超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
私達は試練の攻略を一旦中止して、着替えの為に小部屋へと移動した。まぁ、ローションがかかったり転んでローション坂にダイブしたりして服がぬるぬるべとべとになっちゃうのは嫌だもんね。しかも私を含めて七人中五人が女の子なんだから、着替えようってなるのは当然の流れ。……え、鼻血?出てないよ?…って、そっちじゃない?心配じゃなくて理由の方?…何の事かなー?
「これはまた…シンプルな部屋ッスねぇ」
開口一番、部屋を見回したアイさんが感想を口にする。アイさんの言う通り、小部屋の内装は箱が三つだけという至ってシンプルなもの。…最初に目が覚めた時の部屋もそうだったけど…生活感のなさを目指した結果、生活が出来なくなる部屋ってこんな感じなんだろうなぁ……。
「この箱の中に、着替えが入ってるって事でしょうか…」
「そうじゃないかな?でも、どうして三つなんだろーね」
「…あ、三種類の中から選べって事じゃない?箱のサイズからして、一着だけしか入ってないって事はないだろうし」
なんて私が思っていると、箱に対する会話が進んでいた。続けて茜さんが第二の試練の時と同じように箱を調べて、罠じゃない事が判明する。
「…着替え、かぁ…ローションって液体だし、やっぱり…レインコートとかかな?」
「いやレインコートは動き辛いしないんじゃない?後、レインコート着て攻略って凄いシュールだよね…」
「えー…じゃあ、ポリエステル100%?」
「うん、あの量のローションを何とかなると思ってるなら、ルナはポリエステルを信頼し過ぎじゃないかな」
そこで私が呟くと、それには普通に、続くボケにはクールに突っ込んでくるイリゼ。
……なんか変?敬語はどうしたんだって?…ふふん、実は私、イリゼとタメ口で話す仲になったのだー!だって自分でもよく分からないけど、イリゼには敬語じゃ悪いって思う程シンパシーを感じたからね!だから前の話で私が敬語じゃなかったのは誤植じゃなくて……っと、いけないいけない脱線してしまった。今は着替えだったね。
「じゃ、まずはこれから開けてみよっか。何が入ってるかな〜……あれ?」
「どうかしたッスか?」
「うん、何故か紙が蓋みたいに置いてあって……あ、なんか書いてあった。えーっと……」
『…………』
「……体操着&ジャージ…?」
私達が一歩下がった位置で待つ中、茜さんが箱をオープン。そして見つけた紙に書いてあった文字を読んだ瞬間……空気が、固まる。……え、体操着?…体操着って…まさかあの『体操着』…?
「…うわ、ほんとに体操着だ…五着入ってる……」
「しかもご丁寧に、名札の布が縫い付けられてるッスね……こ、これ着るんスか…?」
「…つ、次開けてみましょう次。これを着るかどうかは全部開けてから決めればいい事ですし」
「ま、まぁそれもそうッスね…」
全員が「え……っ?」って思いながら覗き込むと、やっぱり入っていたのは皆が想像するあの体操着。その下には上下赤のジャージが入っていて、そっちにも名前が刺繍されている。…アイさんにああは言ったけど…何だか私、嫌な予感がしてきたぞ…。
「じゃあ、次はウチが……やっぱり紙で蓋をされてるみたいッスね。えぇと……」
【スク水】
『はぁ!?』
今度は全員で箱を囲み、その状態でアイさんが開ける。で、紙に書いてあったのは……ちょっと、いやかなりふざけた内容。そんな馬鹿なと思ってすぐに箱の中に目をやるけど、そこにあるのはTHE・スク水。…えーっと、もしこれを選んだ場合、私達五人は特定の層の方に人気な水着(こっちも名札付いてる)でぬるぬるの坂を登ろうとする事になるんだよね。……いかがわしいわ!変態的っていうか、いかがわしい番組の企画みたいになっちゃうよ!?後、男の人も二人いるんだからね!?
