―side:Vernyi―
ユーリア、レムリア、シエラを仲間に迎えた時には夜が明けて朝になっていた。
私達はメルド団長達と入れ違いにホルアドに戻ってきた。
因みにユーリア達の服は私が街に戻る前に用意した。裁縫は不得意ではないからな。100年前には何人かの女子高生達と共に大量の衣装を短期間で作った経験がある。
ユーリア達と話をしていて分かった事と言えば、彼女達の創造主…ユーリアにとっては"改造"した存在は"ネメシスパックス"という名前である事やレムリアやシエラの名前はユーリアが付けた事ぐらいだ。
どうやらユーリアはアデプトテレイターになる前からアデプトテレイターの事を知っているみたいだ…
ネメシスパックスは時折"トクスレイダー"という名前を口にしていたらしい。
トクスレイダー…元デストロン軍の科学者であり、幾つもの地球を実験場として滅ぼしてきて、サイバトロンとデストロンの和解後に設立されたセイバートロン連合から危険人物及び討伐対象として扱われている存在。
しかしその一方で奴を慕う…というか心酔している者も多く、そういった者達はトクスレイダー派閥として同じく危険人物及び討伐対象とされているが…宇宙各地に点在してたり、正確な人数も不明とされている。ネメシスパックスもそのトクスレイダー派閥の一人だろう。
そしてトクスレイダーに至っては自分の身に何かあった時に備えて自身の記憶と人格のバックアップを取っているという噂すらあるなど非常に厄介な存在だ。第46太陽系の地球でも目撃情報が幾つかある。
そんな事はさておき、私達は現在オルクス大迷宮に潜る準備を進めていた。
具体的にはこれまで狩ってきた魔物から得た素材を売ったり、ステータスプレートを所持している私、ハジメ、香織は冒険者登録をしたり、後は装備の開発などだ。
狩ってきた魔物には当然ベヒモスも含まれている。こいつのおかげでかなりの金が集まったのだが…それでも思っていた程の金を得られなかった。
オルクス大迷宮の攻略にどれだけ時間がかかるのか…私やユーリア、レムリア、シエラは食わなくても生きていけるしゼルフィに至ってはそもそも食事の必要がないが、ハジメや香織はそうはいかない。
…という訳で私は現在、狩ってきた魔物の肉を調理して食おうかと考えていた。
因みにこの場に他にいるのはユーリアとゼルフィ、ハジメだけで、香織、レムリア、シエラは買い出しに出ている。
「さて、試してみるか…」
魔物の肉は本来、人間の身体には猛毒らしい。魔物には魔石という特殊な体内器官を持ち、魔力を直接体に巡らせる事によって驚異的な身体能力を発揮する。
人間が魔物の肉を食べるとその変質した魔力が体内を侵食してしまい、大抵の場合は内側から細胞を破壊していくのだが、アデプトテレイターは金属細胞(これもある意味では一種の毒とも言える。現に適合できなければ内側から破壊され肉塊になってしまう)によって身体が既に変質しており、毒やウイルスで死ぬことはない。
念のため、弱い魔物の肉で更にポーションも準備している。
そして、その魔物肉のステーキを食べてみたのだが…
「何も起きませんね」
ユーリアの言葉通り…目に見えてわかる変化はなかった。
「ステータスプレートを見てみるか…」
と私はステータスプレートを確認してみた。
『風見ヴェールヌイ 116歳 女 レベル:???
天職:鋼鉄の戦女神
筋力:12000+α(?????)
体力:12000+α(?????)
耐性:12000+α(?????)
敏捷:12000+α(?????)
魔力:12000+α(?????)
魔耐:12000+α(?????)
