超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第十話 迫り来る影

「強過ぎない甘みと、ふわふわの食感。そして出来立てならではの温かさ……良い腕してるッスね、イリゼ!」

「ほんとに美味しい…はふぅ……」

「ふふっ、ありがと皆。喜んでもらえて何よりだよ」

 

見た目の単純さに反して苦労した第四の試練を突破したウチ等は、現在イリゼの作ったシフォンケーキを頬張り中。……あ、ちゃんとジャージから着替えたッスよ?

 

「…しかし、宜しかったのですか?イリゼ様もお疲れのところにケーキなど……」

「気にしないで下さい、ワイトさん。お菓子作りは私の趣味ですし…皆が喜んでくれるなら、私も嬉しいですから」

「おぉ、これが女神様の美しき精神…ははぁ、ありがたや〜…」

「ちょっ、もう…拝まないでよルナ……」

「はは…しかしアイの髪の毛梳かしてた事といい、イリゼは女子力高いんだな」

「私も一緒に髪梳かしたりパンケーキ作ったりしたんだけどなー。…まぁいいけどね、私の持ち味は女子力じゃないし」

 

大丈夫だと返すイリゼの顔は、本当にウチ等に喜んでもらえて嬉しそう。ふっふっふ、それならもっと食べて喜ばせてあげなきゃッスよね。

 

(…けど、気付けばかなり和気藹々とした雰囲気になったッスね)

 

思い返せば、初めは殆ど会話なんてなかった。お互い知らない上に状況が状況だったんだから、当たり前といえば当たり前ッスけど…それでも基本賑やかな方が好きなウチとしては、この現状は嬉しい限り。…相変わらずここが何なのかも、無事に帰れるのかも分からないッスけど…それはそれ、これはこれッス。

 

「今後も何か食べたいお菓子があったら言ってね。出来る限り要望には答えるし……あ、それかビスケットみたいなものなら試練の最中に食べるのも楽かな?確かビスケットにはご飯として食べる用のものもあった筈……」

「…あの、イリゼさん…作ってくれるのはありがたいんですが……目的、忘れてません…?」

「へっ?あ……も、勿論忘れてないよ!うん、忘れてない忘れてない!」

『…………』

「いやほんとに忘れてないって!ほんとだからね!?」

 

…そんなやり取りを経て、気持ちの良い休憩を取ったウチ等は第五の試練の大部屋へ。さぁ次は何だ…と意気込みつつ入ったウチ等を待っていたのは、これまでと違って大分複雑になった内装。

 

「…なんか、急に雰囲気変わったな……」

「部屋の広さがよく分からないッスね。…これは、まるで……」

《第五の試練は、自らを超えろ!影からの逃走!だよっ!》

『…!?』

 

うわっ!?な、何でこうも毎回ワンガルーはいきなり現れるッスか!こういうのは心臓に悪いって分からないんスかね!?……全く…。

ウチ等を驚かせながら現れたワンガルーは、タイトルらしき事を言いながらウチ等の前へ。…えーと、自らを超えろ、影からの逃走…?

 

「……今まで試練にそんな名前あったっけ?」

《ううん、気分で付けてみました!》

「あーうん…いるよね、突然名前を付け始める子って」

《でしょ?…って、それ教え子と一緒にしてない!?それは心外だよ!?》

 

分かる分かる、と大人っぽい表情で茜が頷くと、ワンガルーはぷんすか怒っていた。…ぬいぐるみだから全然迫力ないッスね。

 

《もー……今回の試練は、七人の相手から制限時間一杯まで逃げ切る事だよ。全員捕まったらその時点で失敗だし、達成条件はその逆。隠れてもいいし、走って逃げ続けてもいい。逆に相手に手の平で触れられちゃったらアウトで…分かり易く言えば、鬼の交代がない鬼ごっこって感じかな》

「鬼ごっこ、か…その割には随分と鬼が多いんだな」

《ふふん、そこがこの試練のミソだよ。君達を追い掛けるのは…じゃーん!》

 

