超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
「なんとまたもやバトル回だよ!」
「色々どうしたの!?」
──開口一番、これだった。いきなり何を言ってるのか分からない?…大丈夫、私も分からないから。
「あれ?メタ発言にはノータッチ?ぜーちゃんの次元ではありふれ過ぎてる感じ?」
「いや、突っ込みどころが多過ぎるからそれ含めて『色々』って言ったんだけど…後過ぎてるって程はありふれてないから……」
私の呆れ顔は何のその。ぽむーん、みたいな擬音の付きそうな顔をして小首を傾げているのは茜。…ほんとに意味が分からないけど…一度状況を整理しようと思う。
最後…らしい第七の試練を前に、私達は休息を取る事にした。で、走り回った後という事で皆暫く休んで、各々自由行動って事になったんだけど、そんな中で私が茜に呼ばれたのが数分前。そこから私は誘導される形で大部屋へと連れて来られて……今に至る。
「そっかー…という訳でバトル回其の二、だよ!」
「どういう訳で!?強引だね!?」
「でもぜーちゃん、導入すっ飛ばせると楽でしょ?」
「その分突っ込みに大忙しだけどね!おまけにそれで楽になるのは私じゃないけどね!」
こんなにメタ発言ばっかりする子だったっけ!?…って位ボケまくる茜。その勢いたるやネプテューヌ並みで、とにかく茜のキャラは濃い。最初は明るいながらも闇のありそうな性格だと思ったのに、ガールズトーク以降はちょいちょい惚気属性が出てくるし、加えて容赦ないメタボケって……これはもうパーティーに即加入出来る域だよ…。
「あはは、ぜーちゃん元気一杯だね」
「…戻ってもいいかな?」
「あ、ごめんごめん冗談だって。……真面目な話をするとね、ちょっと勘を研ぎ直しておきたいんだ」
両手を合わせて軽く謝罪した茜は、それからふっと真剣な顔に。
「…どうして?」
「だってほら、前半に比べて後半は身体を動かす頻度が増えたし、段々内容もバトルっぽくなってきたでしょ?…だから思ったんだ。もしかしたら最後の試練は、何かしら戦闘が絡んでくるのかもって」
「それは…一理あるね。…あぁ、だから身体を動かしておきたいじゃなくて、勘を研ぎ直したいなんだ…」
「そういう事。どうかなぜーちゃん。ぜーちゃんが気乗りしないなら、断ってくれてもいいんだけど……」
「…いや、付き合うよ。備えあれば憂いなしって言うし、折角私を相手として頼ってくれたんだからね」
「ありがと、ぜーちゃん。じゃあ……」
にこりと一度笑った後、茜はその手に大剣を保持。正対したまま数歩下がる茜に対し、私もバスタードソードを手にして全身を見据える。
「…女神化はどうする?した方がいい?」
「ううん、軽い手合わせ位にしようよ。ぜーちゃんもまた皆に呆れられるのは嫌でしょ?」
「うっ…そ、それはそうだね……」
自業自得の顛末を思い出した私は、気を取り直しつつバスタードソードを構える。茜も大剣を前に構えて、準備は完了。…もうここに、さっきまでの緩さはない。
「…………」
「…………」
互いに意識を張り詰めたまま過ぎる、数秒の沈黙。相手の出方を伺いつつも、打って出るタイミングを見定める最初の攻防。静かな、けれど油断のならない数秒間が私達の間を流れて……先に動いたのは、私だった。
「……ッ!」
「来たね…ッ!」
床を蹴ると同時にバスタードソードを振り上げ、大上段から真っ直ぐに一撃。小手調べを兼ねたその斬撃は、掲げられた大剣の腹で止められる。
「よ、っと!」
軽快な掛け声と共に武器ごと押し返された私は、着地の瞬間後ろへ跳躍。次の瞬間その空間を大剣が通り過ぎて、床には大剣の刃が沈む。…もし、あれが身体に当たっていたらその時点で私は酷い有り様だっただろうけど……それだけで臆する程、私の精神は柔じゃない。
「重い一撃だね」
「大剣だからね。でも、こんなのまだ準備運動レベルだよ?」
「知ってる。だってお互い様だもん」
軽く言葉を交わしながら、私達は構え直す。茜の言う通り、こんなのは私にとっても準備運動。
(……茜の戦い方は、第五の試練で見たけど…暫くは私の中の認識との擦り合わせ、かな)
相手の持ち味や癖が分かれば、私の得意戦術を第二段階に移す事が出来る。でも私の戦術はバレると効き目が大きく落ちる以上、しっかり見極めるまで安易に使う事は出来ない。ましてや相手は他でもない茜。だとしたら……
「ふっ、はぁぁッ!」
「わっ、と、と…!……へぇ…これはちょっと、ペースが崩れるね…!」
(やっぱり…!もう気付かれた……!)
