超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第四話 教祖の休暇

「ライヌちゃーん、おいで〜!」

「ぬら〜♪」

 

プラネタワーは、プラネテューヌの中核である教会の後継として建てられた施設。だから政治を行う場所及び女神や教祖の住居としての機能が最優先で設置されたものの、何事にもアクティブなネプテューヌの意向と浪漫に走りがちらしいプラネテューヌ国民の気質が重なった結果、プラネタワーは妙に色んな部屋のある施設となってしまった。…例えば、現在ライヌちゃんが走り回っているこのトレーニングルームとか。

 

「よーしよしよし。ずっと私の部屋の中にいるんじゃ運動不足になっちゃうもんね。出来るだけこことか他に動ける場所とかに連れてきてあげるから、ちゃんと運動するんだよ?」

「ぬらっ!」

「ふふっ、良い返事だね。そんな良い子のライヌちゃんには、ご褒美をあげようかな♪」

「ぬら、ぬらら〜♪」

 

部屋の端から端まで移動した私の後を追って、ぴょこぴょこと走って(跳んで)くるライヌちゃん。何度か離れては呼んで、側まで来たらまた離れて…という反復運動を繰り返した後、私は嫌そうな顔一つせずに言う事を聞いてくれたライヌちゃんの頭を撫でる。するとその時の返事がまたはきはきとしていて……気付けば私は運動後にあげるつもりだったお菓子をあげてしまっていた。…しまった…運動させ始めたのも、イストワールさんから「お菓子あげ過ぎではありませんか?モンスターも生物ですし、食べ過ぎや運動不足は身体に良くないと思いますよ?(・ω・`)」…って言われたからなのに……。

 

「…ごめんね、ライヌちゃん…私が駄目なばっかりに健康上の不安を持たせちゃって……」

「……ぬ、ぬら…?」

「…いや、こういう事言うのも教育上は宜しくなかったよね…何でもないよ、ライヌちゃん。私も一緒に運動するから、ライヌちゃんももうちょっと頑張ろうね」

「ぬらぬらぁー!」

 

自分の非は反省するべきだけど、教育する側が情けない姿や自分を卑下する姿を見せるなんてするべきじゃない。教育を学ぶ中で知ったその事を私は思い出し、落ち込む代わりに動き出す。

そうしてライヌちゃんと運動する事数十分。流石に疲れてきたのかライヌちゃんの元気が陰り始めたところで、私は休憩を入れる事にした。

 

「ぬらぁ……」

「ほら、飲んでライヌちゃん。汗…はかいてないように見えるけど、喉乾いたでしょ?」

「ぬらっ。…ぬふ〜……」

 

ストロー付きボトルをライヌちゃんの口元に持っていくと、ライヌちゃんはストローを咥えてちゅーちゅーと中の飲み物を飲み始める。それを見ながら私も別のボトルで水分を補給しつつ、今日は後どの位やったものかと一人思案していると……

 

「あっ、いたいた。おーいイリゼー」

 

貸し切り状態だったトレーニングルームに、ネプテューヌがやってきた。ネプテューヌは私を探していたみたいで、手を振りながら私達の方へ走ってくる。

 

「どうしたのネプテューヌ。ゲームの相手探してたの?」

「ううん、そうじゃなくて……あ、ライヌちゃんもいたんだ。やっほーライヌちやん」

「ぬ、ぬら……」

 

にこやかにライヌちゃんへと声をかけるネプテューヌに対し、ライヌちゃんは気付くとすぐに私の背後へ隠れてしまう。…見たところ、本気で怯えてるって感じじゃないけど……。

 

「あはは…やっぱりまだ警戒されちゃってるね…」

「ライヌちゃんは怖がりだからね…でも震えてはいないし、最初の頃より大分良くなってるとは思うよ?」

「流石に最初と変わらなかったらわたしもショックだよ…あ、お菓子あげてもいい?やっぱ仲良くなるには胃袋を掴むのが一番だし」

「それは恋愛の話だし百歩譲って恋愛の話だったとしても、ネプテューヌの手作りじゃないきゃ意味ないでしょ…まぁ、あげるのはいいけど」

 

狙っているのか素なのか、相変わらずズレてるネプテューヌの発言に呆れつつも私が残りのお菓子の内数個を渡すと、早速ネプテューヌは手の平にお菓子を乗せてライヌちゃんの近くへ。お食べ、と言いながらネプテューヌがしゃがむと、ライヌちゃんはお菓子、ネプテューヌ、そして私を順番に見つめていって……それから恐る恐る、手の平の上のお菓子を口にした。