部屋の通路や障害物に軽く目を通した後ワイトがそう訊くと、ワンガルーは「よくぞ訊いてくれました!」とばかりの反応をした後、七つの黒い靄を召喚。それはウチ等が視線を向ける中、少しずつ人の形となっていって……変化が止まった時、ウチ等は気付く。

 

「…これ、って……」

「……わたし、達…?」

 

呟いたのはルナとディール。…ディールの言う通り、七つの人型はどれも見覚えがある…というより、ウチ等七人のシルエットそのものだった。…自らを超えろ、ってのはそういう事ッスか…。

 

《そう、皆を追い掛けるのは皆の影!あ、でも別に受け入れるとペルソナが使えるようになったり、死体に入れるとゾンビとして動き出したりはしないよ?》

「いや訊いてねぇよ……って、待った…まさかそいつ等、見た目だけじゃなくて能力も再現されてたりするのか?」

《お、鋭いねぇ。この影は能力面も皆とほぼ同じ…つまり、ミラーマッチって訳だよ!それと、今回も制限をかけさせてもらうね。じゃなきゃ個々の能力に差があり過ぎて不公平だしさ》

「……っ…。…なら、そっちのウチ等の女神化は……」

《だいじょーぶ!勿論こっちの皆も制限がかかった状態だから!》

 

前回と同じように、ウチ等の周りで橙色の光が回ってすぐに女神化が出来なくなる。…不公平を作らない為に制限して、その制限は相手にも与える、ッスか……つまりワンガルーは、この試練を『良い勝負』にしたい、と…?

 

「……アイ?」

「あ、何でもないッスよルナ。で、さっき言った制限時間ってのはウチ等で分かるんスか?」

《それは今から分ける腕時計で確認してね。それと、基本鬼の皆は皆に危害を加えたりはしないけど、襲ってくるようなら反撃してくるから気を付けてね。後は……あ、そうそう!今回から達成失敗した場合はちょっとしたペナルティを受けてもらうから、それも気を付けておくよーに!》

「え、ペナルティ?それって一体…ってあぁっ!…また勝手に消えるんだから……」

 

言い切ったワンガルーはこれまでと同様に消え、同時に黒いウチ等も消滅。代わりに七つの腕時計が現れ、画面には『開始まで残り十分』と表示されていた。

 

「十分…じゃなくて九分と五十二秒……これは、もう動いていいって事でしょうか…」

「駄目なら駄目、って言うんじゃないかな?でも、ペナルティって何だろ……」

「今の段階じゃ何とも言えないね。…けど、ペナルティがあるならリトライも可能って事だ。条件から考えても第三の試練と同じように、闇雲に逃げるよりは連携して……いや、連携するにもバラバラに逃げれば意思疎通は不可能か…だが固まって動くよりは……」

「あーワイト。一先ず動いた方がいいんじゃないッスかね?」

「っと、そうですね…失礼しました」

 

これから始まる鬼ごっこ的試練に対し、一体どう立ち向かえばいいのか。それはウチも考えたいところッスけど、それを許してくれないのが時計の行うカウントダウン。という事でウチ等は一旦話を止めて、普通の鬼ごっこの様に各々逃げ始める。…しっかし、もう完全に『戦術構築と言えばワイト』って雰囲気が出来上がっちゃってるッスねぇ。流石ブランちゃんの近衛隊長、頼もしいッス。

 

(同じブランちゃんの側に立つ男でも、アクダイジーンとは大違いッスねぇ…まぁ、あっちはあっちで味のある初老さんッスけど)

 

小走りで通路を走っていると、突然右腕から聞こえるブザー。どうもそれは開始の合図らしく、開始まで〜…の表示が『終了まで残り五十九分五十六秒』となっていた。…皆で走るという点にちなんで二十四時間!…じゃなくて一時間ッスか…広さにもよるッスけど、決して短くはないッスね…。

 

「……そういえば、誰も来ないッスね…はっ、まさかウチ…嫌われてたんスか!?」

 

ガーン、と激しくショックを受けるウチ。最初ウチ等がいた場所からは四つの通路が伸びていて、一つの通路に三人以上が行ったりあの場で待機したりがない限り、四分の三で誰かしらがウチと同じ通路を選ぶ筈。なのに誰も来ないなんて…うぅ、酷いッス!ウチは男女分け隔てなく友好的な関係を築けつつあったと思ってたのに、これが真実だったなんて…!

