超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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今回の話は第七話にて描写されなかったとあるシーンと、一つ前の番外編の後との、二本立てとなっています。


番外編 語る事、聞きたい事

友達について語るのは、楽しい。趣味やコレクションと同じように言うのはちょっとアレだけど、好きなものについて話す時は気分が舞い上がるものだし、語った事でその相手も興味関心を持ってくれれば素直に嬉しい。だから、その話をもっと聞かせてほしい、と言われた時には他の理由もあって凄く嬉しかったんだけど……正直、その相手であるルナの変化には困惑もしていた。

 

「いつでもどうぞ、イリゼさんっ!」

「う、うん…そうだね……」

 

キラキラと、キラッキラと輝く瞳で私へとせがむルナ。これまでの大人しいリスみたいな雰囲気から一転、子犬のような元気さで訊いてくるルナに私は軽く気圧されていた。…いやまぁ、こんなキラキラした目を向けられるのは悪い気はしないんだけど…。

 

「じゃあ、何から話そうかな…」

「…………(わくわく)」

「何かルウィーの女神候補生(姉)っぽくなってない!?」

「…あ……」

 

なんとルナから出てきたロムちゃん的表現。ラムちゃんは勿論、ネプギアとユニも前にこの表現使った事があったから、使える事自体はまぁ理解出来なくもないけど…まさかルナが使ってくるとは思わなかった。後、この表現にディールちゃんが反応していた。

 

「こほん。まぁまずは、その人との出会いかな。と言っても、これは一言で済むんだけどね」

「そうなんですか?」

「うん。目覚めたらそこにいた、ってだけだもん」

「あぁ…分かります分かります」

「え、分かるの?」

「はい、私も記憶喪失ですので。…と言っても、私の場合はメモが置いてあったんですけどね」

 

きょとんとされると思いきや、返ってきたのは納得の言葉。それに一瞬驚いたけど…ルナもまた記憶喪失なんだから、考えてみればむしろ簡素で分かり易い説明になっていたのかもしれない。

 

「そうなんだ…で、そのすぐ後にその人の友達二人とも会って、色々あって三人と旅をする事になったんだ」

「友達との出会い…色々あって旅に……」

「…ルナ?」

「あ、いえ。実は私も似たようなものなんです。偶然って凄いですね」

「ルナも似たようなものなの…?」

 

ルナからの返答に、私は再び驚きを覚える。それは勿論、ルナの言う『偶然』に対してのものなんだけど…そこから私は、ふと思った。これは本当に、偶然なのかなって。

信次元以外の次元も数多くある事はここに来て分かった訳だけど、信次元とディールちゃんのいる次元には数多くの同一人物がいて、殆ど同じ出来事も起こっている事から、その時私は凄く似た次元もあるって知った。…だから、思った。もしかしたら、ルナの次元は信次元に限りなく近くて……ルナと私も、同一又は近しい存在なのかもと。でも……

 

「…イリゼさん?どうしました…?」

「あ…ううん、何でもないよ。……でね、驚きだったんだけど…実はその人も、記憶喪失だったんだ。…もしや、ルナの近くにもそんな人がいたり?」

「い、いえ…流石にそれはないですね…」

「…あはは、だよね…(…って、事は…やっぱりただの、偶然…?)」

 

自然に、でも情報を引き出す意図も込めて発した質問をルナは否定。これによって、可能性は薄くなったんだけど……って、そういう話じゃないでしょ私…ルナは私の話を真剣に聞いてくれてるんだから、一先ずこれは後回しだよね…。

 

「……因みに、その人…記憶喪失を治せるってなった時、どうしたと思う?」

「どうした、ですか?…治したのでは…?」

「と、思うでしょ?…でも、その人は言ったんだよね。『あー、それパス』って」

「え……!?」

 

思った通りの反応をしてくれて、ちょっと気分の良い私。…よく内容だけじゃなく、言葉そのものまで覚えてるなって?…そういうところは触れなくていーの。

 

