超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
白い天井に白い床、そしてここだけ異彩を放つ巨大なプール。白熱したゲーム勝負から一転、私達はサマーな感じの装いでプールサイドに並んでいた。
「まさか、こんな所で水着になるとはねぇ…」
私達は現在、準備運動の真っ最中。水の中に入る以上、準備運動は大切だからね。…まぁ、今はゲームで軽く疲れた身体のストレッチを兼ねてたりもするんだけど。
「意外ッスねぇ…」
「そもそもプールがある事自体驚きです…」
ぐぐっと身体を伸ばしながら呟いた私の言葉に、アイとディールちゃんの二人が反応。勿論二人も、水着姿。
アイが選んだのは、身体にぴったりと添うスイムウェア…所謂ラッシュガードと呼ばれる黒のトップスに、同じくスポーティーな印象を受ける灰色迷彩柄のショートパンツ。上半身は殆ど露出していないながらもラッシュガードによってアイの無駄のない、すらっとした体躯が引き立てられていると同時に、上半身がほぼ隠れているからこそ、露出したしなやかながらも力強さを感じさせる脚の綺麗さが際立っている。それはもう……正直なところ、対抗心が燃え上がってしまう程に。
一方のディールちゃんは、水色をしたタンクトップ風のトップスに、フリルが可愛い白のボトムス。こちらも決して露出が多い訳でもなければボディラインがくっきりと出る水着じゃないけど、だからこそ純粋にディールちゃんの可愛らしさが引き出されている。水着の色もディールちゃん…或いはロムちゃんを思わせるチョイスで、水着といえば素肌を大胆に出すもの、それ自体が魅力を発揮するもの…という安易な考えが突き崩されるようだった。…まぁ要は、やっぱりディールちゃんは可愛い…って事だけど。
「女神が水着に着替えたら……ちょっとした楽園が生まれました…」
「……?どしたのルナちゃん」
「あっ…だ、大丈夫だよ茜!茜も十分…ってそうじゃないそうじゃない…ゲームはまだしも、プールなんてどうやって用意したんだろうね…」
そんな二人の隣にいるのはルナと茜で、どうかしたのかと尋ねられたルナ(何を言っていたかは、小声だからよく分からなかった)はあたふたとしながら疑問を口に。
二人の装いの内、ルナが選んだのは上下共露草色のホルダービキニ。普段はコートで隠れてるから分かり辛いけど、今はビキニによって私達五人の中ではスタイルが良い方…っていうか女の子としてのメリハリが表れていて、しかも色合いは寒色系だからいつもよりちょっぴり大人な感じ。更にいえば群青色はルナのプラチナブランドの明るさとも上手く対比になっていて、輝くような髪と落ち着いた水着、そしてその中間でも負ける事のない白い肌が見事なコントラストを作り上げていた。
対して茜は赤の下地に黒のフリルを持ったトライアングルビキニ。シンプルな形状のビキニは茜のスレンダーな体型の邪魔を一切していなくて、きゅっと締まったお腹周りは自然と視線が引っ張れるよう。加えて赤が茜の明るさ、快活さと上手くマッチングしているんだけど……その赤を囲う黒のフリルは逆に大人っぽさを醸していて、しかもそこにミスマッチさは微塵もない。一目で分かる温かな面と、その縁で静かに…でも霞む事なくそこへ佇む大人な面の調和が、今の茜の姿にはあった。
「それを言うなら、よっぽどジャングルの方が不思議じゃないッスか?」
「そ、そういえばそうだった…」
「もうそういう空間、って思った方が楽かもね〜。外だって普通の環境じゃないんだしさ」
発されたルナの疑問にアイが言葉を返し、会話の中心はプールからこの次元全体に対する疑問へ。…この事も、最後の試練を達成した後には分かるのかな…。