相手が重い武器なら片手持ちで…と連撃を放ちつつも、強行突破を図ろうとした瞬間両手持ちに切り替えて受け止め、そこから途中まではそのまま、振り抜く寸前に再び片手持ちへ…と変則的な動きで攻め立てた私。普通ここまでなら変な動きだと思われるだけで、その意味まで至るのはまだ先になるんだけど……茜は、もうこれが私の策である事を理解していた。…既に一度見てるとはいえ…まさかジャッジ以上に早く気付くなんて……。
「これは、こっちから攻めないと分かってても乱されるね…!」
「理解が早いね、茜…でも、そう簡単にはさせないよ…!」
私の刺突を跳躍で避けた茜は、縦回転で大剣を振るいながら私へと飛来。それを私が左に避けて横薙ぎをかけると、床に刺さった大剣の柄を利用し押し出す動きで、空中の自分を逆に飛ばす。
「逃がさない…!」
「わわっ!ぜーちゃん容赦ないね!」
「そりゃそうだよ。だって茜…長引けば長引く程、有利になるでしょ?」
「……うーん…やっぱり、何度も見せてたらそこまで読まれちゃうよね…」
武器を手放した茜へ私は追撃。すると茜は素手で反撃する様子は一切見せず、長短織り交ぜたステップの連続で全てを回避。壁際まで追い詰め、さぁどう出ると思いながら片手での刺突を仕掛けると…茜は私を飛び越える形で避け、そのまま私に背を向けて大剣へと全力疾走をかけていた。
「……!…って、あれ?…追ってこないんだ…」
「今のは追っても大剣を掴むのに間に合わなかったからね。……準備運動はこの位にしようか」
掴んだ大剣を手に振り返る茜に対し、私はゆっくりと歩いて接近。茜は何も言わずに、でも表情で肯定を示す。
まだ、茜の戦い方は見極め切れていない。でも長期戦は向こうの利になる以上、見極めつつも悠長な姿勢は廃さなきゃいけない。…こういう相手は周りにいないし、これは中々良い経験になるのか……もッ!
「グイグイ来る…って、わ……ッ!?」
(よし、成功…!)
ある程度の距離になったところで、飛び蹴りをかけた私。蹴りは大剣の腹で難なく止められ、打ち返されそうになるけど…その瞬間大剣を足場にバク宙をする事によって、茜の動きを実質的な空振りにさせる。…良かった、やっぱ意表を突く事は不可能、って訳じゃないんだね…!