「びっくりだよね、記憶喪失なら無い事へ対する怖さも記憶を取り戻したい気持ちも無い訳がないんだから。…なのに言い切ったの。今があるのは記憶喪失のおかげだから、そのままで良いってね。…正直、それに関しては今でも勝てないって思うなぁ…」

「は、はい…凄いです、凄いですその人は…!憧れちゃいます…!」

「だよね?同じ記憶喪失だからこそ、そう言えるなんて憧れちゃうよねっ」

 

立場が違うとはいえ、あの時記憶を求めた私にとって、その選択は本当に凄かった。…だから、そこにルナも憧れを抱いてくれるなら嬉しいし、テンションも少し上がっちゃう。

 

「…あっ、でもだからって真似しちゃ駄目だよ?これは特殊な精神構造を持った特定の人物だからこそ出来る事なんだから」

「あ、あはは……でももし記憶を取り戻すかどうか選択出来るってなったら、その時は真似とかじゃなくて自分で考えて決めようと思います。…私の、記憶ですから」

「…そうだね…うん、それが良いと思うよ」

 

真剣な顔で答えたルナの言葉に、私は頷く。私としては、若干の冗談も交えた発言だったんだけど……ルナの言う通り、自分の記憶は自分のもので、それをどうするか決めるのも自分自身。…って、何だかちょっと真面目な話になっちゃったね。

 

「じゃ、次は何を話そうか。ルナ、訊きたい事とかある?」

「そう、ですね…あ、もっとどんなところが凄くて素敵なのか訊きたいです。茜さんが言っていたみたいに」

「え……あ、あの惚気モードの再現はちょっと…」

「あぁ違います違います!色々言ってほしいって意味であって、そういう意味じゃないです!」

「そ、そっか…うーん、どんなところかぁ……まずは明るいところかな。明るいだけならありふれてるって思うだろうけど、その人の明るさは天下一品、それこそどんな窮地でも皆に活力を与えてくれる位の明るさだからね」

 

雰囲気を戻しつつ、ネプテューヌの長所を挙げ始める私。やっぱりネプテューヌといえば明るさ、快活さだよね。マジェコンヌさんとの戦いでも、犯罪組織との戦いでも、ネプテューヌの明るさは私達に何度も勇気をくれたんだし。

 

「その次に挙げるとすれば、自分の感情に嘘を吐かない事だね。そういう人って、単純に見えるけど信用出来るでしょ?」

「確かに、そういう人なら言葉や表情をそのまま受け取る事が出来ますもんね。…普通の人は何だかんだで出来ない事を出来る、素敵です…!」

「でしょでしょ?後忘れちゃいけないのは、最高のハッピーエンドを目指すのを諦めない事だね。誰も、自分自身も犠牲になる事なく、皆で笑顔になろうと全力を尽くす。……そういうところが、本当に格好良いんだよ」

「…皆に活力を与える位明るくて、自分に嘘を吐かないから信用も出来て、目指すのはいつも最高のハッピーエンド……もうそれ最高じゃないですか…!正直自分でもよく分からないんですけど、その人が素敵さの塊だって事ははっきりと分かりますよ…!」

 

私の挙げる長所を聞く度に、ルナの瞳の輝きは増す。そして今の私の在り方にも大きな影響を与えている、『皆で幸せに』という一面を聞いたところで、多分ルナの興奮は頂点に達した。…なんかもうネプテューヌか機械が絡んだ時のネプギアみたいになってるよ、ルナ……。

 

「はわぁ…それだけの凄いところがあって、しかも女神のイリゼさんが憧れる程の人かぁ…きっと、非の打ち所がない超人だったりするんだろうなぁ……」

「あー…幻滅させちゃったら申し訳ないんだけど、その人にも悪いところはあるよ?っていうか、それもさっきちょっと言わなかったっけ?」

「え?…あ、そういえば…すみません、舞い上がって忘れてました……」

 

…冗談混じりの例えの筈が、ルナは本当にそのレベルだった。…私、話し上手だったり…?

