超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
諦めなければ、いつか。…私はその言葉が、あんまり好きじゃない。だって、無責任だから。何の保証もないのに、どれだけやればいいか、いつまで頑張ればいいのかも分からないのに、なのに頑張れだなんて……それを言える人は、きっと諦めてもそれなりの生活が出来るんだろうな、って私は思う。
だけど、諦めなくて良かったって言葉は、好き。私はこれまで生きる事を止めなかったからえー君に会えたし、絆を結べたし、再会も出来たし、ずっとじゃないけどまた一緒に居られた。…って言うとまるで私がえー君絡みでしか幸せを感じないみたいになっちゃうけど、他にも私は諦めなかった事で色んな人と出会えて、仲良くなれた。一緒に居て楽しいって思える人や、大切だと感じる人と。
それは、今も同じ事。今全員で戦えてるのは、諦めなかったから。絶望に屈しなかったから、今がある。…だから、私はやっぱり思う。諦めなくて、良かったって。
「天舞伍式・葵ッ!」
様々な角度、様々な軌道で撃ち出される様々な武器。その間を縫うようにして、私とシノちゃんは巨人へと突進。私は大剣で、シノちゃんは蹴りで挟みにかかる。
「ヒヒヒィッ!」
「ちっ…霧みたいな見た目してんだから、蹴られたら散れってのッ!」
「あはは、シノちゃんってば無茶苦茶な要求するんだ…ねッ!」
ぜーちゃんの放った攻撃の内半分を叩き落とし、半分を身体でそのまま弾いた巨人は私達の攻撃も防御。100%以上に回復した私達だけど、三人の女神化能力以外はこれといって封じられていた訳じゃないみたいだし、三人だって封じられる前は圧倒してた…とかじゃないから、一気に大逆転で大しょーり!…みたいにはいかない。
だけど、そんなのは分かってた。分かってたから、私達二人はすぐに跳ぶ。
「隙、有り……ッ!」
「自由にはさせない……!」
跳んだ私達と入れ替わるように、大剣から噴射した炎で一気に距離を詰めたカイト君が上段から斬撃。巨人はそれを左腕で防いで、右手で殴り付けようとするけど、床を走るようにディールちゃんから伸びた氷がその手を拘束。カイト君もすぐ逆噴射で距離を取って……私達の何倍もある鋼の戦士が、巨人へと迫る。
「キッヒィッ!?」
「ふん、モニター越しでもやはり不愉快な顔だな」
噴射炎をなびかせながら腰の剣を引き抜いたそれは、ワイトさんの乗る人型兵器。名前は確か、レイドッグス。巨人はそのレイドックスよりも大きいとはいえ、流石にスラスターを吹かした鉄の塊の近接攻撃は重かったみたいで、凍った左腕を残してバランスが崩れる。
そこで即座にワイトさんは…じゃなかった、レイドッグスは(…うん?…レイドッグスを動かしてるのはワイトさんだから…この場合はどっち?…って、そんな事気にしてる場合じゃないよね)腰からダガーを抜いて一撃。それを巨人は翼を広げて飛び上がる事で辛うじて避けて……立て直そうとする巨人を、二振りの剣が上下から追う。
「イリゼ、お願いッ!」
「うん、合わせる…ッ!」
素早く駆けるルナちゃんが跳んで、天井すれすれを飛ぶぜーちゃんは急降下して、鋏の様に巨人を追撃。飛べる巨人はそれも避けて、大きく下がる形で着地したけど……確かに巨人は、体勢を崩していた。私達は、巨人の反撃を許さなかった。
(まだまだ……ッ!)