「考えうる限り、最悪の物が出てきた……」
「だね…濡れるという点に関してはベストな衣類ではあるけど…これ用意した人は馬鹿じゃないの…?」
あんまりな着替えに、ディールさんとイリゼがげんなりな声を漏らす。…一応言っておくけど、これにしようって人はいない。
「これは第二の時と同じ流れな気が……」
「言っちゃ駄目、言ったらフラグになるから言っちゃ駄目だよルナ……!」
「…全く期待出来ませんが、最後のも開けてみましょうか……」
そうして最後の箱に、期待感ゼロモードのディールさんが手をかける。でもまぁどうせ、これは極寒の地で作業する人が着るもこもこしたやつとか、馬鹿には見えない服とかが出てくるパターンだよね。うんうん分かってる分かってる、もう何が入ってたって驚く訳が……
【スク水(旧)】
『二着目!?まさかの二着目!?何故同じ物が……って、旧!?』
──あった。箱の中にあったのは、凡人(少なくとも思考は)の私には想像も付かないブツだった。……勿論、悪い意味で。
「旧って…旧って何ッスか!?どう違うと!?」
「……あっ、紙の端っこに説明あるよ?…読む?」
「ほんと不要なところでご丁寧ッスね!」
これにはそんなに突っ込むタイプの人じゃないっぽいアイさんも全力突っ込み。一方茜さんは説明なんかを見付けていて……恋バナの時も思ったけど、茜さんってちょっと天然…?
「…体操着、スク水、旧スク水……うわやっぱりいかがわしいムーブが…」
「……え、まさかルナ…また鼻血出そうになってたり……?」
「い、いやそれは大丈夫…流石に服単品だし……」
「…という事はつまり、さっき出そうになってたのはやっぱり……」
「あ……そ、それより早く着替えた方が良いんじゃないでしょうか!ほら、男性陣待ってる可能性ありますし!」
…天然だけど妙に鋭い茜さん。危ない危ない、危うく変態さんだと思われるところだった……。
とまぁ慌てて話を切り替えた私だけど、カイトさんワイトさんを待たせてしまっている可能性があるのは事実。だから私達は…言うまでもなく体操着を選んで着替え開始。
「はぁ、まさかこの歳になって体操着着る事になるなんて……ディールちゃんは似合いそうだね」
ちょっと複雑そうな顔をしていたかと思えば、すぐにディールさんへと目を向けた茜さんは、てきぱきと着替えて体操着姿に。シンプルな体操着の袖や裾からはすらりとした細く、でも貧相な様子は全くしない手脚が伸びていて、体操着なのにお姉さんって感じ。でも勿論近寄り難い空気は全くなくて、親しみ易さに溢れてる。
そう、本当に茜さんはどこかお姉さんみたい。どちらかといえばスレンダーな体型なのに、体操着っていう本来は子供の着る服を身に付けた事で逆に大人っぽさが際立っている茜さんは、正直ちょっと羨ましい。
「それは、まぁ…にしても、丁度いいサイズなのは少し怖いですね……」
そんな茜さんに話しかけられながら着替えるディールさんは、ちょっと恥ずかしげ。私達の中では一番小さい、それこそよく似たあの二人と同じ位なディールさんは本当に体操着が似合っていて、今のところ違和感も一切ない。袖から出てきた腕は見るからにぷにぷにしていそうで、寝惚けていたら思わず触ってしまいそう。
そのままでも可愛いけど、ディールさんは少し恥ずかしそうにしている。それが一層可愛さを引き立てていて、しかもちょっと悪戯したくなる感じもあって、総評するととにかくキュート。
「見た目はちょっとあれッスけど、流石に体操着なだけあって動き易そうではあるッスね」
真っ先に着替え終えたアイさんは、軽く身体を捻って体操着の可動範囲を確認中。健康的でしなやかな手や脚はアイさんの顔に浮かぶ明るい様子と相まってとっても爽やかで、飾り気のない体操着を着ているのに感じる雰囲気は本当に華やか。ちらちらと髪の合間から見え隠れするうなじなんて、最早ついつい見つめたくなっちゃうレベル。
それに、活動的なアイさんと体操着は、ディールさんとは違う意味で合っている。加えて普段の無骨な服装とのギャップもあって、今のアイさんは(普段そうは思わないって訳じゃないけど)凄く素敵。
「ま、動き辛い体操着なんて本末転倒だもんね。…ところで、アイはお洒落にあんまり興味ない感じ?」
逆に一番遅かったのは、今ショートパンツに脚を通して上げているイリゼ。一番遅くなったのは、トップスを着る時唯一体操着が一瞬引っかかったから。…どこがとは言わないけど控えめだった三人と違って、イリゼは胸元の『いりぜ』が凸凹になっちゃう位にはボリューミー。コンパさん程じゃないけど、五人の中じゃ間違いなく一番。
しかもそこだけじゃない。襟元から見える鎖骨周りとか、あんまり股下の幅に余裕のなさそうな太ももとか、所謂『女性的』って言われる要素をがっつりじゃないけどしっかり有してるイリゼは…目の保養に、なりました。