技能:金属細胞適合型不老生命体・可変外装・武装改造・歩く武器庫・毒無効・全属性耐性・物理耐性・戦女神の威圧・高速魔力回復・気配感知・魔力操作・魔力感知・言語理解』
「"魔力操作"…確か魔物はこの技能のおかげで自身の能力を扱えるんだったな」
私は手に魔力を集中させる。確かに私の手から青白い魔力光が発せられる。
「魔物の能力が得られるが…自分より弱い魔物の肉を食っても魔力操作を得られるのみ、か…
とりあえずハジメや香織が魔物の肉を食っても大丈夫な様にワクチンも作る、か…
しかし、思っていた以上に時間がかかりそうだから後回しになりそうだな。済まない、ハジメ」
「気に病まなくて良いよ、ヴェル。いざとなったら僕達は非常食で何とかするから」
実はMSCバッグにはカンパンなどの非常食も入っている。
災害はいつ発生するかわからないからな。
尚、このワクチンが完成するのはオルクス大迷宮にて"ある物"を手に入れてからになるのをこの時の私は知る余地もなかった…
―side out―
―side:Shizuku―
香織と南雲君がヴェルについていくと言って私達の元から離れた翌朝。彼らは今頃、件のアデプトテレイターの元にいるのでしょうね。
「そう言えば白崎さんと南雲君の姿が見えないけど…」
クラスメートの一人の言葉に私と共に事情を知るメルド団長は皆に知らせる。
「南雲と白崎は戻って来ない」
「どういう事ですか!?香織と南雲が戻って来ないって!」
光輝の言葉にメルド団長はこう返した。
「二人は風見ヴェールヌイ…ヴェルについていく道を選んだ。
ヴェルはお前達…特に南雲をいじめていた檜山達とは一緒にいられない、全く信用できないと言っていたな」
メルド団長の言葉に多くのクラスメートが"檜山"達に冷ややかな視線を向ける。
そもそもヴェルにとっては私や香織、南雲君以外は完全に赤の他人…特に南雲君をいじめていた檜山を始め南雲君に嫉妬の眼差しを向けていた者達はヴェルからしてみたら敵(本人もそう言ってた)。そう考えるようになったのも過去の出来事によるものだからそうなるのも理解できる。
しかし皆からすれば檜山達のせいでヴェルが離れた、と考えてしまうのも無理はないわね。
「それにヴェルはやりたい事が出来た、とも言っていた。南雲と白崎はその手伝いがしたいとも言ってたな」
メルド団長からの報告の後、私達は今回の件について上に報告しなければならないという事で王都に戻る事になった。
オルクス大迷宮にて檜山が行った行為によって65階層まで転移させられた事、ベヒモスを倒したが南雲君とヴェルが檜山に殺されそうになった事、そして今回の件でヴェルが香織と南雲君をつれて離反した事など(ヴェルがアデプトテレイターである事や彼女一人でベヒモスを討伐した事は彼女から頼まれていた通りに伏せて)を報告、檜山は謹慎処分として王宮にある部屋で隔離させられた。
また、ヴェルに関しても勝手な行動をとった事から処罰すべきだという声も上がったもののメルド団長達騎士団の反対などもあって保留となった。
そしてその日の夜。光輝はやはり一人で項垂れていた。
「…何も言わないのか?」
おそらく香織の事で何か言って欲しいのね…。
私と香織、そして光輝は10年来の付き合いがあり、光輝にとっても私や香織といるのが当たり前だったのかもしれない。
でも、香織はある日を境に南雲君に好意をよせるようになって…やがて南雲君やヴェルと一緒にいる事の方が多くなり、ヴェルの後押しもあって香織と南雲君は将来を誓い合う婚約者となった。
その時の香織の嬉しそうな顔は今でも忘れられないわね…
しかし、光輝にとってはいるのが当たり前だった人を高校に入るまで見ず知らずだった男に取られたのだと思っているんでしょうね…
光輝が抱いているのはおそらく香織という幼馴染は、いつだって自分の傍にいて、それはこれからも変わらないという想い。悪く言えば、香織は自分のものだったのにという想い。つまりは、嫉妬ね。