巨人が着地した時点で私は周囲の粒子を収束させ、粒子ビームとして投射。続く形で皆の遠距離攻撃も炸裂して、巨人が見えなくなる位の爆発が起こる。
「…………」
「…茜?どうした、何か見えたのか?」
「あ、ううん。なんかちょっと、インフィニティでフォースな作品の最終決戦っぽい流れになってきたなぁ…って」
「お、おう……茜って、何気にウチ等の中で一番肝が据わってるのかもしれねーな…」
訊かれたから答えただけなのに、シノちゃんに変な評価をされてしまった。…まぁ、そうなるだろうなぁとは思ってたけど。
それはさておき、私にはまだそんな事を考えられる程度には余裕がある。でも……
「キヒヒヒ…ヒヒヒィ……!」
…あっちにもまだ、笑うだけの余裕があった。普通ならかなりのダメージが入っててもおかしくないのに、その身体にはまだ目立った傷が一つもない。
「…畳み掛けますか?それとも……」
「……ッ!待って下さい、来ます…ッ!」
ワイトさんのレイドッグスが二つの刃を腰に戻した次の瞬間、巨人はぐにゃりと口元を歪めて飛翔した。こちらへ真っ直ぐ、その巨体からは予想もつかない程の速度で。
真っ先に反応したディールちゃんは、声を上げながら氷壁を展開。でも壁は突破されて、私とカイトくんが同時に大剣を叩き付ける事で何とか動きを押し留める。
「くっ…重い……ッ!」
「突っ込めイリゼッ!今度はこっちで挟み込むぞッ!」
勢いの鈍った巨人へ向けて、前からシノちゃん、後ろから戻ってきたぜーちゃんが鋭く強襲。だけど巨人は笑ったまま身体を回転させて、私達四人を押し返す。
そこに撃ち込まれる、電撃と弾丸。それを飛んで避けて、私達の追撃もシンプルに、ただただパワーとスピードでねじ伏せる巨人。
こういうタイプは、凄く厄介。だって罠や策で攻めてくるタイプは『それが分かれば対処出来る』けど、そういう意味じゃ私はそんな相手と相性がそこそこいいんだけど、単純なスペックで押してくるタイプは理解するしないが関係ないから。力が凄い事が分かったって、それだけじゃ何の意味もないもん。
(だけど、動きは見えるし攻撃も全く止められない訳じゃない…皆で協力すれば、戦えない相手じゃない……!)
床すれすれを飛び、巨人の真下で跳ね上がるように急上昇。大剣の刃を立てて、勢いのままに斬り上げを放つ。
「ルナちゃん、今だよッ!」
「えっ…う、うんっ!」
急上昇しながら皆の位置を確認していた私は、この状況ならルナちゃん!…と思って声を飛ばした。けど、ルナちゃんにとっては予想外だったみたいで、私の想定よりも一瞬タイミングが遅れてしまう。
それでも実際は普通なら気にしないでいい程度の遅れだったんだけど…相手は私達のフルパワーでも防いじゃうような巨人。一瞬の遅れでも、それは大きな隙になる。
「ヒヒヒヒヒィッ!」
「く……ッ!」
「きゃあ……ッ!」
止められた私は大剣ごと弾き返されて、巨人の貫き手が跳び上がったルナちゃんに迫る。その攻撃自体は振り出されかかっていた剣に当たる事で直撃は避けられていたけど、空中のルナちゃんに衝撃を殺す手段はゼロ。
床を転がっていくルナちゃん。そのルナちゃんを…巨人は、目でしっかりと捉えていた。
「不味い…ッ!皆っ!」
私が体勢を立て直すより早く、巨人はルナちゃんに向かって突進する。そこへレイドッグスがインターセプトに入るけど、パワーの差で強引に押し退けられる。
「キキヒヒッ、イヒィッ!」
「させる、ものか…ッ!」
振り下ろされる巨人の腕。その狙いであるルナちゃんの前へ、寸前で滑り込んだのはぜーちゃん。掲げられた長剣の腹で一瞬振り下ろしは止まるけど、次の瞬間ぜーちゃんは押されて膝を突く。でもそこまでくれば、他の皆は勿論私だって押し返す段階に入っていた。
「う、くっ……」
「ルナ、無事?動ける?」
「…うん、動ける…私はまだ、やれるよ…ッ!」
「そっか、なら……!」
私達の波状攻撃を受けた巨人は、表情をしかめながら飛ぶように後退。半端な攻撃じゃ止める事も出来ないと分かってる私達は、素早くその後を追う。
そんな中、背後から聞こえたルナちゃんとぜーちゃんのやり取り。ルナちゃんの声にまだ覇気がある事に、私は一瞬安心したけど……
(…あれ?この声って……)
私はある事を、思い出した。それは、ルナちゃんが私に続いて戦う意思を口にした時の事。あの時のルナちゃんからは、気負いっていうか…私も頑張らなきゃ、やらなきゃって気持ちを感じた。ざっくりとだけど、これは『視えた』事だから…間違いない。
「ルナ、ワイト!アンタ等で援護を……」
「ううん、私がいくよッ!私だって、近接戦位…ッ!」
「あ、オイ待てッ!くっそ…!」
着地したシノちゃんの横を、ルナちゃんが剣に魔力を纏わせながら駆け抜ける。その姿を見て、慌ててシノちゃんも飛翔。
あの剣を持ってから、ルナちゃんの動きは良くなった。身体能力が上がったっていうか、本調子になったって感じで。でも、それだけじゃ足りない。ルナちゃんだって、それ位は分かってる筈なのに……!
