超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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今回のお話は、先日『再編世界の特異点(Feldeltさん作)』にて書いて下さった、コラボストーリーのエピローグに当たる物語です。ざっくばらんにコラボ中の出来事が羅列されていたりもしますが、やはりコラボストーリーを先に読む事をお勧めします。その方が楽しめる筈ですし…何よりとっても良いコラボストーリーを書いて下さったんですからねっ!
そしてラストに、一つ発表があります。ですのでコラボストーリーを読んでいない方も、ラストの部分だけは読んだ方が良いかもしれません(コラボエピローグでするような発表ではない事は、反省しています…)。

また、上記の発表に関しては、詳細を活動報告に載せております。気になった方は、そちらも読んで頂けると幸いです。


コラボエピソード 原初と悪魔の邂逅
断章 私は貴方を諦めない


私は知らなかった。彼の様な人がいる事を。彼の様な思いを抱く人がいる事を。

想像出来なかった訳じゃない。私だって…信次元だって順風満帆とは言えない出来事があったし、希望を抱けない人や、負の感情に魅入られてしまった人もこれまでに数多く見てきた。何より、犯罪神の存在が……過去に何度も犯罪神を復活させ、幾度となく信次元を窮地に追いやったという事実そのものが、世界に善意や幸せばかりが溢れてる訳じゃないって示してる。

だけどそれでも、私にとって彼の在り方は初めてだった。私の知る世界の外にいる存在だった。だからやっぱり、私にとって、貴方は──。

 

 

 

 

ふっ、と目が覚める。特筆する事のない、強いて言えばちょっとだるさを感じる程度の、普通の起床。

 

「んっ…ふぁ、ぁ……」

 

ゆっくりと身体を起こして、軽く伸び。それからいつもの通りに時間を確認して……って、あれ…?…なんでパジャマじゃなくて普段着着てるんだろ…昨日そのまま寝ちゃったんだっけ…?

 

「……って、わぁぁぁぁ!?が、がっつり寝坊してる!?」

 

…と、まだぼんやりしていた私の思考は、時間を確認した瞬間一気に覚醒。っていうか愕然。ちょっ、う、嘘でしょ!?一時間以上寝坊してるじゃん!不味い不味い立場ある存在として寝坊は不味…い……。

 

「……うん?…あ…そうだ、今日は休みだった……」

 

ベットから飛び出しかけて、そこでふと気付く私。もしやと思って確認すると……やっぱ今日は、休みだった。

 

「よ、良かったぁ……いや良くないけど…物凄く焦ったけど…」

 

寝起き早々ハプニングに見舞われた私は、もう既にげんなり気味。一方覗いてみたらライヌちゃんはすやすやと気持ち良さそうに寝ていて、正直何だかなぁって気分。…まぁ、可愛いけどね。ライヌちゃん。

そんなこんなで頭もはっきりとした私は、取り敢えず顔を洗おうと洗面台へ。そこで何の気なしにレバーを動かし、上半身を眺めて……

 

「…痛っ……」

 

その時、ずきりと胸に痛みが走った。こう表現すると、何だか恋愛っぽく聞こえるけど、勿論それは精神的な痛みじゃない。リボンを解いて、首から胸元までのボタンを外して確認すると……そこにあったのは、傷。それも、擦り傷や引っ掻き傷じゃなくて…刺し傷。

それを見た瞬間、私は思い出した。そして、弾かれるように私はベットの前まで戻って……発見した。これまでと同じように、いつの間にか移動していた、白い本を。

 

「……今回も、夢じゃ…なかったんだね…」

 

寝坊のせいで吹っ飛んでいた記憶が、あの空間と、そこで出会った男の子…いや、青年の事が次々と頭に浮かんでくる。

 

「…………」

 

普段…というかこれまでだったら、得られた友情と思い出に心がじんわりとするところだけど、今回は違う。だって、今回出会ったのは……

 

「イリゼさーん、起きてきますか?」

「…ネプギア?」

 

