超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第七話 夏の祭典、豹変仰天

夏の祭典を楽しむ為、周囲に配慮しコスプレで会場へと踏み入れた私とノワール。外での撮影会に目一杯胸を躍らせた後歩いていると、期せずしてBLコーナーへと入ってしまう。けれどそこで聞こえた声が気になり見回していると……そこにいたのはなんと、男装したネプテューヌだった。

 

「え、何ですのその『前回までのあらすじ』的な地の文は」

「えっと……何となく?」

 

ふと思い付いてやってみた事へ、早速突っ込みを入れられる私。突っ込みを入れてきたのはベール。…ううん、この表現はちょっと間違ってるね。突っ込みを入れてきたのは……『男装をしている』ベール。

 

「はぁ…それより驚きましたわ。まさかお二人が来ているとは…」

「それはこっちだって同じ事よ。まさかベールが嗜むだけじゃなくBL同人誌を売ってるとはね……しかも物凄い面子で…」

 

衝撃の出会いを果たした私達は、その後ベールやベールが率いるサークルとも遭遇。元々小説を書くのが趣味のブランだけじゃなく、ベールまでもが創作活動を行いそれを即売会で売っていたというのも、勿論私とノワールは驚いた。けど…売ってた事よりも売ってる面子の方がびっくり過ぎて、正直前者が霞んでいる。だって、その大半は……私達にとっての知人だったんだから。

 

「…ベール自身に加えてネプテューヌ、兄弟の二人、イヴォワールさんって…面子のインパクトが強過ぎるよね……」

「うちは無名なのですから、インパクトは大切なのですわ。それに、イヴォワールはともかく兄弟の二人もかなり女性の扱いが慣れていますし、我ながらかなりいい人選をしましたわ」

『そ、そう…(イヴォワール(さん)はともかくな(んだ・のね)……)』

 

なんと言ったらいいか分からない私達二人は、揃って複雑な表情に。で、ちょっと視線を横に向けてみると……

 

「お嬢さん、一冊如何かな?ここに来たって事は、少なくとも興味があるんだろう?」

「え、と…それは、その……」

「はは、恥じる事はないさ。それに、自らの心を偽ってしまっては、お嬢さんの折角の美貌も曇ってしまう。だから…買ってくれるかい?初々しくも美しい、お嬢さん」

「はぅ……!」

 

客引きの一角、兄さんは格式高そうな衣装と甘い言葉で女の子を落とし、

 

「見に来てくれてありがとう、可愛らしいお嬢さん。それでどうだい?君達の琴線に触れる作品だったかな?」

「え、えぇまぁ。それと、別にお世辞なんていりませんよ?可愛いらしいなんていわれても、別にワタシは……」

「あぁ、やっぱりバレちゃうんだね。そう、確かに今のはお世辞だよ。…本当に可愛い君と、お近付きになりたくて言ってしまったんだ。……許して、くれるかい?」

「あぅ……!」

 

弟さんは同じく格式高そうな衣装と女心をくすぐる言葉で女の子の心を掴み、

 

「皆様、どうやら少々水分が足りていないご様子。こちらをお飲み下さいませ」

「え…な、なんで分かったんですか?」

「御足労頂いたお嬢様方に尽くす事が執事の務め。お嬢様方が良い一日を過ごせる事こそ、私の喜びなのです」

『し、執事さん……!』

 

燕尾服に身を包んだイヴォワールさんは、頼れるおじ様の如き魅力で視線を奪い、

 

「…ぐすっ…見られた…友達にこんな恥ずかしい格好見られた……」

「だ、大丈夫?ハンカチ貸そうか?」

「ほ、ほら私買ったよ?この子も買うから元気出して?」

「うぅ、皆ありがとぉ…ぐすん……」

 

さっきからずっと体育座りでしょげてるネプテューヌ(男装)は、思い切り女の子達の母性をくすぐっていた。……いや、ほんと…なにこれ…。

 

「もうこれ、そういうお店みたいになってるじゃない……」

「うふふ、何の事かしら。……っと、ツーショットを撮りたいのかい?あぁ、勿論構わないさ」

 

半眼で呟くノワールへの反応もそこそこに、同人誌を買ったお客さんに呼ばれてベールはそちらに。貴族の私服っぽい衣装のネプテューヌとは違い、胸当てやら手甲やら鎧要素のある衣装(多分ボディラインを隠す為だろうね。…ベールの胸はサラシなんかじゃ隠しきれないだろうし)を纏ったベールは男口調で要望に応え、爽やかスマイルでお客さんと一緒に写真を撮っていた。……だからほんと…なにこれ…。

 

「…女神の名前は出してないみたいだし、実際バレてないみたいだけど…これは女神のやる事なのかな……」

「…多様性って、恐ろしいわね……」

 

呆れている…訳じゃないけど、とにかく私達はずーっと何と言ったらいいのかよく分からない心境だった。……考えてみれば私達もさっきまで超アグレッシブな撮影会をやってた訳だけど…あれはまぁほら、皆の期待に応えてただけだし?

