ヴァルキリーロンド   作:衛置竜人

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第8話『結成』

―side:Vernyi―

 

 

「誰か…そこにいるの…?」

上半身から下と両手を立方体の中に埋もれさせられた金髪紅眼のやつれている彼女は私達を見つめている。

「お前は何者だ?」

「私、先祖返りの吸血鬼…すごい力持ってる…だから国の皆のために頑張った。でも…ある日…家臣の皆…お前はもう必要ないって…おじ様…これからは自分が王だって…私…それでもよかった…でも、私、すごい力あるから危険だって…殺せないから…封印するって…それで、ここに…」

「どっかの国の王族だったのか?」

私の言葉に彼女は頷く。つまり吸血姫とでも呼ぶべきか…

「殺せない、というのは?」

「…勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る。

…あと、魔力、直接操れる…陣もいらない」

「つまり無詠唱で魔法を放てる、という事か…」

私の言葉に彼女は頷く。

「…助けて…私、悪くない…裏切られただけ…!」

裏切られただけ、か…

私も本来守るべき者達に裏切られたようなものだ…今ではどうでも良くなったがな…

「ヴェル、どうするの?」

ハジメの言葉に私はこう返す。

「言わなくてもわかるだろ?」

「それもそうだね」

罠だったらそれを破壊すれば良いだけの事。

「アームズアップ、インパクトナックル」

私はMSGの一つであるインパクトナックルを右腕に装備し、立方体の前に立ち、インパクトナックルに魔力を集中させる

インパクトナックルから青白い光が稲妻の様に発せられる中、私は吸血姫には当たらない様に立方体をひたすら殴る。

立方体には罅が入り、やがて砕け散った。私は武装を解除し、裸のまま宙に投げ出されていた吸血姫を受け止める。

私が彼女を座らせると、彼女は小さい手を弱々しくふるふると震えさせながら私の手を握り、こう口にした。

「…ありがとう」

その言葉を受け止めながら私はあることを考えていた。

吸血鬼族は三百年も前に滅びたと言われているらしく、彼女はその生き残りという事になる。

そしてその頃から封印されているという事はこの暗闇の中で孤独な時間を長い間過ごしたということになる。

彼女が封印されている時間の3分の1程の時間を生きている私ですら100年は長く感じたくらいだ。彼女の場合は何もできないまま倍の時間を孤独に過ごしたのだから、声の出し方や表情の出し方を忘れるのも無理はないだろう。

「…あなた達の名前は…?」

「そう言えばまだ名乗ってなかったな。私は風見ヴェールヌイ。この一団のリーダーをしている」

私が自己紹介をした後、皆も自己紹介を行う。

「さて、私達は自己紹介をしたから次は貴女の番だ」

「…名前は皆がつけて。…もう、前の名前はいらない…皆がつけた名前が良い」

彼女の言葉に私達は幾つかの案を出し合い、ハジメが発案した名前に私達は賛成した。

「"ユエ"なんてどうかな?気に入らないなら皆で別のを考えるけど…」

「ユエ?」

ハジメの言葉に彼女は問い返す。

「私達の故郷の世界のある国の言葉で"月"という言葉だよ」

「その金色の髪が月の様に見えましたので」

と香織とユーリアが説明する。

吸血姫は無表情ながらも嬉しそうにその瞳を輝かせていた。

「…んっ。今日からユエ。ありがとう」

さて、吸血姫の名前もユエに決まったところ…なのだがゆっくりしている暇はないみたいだ。

私達は図上から魔物の気配を感じ、私はユエを抱き上げて咄嗟に移動し、ユーリア、レムリア、シエラ、ゼルフィも同じ様にその場から退避、ハジメと香織は"縮地"で後ろに下がる。

次の瞬間、私達が直前までいた場所に地響きを立てながら体長5メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かし、鋭い針がついた二本の尻尾の先端には鋭い針を持つサソリの様な魔物が現れた。