「さっきも言ったけど、簡単に攻勢は……」
「それはどうかなッ!」
「……っ!?」
空振った大剣が虚しく空を切る中、私は素早い逆袈裟で一撃。サイドステップで避けた茜へと向き直り、反撃を許さずもう一撃斬り込もうとしたけど……そこで茜は大剣を盾の様に持って、そのまま体当たりを仕掛けてきた。
その攻撃は両手持ちであっても弾ける訳がなくて、私はバスタードソードを掲げて防御。そこから私達は力比べとなり……
「よい、しょっとぉッ!」
「く……!」
ぶつかる体勢を予め取れていた分、押し合いは茜が有利だった。
今度こそ押し返されてよろける私へ、茜の放つ大剣の攻撃。一撃の重さは勿論の事、把握能力で私の視線の動きや体重移動まではっきりと読めているのか、大剣でありながら付け入る隙が全然ない。
「ぜーちゃん、さっきは軽い手合わせって言ったけど…女神化したっていいんだよ…!」
「……っ…言ってくれるね、茜…!」
「別に煽ってる訳じゃないよ?ただ、万が一の時軽い手合わせだけで何とかなるのかなって思ったのと…シノちゃんやカイト君に見せたぜーちゃんの本気ってやつを、私も見てみたくなっただけだからねッ!」
茜の読みに私も変則戦法で応戦するけど、やっぱり目的を把握されている分力不足は否めない。更に言うと、私の変則戦法は相手が「対応しよう」と思えば思う程効果が増す関係上、そもそも対応より攻撃を押し付ける事が基本になる大剣に対しては相性が悪い。
とはいえ、手はある。こっちも認識と実際との擦り合わせはある程度出来たし、第二段階に移行させる目処も立ってる。だから、このままじっくり戦ってもいいんだけど……
(…煽ってる訳じゃない、か。嘘じゃないんだろうけど…それを言えるだけの余裕が、そんな事を考えられる程度には私が脅威になってないという現状が、茜の中にはあるんだろうね…。……言ってくれるじゃん、茜…)
重い斬撃を凌ぎ、隙を突く形で反撃も仕掛ける私の中で、ふつふつと衝動が湧き上がる。
別に私は、短気なタイプじゃなかった筈。でもネプギア達女神候補生を導く立場をしていたからか、私を尊敬してくれる信者の人達が出来たからか、ジャッジとの戦いが私の何かを変えたのか、或いは……アイやカイト君との戦いで点いた火がまだ消えていなかったのか、私は思ってしまった。……だったら見せてやろう、って。
私の斬り上げと、茜の袈裟懸けが激突。互いに弾かれる形になるけど、重量差から反動は茜の方が軽微で、その反動を利用した振り上げからの上段斬りが真っ直ぐ私へ。それを前に私はバスタードソードを手離し、両手を伸ばして……上段斬りを、受け止める。
「な……っ!?」
「……お望み通り、見せてあげるよ…オリジンハートの、力をね」
──両手で振り下ろされた大剣を挟み込む、白羽取りの形でもって。
*
ぜーちゃんが強い事は、軽く手合わせするだけで分かった。ただ能力が高いんじゃなくて、策を交えて戦うタイプだって事も。
それと同時に、ちょっぴりぜーちゃんからはあるものを感じた。それが気になって、この感覚を確かめたくて、私は女神化する事を望んだ。で、その結果ぜーちゃんは女神化してくれたんだけど……まさか、大剣を白羽取りされるなんてね…。あはは、気分はまるでデスティニーのパイロット…って、ふざけてる場合じゃないかな…。
「…えっと、ぜーちゃん…手を離してくれないかなー、なんて……」
挟まれてビクともしない大剣と、その先で薄く笑うぜーちゃん。私が駄目元で言ってみると、ぜーちゃんはにこりと朗らかに笑って……私の大剣を、奪い去った。
(……あ、不味い…)
ドリルは頂いた、とばかりにぜーちゃんは右手に長剣、左手に私の大剣という威圧感たっぷりの二刀流スタイルに。…正直、この状況はかなり洒落にならない。こんなの洒落にも勝負にもならない。むむ、こうなったら……!
「……あ!あんな所に空飛ぶご先像が!」
「空飛ぶご先像!?」
(成功した!?でもチャンス…!)
ばっ、とぜーちゃんが私の指差した方向に振り向く中、私は全力でもって後ろへ跳躍。まさか成功するとは思わなかったけど、このチャンスを無駄にはしない。
ぜーちゃんが嘘だと気付いた時にはもう、十分な距離を取る事が出来た。勿論女神ならあっという間に詰められる距離だけど…それで十分…!