「…というか、ちゃんと水着があって良かったよね…」
『あぁー……』
そこでふとある物を思い出した私の、苦笑いを交えた発言。それにディールちゃん達四人も苦笑を浮かべて、私達は内心で心からの安堵を抱く。
ある物とは何か。そんなもの……第四の試練で用意されていた、二種類のスク水に決まっている。
(流石にあれを着て、尚且つそれをカイト君やワイトさんに見られるっていうのは、ね……)
そう思いながら私が目を向けるのは、私達とは少しだけ距離を開けて準備運動をしている男性二人。正直に言うと、異性に水着姿を見られるのはちょっと恥ずかしいんだけど…二人共邪な人じゃない事はこれまでで十分分かってるもんね。それに水着なのはお互い様なんだから、水着だって事は意識し過ぎないのが一番かな。
因みに、私が着ているのは前と同じタイサイドビキニ…だけど、今回選んでみたのはクリーム色じゃなくて紺色。…ちょっと、大人っぽい選択をしてみたくて紺色を選んだ。黒色……は、流石にちょっと選べなかったけど…。…大人っぽい、よね?大人っぽいなんて考えてる時点で大人じゃない気がしないでもないけど、外見的にはそう見えてるよね?…一応、ほら…ここにいる女の子の中じゃ一番私が発育良いみたいだし、私も肌とかスタイルとかに自信がない…って言ったら、嘘になっちゃうし…。
「ふぅ、準備運動はこれ位で十分ッスよね。で、茜はここでどんな勝負をするつもりなんスか?」
「ふふ、それは勿論水中バレーだよ!」
「えっと…うん、どこが勿論なのかな茜……」
「それはねぇ…ってあれ?カイト君は?」
全員の思いを代弁するようなルナの指摘に対し、茜はにこにこ笑顔で回答…しかけて、小首を傾げた。その言葉に私もまた視線を男性陣の方に向けるけど……いつの間にかそこからは、カイト君の姿がなくなっていた。
「ほんとだ、いない……ワイトさーん、カイト君はどこに行ったんですか?」
「カイト君なら、今し方サーフボードを取りにあちらへ…」
『サーフボード…?』
浮き輪じゃなければビート板でもない、まさかのアイテムの存在に目を瞬かせる私達。まず意味が分からなくて、次に冗談かと思って、でもワイトさんはそんな冗談言う人じゃないよねと思い直して……そこまで考えたところで、当のカイト君が戻ってきた。…その手に大剣ではなくサーフボードを担いで。
「ほ、ほんとにあるんだサーフボード…何故あるんでしょう……」
「さ、さぁ…ワンガルーが海と勘違いして用意した、とか…?」
「うん?…あ、悪い待たせたか?」
「いや、別に良いけど…カイト君はサーフィンやりたい感じ?」
「ま、そうだな。サーフィンは前からやってみたかったんだ」
私とディールちゃんのやり取りに反応する形で会話に入ってきたカイト君は、茜に訊かれて興味と好奇心に満ちた表情を浮かべる。それはもう、正に男の子、って感じの表情を。
やる気十分なカイト君が着ているのは、黒地に右足側へ二本の青いラインが入ったハーフパンツ。それは自分を飾らない、いつも真っ直ぐなカイト君らしい水着で、身体付きからは健康的さが感じられた。…具体的な表現?わ、私に水着の男の子をじろじろ見ろって言うの!?
「そっかぁ、じゃあどうしよっかな……」
「いやそもそも、プールでサーフィンなんて出来る?」
「出来ると思うぞ?だってほら」
続けて私の質問にも答えたカイト君は、何食わぬ顔で左手の人差し指をプールの一角へ。何だろうと思って私達がそちらを見ると…………何故かそこでは、結構な規模の波が立っていた。
『…………』
…えっ、と…うん、驚き過ぎて逆に突っ込みが声に出なかったから、代わりにここで言うね。……どうなってんの…?
