超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
戦いには、流れがある。それは戦闘でもスポーツでも、凡そあらゆる勝負に対して言える事で、それは決して非科学的なものじゃない。
流れは、事実と士気…思いで作られ、決まる。勝利という事実が重なれば流れが自分の側に向き、後一歩というところで押し返されてしまえば、例え優勢のままでも流れが離れてしまうように。そして今、奮起したルナの一撃によって……間違いなく流れは、私達の方へ向き始めていた。
「合わせろよ、ディールッ!」
「はい……ッ!」
振り出される脚と、輝く魔法陣。赤いエネルギー弾と青白い氷塊が左右から巨人に飛来し、巨人はそれを両手で受け止める。
「正面から、斬り込むッ!」
「ギッヒィッ!」
「……のは、私だけではないッ!」
「はぁぁぁぁッ!」
両手が塞がった瞬間、私はシェアエナジーの爆発で加速し急接近。その勢いのまま振るった長剣は蹴りで弾き返されるけど、私の狙いはあくまで陽動。すぐ後に走り込んでいたルナが刺突を仕掛け、蹴ったのとは逆の脚を狙う。
けど、それも防がれた。翼で姿勢を制御し、既に振り出していた脚を引き戻しながら放たれた逆脚の迎撃でルナの刺突もあっさりと潰されて、私の方へとルナが吹き飛ぶ。女神三人の連撃を受けても尚、こんな力技が使える巨人は本当に脅威で……でも、私はこの状況に安心していた。だって…完全に、ここまでは狙い通りなんだから。
『貰った……ッ!』
弾き返された勢いを空中機動で殺した私がルナをキャッチする中、ディールちゃんとアイの攻撃の影に隠れながら接近していた茜とカイト君が前へと躍り出て、巨人の背後へと回り込んだワイトさんのレイドッグスは腰から抜剣。三者同時に全身の力を込めた回転斬りを仕掛け、三本の長大な剣が巨人へと迫る。
これこそが、二重の陽動に隠れた真の本命。ルナの攻撃を本命だと誤認した巨人は防御も回避も間に合わず…三本全てが、巨人の身体を斬り付けた。巨人が身体を逸らした事により、どれも深い当たりにはならなかったけど……結果は上々。
「作戦成功だね、イリゼ!」
「だね、でもまだまだいくよッ!」
この程度で倒れる訳がない。瞬時にそう見極めた三人は後ろに跳んで、その隙間を埋めるようにルナは電撃を放つ。初めは回避すら碌にしなかったこちら側の遠隔攻撃だけど、ルナの一撃以降少しずつ傷を負い始めているからか、巨人が選んだ対応は回避。
それによって生まれた時間を使い、私は素早く飛び上がる。そこにいるのは、次なる魔法の仕込みをしていたディールちゃん。
「……っ!」
視線だけでタイミングを合わせ、私は反転。次々と鋼の剣を周囲に作り出していくディールちゃんの隣で、私もシェアエナジーの圧縮で精製した剣を展開し、私達の動きを巨人が察知した瞬間一斉投射。鈍く光る剣と透き通る様な剣が、怒涛の如く殺到する。
無論、面制圧の剣雨は全てが当たる訳じゃないし、当たっても大半は刺さらない。だから放ちながらも私達は巨大な刃を精製し……最後の一撃として、投げ付けるように打ち込んだ。
『いっ、けぇぇッ!』
避けようとする巨人に対し、五方向から微妙な時間差を付けて攻撃が叩き込まれる。
それは剣雨で注意がこちらに向いていた間に五人が準備した、逃がさない為の攻撃。同時ではなく、敢えて微妙に時間差を付ける事で一瞬動揺させ、対応の時間を奪う策略。こちらの意図に気付いたのか、巨人は私達二人をギロリと睨み付けていたけど……もう遅い。