とんとんっ、と扉を叩く軽い音と、聞こえてきた声が私の思考に割って入る。出しっ放しだった水を止め、この声は…と思って扉を開けると、そこにいたのはやっぱりネプギア。

 

「おはよう、どうしたの?」

「おはようございます。あのですね……って、イリゼさんその傷は…?」

「あ…うん、ちょっとね」

 

胸元を開いたままだったから、すぐにネプギアは傷を見付ける。…っていうかこれ、ネプギアだったから良かったけど、男の人だったらハプニングその二になってたよね…私、迂闊過ぎる……。

 

「…それ、何かが刺さった傷ですよね…?…誰かに、襲われたんですか…?」

「う……気になる…?」

「それはなりますよ。事故で何かが刺さるような場所じゃないですし」

「だよね……えと、端的に言うと…」

「言うと…?」

「……友達の想い人に、押し倒された末の結果…かな……」

「修羅場!?え、イリゼさん痴情のもつれか何かの当事者になったんですか!?」

「何でそうな……いやそうだね!?確かに今の纏め方だとそうなるねっ!うわ怖っ!」

 

何だかとんでもない勘違いをしたネプギアに私は突っ込み……かけて、今のは私に非がある事に気付いた。いや事実ではあるけども!友達の想い人だし、押し倒されたし、その後刺された(自分から行った)んだけども!編集のマジック恐ろしっ!

 

「ほ、ほんとに何があったんですかイリゼさん……」

「う、うん…最初から話すと、実は私…また、別次元…みたいな空間?…に飛ばされたみたいでね……」

「……?…え、と…それは六人の人達と、試練みたいなものを突破してきたっていう……」

「ううん、それとは別」

「あれも最近ですよね!?ちょっと前に聞いたばかりですよ!?ま、またですか!?」

「あはは…それは私も内心驚いてるよ……」

 

再び驚くネプギアの反応に、私もつい苦笑い。ネプギアの気持ちは分かる。だって、同じ事を思ったし。

そう、またなのである。ディールちゃん、茜、ルナ、アイ、カイト君、ワイトさん……六人と共にワンガルー含む複数人の計画に巻き込まれて(というか、利用されて)謎の空間に飛ばされてから、まだそんなに期間が経っていないのに、また私は似たような事態に陥ったのである。…私、某魔法少女みたいに因果の糸が絡みまくってるのかな…。

 

「…こほん。それで、その飛ばされた先でお友達の想い人に会って、色々あって刺された…って事、ですか…?」

「正確には、刺されたっていうか自分から突っ込んでいった、だけどね。その後も普通にそれまでやってた事を継続したし」

「じ、自分からって…しかも何かは知りませんが続行って……そんな事するのは棚橋さんかイリゼさん位ですよ…」

「まぁ、そういう反応になるよね…。…でも、その事を私は後悔してないよ。自分の為にも、彼の為にも、私はあそこで引く訳にはいかなかったから」

 

無茶苦茶な事したって自覚はある。あんな事、やるべきじゃないって事も分かってる。でも、それでもあの時はそうしなくちゃって、じゃなきゃ守りたいものを守れないって、私の心が感じたから。女神としての私が、そう叫んだから。だから、あれは…やるべきじゃない事だったけど……それと同じかそれ以上に、やるべき事だったとも私は思ってる。

 

「…ねぇ、ネプギア。もしも、今回私が経験した事を話したいって言ったら…聞いてくれる?」

「…はい。聞いてみたいです。イリゼさんが経験した事を……イリゼさんの出会った、その人の事を」

 

理由はよく分からない。けれど、ふと私はネプギアにこの経験を話してみたくなった。ネプギアもまた、私の問い掛けにこくりと頷いてくれた。

だから私は、ネプギアに話す。私の経験した、あの時間を。彼との……影君との時間を。

 

 

 

 

出会いと、すぐに分かった共通の友達。最初の協力と、深まった信用。次の敵と、思いの衝突。譲れない信念をかけた戦いと、そこからの歩み寄り。話を聞いて、協力して、連携して、意見を出し合って、また協力して……そうして帰還手段を得た私達は、別れてそれぞれの居場所に…私はここに、帰ってきた。

