ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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この回からしばらく原作とは異なる流れになります。
そして、遂にヴェルのトランステクターがロボットモードになりますが、出番が少ないという…


第4話『オルクス大迷宮』

―side:Vernyi―

 

 

七大迷宮の1つ、オルクス大迷宮は全百階層からなると言われている大迷宮で、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現するのだが、魔石を手に入れる為に多くの冒険者が訪れるらしい。

 

私達はメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、オルクス大迷宮へ挑戦する冒険者達のための宿場町"ホルアド"にある王国直営の宿に宿泊し、翌日からこの迷宮に挑む事になる。

 

 

そして、私と香織はハジメの部屋を訪れた。

道中、ねっとりとした視線を感じたが、無視しよう。

「ところで香織、その格好で男の部屋に行くのは…」

「どうかしたの?」

「いや、相手は婚約者だし良いか」

今の香織は純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけだ。

因みに私は動きやすさ等を重視してMSCバッグの中に入っていたジャージを着ている。女子力が足りない?そんなのは何十年も前に捨ててきた。

「ハジメくん、起きてる?」

「ハジメ、今良いか?」

私達の言葉にハジメはドアを開け

「何でやねん」

と何故かツッコミを入れつつ私達を招き入れた。

「二人共、申し訳ないがトランステクターは間に合わない」

「仕方ないよ。元々アデプトテレイター用のを僕達に合わせて改造しているから時間がかかるし」

「確かにそうだな…二人が激しい衝撃に耐えられるように調製しているのだが、それも試行錯誤しながらだからな。

その代わりにMSGに関しては幾つか出来上がった」

まずはハジメにあるMSGを渡す。

「ガンブレードランスだ。剣と銃剣に分離でき、更にそれらの機能は合体形態でも使用できる。刃にはEN粒子をコーティングしている」

続いて香織にもMSGを一つ渡す。

「香織に渡したのはフリースタイルガンだ。

様々なタイプの銃に変化できる。

弾丸もエネルギー弾や実弾など様々なタイプを使用できる」

二人に渡し終えた後、二人は礼を言う。因みに雫にも既に一つ渡してある。

雫に渡したのは刀型のサムライマスターソードだ。鞘はブラスターにもなり、更に刀と鞘を合体させて大刀…というより大剣としても使用できるという代物だ。

尚、こいつに関しては色違いのがもう一つ予備として作ってあったりする。

そして私はMSGのプロトタイプたるエナジーソードとハンドガンをメインに使用する。

「いよいよ明日だね…」

「うん、そうだね…実はね、ヴェルに起こされるまで仮眠を取ってたんだけど…夢を見たの。

…南雲くんが居たんだけど…声を掛けても全然気がついてくれなくて…走っても全然追いつけなくて…それで最後は消えてしまうの…」

「不吉な夢、だよね」

「あぁ、そうだな。だが、そう言った嫌な夢は覆せば良い。

お前達には私がついているしお互いがいる。"戦女神の加護・祝福"を受けた自分達がな」

私はそう言いながら香織の頭を優しく撫でる。

「ありがとう、ヴェル」

「このくらい、どうって事はない」

 

さて、明日はオルクス大迷宮へ赴くのだが…

明日の訓練が終わったらこの町を散策するか。

実は、この町に来てからある気配…というか"エネルギー反応"を"3つ"感じる。

人間とも魔物とも違う反応。

 

アデプトテレイターのエネルギー反応だ。

 

このエネルギー反応は特殊なセンサーか感知能力を保有しているか、そしてアデプトテレイター同士でなら"判別"する事が出来る。

 

しかし、3人分感じるのは何故だ…?

