超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
ローズハート。アイの女神としての名前は、言い得て妙だと思った。一見すれば美しく、鮮やかで、目を引く魅力を有しながらも、その花弁の裏に潜む棘は凶悪且つ抜け目がない。表面的な部分はブランと似ていながらも、根底に熱いものがあるホワイトハートと根底が涼やかなローズハートは、その点において真逆だと感じた。
私はアイの事を大事な友達だと思ってるし、同じ女神として敬意も抱いている。だからアイが、本気で愚弄してきた訳じゃないって事は、最初から分かってる。でも、今の私はカイト君との勝負で熱くなっていたし……何よりアイは、本心は違えどオリジンハートを軽んじた。…ならば私は、示さなければならない。原初の女神の、揺るがない強さを。
「ふん……ッ!」
「はん……ッ!」
激しい音を立てて衝突する、長剣の刃と右脚のプロセッサユニット。激突の次の瞬間には私もアイも次の行動に移っていて、何度も剣撃と蹴撃がぶつかり合う。
「流石に容易には避けないんだ、ね…ッ!」
「あぁ?そりゃそっちの斬撃が生温いからじゃねーの?」
「ほぅ、ならばその生温い斬撃に止められる蹴りも、大した事はないのだろうな」
「ったりめーだ、簡単に勝負がついたら面白くねぇだろうが…よッ!」
遠心力に激突の反動、体重移動と利用出来る力を余す所なく駆使して流れるような蹴りを見舞ってくるアイに対し、私もまた同様の技術を用いて対応。視線を交わらせ、言葉を交わらせて私達は鎬を削る。
やっぱり、体術の分アイの方が攻撃の出が早いし、威力も武器を持ってのそれに何ら劣っていない。だけど……
(リーチと重みなら、武器がある分私が上…ッ!)
何度目かの激突の後、私は振り被った姿勢のまま跳んで後退……と見せかけて、長剣の斬っ先がギリギリ届く間合いで一撃。
リーチで優っているのなら、それを活かさない手はない。優る側には届いて劣る側には届かない距離を維持出来るのなら、一方的に攻撃し続けられるし、避けずして当たらなければ…と言えるんだから。
「っ、とぉッ!」
反射的に追おうとしたアイへ丁度叩き込めるよう振るった長剣。でも、その程度でやられる訳がないとばかりにアイは半身になる事で避け、そのまま側転の様な動きで蹴り込んできた。
距離を維持出来れば圧倒的に有利。けれどそれは、言葉で言う程楽じゃない。当然相手は距離を詰めようとする訳で、機動力においてはほぼ互角な以上、正対しながら動けば必ずアイに少しずつ近付かれてしまう。
加えて言うなら、大切なのは『私だけが攻撃出来る距離』である事。離れ過ぎれば私も攻撃が届かなくなるんだから、微妙な距離を維持し続けて、尚且つ攻撃もする事が必要になるんだけど……女神同士の勝負において、そんな事はとても実現出来るようなものじゃない。
「そこだ……ッ!」
…でも、一方的な攻撃は出来なくても、プレッシャーにはなる。その距離を維持されたら不味いと、精神的な負荷をかけられるだけでも…意味はある。
そのまま後退する事で縦の回し蹴りを凌き、振り抜いた長剣で下からアイの腹部を狙う。それは着地と同時に上げられた脚で止められるけど、その防御行動も織り込み済み。
「背中がお留守、だよッ!」
「背中は普通、誰でもお留守だろうがよッ!」
