持ったレムリアと模擬戦を繰り広げていた。
「様子はどうだ?」
と私は香織とユーリアに訊ねる。
「うん、レミアさんは単純な力に関しては魔物の肉を食べてもユエと大差ないし固有魔法とかもないけど…」
「手先が器用なのと要領が良いのか銃火器型MSGもすぐに使いこなして、キラービークを使った飛行戦にもすぐに慣れたみたいですね」
「なるほどな…これなら専用装備も決まりだな」
そして3日後。準備も終わり、私達はいよいよ"メルジーネ海底遺跡"に挑む事となる。
ミレディから聞いた話によればエリセンから西北西に約300キロメートルの位置に存在する場所だ。
後は"月"と"グリューエンの証"に従えと言われている…これはグリューエン大火山を攻略した証たるペンダントに月の光を溜め込めば良いらしい。
ペンダントのサークル内にはランタンを掲げている女性の姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれて穴あきになっている。
そしてこのペンダントを月にかざすとその穴あきに光を溜め込んで海底遺跡へ導くらしい。
本来なら空間魔法で自分達の周辺の空間と外界を切り離した状態で進むべきなのだろうが、そうしなくてもトレーラーやトランステクターがあれば問題なく潜航できる。
私はオプティマスコンボイと一体化し、ペンダントから放出される光が遮られないように右手の甲にペンダントをしっかりと固定してトレーラーの前を先行していた。
ペンダントの光は無数の歪な岩壁が山脈のように連なっている海底の岩壁地帯を示しており、私が近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、岩壁の一部が音を立てて真っ二つに裂け、扉のように左右に開き出し、暗い道が出現した。
「なるほど、どのみち夜じゃなければ無理だったという事か」
「そう言う事みたい。でも、何だかロマンチックだよね」
香織の言葉に皆は肯定の様だ。確かにロマンチックだな…
私は引き続きトレーラーの前を先行し、その道を進む。
道中、トビウオ型の魔物が襲ってきたりしたが、私が一気に殲滅した。
「今、死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」
「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」
「あれ、どんな味がするのか気になるの!」
「あらら、でも、食べるのはまた次の機会にしましょう」
そんな中、洞窟の壁を注意深く観察していると数ヶ所に50センチくらいの大きさで五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸び、中央に三日月のような文様があるの紋章…メルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。それが、円環状になっているこの洞窟の五ヶ所に存在している。
「五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダント…という事は…」
私がオプティマスコンボイの右手の甲に固定したペンダントを壁にかざすと、ペンダントが反応してランタンから光が一直線に伸び、その光が紋章に当たると紋章が一気に輝きだした。
「これ、魔法でこの場に来る人達は大変だよね…」
「そうね…直ぐに気が付けないと魔力が持たないわ」
シエラとレムリアがそう言う中、私が五ヶ所の紋章全てにペンダントの光を当てると、轟音を響かせながら壁が縦真っ二つに別れ、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。
その奥へ進むと、真下へと通じる水路があり、私達は進んでいくが、どういう原理なのか途中で水面がたゆたっていた。
そして、その下に出た私とトレーラーは浮遊感に包まれた後、落下した。
私はオプティマスコンボイのパックパックのスラスターを作動させ、両手でトレーラーを掴むとゆっくり地面に下ろした。
私はオプティマスコンボイとの一体化を解除し、皆もトレーラーから降りて私はオプティマスコンボイとトレーラーを宝物庫に入れる。
「ここからが本番みたいだな。海底遺跡と言うより洞窟だが、全部水中でなくて良かった」
「確かにそうですよね」
私の言葉にユーリアはそう返す。
「そう言えば、アデプトテレイターは水中でも呼吸できるですか?」
とレミアは私に訊ねる。
「そうだな…水中にいる時は身体の各部から魚のエラの様に水中の酸素などを取り込むから呼吸というより無呼吸でいられるというところか。
因みに大気中にエネルギーに変換できる物質がない状態で長時間行動してエネルギー切れになると休眠状態…ステイシスロックモードになるな」
と私は答える。
そんな中、周囲から魔物の気配が感じられた。
「ユエ、障壁を」
「…ん」
私の言葉にユエは障壁を展開、直後に頭上からレーザーの様な圧縮された水流が流星さながらに襲いかかってきたが、ユエが張った強固な障壁を破る事は出来なかった。
「あれは…フジツボですかね?」
「それっぽいよね」
ユーリアの言葉に香織は肯定する。
襲ってきた魔物はフジツボの様な姿をしていた。
「フジツボか…反アデプトテレイター派から追われていた時、食糧の補給が出来ない時にフジツボを食ったりもしたな」
「食べれるの!?」
とミュウは目を輝かせている。
「何なら食べてみるか?」
私達はフジツボ型の魔物を十数匹捕獲した後、残りは焼き払って殲滅した。
因みに味は微妙だった。
その後も魔物も倒しつつ通路の先を進んでいくが…
「なんかさ、迷宮の魔物にしてはやけに弱くない?」