「ヴェル、どうしたの?」

ハジメは心配そうに私を見てくる。

「実はな、この町に来てからアデプトテレイターの反応を感じる」

「ヴェル以外のアデプトテレイターがこの世界に!?」

と驚きの声を上げるハジメ。香織も驚きを隠せないようだ。

「この世界に来た時にゼルフィに情報収集を頼んだんだが、その中にアデプトテレイターの特徴に合致する亜人族の奴隷の噂があった。

ゼルフィにはそのアデプトテレイターの捜索を行ってもらい、明日の訓練が無事に終わり次第、私はそのアデプトテレイター達に直接会いに行く」

 

 

そして翌朝。

私達はオルクス大迷宮の入口に集まっている。入口は博物館の入場ゲートのようなしっかりした作りであり、受付窓口まであり、制服を着た受付嬢が笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

戦争を控え、多大な死者を出さない為に、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するの措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っており、まるでお祭り騒ぎだ。

 

そして、そんな人々の中からアデプトテレイターの気配を二人分感じる。

そして視線を動かすと…確かにいた。

二人の亜人族…ツインテールのエルフと獣耳を生やした少女。彼女達も私に気付いたようで驚きつつも警戒の眼差しを向けている。

「ゼルフィ、見たな」

「うん、見たよ」

「二人の監視を頼む。バレないようにな」

「うん、わかったよ」

ゼルフィはそう言って飛んでいった。

 

 

私達はその後、オルクス大迷宮の中に入った。

迷宮の中は縦横 5メートル以上はあり、通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているからか松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から1ヶ月はかかるというのが普通らしいが、現在は47階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。

下手な事をしなければ、トラップに引っ掛かる事もないだろう。

因みに私はハジメ、香織とパーティーを組んでいるのだが、某勇者こと天之河は香織をパーティーに加えようとした。無論、彼女は自分の意志で私のパーティーに入っているからと断っている。

そんな中、複数の魔物が私達の前に現れた。

「あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない」

「メルド団長、私達に任せて欲しい」

「あぁ、わかった。だが、武器は…」

「私が用意した」

私は視線をハジメ、香織にそれぞれ向けると二人は頷き、私達はある"コード"を口にした。

「「「アームズアップ!」」」

その"音声コード"によってそれぞれの選択したMSGが私達に合わせたサイズへと展開され、私達はラットマンに向けて発砲する。

「"錬成"」

ハジメに至っては襲ってくる魔物に対してはこうして地面を錬成して動きを封じ、発砲するという芸当も見せている。

「錬成を利用して確実に動きを封じてから、止めを刺すとは…それにその武器は…」

「武器は私が作った物だ。作製者権限で保有者と私が認めた物しか使用できないからセキュリティ面も問題ない。

ハジメの錬成は作るだけでなく応用次第でトラップ作成など戦闘にも充分に使える。

まったく、ハジメが錬成師だからといって馬鹿にするクソッタレ共の頭の中はどうなっているんだろうな。

それより、戦争するのだから最初に殺しを教えた方がいいと思う」

「…それは、最後にしておきたい。まずは強靱な肉体を作り精神に余裕を持たせたいのだ」

メルド団長の言葉に私はそうか、と返して再び襲ってくる魔物に備えるのだった。

 

 

そして20階層目。今日の訓練はこの階層までとなっている。

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

メルド団長の忠告が飛んだその直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がってきたのだ。

二本足で立ち上がり、胸を叩きドラミングを始めたカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物。

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

メルド団長の声が響き、今回は天之河達がメインとなって相手をする。

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返し、天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

坂上の人壁を抜けられないと感じたからかロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸い

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮を発した。

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

ロックマウントの固有魔法"威圧の咆哮"…魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

それをまんまと食らってしまった天之河達前衛組が一瞬硬直してしまった。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ、砲丸投げのフォームで後衛組と私達に向かって投げつけ、咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が私達へと迫る。

後衛組が準備していた魔法で迎撃すべく魔法陣が施された杖を向けるが、発動しようとした瞬間に衝撃的光景に思わず硬直した。

実は投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて後衛組へとさながらル○ンダイブの様な状態で妙に目を血走らせ鼻息を荒くし迫り来る。

気色悪いと思ったのか後衛組は悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

私はダイブ中のロックマウントをハンドガンで撃ち落とす。

「戦闘中に油断すると命を落としかねないぞ。耐えて相手をするしかないぞ」

後衛組は私の言葉に謝罪するが、相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

そんな様子を見て正義感と思い込みの塊たる馬鹿勇者こと天之河がキレた。

「貴様…よくも…許さない」

どうせ気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたのだろう、天之河の怒りに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ―"天翔閃"!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

天之河はメルド団長の声を無視して大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

こんな狭いところでそんな大技を出すな愚か者めが!と言いたくもなる。

天之河が聖剣を降り下ろした瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣からその光自体が斬撃となって放たれた。