「ヒヒ……ッ!」
「……!ここで…こう、すれば……ッ!」
巨人が腕を引いた瞬間、斬り上げたルナちゃんの剣から斬撃が飛ぶ。だけどその斬撃が斬り裂いたのは巨人の足元の床で、姿勢のズレた巨人の殴打はギリギリで空振り。
上手い、って思った。でも……巨人は単純だけど、馬鹿でもなかった。
「ヒ?キヒヒヒ、ヒィッ!」
「貰っ……え…?」
懐に入り込むルナちゃんへ、再び巨人の腕が迫る。巨人の腕は、姿勢が崩れた事で斜め上へと逸れていった。だから、巨人は切り替えたんだ。突き出す殴打から、振り下ろしによる押し潰しへと。
もしこれが普通の人なら、無理に切り替えた時点で威力なんて殆どなくなる。そんな認識と、ルナちゃんの突出で反応が遅れた私達は分かっていても動けなくて……だけど、ルナちゃんを追う形でもう動いてる人はいた。
「こ、のぉぉッ!」
「フヒヒィッ!」
「ぐ……ッ!」
腕がルナちゃんに触れる寸前、打ち付けられた鋭い蹴り。その蹴りは巨人の殴打を一瞬止めて…だけど次の瞬間、ルナちゃん諸共シノちゃんは横へと吹き飛ばされた。
そこへ更に、巨人は飛んで追おうとする。それ自体は皆の攻撃で潰せたけど、巨人はイラついたような顔をした後その中で舞い上がった床の破片を掴んで投擲。それが向かう先は…起き上がりつつある二人の正面。
これも多分、皆にとっては読めなかった動き。だけど、私は違う。今度こそ私は、視線の動きで巨人の狙いが読めていた。
「そうは…させ、ない……ッ!」
フルスピードの旋回と、滑りながらの障壁展開。加速に粒子の大半を注いだから、確実に防げるだけの障壁は展開出来なかったけど……
(大丈夫……私は死なない、だってまだ…諦めてないから…ッ!)
広く薄くじゃない、狭くても強固な障壁の前に破片は砕けて、その一部が障壁の外から私の前へ。
破片は三つ。一つは鎧で弾けた。一つは鎧の隙間に飛んだけど、無視出来る位の擦り傷。そして、もう一つは……左の頬を、斬り裂いた。後少しでもズレていたら、致命傷にもなっていた位置を。
『…茜……』
後ろから聞こえる声に、私は振り向きながらサムズアップ。頬が熱い、痛みもある。だけど……思った。あぁ、やっぱり諦めなくて良かったって。
*
分かってた。私は皆みたいに強くないって。身体能力もそうだし、戦術とか精神力だって皆には遅れを取ってるって。
それでも皆は私を仲間として見てくれたから、私も皆と頑張りたいって思いがあったから、あの時私は言った。私も戦うって。
そんな私が穴から駆け登った時、そこには
「あーもういいディール、十分だ」
「え…いや、でもまだ完治は……」
「いーんだよこの位。てか、こんな時にちんたらなんざしてられねーってのッ!」
「あっ、ちょっ…!…はぁ…ほんとブランさんを連想させるなぁ……」
……その結果は、酷いものだった。安直に思い付いた策をそのまま実行して、通じなくて、皆に助けられた。アイにも、茜にも怪我を負わせてしまった。…私一人がやられるなら、私の自業自得で済んだのに。
「確かに、色々ブランちゃんと似てるよね。…私ももういいよ、ディールちゃん」
