超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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前話である第十一話に、ほんの少しだけ加筆修正を行いました。…が、話の流れには一切関係しない部分なので、ご安心下さい。


第十二話 強い相手だからこそ

実を言うと、かなり最初の方からイリゼとアイの事は気になっていた。…というと勘違いされそうだから、ちゃんと言おう。壁を豆腐の様に蹴り砕くアイの姿や、剣を台座ごと引き抜いたイリゼの姿を見て、一度手合わせしてみたいと思っていた。

勿論、アイと同じく壁を斬り裂いていった茜も強いと思ったし、他の三人も凄いと思うところは沢山ある。でも二人は、ネプテューヌと同じ接近戦を主体とする女神。そんな二人や皆と共に、能力を再現された全員の影と戦って……俺の中での手合わせしてみたいという熱は、再燃した。

 

「…ふっ……!」

 

ワンガルーに話して用意してもらった部屋で、大剣を手に軽く素振り。目的は身体を温める事だから、あまり激しく振ったりはしない。

 

「……にしても、来ないな…。ゆっくりしてからでいいって言ったし、流石に早く来過ぎたか…?」

「待たせたッスね、カイト」

「ごめんね、待たせちゃって」

「…っと、噂をすれば……」

 

一旦戻るか…?と思った瞬間、扉が開いて現れたイリゼとアイ。近付いてくる二人に対し、俺は問題ない、と軽く手を振る。

こういうのは、熱を持った時に言うのが大切。そう思って俺は第五の試練終了後、二人に手合わせを申し込んだ。…一度、模擬戦をしてほしいと。

 

「悪いな、俺の我が儘に付き合ってもらって」

「問題ないッスよ。それに、実を言うとウチもイリゼと一戦…いや、リベンジマッチをしたいと思ってたッスから」

「え、リベンジマッチ?…あれ、私達って戦った事…ない、よね…?」

「あるッスよ、イリゼの影とは。…武器なしのイリゼを振り切れずに捕まったなんて、負けたも同然ッス」

 

そう言って肩を竦めるアイの顔は、ほんの少しだけ悔しそうに見える。

多分アイが言っているのは、第五の試練一回目の事。…けど、それって確か……

 

「ま、待った。それは普通の鬼ごっこと同じで『戦闘NG』って思ってた段階での話だよね?しかも、アイはその時一対二になって捕まったんじゃ……」

「だとしても、負けは負けッス。…まぁ、チャンスがあるならリベンジしたいなぁ位の気持ちッスから、断ってくれても構わないッスよ?」

「そっか…なら、そのリベンジマッチ…受けて立つよ」

「ふっ、イリゼならそう言ってくれると思ってたッス。…撤回は、受け付けないッスよ?」

「いいよ別に。…撤回する気なんて、さらさら無いからね」

 

バチバチとぶつかる二人の視線。二人共敵意は全然ない…なのに戦場の雰囲気を思わせるその視線に、俺はごくりと生唾を飲み込む。

凄ぇ、女神化してなくてもここまでの雰囲気を出せるのか…。…イリゼとアイの、全力戦闘。それが今から行われるなら、一秒足りとも余所見は出来ねぇ……

 

 

……って、あれ…?

 

「……俺の手合わせは…?」

『あっ……』

「あっ、て…二人してあっ、って……」

 

まさかのダブルうっかりに、俺はがっくりと肩を落とす。…ネプテューヌもそうだしディールも第五の試練で変わった一面が出てきたし、うっかりは女神の共通点なのか…?

 

「ご、ごめんねカイト君。…えと、私とアイ、どっちからにする?」

「まずはイリゼの方が良いんじゃないッスか?体術が基本のウチより、お互い剣を使う勝負の方が雰囲気出ると思うッスよ」

「あー……って事だけど、それでいい?」

「俺はどっちからでも構わない。それと、出来れば女神化して戦ってくれるか?…女神からすれば、生意気だって思うのかもしれないが…俺は、全力で戦ってほしいんだ」

 

気持ちを切り替え、戦ってみたいという思いを燃やして、俺はイリゼの目を見据える。

俺は二人に頼み事をしている身で、しかも俺はただの人間。そんな俺が女神に全力で…なんていうのは生意気だって分かってて、だからこそ俺はそう頼んだ。…だって、この上で真剣な気持ちを示さないなんて…それこそ二人に、失礼だもんな。