そんな出来事の数々を、余すところなく私は話した。影君や茜の過去やしてきた事に関しては、流石に勝手に話す訳にはいかないからぼかしたけど…それ以外は、必要以上に要約する事なくネプギアに伝えた。その間、ネプギアは持ってきてくれた救急箱で私の傷口を手当てしつつ静かに聞いていてくれて……私が話を締め括ったところで、聞き終えたネプギアが口を開く。

 

「…イリゼさん」

「うん」

「……イリゼさんは今後、遠距離ならぬ次元間恋愛でもするつもりで…?」

「だ、だよね…あは、ははは……」

 

もうどんな表情をすればいいのか分からない、と言いだけなネプギアの言葉に、私は乾いた笑いを零す。…うん、そうだよね…戦闘中に(戦術とはいえ)胸を揉まれた事から始まって、意識を失ってる間にショーツ以外全部脱がされたり、思わず責任取ってって言っちゃったり、かけられてたコートを捲られかけたり、添い寝されたり、抱き枕にされたり、お味噌汁作ってあげたり、膝枕してあげたり、探索に出た影君の帰りを待ちつつリクエスト料理を作ったり、自然な調子で頬撫でられたり、また胸触られたり、頭撫でられたり……

 

 

…………。

 

「……ねぇネプギア、私は影君の許嫁か何かだったのかな…?」

「さ、さぁ……」

 

色んな事されたり、主に放っておけなくて色んな事したりした際にも思いはしたけど……改めて考えると、やっぱり常軌を逸し過ぎていた。…まぁ影君に関しては、どうも私が妹と…明ちゃんと重ね合わせてしまっている節があったらしいから、異性ではなく妹扱いされていたと考えれば理解出来ない事も……いやいややっぱおかしいって!だとしたら相当なシスコンだよ!…お嫁さんみたいな事した私も私だけどっ!

 

「うぅ……なんでほんと、あんなにもデリカシーがないかなぁ…」

「く、苦労したんですね……はい、出来ました」

「ありがと。…なんか、ごめんね?変な話になっちゃって」

「そ、それはまぁ……でも、うん…そういう事なら…やっぱり、影さんは優しい人なんですね」

 

お礼と謝罪をセットで伝えると、ネプギアは一度苦笑いを浮かべて、次にちょっと考え込むような表情をして……それから、穏やかな笑みで言った。影君は、優しいって。

 

「…そう思う?」

「思いますよ。だって影さん、話を聞く限りは素っ気ない感じでしたけど、イリゼさんが落とし穴に落ちそうになった時は即座に助けてくれた訳ですし、戦闘の時もまずイリゼさんの安全を確保してくれたんですよね?」

「あ…うん、そうだね」

 

ネプギアからの確認に、私は首肯。確かに言われてみればその通り、落とし穴の時は反射的に助けてくれた感じだったし、犯罪組織の構成員を思わせる子達(…結局、あの子達は自我があったのかな…あったのなら、やっぱ…助けて、あげたかったな……)を相手にした時は背中に隠れてろって言ってくれたし、最後の戦いの時もまずは私を連れて回避行動を取ってくれた。勿論、脱出する上で役に立つ存在を無意味に失うのは惜しいから助けた…っていう見方も出来るけど、私はそういう事じゃないと思いたい。

 

「ならやっぱり優しい人ですよ。過剰なスキンシップに関しても、もし身勝手さや自己中心的な思いが思考の根底にあるなら、イリゼさんのイリゼさんらしさを認めなかったり、逆に妹さんに似ている事を理不尽に怒ってきたりすると思います」

「…悪意的な思いがなかったからこそ、私を私としつつも、自然と心を許してた…って事?」

「あ、そうですそれです。心を許していなければ、身の上話をしたり、似てるとはいえ妹に対するような行動をしたりはしないと思います。だってどんなに似ていても、イリゼさんはイリゼさんで、妹さんは妹さんなんですから」