止められた時点で私は左手を離し、空中に精製していた短剣を掴んで背中へ刺突。一瞬いけるかも…と思ったけど、残念ながらそれは勘違い。割り込んできた右の膝で左腕の前腕を止められて、ギリギリ刃は届かなかった。
『……ッ…!』
数秒の力比べの末、長剣を弾き返したアイは飛翔。それを追って私も飛翔し、戦闘は空中戦へと移行する。
「おらよッ!」
「甘いな、その程度ッ!」
近距離のまま打ち合っていたさっきまでとは違い、飛んでからは騎兵戦の如く突進と旋回を繰り返す。
加速が足りなければ押し負け、かといって加速の為に距離を取り過ぎれば速度が乗り切らない状態で加速した相手と激突する事になりかねないという、動きのシンプルさに反して高い判断力が求められる激突の応酬。…その中で私達は、互いに探りを入れていた。
(単なる力比べじゃ、お互い消耗するだけ。単純な力をぶつけるだけじゃ、互角にはなっても勝つ事は出来ない。…でも、アイの戦い方はよく分かった。だったら、ここからは……)
刃と脚をぶつけ合い、その衝撃で進路の逸れた私達はほぼ同時に反転。そこから再加速と再度の激突を行い……そこで私は、敢えて片手持ちに切り替えて斬り上げた。
下から押し出される形となったアイは、斜め上方へ。一方の私は威力を落とした事により半ば弾き返され、その勢いを利用し素早く降下。
背後にアイの追駆を感じながら、私は眼下の床を目指す。真っ直ぐに、一直線に。そして私は、激突の寸前に反転しつつも翼を姿勢制御重視形態へと切り替えて……直上に蹴りを叩き込んだ。
「な……ッ!?」
既に攻撃態勢に入っていたアイの踵落としと、私の張り出した回し蹴りが激突。アイが目を見開く中、私は脹脛に当てる形で圧縮させたシェアエナジーを解放。私の蹴りは爆発という強力な推力を得て……攻撃諸共、アイの身体を弾き飛ばす。
「……っ…イリゼ、テメェ……」
「──ふっ」
空中で身体を捻り、両脚で着地したアイからの鋭い視線。それに小さな笑いで返し……長剣を手放した私は再び蹴り込んだ。
さぁ、アイ…見せてよ、ローズハートの戦いをもっと……ッ!
*
車輪を思わせる縦回転からの蹴りを、横からの膝蹴りで迎撃。続く横の回し蹴りは回避で、膝蹴りは蹴り上げで、姿勢を下げての足払いは跳躍する事で……イリゼの足技を、凌いでいく。
「逃がすか…ッ!」
「逃げる?はっ、抜かせよイリゼッ!」
位置の下がったイリゼの頭を、アッパーの要領で蹴り上げる。それをバク転で避けるイリゼ。そこへ向けて、追撃の蹴りを三連打。
「そっちこそ、蹴りが一々半端なんだよッ!それで蹴ってるつもりなら…笑わせるんじゃねーよッ!」
「ならば…これでどうだッ!」
一度や二度ならともかく、ウチに対して何度も蹴り?ウチを相手に、蹴りの勝負?…はっ、舐めた事してくれるじゃねぇかよ…ッ!
そんな思いとイラつきで打ち込んだ、三連目の蹴り。そこに合わせて振られたイリゼの脚がその途中で加速し……ウチの蹴りと正面から拮抗するだけの蹴撃となって、激突する。
(ちっ、またこれか…無理矢理圧縮したシェアをタイミング良く解放して、圧縮の反動を使ってんのか…?)
互いに脚を弾かれたウチとイリゼは、逆脚を即座に打ち付ける。こっちもまた、イリゼが加速させた事で互角。脛に沿う形で配置された打突部位で激突すれば、威力は互角でもダメージを与えられるんだろうが……イリゼはそれを、巧みな動きで避けてくる。……まだるっこしい…ッ!