 

「…全力の勝負、か…私ってそういう人に縁があるのかな…」

「…イリゼ?」

「何でもないよ。……けど、そういう事なら…」

 

首を振り、小さく笑みを浮かべたイリゼ。そしてイリゼは…女神化。柔和な雰囲気を感じさせる姿から、威風堂々とした原初の女神…その複製体の姿へと変化する。

 

「…さぁ、勝負だよカイト君」

「あぁ(…どっからでもかかってこい、ってか…)」

 

長剣の斬っ先を斜め下へと向けたイリゼは、そう言って俺の動きを待つ。自分から仕掛けるつもりは…ないらしい。

イリゼから感じるのは余裕。けれどその目は、はっきりと俺を見据えている。…いいぜ、だったら……

 

「──いくぜ、イリゼッ!」

 

挑戦の意思を込めて吼えた俺は、一歩踏み込み鋭く斬り上げ。その動きに合わせて炎が噴き上がり、逆巻くようにイリゼを襲う。

小手調べなんて必要ない。相手は間違いなく強いんだ、だったら最初から本気を出すに決まってる…ッ!

 

(さぁ、どうするイリゼ。避けるか?防ぐか?それとも……)

「……はぁッ!」

「……ッ!?」

 

炎でイリゼの姿が見えなくなり、俺がイリゼの行動を考え始めた次の瞬間、炎が爆ぜて現れるイリゼ。一瞬の内にイリゼは肉薄し、反射的に掲げた大剣の腹に衝撃が走る。

 

「……流石にこれは防ぐんだね。にしても、初撃であの火力とは…結構大胆だよね、さっきの試練でも思ったけどさッ!」

「そりゃ、手を抜ける相手じゃないからな…ッ!」

 

殺し切れる衝撃じゃないと判断した俺は、後ろへ跳んで勢いを緩和。着地するや否や放たれた次の一撃は右に避け、身体を回しながら大剣を振るうと、同じく回転斬りの軌道に入っていたイリゼの大剣と刃が激突。そのまま俺達は斬り結ぶ形に。

 

(やっぱ手は抜けねぇな…油断すれば、その瞬間に押し切られる…!)

 

数秒間の力比べの末、俺は左手を大剣から離す。当然すぐに俺は押されて体勢が崩れるが、崩れ切る前に俺は左手で炎の殴打。だか当たる寸前にイリゼは跳び、俺の打撃は空振りに終わる。

 

「……っ、まだまだ…ッ!」

 

離したままの手で炎弾を撃ち込みながら、イリゼを追って床を蹴る。翼を展開していないイリゼは下降しながら斬り払うが、炎の衝撃はしっかりと入っている。

そう、まだイリゼは翼を展開していない。まだイリゼは…全力じゃない。

 

「ここだ…ッ!」

「お、っと…ッ!その程度じゃ、やられないよ…ッ!」

「だろう、な…ッ!」

 

若干体勢が崩れた状態でイリゼが着地した瞬間、俺は真っ直ぐに大剣を突き出す。対するイリゼは長剣の腹で突きを側面から受ける事により軌道を逸らし、更にそのまま振り出してくる。

それを剣先からの炎を逆噴射とする事で避け、続けて大剣を横に振って殴り付ける俺。この一撃でイリゼは吹き飛び……いや、違う…ッ!俺の力で、また跳ばれた…!?

 

「次は……私からいくよッ!」

 

空中で長剣を片手持ちに変えたイリゼは、某スパイダーなヒーローの如く超低姿勢で着地…したと思う間もなく再び跳んで、お返しとばかりに刺突を仕掛けてきた。

 

「ぐ、ぅ……ッ!」

 

戦いながら、顔をしかめる俺。結果から言うと、その刺突はギリギリ避けられた。その後も何度か掠める事はあったが、完全に攻撃が入った…という瞬間は一度もなかった。

だが、だけど俺は押されている。分かってはいたが…イリゼは速く、鋭く、そして強い。

 

「こ、の……ッ!」

「反撃はさせないよッ!」

 

片手持ちの長剣が、流れるように次々と振るわれる。一撃一撃はそこまで重くないが、イリゼの言葉通り反撃するチャンスがない。どうしても大振りになってしまう大剣の短所を突かれた俺は、先程からずっと防戦一方。

 

(全然、思うように戦えねぇ…イリゼのペースに、乗せられてるのか…?)