その嫉妬が、恋情から来ているのか、それともただの独占欲から来ているのか、光輝自身にもよく分かっていないと思う。
とにかく"奪われた"という想いが光輝の中に残っている。
だけど、南雲君と人生を共にすると決めたのも、彼と共にヴェルについて行くと決めたのは香織自身。
「…今、光輝が感じているだろうそれは筋違いというものよ」
「…筋違い?」
「そう。香織はね、最初からあんたのものじゃないのよ」
「…それは……じゃあ、南雲のものだったとでも言うのか?」
だから、何でそう考えちゃうのかしらねぇ…デコピンでも食らわせてやるわ。
「お馬鹿。香織は香織自身のものに決まっているでしょ。何を選ぼうと、何処へ行こうと、それを決めるのは香織自身よ。当然、誰のものになりたいか…それを決めるのもね」
「…いつからだ?雫は知っていたんだろ?」
「中学の時ね…香織が南雲君と出会ったのは…その時、色々あって…高校入試の合格者発表の日に再会して付き合い始めて…ヴェルの後押しもあって二人は婚約者になった、といったところかしらね」
「じゃあ、本当に、教室で香織が何度も南雲に話しかけていたのは…その…好きで婚約者だから…なのか?」
「ええ、そうよ」
「…なぜ、南雲なんだ。日本にいたときのアイツは、オタクだし、やる気はないし、運動も勉強も特別なものなんて何もなかったじゃないか…いつもヘラヘラ笑って、その場凌ぎばかりで…香織が話しかけた時も適当な態度だし…オタクだし…俺なら、香織をおざなりに扱ったりはしない。いつも大切にしていたし、香織のためを思って出来るだけのことをして来たのに…」
オタクだし、ってオタクを卑下するような発言、ヴェルが聞いてなくて良かったわね。ヴェルが聞いてたら殺されるかもしれないわよ…ヴェルは光輝の事も嫌っているみたいだし。
「それに、あのヴェルって人は人を殺すのに躊躇いがないじゃないか…きっと殺人鬼なんだ…そんな奴の元にいるなんておかしい…きっと何かされたに違いないんだ!」
ムカついてきたわまたデコピンをお見舞いしてやるわ。
「痛っ!何をするんだ雫」
「また、悪い癖が出てるわよ?ご都合解釈は止めなさいと今までも注意してきたでしょうに」
「ご都合解釈って…そんなこと」
「してるでしょ?光輝が、南雲君の何を知っているのよ。何も知らないのに…南雲君と一緒にいる時、あの娘は幸せそうな表情だったわよ。ヴェルだって二人と一緒にいる時、幸せそうな顔を浮かべてるし…
それに、ヴェルの事をそんな悪く言うのならたとえ光輝でも許せないわよ。
彼女は私達よりも長く生きて色んな事を経験してきたのよ…大切な人達を守るために戦争に参加して戦い続けながらも守りきれなくて大切な人達を失ってきて…それを繰り返して私達の世界に辿り着いた。
私達召喚者の中で戦争や人を殺す事を一番理解しているのは彼女よ。
…今の光輝は、香織が南雲君と一緒にいる事が納得できなくて、二人と一緒にいるヴェルを悪者に仕立てあげたいだけでしょうが。それを、ご都合解釈と言わずして何て言うのよ」
「…じゃ…人殺しをする事が正しいっていうのか」
「正しくは…ないのでしょうね。人殺しは人殺しだもの…正当化は出来ないし、してはならないのでしょう」
「だったら…」
「だけど、それを分かった上で彼女は戦ってきた。そして、私達に彼女を責める資格はないわ。
光輝の、真っ直ぐなところや正義感の強いところは嫌いじゃないけど、もうそろそろ、自分の正しさを疑えるようになってもいいと思うのよ」
「正しさを疑う?」
「確かに、強い思いは、物事を成し遂げるのに必要なものよ。でも、それを常に疑わず盲信して走り続ければ何処かで歪みが生まれる。
だから、その時、その場所で関係するあらゆることを受け止めて、自分の想いは果たして貫くことが正しいのか、あるいは間違っていると分かった上で、"それでも"とやるべきなのか…それを、考え続けなければならないんじゃないかしら?
