超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第十一話 逃げる側の下克上

鬼ごっこ。かくれんぼと双璧を成す二大外遊びの一つで、鬼が鬼じゃない参加者を走って追いかけるという至ってシンプルな娯楽。ルールが限りなく単純だから小さい子でも簡単に出来るし、そのシンプルさが魅力の遊びと言っても過言じゃない。

けれどその実、鬼ごっこというのは非常に鬼に有利なルール。精神的な余裕があるのは常に鬼の側だし、鬼は追うかどうかの選択が出来るし、そもそも努力次第で勝利条件に近付ける鬼に対して、逃げる側はどんなに頑張っても勝利条件である『逃げ切る』へと近付く事は出来ないから。基本的に鬼は単独である事、運が良ければずっと追いかけられずに済む事、そして何より鬼はタッチで交代する事によって釣り合いを取っているけど、もし鬼も複数いて、鬼の交代もなくて、逃げる側が鬼に対して圧倒的な戦力差を有していないなら……それは娯楽ではなく、狩りになる。

 

「はぁ…はぁ……っ!」

 

通った事があるような無いような通路を、息を切らして私は走る。休まず走っているのは、逃げる為。鬼の猛追を、何とか振り切る為。

追ってくるのは、茜とカイト君の影。もしかすると、ワイトさんの影もいるかもしれない。

 

(ワイトさんは…大丈夫、かな……?)

 

数分前まで、私は本物の方のワイトさんと行動していた。でもそこで上記の三人の影と遭遇して、かなり近い距離で遭遇してしまったせいもあって、私達は別方向に逃げざるを得なくなった。…この試練、色々と厄介な事はあるけど…一番はやっぱり、鬼の人数……!

 

「こっちが捕まれば捕まる程、相対的に追っ手の比率が増えるのは辛い……って、嘘でしょ…!?」

 

T字路を曲がって数秒後、通路の先からやってくるルナの影を私は視認。慌てて急ブレーキからの反転で逆向きとなり、選ばなかった方の道へと向かおうとするも…交差点に入った私の目に映ったのは、諦めずに追ってきていた例の二人。そこで私は反射的にバックステップ…つまり、ルナの影の方へと跳んでしまって、退路を自ら手放してしまった。

 

(不味い不味い不味い!この距離で一対三、それも挟撃状態ってのは非常に不味い…ッ!)

 

前後は視線を走らせながら思考を巡らせる私だけど、ここを乗り切る策なんて思い付かない。数回前にディールちゃんとアイから聞いた三角飛び突破も、碌に助走を取れない今じゃ跳んでる途中に触られてしまう可能性が高い。

…と、そこで感じる背後からの気迫。それに振り向いた私を待っていたのは、抱き着くが如く私へと飛び掛かってきているルナの影。

 

「ちょっ、待っ……!」

 

普段なら友達にこんな感じに抱き着かれても、驚きはすれど嫌な気持ちはしないのが私。でもそれは友達本人の場合であって、生きてるのかどうかも分からない影にそんな事されても嬉しくなんて全然ない。

飛び付きを避けきれなかった私は手首の辺りを触られ、今回もまた捕まってしまう。そして黒い穴に吸い込まれながら、私は思った。──この試練……シンプルに難しい…!

 

 

 

 

『ひゃわぁっ!?』

『うぉっ…!?』

 

ひたり、と首筋に走った冷たくて柔らかい謎の感覚。例えが上手く出てこない、でも間違いなくぞくっとしたその感覚に、私達女の子五人は悲鳴を、男の人二人は驚きの声を上げる。

 

「な、なんッスか今の!?ぞわっとしたッスよぞわっと!」

「い、今のって……まさか、ロリコンの舌…!?(がくぶる)」

『ロリコンの舌!?』

《ロリコンの舌!?何それ怖っ!?違うよ!?》

 

ロムちゃん成分95%位になってしまったディールちゃんの発言に、ワンガルー含めて唖然とする私達。その後文化祭における仕掛けの一つのように、こんにゃくを首筋に当てられただけだと判明したけど……ある意味ペナルティであるこれと同じ位、ディールちゃんの発言は心臓に悪かった。