 

「おー食べてくれた。…食べ物の力って偉大だよねぇ、イリゼ」

「いや、まぁ……ほらライヌちゃん。お菓子貰ったんだから、ネプテューヌに言う事あるよね?」

「…ぬら…ぬ…ぬらら〜…」

「うん、どう致しまして。…ありがとう、って言ってくれたんだよね?」

「きっと、ね。ちゃんと言えて偉いよ〜、ライヌちゃん」

 

食べるや否や、ライヌちゃんはまたわたしの背後に戻ってしまう。でも私が声をかけると、ライヌちゃんは一瞬迷った後再びネプテューヌの前へと出て……ぺこん、と一頭身なのに何故か出来る例の頭下げを行った。そんなライヌちゃんを私は膝に乗せ、ぽむんぽむんと手を置くようにして頭を撫でる。

 

「ライヌちゃんは嫌ってる訳じゃないし、これからも構ってあげてね」

「もっちろん。はぁ、ちょっとだけど癒されたしわたしはもう行こっかな。イリゼもわたしがキュートで素敵な女神だって、ライヌちゃんに伝えておいてね」

「はいはい、ぶっ飛んでるし不真面目だけど素敵な面もある女神だって教えておくよ」

 

去り際にさりげなく自画自賛を入れてきたネプテューヌを、私はさりげなく訂正しながらまた後でねと見送る。なんか『さり』の多い文になっちゃったなぁ…というのはさておき、良くも悪くも裏表のないネプテューヌだったらきっとライヌちゃんとも仲良くなれる筈。そう信じて私は、ライヌちゃんとの運動を再開……

 

「……って、ネプテューヌ用事は!?何か用事があるから来たんじゃなかったの!?」

「あぁっ!わ、忘れてたぁっ!」

 

完全に忘れてました!…って顔で戻ってくるネプテューヌ。…私も忘れかけてたけど…ネプテューヌが忘れちゃ駄目でしょ……。

 

「あっぶな…すっかりぽっくり忘れてたよ……」

「ふらっときてライヌちゃんにお菓子あげて帰るって、それじゃ単なる散歩だよ……で、用事はなんなの?」

「いーすんの事だよ。朝会ってからいーすんを見かけてないんだけど知らない?」

「…え、ネプテューヌ聞いてないの?」

 

苦笑いを浮かべながらネプテューヌが口にしたのは、イストワールさんを知らないかという質問。けれど、私はその質問に対して疑問を抱く。だって、私はネプテューヌもイストワールさんの事は聞いていると思っていたから。

 

「うーん、聞いていないか……或いは聞いたけど忘れちゃったかのどっちかだろうね!」

「何を堂々と……イストワールさんなら一泊二日で出掛けたよ。他の教祖さん達と現地集合で、温泉旅館にね」

「そうなの?……って、あ…そっか。いーすん達も別の日に行くって決めてたもんね」

 

温泉旅館でピンときたのか、ネプテューヌは平手を握った右手でぽんと叩く。

少し前に、私達は平和を取り戻せたお祝いとして旅館へ行った。けれど教祖の四人はどうしても全員参加をする事が出来ず、だから行ける人だけで…って話になりかけていたんだけど、それは仲間意識の強い私達としてはイマイチ納得出来ない形。直接戦う事こそ少なくても、教祖の四人だって私達や信次元の為に死力を尽くしてくれたんだから、予定の合わない人は何も無し…なんて、そんなの仕方ないねで片付けたくないのが私達としての意見。で、じゃあどうするかという話になり……折衷案として、教祖さん達は別日程…即ち今日に、四人揃って旅館へ行くという事になっていた。

 

「いーすん達が四人で温泉かぁ。うーん……ど、どんな感じになってるか想像出来ないね…」

「そ、それは確かに……」

 

ものの数分も経たずにネプテューヌは再び苦笑い。今度は私も一緒に苦笑い。ライヌちゃん…は分かってないみたいでぽけーっとしてるけど、とにかく教祖の四人と温泉旅館……というか、あの四人が一緒に休暇を過ごしてる風景自体が考えてみても浮かんでこない。…教祖っていう同じ立場を持つ人としての関わりはあっても、友達って訳じゃなさそうなんだよね、教祖の四人は…。…いや、仲は良いと思うよ?ただ友達としての付き合いはしてなさそう、ってだけで。