逃げ場などなく、曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

天之河は息を吐きやったぜ、安心しろとイケメンスマイルで後衛組へ振り返った…そのイケメンスマイルが余計にムカついたので顔面を気絶しない程度の威力で殴った。

「な、何故殴るんだ!アイツを倒したのに!」

「お前は自分の仲間を殺す気か愚か者めが!こんな狭いところで大技放ったら生き埋めになるだろうが!」

と私が馬鹿勇者に説教しているとふと香織が何かを見つけたのか崩れた壁の方に視線を向けた。

「…あれ、何かな? キラキラしてる…」

香織の言葉に皆が視線をそれに向けるとそこには青白く発光する鉱物が壁から生えていた。

「あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

グランツ鉱石…何の効果もないが見た目の良さで貴族女性に人気がある鉱石だ。

「素敵…」

香織がメルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとした時、誰かの視線を感じた。

ドロリとした気色悪い視線…誰にも気づかれない程度に視線を向けたんだろうが、誰かは分かった。

「だったら俺らで回収しようぜ!」

その視線を向けていた屑こと檜山はグランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

檜山はメルド団長の忠告を無視して鉱石の場所に辿り着く。

メルド団長は、止めようと檜山を追いかけ、同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。

「団長!トラップです!」

その言葉の直後、檜山がグランツ鉱石に触れた事で魔方陣が発動。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

メルド団長の言葉に俺達は急いで部屋の外に向かおうとするが間に合わず、部屋の中に光が満ちて私達の視界を白一色に染める。

同時に一瞬の浮遊感に包まれた後、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

私達は周囲を警戒する。

転移したのはざっと百メートルはありそうな巨大な石造りの橋の上だった。天井は20メートル位はあり、橋の下に川などなく、全く何も見えない落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は10メートル程だが、手すりや縁石などはない。

…私達はそんな巨大な橋の中間辺りにいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛す。

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

しかし撤退を始めるよりも先に階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現し、更に通路側にも魔法陣は出現。

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物"トラウムソルジャー"が溢れるように出現、空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。

その数は、既に百体近くに上っており、尚も増え続けている。

そしてもう一方の巨大な魔方陣から現れたのは一体の巨大な魔物だった。

体長十メートル位の四足で頭部に兜のような物を取り付け、瞳から赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら頭部の兜から生えた角から炎を放っているトリケラトプスを彷彿とさせる魔物。

その巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長は呻く様に呟いた。

「まさか…ベヒモス…なのか…」

ベヒモスは大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げる。

「グルァァァァァアアアアア!!」

久々に骨がありそうな奴が現れたな…

「ハジメ、香織、メルド団長。アイツは私が一人でやる」

私は3人にそう言う。

「待ってくれ!一人でやるなんて無理だ!俺達もやる!」

と馬鹿勇者は食って掛かるが

「お前がいると邪魔だ。それに自分の実力をちゃんと把握しろ」

「風見の言う通りだ。本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ。奴は65階層の魔物。

嘗て最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ」

メルド団長は私の方を向く。

「出来るのか?」

「問題ない。私が長年戦ってきたのは彼奴と同等以上の怪獣だ。

可変外装…トランステクターを使う」

私がそう言った後、皆は私から離れる。

私はミニカーサイズのトランステクター―オプティマスコンボイを取り出し、素粒子コントロール装置によってそれを本来の大きさへ戻し、"コード"を口にした。

「アデプタイズ!オプティマスコンボイ、トランスフォーム!」

私と一体化したトラックは各部を展開・格納する事で形を変えていく。ボンネットがバックパックになり、後部は脚部へと変化する。

「あれが…オプティマスコンボイ…」

ハジメは静かに呟く。

ロボットモードとなったオプティマスコンボイ…私はベヒモスを睨み付ける。ベヒモスも威嚇している。

「さぁ、戦いの始まりだ!」

咆哮と共に突進してくるベヒモスを私は受け止め、奴の顎に蹴りを入れ、怯んだ隙に殴っては蹴るを繰り返す。

ベヒモスも負けじと殴りかかるが、私はそれを受け止め、殴り返す。

その後、ベヒモスはその兜を"赤熱化"し、私に再度突進を行うが、私は大剣…ジャッジメントソードにEN粒子を込めて2本の角を切り落とす。

ベヒモスは怒り狂って私を殴りかかろうとするのに対し、私は銃が付いた盾であるベクターシールドの銃口から零距離でEN粒子弾を放つ。

片腕を失ったベヒモスは更なる怒りを見せ、赤熱化して私に突進を仕掛けようとするが

「この程度の相手ならエナジドライブを使うまでもないな」

私はベヒモスの背中に跨がってジャッジメントソードを突き刺した。

ベヒモスは苦しみの声を上げた後、振り上げられたジャッジメントソードによって胸部から頭まで真っ二つになり、その動きを止めた。

「凄い…あのベヒモスをあっという間に…」

とメルド団長は呟いた。

私はオプティマスコンボイとの一体化を解除し、何かに使えないかと思ってベヒモスの亡骸を素粒子コントロール装置で出来るだけ小さくしてそれを持ち運びできるケースの中に入れ、更にそれをコートのポケットの中に入れた。

「さて、後は骸骨共だけだな」

ハンドガン2丁を手に骸骨もといトラウムソルジャーを撃ち抜いていくのだった。

 

 

―side out―

 

 

―side:Hajime―

 

 

今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている不気味な骸骨の魔物―トラウムソルジャーにトリケラトプスの様な怪物…ベヒモス。

ベヒモスはオプティマスコンボイとなったヴェルが相手をしているけど、トラウムソルジャーはまるでゴキブリの様に次から次へと現れる。

この状態にクラスメートの殆どはパニックになり、隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。

そして、一人の女子生徒―園部さんが後ろから突き飛ばされ転倒し、トラウムソルジャーは剣を降り下ろそうとする。

「錬成!」

僕は錬成でそのトラウムソルジャーを筆頭に周囲のトラウムソルジャーの足下を隆起させ、何体かは橋の下へ落とし、落としきれなかった分はガンブレードランスで撃破していく。

周囲からトラウムソルジャーを排除した僕は園部さんの元へ駆け寄る。

「早く前へ行って!大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ!うちのクラスは僕以外全員チートだから!」

「うん!ありがとう!」

園部さんは元気に返事をして前を駆け出し、僕は周囲のトラウムソルジャーの足元を崩して固定し、足止めをしてから撃ち抜いていきつつ、周囲を見渡す。

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。

 

そんな中、ヴェルがベヒモスを倒した。

あの一流の冒険者ですら歯が立たないという怪物をあっという間に、だ。

思えばヴェルが戦っている姿を直接見るのは初めてだった。

映像でなら何度も見せてもらったけど、こうして直に見ることなんて今までになかったからだ。

彼女はトランステクターとの一体化を解除した後、ハンドガンを装備して次々とトラウムソルジャーを撃ち抜いていく。

 

これが100年以上も戦い続けた戦士の強さ…!

 

僕も負けてはいられない!

「ハジメくん!」

香織さんはフリースタイルガンでトラウムソルジャーを撃ち抜きながら僕の隣に立つ。

「皆がパニックになって滅茶苦茶に武器や魔法を振り回してる」

「なんとかしないとだね…」

「うん…必要なのは…道を切り開く火力…」

「私達でやろう、ハジメくん!」

「うん!香織さん!」

僕は思いっきり吸った後、皆に呼び掛けた。

「皆!ベヒモスはヴェルが倒した!後はここから出るだけだ!」

「闇雲に攻撃しても駄目だよ!連携しながら階段まで後退して!」

「道は僕達が作るからみんなついて来い!」

「皆で生き残ろう!」

僕達の言葉に

「そうだ!南雲と白崎の言う通りだ!総員、此処を突破するぞ!南雲と白崎に続け!」

メルド団長の指示に皆は連携を取りながら僕達の後ろに付いていきながら階段まで向かうのだった。

 

 

―side out―

 

 

ハジメと香織の後に続いて皆は階段まで撤退する事に成功した。

「だが、まだうじゃうじゃ現れてくるな…」

騎士アランはそう呟く。

「僕に考えがあります」

とハジメは発言した。

ハジメの考えは至ってシンプルであり、皆の魔法攻撃で橋を崩してトラウムソルジャーがこちらに来れなくするという物だ。

「僕がヴェルに伝えに行きますから、合図をしたら魔法を放ってください」

「あぁ、わかった」

メルド団長の言葉の後、ハジメはガンブレードランスでトラウムソルジャーを薙ぎ払っては撃ち抜いてヴェルの元へ向かう。

 