……とまぁこの通り、また全員捕まってしまった私達は現在ペナルティを受けていたところ。ここまでのペナルティは全て罰ゲームと称せる程度のものとはいえ、やっぱり軽く流せるものじゃない。

 

「はぁ…なんかその内熱湯風呂とか鼻ザリガニとか出てきそうなペナルティだね……」

「はは……それはさておきイリゼ様、先程は申し訳ありません。別世界とはいえ軍人の自分があの時……」

「あぁいえ気にしないで下さい。というより、あの場は個々で逃げる他なかったですし…」

「そッスよワイト。そもそもやってる事は鬼ごっこッスし、あんまり肩肘張る必要はないと思うッス。…まぁ、具体的に何があったかは知らないッスけど」

「えぇと…それで、次はどうする?次も今回と同じく、出来る限り隠れてる…?」

 

脱線…とまでは言わずとも本題じゃないやり取りを少しした後、ルナの言葉で次の作戦会議がスタート。時間を意識せざるを得ない今回の試練だけど、リトライのタイミングはこっちで決められるという点だけはありがたい。

 

「影と遭遇するかどうかは運次第ですし、無駄に動くよりは隠れて体力温存した方が生き延び易いと思います」

「へぇ、前から思ってたけどほんとにディールちゃんって見た目より大人だね。…もしかして、アポトキシン4869の服用を…?」

「してません……」

「服用してたらそれはそれで凄い気もするけどな。…けど、俺としては完全運任せ…ってのもなぁ……」

「気持ちは分かるよ、カイト君。…実際隠れて見つからないのを期待するというのは、運によるところが多過ぎて作戦とは呼べないしね」

 

でも作戦会議に時間がかけられるからって、良い作戦が出るとは限らない。それに、ワイトさんの言う「運によるところが〜」という問題は、何もこれに限った話じゃない。

隠れてやり過ごす。全員で動き、見つかる度に誰かが身を呈して追走を止める。影を背後から密かに追う事で、最低でも影一人の位置は認識し続ける。…色々な策をこれまでに試してみたけど、どれも運次第で簡単に瓦解するというか、運が悪いと失敗するというより運が良くないと成功しないというのが実際のところ。勿論運次第な以上、試行回数を増やせばいつかは成功するんだろうけど……

 

「…皆、体力は大丈夫?」

「それは…うん、まだ大丈夫…だと思う。だから心配しないでイリゼ」

「私もまだ余裕だよ。……今はまだ、ね」

 

私の問いかけに、皆は大丈夫だと返してくれる。…だけどそれは、茜の言う通り『今現在』の話。今はまだ大丈夫でも、疲労は間違いなく積み重なっている。女神の私達だって人程はっきりとした悪影響はなくともパフォーマンスの低下には繋がるんだから、何回もやればそのうち…なんてのは現実的じゃない。

運任せではなく、きちんと自分達で勝利を引き込める方法。…それが、今の私達に必要な作戦。

 

「…鬼ごっこなのに、なんでこんなに爽快感ないんだろうな…」

「いやでも、遊びじゃない鬼ごっこってそんなものじゃない?ほら、逃走中とかリアル鬼ごっことか」

「前者はともかく、後者を同列扱いするのはちょっと違うんじゃ…(例えが怖いぞー、茜……)」

「というかウチとしては、一方的に逃げるだけってのがちょっと気に食わないッス」

「それを言っては本末転倒ですアイ様……」

 

とはいえそんな作戦簡単には浮かばなくて、次第に会議は雑談寄りになってしまう。しかもアイの発言で全員が苦笑い状態となってしまい…そこでふと、ルナが思い出したように口を開いた。

 

「…そういえば、ディールがイリゼとワイトさんの影に捕まった時変な事されたって話あったよね?」

「うっ…その話蒸し返すの…?」

「あ、ううんそうじゃなくて…私もディールの影に捕まった時、ちょっと変な事があったんだ」

『変な事…?』

「うん。落ちていく私を見ながらくすくす笑ってたっていうか…あの時の影は、ちょっと不気味だった…」

 