「…今日一の驚きッスね……」
「っていうか、このプール広過ぎません…?」
なんかもう静かになってしまった私達。ディールちゃんの言う通り、明らかにここは広さがおかしい。改めて見ると、このプールはちょっとした湖並みの広さがあるような気がしてくる。…ほんとにここ、どういう構造になってるんだろう……。
「…サーフィンは不味かったか?」
「あ…ううん、大丈夫だよ。じゃあ六人で……」
「…あの、水中バレーですけど…わたしも遠慮していいですか…?」
「え?ディールちゃんもサーフィンしたいの?」
「い、いえ…この面子でバレーとなると、確実に激しい勝負になりますよね?…水に覆われた場所で激しい勝負をするっていうのは、ちょっとその…トラウマが……」
「うん、そういう事ならディールちゃんも大丈夫。だったら五人で…あ、でも奇数……」
「では、私が審判をするとしよう」
今でも遠くで処理し切れない程の疑問が波打っているところだけど……それをあんまり気にしないのが茜とカイト君と快活組。そこからディールちゃんが精神的な理由で、ワイトさんは大人の対応でそれぞれ抜けて、最終的なバレーメンバーは私、アイ、茜、ルナの四人に。
「四人なら、二対二だね。どう分けるの?」
「第六の時と同じ方法でいいんじゃないッスか?」
「それもそっか。じゃあ……」
納得したルナの声に合わせ、私達四人は揃ってぽんっ。私はぐーで、アイもぐー。茜はちょきで、ルナもちょき。あ、一発で決まった…。
「ほぅほぅ、宜しく頼むッスよイリゼ」
「うん、頑張ろうね」
「私はルナちゃんとだね。よーし、頑張るよ!」
「あ、うん……でも…女神二人が相手って、ちょっと不利なんじゃ…?」
「大丈夫ッスよルナ。別に女神化はしないッスし、水中戦は流石にウチも不慣れッスから」
そうして私達はネットを始めとする道具を用意&設置し、プールに入って準備万端。水深は恐らく100㎝以上あるから、結構ハードなバレーになりそうだけど…それはそれで楽しいかも。
「皆さん、くれぐれも怪我にはお気を付けて」
『はーい』
鈍色のハーフパンツに胸元へ何かのエンブレムが入った白のパーカーを着たワイトさんからボールを受けて、私は茜・ルナチームと向かい合う。パーカーの上からでも分かるがっしりとした身体付きと、プールに入らず見ているスタンスからはそこはかとなくライフセーバー感が出ていて……もう一つだけ言っておくと、見えている肌には何ヶ所か古傷の痕があった。見えている場所だけでも複数あるんだから、パーカーの内側もきっと……
「よーし…いくよ!」
(…っと、集中集中……!)
相手側から聞こえた声で、私の意識は引き戻される。見ればルナがサーブの体勢に入っていて、開始はもう目前…というか、始まっていた。
私が視線を走らせた次の瞬間、ルナのサーブによってボールが飛来。一発目という事もあってか、サーブは早くも遅くもなくて……これなら、よし…ッ!
「アイ、いけるッ!?」
「勿論ッス!」
返ってきた頼もしい声に呼応するように、私はジャンプ。ブロックでボールの勢いを殺しつつも指先を上手く使う事によって、ボールをある方向…水中へと沈み込んだアイの方へと受け流す。
水上から見れば、私は弾き損ねてボールを誰もいない方向に飛ばしてしまっただけ。…でも、飛ばしたボールが上昇の最高点に到達した瞬間……アイは脚力と浮力の合わせ技で一気に浮上した。そしてそのまま、アイはネットの向こうへとオーバーヘッドを叩き込む。
「え、ちょっ……」
「…わぉ……」
何とも綺麗なオーバーヘッドで放たれたボールは茜・ルナ組の陣地へ突き刺さり、上がった水飛沫が二人の顔へ。そして二人が目を見開く中、私とアイはすれ違いながらハイタッチ。
「ナイスアシストッス、イリゼ」
「そっちこそ、ナイスアタックだったよ」
軽快に先制点を奪った私達は、ルールに則りサーブ権をゲット。私がボールを持ってサーブの姿勢に入ると、驚いていた二人も気持ちを切り替え動き始める。
(…二人の注意はアイに向いてる…当然だよね。だったら……)
ちらりと振り返ったアイとほんの一瞬視線を交わし、ネット間際へ向けてサーブ。それは前進した茜にブロックされて、ボールは真っ直ぐ水面へ落下。だけどそれを、同じく前進していたアイが掬う。
「頼む、ッスよ!」
掬うと言っても、それは伸ばした脚によるギリギリの掬い上げ。でもその動きは、私には殆ど見えていない。だって私も…先程のアイと同じ動きをしてたんだから。