 

「…………」

 

「……一人でふざけても虚しいだけッスね…」

 

ひゅ〜……とウチの心の中に吹く木枯らし。それに呆れつつも、ウチが再び走り出そうとしたその時……

 

「……っ!」

 

視界の先のT字路から、人影が姿を現した。長い髪に、どちらかといえば高い方の背とそれなりにある胸。その姿は正しくイリゼのもの。……但し、色は薄暗い黒一色。

 

「こんな序盤から遭遇するとは…でもそうなると、ウチ一人だったのは幸いかもしれないッスね……っとッ!」

 

ちらりと経過時間を確認しつつ呟く中、前傾姿勢を取るイリゼの影。そこからイリゼの影は地を蹴って…次の瞬間、一気に距離が縮まった。

跳んだ瞬間ウチの意識も切り替わり、反射的にバックステップ。迫るイリゼの影に対して後退を続けるも、向きの関係からどんどん余裕がなくなっていく。

 

「…壁……ッ!?うぁっ…!」

 

ふっ、と何かを感じたウチが振り向くと、気付けば通路の壁ももう目前。更に視線を戻した時にはウチの身体へと影の右手が伸びていて……間一髪。身を屈めつつの前転で腕の下をすり抜けていなければ、ウチはこの時点でアウトだった。あ、危ないところだったッス…。

 

(…なんて、言ってられないッスね…!これが、イリゼの…ウチの知らない次元の、女神の力…!)

 

矢継ぎ早に避け辛い位置へと突き出される両手と、手が届くギリギリの距離をキープする脚。純粋な身体能力に加えて、高い観察眼と判断力、それに数多くの戦闘経験を感じさせる動きで、イリゼの影は追い詰めてくる。今のところは凌げているけど…気が抜けない。

そんなウチへと襲いかかったのは、更なる不運。具体的に言えば……相手側の、増援。

 

「な……ッ!?」

 

一先ず向きを変えないと。そう思って視界を周囲に走らせたウチが見たのは、こちらへと走るルナの影。イリゼの影を振り切れないままルナの影に合流され、前と斜め後ろから同時に迫る二つの手。咄嗟にウチは横へと跳んで避けたものの……壁を背にしてしまったウチは、壁と影に囲まれてしまった。

 

「くっ……」

 

影達に抜かりはなく、突破口を見つけられないままウチは影に触れられてしまう。つまり…これでウチはゲームオーバー。一方影の二人は、片や一仕事終えて一息吐くような、片や少し緊張が解けたような笑みを浮かべ……次の瞬間、ウチの足元に暗黒の『穴』が現れた。

 

「ぐ、ぅぅ…!(吸い込まれる…!?)」

 

それは、沼というよりブラックホール。沈むではなく落ちていく。本能的にウチは穴の外へと手を伸ばしたものの、穴は広がりその直径は指先より外へ。女神化出来ない今は飛んで脱出する事も出来ず……数秒と経たずに、ウチの視界は真っ黒に染まった。

 

「…へ?」

 

……と、思っていたのは一瞬の事。足元が急に明るくなったかと思えば視界が開け、ウチはそのまますとんと落下。そしてウチは、落ちるッスー!?…とか言ってる間もなくそこの床へと激突する。

 

「痛っ、尻餅ついたッス…って、ここは……」

 

ぶつけたお尻をさすりながら立ち上がると、そこは何と階段の前。言い換えれば、第五の試練がスタートする直前にいた場所で……違うのは、ウチのいる周囲の床が赤色に変わっている事と、その四方を半透明の壁が覆っている事。

 

「……捕まった人は、ここでクリアか全員捕まるまで待ってろ…って事みたいッスね…」

 

試しに壁を一発蹴ってみるも、結果はウチの脚が痛くなっただけ。…これ刃出してたら、全部の負荷がかかって最悪ブーツが壊れてたかもしれないッスね…セーフ……。

という訳で、現状を振り返る以外に特に出来る事もなくただ待つ事十数分。

 

「……お?」

「あぅっ!…あ、アイ……」

「あー…イリゼも捕まっちゃったんスね…」

 

さっきのウチ同様、黒い穴から現れ尻餅をついたのはイリゼ。その後も一人、また一人とここに送られてきて…残り十分に差し掛かる直前、最後の一人も捕まってしまった。

 

 

 

 

はー、やっぱり地の文は慣れないッスねぇ。普段は存在を意識する事もなかったッスけど、まさか地の文担当がこんなに肩の凝るものだったとは…。でも、慣れれば色々面白い事も出来そう……って、まだウチの担当だったんスか!?ちょっ、なら今のは無しで……こ、こほん!