 

「うーん、まさかそこまでとは…ほんと、良いところばっかりの人じゃないんだよ?基本不真面目だから全然仕事しないし、子供みたいに我が儘だし」

「子供みたいに…ま、まぁでもそれ位は短所もあった方が、逆に親しみ易かったり……」

「いや、この程度じゃないよ?すぐふざけるし、周りを振り回すし、自分に対して甘々だし」

「え、あ……えっと、それは…」

「ぐーたらしてるし、色々適当だし、悪いところを指摘されると開き直るし」

「……あ、あの…イリゼさん…?」

「明るいのは良い事だけど正直それは騒がしいの域だし、短絡的で思慮が足りない事もあるし、冗談抜きで妹と生まれる順番間違えたんじゃないかって位……」

「ちょっ…いや、短所多過ぎません!?っていうか短所止まりませんね!長所より遥かにぽんぽん出てくるんですね!これどういう状況ですか!?」

 

ネプテューヌに憧れを持ってくれるのは嬉しいけど、良い面ばかり教えるのは違うよね…と短所も話し始めた私。けど、ご覧の通り言い出したら止まらなくなってしまい……何だか凄い反応をルナから引き出してしまった。…う、うぅん……

 

「……どういう状況なんだろうね、これ…」

「イリゼさんが分からないなら誰も分かりませんよ…えぇと、イリゼさん…イリゼさんは、その人を好き…何ですよね…?」

「す、好き…!?…って、そういう話だったね…うん、そうだよ。だ、だけど別に……」

「大丈夫です、茶化したりはしません。…でも、好きなのにどうしてそんな短所がぽんぽんと……」

「それは……それが事実だから、かな。その人はほんとに長所より短所の多い、銀さんや両さんばりの駄目人間だからね」

 

不思議そうに、ルナは訊いてくる。どうして好きなのに、って。普通は逆なんじゃ、って。

だけど、それがネプテューヌだから。ネプテューヌは、そういう女神だから。そう心の中で呟きながら、私は続ける。

 

「…でもね、それでも私はその人を凄いって思ってるし、大切な友達だとも思ってる。今言った通り、数で言えば短所の方がずっと多いんだけど…その数を覆しちゃう位、その人の長所は魅力的なんだよ。それこそ、言葉で言い表すには限界がある位にね」

「……いえ、伝わってきます…言葉じゃなくて、言葉の中の思いから」

「そっか…それにさ、近しい相手程短所も見えてくるものじゃないかな?だって短所もまた、その人の個性ってものでしょ?」

 

私は私の考えを、ネプテューヌという女神に対する捉え方を、素直にルナへと伝えた。上手く伝わったかは分からない。私の言葉で、どこまで魅力を表現出来たかも分からない。…だけど、私が言葉を締め括った時、ルナはゆっくりと頷いてくれた。

 

「…ありがとうございます、イリゼさん。よく分かりました。その人の魅力も、凄さも…イリゼさんの、思いも」

「……満足出来る話に、なってたかな?」

「…正直に言っても、いいですか?」

「いいよ」

「なら……それは勿論、文句無しの大満足ですっ!」

 

にっこりと笑って、ルナの返してくれた『満足』という言葉。元々の目的は伝える事で、加えて言うなら厄介事から体良く逃げる事。悪い言い方をするなら、ルナの反応は目的に入ってなかったんだけど……やっぱり満足してもらえたなら、それはとっても嬉しい事だな、と私は思った。

 

……って、待った待った。良い具合に締められそうだけど、その前にもう一つ。

 

「あのさ、ルナ。女神とはいえ私達は友達なんだから、別に敬語は使わなくても大丈夫だよ?…勿論、ルナが気乗りしないなら無理に変えなくても良いけど……」

「き、気乗りしないだなんてそんな!敬語もですけど、友達って言ってもらえるのは光栄ですし嬉しいです!」

「じゃあ、これからは普通に話しても良いんだからね」

「あ、は、はい!…じゃなくて、うん!」

 