更に後ろの扉があった場所からは2体のサイクロプスが入ってきた。

「部屋に入った直後、気配察知であいつの反応は捉えられなかった。しかし、ユエの封印を解いたら現れた。つまりユエを逃がさない為の仕掛けだろうな」

サイクロプスに一番近いのはハジメと香織。サソリに一番近いのはユーリアだ。

「ハジメ、香織はサイクロプス共を、ユーリアはあのサソリを頼む。

レムリア、シエラ、ゼルフィは私と共にユエの護衛だ」

「「「「「「了解!」」」」」」

私、レムリア、シエラはユエを安全圏まで移動させつつ武器を展開して待機する。

「アデプタイズ!」

「「リンケージ!」」

「グリムレックス―」

「ゴルドファイヤー―」

「メディカラート―」

「「「トランスフォーム!」」」

ユーリア、ハジメ、香織はそれぞれトランステクターと一体化し、ロボットモードとなる。

「「「アームズアップ!」」」

 

ゴルドファイヤーはガンブレードランスを装備し、青いサイクロプスに接近。青サイクロプスはその鎧で覆われた両腕でゴルドファイヤーの攻撃を防ごうとするが、ゴルドファイヤーはその一振りで青サイクロプスの両腕を切断し

「これでも食らえ!」

刃先を青サイクロプスの目に突き刺して青サイクロプスは動きを止めた。

 

一方、メディカラートは赤いサイクロプスと交戦。赤サイクロプスの猛攻をフリースタイルガンで相殺しつつ接近。

「えい!」

至近距離で両腕を撃ち抜いた後、胴体を蜂の巣にして倒れたところでメディカラートは赤サイクロプスの目を踏み潰した。

 

そして、グリムレックスはサムライマスターソードの刀と鞘が変形したライフルを手にサソリへ向かっていく。

サソリは尻尾の針から紫色の液体を放ち、グリムレックスはそれを回避しながらサソリに向かってライフルを放って相殺する。相殺しきれなかった分がグリムレックスのボディに付着して融解するが、自己修復機能によって直ぐに再生する。

サソリはもう一本の尻尾の照準を私達に合わせ、尻尾の先端から凄まじい速度で針を撃ち出す。

私達は避けようとするが針が途中で破裂、散弾のように広範囲を襲うが、私はハンドガンで、レムリアはガンブレードランスで、シエラがバズーカで、ゼルフィはセグメントライフルで相殺する。

「堅い殻で覆われているのなら関節を狙えば良い話です!」

サソリは4本のハサミでグリムレックスを捕まえようとするが、グリムレックスは刀とライフルを合体させて大剣にし、刃に熱を纏わせてハサミの1つを切断すり。高熱で切断されたサソリはもがき苦しみ、グリムレックスへの怒りを露わにする。

「まだまだ!」

グリムレックスはハサミの1つを関節部から同じ様にサムライマスターソードで切り落とす。サソリのハサミは残り2つで尻尾は残り1本…

「"蒼天"」

そしてそこへ神水で回復したユエがサソリの頭上に直径6~7メートル程の青白い炎の球体を出現させ、サソリの頭から背中を焼く。

サソリの外殻は赤熱化し、表面は融解している。こいつはやはり熱に弱いのだろう。

「ユエ、大丈夫か?」

「ん…最上級…疲れる」

私にそう返すユエ。

「助かりました。後は任せてください」

「ん、頑張って…」

グリムレックスの言葉にユエがそう返した後、グリムレックスはビーストモードに変形してサソリの尻尾に噛みつき、その牙に熱を纏わせて尻尾を噛み砕き、再びロボットモードに変形してサムライマスターソードのライフルを発砲。

外殻が砕かれた後、大剣へと合体したサムライマスターソードをその中の肉に突き刺してそれを振り上げて真っ二つにしたのだった。

 

 