…情けない事に、捕まった順のトップ3はウチ達女神が独占してしまった。逆に最後まで残ったのはカイトで、ここに落とされた時にはもう息も絶え絶えだった。

 

「はぁ、はぁ…はぁ…ふっ、はぁ……」

「つ、辛そうですね…捕まるまでに一体何が……?」

「んぐっ、はぁ…さ、最後……七人、全員に…追い掛け、られた……」

「うわぁ、それは確かに辛いッスね……」

 

カイトはルナの質問に答えるのも大変そうで、それだけでもどれだけ大変だったかが見て取れる。…一対一でも楽じゃないのに、七人なんて…お疲れ様ッス、カイト…。

 

「…けど、これで試練失敗だね…。うー、っていう事は……」

《再チャレンジの前に、ペナルティの時間だよー!》

「げ、やっぱりなんだ…」

 

何やら悪戯を企む子供みたいな声を出しながら出てきたワンガルーと、見るからに嫌そうな顔をするディール。…罰ゲーム…ちょっとした、とは言ってたッスけど…内容が分からないのは、少し怖いッスね…。

 

「…で…ペナルティ、って…何、するん…だよ……」

《おおぅ、そこまで疲れてるなら無理して喋らなくてもいいからね…?…けど、そんな疲れてるカイト君に朗報だよ!一回目って事で、今回のペナルティは水分補給も兼ねてあげましたーっ!》

『水分補給……?』

 

テンション高く言い放たれたその言葉に、ウチ等は全員が訝しげな表情を浮かべる。

端的に言って、絶対これただの水分補給な訳ないッス。こういう時酷い展開になるのは、食事ガチャの件でも明白ッス。

 

《はいどーぞ、ほいっと》

 

そんなウチ等とは対照的に、仕掛ける側のワンガルーは見るからに楽しそう。その様子にも不安をウチ等が募らせる中、現れたのは…コップに入った濃い緑色の液体。こ、これは……。

 

「…あれ、ですよね……」

「うん…所謂ポーション系の飲み物とかじゃなくてあれだろうね……」

「粉末の量間違えたお茶とかでもなくて、あれだろーね……」

『…………』

《ほらほら、早く飲んでよ〜。じゃないとペナルティ拒否したペナルティとか用意しちゃうよ?》

「好き勝手言いやがるッスね…はぁ……」

 

こんなの飲みたくない…とは思いつつも、飲まなきゃ進まないのは事実な上、ほんとにペナルティ追加されたら堪ったものじゃない。という訳でウチ達はテンションだだ下がりになりながらもコップを持ち……ぐっと一息で飲む。

 

『……うっ…苦ぁっ!?』

《あははははっ!だよねだよね!わたしも試しにちょっと飲んでみてびっくりしちゃったもん!でもそれ疲労回復には抜群なんだよ!……多分…》

「うぇぇ、この味舌に残る…って今、多分って言わなかった……?」

《さーて何の事かな。じゃ、ここにボタンを用意しておくから、それを押したら再チャレンジスタートだよ。皆、めげずに頑張ってね。……あ、それとさっき言い忘れちゃったんだけど…お菓子、次作る時はわたしの分も用意してくれると嬉しいなっ!》

「関係なっ!溜め作ってまで試練に一切関係ない事言わないでくれる!?」

 

やっぱり、緑の液体は青汁的な飲み物だった。非常に、非常に苦かった。ぐふっ…ダメージ受けたッス……。

その後ルナやイリゼを翻弄したワンガルーは壁にタッチパネル式らしいボタンを用意し、またまた消失。

 