「このままじゃ、一方的な勝負になっちゃうからね…!私も本気でいかせてもらうよ…!」
意識を全身に張り巡らせて、制御能力を起動。紅い、私には似合わないお姫様の様な鎧を纏って……改めてぜーちゃんを、正面から見据える。
「その姿、あの時の…!」
「そう、あの時のだよ…ッ!」
床を蹴り、一気に距離を詰めたぜーちゃんからの刺突を避けると、その先を潰す様に振るわれた大剣。こっちも白羽取りでお返し…といきたいところだったけど、流石にそれは危険過ぎるから、代わりに大剣の腹に両手を突いて一回転。それで避けつつ、着地と同時に横蹴りを放つ。
(…上手い、って訳じゃないけど……何だか慣れてる感じ?…これって……)
私の蹴りをぜーちゃんは避けて、振り返ると同時に素早く袈裟懸け。振るわれた右腕の前腕に私の左腕を挟み込む事で何とか止められたけど、すぐに迫る左の大剣。だけど今度はさっきよりも余裕があって……だから私は、その左腕に飛び付いた。
「そうくるか…!」
「まぁね!返してもら…っと……ッ!」
狙いは勿論大剣の奪還。恐らく予想はされてたと思うけど、武器を取られたままじゃいられないんだから仕方ない。
力比べになると思いながら、大剣の柄を掴む私。でも、ちょっと引っ張るとすぐにぜーちゃんは大剣を離して……後ろに引きながらの斬撃を打ち込んでくる。
「…わざと手放して攻撃のチャンスを取ったんだ…頭脳プレーだねぇ…!」
「茜を丸腰に出来るってメリットはあるけど、別にその大剣を使っての二刀流に拘る理由もないから…ねッ!」
振り向きながらの回転斬りで弾き返すと、ぜーちゃんは左手を離してそこに手斧を精製。それによる次なる攻撃も大剣で弾いて、私は一度真上に飛ぶ。
(当たり前だけど、重さも早さも格段に上がってる…もう余計な思考はしてられないね……)
追って飛ぼうとするぜーちゃんを粒子の斬撃で床に押し留め、続けて粒子を板状に展開。その粒子を足場にする事によって、私は上から突進をかける。
手斧を手放したぜーちゃんは、両手持ちの長剣を掲げて防御。…と思いきやすぐに長剣を傾ける事で私を滑らせて、跳躍と同時に剣を私へ放ってきた。
「……!(これもシェアエナジーの剣…それに、今のって……やっぱりシェアを推進力にも使うんだ…)」
姿勢を下げ、前に跳ぶ事で距離を詰めつつ回避した私の頭に浮かぶ、一つの確信。第二の試練の時は、あの一度きりだったから予想の域を出なかったけど…やっぱりぜーちゃんは、シェアを圧縮する事で武器や推進力にもするみたい。…なら、遠隔攻撃にも気を付けないとね…!
「大胆且つ単純に見えて、その実無理も無駄もない太刀筋…それもやはり、把握能力の恩恵なのかな、茜ッ!」
「そこについては経験もあるけどねッ!ぜーちゃんこそ…全然、底が、見えない…よッ!」
大剣と長剣で打ち合いながら、私達は言葉を交わす。刃も言葉も視線も交わす。
私が言った「底が見えない」っていうのは、別に力とか能力の全容に対してだけじゃない。さっきまでの持ち替えに加えて、圧縮シェアを利用した急加減速だとか、作った武器による長剣とは全然違う攻撃だとか、時々切り替わってその性質も変わる翼だとか、とにかくぜーちゃんの戦い方にはバリエーションが多い。そういう意味でも、底が見えない。
(把握しても把握してもぽんぽん出てくるなんてね…。…でも、純粋な技量に、相手の長所を潰す戦法。戦いながら練られる作戦に、ちょっぴり芝居掛かったようにも聞こえる話し方。…あぁ、あぁ……やっぱり、やっぱりだ…やっぱりだよぜーちゃん…)
強い相手だ、と思う。厄介な相手だ、とも思う。でもそれ以上に私の心を震わせる、ある感情。ドキドキする、ワクワクする、背筋なんかはゾクゾクする。だって、だって…似てるんだもん。ぜーちゃんの戦い方は、ぜーちゃんから伝わる感覚は…………えー君を、思い出すんだもん…っ!