「…ふん、だったら付き合ってみろよ…ウチの、動きにッ!」
そこから始まる、激しい蹴り合い。振るい、突き出し、放って、叩き込む。思い返せばした事のない、蹴りと蹴りによる足技の勝負。…まさか、こうなるとは思っていなかった。剣を使うイリゼと、こういう勝負をする事になるとは。
「はぁぁぁぁッ!」
「オラオラぁッ!まだ終わりじゃねぇぞッ!」
ウチの蹴りがイリゼの頬を掠め、イリゼの蹴りがウチの肩を掠める。次の瞬間同時に打ち込んだ膝と膝が衝突し、息つく間もなく蹴りの応酬が再開。イリゼの蹴りはウチに届かず、ウチの蹴りはイリゼの蹴りを潰し切れず、少しずつ脚のプロセッサが欠けていく。
(……ほんとに付いてくんのか…思ったよりやるじゃねぇかよ。だが……)
数十のぶつかり合いの末、ウチもイリゼもバックステップ。ウチはイリゼの着地の瞬間に注目し、確信を得て……言い放つ。
「けっ……まさかそれで本当に互角だなんて、思っちゃいねーだろうなぁ?」
「…さて、何の事やら」
飄々とした顔でイリゼははぐらかす。…だが、ウチには分かる。イリゼがどれだけ無理をしているかって事が。
そもそも、イリゼが足技でウチに敵う訳がない。イリゼは爆発で威力と速度を水増しさせる事で、ウチに喰らい付いていただけの事。それはそれで大したもんだが……曲がりなりにも喰らい付けるだけの爆発を受け続けた結果、ほんの僅かにだがイリゼは脚に影響が出ていた。
別に足技でウチに敵わなくたって、そんなの当たり前じゃねーかと思う。少なくともウチは、剣を持ったところでイリゼと良い勝負が出来るなんざ思わない。にも関わらず、そこまでして足技に拘る理由は知らねぇが……馬鹿らしいが、そういうのは嫌いじゃない。
(…いいぜ、だったら手を抜かず…満足行くまで付き合わせてやるよッ!まぁ、手じゃなくて脚だがなッ!)
心の中で吠えて、ウチは突進。肉薄からの薙ぎ払いをヘッドスライディングの様な動きですり抜けたイリゼは、そのまま下からウチの背後へ。そこからイリゼはウチを蹴り飛ばそうとしたみたいだが…そんな動きは想定内。
「読めてんだよ、その程度ッ!」
「……っ…!」
振り抜いた脚をそのままにする事で、遠心力を使った回転蹴り。脚同士がぶつかった瞬間、イリゼは爆発で押し切ろうとしてくるが…ウチだって女神。一度や二度ならともかく、何度も見ればシェアの状態だって見えてくる。
その見えたシェアが爆発する直前、ウチは力を抜いて一回転。次の瞬間イリゼの脚は文字通り爆発的な威力を得るも、ウチが脱力回転をした事によりウチへのダメージは殆どゼロ。加えて勢い余ったイリゼは姿勢が崩れ……回転を終えたウチにとっては、絶好のチャンスだった。
「まずは、一発…ッ!」
咄嗟に掲げられた腕でのガードを押し退け、イリゼを吹っ飛ばす。防御された分あまりダメージは入ってないが、ウチの本命はこっから先。
飛んでいくイリゼへと一気に追い縋り、表情を歪めるイリゼを一瞥。そして『間合い』に入ったウチは、絶対の自信と共にがら空きとなった胸元へと脚を振り出し……
──その脚が、イリゼの長剣に逸らされた。
「え…は……?」
防御も迎撃も間に合わないと思った、勝負は決まらずともこれで一気に流れを掴めると思った一撃が、当たらなかった。逸らされた。イリゼの手にした、長剣によって。
ウチは混乱する。いきなり長剣が背後から現れたのは、恐らく床に刺してあったからだと推測出来る。丁度そこへ吹き飛ばされたのも、イリゼがそうなるように位置取ってから攻撃を受けたとすれば説明がつく。だからそこじゃない、そんな事はどうでもいい。もっと、もっとそもそもの話として……イリゼは足技で勝負する気じゃなかったのかよ…!だから無理してまで喰らい付いて、はぐらかして、その勝負を続けようとしたんじゃねぇのかよ…!そう思ったからウチは、ウチも…………
(…って、待て…待てよウチ…落ち着け、落ち着いて思い出せ……。確かにイリゼは足技で仕掛けてきたが、まるでその勝負を望んでるみたいな戦い方だったが……
思考は混乱から愕然へ。目の前で起きた訳の分からない事が、おかしくもなんともない……単なる『勘違い』だと気付いたウチは、全身に鳥肌が立つような感覚に襲われた。…あぁ、くっそ…そういう事かよ…まんまと乗せられてたってか、ウチは……ッ!