 

「ふふ、他の子に宣伝してくれても構わないよ?……ふぅ、待たせましたわね」

「いや、待ってないから大丈夫よ…私達もう移動する気だし…」

「あら、もうですの?」

「うん…なんか、この雰囲気に着いて行けそうにないからね……後、今のネプテューヌはいたたまれな過ぎて見てられないよ…」

 

もう一度視線を横に向けると、やっぱりネプテューヌは傷心モード。普段なら私は素直に、ノワールは素直じゃない感じに「ちょっと、私が何ですって?」うわぁ!?ちょっ、地の文にまで入ってこないでよ!?ぜ、前代未聞だよ!?ネプテューヌですらこれまでやってなかった事をノワールがやる!?

……こほん。とにかく普段なら慰める私達だけど、流石に今回は状況がぶっ飛び過ぎてて声のかけようがないっていうか、落ち込みの原因的に私達が慰めるのは逆効果の可能性が高いっていうか……要は私達の手には負えないレベルです、はい…。

 

「ふぅ、む……」

「…何よ、ベール」

「…お二人共、もし時間があるのなら少し待って下さらないかしら?」

『……?』

 

そう言って私達から離れる男装騎士ベール。整った顔立ちに纏められた金髪、男装に鎧と某騎士王さんっぽくなってるベールが向かったのはネプテューヌの側で、何やら話している様子。不思議に思って私達が見ていると、ネプテューヌの表情は青くなったりはっとしたりところころ変化。……これ、絶対雑談とかじゃないよね…。

 

「…なんか、嫌な予感がするんだけど…」

「奇遇だね、私もだよ……」

 

こういう展開でベールがネプテューヌにだなんて…いや、ベールじゃなくてもどう見たってこれは何かやろうとしてるパターン。涙目の小柄な男の子(男装)に凛々しい男騎士(男装)が微笑んで話しかける、という場面に黄色い声援が聞こえてきてるけど、多分それを狙っての行動って訳じゃないと思う。…いや、ベールなら副次的に狙ってる可能性あるけど。

そんな事を思いつつも、何する気か分からないまま立ち去る事への不安もあって私達が見つめる事数分。次第にネプテューヌの顔は緊張混じりの表情に固まっていって……ゆらり、ネプテューヌは立ち上がった。

 

「あ、立った」

「そのまま歩いて……え、こっち来るの?」

 

何か変わったネプテューヌの様子に私とノワールが続けて呟く中、どんどんネプテューヌは私達の方へ。そして目を瞬かせる私達の目の前まで来たネプテューヌは……言った。

 

「……こ…こんな所に迷い込むなんて、どうしたのかな…こ、子猫ちゃんに…子兎、ちゃん…」

『……へっ…?』

 

 

 

 

会場に着いて、着替えて、最終確認をして、後は開場を待つだけ。…ここまで来たら、もうやるしかない…そんな心境だったわたしへ、ベールはある物を渡してきた。

 

「え、これって…」

「これはもうわたくしに必要ないもの。好きにして下さいな」

 

その言葉と共に渡されたのは、わたしの何でもします宣言が入ったSDカード。…これを渡すって事はつまり、わたしへの縛りを手放すって事。今となっては半分位「約束は果たさなきゃ」って思いでいるから、この縛りの効果は薄まっているけど…それでも持っている事に意味がある筈。なのに、渡すなんて……

 

「…ベールってさ、何気に気を許した相手への信用が物凄いよね」

「それはどうかしら。信用を思わせる行動を見せて、その信用で都合良く動かそうとしているだけかもしれませんわよ?」

「あはは、ベールがわたしにそんな事する訳ないじゃん」

「……信用が物凄いのは、お互い様じゃありませんの…ふふっ」

 