そう言いながらその光景を思い出したのか、表情を曇らせるルナ。曇った表情から、それが本当に不気味な笑い方だったんだろうなぁって事は伝わってくるけど……うーん、くすくす笑うディールちゃん?イマイチ想像出来ないっていうか、考えても可愛らしいとしか思えな──

 

「えっ……あっ、もぉぉぉっ!」

『……?』

 

……突然、ディールちゃんが怒り出した。下を向いたかと思えば急にぷんすかとし始めるディールちゃんは、やっぱり可愛らしい。…何に怒ってるのかは一切合切不明だけど。

 

「こっちが苦労してるって時に、好き勝手して…!むぅぅ…!」

「あの、ディールちゃん?急にどうしたのかな…?」

「いいよ、だったらわたしも……あの、一つ提案があります!次の回、わたしの影を見付けたら何とかしてわたしを呼んで下さい!始末しますから!」

「始末!?急にどうしたディール!?」

 

かなり意気込んで物騒な事を言い出すディールちゃんに、私達は揃って仰天。これをワイトさんが言うなら軍人って事もあってそれっぽいし、アイの場合も女神化時の雰囲気を考えるとそこまで驚きはしないと思う。まぁ勿論、ディールちゃんに容赦ない一面がある事は知ってる私だけど…それでもやっぱり、ギャップが…ね…。

 

「これは必要な事なんです!自らを戒める為に…!」

「な、何故急に自分に厳しい発言を…そこまで影の行為を気に病む必要はないと思いますよ?私の影も、妙な行動をしていますから…」

「いえ、わたしの場合は違うんです。色んな意味で」

「えぇ……?くすくす笑いにどれだけの意味が籠ってるんスかディール…」

「本人にしか分からない意味、とか?…というか、その見た目で棘のある発言聞くと教え子の一人を思い出しちゃうなぁ……」

「は、はぁ…それは知りませんけど……」

 

ここまで傍観又は独り言気味に突っ込む事の多かったディールちゃんによる、怒涛の(無自覚)ボケターン。そこにマイペースな茜の発言が入ったり、そこで急にディールちゃんがトーンダウンしたりして雰囲気は完全に雑談のそれ。でもここまで真面目な作戦会議後すぐリトライしていたし、休憩としてみれば悪くないのかもしれない。…にしても、始末かぁ…これ色々と超常的な試練としての鬼ごっこだからいいけど、もし普通の鬼ごっこでやったら大惨事……

 

「でも、正直ウチはディールにちょっと賛成ッス。だってウチ、さっきも言ったッスけど、逃げるしかないのは性に合わないッスから!…それに、戦うのは駄目で逃げるしかっていうのは、楽しくない思い出が……」

「あはは、アイは鬼ごっことの相性悪そうだね……」

「性に合わないも何も、それが鬼ごっこ……って、ん…?」

「…どうしたの?カイト君」

「…ちょっと思ったんだが…これ、戦った場合…というか影を倒した場合って、どうなるんだ…?」

 

何やら話が違う方向にまた変わる中、急に何か気になったような声を出すカイト君。気になった私が訊いてみると、カイト君は自分の抱いた疑問を口にして……そこで一度、私達は静まり返った。

それは、誰も答えられない…誰にも分からない疑問だったから。何故分からないかといえば、それはそこの説明がされていなかったから。

それから私達は、作戦会議を再開した。そして、その十数分後……私達はまた動き出す。話の中で見つけた、運に頼らない策を持って。

 

 

 

 

最初に遭遇したのは、茜さんの影。遭遇の形としては、ある程度距離がある状態での正対で……遭遇したのは、わたし達全員。

 

「おー、最初は私かぁ…腕が鳴るね!」

「やる気満々だな、茜」

「そりゃ、『私の影』なんて字面、すっごく素敵だもん!…まぁでもそれはさておき…皆、一気に畳み掛けて!私の能力はあくまで把握。理解であって一瞬で勝ち筋が分かる能力じゃないからね!」