「やってくれたな、イリゼ……ッ!」
「人は思い込むと視野が狭くなる。思考が自然とその方向へ向かう。…それは例え、女神であってもね…ッ!」
逸らされてもまだ突進の勢いがある、と引っ掛ける形で打ち込んだ逆脚の膝蹴りもイリゼの作り出したナイフの斬り上げで逸らされ、直撃を確信していたウチの攻撃は完全に失敗。蹴りが虚しく空を切る中、イリゼの言葉が…ウチの心に突き刺さる。
「だからなんだってんだッ!気付いちまえば、それまでの事だろーがッ!」
「本当に、そうかな?」
「なら、証明してやんよッ!」
長剣とナイフの連撃を、身体を捻り、全力で後ろに飛んで回避する。刃の届かないギリギリの距離に出た瞬間切り返し、頭に向けて素早く飛び蹴り。避けられ通り過ぎたウチの背へと、投げ放たれたナイフが迫る。
(ナイフか…丁度良いじゃねーか……!)
やられっ放しは気に食わない。真似されたなら、やり返してやるまでの事。その思いでウチは反転しながら右手を伸ばし、迫るナイフの柄を掴む。
他の武器ならともかく、ナイフの扱いなら望むところ。また何かをしようとしているのか長剣を再び床に突き刺したイリゼを見据え、ウチは床を蹴りながらナイフを投擲。そして、ナイフの対処に動くであろうイリゼの動きを予測し、その先を打つべく脚に力を込めて……その瞬間、ナイフが消えた。
「な……ッ!?」
「貰った…ッ!」
元のシェアエナジーへと戻って霧散する中、両手を振り上げたイリゼ。その手に現れたのは、無骨な大槌。ブランちゃんより某配管工が使っていそうなハンマーが見えて……ウチは理解した。気に食わない、やり返してやるって思いすらも…イリゼに誘導させられていたんだと。
「天舞参式・睡蓮ッ!」
「ぐ、ぁ……ッ!」
気付いた時には時既に遅し。とても普通の人間には振るえない、持つ事すら叶わない程の巨大槌に襲われたウチは、受け止め切れずに片膝を突く。何とか両手を掲げる事は間に合ったが……動け、ねぇ…ッ!
「あまり華麗ではないが……このまま、決めさせてもらう…ッ!」
「く……ッ!」
気を抜けばその瞬間に押し潰されそうな圧力が襲う。恐らく、またあの爆発を使われた。継続的じゃない分、今のところは持ち堪えられてはいるが…いつかは押し切られる。この状況を打開しなけりゃ……ウチは、負ける。
「……どこまで、掌握してやがった…ナイフも全部、計算尽くだってのか…?」
「あそこまで絶妙なタイミングになったのは偶然、でもナイフを掴ませるのは狙い通り…って所かな。アイが投げナイフを使う事は前の試練で分かってたし…再利用する予定のない武器に、長時間形を保てるだけのシェアエナジーなんて注がないからね」
「…はは、親切に説明どーも……」
イリゼは力を込めながら、ウチは耐えながら、言葉を交わす。焦ってチャンスを無駄にはしたくないのか、イリゼは少しずつウチの力を削っていくつもりらしい。
舐めていた訳じゃない。ウチと同じ女神で、原初の女神…言い換えるなら、イリゼの次元における最古の女神の複製体な以上、油断出来ないって事は端から分かっていた。…分かっていたが…結果はこのざま。悔しいが今のウチは、イリゼの策に嵌まって追い詰められている。…だが……
(…勝てると思って心のどっかに油断が生まれたのか、誠実に返答しようと思ったのかは知らねーが……)
「降参は?…なんて訊かないよ。それはアイの誇りに泥を塗るのと同じだからね…ッ!」
「……くくっ…」
「…アイ……?」