ベールはわたしと同じく欲望に忠実で、分かり易い性格。だけどその裏には、とても読み切るなんて出来そうにない策略を潜ませている女神。だけどこれははっきりしている。ベールが今わたしに見せてくれた信用は、人身掌握の一環なんかじゃ絶対にないって。

その信用もあって、わたしの心にはやる気の火が点いていた。だから恥ずかしいけど頑張って、そしたらわたしの活動で喜んでくれる人がいて、それで段々とわたしも調子が上がってきて、何だか最後までやり抜けそうな気がしてきたのに……遭遇してしまった。偶々ここに来ていた、ノワールとイリゼに。

 

「うぅ…どうしてよりにもよって、ノワールとイリゼが……」

 

しゃがみ込む事早十数分。…ダメージが…ダメージがでか過ぎる……。

 

「…何かお持ち致しましょうか、ネプ…ごほん、お坊ちゃま」

「…ううん、要らない……」

 

傷心のわたしへ頼れる執事さんと化したイヴォワールさんが声をかけてくれるけど、食べ物や飲み物でどうにかなる程わたしのダメージは浅くない。慰めてくれたお客さんの好意も嬉しかったけど、普通のヒールじゃオーバーキルレベルのダメージをカバーなんてし切れない。

 

「わたし明日からどうしよう…うぅぅ、アレな子って見られるだけならまだしも、これを出汁に脅されちゃったら…皆にバラされて、ネプギアやコンパ達にも男装してBL本売るのが趣味のネ腐テューヌだって思われたら……うぅ、うぇぇ……」

 

自分でもちょっと意味不明気味な事言ってる気がするけど、今のわたしは周りにバッドステータスを引き起こさないネガティブゾーンをフル展開中。…もう、引き籠ろうかな…或いは今なら第三の爆弾的な能力に目覚められるんじゃないかな…二人を爆殺したら今の比じゃない位絶望する事間違いなしだけど…。

 

「……あぁそうだ、悟り開こっかな…神じゃなくて仏の領域だけど、神仏のよしみで案外いけたりするかも……」

「──ネプテューヌ」

「ひゃわ…っ!?」

 

思考の迷宮に迷い込みまくる最中、不意に耳元で囁かれた自分の名前に変な声が出てしまうわたし。い、今吐息が耳にかかったよ!?ぞくってしたよ!?一瞬にして暗い気分から変な気分になりかけたよ!?

 

「あ、べ、ベール…びっくりさせないでよ……」

「中々可愛らしい声が出ましたわね」

「張っ倒すよ…!?」

 

何かと思って声の主であるベールに文句を言うと、返ってきたのは楽しそうな表情と言葉。…ほんとに張っ倒そうかな…今のわたしならやるよ……?

 

「これは失礼しましたわ。けれどこれは仕方ない面もありますのよ?貴女普通に呼んでも反応しそうにない雰囲気でしたもの」

「だとしても、可愛らしいなんて言う必要ないじゃん…で、何なの…?」

「少し調子を伺いに来たのですけど……どうやら訊くまでもありませんわね…」

 

そう言ってベールは苦笑い。対するわたしは再びどんよりモード。…何でベールだってわたしと同じような姿見られてるのに、こんなに平然としてるんだろう…あくまで男装は演出だって割り切ってるのかな……。

 

「…悪いね、販売に貢献出来なくて…でももうわたしはリカバリー不可能だよ…」

「いえ、何だかんだ貢献してくれてますし構いませんわ。それより、このまま落ち込んでるだけでいいんですの?二人はもう別の場所に行くつもりらしいですわよ?」

「え……?」

 

ベールから告げられたのは、当然の事。二人はわたし達に会う為に来たんじゃないんだから、別の場所に行くのは何にもおかしな事じゃない。…けど、そうなったらもう本当に致命的。誤解は直後が一番解け易くて、時間が経てば経つ程解くのが難しくなっていくから。でも……

 

「…良くはないよ…でも、どうしたらいいのさ…訳を話すにしたって、その訳も恥ずかしいものなんだよ…?」

「えぇ。だからこそ、貴女が取るべき最適な行動はただ一つ。…貴女の手で、二人に同人誌を買わせる事ですわ」

「…はい……?」

 

小声でのやり取りの中、ベールは親身になって質問や提案をしてくれる。それはありがたい。ありがたいけど…今のはただただ、シンプルに意味が分からなかった。…この窮地を脱する手段は、二人にBL同人誌を売る事?……どうしよう、ギャルゲにハマる切っ掛けに出会った時のハーレム王さんの気持ちが分かっちゃったよ…。