「ギヒィィィィイイィッ!!」
胸元と脇腹をそれぞれ斬り裂く私達の刃。続けて五人の攻撃も着弾し、次々と巨人を攻め立てる。普通のモンスターだったらまず耐え切れない、普通じゃないモンスターでも耐え切るなんて困難な程の、強烈な飽和攻撃。
そこから数秒後。喰らい付いた刃が運動エネルギーを失い、光の粒子となって消える中、私達は着地する。
「…今ので、どの程度削れたと思いますか?」
「無視出来ない程度には、削れたんじゃないかな。…取り敢えずは、ね」
私達と同じように、五人も構え直しつつ距離を取る。ここまでは反撃の隙を与えないように、防御を突き崩せるように攻撃し続けていたけど、ここからは状況が違う。
奴はここまで、笑いながら戦っていた。笑い声には明らかに、相手を蹂躙して楽しむという下劣な感情が籠っていた。それは私達女神やジャッジとは似て非なる、戦いそのものではなく相手を嬲る事への欲望。
だからこそ、私達は予想した。もし戦いを手段とし、冷徹に私達の撃破を狙っていたのなら、気を引き締める程度だろうけど……戦いを、嬲る事を目的としていたのなら、そして一方的に叩き潰すつもりが逆にしてやられたとすれば……
「…ギ、ギヒッ…ギヒヒ……ギギヒィッ!ギギッ、ググギヒヒィィィィッ!!」
(……っ…やっぱり…!)
それまで殆どずっとにやけ顔だった表情を怒りの色に染め、駄々をこねる子供の様に叫び出す巨人。
こうなると、どれだけ動きが変わるか分からない。どこぞの闇の種族の一人宜しく突如泣き出す可能性もゼロじゃないけど、大方はなりふり構わず突っ込んでくる筈。その動きが、その振れ幅が分からないからこそ、私達は一度距離を取った。…私達は、一撃でもまともに喰らえば致命傷になりかねないんだから。
そうして一頻り叫び、顔を掻き毟るように覆った巨人は…動き出す。
「ギ……ヒィイィィッ!」
『ぐぅ……ッ!』
雄叫びと共に巨人が突っ込んできたのは、今し方重い一撃を与えた私達二人の正面。咄嗟に私は大盾を精製し、そこへディールちゃんが障壁を重ねてくれたけど、巨人の腕の一振りで盾と障壁は破壊され、その勢いで吹き飛ばされる。
「イリゼ!ディール!」
「お二人なら大丈夫だ!来るぞカイトくん…ッ!」
攻撃そのものは二重の壁が受けてくれたおかげで、私達へのダメージは微小。立て直すべく私は脚をストッパーとして床に突き立て顔を上げると、巨人は既に次の動きに移っていた。
カイト君の炎を物ともせずに突破した巨人の、激しい突進。先を読んで振られていたレイドッグスの剣が肩を捉え、衝突部位を軸に機体の方を動かす事でワイトさんは勿論、レイドッグスの脚部を掴んでいたカイト君もギリギリ避けられはしたけど、その脅威は疑うまでもない。
「やるね、でも…ッ!」
「私達だって、負けるつもりはない…ッ!」
その背後へ迫る、茜とルナの斬撃。二つの斬撃を追うようにアイが接近し、捻りを加えた蹴りを振り出す。……だけど、それは全て振り返りざまの裏拳で迎撃された。斬撃も、蹴撃も、三つ全てを一撃で。
「ちぃ…ッ!気張れよ全員ッ!奴は動きが雑になってきてんだッ!コイツはウチ等に追い詰められて、それで焦ってんだよッ!」
追い討ちを凌ぎながら声を張り上げるアイに心の中で首肯しながら、私は肉薄。同じく接近していたカイト君と同時に斬り付け、またもや反撃で押し返される。手加減どころか後先考えてすらいないような、力任せの横振りで。