(はふぅ…やっぱり可愛い女の子って、良いなぁ……)
我ながらちょっと変な目で皆さんを見てしまってる気もするけど、それは私のせいじゃない。私のせいじゃなくて、可愛くて魅力的な皆さんのせい。だけどあんまり見てたら流石に悪いし、私もさっさと着替えてジャージ着ないとね。私の姿…は、四人と比べたら間違いなく残念な感じだからまぁいいや──
「…………」
「……?イリゼ?どうしたの?」
「そんな事はないよ、ルナっ!」
「えぇっ!?」
*
自分に自信がない…というより、変に自分を卑下していたルナ。でもそんな事はない。
丁度胴まで下ろされた体操着に包まれているルナの肌は、見るからに綺麗できめ細やか。上も下も主張し過ぎない、でも存在している事自体はしっかりと誇示している体躯が女の子らしい適度ななだらかな曲線を描いていて、大人一歩手前の愛らしさを表現中。もう一度言うけれど、ルナは卑下なんてする必要がない。
そして、目を引くのが色合いのコントラスト。煌めくプラチナブランドの髪に、飾らない白と紺の体操着に、くすみのない白い肌。着衣である体操着に引き立てられる事により、ルナの魅力は間違いなく引き出されていた。
*
「……ふぅ…」
「え、ちょっ…な、何!?今のは何!?何が起こったの!?」
その時、不思議な事が起こった。…いや冗談とかじゃなくて、いきなりびしっとイリゼに言葉を突き付けられたと思ったら、ほんとに意味の分からない事が起きた。っていうか……よく分かんないけど何これ!?な、なんか恥ずかしいんですけど!?
「何って……あぁこれ?地の文読みだよ?」
「地の文読み!?そんな技術が…ってそうじゃなくて!も、もう!じろじろ見るのは禁止だよ禁止!」
「えっ…ルナさん、わたし達の事はまじまじと見てましたよね…?」
「うぅ…見るのは良いけど見られるのは恥ずかしいんですっ!」
『理不尽!?』
うん、分かってる。自分でもこれは勝手な事言ってるって自覚ある。で、でも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!理屈とかじゃなくて、感情的に!
「見るのは良いんだ……あはは、これはルナちゃんもそっちの人なのかな?ぜーちゃんみたいに」
「飛び火した!?だから私はそっちの人じゃないからね!?」
「そっちの人といえば…ウチも敬語じゃなくていいッスよ?」
「どこで思い出して「あ、私も敬語じゃなくてだいじょーぶ!」突っ込ませてよ!?割り込まないで「わたしも大丈夫ですよ。…まぁ、無理にとは言いませんが…」だから割り込まないでって!」
「え?あ、それは……」
「……いや割り込んでよ!?」
「ふぇっ!?え、なんで今私突っ込まれたの!?」
……と、私がテンパっている間に、個室の中はしっちゃかめっちゃかになっていた。しかも急に敬語じゃなくてもいいと言われて戸惑っていると、何故かイリゼから食い気味に怒られてしまった。だから何か不愉快にさせてしまったのかと思っておずおずと訊いてみると、「だってこれ割り込む流れでしょ…」というのが理由らしい。……イリゼ、君は芸人か…。
「…で、どうなんッスか?」
「ど、どう…って…敬語の事ですか……?」
「そうッス。あ、見てた見られたの話掘り下げてもいいッスよ?」
「そ、それは勘弁して下さい…それで、その……」
『…………』
「…こ、こんな私でも良ければ…宜しくお願いしまっ…じゃなくて、宜しくね…!」
着替えの話は何処へやら。気付けば私の敬語の話になっていて、皆さんの視線が私に集中。そうして注目されるのは着替えをじろじろ見られるのとは別の恥ずかしさがあって、すぐには答えられなかったんだけど……そう言ってもらえるのは、本当に嬉しかった。だって、それはもっと歩み寄ってもいいよと言われたのと同じだから。
だから私はぺこんと頭を下げて、改めて皆さんへ…ううん、皆へ宜しくと言った。受け入れてくれた皆へ、私は私の意思で歩み寄る。
「うん、それじゃあ気を取り直して第四の試練もがんばろー!…っと、ディールちゃんも敬語じゃなくていいんだよ?」
「あ、いえ。わたしはこっちの方がもう慣れてるので…」
「確かにそんな感じあるッスね。……で、どうしてイリゼは上しかジャージ着てないんスか?」
「うん。私、あんまり脚が隠れる服装はしたくないから」
「は、はぁ…(趣味…なんスかね…?)」
そうしてわいわいと賑やかに小部屋を出ていく私達。着替え一つでも盛り上がれるのは皆が気の良い性格をしているからで、そんな皆へ歩み寄れた事は、本当に嬉しいと思っている。…さて、と……拝啓、皆。へへーん、私この短い間に、四人の女の子とタメ口で話せる仲になったんだぞー。凄いだろ〜!