 

「…で、でもまぁ羽は伸ばしてくるよねきっと!皆頭脳労働ばっかりで疲れてるだろうし、温泉でほんわかと……ほんわか、と…」

「…………」

「……してるかなぁ…?」

「は、はは…ミナさんはしてるんじゃない…?チカさんはベールと行けなかった事を残念がってたり、ケイさんは旅館でもビジネスの事考えてたり、イストワールさんに至っては例の如く普通には温泉に浸からなかったりしてそうだけど……」

「…………」

「…………」

「……ほんとに、想像出来ないね…」

「だね……」

 

ただ想像しようとしてるだけなのに、苦笑いが止まらない私達二人。…休暇の最中の風景想像するだけで、こんなよく分からない空気になるなんてびっくりだよ……。

 

 

 

 

旅行というものは、費用対効果を考えれば決して優れた娯楽ではない。娯楽に合理性や優劣を付ける事自体がナンセンスといえばそれまでなものの、あらゆる情報を得られるわたしとしてはどうしてもその点が頭をちらついてしまう。

けれど、わたしは旅行を軽んじてはいない。確かに費用対効果では優秀ではなくとも、旅行で得られるのは物理的なものだけじゃない。どんなに料理や土産を再現しようと、それ以上のものが用意出来ようと、行かなければ得られないものがある。風景を見て、雰囲気を感じて、その時得られる感情は、記録の中では手に出来ないもの。そしてそれを効果に含めれば、旅行はきっと割りに合わない娯楽ではないのだろうと…わたしは思う。

 

「ふぅ……ご馳走様でしたε-(´∀`)」

 

持参の箸を置き、手を合わせ、食事を終えた事を示す挨拶を口に。わたしがいるのは旅館の一室。大変景色が良く、四人で泊まるには(実質的にはほぼ三人ですが)十分な広さがある部屋の、机の上に座している。

 

「…少食なんてレベルじゃないわね、今更だけど」

「これでも満腹まで食べてるんですよ?

(´・ω・`)」

「これで満腹なら、コストパフォーマンスは抜群だね。身体のサイズから考えれば、それ相応だろうけど」

「このサイズは不便な点も多いんですよ?身の回りの物は全てオーダーメイドにしなければいけませんし、子供ですら片手で持てるような物でもわたしにとっては大概困難な物となりますし、食事だって自分一人で注文なんて出来ません。何せ一割も食べない内に限界となってしまうのですから(~_~;)」

「…な、何かあれば言って下さいね?物を持つ程度ならわたしでも出来ますから…」

 

わたしが食べ終わると、食べる姿を見ていたお三方…ケイさん、チカさん、ミナさんがそれぞれ声をかけてくる。食べる姿をまじまじと見られるのは恥ずかしいものの……流石にもう慣れましたね…わたしの食事姿は誰からしても『特殊』に映る訳ですし…。

 

「ところでイストワール、その浴衣もオーダーメイドなのかい?」

「そうですよ。わたしだけ浴衣無しというのは虚しいので、作ってもらった浴衣を持ってきました( ̄∇ ̄)」

「食器も依頼もオーダーメイド……ねぇ、まさかそれ等を作ってる業者って…」

「…言わないで下さい、わたしだって元からわたしサイズの人を相手にしている業者があったらそっちに頼んでいますから……(¬_¬)」

「あ、そ、そうね……」

 

入浴で身も心も癒した後の、和気藹々とした夕食の時間。……の筈が、何とも微妙な空気になってしまった。い、いけませんねこれでは…。

 

「そ、それより本当に良い温泉でしたね。どうりでネプテューヌさん達が口々に良かったと言う筈です( ̄▽ ̄;)」

「同感です。ここの温泉は正しく名湯、ルウィーの人間としては少々悔しいものもありますが…」

「まぁ、確かに温泉は数も質もルウィーが頭一つ抜けてるものね。アタクシとしては、雪国の温泉ってだけで少し不安になるけど…」

「大丈夫ですよチカさん。ルウィーの温泉は効能も優秀ですから」

 

些か強引な切り替え方であったものの、わたしは話を変える事に成功。やや視点が『旅行に来た女性四人』としてはズレているような気がしないでもないものの…そこはやはり国を預かる教祖。ついついこのような話になるのも致し方ない。

 