 

曇りのない瞳で、ネプギアは言葉を続ける。その言葉を疑う余地はない。だって遠く離れた…ネプギアからすれば会う事があるかどうかも分からない相手にお世辞を言う理由なんてないし、今私が話した事以外でネプギアが影君について知る訳がないんだから、変な先入観や偏見だってそこにはない筈。

だから間違いなく、ネプギアは思っている。影君の事を、言葉の通りに。

 

「食事だってそうです。お味噌汁を食べたのも、リクエストしたのも……心を許しちゃう位には信用していたからなんじゃ、ないんですか?」

「…信用、か…もしその通りなら、嬉しいな」

「きっとそうですよ。少なくとも、わたしはそう思ってます」

「…結構がっつり肩を持つんだね」

「それはイリゼさんの言葉から、イリゼさんが影さんを心から信頼してるって伝わってきたからですよ。…でも、だからこそ…悲しいです。理由はあれど、無意識だったとしても、早くからイリゼさんに心を許してくれるような人が、イリゼさんが悲しい顔をするような人生を歩まざるを得なくなってしまった事が……」

 

そう言って、ネプギアは本当に悲しそうな顔をする。ネプギアにとっては赤の他人な筈の影君の事を思って、心を痛めている。…それは、ネプギアが影君に負けない位に優しいから。女神としても、女の子としても、優しい心の持ち主だから。

それと同時に、言われて初めて気付いた。私が影君の過去をぼかしながら話していた時、悲しい顔をしていたんだと。

 

「…今の話、影君にも聞かせてあげたいな。多分買い被りだ、とかイリゼにはそう見えていただけだ、とか言うんだろうけど」

「あはは……イリゼさんは、どう思ってるんですか?」

「え、私?」

「はい。私です」

 

感じた事を全て話し、最後にネプギアは私に訊いてきた。今話を聞いた自分ではなく、当事者の私は、実際に時間を共にした私はどう思っているのかを。

語る上で、私はあまり私の気持ちを言わなかった。でもそれは言いたくなかったんじゃなくて、単に説明する中で一々私の思いを入れていたら、テンポが悪くなっちゃうから。だから、言えないなんて事はないし…むしろ、胸を張って言える。そう、私は……

 

「…大切な友達だよ。信次元の皆とも、別次元の皆とも同じ……かけがえのない、友達の一人だよ」

「ですよね。イリゼさんならそう言うと思いました」

「あ、バレた?…でもまぁ、何にせよ…私にそう思わせてくれたのも、他ならぬ影君な訳だから、ね」

 

自然に浮かんだ微笑みと、ネプギアが返してくれた温かい声音の言葉。実のところ、影君に対してネプギアはちょっと引いちゃうかもと思っていたけど…思った以上に好印象を抱いてくれて、私も嬉しかった。嬉しい気持ちで、話して良かったという思いで、経験したばかりの思い出話を締め括る事が出来た。

無論、私は影君の全てを知っている訳じゃないし、そんな私が影君の暗い部分をぼかしつつ話した訳だから、ネプギアは影君のほんの一部しか知らない。だからこその評価って事も大きいとは思うけど……別に私は嘘を伝えたりはしてないもん。部分的だけど私は影君の事を話して、そこからネプギアは優しい人だと思ってくれた。それは、誰がなんと言おうと、影君自身が否定しようと……変わらない事実だから。

 

 

 

 

ネプギアが去ってから私は、ベットに座り、今一度経験した事を思い出していた。ちょっと変な表現だけど……思い出の余韻に浸ってる、って感じ。

 

「…今回も、色々あったなぁ……」

 

思い出すっていうか、まだ結構な割合で鮮明に思い出せる位直近の事ではあるんだけど、事態そのものが特殊過ぎて何か遠い出来事だったかのように私は感じてる。

良い事もあった。悲しい事も、出来なかった事もあった。けど、思い出っていうのはそういうのを全部引っくるめたもので、自分の意思で良いものだけを思い出に変える事なんて出来はしない。本当に、今回も色々と……