*
私とカイトくんが、着替えをすべく小部屋へと入ったのが数分程前の事。そこには三つの箱があり、一つ目の箱には体操着が入っていた。
それはいい。いい歳した男が平仮名で名前の書かれた体操着を着るというのは外見的にどうなのだろうかと思ったが、それはジャージを着てしまえば隠れるのだから。だが、問題は二つ目の箱に入っていた物。
「…………」
「…………」
開けた瞬間訪れた沈黙。理由は単純、箱の中身が想像を絶する物だった為。
一応、それは衣類だった。だがなまじ衣類であったが故に、私達は言葉を失っている。
では、何が入っていたのか。一言で言うならば、中のブツは……完全なる、オールシースルーだった。それはもう、某国民的アイドルのデビュー当時の衣装を彷彿とさせる程に。
「……これは…服、なんですかね…?」
「…服、だろうね…定義的には辛うじて……」
「……着ます…?」
「はは…笑えない冗談だよ、カイトくん…」
と言いつつ乾いた笑い声が出てしまったが、まぁまずこれは着られるようなものじゃない。酒の席且つ男のみの場だったとしても恐らく躊躇うだろう代物だというのに、ここには女神様を始め五人もの女性がいる。そんなところへこれを着て出ていけば……いや、これ以上は止めておこう。精神衛生の為に。
「……この箱は空だった。そういう事にしようか」
「そ、そうですね…」
という訳で箱を閉じ、私達は三つ目の箱の前へ。既にもう今の服のままでいいような気もしてきたが、後々便利な衣類が入っていたとなったら流石に惜しい。とはいえあまり期待も持てない私は、一先ず開けてみよう程度の感覚で開き……再び、一瞬沈黙した。だがその理由は、少し違う。
「…うん?なんだこれ…?」
先に声を発したのはカイトくん。その言葉に私は内心で同意する。
入っていたのは、赤い鎧…いや、パワードスーツの様なものだった。断言出来ないのは、それが部位毎にバラバラになっていて全容がイマイチ掴めない為。
(ただ駆け上がるなら、これは間違いなくデッドウェイト…だがもしこれが、本当にGMスケルトンの様な物なら……)
「…ワイトさん?」
「…これは一度、着てみたい。手伝ってくれると助かるんだが……」
「あ、はい。それ位構いませんよ」
もし予想通りなら、突破の鍵になるかもしれない。そんな期待を込めて私は箱から拾い上げ、足から順に装着していく。
(然程重くはない…が、今のところ機能らしき物もない…)
そうして装着する事数分。要領を掴んだおかげで途中からはカイトくんの助けも必要とせず、私は最後のパーツであるヘルメットを被る事で装着完了。するとその瞬間額の辺りからカバーが降り、ヘルメットは非透過型且つカメラで外部の情報を取り入れられるという、突然ハイテクな一面を見せてくれた。…ふむ、これは中々期待が持てそうじゃないか。後はこれが結局なんなのかだが……。
「……あっ…」
「カイトくん、何か気付いた事があれば言ってくれて……カイトくん?どうかしたかい?」
「いや、えーっと……」
そんな中、フル装備状態となった私を見て軽く目を見開くカイトくん。一体何があったのか。何か変だったのか。そう思った私が訊くと……彼は、言った。
「…それ、何ですけど……」
「うん」
「……割とがっつり、アイアンマンです…」
「…………」
……どこからか多大なるプレッシャーを感じた私は、このスーツを脱ぐのだった。
*
上だけ着たり、ファスナーを閉めてなかったり、逆に一番上まで閉めてたり……そんな感じにジャージの着こなしでちょっとだけ個性を出した私達が大部屋に戻ると、そのすぐ後にカイト君とワイトさんも部屋から出てきた。へぇ、男の子のジャージは青なんだね。
「すみません、お待たせしました」
「ウチ等も今さっき出てきたばかりッスから問題ないッスよ〜。でも意外ッスね。ウチ等より遅くなるなんて…」
「それは…まぁ、ちょっと…有名な衣装とスーツがあったもんで……」
『……?』