「そうはいきませんよ、致命傷には程遠いとはいえ…茜さんの傷は、深いんですから」
「なら大丈夫だよ、これ位の怪我は慣れっこ……」
「…傷付いた側の茜さんは、そうかもしれませんね」
「あぁ…うん、前言撤回。綺麗に治してくれるかな?」
「そのつもりです」
私は今、ディールに回復をしてもらっている。治癒は三人同時並行で、さっきまではアイもいて、今は私と茜の二人。その間、巨人は三人が足止めをしてくれていて……そのせいで細かな傷が、目に見えて増えていた。…それも、私のせい。
「……ごめんなさい、茜…」
「え?急にどうしたの?」
「…私が馬鹿な事をしなければ、茜がそんな傷を負う事もなかったのに……」
「あ、それ?そんなの気にしなくたって大丈夫だよ。私死んでないし」
「それは…そうですけど……」
あまりにもあっけらかんと返してくる茜に、罪悪感が一瞬乱れる。でも……そりゃ、確かに死んでないよ…死んでないけど……茜は、痛い思いをした。アイだってそうだし、他の皆にも負担を強いている。皆は協力し合って、あいつに対抗してるのに……私だけは、皆の足を引っ張ってる。
「……私、下がってるよ…前に出ても、状況を悪くするだけだから…」
「んー…もしかして……じゃないね、やっぱりルナちゃん気負ってる?私もやらなきゃ、とか、皆に遅れちゃう…とか」
「…そんな、事は……」
「…気負ってるよね?」
「…かも、ですね」
どうせ足を引っ張るなら、下がっていた方が良い。そうすればゼロにはなっても、マイナスの影響を与える事はないから。我ながら後ろ向きな事を考えてるなって思うけど…事実だもん。現実として、私が怪我や負担を増やしちゃったんだから。
そうして私が俯く中、茜とディールは私を気負ってるって言った。……そうかもしれない。無いとは言えない。でもそれも、私には過ぎた思いだったって事。強くも賢くもない私が、皆と同じレベルにだなんて最初から……
「……わたしとルナさんって、ちょっと似てると思うんですよね」
「え……?」
「記憶喪失だったり、接近戦もやる魔法使いタイプだったり、他にも上手くは言えないんですけど……似てると、思うんです」
「…………」
「だから、勝手に言わせてもらいますね。…頑張ったって、出来ない事は出来ないんですよ。無理なものは無理ですし……失ったものは、帰ってこないんです」
そう言って、きゅっと手を握るディール。…同じなんかじゃないよ。今の言葉だけで、感じた思いだけで分かる。ディールはきっと私より辛い思いをしてきてて、でも女神として立派に戦ってるディールと私が、同じなんて訳……ない…。
「だけど……いえ、だからこそ訊きますね、ルナさん。──出来る事は、ないんですか?」
「…出来る、事……?」
「…よし、回復終わりました。わたしも支援に戻ります…!」
「あ、ちょっ……」
そんなディールは、私に何を伝えたいのか。何をさせたいのか。…それをちゃんと答えてくれないまま、ディールは戦いに戻っていった。私へ、質問だけを残して。…私に、出来る事?……そんなの、下がってる事だけじゃないの…?