…本当に、正しく生きるというのは至難よね。この世界に来て、まだ少数の魔物とはいえ命を切り裂いて…そう思うようになったわ。
光輝。常にあんたが正しいわけではないし、例え正しくても、その正しさが凶器になることもあるってことを知ってちょうだい。まぁ、今回のご都合解釈は、あんたの思い込みから生じる"正しさ"が原因ではなくて、唯の嫉妬心みたいだけど」
「い、いや、俺は嫉妬なんて…」
「そこで誤魔化しやら言い訳やらするのは、格好悪いわよ?」
私が立ち去ろうとした時、光輝はこう声をかけてきた。
「雫は…何処にも行かないよな?」
「…いきなりなによ?」
「…行くなよ、雫」
「…これだけは言っておくわ…縋ってくるような男はお断りよ」
それから翌日の夜。一人での剣の鍛練を終えた私の元に彼女は現れた。
「我がマスター、八重樫雫ですね?」
「えぇ、そうよ」
目の前にいる彼女は長い金髪をポニーテールに束ね、青い瞳を持ち、所々機械的な装甲を身に纏っていた。
「私は
「えぇ、宜しく。紅刃」
「マイスターヴェルから貴女に渡すようにと授かっている物があります」
彼女―紅刃はある箱を差し出し、それを受け取った私は箱を開けた。
箱の中に入っていたのは1台のミニカー。私にはこれが何なのか分かった。
「カーロボットシリーズの一機にして貴女に合わせてチューニングされたトランステクター、コードネーム"ドリフトライド"です」
「これが私のトランステクター…」
「それからもう一つ、私自身です。私は貴女に仕え、支えるようにとの事で
紅刃は本来のFAガールの大きさ…つまり掌サイズになって私の掌の上で跪く。
「この身を貴女に捧げます」
「えぇ、宜しくね、紅刃」
「はい、宜しくお願いします。我がマスター」
「私の事は雫で良いわ」
「わかりました、雫」
こうして私はヴェルから一機のトランステクターと一人のFAガールを託されたのだった。
―side out―
時を同じくしてとある部屋。
「何でだ…何でだよ香織ぃ…」
と檜山は項垂れていた。
檜山は香織に好意を寄せていたのだが、それを告白できずにいた。
そして、オルクス大迷宮へ行く前日に偶々トイレに行った帰りに何処かの部屋に向かう香織とヴェルを目撃し、隠れて様子を伺っていたのだが、二人が入った部屋がハジメが寝ている部屋だったのだ。
この事にショックを受けた檜山はハジメに対し激しい嫉妬を抱き、トラウムソルジャー戦にて今なら殺してもバレないと考え行動したのだが…結果としてヴェルにはバレバレで、彼女の怒りを買ってハジメが止めなければ危うく殺されそうになったのだ。
今はこうして王宮にある部屋で謹慎処分を受けているのた。
「いやぁ、しょげているねぇ」
檜山は声がした方を向く。
「お、お前、なんでここに…」
「そんなことはどうでもいいよ。今どんな気持ち?恋敵をどさくさに紛れて殺そうとして失敗して、皆から見放されてどんな気持ち?」
その人物はまるで喜劇を見て楽しんでいるかの様にくすくすと笑っている。
「…それが、お前の本性なのか?」
「そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。
それよりさ…白崎香織、欲しくない?」
「な、何を言って…」
「僕に従うなら…いずれ彼女が手に入るよ」
実は彼女の目的は既に達せられている。勇者である天之河光輝と白崎香織を引き離す事。それ自体はヴェルとハジメが達成してくれた。
しかし、その目的を次の段階に進める為に協力者が必要なのだ。
だからこそハジメやヴェルを憎む檜山に声をかけたのだ。
「…何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!?」
「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。…それで?返答は?」