何だかよく分からないけど、向こうも変な服があったみたい。でもまぁそれはそれとして、私達は坂の攻略を再開。皆着替えしながら色々考えていたみたいで、次々と試行錯誤が行われる。
…って言うと、凄く前向きに聞こえるんだけど、実際には……
「それじゃ、頼むッスよディール!」
「はい…!いきます…っ!」
「……っ!ここから一気に…ッ!……って、やっぱり距離足りないッスよね〜…うぐっ!…ぁぁああぁぁぁぁ……」
軽く跳んだシノちゃんを打ち上げるように、ディールちゃんが鋼の台を魔法で精製して射出。それに乗ったシノちゃんは自分のタイミングで台を蹴って跳躍するけど……失敗。ちょっと情けない声を上げながら坂を転がり落ちてしまう。
「試した事はないが…何だって最初はそうだよな……ッ!」
「わっ、カイト君そんな事も出来たんだ…!」
「よし、溶かせる…ッ!ならこのまま上まで……あ、不味っ…う"っ!」
壁に向かって跳んだカイト君は、炎で踏んだ場所を溶かして窪ませるという、ぜーちゃんも驚く程の技術で壁走りをスタート。某燃焼系ヒーローみたいな荒技に私もびっくりだったけど、考えてみればそれって凄く無茶な体勢。だからか一歩毎にカイト君は身体が曲がっていって……シノちゃん同様、途中で坂に落ちてしまった。
「いい、ルナちゃん。私がギリギリの所まで押すから、ルナちゃんは体力温存を心がけてね?」
「う、うん。よーし…!」
「いくよ!てぇぇぇぇいっ!」
「わ、わ…っ!これ予想以上に滑っ……きゃっ…!」
「えっ、あ……あぅっ!」
一人で走るのではなく、誰かが誰かを途中まで送り届けるのはどうか。そう考えた私はルナちゃんに協力してもらって計画を実行。……したんだけど、送り届ける前にルナちゃんがつるんと滑っちゃって、転んだルナちゃんに私も巻き込まれた結果、二人仲良くぬるぬるべとべとに。…これはただ押されるのは走る以上にバランスが取り辛い、って事に気付けなかった私のミスだね…うぅ、ぬるぬる気持ち悪い……。
「よいしょ、っと。ふふっ、まさかこんな形でディールちゃんを肩車する日が来るとは思わなかったよ」
「い、いいから始めて下さい…!」
「分かってるって。…しっかり掴まっててよ…!」
「……っ…!ほんとに凄いバランス感覚ですね…!」
「集中力フル稼働させてやっとだけどね…!…よし、投げるよディールちゃ……うわっ!?」
「へ?なっ!?嘘でしょ……ふぐぅっ!?」
「…………」
「…………」
「…ま、まさか片翼の天使みたいな感じになっちゃうなんて…ご、ごめんねディールちゃん…」
「……ふふ、いいんですよ別に…そこの排水溝っぽい所で暫く正座してくれさえすれば、わたしは何も怒りませんから…」
「うっ、じ、地味に辛そうな事を……でも、はい…」
私が考えたのとは似たパターン、ディールちゃんを肩車して限界点で投げようとしたぜーちゃんは、投げる動作の中で姿勢を崩して投擲大失敗。坂の終わりではなく真下へと投げられた…もとい、叩き付けられたディールちゃんと共にぬるーっと降下した後、排水溝正座の刑に処されていた。……あれで膝の上に座られたら、痛いだろうなぁ…。
「……!」
『……?』
皆が試しては失敗する中、急に何かを思い付いたように小部屋へと行ってしまったのはワイトさん。何だろうと思って私達がそっちを見ていたら、数分後出てきたワイトさんは、「くっ、スラスターもないとは…結局殆ど見た目だけのブツか……」…と残念そうに呟きながら戻ってきた。…何だったんだろう、本当に。
……と、試してみた結果はどれもこんな感じ。どれも後一歩にすらいかなくて、一番の成果といえば、他に着替えがないかまた小部屋に行った結果シャワールームと補充された体操着を見付けられた事位。…えーくん、ヘルプミー…じゃなくてヘルプあーす。
「ちょっとこれ、坂が長過ぎてどうやっても届かないよね…アイとディールがやってたのは、良い線いってたようにも見えたけど……」
「でも、あれだけじゃ多分何度やっても足りないッス」