先程私はなりふり構わず…と予想したけど、結果は完全にその通り。元々巨人からは緻密な策なんて感じられなかったけど、今は動き一つ一つの精細さすら欠けている。タクティカルどころか、テクニックすらなくなっている。ごり押しもごり押し、ゲームで例えるなら隙の大きい強攻撃を思考停止で連打しているような戦い方をしているのが、今の巨人。だからこっちの攻撃もそこそこ当たっているんだけど、巨人は全然怯まないし、何より気迫が凄まじい。文字通り鬼気迫る迫力が、今の巨人の動きにはあった。
アイの言う通り、私にも見えている。勝利への光が、全員で勝つ未来が。だけど常軌を逸したスペックによるなりふり構わないごり押しと、激しいプレッシャーを生み出す気迫がその光への道を阻んでいる。勝ち目はあるけど、このままじゃ勝てない。何か、楔となる切っ掛けがなければ……その壁は、超えられない。
(でも、どうすればその楔を打ち込める?回避不能な面制圧?防御を突き破るだけの一点突破?それとも、対応し切れない多重連携……)
「突っ込むぞイリゼッ!」
「援護します…ッ!」
「…って、考えてる暇はないか……ッ!」
声に反応して、一直線に突っ込む私。スラスタージャンプで上方を取ったレイドッグスの弾幕に巨人が一瞬気を取られた隙に腹部へ一撃…と見せかけてその横をすり抜け……た直後に長剣を床に突き刺し、そこを軸に半回転。完全に背後に回った瞬間右の踵後方に圧縮したシェアエナジーを展開し、加速の勢いにシェア爆発も乗せたフルスピードの飛び蹴りを叩き込む。
そこに合わせるアイは、私と全く同じ…但し後方から前方への軌道で蹴りを放つ。生半可な刃物よりもよっぽど切れる、斬撃にも似た女神の打撃。…でも、巨人はそれを受け止めた。いや……掴み取った。
『な……ッ!』
不味い、と一瞬思った。巨人の膂力…握力なら、脚を握り潰されてもおかしくないから。多少の怪我は無視出来るけど、流石にへし折られるのは不味い。今誰か一人でも戦力が大きく落ちたら…その瞬間に、全員押し切られてしまう可能性は十分にある。
だけど巨人は、私達を即座に投げ飛ばした。投げて、すぐに追撃をかけようとしていた茜とルナに向かっていく。
「野郎、投げただけでお終いなんざ……」
「舐めた事を、してくれる…ッ!」
真上へ投げ飛ばされた私達は身を翻し、天井を床の様に蹴って再突進。展開としては脚をへし折られるよりずっと良かったんだけど……それを「あぁ良かった」とは言えないのが女神というもの。思考は冷静に働かせながらも憤りを言葉に乗せて、駆ける巨人の後を追う。
負けてない。連携は機能してるし、戦線離脱を強いられるようなダメージは誰も受けてないし、士気だって好調。けど……
「速い……ッ!」
「ヒィィィィッ、ヒィッ!」
「ぐぁ……っ!」
「うぉわ……!」
誤認を狙ったディールちゃんの炎と電撃の魔法を振り切った巨人は、押し留めようとしたレイドッグスを勢いのままに吹き飛ばす。しかもその後方にはカイト君もいて、吹き飛ぶレイドッグスに巻き込まれてしまう。…やっぱり、足りない。今のままじゃ、届かない。
「二人共…!」
「あの二人なら大丈夫だよルナちゃん!ワイトさんは生身で受けた訳じゃないし、カイト君は…明るい男の子だし!」
「なにその理由!?…でも、きっと大丈夫だよね…ッ!」
茜がルナを止めたのは、心配して見に行く余裕なんてないから。私達は人数が減ったからって受け身には回らない。後手に回れば、それだけで押し切られる危険があるから。
(…でも、いつまでもこうして戦ってる訳にはいかない…!流れをこっちが掴んでいる間に、後一歩を届かせないと……ッ!)