「…従う」
「それはよかった!それじゃ、仲良くやろうよ」
この時、二人は知らなかった…香織やハジメが自分達より強くなる事、そもそも自分達じゃ鋼鉄の戦女神たるヴェルには敵わない事を…
そして時は1日前に遡る…
―side:Hajime―
ヴェルは八重樫さんのトランステクターとFAガールを完成させて、彼女を八重樫さんの元へ送った。
ゴルドファイヤーとメディカラートも完成し、後はユーリア達のトランステクターとMSGだけだ。
「そう言えば、ヴェルさんが何時も首にかけているのって"恐竜の歯"ですよね?」
とユーリアはヴェルに問う。
「あぁ、そうだ。よく分かったな」
そう言えばヴェルから以前に聞いた事がある。
ヴェルがいた地球では100年前に遺伝子工学によって甦った恐竜が暮らすリゾート施設があってある事件で閉鎖された事、そしてその事件にヴェルが関わった事。そしてその事件の中核にいる恐竜の歯をヴェルはペンダントにして持ち歩いている事を。
「ハジメ、これが恐竜の歯だって話したか?」
「いや、僕はまだ話してないよ…多分香織さんも話してない」
と僕達がそう話していると、ユーリアはこう呟いた。
「やっぱり…"あのヴェルさん"だ…」
「どういう意味だ?」
「今から100年ほど前、ある島にリゾート施設が存在していました。
そのリゾート施設には遺伝子工学によって甦った恐竜達が暮らしていて…私の曾祖父と曾祖母も其処で働いていました。
ある日、施設の科学者達はある恐竜を産み出しました。様々な恐竜や生物の遺伝子を組み合わせたハイブリット。私の曾祖母も彼女を生み出す事に関わりました。
しかし、彼女は狭い檻の中にずっと閉じ込められて…狂気に囚われ、檻から出ると多くの人を殺しました。
彼女を止めるために曾祖父と曾祖母、そして二人のアデプトテレイターの少女が立ち向かいました。
彼女は最終的には二匹の恐竜によって湖まで追い込まれ…そして海竜に湖の中へ引きずり込まれてその一生を終えました。
二人のアデプトテレイターは彼女の存在を忘れない為に彼女が残した歯をペンダントにして持ち歩いている。
貴女の名前を聞いてもしかして、と思いましたが…そのペンダントが彼女―インドミナスレックスの歯ですね」
ユーリアの言葉にヴェルは動揺…というか驚きの表情を見せていた。
「第46太陽系の地球出身…それにその話とこのペンダントの事…まさか」
ヴェルの言葉にユーリアはある人物の名前を上げた。
―side out―
―side:Vernyi―
ユーリアはこのペンダントに使われているのが恐竜の歯だと見抜いた…ハジメや香織、雫、菫、愁、ゼルフィ、スティには話したがユーリアやレムリア、シエラにはまだ話していない。
そしてユーリアはあの事件…ジュラシックワールドでインドミナスレックスが引き起こした事件とその事件に私も関わった事を知っていた。
彼女が言っていた曾祖父と曾祖母…もしかして…
それは確信へと変わり、そしてその考えを肯定するかの様に彼女はこう告げた。
「"オーウェン・グレイディ"と"クレア・ディアリング"…私は彼らの曾孫…蓮井・ディアリング・ユーリア。
曾祖父と曾祖母はあの事件と其処で活躍した二人のアデプトテレイターの事を自分達の子供に語って…その子供が成長して親になった時、同じ様に子供に語って…そして今代の私まで語り継がれてきました」
オーウェンとクレアの名前に私は電撃が走ったかのような感覚に襲われた。
彼らの名前を聞くのも久しかった。
「そうか…オーウェンとクレアの曾孫か…私も長く生きたものだな…
100年ほど前に彼らに会い…そして今、目の前には彼らの曾孫がいる。なんという運命の巡り合わせなんだろうな」
私はユーリアの頭を優しく撫で、撫でられた