「…となると、やっぱり何か仕掛けがあるんじゃって思うんですが……」
「一通り調べた限りでは、仕掛けと呼べる物は全くありませんでしたね。…そっちの線も、正直薄いかと」
試して、失敗して、試して、ぬるぬるになって。そんな繰り返しが何度も続いて、流石に私達も疲れ始めた。だから休憩も兼ねた会議を今していて……そこでふと、私はぜーちゃんが難しい顔をしている事に気付く。
「…ぜーちゃん?どしたの?」
「あ、うん。ちょっと考えてたんだけど…私もルナに同意なの。で、その上でもっとシンプルに考えるのはどうかな…って」
「シンプル?」
「そう、シンプル。第二の試練みたいに、何か突破口を見つけるんじゃなくて……一回、全員で力を合わせてみるのはどう?」
全員で力を合わせる。そう言って自分の考えていたプランを口にするぜーちゃんに、気付けば皆も耳を傾けていた。
ぜーちゃんが言ったのは、本当にシンプルな、試練の穴を突く…みたいな要素が全くない作戦。…でも、無謀な作戦って感じもしない。
「…悪くない、作戦ですね。でもそれだと、何度も一瞬を見極める必要があるんじゃ……」
「あ、それなら私に任せて。私はそういうの含めて、視界の中のものを『把握』出来るからね」
「あ、じゃあこんなのはどうだ?」
完璧じゃないけど、可能性を感じる作戦。だからぜーちゃんが言い終わるとすぐに意見が出て、その意見に対する意見とか今の私みたいに「それなら出来るよ」って発言が上がって、作戦がどんどんブラッシュアップされていく。…あ、ブラッシュアップって使い方合ってるよね?……じゃなかった、こほんこほん。
そうして洗練された作戦を元に、私達は何度か練習。普通なら何度も練習しなきゃ形にならないような作戦だけど、ここにいるのはセンスや技術に長けた人達ばかり。いやぁ、皆頼もしいね!
「……うん、皆。これなら…いける筈だよ」
そんな皆へ向けて、私は真面目な顔でそう伝える。どうして私が言ったかといえば……この作戦、ある意味で私が要だから。
「ありがと、茜。…それじゃあ、皆……」
発案者のイリゼが、皆に目配せ。それに皆も頷いて……全員が、位置に着く。
「…イリゼ、お願いだから叩き付けるのは止めてね…?」
「さ、流石に二度も同じミスはしないよ…それに、今度は投げる訳じゃないしね。…行こっか、ルナ…!」
少しだけ不安そうなルナちゃんをおんぶして立ち上がるぜーちゃん。ぜーちゃんは引き攣った笑みを浮かべた後、本気の表情になって…おんぶしたまま走り出す。そのぜーちゃんが向かう先にいるのは、片膝を突いて腕を組んだカイト君とワイトさん。
「…全力でいくよ、カイトくん」
「はい!来い、イリゼ!」
「うんっ!頼むよ、二人共…ッ!」
「お任せあれ…ッ!せー…」
『のッ!』
真っ直ぐに突っ込んだぜーちゃんは、止まる事なく片足を組まれた腕の上へ。その瞬間二人は声を合わせ、立ち上がりながらぜーちゃんを宙へ打ち上げる。
でもそれだけじゃない。上げられる直前に脚を降り、上がる瞬間伸ばす事でぜーちゃん自身もジャンプしてブースト。そしてルナちゃんを背負ったままのぜーちゃんがある地点まで上がった時……私は鋭く声を発する。
「……!今だよ、ディールちゃん!」
「はい…ッ!」
私が上げたのは、ディールちゃんへと向けた指示。それを合図にディールちゃんは台を作り出し、シノちゃんを乗せて発射。シノちゃんも私の指示で台を足場に跳び上がる。
ここだけ見れば、さっき失敗したのと同じ動き。でも、違う。今のこれは…シノちゃんが突破する為のものじゃない。
「……っ!シノちゃん!ぜーちゃん!」
「了解ッス!飛ばすッスよ、イリゼッ!」
台から跳んだシノちゃんは、重量の差で一気に肉薄。そこでも私が合図を出し、合図を受けた二人は身体を捻って縮めた足を触れ合わせる。…けど、それは一瞬の事。触れ合った次の瞬間には両方が脚を蹴り出す事で空中での加速がかかり、更にぜーちゃん達は進んでいく。
(ここまでは作戦通り。後は……!)
