午前2時、夜遊びなう!   作:天馬要

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第4夜 ミュア、打ち上げ花火しないってよ

 アクマの襲撃に遭ったり、サマンサと再会したり……モスクワでの夜はてんやわんやしたものだったが、初日の成果としては悪くなかったように思う。

 

 現在、私は地図を片手にカザフスタン上空を東へ横断していた。春はもうすぐそこだが、やっぱりまだ肌寒さは否めない。ぶるっと身体を震わせると、何も言わずにサマンサが前傾姿勢になった両手と胴体の隙間に移動してきてすっぽりとハマる。おかげで暖が取れて助かった。

 というのも、実は今朝になって本部に定時連絡を入れたら、突然行き先変更を命じられたのである。

 

《行き先は、黒の教団 アジア支部──》

 

 アジア支部は、中国の山岳地帯それも地下に存在しているらしい。聞くところによると、アレンはイノセンスを強制開放した矢先にノアの一族との戦闘で重症を負って運び込まれたようだ。ほんの一夜の間に色々起こり過ぎではなかろうか。

 

「……でも、生きてて良かった」

 

 サマンサの青く澄んだ目には、ほっとした表情が映り込んでいた。

 彼女に言い渡された命令は、アジア支部でより上手く魔女ノ箒(ワルプルギス)を操縦出来るように訓練すること。

 

《第二開放もまだ出来てないだろう? 良い機会だから、アジア支部でゆっくり訓練しておいで。ミュアちゃんのイノセンスなら、それから日本に行っても十分間に合うさ。期待しているんだからね》

 

 なーんてことを言われたら、反論なんてできやしない。あーあ、しばらくは地下に引きこもり生活かぁ。

 戦闘訓練に飛行訓練、あと長時間の飛行に耐えられるようにスタミナもつけないと。……ああ、それにコムイさんから二人乗りができるようになって欲しいって言われたんだっけ。あれ、課題いっぱいあるやないか。こりゃあいつ江戸に着けるかも分らんね。

 

「っていうか、アレン、私のこと覚えてくれてるかなあ?」

 

 初めましてなんて言われたら、フツーにショックなんだけど。

 そんな心配事をしていると、ピクリとサマンサの耳が動いた。続いて、雲の上の空を見上げる。

 

「?」

 

 なんだ? と疑問に思い、真似をして視線を上に動かすと──無数のビーム砲が雨霰となって降り注いできた! 

 

「わあああ!?」

 

 スレスレで躱し切ったものの、バランスを崩して落っこちかける。

 

「っとと!」

 

 ペダルに足を掛け、横に一回転することで持ち直した。ふう、助かった。

 

「見つけたぜェ! エクソシストぉ!」

「うわぁ来ちゃった」

 

 呼んでもいないのに。本当に勘弁してほしい。こちとら若葉マークのエクソシストなんだから。

 雲間から姿を現したのは、ド定番の円盤型UFOみたいな形をしたアクマだった。それにしても、こんなにしょっちゅう襲われるモンなの? やー、モテる女は辛いねえ。

 

「またレベル2か。しかもこんなところで。ま、見たとこ一体だけみたいだし……」

 

 ──丁度いい。試してみるか。

 

「覚悟して死ねェ──!!」

「悪いけど、そうは問屋が卸さないんだから!」

 

 糸のように張り巡らされたビーム砲の隙間を縫って急上昇。毒づきながらも足置き台に両足を置いて、急加速させた。そして、箒を軸に自らを高速回転し、光のバリアを纏いさらに速度を上げてアクマに突進していく。

 

燃ゆる彗星(サングレーザー)!」

「……ァ?」

 

 太陽を掠めるようにして飛来するほうき星に因んで名付けられたその技は、物体に回転を与えて回転軸を安定させるジャイロ効果によって、直進性を高めた()()()()であった。ライフリングと呼ばれる銃などの筒の内部に施された溝で加速する弾丸と同じ原理である。

 

 爆発的な推進力を得たそのパワーをもって、インパクトの瞬間、未確認飛行物体を貫き粉砕させた。

 破壊されたアクマが爆発する背後で、スピードを緩めたミュアはウインクなんて決めながら微笑んだ。

 

「ゴメンね。昼に打ち上げ花火で遊ぶつもりはないの」

 

 花火は、やっぱり夜じゃないと美しくない。その主張には、サマンサも概ね賛成であった。

 

(大輪の花を夜空に咲かせたその暁には、きっと七千年の答えが出ることでしょう)

「──ん?」

 