 

 

 

なんでなのかは、話を聞いた後も分からなかった。どうしてイリゼさん……じゃなくて、イリゼの話す人の事が気になって、もっと聞いてみたいと思ったのかが。

でもただ一つ、言える事がある。私はその人の話を、聞いて良かったって。

 

(女神のイリゼが憧れる人だもん、その時点で凄いのは当たり前なんだけど…聞けば聞く程素敵だって気持ちが強まるなんて、こんな経験初めてかも……)

 

今もまだドキドキしてる胸に手を当てて、私は考える。私とイリゼはここに来るまで全くの無関係だったのに、イリゼの言う魅力全てが私にとっても魅力に思えた。短所を羅列された時は驚いたけど、少し落ち着いてからは「それもそれで…」と思えるようになった。ほんとに自分でも不思議な位その人の事が素敵に思えて、正直ちょっと困惑すらしちゃってたり。……っていうか、こんな経験もなにも私、記憶喪失なんだけどね。

 

(…でも、うーん……なーんとなく、その人の魅力はネプギアを連想させるなぁ…どうしてだろ…)

 

一つだけ気になったのは、その人の人物像からはネプギアを連想した事。短所の面は全然違う感じだし、長所もネプギアと重ならない点が多かったのに…それでも私は、ネプギアを連想した。…本当に理由が分からない。分からないけど……今はまぁ、いっか。

 

「……ふふっ、いつかその人に…会ってみたいなぁ…」

 

今一番すべき事はここからの脱出で、元々の私の目的は記憶を探す事とネプギア達の手助けをする事。それ等はどれも大変で、それを果たせるのがいつになるか分からない。果たせたとしても、その人が私のいた次元にいるかどうかも全くの謎。……だけど私は会ってみたい。会って出来れば、その人とも仲良くなりたい。私は自然にそう思えて……ディールさん達に呼ばれて振り向くイリゼの背に向けて、小声でそう呟くのだった。

 

 

 

 

どうもここには、これまでの階層よりも様々な部屋があるらしい。そう気付いたのが茜に案内されて大部屋へと移動した時で……今私は、その内の一室へと足を踏み入れていた。

 

「失礼しまー……あれ?」

 

手合わせで疲労していた私だけど、ある程度回復した事で気持ちが『気になる>休みたい』となり、ここ数分は軽い探索を行っていた。で、今入った部屋は小洒落たBARみたいな作りになっていて……

 

「…おや、どうかなさいましたか?」

 

…そこのカウンター席には、ワイトさんが座っていた。その手には、氷と液体の入ったグラスを持って。

 

「あ、いえ…部屋が色々あるみたいなので、何があるか把握しておこうと思いまして…(何この状況…軍人はBARにいる、的な…?)」

「奇遇ですね、私もです」

「……いや、あの…一杯やってるようにしか見えないんですが…」

「はは、現在は少々考え事の最中なのです」

 

どう見ても探索中ではない姿に突っ込むと、ワイトさんは苦笑いしながらその理由を口にした。…っていうか、今のワイトさん大人の男感が凄い…普段からそうではあるんだけど……。

 

「……それ、アルコールですか?」

「いえ、ノンアルコールです。流石に酔えるような状況ではありませんから」

「まぁ、そうですよね。……お隣、座っても?」

「えぇ、どうぞ」

 

特に深い理由があった訳じゃない。強いて言えば、何となくそうしたくなった。…そんな理由で、私はワイトさんの隣に座った。部屋に置いてあったボトルの中から、同じくノンアルコールのウイスキーを選んで。……因みに、ウイスキーを選んだ理由は、この雰囲気に合いそうだから…というものだったり。

 

「……あの、宜しいのですか?」

「飲酒なら問題ありません。女神ですし、ノンアルコールですし。……飲み辛いですか…?」

「…正直に申し上げますと、多少……」

「では……」

 