 

防御をすると、反撃するより先に次の斬撃が迫ってくる。左右や後ろに跳んでも、すぐに距離を詰められる。ならば攻撃ごと…と強引に斬りかかると、そのタイミングでイリゼは両手持ちとなって止められてしまう。…くそ、焦れったい…!このままじゃ消耗するだけだって分かってるのに、切り抜けられないのがどうしようもなく焦れった……

 

「足元、甘くなってるよッ!」

「なッ!?…ぐぁッ!」

 

…なんて、雑念を抱いていたのが不味かった。もっと言えば、長剣へ意識を傾け過ぎていて、素早く出された足払いに対応出来なかった。

転びかけた俺は、本命の一撃が来ると思って大剣で防御。だが放たれたのは脚を突き出すような回し蹴りで……大剣諸共、俺は背後へ吹っ飛ばされる。

 

「…今のは、蹴りを選んで正解だったかな」

 

吹っ飛び、床に落ち、勢いのままに回転。途中で大剣を床に押し付け何とか止まる事が出来たが…正直少し、頭が揺れている。

防御は出来たが、今の言葉から考えるに、イリゼは防御を踏まえて蹴ってきた。完全にこれは、イリゼのペース。…分かっちゃいたが…ここまで、ペースに乗せられるもんなのかよ…。

 

(…でも、距離は空いた。一度落ち着け俺。落ち着いて、イリゼの連撃を凌ぐ方法を……)

 

俺の動きを伺っているのか、イリゼは動かない。そのイリゼに向けて大剣を構え直しつつ、俺は考える。

勝ちに拘るつもりはないが、力を出し切れないまま終わるのは嫌だ。そして今のまま戦ったら、きっと俺はそうなってしまう。だから俺は考えなきゃいけない。策を、手段を、対応する術を……

 

「……って、そうじゃねぇだろ俺…」

「……カイト君?」

 

ぼそりと呟いた俺の言葉に、イリゼが反応する。まぁそれはそうだ。イリゼからすれば、俺はいきなり脈絡のない事を言ったんだからな。

でもそれは、イリゼに向けた言葉じゃない。俺に対する、俺への言葉。

頭では分かっていた筈なのに、心で勘違いしていた。ここまで人の姿のイリゼと試練を突破してきたからか、負けたとはいえネプテューヌと全力の勝負をしたからか、強さにおいても身近な存在だと勝手に考えていた。だがそれは違う。女神ってのは俺よりずっと強い存在で、だからこそ俺が本気で手を伸ばしたいと思った存在。そんな相手に、普段とは違うやり方で、ごちゃごちゃ考えながら戦うのが俺の出来る全力なのか?……いいや、そんなのは…違うッ!

 

「…悪い、ちょっと考え事をしてただけだ。やっぱ凄ぇよ、イリゼは。だから……」

「…………」

「…ここから先は、第二ラウンドだッ!」

 

自分の中の余計な考えを捨て、大剣を腰溜めから横に振り抜く俺。放った炎は扇状に広がり、その光で床と天井を赤く照らす。

 

「仕切り直しって訳ね。いいよ、そっちがその気なら……」

「せぇいッ!」

「……っ!」

 

炎の波はイリゼに迫るが、それをイリゼは大上段からの一太刀で両断。続けて床を蹴り、俺へと接近してきたが……跳んだのは、イリゼだけじゃない。

 

「攻撃は、最大の、防御、ってなッ!」

「それは、確かに…一理ある、よね…ッ!」

 

脚力と炎の噴射で大きく跳んだ俺は、迫るイリゼに向けて一撃。弾かれてもすぐ床を踏み締め、次の一撃。柄を強く握り、思い通りに戦う自分をイメージして、何度も斬撃を叩き付ける。…あぁ、そうだ。やっぱりそうだ。大剣で相手に合わせた戦い方をするなんて、そもそも間違ってるんだよな…!

 

(……ッ!今だッ!)

