ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第40話『母子の旅立ち、王女と異端認定』

 

―side:Vernyi―

 

 

クリオネ型の魔物に対し私はトレーラーにMSGのエクスキャノンを4基展開、其処に魚雷を装填し、一度に12本の魚雷を射出する。

普通に考えれば十分な破壊力だとは思うが…

魚雷はクリオネ型に直撃したが、クリオネ型はすぐさま再生し始める。

「再生が早すぎる」

「ちぎれた触手から再生したみたいですね」

「ヴェル様、周りがゼリーだらけだよ!」

とハジメ、レミア、ミュウはそう発言する。

「恐らくちぎれた触手だけでなく、半透明ゼリー状の物体が最初から海流に乗ってあちこちに分布していたようだな」

「火で殺せるとは思うのじゃが…」

「あの量を殺す火を起こすとなると水蒸気爆発が起きる事になるだろう…そうなった時に生態系にどんな影響が出るか…」

「…じゃあ、どうする?」

ユエの言葉に私は考え込むが、ふとある考えが過った。

生物を殺せるのは火だけでない。そして、魔物も言うなれば生物だ。

「何とかなるかもしれない…ユエ、あのクリオネ型を凍結させる事は出来るか?」

「…トランステクターを使えば出来るかも」

ユエはそう言うとトランステクターたるスナールウィザードと共にトレーラーの外へ出て

「リンケージ、スナールウィザード、トランスフォーム」

トランステクターと一体化し、ロボットモードへと姿を変えた。

「シア、ユエがクリオネ型を凍結したらそれを砕け」

「はいですっ!」

シアもスラッグバスターと共にトレーラーの外へ出て

「リンケージ!スラッグバスター、トランスフォーム!」

スラッグバスターと一体化し、ロボットモードとなる。

迫り来るクリオネ型を

「"凍柩"!」

スナールウィザードは纏めて凍結させると

「いくですよぉぉぉぉぉぉ!」

スラッグバスターは右腕にバタリングラムとなったバイオレンスラムを、左腕にインパクトナックルを装備、スナールウィザードは凍結されたクリオネ型をしっかりと掴む。

まずバイオレンスラムをクリオネ型に突き刺し、スナールウィザードが退避すると杭を打ち出す。

凍結したクリオネ型にヒビが入るとスラッグバスターはインパクトナックルでクリオネ型を殴ると拳を打ち出した。

凍結したクリオネ型はそのままバラバラになって海の底へと沈んでいったのだった。

 

その後、私達は無事にエリセンへ帰還。

一泊した翌日にミュウとレミアが家を片付けて私達と共に行く準備を終えたら出発する。

「何だか…寂しくなってしまいましたね」

とレミアは呟く。

「そうだな…私も経験があるからわかる。今まで慣れ親しんだ家を離れるというのはどうしても寂しく感じるものだ」

持っていく物も宝物庫の中に収納したし、家の中も綺麗に掃除し終えた。

「ママ」

「そうね、ミュウ」

ミュウとレミアは顔を見合わせた後

「「今までお世話になりました」」

と頭を下げ、今まで暮らしていた家を後にした。

 

港に行くと多くの人が集まっていた。ミュウとレミアが私達と共に行く事はエリセンの民に予め伝えられている。

トレーラーの搭乗口まで歩いたミュウとレミアは見送りに来た人達の方を向き

「皆さん、今までお世話になりました」

「お世話になりましたなの!」

と人々に感謝の意と共に頭を下げた。

「レミアちゃん…ミュウちゃん…お元気で!」

「たまには帰ってきてね!」

多くの人々はミュウとレミアにそう言って送り出す。

「ヴェルさん!皆さん!レミアさんとミュウちゃんの事、宜しくお願いします!」

と中には私達を送り出す言葉もあった。

「あぁ、任せろ」

と私はそう返し、レッカーズの皆も力強く頷く。

私達はエリセンの人々に見送られながらトレーラーに乗ってアンカジへ向けて出発した。

エリセンの人々は私達の姿が見えなくなるまで手を振り続け、私達も彼らの姿が見えなくなるまで振り返し続けたのだった。

 

 

航海を続け、陸地に到着すると私はビークルモードのオプティマスコンボイにトレーラーを牽引させ、再び赤銅色の世界の中を進んでいく。

暫く進んでいくとアンカジが見えてきたのだが…その前に大きな隊列が出来ていた。

「あれって商隊かな?」

「だろうな。ハジメ」

「物資を届けに来たんですかねぇ」

シアの言う通りだろう。

「レッカーズの皆様方ですね」

と待っていたら兵士の一人が声をかけてきた。

「あぁ、そうだ」

「貴殿方を見かけたら優先して通すようにと言われています。さぁ、こちらへ」

と兵士に案内され私達はアンカジの中へと入った。

 

王宮へと向かう途中、見覚えのある人物の姿があった。

「モットーか?」

「これはこれはヴェル殿ではありませんか」

私はモットーと握手を交わす。

「まさか此処で会えるとはな。丁度いい、これを渡しておこう」

と私はある袋をモットーに渡す。

「これは…まさか!?」

「お前が思っている通りの物だ。しかし、私達と敵対している物が所持していたのを確認した場合、私達は宝物庫としての機能を停止させてただの指輪にする事もできるという事を覚えておいてほしい」