「て、ぇぇいッ!」
飛び上がった私の眼前に現れる、緩い軌道を描いたボール。出来る事なら私も格好良くオーバーヘッドを決めたいところだったけど…安全を期して横蹴りを選択。一方の二人はまさか私まで蹴ってくるとは思わなかったらしく、反応が遅れて……再びボールは、向こうの陣地に着弾した。…私達の、狙い通りに。
「っとと…濡れてる状態で狙った位置に蹴るのって難しいね」
「はっはー、もうイリゼが蹴っても効果は殆どないッスし、こっからは普通にやればいいと思うッスよ」
「ん、そうさせてもらうね」
再び得たサーブ権とボールを持って、私はもう一度陣地の外へ。
今のところは2対0。数字上は優勢だけど、この二点は技術で手に入れた二点じゃない。つまりまだまだ余裕なんてない訳で……と私が思っていると、背後から会話が聞こえてきた。
「ど、どうする茜?二人共女神の姿にはなってないけど、それでもやっぱり強いよ…?」
「むむむ…こうなったら私達も作戦で勝負だよ!」
聞こえる会話は、どうやら作戦会議のもの。会議してる事がモロバレなんだけど…二人はいいのかな……。
「作戦…あるの?」
「もっちろん。まず向こうからサーブが来たら、私が跳躍するの」
「うん」
「そしたらルナちゃんも続けて跳んで、手を下に向けつつ身体を完全に水面から離す」
「うんうん」
「で、後は私が打つのに合わせて、ルナちゃんはプールに向かって電撃を一発!」
「あぁそっか!それで二人を感電させれば……反則だよ!?確実に反則負けになるよ!?」
「大丈夫大丈夫、うっかり魔法を暴発させちゃったって言えばいけるよ。……多分」
「だから無理だって!無理だしそこまでして勝ちたいとは思わないよ!」
((…作戦、バレッバレ(だ・ッス)……))
…会議どころか、作戦すらもバレバレだった。ぜーんぶ聞こえてた。そして、審判であるワイトさんの方を見たら……ワイトさんは、何も言わずにただ苦笑いを浮かべているのだった。…うーん…これはもしかすると、余裕があるのかもしれないなぁ……。
*
「えー……この勝負、茜さん・ルナさんチームの勝利です!」
……と思っていたのが最初の頃。最初は明らかに私達が優勢で……なのに何故か、私達は負けていた。
「や、やった…勝ったね、茜!」
「うん、私達の大勝利!これで『女神二人に勝った』とも言えるね!」
「そ、それは…うんまぁ、間違ってはいないけど……」
両手でハイタッチを交わして勝利を喜ぶ茜とルナ。なんかしれっと色々端折った表現を茜がしていたけど……確かにそれも間違ってはいない。
「くぅぅ…プールのアイ、一生の不覚ッス……」
「そう、だね…まさか、身体能力が仇になるなんて……」
一方の私とアイは、あまりにも不完全燃焼な敗北に悔しさを滲ませていた。
どうして負けたのか。さっき私はそれを、何故か…って表現したけど、本当は分かってる。私達が負けたのは、私達チームにとってコートが少し狭過ぎたから。
今回のコートは、水深の関係から普通よりもそこそこ狭い範囲で設定した。でもその設定は、女神じゃない茜やルナを基準にしたもの。だからその結果、というか勝負が進んでいく内に私とアイにとっては些か狭いコートだって事が判明したんだけど……開始しちゃった以上、変える事なんて出来なかった。で、ラリーが続くとその狭さから私達の連携は次第に崩れてしまい、かといって一人で戦うには広過ぎるという微妙な広さだったから……私達は少しずつ点を奪われ、この敗北に繋がるのだった。
「…っていうか、範囲の細かい設定は茜が能力でやってたよね…?…じゃあ、まさか……」
「え?何の事かなー?」
「……抜け目ないッスね、茜……」
気付いた時にはもう遅い、とばかりに返ってくる茜のすっとぼけ。もしかしたら本当に私達の考え過ぎかもしれないけど、能天気に見えて実は色々考えてる茜なら……
「…って、あれ?」
…そう思っていた私の目に、あるものが入った。それは、にこにこしながらルナと話す茜の背に薄っすらと見えた、何かの痕。
(…あれも、ワイトさんと同じ戦闘の傷かなぁ…。……戦闘の傷、か…)
想像しながら私は、何気なく自分のお腹を触る。特に怪我もシミもない、それなりに綺麗だと思うお腹。…でもここには、ジャッジと戦った後自分でも引く位の痕が残っていた。回復後すぐに私は女神候補生の四人と浮き島に行って、水着にならない理由を言ったけど…実はその傷痕を隠したかったっていうのも、理由の一つ。