一方のヴェルもまたトラウムソルジャーと交戦を続けていたのだが…

「ヴェル!」

「ハジメ、どうした?」

「皆は階段まで撤退してる。後は僕達だけだ。皆が橋を崩してトラウムソルジャーがあっちに来れない様にするから」

「私達も撤退しろ、という事だな」

ヴェルの言葉にハジメは頷き、二人はトラウムソルジャーを蹴散らしながらメルド団長達がいる階段まで一気に駆け出す。

更にハジメは信号弾を放ち、それを確認したメルド団長は皆に指示を出す。

「今だ!!魔法詠唱!!」

夜空を流れる流星の様に様々な属性の魔法が橋に向かって飛び交う。

無数に飛び交う魔法の中をヴェルとハジメは進むのだが、魔法群の中から一つの火球が軌道を僅かに曲げ、ヴェルとハジメに向かってきたのだ。

ヴェルは装備をハンドガンからバズーカに変更し、その火球を相殺。しかし火球はもう1発飛んできたのだ。

その火球はハジメが相殺したのだが、その直前から度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋が遂に耐久限度を超えてしまい崩壊を始めたのだ。

そして二人も崩壊に巻き込まれるが…

「ハジメ!捕まってろ!」

「うん!」

ハジメを片腕で抱いているヴェルはアデプトテレイター用に開発された外部ユニットの一つであるスラスターユニットを展開してその場に滞空する。

「た、助かった…」

「喜ぶのはまだ早い。此処から脱出してからだ」

「うん、そうだね…」

ハジメが返答した後、ヴェルは崩壊した橋の下を見つめるが…

 

(ん…?あれは滝か…?)

彼女の視線の先に橋の下の奥底に滝の様な物が見えたのだ。

念のために外部ユニットの各種スキャナーを作動させるが…

(どういう事だ…?オルクス大迷宮は100階層までの筈…なのに更に"先の階層"があるだと…?)

「ヴェル、どうしたの?」

「いや、何でもない。皆の元へ戻るぞ」

ヴェルはハジメを連れて皆の元まで飛んでいき、二人の姿に"一部の例外"を除いて安堵の表情を浮かべた。

「無事で良かった…」

とメルド団長は皆を代表して二人にそう言う。

「安心するのはまだ早い。迷宮の入口まで戻るぞ」

「あぁ、そうだな」

 

その後はヴェルが先導する形で上の階層へと上がっていき、一行は遂に安全圏である第1階層まで戻ってきたのだ。

「さて、無事に戻ってきたからそろそろ良いだろう」

ヴェルはそう呟くと共に檜山の元まで歩き、彼を殴って転倒させた後、エナジーソードの剣先を檜山の首元へ向ける。

「2度目はないと言った筈だ」

 

 

そう、ヴェルは気付いているのだ…あの2発の火球を放ったのが檜山であるという事を…

 

 

 

 

To be continue…




用語解説



【挿絵表示】

・オプティマスコンボイ
本作に於けるヴェルのトランステクターであり、ボンネットタイプのトラック(ケンワースW900のカスタム車)に変形する。
ヴェルの上司の一人でトランステクター開発の第一任者であった立木つばめが生前に開発を進めていた機体。
武装としてはEN粒子を纏わせた実体剣であるジャッジメントソードや銃口が付いた盾であるベクターシールド、更にビークル時の排気管とタンクが変形したツインブラスターを装備。
また、背面のバックパックには飛行スラスターも装備している為、飛行も可能である。
名前の由来は言わずもがな、オプティマスプライムとコンボイからであり、外見は頭部と拳以外はTF実写版1作目公開後に海外のみで発売されたファーストストライクオプティマスプライムその物で、頭部は実写版6作目(バンブルビー)のオプティマス、拳はFOC版オプティマスの色違いである。
尚、本作(及び本館に於ける一部の関連作品)は和製G1世界の未来の話(ビーストウォーズネオより更に先の未来)であり、このオプティマスコンボイも偶然実写版オプティマスに似ているだけである。

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