 

「簡単な話ですわ。もし今の貴女から二人が同人誌を買えば、二人の購買理由が貴女に『買いたい気持ちにさせられた』というものであれば、どうなると思いまして?」

「どうって…別に、どうもこうもないと思うけど…」

「では、言い換えますわ。…男装してBL同人誌を売っている友達に心を掴まれ、その同人誌を買ったなんて、もし貴女だったら公に話せるかしら?」

「あっ……」

 

一度目の言葉はよく分からなかった。でも言い換えられた言葉を聞いた瞬間わたしにもピンときて、あんまり爽快感はないけど…それならいけるかも、って気持ちが芽生え出す。

ベールが言ったのは、つまり『一方的に恥ずかしい状態』から『お互い恥ずかしい状態』にしちゃえって事。互いに弱みを握っている状態なら、結果的にフェアになるって話。そして、その状態が続けば……多分、有耶無耶になって両方すっきりした状態になれる。

 

「…ベール、自分には何の利益もないのにこんな策を考えて、それを教えてくれるなんて……」

「利益はありますわよ?やはりネプテューヌには普通に売り子をしてもらった方が集客出来ますし、二人が買ってくれればそれはそのまま売上になるんですもの。…まぁ、自分からBLが恥ずかしい事のように言ってしまったのは些か複雑なものがありますけどね…」

「……ありがとうベール。わたし…頑張るよ…!」

 

ごしごしと目尻の涙を袖で拭って(ちょっととはいえ衣装を濡らしちゃった事に気付いたのは暫く後)、立ち上がるわたし。冷静に考えるとここまでの流れもこれからしようとする事も中々におかしい気がしてくるけど、今はそれより貰った策を進めるのが先。…ほんとに色々おかしいけど、もう手段は選んでいられないもん…!

 

(目的達成の為には、わたしじゃなくて『男装少女』がその気にさせなきゃいけない…うぅ、恥の上塗り感もあるけどやるしかないよね……!)

 

ベールから、それに気付いたノワールやイリゼからも視線を受けながら、わたしは二人の立つ前へ。目を瞬かせている二人の顔に、これからわたしがしようとしてる事を察してるような様子はない。…これならきっといける筈。そう思ってわたしは意を決し……二人に向けて、口説き文句を投げかける。

 

「……こ…こんな所に迷い込むなんて、どうしたのかな…こ、子猫ちゃんに…子兎、ちゃん…」

『……へっ…?』

「…あ…えと…そ、の……」

「…………」

 

 

 

 

(うぁああぁぁぁぁああああああっ!?恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいよぉおおおおぉぉっ!!死んじゃう!これ死ぬっ!恥ずかし過ぎて死んじゃうよぉぉぉぉぉぉっ!ねぷぅうぅぅううううぅぅっ!!)

 

驚いて、唖然として、それから二人がちょっと可哀想な子を見る目になった瞬間、わたしは恥ずかしさで顔が沸騰しそうになった。っていうかもうしてる!絶対沸騰してるって!あぁぁもうこれ失敗だよ!早くも失敗っていうか、やっちゃ不味いタイプだったよっ!無理無理ここからリカバリーなんてわたしには無理!うぅぅ、ベール助けて……

 

「…え、と…行こっか、ノワール……」

「そ、そうね…猫とか兎とかもよく分からないし、まぁその…頑張って……?」

「……──っ!」

 

……後が、なくなった。イリゼが目を逸らして、ノワールは憐れみの「頑張って」をかけてきて、二人はここから立ち去ろうとした。…立ち去られたら、わたしは終わり。こんな形で立ち去られたら、本当にこれからわたしは二人から『そういう人』として見られてしまう。…なら、もう……わたしが二人を、落とすしかない。

 

「ど、どこ行く…?」

「そうだね…出来ればその、気分を切り替えられるような……」

「……ふ、ふふふふ…」

『……?』

 

がくんと項垂れ、それからわたしは顔を上げる。二人は数歩歩いたところでわたしの笑いを聞いて立ち止まり……振り向いた瞬間、距離を詰めていたわたしはノワールの耳に吐息をかける。

 

「ひにゃ……っ!?」

「可愛らしい鳴き声が出たね、子猫ちゃん」

「な…なな……っ!?」

 