 

さっきより体力の消耗は激しいが、その分今はやり合えている。そう実感した俺はイリゼの長剣が下がった瞬間上段から振り下ろし、強引に鍔迫り合いの様な形へ持ち込む。

 

「…力比べって訳…?女神に対して力勝負なんて、カイト君は相当自信が……」

「あるさ、炎含めた力勝負ならな…ッ!」

「く……ッ!」

 

振り下ろしの分の勢いが終わり、少しずつ押し返され始めたところで俺は炎を放つ。だがその炎は、イリゼに向けたものじゃない。大剣の背から噴き出す、ブースターとしての炎。

俺の力と炎の勢いで、再び俺が押し始める。上から押し付けられる形のイリゼは段々と体勢が低くなり、膝も曲がっていく。…よし、いける…ッ!このまま力の限りで、小細工なしの力で……ッ!

 

「……単純ながらも力強い策…だが、その手を打てるのが自分だけだとは…思うなよッ!」

「んな……ッ!?」

 

──そう感じた瞬間、イリゼの長剣の後ろで何かが爆発した。その爆発は俺の炎にも負けない程に激しく……次の瞬間、俺は一気に弾き飛ばされる。

 

「ふっ……面白くなってきたね、カイト君ッ!」

 

後退させられた俺へと飛ぶ、イリゼの長剣。その投擲にはひやりとしたが、当たる事はなく俺は回避。外れた長剣はそのままイリゼから遠く離れた壁に刺さり……だがイリゼの手には、武器があった。

 

「まだまだいくよッ!」

(別の剣……!?)

 

長剣よりも幅が広く、湾曲している片刃の剣。後から聞いた話じゃ柳葉刀と呼ばれる武器をイリゼは手にしていて、それでイリゼは斬りかかってくる。

驚いた。さっきの爆発も、いきなり別の武器を使い始めた事も。…だが、その事以上に俺はイリゼに同意している。イリゼの言った、「面白くなってきた」という言葉に。

 

「負ける、かよ…ッ!」

 

振り抜いた大剣から即座に右手を離し、返す刃の如く炎を放射しイリゼへ追撃。寸前で右手は手首を掴まれる事で止められてしまうが、ならばと俺はヘッドバット。流石にこれはイリゼも予想外だったようで…ここで初めて、俺の攻撃がイリゼに入った。掠るような一発だが……それでも俺の一撃が、イリゼに通る。

 

「…くしゅん……!」

(あ……)

 

後ろへと跳ぶイリゼから聞こえた、あまり戦闘中らしくない音。俺の頭突きが当たったのはイリゼの鼻で……音の原因も、多分それ。

…と、和みそうな一瞬だったが、気を緩めてる場合じゃない。いつの間にか俺とイリゼの立ち位置は反転していて、着地したイリゼは長剣を引き抜く。

 

「やってくれたね、カイト君…!」

「いや、今のは偶然…うぉ…ッ!」

 

少しだけ顔を赤くしながら突っ込んでくるイリゼ。最初の数秒だけは二刀流で、そこからは元の長剣一本に戻って再び素早い斬撃を打ち込んでくる。

そこで俺は後ろに跳び、追撃する前に炎の柱を展開。…と同時に脚へと力を込めて、左斜め前へと再跳躍。俺の動きを察知し身構えたイリゼへと向かって、柱と挟み込むような攻撃を放つ。

 

(まだ俺は成長の途中…だからなんだって、挑戦だ…ッ!)

 

力の限り大剣を振るう。炎を放ち、打撃も混ぜて、俺の戦い方をイリゼにぶつける。敵わないかもしれない。まだイリゼには隠し球があるのかもしれない。でも、それでいい。大切なのは、今俺がどう思っているかって事だ。

 

「吹き、飛べ……ッ!」

「っと…!……燃えるね、この勝負…でも、このままじゃ埒があかないし……私も大胆に、いこうかなッ!」

「……!」

 

斬り下ろしと火炎の同時攻撃を避けたイリゼは、何度も跳躍して俺との距離を大きく開ける。咄嗟に追おうとしたが、流石に女神のスピードには敵わない。なら息を整えて次の攻撃の準備に…と俺が考える中、跳躍を止めたイリゼが動く。

イリゼは自分の身体が完全に隠れ切る程の盾を作り出し、次の瞬間突っ込んでくる。そうか、さっきの剣もああやって作って…って、考えてる場合じゃねぇ……!