その後、私達はハジメが錬成で作った部屋で休息を取っていた。

「…そう、もうそんなに経ってた…」

私はユエに吸血鬼族が三百年も前に滅んだ事を話し、ユエはそう呟いた。

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするんですか?」

「…私が特別。"再生"で歳もとらない…

…12歳の時、魔力の直接操作や"自動再生"の固有魔法に目覚めてから歳をとっていない。

…普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるけど、それでも二百年くらいが限度。

…因みに人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族による。…エルフの中には何百年も生きている者がいる」

なるほど…という事はユエは"テレイター"に含まれる存在となる。

 

それとユエの能力に関してだが、ユエは全属性に適性があるのに対し、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいだという。その魔法が強力な訳なのだけれど…

因みに魔法自体は無詠唱で放てるが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。

そして"自動再生は"魔力が残存している間は一瞬で塵にでもされない限り死なないというもの―逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないという事になる。

「…そう言えば、皆はどうして此処に?」

ユエの言葉に私はこれまでの経緯を話した。

私が何者かである事、色々あった末にハジメと香織が住む地球に辿り着いた事、彼らと共にこの世界に召喚された事、ハジメがいじめを受けて殺されそうになった事、そんな奴らと一緒にはいられないと思ったのとユーリア達の噂を聞いたのとこのオルクス大迷宮が100階層より下かあると知ってそれを調べる為に3人揃って教会から離反した事。

そして奴隷として酷使されていたユーリア、レムリア、シエラを救出し、仲間として迎え入れた事。

そうやって話をしていくと徐々にユエからすすり泣く声が聞こえてきた。

「…ぐすっ…ヴェル…つらい…みんなつらい…私もつらい…」

「ユエが気に病む必要はない。過ぎてしまった事だ。それに今はハジメや香織、ゼルフィにユーリア、レムリア、シエラがいる。そして、ユエもだ」

私はユエの頭を優しく撫でる。

「…そう言えば、終わったらどうするの?」

「この迷宮を攻略し終えたらか?そうだな次の迷宮へ行くかな」

「…そうじゃなくて全てが片付いたら…」

「そうだな…私は私はハジメや香織を元いた地球に帰したい。そして私もあの地球に帰りたい。私の生まれ故郷の地球に帰る事も何度も考えたが、それは私を送り出した者達の思いを無にしてしまう、そんな気がしてな…

それに今の私にとってはハジメや香織がいた地球が新たな故郷とも言えるからな。そしてユーリア、レムリア、シエラも連れていく、そんなところだな」

「皆が羨ましい…私には帰る場所…ない…」

そう、ユエの国は三百年も前に滅んでいる…

「だったらユエも一緒に来るか?」

私の言葉にユエはその紅い瞳を大きく見開く。

「まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど…私も似たようなもんだしな。どうとでもなるだろう。

…あくまでユエが望むなら、だけど」

「いいの?」

キラキラと瞳を輝かせるユエに私は頷き、こう続けた。

「そもそもユエを仲間に加えた時点で私はユエも連れていくつもりだったからな」

ユエは花を咲かせた様に微笑んだ。

「そう言えば、ユエって魔物の肉を食べても大丈夫なのか?」

「…食事はなくても大丈夫」

まぁ、アデプトテレイターも食事は必要ないんだが。

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが…飢餓感とか感じたりしないのか?」

「…んっ、血を吸えば…」

そう言えば、私みたいなアデプトテレイターの血って飲んでも大丈夫なのか?金属細胞って適合者以外は肉片に変えてしまう代物なんたが…

そんなこんな考えている内にユエは私の首筋に牙を立てる。

以前にも言及した通り、アデプトテレイターの肌は人間の様に柔軟だけど、その強度や自己修復能力は人間より遥かに上である。

「ん…これはこれで美味…ん!?」

途中でユエの様子が変わった。まるで激しい痛みに襲われるかの様に苦しみ、飲んだ血を出来るだけ吐き出し、その血を見つめる。

「なるほど…体が耐えきれず細胞が変異を起こそうとしたが、自動再生が本来の姿に戻そうとして激しい痛みに襲われた、という事か…ユーリア、レムリア、シエラの血でも同じ事が起きるだろうな」