剣を振るう、打撃を打ち込む、魔法を走らせる。走って、飛んで、避けて、凌ぐ。ギリギリ五人でも何とか持ち堪えられているけど、今の私達に付け入るだけの余裕はない。…それがないから、どうしても焦りそうになる。チャンスは危ういもので、磐石と思えた優勢すら一手のミスでピンチに陥る事が往々にしてあり得ると分かっているからこそ、早く勝負を決めたくなってしまう。
だけどやっぱり、ただ頑張ったってどうにもならない。何か、壁を超えられる何かがなくちゃ……ッ!
「……ッ!皆さん…!」
そんな中、ディールちゃんが声を響かせ、それと同時に巨人は猛然と突っ込み始める。その巨人の先にいるのは、壁を背に倒れるレイドッグスの姿。咄嗟に私達全員が進路上へ割って入ったけど……巨人の突進は、あまりにも強過ぎた。
『きゃあぁぁぁぁッ!!』
踏ん張るだけの時間がなかった私達は、全員纏めて弾き飛ばされる。多少なりとも勢いは削げたと思うけど、突進を止めるには程遠い。
茜やルナの言った通り、私だって二人は無事だと信じてる。…でも、立て直し切れていない時に、今の巨人の突進を受けたら?……そんなのは考えたくない。一度身を以てどうなるか知ったからこそ、皆が…なんて想像したくもなかった。
だから私は何としてでも止めようとした。翼と浮遊ユニットで強引に姿勢制御して、シェア爆発で無理矢理でも動いて、最悪頭から突っ込む形になってもいいから、二人が正面から受ける事だけは阻止しようなんて考えて。…だけど私は、一つ見誤っていた。それは私の能力でも、皆の実力でも、巨人の凶暴さでもない。私が見誤っていたのは、分かっていなかったのは…………
「……ッ!今だッ、カイトくんッ!」
「はいッ!」
──カイト君とワイトさん。二人の……炎の様に熱く鉄騎の様に屈強な、男の意地だった。
「うぉおぉぉぉぉおおおおッ!」
それまで壁にもたれかかっていたレイドッグスが横に逸れ、その影から姿を現したカイト君。彼は大剣を後ろに引いていて、その背後の壁は炎熱を受けてどろどろに溶け始めている。そして私達が、巨人がカイト君の存在を目にした瞬間……カイト君は、飛んだ。大型兵器の主推進器をも彷彿とさせる程の、激しい噴射炎をなびかせて。
爆音にも負けない叫びと共に肉薄したカイト君は、突き出された巨人の拳に向けて斬撃を放つ。一瞬前まで推力となっていた炎は燃え盛る刃となって、巨人の右の拳と激突。炎による圧倒的な加速と、想像を絶する力を持つ巨人の攻撃との正面衝突。それはどう考えたって、普通の人の身体が耐えられるものじゃない筈なのに……彼は耐え抜き、拮抗し、そして巨人の勢いを押し留めていた。炎で、力で……根性で。
「……っ!ワイトさん…頼みます……ッ!」
「あぁ、私も続くさ…君の意地に…ッ!」
一瞬の拮抗の末、カイト君は吹き飛んだ。巨人を、軽くだけど仰け反らせる事と引き換えに。
吹き飛ばされたカイト君だけど、彼は笑みを浮かべていた。その笑みに、言葉に応えるように、スラスターを全開にしたレイドッグスが突進する。それを見て、巨人は歯を食い縛るような表情をしながら左で一撃。対するレイドッグスは、剣も銃も手にする事なく……同じく左腕の拳、マニピュレーターを叩き込んだ。
先程は右の拳と右からの斬撃が、今は左の拳同士が激突する。巨人は床を踏み締めて、レイドッグスはスラスターを吹かして、ぶつかり合う拳の一点でせめぎ合う。非生物的な器官が軋みを上げる独特の音の中、私達を大きく超える体躯の両者は奮戦し……次の瞬間、レイドッグスの腕が砕け散った。
「ぐ……っ!…だが、まだだ…そうだろう、レイドッグス……ッ!」