だけど、それはもう過去の事。今はもう、傷痕なんて少しもない。…傷どころか傷跡すらも治ってしまうのが、私達女神の身体だから。
「…イリゼ?おーい、どうしたの?」
「あ…ううん、何でもないよ。…あれ?そのスポーツドリンクどうしたの?」
「私達が勝負してる間にワイトさんが持ってきてくれたんだって。はいどうぞ」
そんな事を思っていたら、いつの間にかアイと茜はプールから上がっていて、ルナも私の側に来ていた。…思ったより長考しちゃってたみたいだね。
「ありがと。よ、っと…ワイトさんもありがとうございます」
「いえいえ、審判といっても殆どやる事がありませんでしたからね」
「そこでぼーっとせず、わざわざ取りに行ってくれた事が嬉しいんですよ」
「であれば、私も取りに行った甲斐があるものです」
プールから上がり、アップで纏めておいた髪を軽くかき上げた後ワイトさんにもお礼を言う私(因みに、アイだけは髪を纏めずそのままにしていた)。そのお礼に喜ぶ事はなく、でも穏やかな顔で謙遜するワイトさんはやっぱり大人って感じで、私達二人が何往復か言葉を交わしていると……
『…………』
「……何?」
「なーんかぜーちゃんとワイトさん、ゲームの前辺りから微妙に仲良くなってない?」
…その様子を三人から、じーっと見られていた。ちょっと意外な指摘を受けた私とワイトさんは、一瞬驚いて、それからお互い顔を見合わせて…くすりと一言。
「…まぁ、色々大人の話をしたからね」
「お、大人の話?…そうなんですか?ワイトさん…」
「えぇまあ、そんなところですね」
「おおぅ…マジッスかイリゼ……」
私達二人が「それっぽい」反応を見せると、三人は目を丸くして驚くのだった。…基本は真面目で固そうな雰囲気だけど、実際は小粋なジョークもいける人なんだよね、ワイトさんって。
「それはそうと茜。これって元々ゲームで決まらなかった優勝者を決める為のものだったんだよね?…茜とルナで決勝戦するの?」
「あー…そういえばそうだったね。忘れてたよ、てへっ」
「適当ッスね、茜…」
「あはは…でも楽しかったよね、水中バレー。三人の動きについていくのは大変だったけど、点が決まった時は嬉しかったし……それに、色々眩しかったし」
((眩しかった……?))
本筋から離れてしまったけど、楽しかった。そんなルナの感想は、本当にその通りだと思う。……最後の発言は、ちょっと意味が不明なんだけど…それは置いておくとして。
「じゃ、皆次はどうする?また何かやる?」
「んー…ウチはちょっと泳いでくるッス。今のままじゃ勝ち負け以前にスッキリしないッスし」
「では、私も少々泳ぐとしましょうか…」
「お、泳ぎで勝負ッスか?」
「…まぁ、アイ様がそれをお望みならば」
茜からの言葉に、アイとワイトさんが泳ぎを選択。ルナは何をしようか考えている様子で、茜の視線は私の方へ。…私は、うーん…私も力の限りを尽くしたって感じじゃない…というか尽くせなかった訳だし、あれ…してみよっかな。
*
湧き上がる波、身体の周りを駆け抜ける風、そして感じる……高揚感。
「ひゃっほーうっ!」
バレーを終えてから数十分後。私はカイト君と共に、サーフィンに興じていた。
「っと……上手いな、イリゼ!」
「平衡感覚も凄いのが女神だからね!カイト君こそ上手じゃん!」
「まぁ、な!」
中々どうして興奮するもので、今の私はハイテンション。カイト君と言葉を交わしながら、サーフボードで青いアーチを駆け抜ける。
「ところで、バレーはどうなったんだ!?」
「残念ながら負けちゃったよ。何とも悔しい負け方でね!」
「…その割には元気だな」
「だってサーフィンが面白いからね!ほいっと!」
乗っていた波が弱くなったところで、私は素早くターンして再加速。技術のない私は少し方向転換するだけでひっくり返りそうになるけど…そこを平衡感覚と体重移動、身体の動きなんかで強引にカバーして波乗り続行。一方のカイト君も私同様完全な我流だけど、上手い事炎を噴射して彼も姿勢を整えていた。
(あー…前々から思ってたけど、私って結構単純だよねぇ…)
舞い上がる私の中で、冷静に今の自分を俯瞰する私も一人。前に信次元の皆でバカンスに行った時もそうだったけど、私は気分が舞い上がるとほんとに単純…っていうか子供っぽくなると思う。というかそれを意識出来ているだけ今の私はまだマシな方で、本当にテンションが上がってる時なんか……恥ずかしいよね、色々と…。