「…手を抜いてた訳じゃないけど…ここからはもっと、本気でいくよッ!」
仕掛けもなく、ただ真っ直ぐに私は接近。落ち着いて放たれた縦の斬撃を斜め前に出る事で躱して、多少の回避じゃ避けられない程の大振りで横薙ぎ。それをぜーちゃんは長剣で受けて、衝撃には抗わずそのまま飛んで、でも置き土産として振り出す右脚。私は振った大剣の遠心力に身を任せる事で蹴りを避けて、すぐに飛んでいったぜーちゃんを追う。
そう、これだ。お互い相手の動きを読んで、読まれて、それを踏まえて修正して、でも相手も修正してくるから結局どっちも当たらない。そんなに多い訳じゃない、でも私の頭に焼き付いたえー君との勝負の記憶が、戦いの中で蘇る。それはまるで、私の感情に応えるように。
「いいね、そうこなくっちゃ!楽しくなってきたね、
「えー君……!?それって……」
「ほらほら、油断してたら終わっちゃうよッ!」
思わず口をついて出た言葉に驚くぜーちゃん。見れば分かる事だけど、能力でぜーちゃんの心に困惑が浮かび上がったのも伝わってくる。それは、別に狙った事じゃないんだけど…チャンスはチャンス。そう思って私は軽い攻撃を何度か仕掛けて、反撃が来た瞬間に素早く後退。読み通りにぜーちゃんが追いかけてきたところで……試したかった攻撃を実行に移す。
(さぁ、ぜーちゃんはこれにどう対応するのかな…ッ!)
床をしっかりと踏み締めてブレーキをかけた私の、迎え撃つ形での斬り掛かり。ぜーちゃんも私の動きから斬撃を読み、翼での姿勢制御も併用する事で接近から素早くバックステップに切り替えたけど……私は大剣の斬っ先がぜーちゃんの方を向いた瞬間斬撃を止めて、予定通りに粒子ビームを叩き込む。
近距離からの粒子ビームを、ぜーちゃんは驚きながらも長剣で両断。だけど当然ぜーちゃんの意識も動きもその瞬間はビームの対処に向いていて、発射と同時に一歩踏み込み放った足払いは見事にヒット。そして二段階の陽動と足払いで生み出したぜーちゃんの無防備な状態に向けて……本命の横薙ぎを振り出した。
これは、そこらの相手なら出すまでもない攻撃。強い相手でも、これならいけると思って放つ攻撃。…だけど振るった大剣の一撃は、当たる事なく空振りに終わった。……触れる寸前圧縮したシェアエナジーの塊を展開したぜーちゃんが、それで自分自身を吹き飛ばす事によって。
「うおっと…これ防ぐんだ…えー君も防げなかったのに……」
崩れた姿勢で自分を吹き飛ばした結果、ごろごろと床を転がっていくぜーちゃんを見ながら、私は感嘆の声を漏らす。……あぁ、どうしよう…自信のある攻撃を凌がれたのに、全然ドキドキが止まらないよ…前のえー君は防げなかったけど、ぜーちゃんみたいに今のえー君なら防げるのかな…?