隻腕となり、倒れゆくレイドッグス。だけど、スピーカーから聞こえているのであろうワイトさんの絞り出すような声は、微塵も死んではいなかった。そして、私達からすれば機体がパイロットの思いに応えるようにゴーグルアイから光を放ち…巨人に背を向ける形で倒れ込みつつあったレイドッグスは、180度反転した。身体を、頭部を巨人に向け、頭部のガトリングを胴へと撃ち込む。
一発、また一発と弾丸が巨人の胴体に当たって弾かれていく。MGの頭部機銃同様基本は牽制用らしいそれは、巨人の身体を傷付けるにはあまりにも力不足で……でも一発だけ、弾かれる事なく喰い込んだ。
それは、これまでに巨人が受けた傷の一つ。大きな傷口の一つを、弾丸は貫き喰い込んで……
「グギヒィイイイイイイィィッ!!?」
…絶叫と共に、巨人は倒れ込んだ。これまでで一番の、私達にとっては最高の隙を見せて。
そうして漸く私達は理解した。これが、これこそが狙いだったんだって。レイドッグスが壁際まで飛ばされたのも、カイト君が巻き込まれたのも、戦線復帰が遅れたのも……全て、この瞬間に繋げる為の、仕込みだったんだって。
楔は打ち込まれた。勝つ為に、超える為に必要だった勝利への楔が。ならばもう、やる事は一つ。絶対に、七人で、皆で……勝利を、掴む…ッ!
*
いつ、誰と、どうしたらいいか。戦いの中で、戦い続ける中で、不意に頭の中がクリアになってそれが全部分かる時がある。
女神の直感、ってものかもしれない。ゾーンっていうのが、これかもしれない。ロムちゃんやラムちゃん、エスちゃんと連携する時と全く同じ…とまではいかないけど、それに近い位の協力が出来る時が、偶にある。
思い返せば、イリゼさんとあの魔龍を倒した時、最後はそういう状態だった。考えてみれば、今とあの時はちょっと似ていて……だからか今も、自然と分かった。わたしがどう動けばいいかも、皆がどう動くかも。
「ぜーちゃん!あれ、やろうっ!」
「うん、いくよッ!」
初めに動いたのは、イリゼさんと茜さん。イリゼさんは圧縮したシェアエナジー、茜さんは赤い粒子を風に舞う羽根の様に散らしながら、一直線に巨人へと突撃。怒りに表情を歪ませる巨人へ一気に肉薄して、その両側から斬り付ける。
立ち上がる最中に真正面から斬撃を受けた巨人がよろける中、二人は反転。茜さんは下段に持った大剣の腹を巨人へ向けながら床を滑り……その大剣の上に、イリゼさんが片膝を突いて着地した。そして巨人が振り向いた瞬間……二人は飛ぶ。
「闇をも魅せる、我等が比翼…!」
「受けられるものなら、受けてみなよッ!」
抵抗を物ともせずに大剣が振り抜かれる。その途中で大剣の逆側でシェア爆発が巻き起こって、その加速も得たイリゼさんは斜め上へと飛び上がり、一気に巨人の上方へ。反射的に巨人はイリゼさん一人に意識を向けたみたいだけど…わたしには分かった。それは陽動で、イリゼさん一人に一瞬でも意識を集中させてしまった時点で……その攻撃からは、逃れられないって。
最初は羽根を散らすように、今は翼を羽ばたかせるように膨大な量の粒子を広げて茜さんが猛進。イリゼさんに集中していた巨人は視界の端で起こったその光に目を見開いて、再び意識を逸らされてしまった。しかも今度は二人両方を見ているじゃなくて、どっちにも集中し切れていない状態に。
曲線を描くイリゼさんと、直線で進む茜さんは、違う軌道で飛びながらも同時に肉薄。そうして対処の遅れる巨人へと、長剣と大剣が迸る。
『緋天双撃──閃紅十文字ッ!』
後方から縦に斬り裂く一撃と、前方から横に薙ぎ払う一撃。二つの斬撃が十文字を描いて、前後から鮮烈に刻み付ける。あまりにも強力で……だけど綺麗な、二人の連携を。