「……!大きいのが来たぜイリゼ…!」
「…みたいだね…!」
私を呼ぶ声に思考を打ち切り視線を上げると、迫ってくるのは巨大な波。ほんとに一体何がどうしてこんな波が発生しているのか謎なんだけど……確かなのは、この波に乗ったら凄く気持ちが良いって事。だから私とカイト君は迷わず乗り込み、神経フル稼働で駆け上がった。
そして到達した、波の頂点。そこから上下したり、一気に下降したりするのも面白そうではあったけど……波の高さにテンションまでも引っ張られた私は、フルスピードのまま飛び上がった。
「あはははははっ!楽しいよね、カイト君っ!」
「同感、だぜッ!」
サーフボード諸共空中を飛ぶ私達二人。もし偶発的にこうなったら戦々恐々だろうけど、速度も角度も狙った通り。自分でもびっくりする程上手くいったジャンプに私はつい笑顔を漏らして、あぁやっぱりやってみて良かったと思いながら、プールサイドへと着地した。勿論勢いのついた身体は簡単に止まるものじゃないけど、私達の足は今濡れてるし、プールサイドは元々滑り易い材質。だからきゅーっと格好良くプールサイドを滑りながらハーフターンし、最後はぐっと脚に力を込めて停止する。
「ふぅ……やっぱ、挑戦してみるっていいもんだよな」
「だね。この感覚は、挑戦してみなきゃ分からなかったもん」
空中で脇に抱える形へと移したサーフボードを床に降ろして、にっと笑い合う私達二人。そうして私達は満足と共に休憩を……と思いきや、すぐにカイト君はまた行ってしまった。何でも、まだ試してない技があるんだとか。
「…積極的だなぁ、ほんと」
対する私は充足の気持ちの方が大きかったから、波へと向かうカイト君を見送る。でもテンションも普段通りになったかと言われればそうではなくて……ふと見付けたある子の下へ、ひっそりと向かう事にした。
「はふぅ……」
その子は腰回りを浮き輪の中に入れて、手足を出したスタイルで水の上を漂っている。右手にはジュースがあって、正に涼しさを楽しんでいるって感じ。そんな姿がテンションの上がっていた私の心をくすぐったものだから、背後につくまでひっそりと、本当にひっそりと近付いて……
「わっ!」
「わぁぁぁぁっ!?」
……つい、驚かせてしまった。普段の私ならしないような…それこそその子の妹がしそうな事を、その子に…ディールちゃんに向かって。
驚いたディールちゃんは、びくんとなって浮き輪ごと横転。でも咄嗟にジュースを守ろうとしたのか右手だけは水面から出ていて、ぱっと見『I'll be back』みたいな感じに。
「……ぷはっ!な、何するんですかイリゼさん!ジュース零すところだったじゃないですか!」
「あはは…ごめんねディールちゃん」
「笑いながら言わないで下さい!普通に殴りますよ!?」
ざばりと浮上したディールちゃんは案の定激怒。流石にテンションが上がってた私でも人を怒らせたとなったら話は別で、表情を引き締めしっかりと謝罪。勿論一回じゃ許してはくれなかったけど、私は何度も謝って……何度かの謝罪でやっと、ディールちゃんは許してくれた。
「全くもう…次やったらほんとに殴りますからね?」
「うん。次はそれ覚悟するよ」
「……それ、つまりまたやるって事ですか?」
「ち、違うよ違う…今のは言葉の綾だって……」
ジト目で問い詰められた私は、ぶんぶんと首を振って否定。幾ら何でも、そんな事はしない。だってディールちゃんは、本当に怒ってたんだから。
その意思は伝わったみたいで、ディールちゃんは何も言わずに再び浮き輪へ。そこから数秒間、私達の間には沈黙が流れて……先に口を開いたのは、私の方。
「……ディールちゃんは、泳いだりしないの?」
「しましたよ?でも、こうしてのんびりする方が楽しいかな…って」
「あぁ…ディールちゃんらしいね」
「そりゃ、ディールですから」
小さなディールちゃんがそんな落ち着いた事を楽しんでいて、ずっと背の高い私がハイテンションで遊んでた…って考えるとまた恥ずかしさがこみ上げてくるけど、元々ディールちゃんはそういう子。大きいとか小さいとかじゃなくて、それがディールちゃんってもの。
「……楽しめてる?」
「それは……今この瞬間に対してですか?それとも…」
「…………」