以後、ユエはハジメか香織の血を吸うという事に決まった。因みに二人の血はユエ曰く

「…熟成の味わい…何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わい」

との事。

 

しかし私は知る余地もなかった…私の血を少量でも体内に入れた結果、ユエが更に強化されてしまう事に…

 

「そう言えば、ユエはこのオルクス大迷宮の事で何か知っている事はないか?」

と私はユエに問う。

「…この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者ですか?」

ユーリアの言葉にユエは頷く。

「…神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属。…しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。…その果てが今の七大迷宮で、オルクス大迷宮もその一つ。…そして奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われている」

「なるほど…だったら其処に行ってみれば何か分かるかもしれないな…私自身、エヒトは胡散臭くて信用できないと考えている。反逆者達は何を知って反逆を起こしたのか…それを知りたい」

もしエヒトが私の憶測通りのろくでもない存在だとしたら…エヒトの力を使わずに帰還する方法を探さないと、な…

「ヴェル?」

ハジメは私に声をかける。

「すまない。考え事をしていた」

「ヴェルさん、一人で抱え込まずに私達も頼ってくださいね?頼りない所もあるかもですが…」

そう言うユーリアの頭を優しく撫でる。

「スパシーバ…ありがとう」

「そうだ!チーム名を決めないと!」

と香織が発案する。

「チーム名?」

レムリアは首を傾げる。

「チーム名…チーム名…あっ、ヴェルハーレムとか」

「却下だ」

シエラの案は流石に賛成できない。

「じゃあ、ヴェルは何か案があるの?」

レムリアの言葉に私はこう返す。

「嘗て…トランスフォーマー達の故郷たるセイバートロン星があるトランスフォーマーに支配されていた頃にそれに立ち向かった者達の集団が幾つかあったと聞いた。

それらの中に異なる種族・軍団の者達で構成された集団があった。彼らに因んでこう名乗ろう」

そして私はその名を口にした。

 

 

 

「我々は"レッカーズ"だ」

 

 

 

 

To be continue…

 




キャラクター/トランステクター解説


・蓮井・ディアリング・ユーリア(はすい―)
種族:アデプトテレイター/アデプトマスター
誕生日:4月8日
血液型:A型
年齢:11歳(ヴェルと出会った時点)
好きな食べ物:ハンバーグ、うどん
嫌いな食べ物:栗以外の果物(特に柑橘系)全般
好きな恐竜:ティラノサウルス、ヴェロキラプトル
ジュラシックワールド(以下パーク)の運営責任者であったクレア・ディアリングとパークの恐竜専門の研究訓練士としてラプトルの行動を研究していたオーウェン・グレイディの曾孫でアメリカ人と日本人のハーフ。
パークやインドミナスレックス及び彼女が引き起こした事件、そしてその事件にヴェル達が関わった事を両親や祖父母から伝え聞いていた。
ネメシスパックスの手によって両親を殺され、自身は金属細胞との適性があったことからアデプトテレイターへと改造させられた。
自身を救ってくれたヴェルに対し性別を越えた恋心を抱いている。
髪形はえんどろ~!のユーシャことユーリア・シャルデットにちょっと似てる。

・グリムレックス
ユーリアが使用するトランステクターであり、後頭部に2本の角が生えているティラノサウルスに変形する。ヴェルが嘗て使用していたドレッドバイトの同型後継機。
当然の事ながらドレッドバイトより性能は上であり、素粒子コントロール装置で縮小できるサイズもより小さい小鳥くらいのサイズまで小さくなれる。
外見やカラーリングはTLKシリーズのヴォイジャークラス グリムロックとほぼ同じだが、主な使用武器はサムライマスターソードとなっている。

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