 空にした覚えのない右手をグーパーさせたミュアは、はっと我に返る。

 

「ヤバい! 今ので地図どっかに落としたああああああああ! アジア支部まで行けなくなっちゃうよー!」

 

 慌ててもと来た飛行ルートを引き返すミュア。

 ……もっとも、その時が訪れるのは、もうしばらく先のようだと心の中でため息をつくサマンサであった。

 

 †

 

 ──同時刻、とある村の畑にて。農作業を手伝っていた息子が向こう東側の空を指差す。

 

「父ちゃん、流れ星だよ!」

「おや。真っ昼間なのに、よく見えるもんだなあ」

「綺麗だねぇ」

 

 畑を耕す手を止め、額に浮かんだ汗をタオルで拭い空を見上げた農夫。

 男の子が指差す先と父親である農夫の視線を追って、フロワ・ティエドール元帥も立ち止まって天を仰いだ。

 

「おお、本当に綺麗だ。燃えるような彗星じゃないか。どれ……」

「元帥!」

 

 道端でまた絵を描こうとする師匠に、黒い長髪を結い上げた青年──神田ユウは声を荒げる。

 

「アンタはまたそうやって……」

「いいじゃないか。ほら、神田も見てごらん」

「星なんてどうでもいい!」

 

 カッとなって叫び散らかすのは、黒髪ポニーテールの美男子。せっかくの端正な顔立ちが台無しである。

 

「食わず嫌いはよくないよ」

「星は食いモンじゃねえ!」

 

 師弟間でなにやら独特な漫才が始まってしまったのを見かねて、恰幅の良い大柄の男性が神田を宥める。

 

「まあいいじゃないか神田。そんなに見事な彗星ならば、私も見てみたかった。どうだ? 私の分まで見てくれないか」

「マリ……」

 

 彼の兄弟子であるノイズ・マリは過去の戦闘により視力を失った視覚障害者であった。そんな風に言われたら断ることなどできない。渋々、天を仰ぎ見れば、尾を引いて天へと駆け上がる様子が確認できた。

 

「……なんだ、あの星は?」

 

 おおよそ彗星がする動きではない。そんな疑問の声を漏らした神田に、彼の師は笑みを浮かべる。

 

「不思議だね。常識を覆す星だ。面白いじゃないか」

 

 星の光が消えると同時に、ティエドールが筆を動かす手を止める。画用紙には、青白い尾を引く星の輝きが描かれていた。

 

「意外に縁があるかもしれないよ、神田」

 

 ふん、と顔を逸らしたものの、再び箒星が奔った空へと視線を向ける。一瞬で目に焼き付いてしまったあの星の輝きを、無意識のうちに探していることに彼は気が付いていない。

 

 †

 

 所変わって、中国。クロス・マリアン元帥捜索隊一行はというと──

 出港した船の室内で、闇の記録者・ブックマンが自身の推測を述べていた。

 

「『時』…『千年』…アレン・ウォーカーは、千年伯爵を破壊する者ではないだろうか。ならばこんな所で死ぬハズは無い」

 

 その言葉には、年長者特有の確かな重みがあった。

 

「そ、そうだわ。皆に良い知らせがあるの」

「良い知らせ?」

 

 明るい雰囲気に変えようとしてか、ミランダは新しく加わったエクソシストの話を皆に伝える。

 

「新しいエクソシストが……!?」

 

 新たな戦力。それが、果たしてどんな未来を切り開くのか、本人は愚か誰も知らない。

 

「ええ。名前はミュア・アヴァンシアちゃんっていう子よ。リナリーちゃんと同い年の女の子ですって」

「私と……?」

 

 わずかに瞳に光が戻ったリナリーは、ミランダに視線を向けた。

 

「どんな子か、私もまだ会ってないのだけど──室長さんは真面目で良い子だっておっしゃっていたわ」

「そいつはオレらと合流するんさ?」

「本人はそのつもりらしいわ。だから、私たちの後を追いかけてくるかもしれない」

「……んじゃ、まだ見ぬ新入りのためにも、少しでも前に進むとしますか。もしかしたら、アレンと一緒に来るかもしんねーし?」

「そうであるな」

 

 クロウリーもラビの意見に頷き、口角を上げる。アレンと、まだ見ぬ仲間のミュアに彼らは思いを馳せた。

 

 ──少年少女よ、己が運命を切り拓け……




サマンサ・シルヴァ
Samantha Silva
↳翼猫。♀
35年前に千年伯爵が「将来、自分に娘ができた時のために教育係として」造ったゴーレム。
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