 

言うが早いか床を蹴る茜さん。それに合わせて、わたし達もそれぞれ動き出す。でもそれは、茜さんの影(どう素敵なんだろう…って、今はそんな場合じゃないや…)に背を向け、逃げる為の行動じゃない。わたし達に逃げるつもりなんて、毛頭ない。

 

「多少忍びない…が、所詮は偽者……!」

 

こちらへと走り出す茜さんの影へ向けた、ワイトさんの射撃。それに影は驚いたように後退して…次の瞬間、その手に大剣が現れた。

多分これが、ワンガルーの言っていた「襲ってくるようなら」の場合。でもそんなのは分かっていて、分かった上で動いている。

 

「よ、っと!」

「上通るッスよッ!」

 

接近した茜さんの、重量を活かした上段斬り。再びバックステップで避けた影は反撃しようとするけど、斬撃と同時に身体を屈めた茜さんの上をアイさんが通過し飛び蹴りを仕掛けた事で、急いで防御。そこに左右からイリゼさんとカイトさんが斬りかかる。

 

「うん、そのままお願い!このまま連撃を重ねれば…!」

「大剣の性質上捌くには後退するしかないし、壁まで追い詰めれば…!」

「引っかかって上手く触れないもん、なッ!」

 

パワー、スピード、テクニック。それぞれの持ち味で斬撃と打撃を畳み掛けて、影をどんどん通路の奥の壁へと追い詰めていく。勿論影も簡単にやられてくれる訳がなくて、何度か反撃のチャンスを見つけていたみたいだけど…それを全て茜さんが止める事で、小さなチャンスも潰れていった。

能力も戦い方も同じだからこそ分かる、相手の動き。それは本物と影の両方に言える事だけど、影は一人でわたし達は七人。なら互角の勝負になんて……なる筈がない。

 

「ふ……っ!今だよッ!」

「応よッ!」

「後は…お願いッ!」

 

茜さんの影が壁にぶつかり視線を左右の通路へ向けた瞬間、肉薄したイリゼさん。でもそれは陽動で、本命は茜さんとカイトさんによる大剣二本の同時斬り。その攻撃で影の大剣は手から落ち……防御姿勢を取った影へ、アイさんが脚を振り抜く。

 

「胴が…がら空きッスよッ!」

「……ッ!?」

 

回し飛び蹴りが交差された両腕より下、脇腹へと直撃。振り抜かれた事で勢いよく吹き飛ぶ影。その先にあるのは、文字通りの『角』となっている曲がり角で……そこに身体を叩き付けられた茜さんの影は、床へと落ちて動かなくなった。

 

「…やったか?」

「ちょっ!?それはベタなフラグ……と、思ったけど…うん、倒せたみたいだね」

 

例の発言をしたカイトさんに、慌ててイリゼさんが突っ込むけど…予想に反して、影は元の霧状になってすっと消滅。…フラグクラッシャー?それともボス戦じゃないから?……っていうのは、どうでもいいとして…。

 

「お疲れ様、四人共。…やっぱり凄いね、殆ど反撃を許さないなんて…」

「まぁ、制限の事を考えれば実質同格四人に襲われてた訳ッスからね。相手がロボットに乗る方のヤマトでもない限り、こうなるのは当然ッス」

「何はともあれ、これでまず一人。幸先の良いスタートを切れて何よりです」

 

前衛を務めていた四人に駆け寄るわたし達。小さく笑みを浮かべながらそう言ったワイトさんの言葉に、わたし達も頷く。

カイトさんの疑問は、本当に何気ないものだったらしい。でも、それがこの作戦の……逃げるのではなく、倒すという選択の切っ掛けになった。ワンガルーは襲った場合どうなるかは言ったけど、戦闘禁止とは一言も言ってないじゃないかって。相手が多いなら、逃げ切れないなら、その相手を倒してしまえは逃げる必要もないじゃないかって。