「…しかし、まさか君達と旅館に来る日が来るとはね。世の中何があるか分からないものだ」

「わたしはケイさんが来てくれた事に驚きですね」

「アタクシもよ。ケイってこういうの好きじゃなさそうだし」

「別に嫌いじゃないさ。こういう機会でもなければ、旅行なんてしないけどね」

「わたし達は女神の皆さん程自由に動けませんし、それは皆同じだと思いますよ。…だからこそ、今日位は仕事を忘れてゆっくりしたいものです(´ω`)」

『(そうね・ですね)』

 

闇夜で暗く、それ故にどこか幻想的にも見える風景を見つめながらわたしがそう言うと、チカさんもミナさんも同意をしてくれる。返答の言葉こそないものの、ケイさんもこうして来てくれたのだから思いはきっと同じな筈。教祖であろうと、生まれながらに教祖となるべく育てられていようと、三人は人であり……わたしもまた、人並みの喜怒哀楽を持つのだから。

それからも他愛のない会話を交わすわたし達。途中からはアルコールも入り、気付けばまるで慰安旅行。

 

「うぅ、チカさぁん…わたし歯痒いんです…まだまだ小さなロム様ラム様が世界の命運を背負うというのに、魔法の師たる自分がいつも安全な場所にいる事が……」

「分かる、分かるわミナ…アタクシだって出来るならば、お姉様の隣で戦いたいもの……でも、教祖の職務だってお母様やお姉様に託された務め…それを投げ出すなんて、アタクシには出来ないわ…」

「…ジレンマ過ぎます…ジレンマ過ぎますよぉ……」

「……随分酔っているね、二人は…」

「そ、そうですね…( ̄▽ ̄;)」

 

若干熱っぽい声音で本音をぶちまけているチカさんとミナさん。わたしとケイさんは内心で共感しながらも苦笑い気味にそれを見つめる。やはりというか何というか、アルコール飲料の進み具合は前者二人の方が早かった。

 

「…酔い潰れるって、どんな感覚なんでしょう……(´ー`)」

「…その口調だと、経験はないみたいだね」

「それはまぁ…わたしが酔い潰れようものなら、うっかり潰されたりコップの中に落っこちて溺死したりしかねませんから……(−_−;)」

「……本当に苦労するね、君は…」

 

本日二度目の『小さい人あるある』を何気なく言った結果、ケイさんから同情的な声をかけられてしまった。だからそういう話がしたいのではない…と、数十分前までのわたしなら言っていたであろうものの……今のわたしは、二人程ではないもののアルコールが回り始めている。

 

「…でも、こんなのまだまだ軽いものですよ…一番辛いのは、人としての温もりを感じさせてあげられない事です……もう少し、せめてブロッコリーさん位あればあの時もっとイリゼさんを安心させてあげられたのに…(ノ_<)」

「あ、あの時……?」

「…しかし、今のこの身体となったのもきっと意味のある事……大切なのは、大きさじゃあないんですよ…( ̄^ ̄)」

「そ、そうだろうね…僕も同意だよ、うん…(イストワール…君は何を……)」

 

思い出すのは、イリゼさんと出掛けたあの日の事。あの日イリゼさんは抱えていたものを吐き出し、心を前へ進める事が出来た。けれど、それでもあの日の事が思い浮かんでしまうという事は、自分自身で考えていた以上に心残りだったのですね…ふふ……。…って、わたしは何故自分の事をこんな客観的に言ってるのでしょうか…。

 

「…大きさ…大きさねぇ……」

「……?どうしました、チカさん…(・・?)」

「…ケイ、貴女…意外とあったわね、胸」

「……!?」

 

数秒間思考に耽り、酔いで思考に若干の変調が起こり始めているのだとわたしが気付いたところで、ミナさんと話し込んでいたチカさんがぐるりと視線をこちらへ向ける。…いや、正しくはこちらではなく…ケイさんの胸元に向かっていた。

 

「きゅ、急に話に入ってきたと思えば…何を言い出すんだ君は……」

「何って、女が胸の事気にするのは変じゃないでしょう?…まぁ、断然アタクシの方が大きいんだけど」

「なら別に気にしなくていいだろう…」

「気にしたっていいでしょ。多少とはいえある胸をサラシで締めてるし、服装も言動も女性らしさを廃してるし……え、もしかして『おとこのなかのおとこ』でも目指してるの?」

「な、な訳あるかっ!ぼ、僕を何だと思っているんだい君は!?」

 

目を丸くして訊くチカさんの言葉に、珍しく顔を赤くして憤慨するケイさん。…大分酔ってますね、チカさん貴女……。

 