 

「……そう、いえば…」

 

そこでふと、私は思い出す。影君が寝ている間に何か出来ないかなと思って、見つけたキッチンで味噌汁を作った時、影君は言った。私の作った味噌汁の味が、明ちゃんの作る味噌汁と似ていると。

なんて事はない、懐かしさと寂しさの混じったただの呟き。影君はそう思ってるだろうし、私も失ってしまった妹に思いを馳せているんだろうとその時は思ったけど……改めて考えてみると、引っかかるものがある。

 

(…本当に、似ていたのかな…?…それとも……)

 

まず前提として、影君がお世辞でそんな事を言った…というパターンはないと思う。となると、考えられる可能性は三つ。

一つ目は、本当に似ていたというパターン。偶々私と明ちゃんの味覚や味付けの傾向が似ていたから、味噌汁の味も似たという事は……凄い偶然ではあるけど、あり得る。

二つ目は、影君が『似ている』と感じたという可能性。私が明ちゃんと重なるものだから、あの迷宮みたいな場所に入る前の寝起きでは私を明ちゃんと完全に誤認しちゃったものだから、影君の脳が影君の心にそう思わせたとしても……おかしくはない。

 

「…………」

 

この二つはまぁ、何にも問題はない。特に二つ目は、そうである可能性も高いと思う。…でも、怖いのは三つ目の可能性。影君の思いによって、生まれたシェアによって、私という存在が明ちゃん寄りに変質してしまったという可能性。

これは、憶測に憶測を重ねた、想像の域を出ない話。普通なら、あり得ない事。だけど私と影君がいたのは非常識極まりない空間で、私はシェアエナジーの配給が完全に断ち切られた状況で、尚且つ大怪我を…間違いなく普段よりもシェアエナジーを必要としていた状態になっていた。だとしたら……あの場で唯一シェアを発生させる事の出来る、シェアエナジーの供給源たりうる影君からシェアを得られるよう、向けられている『妹に似ている』という思いに沿って、私の女神としての性質が、在り方が明ちゃんに近付いてしまったという可能性も……ゼロとは、言い切れない。

もしもそうなら…ほんの僅かだとしても私は『変わってしまっている』んだろうし、もっと長い時間あそこにいた場合…身体的にも、精神的にも凍月明(影君の妹) へと近付き、いつかは今の影君が思う通りの存在になってしまっていたのかもしれない。…私は勿論、影君だって私がそうなる事なんて、きっと望んでなんかいないのに。

 

「…って、や、やだなぁ私ったら…可能性の話で言えばゼロではないってだけなのに、これじゃとんでもない事になっちゃったみたいじゃん…というかそもそも、微細な変質なら普段から起きてる事だし……」

 

自分が予想以上に思考の海へと沈んでいた事に気付いて、その考えを振り払うと同時に苦笑する私。ひょっとしたら、本当にもしかしたらそうなのかもしれないけど……それを言い出したら、実は影君は別次元じゃなくて今の文明が築かれる以前の、所謂旧文明の信次元から飛ばされてきた人で、私の前世が明ちゃんだった…みたいなぶっ飛んだ事も言えてしまう。それに一個人の思いで変質するなら異常だけど、不特定多数の信仰者さんの思いで変質するなら、それは信次元の女神としてある種『当然の事』なんだから、そういう意味じゃそこまで重く捉える事でもない。…少なくとも私は、ネプギアが一切疑問を抱かない程度には、今もこれまでの私のままなんだから。

 

(…私は、変わっていない。あの空間に飛ばされる前の私と、影君に出会う前の私と、私の在り方はほぼ変わっていない。……影君と、同じように)

 

それからまた、私は思い出す。影君の言葉と、暗い決意と、変えられないと言った生き方を。影君の、在り方を。

 