全員で動けば、余程運が悪くない限り数の有利を取れるし、一人二人なら今みたいに圧倒出来るのがこの作戦のいいところ。しかも殲滅が勝利条件じゃないから、影と遭遇出来なくても問題はない。…え、わたし達が殆ど何もしなかった理由?それはほら、通路は全員で戦える程広くないし、別の影が来る可能性もあるでしょ?数で有利っていっても、わたし達はタッチされるだけでアウトだもん。

 

「次は…っと、何も知らずにのこのこやってきたな。……俺の影が」

 

と、そこで今度は左側の通路の先からカイトさんの影が登場。今度はわたしが魔法で進路を妨害して、その間にまたこっちは行動開始する。

 

「お三方は一旦お下がりを。カイトくん、連続でいけるかい?」

「これ位余裕です。…にしても、大剣二連戦で二回目が俺か…こっちも腕が鳴るぜ…!」

 

にっ、と口角を上げながらカイトさんが真っ直ぐ突っ込んで行って、イリゼさん達は一度後退。今みたいに誰かに疲労が溜まらないよう交代するのも作戦の一つ。カイトさんは連戦になるけど…それは相手がカイトさんの影だから。

 

「こうして戦うと…自分の動きが、よく分かる…なッ!」

「……!ワイトさん、援護します…!」

「あぁ、ルナさんも無理はしないように…!」

 

数回カイトさんは打ち合った後、大きく後ろへ跳躍。追おうとした影をわたしが衝撃波で押し留めて、入れ替わるようにルナさんとワイトさんが接近。

二人が持つのは、片手剣とナイフ。大剣とは対極の、スピードに重点を置いた武器。

 

「触れられてもいいなら、組み付くなり何なり出来るんだが、ね…ッ!」

「そこ…ッ!…くっ、やっぱり避けられる…!」

「いいやルナ、避けられてなんかないぜ…ッ!」

 

ワイトさんとぶつかる影の側面から放たれたルナさんの突きは、ギリギリのところで跳ばれて空振り。でもそれはルナさん一人だった場合で、跳んだ先へと炎が強襲。致命傷にはならないものの、カイトさんの影へとダメージが入る。

炎を炎で切り抜けたカイトさんの影は、構え直して前方へ跳躍。それをわたしは撃ち落とそうとして……

 

「ごめん、向こうからルナちゃんの影も来ちゃった!こっちは私が入るから、ルナちゃんお願い!」

「では、ディール様もそちらをお願いします!ここは我々三人で…!」

「あ…はい、任せました…!」

 

背後から跳んだ茜さんが、下から斬撃を迎撃した。大剣同士がぶつかり合う中、わたしとルナさんは反転してもう一体の影の方へ。

 

「私の影…なのに、この四人相手でも逃げないんだ。私の影って勇気あるね…!」

 

イリゼさんとアイさんを相手にするルナさんの影は、剣を振るいつつも時々電撃を放って牽制。そんな影に感想を零しながらも、ルナさんは低姿勢で走り込む。

 

(ここも…うん、無理に前に出る必要はないよね…!上手く足を止める感じで……!)

 

ここはそんなに広くないし、相手と能力差がある訳でもないから、慌てて援護する必要もない。だから魔法の準備はしつつも暫くは静観して……イリゼさんとアイさんが影の前方、ルナさんが後方という位置取りになった瞬間、わたしはここだ!…と魔法を放つ。

 

「……っ!良い風、ッスね…!」

 

わたしが打ち込んだのは、痛くなんてないただの強風。でも影にとってそれは向かい風で…イリゼさん達にとっては追い風。

その風で動きが一瞬止まった瞬間、アイさんは太腿のナイフを風に乗せて投擲。そのナイフが肩に刺さり、影がバランスを崩した瞬間……同じく風に乗ったイリゼさんと、影を盾に風を避けたルナさんが肉薄をかける。そして……

 

「これで…ッ!」

「ばいばい、私の影…ッ!」

 