「ハジメの言う通りだな…圧倒的に弱い。外の魔物と大差がない」
そう、魔物が迷宮の外と変わらない程度に弱かった。
疑問を持ちつつ更に通路の先にある大きな空間へ進むと、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。
「何だろう…」
とハジメは呟く。
「私がやります!」
「私もいくよ!」
最後尾にいたシアとシエラはインパクトナックルでその壁を壊そうと叩くか、壁は表面が飛び散っただけでゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、シアとシエラの胸元にその飛沫が付着する。
「ひゃわ!何ですか、これ!」
「服が溶けてる!?」
シアとシエラの胸元の衣服が溶け出し、は困惑と驚愕の混じった声を上げる。
「シエラ、シア、動くでない!」
ティオは咄嗟に絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くす。シアの胸元が赤く腫れているが、少し皮膚にもついてしまったようだ。因みにシエラは既に回復している。
「どうやら、強力な溶解作用があるようだな」
「また来ます!」
ゼリーの壁の次は頭上からの無数の触手の襲撃だ。
見た目は先端が槍のように鋭く尖っているのを覗けば出入り口を塞いだゼリーと同じだ。
「あいつらにも強力な溶解作用があるかもしれない。警戒しろ!」
「ヴェル殿、先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃが、どうやら炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」
「つまりこのゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来るという訳か…大迷宮の魔物に相応しい中々に強力で厄介な能力だな」
私がそう言った時、天井の僅かな亀裂から染み出すようにその魔物が現れた。
空中に留まり形を形成していき、半透明で手足がヒレ状の人型で、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている全高10メートル程のクリオネ型だ。
「トランステクターで相手をするか…アデプタイズ!オプティマスコンボイ、トランスフォーム!」
私はオプティマスコンボイと一体化し、ブラスターを発砲し、クリオネ型の体は爆発四散した。
「反応が消えてない…なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に…」
ハジメの言う通り、感知系能力やセンサー等は部屋全体から魔物の反応を捉えていた。
更に四散したはずのクリオネが瞬く間に再生してしまった。しかも、よく見ればその腹の中には先程まで散発的に倒していたヒトデモドキや海蛇が溶かされていた。
「ふむ、どうやら弱いと思っておった魔物は本当にただの魔物で、こやつの食料だったみたいじゃな…」
「そういえば、透明の癖に魔石が見当たらないよ?」
シエラの言う通り、魔物なら体内にある筈の魔石がこのクリオネ型からはまったく見当たらなかったのだ。
「どこに繋がっているかわからないが、地面の下に空間がある。こんな海底にあるから水が流れているかもしれないが…態勢を一度立て直すぞ」
私の言葉に皆は了解、と返す。
「ハジメ、錬成で穴を開けられないか?」
「わかった。リンケージ!ゴルドファイヤー、トランスフォーム!」
ハジメはゴルドファイヤーと一体化し、地面に穴を開けていき、その隙に水中で呼吸出来ない者は酸素ボンベ型のアーティファクトを装備する。
「もう少しで穴が開く!」
「わかった。総員、流されないように私かゴルドファイヤーにしがみつかけ!」
皆が私やゴルドファイヤーにしがみついたのを確認すると
「ハジメ、今だ!」
「うん!いくよ!」
ゴルドファイヤーは錬成で弱くなった地面をバタリングラムとなったバイオレンスラムで打ち抜き、その結果として貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいく。
私は宝物庫から巨大な岩石と無数の焼夷手榴弾を転送しつつ、皆と共に地下の空間へと流されていった。
数秒後、背後でくぐもった爆音が響いた。クリオネ型の追撃から逃れたのかは確認する事が出来なかったが…
そして、私達は誰一人はぐれる事なく何十箇所にも穴が空いている巨大な球体状の空間に落ちてきた。
開いている穴の全てから凄まじい勢いで海水が噴き出すか流れ込んでおり、まるで嵐のような滅茶苦茶な潮流となっている場所だ。
「みんな無事か?」
私はオプティマスコンボイとの一体化を解除して皆に訊ねる。
「はい、大丈夫です」
ユーリアを筆頭に皆は大丈夫だと返す。
「そうか…良かった」
しかしトランステクターと一体化していた私とハジメ以外は皆びしょ濡れであり、ユエは風を発生させて皆の衣服を乾かしていく。
皆の衣服が乾いた後、私達はこの空間の探索を始める。
そして、暫く探索を続けていた時だった。
『『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』
『『ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』
という大勢の人間の雄叫びが突然聞こえた。
「っ!?なによ!?」
「レムリア!皆!周りが!」
シエラが言うように周辺の風景が歪み始め、私達の周辺に二組に分かれて相対して武器を手に雄叫びを上げる人々の姿が現れるのだった。
To be continue…