 

(速いな、またあの爆発で加速してるのか?……でも、力比べなら好都合だ。今度こそ、イリゼの力に…打ち勝つ…!)

 

大きく横に跳んで突進を避けると、イリゼは通り過ぎた後暫くして反転。再び盾をこちらに向け、一気に加速して突っ込んでくる。

びっくりする程単純な、一直線の体当たり。けどその分純粋に力が込められている訳で、中途半端に止めようとすれば跳ね飛ばされてしまうだけ。だが俺は逃げない。だからこそ俺は両足で床を踏み締め、大剣を構え、その背に炎を燃え上がらせる。

迫る大盾、迫る衝撃。その盾を真正面から見据えて、俺はギリギリまで引きつける。一秒でも、一瞬でも長く力を溜め、全力でもってぶつかる為に。そして衝突の寸前に力を解放。全身の力をこの一刀に込め、炎も限界まで噴射し、背後から空へと登るが如く斬り上げた大剣が大盾と激突し……

 

 

 

 

──いとも簡単に、盾は吹っ飛んだ。何の障害もなく、カコーンと。

 

「……へっ…?」

「貰っ…たぁぁぁぁああッ!」

「な……ッ!?」

 

一瞬意味が分からず呆然とした俺の耳に響く、イリゼの喚声。飛んでいった大盾の背後、まだ大剣の届かない位置にイリゼの姿が現れた事で……俺は気付く。今の突進が、盾単体で行われていた事に。恐らくはあの爆発で盾だけを先行させ、囮としてわざと吹き飛ばさせた事に。

 

(しまっ……!)

 

今の一撃に全力をかけてしまった俺は、回避も防御も間に合わない。結果的に必要以上の力を叩き込んでしまったせいで、大剣を引き戻せない。一方のイリゼの長剣は今にも俺へと届きそうで、届くまではもう一瞬の間もなく……だがその長剣は、当たる事なく空振った。勢いが付き過ぎて回避に移れなくなった俺だが、勢いが余り過ぎて大剣に身体が引っ張られ、その結果俺の身体は長剣の軌道から外れていた。

 

「……っ…!詰めが甘くなった…!」

 

偶然とはいえ空振りは空振り。だからかイリゼは真上へ跳んで、次の攻撃に移ろうとする。一方のよろけた身体を立て直しつつも、跳び上がるイリゼを見上げ、少しだけ考えて……

 

「…はぁ、これは俺の負けだな…うん、参った!」

「え……?」

 

大剣を離し、両手を軽く上げて降参の意思を示した。イリゼはそんな俺の行動に目を丸くする。

 

「ま、参ったって…いいの?」

「あぁ、いいんだ。さっき避けられたのは完全に偶然だし、ちょっとでも力加減が違えば避けられなかっただろうしな」

「…私は運も実力の内…っていうか、偶然を味方に付けられるのも一つの能力だと思うよ?」

「だとしてもだ。…それに正直、これ以上続けると模擬戦じゃ済まない怪我をしそうだから、な」

 

目を瞬きながらも降りてきたイリゼに、俺は晴れやかな笑みを浮かべて正直に返す。…あぁ、そうだ。この模擬戦は俺の負けだが…こういう負けなら、清々しい。

 

「そっ、か…でも、凄かったよカイト君は。まだちょっと荒削りなところもあるけど攻撃能力は本当に高いし、剣からは精神力の強さも感じたしさ」

「女神にそう言ってもらえるなら嬉しいな。…けど、精神力の強さか…それはあんまり意識した事ないが……」

「心の強さって、はっきり分かるものじゃないからね。…ほんとにカイト君は強かった。もし、私が女神化せずに戦っていたら……」

「…戦っていたら?」

「…もう少し、良い勝負になったかもね」

「あ、自分が負けてたとは言わないんだな…」

 

不敵な笑みを浮かべてそう言うイリゼに、思わず俺も笑ってしまう。もしもの話なのに、自分の勝利は譲らないんだな、って。

 

(……荒削り、心の強さ…折角イリゼが相手をしてくれたんだ。ただ楽しかっただけじゃなくて…俺はこれも、糧にして強くなる…!)