半ば床にめり込む脚。相変わらず抜け目のない圧力。そしてイリゼの発した言葉。それ等全てが繋がる事で、思わずウチは笑ってしまった。…勿論それは、取り乱した結果とかではない。
「…お互い、ちっとばかし相手の強さを見誤っていたみたいだぜ?イリゼ」
「見誤っていた…?……っ、まさか…ッ!」
動揺を誘うという作戦半分、単純に言ってやりたい気持ち半分でウチの発した、あからさまに「何かある」と思わせる言葉。狙い通りにイリゼはウチのこの発言がハッタリではなく、本当に「何かある」と察して込める力を強めてきたが……もう遅い。
「打ち、砕けッ!ルビー・アマリリスッ!」
溜めていた力を一気に解放し、赤く輝く脚のプロセッサユニット。チャージは十分、状況も上等。後はウチが……振り抜くだけ。言うまでもねーから口にはしないが…そう簡単には負けねーぞ、イリゼ…ッ!
*
長剣を手離し、武器の精製も止めて足技の勝負に持ち込んだのは、その荒々しさに反して内面は冷静なアイの精神を乱す為。オリジンハート・シュートスタイルとでも言えそうな戦い方をしたのは、その思考へ思い込みを植え付ける為。結果かなり脚に負担がかかったけど…狙い通りにアイは勘違いして、驚いて、思考が短絡的になった。
後一歩、後は功を焦らず削り切れば勝てる状況だった。油断はしてなかったし、アイの動きにも気を付けていた。けれど今……床は裂かれ、砕かれて……赤い刃が、私に迫る。
「んな……ッ!?」
あまりにも衝撃的で、想定外過ぎて、反射的に私は大槌の柄を離し、大きく回避行動を取ってしまった。…とは言っても、その刃は手を離さず何とか出来る程度のものじゃなかったけれど。
(床ごと蹴り抜いたっての…!?なんて無茶苦茶な脚力…それに……私こそ、思い込みで思考が狭まっていた…ッ!)
私は威力ではなく重さで攻める事により、アイの反撃を封じたつもりだった。脚が床に押し付けられていれば、足技は何も使えないだろうって。
でもその結果、片脚の脛周りが床にめり込み完全に見えなくなっていた事で、私は力を溜めている事に気付けなかった。焦らず確実に…としたばかりに、溜める時間を与えてしまった。策士策に溺れる、ではないけど……アイの言う通り、私はアイの底力を…見誤っていた。
「逃がすかよッ!」
大槌を跳ね除け突進してくるアイに対し、私は回避の流れのままに飛んで長剣を回収。翼を三次元機動重視に可変させたところで追い付かれ、蹴りを長剣で受け止める。
「なぁオイ、楽しくなってきたよなイリゼッ!」
「…否定は、しないよッ!」
止まったと思った次の瞬間には脚を曲げ、バネの様に再び突き出された蹴りによって私は後退。にぃっ、と高圧的な笑みを浮かべたアイの顔を見て、私も少し…いや既に点いていた火が、更に燃える。
あの状況から盛り返してきた事には驚いたし、策を破られた悔しさもある。…だけど同時に、熱くもなった。それでこそ、戦い甲斐があるじゃないか、って。
「オラオラオラオラァッ!」
「ふっ、ぁぁああああッ!」
両手持ちで大振りの長剣と、滞空したまま身体を捻って放つ蹴りがぶつかり合う。序盤でしていた隙を作り、そこへ攻め込む為の素早い連撃とは真逆の、一撃一撃に必殺の意思を込めた荒っぽい勝負。
力は互角、体力的には追い詰めていた分私が有利。けれど今は双方近接攻撃が当たる間合いで、尚且つ長剣を振るうには若干近過ぎる…アイが優位な距離だった。それに気付いてはいた私だけど、距離を開けるだけの余裕はなくて……アイの放ったサマーソルトキックが、私の姿勢を大きく崩す。