ユーリアは気持ち良さげな表情を浮かべた。
「彼女達…インドミナスレックスと私の大切な人を知っている人に会えて良かった…」
目の前にいるユーリアは優しく微笑んだ後、真剣な表情であることを口にした。
「ヴェルさん、ヴェルさんが使っていたトランステクターって肉食恐竜型でしたよね」
「今は違うが…嘗てはそうだ」
「そのトランステクターと同型のトランステクターって…今ありますか?」
「そのトランステクターを使いたいのか?」
私の言葉にユーリアは頷く。
彼女が私が嘗て使っていたドレッドバイトと同系統のトランステクターを使いたい理由は何となく分かる。
オーウェンが研究していたラプトル、事件の中核たるインドミナスレックス、そして彼女と戦った女王であるティラノサウルスのレクシィ、3種とも肉食恐竜だ。
自分の曾祖父と関わりが深い恐竜達…肉食恐竜の姿をしたトランステクターを使いたい、という事なのだろう。
「まだ完成していないが…一機ある。ドレッドバイト系列の機体がな」
私はMSCバッグからある未完成のトランステクターを取り出す。
「後頭部に角が生えてますけど…もしかして…ティラノサウルスですか?」
「そうだ。ドレッドバイト系列の機体の一つ…コードネームは"グリムレックス"だ。本当にこのトランステクターで良いんだな」
私の言葉にユーリアは頷く。"覚悟"については…聞くまでもないな。既にしてきているのだから。
「良いだろう。このトランステクターはユーリア、お前の物だ」
「ありがとうございます!!」
さて、準備はまだまだ終わりそうにないな…だが、終わり次第出発する。
オルクス大迷宮…その深淵に何があるのかを確かめるために…
To be continue next stage…
次回から第2章に突入、第2章ではヴェル達が奈落の底の吸血姫と出会ったり未来視を持つウサギと出会ったりします。
さて、今回のキャラクター・用語解説ですが、ユーリア、レムリア、シエラのプロフィールは次の章で明らかにする予定です。
・トクスレイダー
元デストロン軍の
G2戦争以前から地球や太陽系が複数存在している事を知り、幾つもの地球を実験場にして滅ぼしてきた存在であり、サイバトロン軍はおろかデストロン軍ですら危険視し、第2次グレートウォーを経て再び結成されたセイバートロン連合では最優先討伐対象として追われているのだが、その足取りを掴むのは困難である。
更には彼を慕う…というより心酔している狂信者もいてそいつらも危険視されているので厄介な存在でもある。
・迅雷紅刃
ゼルフィやスティと同じくヴェルが市販されているFAガールを改造して作った。
ベースは迅雷…それもアニメ版FAガールでお馴染みのインディゴ迅雷ではなく所謂赤迅雷がベースになっている。
ベース機が作成中のままMSCバッグの中に入ったままになっており、ヴェルがハジメや香織を連れてメルド団長達の元から離れるにあたって、苦労人である雫のサポートと負担軽減を目的に作られた。
素粒子コントロール装置によってFAガール本来の大きさから等身大までサイズを変更する事が可能なのだが、普段は雫以外にその姿を見せたくないという考えから本来のサイズのままでいる事が多い。
・ドレッドバイト
ヴェルが嘗て使用していたトランステクターであり、アロサウルス及びジェット機に変形する。
グリムキャリバー(見た目はムービーアドバンスドシリーズのグリムロックG1カラーと同じ)という
恐竜型アデプトテレイター用トランステクターとしては一種の完成形という事もあって100年以上たった今でも同型機(ただし機体によって当然細部のデザインが異なる)が存在している程である(流石に内部構造は最新式にアップグレードされてはいる)。
因みにそもそもの大元になった実写版グリムロック(ボイジャークラス)はバリエーションが多かったりする。