中身は年齢の概念がない女神とはいえ、外見的にはまだお酒を飲んじゃ不味いような年頃の私。でも、それなら…と思って、私は女神化。

 

「…こちらなら、どうかな?」

「…………」

「……ワイトさん…?」

「…それはそれで、落ち着きません……」

「で、ですよね…」

 

こっちの私は大人…に見える位の外見だから大丈夫な筈。そう思っていたんだけど…上手い具合にはいかなかった。…ま、まぁ言われてみればそうなんだけどね。式典で着るドレスとかならともかく、プロセッサユニットじゃどうしても物々しくなっちゃうし…。

という訳で私はすぐに女神化を解除して、飲み物をジュースに取り替えようと……したところで、ワイトさんに止められた。それは流石に申し訳ないから、飲んでくれて構わない、と言われて。

 

「…ふぅ……」

「…………」

 

一口飲んだ私が吐息を漏らして、ワイトさんはグラスの中の氷を鳴らす。……我ながら、多分ここに来て一番今が大人っぽい。雰囲気からしてもう大人っぽい。

 

「…何を、考えていたんですか?」

「色々、ですね。何分、ここでの出来事は不慣れなものが多かったもので」

「あぁ……」

 

ここでの出来事は普通皆不慣れでは…?…と一瞬思った私だけど、すぐにその意味に気付いて出かかった言葉を飲み込んだ。多分ワイトさんは、軍人的な生活とはかけ離れたここでの『日々』について言っているんだと思う。…軍人、軍人か……。

 

「…ワイトさん、もし宜しければですけど…ワイトさんのこれまでを、聞かせてもらえませんか?」

「それは、構いませんが…何故?」

「前から少し気になっていたんです、普通の軍っていうものが。…信次元では大きな戦争の結果、暫く全ての国の軍が解体されていて、現在ある軍はまだまだ手探り…って感じなので」

「そうだったのですか…あまり面白い話ではありませんよ?」

「大丈夫です。それに…同じ目的を持って助け合う仲間の事は、些細な事でも知りたいですから」

 

私の言葉に納得してくれたのか、それとも女神という立場に対して了解したのか、ワイトさんは頷いてくれた。

前半の理由は建前じゃなくて、後半の理由は本心に近い。でも、両方理由の一つではあっても核心じゃなくて…本当の理由は、ワイトさんと一対一で話してみたいと思ったから。思い返せば、これまでワイトさんとだけは二人で話す機会がほぼなかったから。そういう意味では、ここでワイトさんが考え事をしていてくれたのは、ありがたい偶然だったとも言える。

そうして私が聞く中、ワイトさんは話してくれた。何故軍人になったのか、軍人として何をしてきたのか……そして、元々自分はどんな人間だったのかを。

 

 

 

 

まさか、身の上話をする事になるとは思っていなかった。華がある訳でも、愉快な訳でもない私の身の上話を、決して長い付き合いではない相手に話す事になろうとは。

求められたから話した。確かにそれはある。イリゼ様から、私へ対する信頼を感じたから。…それもある。だが…気付かぬ内に私も、彼女に…イリゼ様達に信用を置いていたのかもしれない。共通の目的の為に協力し、それぞれの形で周りに信頼の念を向ける彼女達の事を。だから話したのだとすれば…多少気恥ずかしいものはあるが、納得は出来る。

 

「…そして、私は彼との模擬戦を行いました。彼との邂逅が無ければ、私はもっとここに飛ばされてから状況を飲み込むまでに時間がかかっていたでしょうね」

 

十数分か、もしかしたら数十分か。私は私の人生というものをイリゼ様に語った。勿論、大概は掻い摘んで、要約して、特筆する点もないと思った事はばっさりカットして、ダイジェストの形で説明した。もししっかりと説明をするならば…まぁ、読んでもらう方が早いだろう。

 