(……ッ!防御……)
「だと、思ったぜッ!」
「……!?」
右腕諸共蹴られた長剣が弾かれ、咄嗟に私は左手で防御。けれどアイが選んだのは蹴りではなく……頭から突っ込むタックルだった。
左手をくぐり、腰に組み付くようなタックルを受けた私の身体はくの字になってそのまま吹き飛ぶ。姿勢を立て直そうとしても、組み付かれたままではどうにもならない。そして私の身体は床に落ち、頭と背中に削がれるような衝撃が走った。
「はははははっ!無駄に蓄えた脂肪も、クッションの代わり位にはなるんだな!」
「……舐めるな、ローズハート…ッ!」
「くぉ……っ!?」
私はかなりの距離を床に擦り付けられた一方、アイは落ちる寸前に両手を離し、且つ私の胸を緩衝材にする事で余裕の高笑い。胸から顔を上げるや否や、飛び上がって次なる攻撃を仕掛けようとしてきたけど……今度は私が下半身を跳ね上げ、両脚を腰に回して捕縛。脚でがっちりとホールドされたアイが驚く中、私は左の拳を叩き込む。
「……っ…ウチにそんな趣味は、ねぇってのッ!」
「だろう、ねッ!」
ある意味抱き締める形になったアイのタックルもそうだけど、私の拘束は最早軽く変態的。殴打を交差させて防いだアイは、そこに関する動揺を見せながら反撃の拳を放ってきて、それを私は身をよじってギリギリ回避。……と同時に両脚を離し、アイの身体を突き飛ばす。
「追撃…ッ!」
「させねぇよ…ッ!」
「いいや、押し通るッ!」
ハンドスプリングの如く立ち上がった私は、起き上がりながら長剣で横薙ぎ。寸前で間に合わせた脚での防御を跳ね除けて、振り出した勢いそのままに回転前進。一歩分奥へと接近して、左手で裏拳を鋭く放つ。
『……ッ!』
裏拳はアイの振るった左腕で逸らされ、私達は正対。お互い大きなダメージは受けていなくても、細かなダメージの蓄積があった。疲労もあって、序盤程一つ一つの攻撃で精細さを保つのは難しい状況。
このまま戦いを長引かせるのは不味い。これ以上精細さを欠けば、お互い相手に大怪我をさせてしまう可能性がある。そうなったらもう手合わせじゃないし……私もアイも、そんな事は望んでない。だから……
「…そろそろ決着、つけようか」
「へっ、言われなくても…そのつもりだッ!」
ほんの一瞬、私達は動きを止めて…次の瞬間、また長剣と脚を激突させた。互いに弾かれ、互いに飛び、最後の攻防戦を開始する。
「勝つのはウチだッ!」
「いいや、私だッ!」
射出した武器群を鮮やかな機動で避けたアイが接近。逆袈裟の様に放たれる蹴りを躱し、お返しの斬撃。続けて掌底を打ち込み、回避したアイへと防御を強要。そこへと長剣を突き出して、蹴りでそれを阻まれる。
「性格に似合わず負けず嫌いなんだなッ!」
「アイは性格通りに負けず嫌いだねッ!」
武器は勿論脚も上手く振るえない程の超至近距離で、私達はもみ合いになりながら落下。着地の瞬間互いの得物を振り出して、得物の上から睨み合う。
そこから数秒後、約十回の斬り結び、アイからすれば蹴り結びとなる長剣と脚の衝突を繰り広げた私達は、大きく飛んで距離を開ける。私は翼を直線機動重視に切り替えながら、アイは意識を集中させながら、離れた場所へと降り立って……次の瞬間、全力を込めて床を蹴った。
『こッ、のぉぉぉぉおおおおおおッ!!』
爆ぜるような勢いで肉薄した私達の、これで最後にする覚悟の全力攻撃。もう何度目か分からない、けれどこれまでで間違いなく最大の激突が巻き起こり、それだけで激しい衝撃が腕を襲う。