「…複製体とはいえ私は原初の女神…そう簡単に刃が届くとは思わないでもらおうか…ッ!」
「……っ!…だよ、ね……!(っと、集中集中…余計な思考出来ないって忘れちゃ駄目だよ、私…!)」
いつの間にか私の眼前に迫っていたぜーちゃんの一撃を、ギリギリの所で防御。次の瞬間長剣を手放しナックルダスターみたいな武器を精製したぜーちゃんが私の懐に飛び込んできて、危うく私は重い殴打を受けてしまうところだった。
私はここまでで分かった事を思い出す。ぜーちゃんの戦い方は、相手の調子を崩すもの。多分、相手を土俵から落とす事が真骨頂。そこに女神の身体能力とシェアエナジーを利用した実力と幅の広さが加わる事で、その強さを生み出している。…でも、私は既にその戦い方を見抜けているし、まともに斬り結べる位には身体能力もある。後は、シェアエナジーの活用だけど……
「はッ、あぁぁぁぁッ!」
「重い……ッ!」
長剣を持ち直したぜーちゃんと武器をぶつけ合った瞬間、斬撃にシェア爆発を乗せてきた事で私は弾き飛ばされる。着地した地点に数本の武器が飛んできて、それは粒子の障壁で防御。
私が視線を戻した時、ぜーちゃんは長剣を上段に構えていた。明らかに近接攻撃が当たるような距離じゃないけど、振り上げたって事は何かしらの策がある筈。
……というのが、普通の人が見た場合の認識。普通に見える物しか認識出来ない人の考え。でも私は違うし……直近でぜーちゃんは、私に情報を与え過ぎた。
「天舞陸式……皐月ッ!」
ここだと思ったタイミングで、私は軽く一歩移動。ほんとに軽く、家からちょっと機嫌良く出る位の感覚で場所を移す。
それとほぼ同時に、姿がブレる程の速度となったぜーちゃんが肉薄。生半可な実力じゃ視認する事すら無理そうな、直撃したら身体が真っ二つになりそうな攻撃が、私の下へと迫ってくる。そして、完璧な距離で長剣は振り抜かれて……紙一重で、私が一瞬前までいた場所を斬り裂いた。ほんとに飛ぶ寸前までは私がいて、でも今はいない空間を。
唖然とした表情で目を見開くぜーちゃん。その顔に向けてにこりと笑みを浮かべながら……私は言う。
「一応、私の
*
天舞陸式は、言ってしまえば物凄い速度で攻撃するってだけの技だから、止められてしまう事はあるし、避ける事だって相手の実力次第じゃ不可能じゃない。
だけど私は驚いた。だって防いだでも、避けたでもなく、攻撃に移った時にはもう退避されてたんだから。爆発させる寸前までその場にいて、その時点じゃどこに斬撃を叩き込むかなんて分からない筈なのに、完璧に見切られてたんだから。
「……まさか…展開したシェアエナジーの数や位置、圧縮状態からどこをどう斬るか読んだっていうの…?」
「ふふっ、その攻撃…動き出したら修正が殆ど効かないんだよね?」
「……ッ!」
ここに来て感じる、茜への戦慄。茜の言う通り、天舞陸式は圧倒的な勢いを威力と速度に転換してる性質上、接近の最中に軌道修正をしようと思っても中々出来ない。……ここまで、茜の能力は把握してくるなんて…。
「大概の事は…多分ぜーちゃんが思ってる以上に多くの事を、私は手に取るように分かっちゃうんだよ。…私の意思とは無関係に、ね」
「……無茶苦茶な能力だよね、ほんと…」
「あははー。…でも、無茶苦茶な強さなのは…ぜーちゃんもだよねッ!」
とんとんっ、と軽やかな足取りで距離を取ったと思ったのも束の間、気迫と共に茜が迫る。斬り合う中で私も攻撃を仕掛けるけど、一撃たりとも当たりはしない。反対に私も、得られた情報と第五の試練で聞いた「一瞬で勝ち筋が見える訳じゃない」って言葉から、単純だけどそれ故に対処が難しい攻撃を主体にする事で対応してるけど……これで勝てるかどうかは、分からない。
「ほんと、えー君とぜーちゃんは似てるよ。考え方は真逆…なんだろうけどね…ッ!」
(また、その言葉……ッ!)