完璧に決まった攻撃の余韻を楽しむ事もなく、二人はそれぞれ後ろに跳ぶ。その姿を見ながら、わたしは息を吸い込んで、大声で叫ぶ。
「ルナさん!カイトさん!わたしに考えがあります!全力の、最大の炎と電撃を…あいつに、ぶつけて下さいッ!」
声と共にグリモワールを開いて、杖を握り締めて、魔法陣を展開。半端な魔法じゃ意味ないって分かってるから、わたしはシェアも魔力も惜しみなく注ぐ。
そんなわたしの視界の中で、ルナさんもカイトさんも攻撃準備。…良かった。二人が即座に攻撃に移らなくて。即座に出せるような攻撃じゃ、わたしの思い描いた形には届かないし……何より、今はまだわたし達の番じゃないから。
「魅せてくれるじゃねーか、イリゼも茜も。なら…ワイト!どんな動きだろうと合わせてやるッ!だから…いけるな、近衛隊長ッ!」
「えぇ、お任せを。但し…手加減は、出来ませんよ?」
わたしが二人に声をかけたのとほぼ同時に、アイさんもまた自信に満ちた声を発する。それに応えるワイトさんの顔は、機体の中だから全く分からなかったけど…その声音は、不敵だった。そんな声音にアイさんはにっと勝気な笑みを浮かべて……彼女は舞い降りた。その両脚に、アイさんの得物に、黄金に輝くプロセッサユニットを顕現させながら。
追加プロセッサを纏ったアイさんが降り立ったのは、レイドッグスの右手の上。ほんの一瞬、そこには厳かな雰囲気が流れて……次の瞬間、その雰囲気は激しく苛烈なものに変貌した。レイドッグスが一回転し、アイさんを投げ飛ばした事で。
「手加減?はっ、そんなもん…いらねーよッ!」
「ヒヒギ…ッ!ギヒィ……ィイッ!?」
「ちょっとばかし調教してやるよ、くたばりやがれ木偶の坊ッ!」
一瞬レイドッグスが揺れる程の重量を得たアイさんは、高速肉薄すると同時に一撃。先の連撃から立ち直り切れていなかった巨人はギロリと睨み付けながらも腕を振り出すけど……それはアイさんの一撃、ブランさんの戦斧を彷彿とさせる程の踵落としで撃ち落とされた。
更にその腕を踏み台にしてアイさんは上昇。巨人はすぐに追おうとするけど、そこへ無数の弾丸が襲いかかる。
「ふん、もう自由にやれるとは思うなよ?」
ライフルを抜き放ったレイドッグスが、突き進みながら片手で連射。片腕を失ったレイドッグスだけど、その機体から感じる強さは少しも衰えてなんかいなくて、飛ぼうとした巨人は弾雨でその場へ釘付けにされる。
多分、巨人も分かってはいたと思う。避けなければ不味いと。でもワイトさんが、ここまで与えたダメージが、巨人から回避の選択肢を奪い去った。
金切り声を上げながら防御の為に両腕を掲げる巨人。そこへ上昇から落下へ転じ、再びの加速を得たアイさんの蹴撃と、ライフルを投げ捨て剣を抜いたレイドッグスの斬撃が、勢いのままに牙を剥く。
「沈め……ッ!」
「ぶっ潰れやがれッ!機紅連弾・白ノ薔薇ぁッ!」
掲げられた両腕が、振り下ろされた蹴りで軋む。踏ん張ろうとしたその身体を、人の身体よりも大きな剣が引き裂き抉る。力を込められなかった腕は超重量の一撃を止め切れず……黄金の光を反射する打撃が、鈍い金属光を発する斬撃が、頭と胴を喰い破った。
「ヒッ、ギ……ギ、ヒ……ッ…!」
「……!いけるぜ、ディール!」
「お願いします!これで…わたし達で、奴を……ッ!」
最初の二人と同じように、アイさん達も場所を開けてくれる。そこで聞こえる、カイトさんのはっきりした声。
その声に反応して、わたしは更に魔法陣を拡大。確実に決める為には、「これ位で…」なんて考えは出来ない。限界の限界、その先まで力を溜めなきゃ…勝てない……ッ!