「え、ワイトさんもメタ発言する人だったんですか…?」

「魔が差しただけです。…というかイリゼ様、今貴女…心というか地の文を…?」

「出来ますよ、信次元の住民は割と」

「は、はぁ…それはまた、奇妙な力をお持ちですね…」

 

それは実質的な読心術ではないのか、というのはさておき、聞き終えたイリゼ様が真っ先に発した言葉がそれだった。…だがまぁ、それも妥当なところだろう。聞いても気分の悪くなるだけのような事柄は、さらっと触れる程度に留めたのだから。

 

「……けれど、うーん…ちょっと不思議ですね」

「…と、言いますと?」

「出来事…というか、歴史がです。ワイトさんの話の中には、私の経験した事や知っている人も出てきたんですが、それはどれも似ているようで違うと言いますか、単体で見れば似ていても流れで見れば全然違う…みたいな……」

 

顎に軽く手を当て、感想を口にするイリゼ様。一方の私は、最低限イリゼ様が反応に困ってしまうような語りにはならなかったと一安心をしているところ。

 

「…別次元とは、そんなものなのでは?私はここを除けば別の次元というものに行った事がないので、確かな事は言えませんが……」

「えぇ、でもかなり似ている次元…というか、一つの大きな歴史の流れは大体同じだったりするんですよ、私の知る限りは。…あ、でも神次元ってところは全然違う歴史…っていうか、女神の在り方自体が違うから、そんなものなのかな…?」

「神次元…アイ様の次元ですね。人が女神になるなんて、驚きでした」

「私もです。…と言っても、私もかなりイレギュラーな生まれ方をしてるんですが…」

 

一人納得したイリゼ様は、続いて表情を苦笑いに。…原初の女神の複製体、だったか。名前からして仰々しいながらも、イリゼ様自身は至って気さくな精神を持つお方。アイ様やディール様にも言える事だが、良い意味で女神であると感じさせないからこそ、早々に私達は良い雰囲気を作り上げられたのかもしれない。

 

「でもほんと、後天的な女神なんてびっくりですね。順を追って立場が上がっていくとかならともかく、普通の人がいきなり女神だなんてなったら絶大な権力に自分を見失いそうですし」

「それはまぁ、周りの人間次第では?幾ら女神と言えど、独断で決められる事など高が知れていますし」

「あ、それはそうですね。きちんと相談出来る人がいれば、独断でも独善的にはなりませんよね」

「はい……はい?」

 

そこから話はここにいないアイ様…というか、神次元に対するものへ。それ自体は別に良かったものの…イリゼ様の言葉に、私は一つの疑問を抱いた。独断でも、独善的にはならない…?…まさか……

 

「……イリゼ様、信次元に三権分立は…」

「三権分立?…あぁ、随分前に一時期行われていた政治体制ですよね?それが何か?」

「…………」

 

……さて、何という事だろうか。たった今、イリゼ様の次元は三権分立が敷かれていない事が判明した。もしこれが三権に何かを加えた四権、五権分立とかならば良いが…先程の発言からして、全権が女神に集中している可能性が高い。

 

「…………」

「…あの、ワイトさん?どうかしました?」

「い、いえ…まぁ、大事なのは国民が幸せか否かであって、体制はあくまで手段に過ぎませんしね……」

「……?」

 

何でもない事のように、さも当然かのようにしているイリゼ様に思わず私は若干戦慄。…だが、私や女神以外の皆に対する接し方から考えるに、政治体制が大きく違うだけで決して信次元は悪政が横行している…という事ではないのだろう。…そう、信じたい。

 

「…こほん。イリゼ様、もう一杯お飲みになりますか?」

「え?…あ、じゃあお願いしますね」

 

そこで私は語る最中に空となったグラスを満たし、ついでにイリゼ様の選んだウイスキーを手に取りそちらも注ぐ。すると注ぎ終わった時、イリゼ様からは少々意外な視線が向けられていた。

 

「……ワイトさんって、ほんとに大人というか…人間が出来てますよね」

「…そうですか?」

 