斬り合い斬り結ぶ中、茜の口にする「えー君」という言葉。茜にとって大切な、思い人の名前。私としては、私をその人と同一視されるのは嫌…って訳じゃないけど複雑な気持ちで、心の中を掻き乱される。
でも、だけど……同時にそれは、ある可能性も秘めていた。違和感というか、その言葉が茜から発されて以降感じるものが私にはあった。
「…茜の大切な人と似てる…それは、光栄かな…ッ!」
「うんうん、えー君もぜーちゃんと似てるってなったら光栄に……思う、かな…?」
「その質問を私にぶつけられても困るけどね…ッ!」
大剣が真価を発揮出来ない超至近距離で攻める私。勿論長剣も真価を発揮出来ない距離だけど…それでもまだこっちの方が上手く振れる。
複雑に思う気持ちはあるけど、今茜に言った言葉も嘘じゃない。そして私は私の中の、光栄だって気持ちに目を向ける事で乱れそうな心を鎮めていく。
(…賭けになるけど…もし私の感じてるものが本物なら……)
確信のない、実行するその瞬間まで合っているかどうかも分からない可能性だけど、私はその可能性に賭けてみる価値はあるって思っている。それは、もしまだ茜の把握が続くなら…今以上にアドバンテージを取られてしまうなら勝ち目はどんどん薄くなっていくってのもあるし、単純に負けたくないって気持ちもある。
だから私は思考まで読まれるなんて事はないと信じつつ、絶好の瞬間まで攻防戦を続けようとした。…でも、その瞬間は驚く程早くやってくる。
「楽しいよね、ぜーちゃん。…でも、そろそろ終わりにしよっか。実を言うと長時間この姿を維持し続けるのは、身体の負担が大きいからね」
「……それって、大丈夫なの…?」
「それは勿論。今からぜーちゃんに勝つまでの時間位なら、だいじょーぶだよッ!」
そう言って更に激しく、出し惜しみなく攻めてくる茜。その声や動きから無理してる訳じゃないと伝わってきたから、私も残る力を注いでいく。
勝負は一瞬。行動に移す瞬間を間違えても、タイミングが僅かにズレるだけでも、この賭けは失敗する。負けてしまう。…だけどそんな状況だからこそ、私の…女神の意識は研ぎ澄まされる。
「私に勝つ、か…ならば私はその考えを覆してやろう……ッ!」
「そうはいかないよ、私の全力全開をぶつけるからねッ!」
互いに舞い上がり、何度も刃をぶつけ合う。今すぐにでも決着をつけるつもりで、勝つつもりで。ぶつかり、離れ、またぶつかる私達は次第に昇っていって、天井へと振れる寸前、私は精製したバスタードソードを、茜は斬撃を飛ばして中間で激突。ぶつかり合った私達の攻撃はそれぞれ粒子となりながら四散し……その光の下へと滑り込むように、お互い全速力での接近をかけた。
「これで決める…ッ!緋十文字……」
(……ッ!今ッ!)
長剣と大剣が届く間合いに入る寸前、茜の見せた動きと迫力。言葉通り、これで決めるという意思の籠った鋭い挙動。それを前に、私もまた……勝負を、かける…ッ!