 

それから俺はイリゼの言葉を反芻し、ぐっと拳を握る。ネプテューヌにも負けた。イリゼにも負けた。だが俺の心は、まだ上を目指してる。そしてこの経験を、俺の中で燃える炎を無駄にしなければ…きっと俺はもっと強くなれると、信じている。

 

「いやぁ、名勝負だったッスよ二人共。勝ったイリゼは勿論ッスけど、女神を相手にここまで戦ったカイトも凄いッス」

「ありがとな、アイ。…でも、連続して褒められるのは少しこそばゆいな…」

「あー、その気持ちは分かるッスよ。…しっかしほんと良い勝負だったッス。ウチはそこまで好戦的なタイプじゃないと思ってたッスけど、二人の勝負を見てたらかなり燃えたッス。だから……」

「……?あれアイ、ちょっといつもと声音が違う気が……」

 

 

 

 

「──早速ウチとも勝負してもらおうじゃねぇか、イリゼッ!」

「……──ッ!?」

 

……その瞬間、俺がアイにも賞賛され、そういえばアイもイリゼにリベンジを申し込んでたんだったな…と思った瞬間だった。背後から近付いたアイが、雰囲気の違いに触れつつイリゼが振り向く中女神化し……視認すら困難な程の蹴りを放って、イリゼを壁まで吹き飛ばしたのは。

 

「ちょっ、あ、アイ…!?」

「…んぁ?何だよ、防ぐかと思ったら諸に受けてんじゃねーか。はっ、そんなもんかよイリゼ」

「そんなもんかよって…よ、容赦ないな……」

「容赦ないんじゃなくて、これ位は防ぐと思っただけだ。…けどまぁ、流石にちょっと配慮が足りなかったかもな。あー、悪ぃイリゼ。連戦だったし、もう少し一発目は緩い方が良かったよな。いやほんと悪い──」

 

よっぽどその気になっていたのか、闘志を隠そうともしないアイ。女神化しても基本物腰が柔らかかったイリゼとは対極の、かなり荒々しい雰囲気に俺は苦笑いしつつ内心でイリゼを心配する。…いや、心配しようとしたところで……今度はアイが、吹き飛ばされる。

 

「…へっ……?」

「──驕るなよ、赤薔薇の女神。確かにその強さに疑う余地はない。確かに今の一撃は重かった。だが…私は滅びに瀕する信次元の人々に平和と繁栄をもたらし、人の時代の礎を築き上げた原初の女神の複製体。その私を一撃で倒せるなどと……思わないでもらおうか」

 

再び起きた突然の事態に俺が目を見開く中、そこにいたのは壁が砕けた事で舞い上がった煙を四散させながら現れたイリゼと彼女の一撃。対するアイは反対側の壁へとぶつかり、先程のイリゼと同じような状態に。

聞こえてきたのは、イリゼの口上。自身の力に絶対の自信を持つ、女神の言葉。

 

「…やってくれるじゃねーか、イリゼ…ふん、だったら撤回してやるよ…謝罪も、配慮もな…」

「当然の判断だな。…して、どうする?今の一撃で手傷を負ったというなら、仕切り直しをしても……」

「手傷?今の一撃で手傷を負わせられたと思ってんなら……ちょーっと、判断力が足りねぇんじゃねーの?」

「…無傷はお互い様、か。いいだろう、ならば……」

 

 

『どちらが強いか、はっきりさせよう(ではないか・じゃねーか)ッ!!』

 

イリゼが鋭い視線を向ける煙の中から、瓦礫を蹴散らしアイもまた現れる。俺が戦った時とは違う、剣呑さを感じさせる二人の女神。そして二人は、爛々と目を瞬かせ……斬撃と蹴撃が、激突する。

 

(……っ…凄ぇ……)

 

そこから始まった、手加減ゼロの全力勝負。女神と女神による、神域の戦い。その戦いを前に、俺は言葉を失い……自然とそんな感想が、胸の中に浮かんでいた。

 

 

 

 

「んんっ…ぅ……」

 