なんと、一杯注いだだけでそんな評価をしてもらえるのか。普段イリゼ様はどんな人と付き合っているのだろう。

…などという冗談は置いておくとして、その言葉に私は困惑した。勿論、言われて嫌な言葉ではないが……自分はむしろ、あまり人間が出来ていない側だと思っていたからだ。

 

「そうですよ。何かと私達を気遣ってくれていますし、試練の最中はいつも話し合いを回してくれますし、その上で親しみ易い態度で接してくれますし」

「…それはむしろ、イリゼ様達女神のお三方が受けるべき評価です。少なくとも私には、私よりずっとお三方の方が中心にいるように見えますよ」

「かもしれませんね。でも、私達が中心なら、ワイトさんは列の一番後ろで、遅れたり躓いたりしてる人がいないか見守っている…そんな感じの人だって、私は思ってます」

「…………」

 

曇りのない瞳で、イリゼ様はそう言った。世辞ではなく本心であると、他でもないその声音が伝えてきた。

多分…いや間違いなく、私は褒められているのだろう。有り体に言うなら、立派な人物だと思われているのだろう。…だが、それは過大評価だ。私は自分を屑だとは言わないが…そんな評価をされるような、人間でもない。

 

「私にも私の側で助けてくれる、力になってくれる人はいますし、その人達と比較はしませんけど…それでもちょっと、女神としてはそちらのブランが羨ましいです。ワイトさんみたいな人が、側にいる事が」

「……そんな事は、ありませんよ…私は…」

「そんな事、ありますよ。…きっとワイトさんの次元も、良いところなんですよね。完全に私の憶測ですけど、ワイトさんの周りは……」

「…買い被らないで下さい。私はイリゼ様が思っている程の人間でもなければ…イリゼ様が思っているよりもずっと、汚い人間です」

 

…恐らく、他の話であれば『大人の対応』が出来ただろう。或いは相手がイリゼ様でなければ…女神でなければ、「はは、そんなに良い人間じゃないけどね、私は」…位で返せたのだろう。……だが今は、そのどちらでもなかった。だから私は…少々、言わなくても良い事を言ってしまう。

 

「…ワイトさん……?」

「立派なのは貴女の方です、イリゼ様。ですから買い被らないで下さい。…私はただの人間で、ただの軍人です。イリゼ様ならばきっと、どのような時も最良の選択をするのでしょうが……私がするのは、最良ではなく妥協です。最も大切なものを守る為ならば、二番目に大切なものであろうと三番目であろうと切り捨てる、そんな人間です。もしも、ここで必要なのが協力ではなく対立だったとするならば、その時私は……」

「…………」

 

腹が立った訳じゃない。イリゼ様の考えが気に入らなかった訳じゃない。だが、どうしても私は彼女の評価を受け入れられなくて……気付けばイリゼ様は、じっと私を見つめていた。感情の読めない、それでもひたすらに真っ直ぐな瞳で。…その瞳を見て私は、我に返る。

 

「……っ…すみません…軽率な発言でした…申し訳、ありません……」

「…謝らないで下さい、ワイトさん。軽率なのは、私の方でした。……いや、ほんとに…その…仲間の事を勝手に決め付けて、それで相手を不快にさせるなんて……」

「い、イリゼ様…!?いやその…大丈夫です!決して不快に思った訳ではありません!えぇありませんとも!」

 

私が謝罪した数秒後。イリゼ様は急に落ち込んだ…というか、みるみるうちに放っておいたら泣き出してしまいそうな顔になってしまった。…正直、意味が分からない。そこまでショックを受ける事か…!?…と内心では思ったが……流石に今言うべきはそれではない。

 

「…そう、ですか……?」

「勿論!確かにイリゼ様は買い被りをしておりましたが、高く評価して下さった事自体は光栄でしたから!」

「な、なら…良かったです……」

 

よく分からないながら全力でフォローをした結果、何とかイリゼ様は調子を持ち直した。……何か、イリゼ様の弱点が今のやり取りの中にあったのだろうか…。

 