「喰らい…やがれッ!」
床へ突き立てられた大剣から噴き出す、濃密な炎。初めに巨人を包み込んだのと同じような、でも火力は段違いの火炎が襲い掛かって、一瞬の内に巨人の身体は火だるまへ。傷口にも炎は入り込んだみたいで、巨人は叫びを上げて暴れ回る。
「ググヒヒグヒィィッ!ヒィィィイイッ!!」
「まだだ、もっと…もっと燃え上がれ……ッ!」
火力を増す炎。どう考えても黒焦げになりそうな熱量だけど、巨人は止まらない。暴れて、暴れて、暴れて……その目は、カイトさんの方を向いた。そうはさせない、と更にカイトさんは力を込めるけど……巨人は再び、雄叫びを上げる。
「く、そ…ッ!まだかディール……!」
「もう少しです、もう少しだけ…このまま……!」
「分かってる…!だが、このままじゃ…止め、切れねぇ……ッ!」
もう発動自体は出来るけど、まだ足りない。もっと力を込めないと、最大最高の効果は望めない。だから無茶だと分かっていても、わたしは求めた。
それを受けて、大剣を握り締めるカイトさん。でもその言葉の通り、このままじゃ動かれるのは明白で、だけどもう少しだけ時間がほしくて、どうしても耐えてほしくて……
「…いいや、やれるよ…ううん、やるんだよカイトさんッ!」
その瞬間、電撃が駆け抜けた。同じように床へと突き立てられた、ルナさんの直剣から。
青い軌跡を宙に描く雷電は、巨人ではなく赤く揺らめくカイトさんの火炎へ。わたし達と巨人、その中間で雷電と火炎が融合した瞬間、炎は青白く燃え上がり……そして、紫に煌めく雷炎となった。
雷を纏う炎。炎を纏う雷。どちらとも取れる雷炎は轟きながら巨人を飲み込み、完全にその身の動きを封じる。その威力はわたしが想定していたよりも遥かに上で……だからわたしも、絶対の自信と共に限界の先まで力を込めた魔法を発動させた。
「雷炎を包め、氷結界…ッ!マテリアライズ……」
『エボリュードッ!』
雷炎が駆ける一点を残して、巨人の周囲を幾層にも重なった氷の結界が包み込む。それは、逃がさない為の結界。巨人を逃さず、二人の力も逃さず、何度も何度も雷炎が駆け巡り喰らい付く為の冷たい檻。
巨人にとっては檻だとしても、雷炎にとっては最高の舞台。獅子の如く吠える紫電の炎が、巨人の全身を蹂躙する。
氷結界は、二人の為に作ったもの。その水分が雷撃を一層通電させて、熱で溶けかけた層は炎の勢いを奪う前に魔力へと還元。積層構造だから層が一つ消えても逃げ場なんてどこにもなくて、雷炎は巨人を灼き続ける。
(いける…ッ!これで、勝てる……ッ!)