「苦かったね、あれ……で、どうしよっか?押す?もう少し休憩する?」

「俺なら、もう大丈夫だぞ」

「流石若者、回復も早いね。…なら、最低限情報共有をしておくのはどうかな?ここまでの試練から考えても、ただ闇雲に逃げるのは得策じゃないだろうからね」

 

ワンガルーが消えてから数秒後、ウチ等は会話を再開。…速攻でボタンを押しちゃう困ったさんは、いないみたいッスね。

 

「それもそッスね。じゃあウチから。全員がそうなのかどうかは分からないッスけど、少なくともイリゼの影に接近されるのは不味いッス」

「それならワイトさんの影も近付かれたらキツいと思うぞ。単純に体格良いし」

「あぁ……イリゼさんにワイトさんですか…」

「……?ディール、どうしたの?」

 

情報共有の為、自分達の経験を話し始めるウチ達。…と、そこで早速ディールが表情を曇らせる。…何か、あったんスかね……。

 

「…わたし、最終的にその二人の影に捕まったんですけど……」

『ですけど……?』

「……捕まった後、イリゼさんには頬擦りされて、ワイトさんにはがっつり頭を撫でられました…」

『えっ……』

『え……?』

 

その瞬間、一気に空気が凍り付く。そして視線は件の二人に。ま、まさか…イリゼもワイトもそういう趣味が……

 

「なっ、ちょっ、違うよ!?それやったの影だから!私じゃなくて影の方だから!で、ですよねワイトさん!」

「え、えぇその通りです!大方ワンガルーがタチの悪い冗談を仕込んだのでしょう!」

「…二人共、言い訳がましいッスよ」

『何故!?』

 

わたわたと慌てて弁明する二人に追撃をかけてみた結果、二人は相当ショックを受けていた。まぁ、冤罪って事は分かってるッスけどね。

それはさておき、一通り情報共有が済んだところでボタンをプッシュ。すると予想通り壁が消え、今度は開始まで残り五分からカウントが始まる。

 

「では皆様、出来る限り情報収集と記憶をお願いします」

「りょーかーい。だけど、逃げ切れるならそれが一番だよね」

「だね。でも皆から逃げ切るのって難しそうだし、私は隠れ易い場所探そっかな……」

 

約一時間前同様、各々別れて動き出すウチ達。勿論誰も「そこそこ逃げられれば捕まってもいいや」とは思ってないッスけど、『今回の』目的は追っ手を振り切り易い場所や逆に逃げ込むのは不味い場所、仕掛けや部屋の全容の調査を出来る限り行う事。要は、第三の時と同じようにリトライ出来る事を活かして戦略を立てていくって事ッスね。

 

「けど、罰ゲームが段々厳しくなるなら何度もリトライって訳にはいかないッスよね…てか、またウチ一人……」

 

今回は始まって早々に鬼と遭遇…なんて不安はないものの、またもやウチは単独行動。

寂しいような悲しいような。その状態で鬼とも会わないまま二十分弱が過ぎ、ウチって実はほんとに嫌われてるんじゃ…と不安になり始めた頃、角である子とばったり遭遇した。

 

「…およ?ディール?」

「あ……」

 

一瞬びくっとしたものの、幸いそれは本物のディール。ディールの方も反射的に一歩下がって、でもすぐに気付いた様子でほっと一息。

 

「はー、やっと逃走中に味方に会えたッス…けど、後ろからじゃなく前からとは……」

「それはわたしも思いました。…ほんとに、影の方じゃなくて良かった……」

「影とのばったりは嫌ッスねぇ。…ディールも一人ッスか?」

「は、はい……あの、ご一緒しても…?」

「勿論OKッス!それはもうウェルカムッスよ!」

「そ、そうですか…」

 

背丈の関係から自然と上目遣いになるディールにそう言われたウチは、迷うまでもなく快諾。ふぅ、これでウチが避けられてた訳じゃない事が判明したッスね。…にしてもほんと、この子はあの双子にそっくりッス…。

 

「……ところで、それ持ちながらじゃ走り辛いんじゃないんスか?」

「身体強化魔法で補うので大丈夫です。…それに、持っていた方が安心するので……」

 