バスタードソードと片手剣による、前後同時の横一閃。咄嗟に影も避けようとしたけど、立て直しは間に合わず……斬り裂かれたルナさんの影は、茜さんの影と同じように消滅した。

 

「ふぅ…そっちはどうッスか?」

「ご覧の通り、倒したぜ」

「じゃあ、これで三人目だね。よいしょっと」

 

そう言って大剣を担ぐ茜さん、それにカイトさんの足元では黒い霧が消えていっている。…今三人なら、残りは四人…って事は、もう全員と一度に遭遇しても、かなり有利って事だよね…。

 

「それでは、少し移動した後休憩するとしましょうか。今の戦闘の音で、他の影が近付いてきているかもしれません」

「そうですね。皆さん、お怪我はありませんか?」

「大丈夫だよディール。……でも、うーん…」

「……ルナ?何か気になる事でもあるの?」

「あ、イリゼ…実はこの剣、普段使ってるのとは違う物だから、ちょっと感覚がね……でも、体調が悪いとかじゃないから気にしないで」

 

それからわたしの質問を経て、わたし達は通路を移動。それなりに視界が確保出来る場所で十分位休憩した後、またわたし達は歩き出す。

開始から十五分足らずで、三人を撃破。休憩後も暫くしてからイリゼさん、アイさんの影とそれぞれ遭遇したけど、イリゼさんの影はイリゼさんの指示の下遠距離からの飽和攻撃で削って、アイさんの影は素早い攻撃と素手で防御するのは困難な高威力の攻撃とを組み合わせる事で、三人と同じく余裕を持って撃破。そうして残り時間十分強となったところで、残りの影は後二人となっていた。

 

「後は、ディールとワイトさんの影…時間的にも、ここからは下手に動かない方が安全だったりするのかな…?」

「かもッスね。でも、ディール的にはこれで達成しても消化不良になるんじゃないッスか?」

「それは……いえ、やっぱりいいです。ここからわざわざ探し回って、それでもしも失敗なんてしたら皆さんに悪いですし……」

 

さっき(と言っても一時間以上前だけど)のわたしの発言を気にしてくれるアイさん。でもわたしはふるふると首を横に振る。

確かにわたしは、まだわたしの影を倒せていない。でもこの気持ちは達成とは無関係な、わたし個人のやりたい事。だからそんな事で皆さんにリスクを負わせるなんて…と思って否定したんだけど……

 

『……あ』

「へ?…あ……」

 

噂をすれば影がさす…この言葉は今この瞬間の為にあったんじゃないかと思う程、絶妙なタイミングでわたしの影及びワイトさんの影と遭遇した。…影がさす、だけに。

どこかでわたし達が下克上をしている事を知ったのか、二つの影は最初から臨戦態勢。ワイトさんの影はわたしの影の前に出て、わたしの影はわたしと目が合った瞬間くすりと笑って……わたしの中の怒りが、再燃する。

 

「流石ワイトさんの影。率先してディールちゃんの影を守ろうとしてますね」

「そのようですね…如何しますか、ディール様」

「……前言撤回です。やっぱりあの影、懲らしめないと気が済まない…!」

 

杖の先に氷の剣を展開して、わたしは突進。すぐに影のワイトさんが撃ってくるけど、二発目の時点でこっちのワイトさんも射撃を開始したから、一気にわたしへの精度は甘くなる。

わたしの影も、わたしと同じように氷の剣を展開。でも、影は杖を振り上げて…そのまま氷を飛ばしてきた。

 

「っとと……!」

「援護するよディールちゃん、ディールちゃんの戦い方なら…私もそこそこ知ってるからね…ッ!」

 

飛んできた氷を斬り払うと、イリゼさんが横からすり抜けて斬撃。わたしの影がそれを杖で受け止めるとイリゼさんはバスタードソードを両手持ちに切り替えて、力比べを開始する。

幾ら魔法で強化されていたとしても、元々のわたしは非力。だから自然と、側面や背面のガードは緩めに。

 

「えぇいっ!」

「……!」

「おっと、この戦況で余所見とは…私の影の割には脇が甘いな…!」

「こっちは私達に任せて、ディールちゃん!」

 

背後に回ってわたしは刺突。視界の端に映るのは、わたしの影からワイトさんの影を引き離すワイトさん、茜さん、アイさんの姿。

それに、ルナさんとカイトさんもわたしの援護をしてくれている。この面子ならわたしが援護した方が効率的なのに、わたしの事を考えて援護に回ってくれている。…なら……

 

(わたしの気持ちもそうだけど…皆さんの為にも、きっちり決めなきゃ……!)