「…確かに、そうなのかもしれないね。あの時は、何も間違っていないって言ったけど……それは、影君が影君自身を見るならって事。…私は女神として、貴方の在り方を肯定はしないよ。絶対に討つ事はないけど、もし信次元で同じような事をするのなら……女神として、私は貴方を裁く。悪を討つ為の悪なんて、世界を浄化する為の悪魔なんて……私の創る世界には、必要ない」

 

私は断定する。私は仕方ないとか、そうしなければならなかったんだろうとか、そんな言葉で影君の在り方を許容はしない。人の可能性を否定して、排除して平和を作ろうとするなんてやり方を……許さない。…だけど……

 

「…でもね、影君…私は人としての貴方を、否定しないよ。悪魔は断じて許さないけど……貴方もまた、人だから。私の、友達だから」

 

影君の、悪魔としての在り様を認めたりはしない。それを認めてしまえば、悪魔は必要だったって事に、影君はそうならなくてはいけない存在だったって事になってしまうから。悪魔を滅する事はしても、影君を討つ事はしない。私は影君の未来を、諦めてなんかいないから。

 

(……気付いて、ないんだろうなぁ…)

 

それから私は、無意識に右手を頭に当てていた。別れの間際、私は頭を撫でられた。私を妹と重ね合わせ…多分その上で、きちんと私を私だと認識した、影君の右手に。

それは、何人も何人も殺した手。もし積み上げてきた屍の山を実際に見たのなら、人の守護者たる女神として、嫌悪感を抱いてしまうかもしれない、血濡れた手。…だけど、それでも……その手は、温かかった。

その時、私には伝わってきた。今にも消えてしまいそうな、凍えそうな…でも確かにそこにある、温かな火が。心の光が。茜の……私の守りたい、影君の優しさが。

 

「…それがある限り、影君は本物の悪魔になんてならないよ。ならないし……させはしない。その光を、失わせたりするもんか」

 

俺にはこの生き方しか出来ないと、俺に未来なんてと、影君は言っていた。その言葉には、本心からそう思っているんだって響きがあった。だから、お節介かもしれない。いい迷惑かもしれない。影君自身がそれで良いと思っているものを、どうこうしようなんて……傲慢以外の、何物でもない。

けど、そんなの知った事か。お節介?いい迷惑?傲慢?…だから何だというんだ。その程度の事で止まる程、私の思いは柔じゃない。茜の言う通り、影君が氷の壁を作っているというのなら、私がこの手で突き崩す。影君が拒絶するのなら、私が強引に引っ張り上げる。ちょっとやそっとの抵抗なんて気にしない。あの時みたいに刺されて、それを弾丸で押し込まれて…そっからが、本番みたいなものなんだから。

 

「……って、これじゃほんとに許嫁だの次元間恋愛だのが冗談じゃないみたいになっちゃうかなぁ、はは」

 

我ながら、これは茜に張り合うレベルの事を考えているような気がする。だけどそれ位に、私は影君を救いたいと思っている。影君以上に、影君の未来を諦めたくないと思っている。変えられなかったからこそ、助けたいと思っても出来なかったからこそ、一層私の意思は固まった。

そう、救われてほしいじゃない。救いたいんだ、救うんだ。それが私の、オリジンハートの……

 

(…いや、でもそれは真っ先に私がする事ではないかな。影君には茜がいるんだもん。影君の次元にも女神の皆が、影君を大切に思ってくれている人がいる筈だもん。その人達を差し置いて、私が一人で救おうとするのは……違うよね)

 

私は救いたい人の為なら幾らでも傲慢に、それを傲慢じゃなく『正しい事』として貫くつもりだけど、同じく救いたいと思っている人の気持ちは蔑ろにしたくないし、その人達は私より長く救いたいと思っている筈。そしてその人達なら、影君の次元の皆なら、きっと影君の未来を守れると信じている。

 

「…でも、私の力が必要なら、私に出来る事があるのなら…その時は、いつでも呼んでね。絶対助けに行くから。絶対力になるから。…だって、影君ももう……大切な人と、大切な人が守りたいものを守る、私の信念の…私の世界の中の一人なんだからね」