「──天舞壱式・桜ッ!」
「……──ッ!?紅、桜ッ!」
空を裂く長剣。唸りを上げる大剣。咲き誇る二つの桜。天の桜が乱れ吹き、紅の桜が十字に舞い、私達は交錯する。そして……
「……ひゃー、こーさんだよ…ぜーちゃん…」
──そんな言葉を呟きながら、茜は宙から落ちていった。着地はしっかりと出来ていたから、私も焦らず…内心ヒヤヒヤだった心を落ち着けながら、ゆっくりと降下。そうして私が降り立った時、茜は肩を竦めながら立ち上がる。
「私の切り札が破られるなんて…ぜーちゃん、あれはどんな技術なの…?」
「…技術なんてないし、私は破った訳じゃないよ。ただ一つ、言う事があるなら……」
「あるなら……?」
やられたと言いつつも、茜に外傷はない。実はまだまだ余裕があるんじゃないかと、やられたなんてよく言うよ…と言いたくなる位、まだ戦う事が出来そうな茜。そんな茜に対して……私は、言う。
「……私はイリゼであって、えー君じゃないよ、茜」
「え?……あ、そっか…そっかぁ……私、完全にえー君を相手にしてるつもりだったんだ…そりゃそうだよね…能力でぜーちゃんの事を正確に把握してても、心がそれを誤認してたら……ベストな動きには、ならないよね……」
私の言葉に納得した様子茜は、自嘲するように軽く肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
破ったなんて言ったけど、実際のところ私がしたのは私の技を…きっとえー君は会得してないであろう攻撃を見せただけ。それを見た事で、私をえー君と同一視していた茜は認識と現実との齟齬にぶつかり…結果攻撃が甘くなった。…もし、私の見立てが外れてて、似てるとしつつも同一視まではしてなかったのなら……私は床で、伸びてると思う。
「あーあ、負けちゃったかぁ…悔しいなぁ……」
「…強かったよ、茜。……って言ったら、嫌味みたいになっちゃう…かな…?」
「うん、そーゆー事は言われたくなかったよ」
「うっ……あ、茜ごめ……」
「…なーんて、そんな事は思ってないよ?」
「へ……?…ちょ、ちょっと…止めてよもう!」
「あはは、こういうところはえー君とあんまり似てないかな〜」
悔しがる茜にかけた言葉が裏目に出て、慌てた私。でもそれは冗談だったらしく……茜は楽しげな笑みを浮かべていた。…って書くと、私が満更でもない感じに受け取ったみたいになるけど…全然満更じゃないからね!?私本気で「や、やっちゃった…!」って思ったんだからね!?…ほんとに、茜はもう……!
「その態度、やっぱりまだ余裕あるんでしょ!あるなら本気で倒してもいいんだよ!?」
「お、落ち着いてよぜーちゃん。今は大丈夫なだけで、これ以上はほんとに危ないんだって。……でも…次は、負けないよ?」
「……っ…次も、私が勝つよ。これはあくまで軽い手合わせで…最初から、本気の勝負をして勝った訳じゃないからね」
「ふふ、言うねぇぜーちゃん。…っていうか、これはもう軽い手合わせの域を遥かに超えてるよね……」
「そ、それは…まぁ、うん……」
「…あ、それとさぜーちゃん。ぜーちゃんならやれるかもって思った事があるんだけど…」
「私ならやれるかもって思った事?」
今回の手合わせは今後に備えた準備の筈だったのに、いつの間にかこれを目的としてしまっていた私達は二人揃って苦笑い。っていうか私はアイとの勝負で失敗したのに、ほんとに何をやってるのとかなり思う。
……だけど、楽しかったし良い勝負だった。全力で戦って良かった、と思える結果だった。だから、私は社交辞令じゃなくて…本気で思って。……次も、また私が勝つからねって。
そうして、私達は皆の下へ戻り……身体に滲み出る疲労感から、「またやったのか…」と皆に呆れられてしまうのだった。…うぅ、なんか段々私が好戦的キャラになりつつある気がする…。
今回のパロディ解説
・デスティニーのパイロット
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、シン・アスカの事。このシーンで指しているのはアロンダイトの白羽取りですね。勿論イリゼはその後の展開は違いますが。
・ドリルは頂いた
爆竜戦隊アバレンジャー DELUXE アバレサマーはキンキン中!の登場キャラ、の一人、ガルヴィディの台詞の一つの事。…これ、このネタだと分かった人います…?
・ご先像
まちカドまぞくの登場キャラの一人、リリス(が封印されている像)の事。空飛ぶ、という事なので魔法少女に投げられたのかもしれませんね。…まあ、茜の嘘ですが。