「わかりました。ありがとうございます、ヴェル殿」

その後、私達は彼から様々な情報を受け取った。

 

「そう言えば、貴殿方を探しているという御方を連れてきています」

「私達を探している者だと?」

モットーはその人物を呼ぴ、馬車からその人物は降りて来た。

その人物は私達にとっては予想外の人物だった。何せ目にした事はあったが、会話した事などない人物だったからだ。

彼女は私達に一度頭を下げた後、モットーに頭を下げて彼に礼を言う。

「ありがとうございます、商人様。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

「いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

「えっ?いえ、そういうわけには…」

「ですが…一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな。

どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、お一人で忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

「ふむ。…突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

「え?…いいえ、わかりません」

「それはですな、信頼"です。商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。

逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが…」

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう…」

「勿体無いお言葉です」

その人物…ハイリヒ王国の王女たるリリアーナの言葉を賜ったモットーは部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

 

モットーと彼の部下はその後、私達に挨拶をしてホルアドに向けて出発した。

そしてリリアーナは再び私達の方を向いてこう言った。

「漸く貴殿方に会うことができました」

「これまた意外な客人だな、ハイリヒ王国の王女様」

「リリアーナとお呼びください、鋼鉄の戦女神様」

「ならば、私の事もヴェルで良い」

「はい、わかりましたヴェル様」

「それで、王女たる者が私達に何の用だ?付人なしで一人で来るなんてな」

「実は皆様方にお知らせしなければならない事があります」

リリアーナは一泊置いてこう口にした。

「聖教教会は貴殿方レッカーズを異端認定しました」

「やはりそう来たか…詳しい話は後で聞かせて貰って良いか?アンカジの王宮でならゆっくり話す事も出来るだろう」

「わかりました」

私達はアンカジの王宮へと向かった。

 

 

―side out―

 

 

「久しい…というほどでもないか。無事なようで何よりだ、ヴェル殿」

とランズィはレッカーズの面々を出迎えた。

「静因石〟を託して戻って来なかった時は本当に心配したぞ。貴殿は、既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」

「心配しなくともこの通りピンピンしてる。どうやら救援も無事に受けられているようだな」

「ああ。備蓄した食料と、ユエ殿が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる」

「オアシスも大丈夫そうだし後は土壌か…そう言えば作物は全て廃棄したのか?」

「…いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな」

「私に良い考えがある。香織、ユエ、ティオ。作物と土壌の浄化は出来るか?」

「出来ると思う」

「…ん、問題ない」

「うむ。せっかく丹精込めて作ったのじゃ。全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い」

「よし、そっちは頼んだぞ」

ヴェルの言葉に香織、ユエ、ティオは汚染された作物が纏められている場所へと向かった。

「それとランズィ殿、応接室を借りたいが良いだろうか?」

「あぁ、構わない」

 

ヴェル達は応接室へと場を移し、リリアーナから話を聞いていた。

「さて、リリアーナ姫。我々が異端認定された件だが…どういった経緯があったのか聞かせてほしい」

「…ここ最近、王宮内の空気が何処かおかしく、ずっと違和感を感じていました。

私のお父様…エリヒド国王は今まで以上に聖教教会に傾倒して時折、熱に浮かされたように"エヒト様"を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていきました。

それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、私は半ば自分に言い聞かせていたのですが…

日が経つにつれて妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていきました。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとしましたが、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようで…

ウルの町での一件が知らされた際には普段からは考えられない強行採決がなされました」

「それが、我々の異端者認定か」

「はい…ウルの町や勇者一行を救った功績も全て無視して決定されてしまいました…"鋼鉄の戦女神"は邪神か何か、若しくは邪教と言わんばかりに。

有り得ない決議に私はお父様に抗議をしましたが、まるで強迫観念に囚われているかのように頑な何を言ってもヴェル様を神敵とする考えを変えようとはせず、私に対して、信仰心が足りない等と言い始めました…その目は敵を見るような目で…」

「そして身の危険を感じて逃げて来たのか」

「はい、ユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらいました。報告の後、今もウルの街に滞在している愛子さん達もしくはホルアドにいるメルド団長、そして何処かにいるであろう貴殿方レッカーズにこの事を報告する為に…

まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、此処で貴殿方に出会えるとは夢にも思いませんでしたが…少し前までなら"神のご加護だ"と思うところです。

…しかし…私は…今は…教会が怖い…一体、何が起きているのでしょう。…あの銀髪の修道女は…お父様達は…」

「なる程な…教会側…いや"神を名乗る欺瞞者"共も本格的に動き始めたという訳か」

ヴェルのまるで予想通りと言わんばかりの発言にリリアーナは"神を名乗る欺瞞者"という言葉に疑問を持つが、すぐさまヴェルはこう口を開いた。

「リリアーナ姫、この世界の真実について知りたいか?」

ヴェルの言葉にリリアーナは頷く。

「ならば話そう…我々の旅の目的と迷宮で何を知ったのか、そして"神を名乗る欺瞞者"が何をしてきたのか知っている限りの事を」

とヴェルはリリアーナにこれまでの経緯や迷宮で知った事を話し始めたのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 


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