 

わたしは左右にサッカーボール位の氷塊を精製し、身体強化全開で接近。迫る魔法はカイトさんが炎で迎撃してくれて、イリゼさんとルナさんは肉薄……と見せかけてそのまま通過。そこへわたしが氷塊を打ち込んで…影のわたしは、障壁を展開した。

もしもわたしなら、咄嗟の時は近接技じゃなくて得意の魔法で防ごうとする筈。影のわたしの行動はそんな想定通りだったから…わたしはそれを踏まえて、足元へと放っていた。

床に当たった氷塊は、当然崩壊。でも、そこから床が凍り始め…影のわたしの足は、床に固定される。

 

「もらった……ッ!」

 

目を見開くわたしの影。自分と同じ姿の相手を攻撃するというのは、色々思うところがあるけど…結局は偽者。ワンガルーが用意した、見た目だけの存在。だからわたしは杖を握り締め……わたしの影を、斬り裂いた。

即席の氷結はすぐに溶けて、斬られた影はぱたりと倒れる。確かに芯で捉えた感覚があったし、影の反応もこれまでと同じ。そして、わたしの感覚を証明するように、影は斬られた地点から消滅していき……

 

「なぁぁ……っ!?」

 

──消え去る寸前に、わたしの影はまたくすくすと笑っていた。わたしがムキになっていた事を、からかうように。

 

「やったね、ディールちゃん。…って、ディールちゃん?」

「むぅ、むぅぅぅ……!」

「え、えーっと…どうしたの…?っていうか結局、どうしてディールちゃんの影は不気味な笑い方を…?」

「知りませんそんなの!きっとワンガルーの悪趣味とかですよ!(ぷんすか)」

「あ、そ、そっか…(つ、追求はしないでおこうかな…怒り収まってないみたいだし…)」

 

イリゼさんがそっと離れていく中、ぷくーっと頬を膨らませるわたし。何だか上手く乗せられたみたいで、本当に「むぅぅ…!」って気持ちが晴れてくれない。

そんなわたしを他所に、ワイトさんの影も撃破されて消滅。その影の消滅を持って鬼が全ていなくなり…それはつまり、わたし達にとっての敗北条件が成り立たなくなったという事。だからそこから先は何も起きず……残り時間がゼロになったところで、腕時計からファンファーレが鳴った。それから現れたワンガルーは「いやぁ、まさかこんな手を使ってくるとはね…ほんとに皆容赦ないなぁー☆」とか言いつつも、わたし達を次の階への扉へと案内してくれる。

…という訳で、第五の試練も無事達成。だけどその段階になってもまだ、わたしのほっぺたはぷっくり膨れたままだった。




今回のパロディ解説

・アポトキシン4869
名探偵コナンシリーズに登場する、薬の一つの事。女神の身体は基本成長しませんし、ロムラムでも年月が経てば見た目に反して大人…って感じになる可能性はありますね。

・逃走中
バラエティ番組のタイトル及び企画の事。これもベースは鬼ごっこですよね。大人が大真面目にやる鬼ごっこ…みたいなものじゃないかと思います。

・リアル鬼ごっこ
ホラー小説及びそのメディアミックスのタイトルの事。こちらはどちらかといえばデスゲーム。もし第一話中盤までの雰囲気なら…こっち寄りになっていたかもしれません。

・ロボットに乗る方のヤマト
機動戦士ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの事。同格四人(四機)との戦闘といえば、SEED序盤から中盤までの中心となる展開ですね。
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