そうしてウチとディールは一緒に行動。途中本(魔導書?)を抱えたままのディールに理由を訊くと、ちょっと控えめな反応が返ってくる。

 

(うーん、やっぱりイリゼに比べると少し距離があるッスね…ま、当たり前ッスけど)

 

あくまでウチの体感ながら、ディールはイリゼに対してはもう少し遠慮がなかったように思える。けれど、元々知り合いだった人と差があるのは当然の事。ならそこに気を落とすより、同行を求められる程度には信用されてる事を喜ぶ方がよっぽど良いッスよね。

…と、ウチが思っていると、いつの間にかディールはじーっとウチを見ていた。

 

「…………」

「……?どしたッスか?」

「あ……いえ、その…体格だったり、女神化すると口調が荒くなったり、ちょっとアイさんはわたしの知ってるある女神と似てるな…と思いまして……」

「あぁ、ブランちゃんの事ッスね?」

「…ブランさんの事を知ってるんですか?」

「それは勿論。何せウチとブランちゃんは大の仲良しッスからね!…にしても、ディールはブランちゃんの事をブランさんって……」

 

外見的には、ブランちゃんをお姉ちゃんと呼ぶ方が自然に見えるディールの容姿。それが気になって何気なく訊こうとしたウチ。…けれど、そこで会話が一旦止まる。

 

「…あ……っと、ディール…」

「…大丈夫です、わたしも見えてます…!」

 

何故止まったかといえば、それは遠くに二つの影が見えたから。まだ距離は十分あるものの、さっきの事もあって油断は出来ない。

反転し、走り出すウチ達二人。影の方も気付いた様子で、こちらへ向かって走ってくる。

 

「逃げるんだよぉッッス!」

「鬼ごっこなんだから当たり前ですけどね…!」

 

逃げるウチ等と、追いかける影。ディールの身体強化魔法は問題なく機能しているらしく、ウチの速度に着いてきている。その状態で数十秒、或いは一分以上ウチ達は走って……途中から、気付いた。その追いかけてくる影が、他でもないウチとディールの影だったと。

 

「…流石にウチ等のコピーなだけあって……」

「…振り切れ、ない…!」

 

走り出したその時から、距離は殆ど変わっていない。追い詰められてはいないけど、振り切る事も出来ていない。だって相手はほぼ同じ身体能力を持っているから。

まだ一時間には程遠い。そしてそうなると、不利になるのはウチ等の方。閉鎖空間という時点で追う側に有利な上、追う側は追われる側という目印があり、尚且つ追う側は味方に会っても敵に会っても自分にとっての好都合になるのだから。…一応、追われる側にも『自分で道を選べる』って面があるッスけど…知らない場所じゃ、それも意味がないんスよね…。

 

「…ふ、二手に分かれますか…?」

「場合によっては、それも必要に……って…」

「……っ…行き止まり…!?」

 

十字路を左に曲がり、またその先のL字路を曲がったウチ等に待ち受けていたのは、行き止まりという最悪の展開。振り返ると影のウチ等も十字路を曲がっていて…もう引き返しても、間に合わない。

 

「…どう、しますか……?」

「どうって……普通に考えたら、逃げ場なんてないッスよね…」

 

焦りを感じながら、じりじりとウチ等は後退。とはいえそれで逃げられる筈もなく、あっという間にウチは先程捕まった時と似たような状況になってしまった。…仕掛け、仕掛けは何かないッスか……?

 

「です、よね……でもどっちかが犠牲になれば、もう一人はすり抜けられるかもしれません…アイさん、最悪わたしが……」

「…いや、待つッス……ディール、普通の人間なら出来ないような、びっくり機動は出来るッスか…?」

「え?……それは、まぁ…多少は…」

 

どちらかがわざと捕まれば…そんな案を口にするディールに対し、仕掛けを探していたウチは仕掛けの代わりにある『道』を見つけて制止する。…それは、普通の鬼ごっこならまず選ばない…というか選べない道。でも、ウチやディールの様な女神なら…可能性は、少なくない。

影に訊かれないよう、小声でディールに伝えるウチ。するとディールは驚き…それから、強く頷いた。

 

「…じゃ、行くッスよ……!」

 

ゆっくりと影が近付く中、ウチ等は前へと走り出す。影はそれに少し驚いたような素振りを見せるも、両手を軽く広げて前進を続行。慌てず、確実に捕まえるつもりって事ッスね…なら、好都合ッス…!