ディールちゃんの訊き返しに、私は言葉ではなく無言を返す。返答をしなかったのは……私達が対等の友達だから。これがロムちゃんなら、答えていたけど…ディールちゃんにそれを言うのは、違うから。それに…ディールちゃんなら伝わるって、確信もあったから。
私が答えなかった事で、私達は再び沈黙。でも、次に口を開いたのは……ディールちゃん。
「…大丈夫ですよ、イリゼさん。確かに私は、イリゼさんより人付き合いが上手くないですけど…それでもちゃんと、皆さんの事を信頼してますから」
「そっか…ふふっ、なら余計なお世話だったかな」
「別にいいですよ。イリゼさんがそういう人だって事は分かってますから」
「そう?…あ、じゃあ因みに私は?私の事も信頼してくれてる?」
答えるディールちゃんの口振りは、いつも通りの大人しい感じ。そこに無理や建前なんて微塵も感じられなくて…だから私は、安心した。
それと同時に、訊きたくなったもう一つの事。聞きたかった、ある答え。それを期待して私が訊くと……ディールちゃんはにこりと微笑んで、言った。
「それは勿論……信頼してましたよ。さっき驚かされるまでは」
「そっかぁ……って、えぇぇッ!?まさかの信頼喪失してた!?ほんの出来心で、私友達からの信頼失ってたの!?」
がびーん、と思い切りショックを受ける私。信頼喪失してた事は勿論、大切なものをこんな簡単に失ってしまったのかという事実がとにかく私にショックを与えて、足が付くのに溺れてしまいそうな程に動揺する。……一応、結果から言うとそれは冗談だったんだけど…私にとっては、あんまりにもダメージが大き過ぎる冗談だった。
「う、うぅぅ……そういう冗談は酷いよディールちゃん…」
「すみません、まさかそこまでショックを受けるとは……でも、あんな事をしなければこんな事も言わなかった、っていうのは事実ですよ?」
「はい…それは肝に命じます……」
「そうして下さい…。…じゃ、戻りましょうかイリゼさん。何やら皆さん、集まってるみたいですし」
「へ?…あ、そうだね…うん、戻ろっか」
言われて後ろを見てみると、確かに五人はプールサイドに集まっていた。という訳でいつの間に…?…と思いつつも、私とディールちゃんもプールサイドへと帰還。どうやら五人はBBQの準備をしていたみたいで、私達も準備に参加。そうして火を付け、肉や野菜を焼いて、未だ起きてる波を見ながら皆で食事を……
「……って、BBQまでしたらいよいよプールじゃなくて海だよ!?やってる事がほぼ海だよ!?そしてそれを普通に受け入れてるって…どういう状況!?」
『……はい…?』
「あ……(や、やっちゃったぁぁぁぁ…!)」
急に何…?…と唖然とした顔を浮かべる皆。その反応で一気に顔が赤くなる私。誤魔化す事を一瞬考えたけど、一言ならともかくこんながっつり言った以上は誤魔化せる訳なんかなくて……結局私は、俯く事に。…と、いう訳で……最終話まで出る事はなく、番外編でもこれまで何とかなっていた悪癖が、最後の最後で遂に出てしまって大恥をかく私だった。…うぅ、後ちょっとだったのに……。
今回のパロディ解説
・「女神が水着に着替えたら〜〜」
彼女が水着にきがえたらのパロディ。最初の番外編でシャワー回があった訳ですが、露出度は下がろうと水着もまた……って、私は何を言っているんでしょうか…。
・「〜〜プールのアイ、一生の不覚ッス……」
北斗の拳に登場するキャラの一人、リハクの名台詞の一つのパロディ。海のリハクならぬプールのアイ。…いや深い意味はありませんけどね、全くもって。
・「あはははははっ!楽しいよね、カイト君っ!」
Fate/Grand Orderに登場するキャラの一人、モードレッド(ライダー)の台詞の一つのパロディ。サーフィン中ですからね、サーファーイリゼ…略してサイさんでしょうか。
・『I'll be back』
俳優、アーノルド・シュワルツェネッガーさんの演じるキャラがよく発する台詞の事。特にターミネーターシリーズに登場する、T-800の台詞ですね。
今回の話で、番外編も終了とさせて頂きます。本当にここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。私も色々な展開、色々なやり取りが書けて楽しかったです。
……が、もしも今後またリクエストがあった場合、絶対…とは言いませんが、追加でまた番外編を書くかもしれません。なのでどうしてもこんな話を読んでみたかった、と思う方がいたら、一度お伝え下さいね。