「おー、言うねぇディールちゃん。…さ、ルナちゃん動ける?」
「…あの、私は……」
「…うん、じゃあルナちゃんには特別にえー君の素敵なところをもいっこ教えてあげよう!」
「……はい…?」
すっかり傷が治った茜は、私に手を差し伸べてきた。それに私が消極的でいると、返ってきたのは意外過ぎる言葉。……き、聞き違い…だよね?うん、きっとそうだよ聞き違い。まさかこんな状況で、突然『続・ガールズトーク』だなんてあり得る訳……
「えー君はねぇ、懐がすっごく深いの。優しいとも言えるけど、もう優しいなんて言葉で片付けるのは惜しい位に優しいんだよね」
「あ、そ…そうなんだ…(聞き違いじゃなかった……)」
あった。あの時と同じモードに入っていた。…もう、意味が分からない。
「私はえー君を酷く悲しませちゃってさ、それから何年も経って再会した時にも苦しめて、私の都合で、私の一方的な気持ちで戦う事になって、傷付けて……それでもえー君は、私から離れようとしなかった。傷付いてまで私を救ってくれて、私を信じてくれた。はぁ…ほんとに格好良いなぁ、そういうとこ……」
「……茜にそこまで言わせるんだから、ほんとにその人は凄いんだね…きっといるだけで皆を幸せにするような、そんな……」
「あ、そんな事はないよ。っていうか、それから暫く後のえー君は中々にアレな事してるからね。私以上に勝手且つ取り返しのつかない事を周りに相談せず始めちゃうし、連絡も寄越さないし、おまけにその為に相談一つしなかった私へ大切なものを預けてくるんだもん、それも一方的に。流石の私もこれは擁護出来ないかなぁ、気持ちは分かるけど」
「……つまり、何が言いたいの…?」
やれやれと首を振って、茜の話は終了。終わったようだから、私は訊いた。ただ話したかっただけ…な訳がないから。きっと何かしら、私に伝えたい事があったんだと思うから。
訊かれた茜は、最初何も言わなかった。でも、私に背を向けて、大剣を構えて…それから、言う。
「…つまりね、迷惑かけても許してくれる人はいるんだよ。それを迷惑だなんて思わず、出来て良かったって思ってくれる人はいるんだよ。…ルナちゃんは、違うと思う?皆を見て、皆がルナちゃんを迷惑な奴…だなんて、思ってると思うの?」
「…それ、は…そんな事……」
「…私の話も、これでお終い。そろそろ戻らないと、不味いからね。……後は、ルナちゃん次第だよ」
床を蹴って、戦いに戻る茜。ルナちゃん次第。その言葉を残された私は……一人、立ち竦む。
「…私、次第って…出来る事は、って……」
結局二人共、具体的な事は言ってくれなかった。答えを任せて、答えは言わないまま、行ってしまった。
なんで、なんでそんな事をするの…だって、私だよ…?ここまでは運良く役に立ててただけで、今は皆の負担を増やしちゃうばかりの、私なんだよ…?そんな私に、まるで出来る事がまだあるみたいな言い方するなんて…私が戻ってくる事を、嫌に思ってないみたいな風に言うなんて…そんなの、そんなの……
──二人がまだ、私に期待をしてくれてる以外あり得ないじゃん…っ!
(…いや、違う…二人だけじゃない…皆も、まだ…私に…私を……)
これまでは気付かなかったけど、私以外にも後退している人がいたから見分けが付かなかったけど、今も皆はまだ押し切ろうとしていない。まだ時間を稼いで、まだ何かを待っている。…私を、待ってくれている。
嬉しかった。私を不要としないでいてくれてる事が。素敵な皆に、並び立つ事を求めてもらえる事が。
だけど脚は竦んでいる。失敗が、情けない自分の失態が頭から離れない。期待してもらえてるのに、待ってもらえてるのに、なのに私は……。
「……ねぇ、月光剣」
『はい。マスターの名前と隣にあった機体の存在から、アルマノクスに変化してしまうのではないかと一抹の不安を感じていた月光剣です』
「うん、気持ちは分からないでもないけどそれは色々飛躍し過ぎ……って月光剣!?一言目がそれって…君本当に月光剣なの!?」
『…すみませんマスター。先程の方に習って、気を落とされているマスターに粋な計らいをと思ったのですが……』
「そ、そうなんだ…嬉しいけどいきなりは止めてね、普通に違う剣かと思っちゃうから……」