 

ここに影君はいないし、この声が届いている訳もない。でも、私は影君に向けて言った。伝えた。宣言した。

影君は変わらないと言った。私も意思を変えるつもりはない。だから……これは、これからは根比べだよ。負けないからね、影君。

 

「……それにしても、影君ってば撫でるの上手だったなぁ…頬の時もそうだったけど、血濡れた手とか心の光とか関係なしに、シンプルに撫でるの上手だったからつい気持ち良くて……って、わぁぁ!?こ、この考え方は不味い!ほんとに茜に睨まれそうだし、何なら私の明ちゃん化が疑わしくなるよ!?」

 

…さっきの地の文で終わらせれば良かったのに、余計な事を考えちゃったもんだから、途端にわたわたとしてしまった。い、一緒にいる時は何度も翻弄されたけど、まさか一緒にいなくても翻弄されるなんて…!恐ろしい、恐ろしいよ影君!君まさか、悪魔じゃなくてロキ的な神の血を引いてたりするんじゃないの!?

 

「うぅぅ…ほんと影君に比べれば、如何にカイト君やワイトさんが紳士的でデリカシーのある人物かが分かる……」

「ごめんなさいイリゼさん、わたし用事があって来たの忘れてました!」

「うわぁ!?きゅ、急に来ないでよネプギアぁ!」

「はい!?あ、ご、ごめんなさい!」

 

突如戻ってきたネプギアと、テンパってるところへの襲来で更にテンパってしまう私。た、タイミング悪いぃぃ……!

 

「も、もう……けど、そっか…そういえば、確かにネプギアの用事を聞いてなかったね。どうしたの?」

「えっとですね、お姉ちゃんが呼んでたんです。どうしても言わなきゃいけない事があるからって」

「どうしても言わなきゃいけない事?…よく分からないけど、ならまぁ行こうか…」

「いいや、その必要はないよ!だってもう来てるからね!」

 

ばばーん!…という効果音でも出そうな感じで扉が開き、ぴょこんとネプテューヌが入ってきた私の部屋。…朝から元気だなぁ……って、もうそこそこな時間だった…。

 

「あ、う、うん…えぇと、言わなきゃいけない事って?」

「それはねぇ…えっと、こっちかな?」

「こっち?お姉ちゃん、一体どこを見て……」

「すぅ…はぁ……」

 

 

 

 

 

 

「──これにてORは一旦お終い!次回からは、例の最新作が、はっじまっるよーっ!」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

「えぇぇぇぇええええええッ!!?い、今、今言う!?そんな超弩級のメタ発言を、コラボを受けてのエピローグのラストに言うぅううううぅぅぅぅッ!?」

 

……影君との思い出話は、様々な思いを抱いたこの時間は……OIでもあった、唖然としか言いようのない形で終わりを迎えるのだった。

…じゃ、嫌だよ流石に!?嫌だし思いっ切りどうかと思うよ!?あーもうっ、ほんとにタイミングが悪いよねっ!

 

(…はぁ……でもさ、影君。こんな世界だって、あるんだよ。こんな無茶苦茶で、ぶっ飛んでて、でも楽しい世界がさ。…私は、こんな世界で影君が笑えるよう……本気で、力の限りを尽くすつもりなんだからね)

 

──これが、影君との出会いと別れの後にあった事。私と影君との、最初の思い出。ちらりと見た空は、今日の空はいつもより雲が多くて……けれどその間から射す光は、どこか優しく…暖かかった。




今回のパロディ解説

・某魔法少女
魔法少女まどか☆マギカの主人公、鹿目まどかの事。色んな因果が絡み付いているのではなく、単に私が何度もコラボをしてるだけ……というのは言いっこなしですね。

・棚橋さん
新日本プロレス所属のレスラー、棚橋弘至さんの事。まぁ、所謂トラブルの話ですね。流石に棚橋さんは自ら刺されたり、そこから戦闘したりはしてませんが…。
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