ぶつかり合う全力。交錯する視線。本気で目指す、相手への勝利。思い全てを注ぎ込んだ長剣の刃と脚のプロセッサが唸りを上げ、シェアエナジーを散らし……そして長剣は吹き飛び、プロセッサは砕け散る。
「────ッ!!」
全力の一撃が崩れた私達はよろける……けど、私は最後の力を込めて回転。右腕を引き、歯を食い縛り、回転の果てにその右腕を真正面へと振るい出す。
その寸前に放たれていた打撃が、浮遊ユニットの一つを粉々に砕く。だけどそれに構わず、私は……アイの腹部へと、最後の一撃を突き立てた。
「が、は……ッ!」
「…これ、で……!」
殴られた腹部を基点に折れ曲がるアイの身体。私の手にあるのは、確かに芯で捉えた感覚。思わず抜けそうになってしまう身体の力を必死に引き止めながら、私はゆっくりと右手を戻す。そして、今にも倒れそうなアイの姿を目にしながら、私は一歩後ろに下がり…………
「……終わり、だな…ッ!」
「……──ッ!?」
──がばりと身体を起き上がらせたアイによって、左右から頭を掴まれ……膝蹴りを、アイの最後の一撃を頭へと打ち付けられた。
「……ぃッ、ぅあ…っ」
「う…ぐ……ッ」
ぐにゃりと歪む視界。その中でふらつくアイ。頭が割れそうな頭の中、それでも私は踏ん張ろうとして……だけど力が入らず、仰向けでどさりと倒れ込む。
ほぼ同時に、前の方からも同じ音が聞こえてくる。続けて私は女神化が解け、歪んだままの視界の端でも同じような光が見えて……私とアイの、手加減なしの手合わせは…両者戦闘不能という形で、幕を閉じた。
*
「いやー、決着はつかなかったッスけど、良い勝負だったッスね」
「うんうん。…ところで気になったんだけど、もしかしてアイって技名に花の名前を使ってるの?」
「あー、まぁそうッスよ。…そういえば、イリゼもそうだったッスね…はは、気が合うッスねウチ等!」
「だよね、気が合うよね!こんな偶然があるなんて思わなかったなぁ」
「あっはっは、花の可憐さが似合うッスよ、イリゼ」
「ふふっ、アイこそ花の煌びやかさが似合ってるよ」
「えー、そうッスかー?」
「うん、似合ってる似合ってる」
「なら光栄ッス、はっはっは」
「私も似合うって言われて嬉しいよ、あはは」
(……その割に性格の悪い戦法もあったッスけど…これは言わない方が良さそうッスね…)
(……とはいえ花らしからぬ荒々しさだったけど…これは言わない方が良さそうだよね…)
今回のパロディ解説
・当たらなければ…と言えるんだから。
機動戦士ガンダムの登場キャラ、シャア・アズナブルの代名詞的な台詞の一つのパロディ。このシーンの場合、より正確には「当たらないから」ですね。
・某配管工
マリオシリーズの代表的な主人公、マリオの事。作中通り、あれ位シンプルな大槌をイリゼは使っています。逆にブランのハンマーは、そこそこ装飾があるんですよね。
・オリジンハート・シュートスタイル
僕のヒーローアカデミアの主人公、緑谷出久の使う戦法の一つのパロディ。但しここでのイリゼは蹴りオンリーだったので、元ネタとは少し違います。
参加して下さっている皆さんに対しての質問ですが、現在『水着イベを見たい』というリクエストがきています。私としては良いのですが、前話の展開の事もあり、出来る事なら男女混合でこの話を書きたいと思っています。しかし、もし「うちのキャラが異性に水着姿を見られるのは…」と思う方は、その旨をお伝え下さい。