どんどん近付くウチ等の距離。このまま進めば、捕まる事は間違いなし。でもウチ等は突進の如く加速を続ける。走って、走って、影を見据え、ある時点で一瞬その視線を移し……影の手が届く寸前となったその時、ウチとディールは上げた足で……壁を蹴る。

 

『……!?』

 

蹴り付けた勢いと反動で、宙へと跳び上がるウチ等二人。直前まで前進していたウチ等の身体は当然前へと飛んで……影の頭上を、すり抜ける。

 

「ふっ、作戦成功ッスね!さぁ、逃走再開ッスよディー……」

 

ウチもディールもすり抜け成功。完璧に成功した状況打破の作戦にウチは満足しながらも、声を上げつつスマートに着地。…と、同時にフルスロットルで逃げようとして……

 

『へっ……?』

 

──その瞬間、ウチ等は落ちた。着地した地点から、真下へと向かって。

まさか触れられていた…!?…とウチは思ったものの、さっきと違って黒い穴はない。むしろ穴は穴でも、これは落とし穴のような感じで……ウチは、思い出す。第二の試練において、イリゼを襲ったある不幸を。その後ワンガルーが口にした、とある罠の存在を。

 

『これは……わぷっ!?』

 

気付いても時既に遅し。落下したウチ等は、柔らかい床に足を取られて頭から突入。そこから急いで顔を上げると、そこでウチ等を囲んでいたのは格子の壁。

 

「……うわ、何この屈辱感…」

「ど、同感ッス…というかどんだけウチ等不運……って、あ…」

 

イリゼが落ちた時も思ったッスけど、やっぱり牢屋っぽい場所に入ってしまうのは物凄く恥ずいッス…ブランちゃん達が投獄された時も、きっとこんな気持ちだったんスね…。

……なんて思ったところで、状況を思い出して振り返るウチ。すると…丁度そこで、影の二人も落とし穴の中へと入ってくる。

狭い牢屋状の落とし穴。梯子の前に陣取ったウチの影と、近付いてくるディールの影。それが示す答えは……一つ!

 

「ひぇぇ…これからウチ等、きっと酷い目に遭うッス……」

「そうですね……ってそうなんですか!?え、捕まってまた送還されるだけでは!?」

「…それだけで済めば、良いッスね……」

「そ、そんなフラグになりそうな事言わないで下さい!…って言ってる間にもうわたしの影が…!」

「……ヤマト、ウチ…ヤマトや皆との思い出があれば、きっと何があっても大丈夫ッス……」

「だからそういう事は……わぁあぁぁぁぁっ!」

 

……という訳で、逆転の策を不運に潰されたウチとディールは、そのまま捕まってしまうのでした。ちゃんちゃん。

 

 

 

 

…あ、別に捕まる以外の事は何もされなかったッスよ?そりゃ冗談に決まってるじゃないッスか、はっはっはー。




今回のパロディ解説

・ペルソナ
ペルソナシリーズにおける、中核要素の一つの事。影は影でも、別に彼女達の心の闇から生まれた訳じゃありませんからね。むしろ能力に目覚める方が不自然なのです。

・死体に入れるとゾンビとして動き出したり
ONE PIECEに登場する悪魔の実の一つ、カゲカゲの実による能力の一つの事。影は影でも、別に彼女達から引き剥がされた影ではないので、そんな事は起きません。

・皆で走るという点にちなんで二十四時間!
二十四時間テレビ及びその中で行われるマラソンのパロディ。珍しく時事ネタを入れてみました。もし本当に二十四時間逃げるだったら……ちょっとキツ過ぎますね。

・「逃げるんだよォッッス!」
ジョジョシリーズの主人公の一人、ジョセフ・ジョースターの名台詞の一つのパロディ。作中でも突っ込まれてますが、鬼ごっこなので逃げるのは当然の事ですね。
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