あんまり慣れないお布団の中で、私は目覚める。目を開けると、そこは天井も壁も白い大部屋。ここで目が覚めるのももう何度か経験したけど……やっぱり夢じゃないみたい。

 

「あ、おはよールナちゃん」

「…おはよ、茜……」

 

ぽけーっとしながら身体を起こすと、茜から声をかけられた。起きて早速女の子からおはようと言われるなんて、何だか特別な関係みたいだなぁ…。…よく分からない内に謎の空間に連れてこられて、怪しいぬいぐるみに変な試練を受けさせられてる者同士っていう、物凄く特異な関係性ではあるんだけど。

そんな事を思いながらお布団を出た私。すると目に入ってきたのは、人のいない三つのお布団と、まだ寝ているディールと、そのディールを側でにこにこと眺めている茜の姿。

 

「……何してるの?」

「眺めてるの」

「あ、そ、そう…」

 

半眼で訊いてみたら、見れば分かるよ…と言いたくなる答えが返ってきた。合ってるけど、私が聞きたいのはそういう事じゃない……。

 

「いやー、ほんとに可愛いよねディールちゃんって。特に寝てる姿なんてとってもキュートだよ?」

「…まぁそれは…否定しないけど…(わ、ほんとに可愛い…ちょっとほっぺつんつんしたい…)」

「何人か中々に壮絶な世界…いや、次元?…から来てるのに、ディールちゃんだけはきららな次元から来てそうだよね」

「それはどうなんだろう…案外ディールも厳しい経験してるのかもよ?後、きららな世界でもがっこうで暮らしてる人達みたいなパターンもあるし」

「いやいやそんな事…ないとは言い切れないか…他ならぬ私がそうだし……」

(……え、自画自賛…?)

 

なんて感じにディールを挟んで緩い会話をする事数分。寝顔を一通り楽しんだところで、私は不在の二人が気になり出す。

 

「…そういえば、イリゼとアイは結局戻ってこなかったね」

「うん、何してるんだろう……っと、ディールちゃんおはよ」

「おはよう、ディール」

「ふぁぁ…あぅ、おはよぉ……ご、ございます…」

「…行ってみる?」

「うーん…ま、そうだね。ここにいてもやる事ないし」

「……?」

 

可愛らしい寝起きの挨拶を聞いた私達は、ほっこりしながら立ち上がる。何をしてるかは知らないけど、私達はどこの部屋へ向かったかは知ってる…っていうか聞いている。だから私と茜はディールの意識がはっきりするのを待って、三人揃ってその部屋へ。

 

(ほんと、何してるんだろう……まさか、イリゼとアイでこっそりつまみ食いを!?…なーんてね)

 

目的は気になるものの、二人共頼れる女神様。そんな二人だったら変な事はしてないだろうし、何かあっても大丈夫な筈。そんな思いがあったから私は気楽な気持ちで、聞いていた部屋の扉をオープン。

 

『……え?』

 

……そんな気持ちでいた私と二人は、扉を開けた瞬間硬直。ちょっと…いやかなり意味の不明な状況が広がっていて、三人全員止まってしまう。ほんとにちょっと待ってほしい、もう全然意味が分からないから、取り敢えず状況報告だけ受け取ってって感じ。

一言で言うなら、その部屋の中は大惨事になっていた。壁は至る所が崩壊して、天井もべっこべこになっていて、床なんて最早穴だらけ。そんな場所に、苦笑いのカイトさんと、呆れ顔のワイトさんがいて、部屋の中央付近の床の上では……

 

「うきゅうぅぅ……」

「あぅぅぅぅ……」

 

──大の字に倒れて目を回している、イリゼとアイが変な呻き声を上げていた。




今回のパロディ解説

・「〜〜やっぱ凄ぇよ、イリゼは。〜〜」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズのもう一人の主人公、オルガ・イツカの名台詞の一つのパロディ。このネタ、完全に気付かず書いていたシモツキです…。

・きらら
まんがタイムきらら及びその系列の雑誌の事。茜はそんな世界から来てそうと言っていますが、ディールはどっちかといえば重い過去を持ってる側の女神ですね。

・がっこうで暮らしてる人達
上記系列の作品、がっこうぐらしの事。アニメでしかきらら作品を知らない人は、この作品で大いに驚いたんじゃないかと思います。
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