少し前…初めて月の満ち欠けに関係した体調不良を起こした日みたいに月光剣へ声をかけた結果、なんだか想像も付かないような会話になってしまった。…っていうか、月光剣にも心配かけてたんだ…ほんと、情けないな……。
「…月光剣。私、どうしたらいいのかな…」
『どう、と言いますと?』
「皆は私に期待してくれてる。皆には戻る事を求められてる。でも、私にそんな力なんてない。そんな力なんてないから、私は皆に迷惑をかけちゃった。…だから私、どうしたらいいか分からないよ……」
『マスター……』
「…教えて、月光剣。私は、どうしたらいいの…?」
『……申し訳ありませんが、それは答えられません。未知数の事が多過ぎて、私が答えられる範囲を超えています』
縋るように、月光剣へと求めた答え。だけど、月光剣も答えてくれなかった。誰も何も、私に答えはくれなかった。……自分で決めろって事…?…そんなの、無理だよ…無理だから、訊いたのに…教えてよ、答えてよ……私には、こんな次元の違う戦いの中で、私の道を決める事なんて…………
『…ですが、一つだけ言える事があります。これだけは、絶対に間違いないという事が』
「……それ、って…?」
『──マスターの顔は、言っていますよ。まだ、諦めたくないと』
「……──っ!」
──その瞬間、私の中に渦巻くもやもやした気持ちが全て吹き飛んだ。月光剣の…相棒の教えてくれた、一つの事実で。…あぁ、そっか…そうだったんだ…私の心は、迷ってなかったんだ…後ろ向きだったのは、ごちゃごちゃ考えてる頭だけで……心はずっと、真っ直ぐに前を見ていたんだ。
「…そう、だよね…諦めたくないよ、諦めたくないに決まってるじゃん…だって皆、友達なんだから…仲間が、一生懸命に戦ってるんだから……!」
クリアになった思考では、茜の言葉をすんなりと理解出来た。茜が言いたかったのは、皆相手がどうこうじゃなくて、自分がどうしたいかって気持ちで動いてるんだって事。私が助けを求めたんじゃなくて、皆が助けたいって思っただけの事。…だから、茜は言ったんだ。私自身が、今ここで……何を、したいのかを。
思い返せば、退避した時もそうだった。カイトさんも茜もワイトさんも、女神の三人だって言葉の裏には、「自分がそうしたいから」って思いがあった。それは、ワンガルーにだって感じたし……そもそも私は、知っていた筈。迷ったら、どうしたらいいか分からなくなったら…自分が正しいと思った方を、選べばいいって。
(…駄目だなぁ、私…ほんとに私は駄目で、まだまだだ。…だけど、だからこそ……)
『……マスター?どうしまし…マスター…!?』
やっとスタート地点に立った、皆は穴の中で立っていた場所に辿り着いた私は、月光剣を床に刺す。そうして、両手を自由にして……思いっ切り、自分の頬を引っ叩いた。左右から同時に、挟むように。
「いッ、たぁ……けど…ごめんね月光剣。でももう大丈夫。もう私の心は、決まったから」
『では……』
「うん。力を貸して相棒。私が私のやりたい事を、やり抜く為に」
ひりひりとして、熱を帯びる私の両頬。かなり強く叩いたから、赤くなっちゃってる気がするけど…活は入った。ずっと先を走ってる皆へ、追い付く為の強い力が。
月光剣を持ち直して、考える。ディールの言っていた、私に出来る事はないのかを。何が私に出来るのかを。考えて、考えて、考えて……そして私は、月光剣を掲げる。
「…すぅ、はぁ……」
深呼吸と共に、魔力を充填。皮肉な話だけど、ずっと下がったままの私は急速に魔力を収束させる事が出来た。流石に一瞬とか一秒とかじゃないけど……素早く出来るなら、それはありがたい。素早く済めば、すぐに皆と…七人で戦えるから。
(皆の真似をしたって、ただ前に出たって、私は皆と同じになれない……だけど、私なりの形でなら…出来ない事は出来ないんだって認めちゃえば…出来る事に、全力を尽くせる…ッ!)
淡い光を放つ刀身。見据える先は、黒霧の巨人。私達が倒すべき、私達が勝つべき……最大の障害。
私は皆と並びたい。皆の力になりたい。皆がどうこうじゃなくて、私の意思で…皆と勝ちたい。だから全力を、本気を出すんだ!それが私の、出来る事だから!
そんな気持ちを力に込めて、私は私の月光剣を……振り抜く…ッ!