そんな光景を見ながら、結界を維持しながら、わたしは勝利を確信した。こんなの耐え切れる訳がないし、耐え抜くようならむしろ勝ち目なんてない。思った通りの、最高最大の炎と雷。……だけど…最後まで思い通りには、ならなかった。
『……ッ!?』
狂ったように暴れる巨人。それはもう、抵抗というよりのたうち回っているだけの事。だけどそれは予想してなかった事で……次の瞬間、数ヶ所に穴が開いてしまった。結界全体からすれば小さな、でもあってはならない綻びが。
もしかしたらそれは、想定以上の負荷になる程雷炎が強過ぎたせいかもしれない。でも理由なんかどうだっていい。大事なのは、そうなってしまったという事実。
『ディールっ!』
「くっ、うぅ……!間に合って…間に合って……ッ!」
開いた穴は四ヶ所。急いで修復しようとするけど、そこから漏れ出る雷炎がすぐに吹き飛ばしてしまう。その内に穴は広がり始めて、漏れ出る力も増えていく。
このままじゃ、仕留め切れないかもしれない。そう思った瞬間、パニックになりそうだった。折角後一歩なのに、もう勝利はすぐそこまで来てるのに、もしこのまま結界が破れてしまったら、わたしの甘さが皆さんの勝利すらも奪ったらって、どうしようもなく怖くなった。
氷を展開するけど、塞ごうとするけど、止まらない。止められない。怖がってる場合じゃないって自分で自分を叱り付けて頑張るけど、どうにもならない。そんな、そんな…ここまで来たのに、もう勝てる筈なのに、なのに……ッ!なのにここで、わたしは…わたし達は……皆の、思いが……ッ!
(嫌だ、嫌だ、嫌だ…ッ!そんなのは、絶対に嫌……ッ!)
『──いっ……けぇえぇぇぇぇええええええッ!!』
────だけどそんな未来は、訪れなかった。後一歩で届かない……わたし達の未来は、そんなものにはならなかった。
長剣が、穴を貫いた。イリゼさんの放った、渾身の長剣が。
大剣が、穴を押し潰した。茜さんの投げ打った、全力の大剣が。
光弾が、穴を埋め尽くした。アイさんの蹴り込んだ、全霊の光弾が。
弾丸が、穴を穿った。ワイトさんの撃ち込んだ、死力の弾丸が。
そして、穴を通って雷炎と共に四連撃が巨人の身体を貫いた瞬間……大爆発が、巻き起こる。
『……っ…!』
空間すらも激震させる程の強烈な衝撃に、わたし達三人は体勢を崩す。浮遊していたイリゼさん、茜さん、アイさんは軽く後ろに飛ばされて、多分元々は固定した姿勢で撃つべき長砲身のライフルを片手で、立ったまま扱ったレイドッグスはその反動もあって倒れ込む。そして長い長い爆発が終わり、爆煙も消えて、その中心地が見えるようになった時……そこにあったのは、バラバラに砕け散った巨人の残骸だけだった。
今回のパロディ解説
・どこぞの闇の種族の一人
ジョジョシリーズの第二部、戦闘流潮に登場するキャラ、エシディシの事。キレると自ら号泣して頭を冷やす…これ、創作全体でもほぼ彼一人しかやらないのでは?
・「ちょっとばかし調教してやるよ、くたばりやがれ木偶の坊ッ!」
Fateシリーズの登場キャラの一人、モードレッドの戦闘時における台詞のパロディ。ちょっとばかし〜とくたばりながれ、どちらも彼女の台詞ですね。
・氷結界
パロディ…ではないのですが、遊戯王OCGにて、氷結界というテーマがあります。しかしパロディではありません。所謂偶然、偶にある偶々パロってた…のパターンです。
えー、なんと渇望のアウトサイダーの作者さんであるジマリスさんが、イリゼの絵を描いてくれました。なんと描いてくれたのです!
なので、その絵をOAの人物紹介に載せました!非常に可愛いので、是非見て下さいませ!……SDイリゼは…はい、私のページの挿絵のところから見れますよ〜。