坂の終わり、登るべき場所へと着実に近付いていく二人。だけどまだ足りない。足りないからこそ、まだ作戦は終わってない。
ゴールまでは後少し。そんな中で二人の速度は落ち始めて……タイミングを見切った私は、最後の指示を二人へ飛ばす。
「──ぜーちゃんッ!跳んでッ!」
「ここだね…離すよ、ルナ……!」
「うん…!イリゼ、遠慮はしなくていいから…ッ!」
「なら…怪我、しないでね…ッ!」
空中で、ぜーちゃんとルナちゃんはすっと分かれる。ぜーちゃんはシノちゃんの時と同じように脚を屈めて、ルナちゃんは少しだけ身体を後ろに傾けながら両腕を交差。そうして二人は言葉を交わし……ぜーちゃんはルナちゃんを蹴り付けた。交差された両腕を台に、最後の加速として。
「皆の力でここまで来たんだ、だから絶対に…繋げる……ッ!」
個々の身体能力、魔法、連携、そして私の把握能力。最初に言った言葉通り、全員の力を結集してぜーちゃんは飛ぶ。坂の先を目指して、思いを込めて。
(行って、ぜーちゃん……!)
今のぜーちゃんに翼はない。けれど代わりに、私達全員の力で飛んでいる。ローションでぬるぬるの坂を突破する為…って考えると何やってるんだろうって気持ちにもなるけど、全力なのは間違いない。だから私も皆も、突破を信じてその姿を見つめる。ぜーちゃんは、飛んで、飛んで……その姿が、見えなくなる。
息を飲む私達。数瞬の沈黙が部屋の中へと訪れて……次の瞬間、坂が割れた。低い音を立てながら左右に分かれた坂の裏からは、先へと続く階段が現れて……坂の変形が終わった時、見上げた私達の視線の先には…にっこり笑顔のぜーちゃんが立っていた。
「第四の試練……達成だよ、皆っ!」
本当に嬉しそうな、ぜーちゃんの笑顔。それを見た私達も嬉しさと、無事に届いて良かったという安心感に包まれて、頬を緩ませながら階段を登り始める。
そうして到達した坂の先には、次の階へと繋がる扉。それを見た私達は、試練達成出来た事を改めて噛み締めて……七人一緒に、次の階へと向かうのだった。
《お疲れ様、皆!全員で力を合わせて困難を突破する…うんうん、やっぱり試練ってのはこうでなくっちゃね!これにはわたしも大満足だよ!……で、それはそうと…皆、服はそのままでいいの?》
『…あ……』
今回のパロディ解説
・生活感のなさ〜〜出来なくなる部屋
お笑いタレント、ヒロシこと齊藤健一さんのネタの一つのパロディ。箱三つ(と隠しシャワールーム)だけの部屋。…少なくとも私はそんな部屋で生活したくはないですね。
・某国民的アイドル
アイドルグループ、嵐の事。入っていたのは、割と有名なシースルー衣装…っぽい物なのです。幾ら何でも、参加してくれた方のキャラにこれを着させる訳にはいきません。
・アイアンマン
文字通り、アイアンマンシリーズに登場するキャラ(というか、スーツを着た人)の事。これを使ったらコラボというか、クロスオーバーストーリーになってしまいますね。
・某燃焼系ヒーロー
僕のヒーローアカデミアに登場するキャラの一人、エンデヴァーこと轟炎司の事。アニメ版で行った能力の応用シーン。そんな感じの事をしていたと思って下さい。
・片翼の天使
ファイナルファンタジーシリーズにて使われるBGMの一つ…ですが、この場合はプロレスラー、ケニー・オメガ選手の得意技の事。…知ってる方は、いるでしょうか。