「クレッセント……リフ、レイクッ!!」
振り抜くと同時に光が弾け、軌跡は輝く三日月の刃に。刃は広がりながら真っ直ぐに飛んで、私が見据える巨人の下へ。
巨人は私の事を完全に忘れていたみたいで、完全に反応が遅れていた。咄嗟に左腕を掲げて防ごうとするけど、そんなもので防げる訳がない。だってこれは、私の全力を込めた一撃なんだから。頭に浮かんだままに放った一撃だけど…きっと威力は、十分な筈。
これが私の反撃だ。ここからが私の真の勝負だ。そう心で叫びながら私が意識を集中する中、巨人の腕に刃が衝突。そして刃は一層強く輝いて……
……四散した。硝子が割れるように、バラバラになって。
「……!…?…ヒ、ヒヒ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒィッッ!」
「……っ!?…そ、んな……」
「危ないルナ!避けて…ッ!」
無残にも崩壊した刃を前に、巨人は不思議そうな顔をした後心底愉快そうに笑い出す。一方の私は、愕然としていた。全力を込めたのに、いけると思ったのに……こんなにもあっさりと、負けたんだから。
立ち尽くす私へ、邪悪に笑いながら飛びかかってくる巨人。イリゼの声が聞こえたけど、私は動けなかった。動けなくて、膝から崩れ落ちそうで、心が絶望感に折られそうになって……
「クヒヒヒヒ……グヒィィッ!?」
『え……?』
────次の瞬間、巨人の背中は斬り裂かれた。……消えた筈の、三日月によって。
「……っ…拡散した魔力が、術式を維持したまま奴の背後で再構成された…!?」
「……これ、って…私の、攻撃…?…でも、なんで…」
『……湖面の月は、虚像の光。誰であろうと、何であろうと、その存在を捉える事など出来はしない。何故なら…本物の月は、虚像の真逆にあるのだから』
墜落した巨人の姿に、今度は私を含めた全員が驚愕。目を見開いたディールがそれっぽい事を言っていたけど、私には理解し切れなくて…そこで月光剣が、語った。最後に『…という技、らしいです』という補足を付けて。
それは凄く、詩的な表現。でも、何故か私には…その言葉で、この技の全容が把握出来た。……そして再び燃え上がる、私の闘志。
「ヒ、ギ…ググヒィ……ッ!」
「……ッ!皆、お願いッ!」
大きくバックステップしながら、次の一撃を放つべく私は再充填。初めて大きな有効打を受けた巨人の目には、明らかな憎悪が籠っていて…私がまた狙われる事なんて、簡単に分かった。
だから声を上げた私。その言葉に、皆は迷わず答えてくれる。
「任せろッ!こいつで……」
「丁度良いじゃねぇか…カイト、その炎借りるぞッ!オラァッ!」
カイトさんが両足を肩幅に開いて大剣を突き出すと、斬っ先に現れた巨大な火球。それをカイトさんは撃ち出そうとしたみたいだけど…そこへアイが飛び込み一撃。振り出した右脚が火球を捉えて……凄まじい勢いで、私へと突進する巨人に襲いかかった。
「ヒヒッ…イヒィッ!」
「ふん、焦らずとも貴様には追加を喰らわせてやるさ…ッ!」
炎を振り解く中、回り込んだワイトさんの機体が武器を投擲。丁度振り抜いた手首の辺りに突き刺さったそれは、爆発を起こしてまたも炎が巨人を襲う。その爆発は、さっきの火球程大規模じゃなかったけど、身体の末端で爆ぜたからかそちらによろけて……体勢を立て直す頃には、十分チャージが出来ていた。
「もう、一度…いけぇッ!」
今度は逆袈裟の様に斬撃。まだこの技を理解し切れていない様子の巨人は腕で受けた直後斬撃が消えるのを見て、憎々しげな顔をしながら振り返ったけど……そんなの全くの無意味。だって三日月の刃は、当たった場所の背後じゃなくて……
二度目の斬撃に足が止まる巨人に向かって、皆の猛攻が開始する。その中には勿論私も。剣があるからって無理に攻め込まず、皆の動きを見ながら魔弾や斬撃を打ち込んで、ここだと思った時だけ素早く迫ってすぐ後退。メインにはなれなくても、皆の力になれて、私の力を発揮出来る立ち回り。それを思いの限りに果たしながら……私は言う。
「皆、今度こそ私は戦うよッ!皆と、一緒に…ッ!」
私の声に返ってくるのは、うんとかおうとかはいとかの、短い言葉。短くても、力強い声。その言葉に支えられて、その声に私も期待して、私は…私達は、力を振り絞る。皆で、全員で……勝つ為に。
今回のパロディ解説
・インフィニティでフォースな作品
Infini-T Forceの事。大きな共通点を元にクロスオーバーされた作品で、一人だけロボットを運用する(元ネタは無人ですが)…そんな部分から、この作品を連想しました。
・アルマノクス
グランベルムに登場する、魔術師の乗るロボット(人形)の事。ふと思い付いて、つい入れたくなってしまったパロディネタです。勿論月光剣にそんな機能はありません。