「ケイさん…」

「ま、全く…君からも何か言ってくれないかミナ。冗談だとしても少しは場を弁えて……」

「…わたしも、気になります」

「君はいつから西沢から千反田になったんだ…!くっ、イストワール……」

「えぇ、と…今は休暇中な上夜で部屋にいるのもわたし達だけですし、十分場は弁えているのでは…?(´-ω-`)」

「何故そんな微妙なところを!?…くぅ、こんなところで孤立無援になるとは……!」

 

どんどん話を掘り下げようとするチカさんと、眼鏡の奥の瞳が若干とろんとしているミナさんに迫られたケイさんはわたしを頼ってくるものの…わたしはぽけーっとしていたせいで適切な返答をする事が出来ず、結果強めの突っ込みを受けてしまう。

 

「す、すみませんケイさん…ですが真面目な話、わたしにどうしろと…?(; ̄ェ ̄)」

「それは……ど、どうしたらいいイストワール…」

「いやそれをわたしが訊いているのですが……(ー ー;)」

「ふふ、警戒する必要なんてないわよケイ。アタクシはちょっと話したいだけなんだから…」

「そう言いつつも目が怖……ミナ!?どうして君は何か企んでいるばりに眼鏡が光を反射しているんだ!?そ、そこまで気になると!?」

「…気になりますし…何となく感じたのです…アルコールの力を借りれば、わたしも没個性ではなくなるのではないかと……」

「なら僕は関係ないじゃないかッ!……はっ、しまった…いつの間にか部屋の角に…!」

「さぁ、ケイ……」

「ケイさん……」

 

じわりじわりと詰め寄る二人。追い詰められて顔が青くなっているケイさん。そして自分も周りも酔っている状態で下手な事をするとほんとに潰れかねないと動くに動けないこのわたし。非常に何とも言えない奇妙な空間が出来上がってしまった中、完全にピンチなケイさんは浴衣の胸元を交差させた腕で掴んで……言った。

 

「う、うぅぅ……僕にだってプライベートな部分があるんだから、どんな格好していたっていいじゃないかぁ…!」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

『……今のちょっと、可愛い(わ・です)ね』

「……っ!?も、もう知った事か!君達とは付き合っていられないね…っ!」

 

半ば拗ねたようにケイさんは二人の間をすり抜け、コップの中身を一気に呷る。当然それもアルコールなものの、どうやらヤケ酒に近い気分になっているらしく、全く躊躇う様子がない。

そんなケイさんの変化をどう思ったのか、チカさんミナさんによる追求は終了。二人も席に戻るや否やコップを持ち、気分良さげな笑みを見せる。

 

「ふふっ、まあそう言わないで下さいケイさん。飲みの相手ならわたし達がしますよ?」

「今日位羽目を外したっていいじゃない。…って訳でイストワール、貴女もまだいいでしょ?」

「わたしですか?……まぁ、そうですね…こんな時位しかゆっくり飲む事なんてないですし…わたしももう少し飲むとしましょうか(*´ω`*)」

 

その笑みのまま勧められたわたしは一瞬迷い…それから、わたしも三人と同じようにコップを手に取る。飲み過ぎればそれ相応に危険があるものの…折角の機会を楽しみたいという思いがあるのも事実。だからわたしはわたし自身を、三人を信じてもう少し一緒に飲む事にした。それに…わたしも女神の皆さん同様、普通の身体じゃないですからね。

冗談なんて碌に出ない普段の様子とはかけ離れた、何とも大人気ない今日のわたし達。アルコールが入っているとはいえ、酔いが覚めれば恥ずかしくなるやもしれないわたし達四人。…けれど、偶になら…滅多にない旅館での休暇の間位は、こんなわたし達でもいいんじゃないか。……その時、三人の顔を見だったわたしは素直にそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

──とまぁ夜の間は楽しめた訳ですが、普段飲む機会が殆どなかった事もあってか、翌日わたし達は全員軽く二日酔いとなってしまうのでした。…お恥ずかしい……。




今回のパロディ解説

・おとこのなかのおとこ
僕は友達が少ないのヒロインの一人、楠幸村の台詞の一つの事。実際のところ、ケイの中性的な服装や言動は、どういう意図があるんでしょうね。

・「…わたしも、気になります」
古典部シリーズのヒロイン、千反田えるの代名詞的な台詞の一つのパロディ。教祖四人は酔ったらこんな感じになるんじゃないかなぁ…と思って今回は書いてみました。

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