「こちらこそ、ほんとに大人気ない事を言ってしまいました…重ねて謝罪致します…」

「…大人気なく、ないですよ……だってそれは、当然ですから。…分かってます。私達女神は特別で、世界全体からすれば私達の方がおかしいって事は」

「…それで、良いのではないでしょうか。女神様は人の限界に囚われない存在だからこそ、我々人間は信仰するのですから」

「……では、一つだけ…いいですか?」

「えぇ、勿論」

 

お互い大人気ない姿を見せてしまった私達は、何とも言えない空気感に。そんな中でイリゼ様の発した言葉を、私は静かに否定……いや、肯定した。

違う事は、悪ではない。違うからこそ、そこには意味が生まれる。特別だからこそ、出来る事がある。何より私は…そんな特別な女神様に、敬意を抱いているのだから。

…という私の思いが伝わったのか、イリゼ様はまた私へと瞳を向ける。そして、私を…別次元に住まう人間を見据えて、言った。

 

「…貴方の想う女神を、信じてあげて下さい。思ってあげて下さい。女神は、期待されれば力が出て、信じられればどんな限界だって超えられる……そういう、ものですから」

「……ご心配なく。私は私の女神様を、誰よりも想っていると自負していますから」

 

自分を悲観しないでほしい。諦めないでほしい。だって、貴方の側にも女神がいるのだから。貴方が思ってくれれば、それで女神は貴方の力になれるのだから。……イリゼ様が私に伝えたかったのは、きっとこういう事だろう。女神として、そちら側の存在としての、彼女の言葉。

…だが、イリゼ様にも言った通り…それはありがたい言葉ではあっても、私を変える言葉ではない。何故なら、言われるまでもなく……私はブラン様を、心より信じているのだから。

 

「…何だか、ちょっと重い話になってしまいましたね」

「まぁ、出発点からして仕方なかったかと。それに関しては、皆もいる場で話した方が良かったかもしれませんね」

「……でも、私はワイトさんとこうして話せて良かったです。ワイトさんの人となりを、また少し知れましたから」

「…ならば、もう少し話しますか?」

「はい。今度は、私の話をしますね。ワイトさんだけに話させるのは、フェアじゃありませんから」

 

もう少し話しますか?…それは、気遣いで言った言葉ではない。私が自然に、そうしたいと思って発した言葉。それにイリゼ様は表情を綻ばせ、自身の話をしてくれる。私に比べると愉快で、温かく、それでも時折冷たい現実も感じさせる、イリゼ様の身の上話を。

真面目な事を言えば、こんなところで話している場合ではないだろう。これまでも言える事だが、もっと無駄をなくし、迅速に帰還への道を進む事が軍人としては正しいのだろう。…だが、例えこれが間違っていたとしても……私は断言出来る。イリゼ様とこうして話す事が出来て…ここまで帰還には直結しない、それでも皆との親睦を深める事に繋がる会話や行動をする事が出来て、良かった…と。

 

 

 

 

 

 

──とはいえ、まぁ…無事に帰還出来た場合、ブラン様にここでの出来事を色々と訊かれるだろうが……別次元の女神様と、薄暗い部屋で酒(ノンアルコール)を飲みながら語らった…とは言えないな…。




今回のパロディ解説

・銀さん
銀魂シリーズの主人公、坂田銀時の事。パッと思い付いた創作上の駄目人間が彼です。でも下記のもう一人も含め、いざという時頼れる一面もネプテューヌは似てますね。

・両さん
こち亀シリーズの主人公、両津勘吉の事。パッと思い付いたもう一人の駄目人間が彼です。…彼に比べれば、流石にまだネプテューヌの方がマシ…です、かね…?

・軍人はBARにいる
映画、探偵はBARにいるシリーズのパロディ。パロディといっても、ほんとに単に名前だけですね。しかも単に状況を言い表しただけなのです。
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