真っ赤な顔で目を白黒させるノワールの首に腕を回し、わたしが耳元で囁けるように体勢を固定。

見ての通り、これはさっきベールにされたのとほぼ同じもの。だけどわたしがするのは、それだけじゃない。

 

「ほんとに可愛いね、ノワールは。今の小さな悲鳴だけで、僕はゾクゾクさせられたよ。あぁ、もっとこの愛らしい鳴き声を聞きたい、鳴かせたいってね」

「ね、ねぷ、ネプテューヌ…!?にゃ、にゃにを言って……」

「ほら、どんどん子猫ちゃんになってきた。それに、可愛いのは何も今日だけじゃないよ。いつもの自分を律して努力する姿も、自信満々な言動も、時々空回りしちゃうところも、素直になれなくて、でも気持ちを伝えたくて必死になる様子も……全部僕を惑わせる。ずっと見ていたくさせるんだ」

「あ、あぅ…しょんな、事……」

「…全く…イケナイ子だね、ノワールは」

「……はきゅぅ…」

 

最後に蠱惑的な声音で締めて、腕を離すわたし。すっと離れると、ノワールはすとんとその場に座り込んで……その頭からは、湯気が出ているかのように見えた。

 

「の、ノワール……」

「さてと…次は君だよ、イリゼ」

「わ、私も!?え、いや、私は別に…そんな……」

「へぇ、じゃあ何もしないでほしいのかな?」

「うぇ…?…そ、それは……」

「…素直になりなよ。イリゼの可愛いところは、素直で純情な事なんだから」

 

見るからに慌て、同時にもじもじとするイリゼの背後に回り、腰に手を回して軽く引く。するとイリゼはわたしの側によろけ、それをわたしは受け止め……今度は背後から耳へと囁きかける。

 

「初々しくて、大人な振る舞いをしている時にも純真無垢な心が隠しきれなくて、誰かに思ってもらう事が本当に幸せなイリゼ。…知らないのかな?そんなイリゼは自然と視線を集めていて、いつも皆の心を魅了してるって事を」

「う、うぅ……知らないのかな、なんて言われても私…」

「それは勿論、僕も同じだよ。僕はいつも思うんだ。イリゼには、僕だけを見ていてほしいって。純情なイリゼを、僕の色に染め上げたいって。ねぇ、イリゼ。もしもそうなったら…君は、一体どんな姿を見せてくれるのかな?」

「ネプテューヌ、だけを…ネプテューヌの色に…ふぇぇ……」

「ふふっ、その気になっちゃった?…女神なのに、イリゼは…悪い子だね」

「……あきゅぅ…」

 

同じく蠱惑的に締めて、腰を離すと、イリゼもまた林檎の様に真っ赤な顔で崩れ落ちる。二人が骨抜き状態になった事を確認したわたしは、ゆっくりと前に戻って片膝を突く。…さぁ、後はもう一押し。

 

「…ネプテューヌ……」

「ネプ、テューヌ……」

「僕を困らせる二人には、しっかりとその責任を取ってもらうよ。ほら、何をしたらいいか…分かるよね?」

 

惚けた瞳で見つめる二人の頬に手を当て、撫でるように顎まで滑らせ、それから顔を近付けると同時に親指と人差し指で顎を上げ……わたしは二人にトドメを刺した。

 

『…………』

 

顎から指を離すと数秒後、二人はゆらゆらと揺れながら立ち上がる。何も言わず、感情の読めない足取りでうちのサークルが使うテーブルの方へ。子猫ちゃんと子兎ちゃんの可愛い姿を存分に見られたわたしは、二人が行く中満足の笑みを……

 

(……って…わたしは何をやってるのさぁぁぁぁあああああっ!?はぁぁぁぁ!?わたし!?今のわたし!?こんな俺様系キャラだっけ!?…いや違うよ!?そして二人の様子が明らかにヤバかったんですけど!?)

 

正気に戻ったわたしは、自分で自分に愕然とする。これまでにも、自分で自分に驚く事はあった。けどここまでじゃないし…これは次元が違い過ぎる。どう考えても変な扉を開いてしまっている。いや不味いって!もうこれどう転がっても大団円にはならないよ!ほ、ほんとに今のわたしなの!?わたしの中で眠ってたもう一人のわたしが顕在化したとかじゃないの!?

 

「……なんて自分に驚いてる場合でもないよ…!あ、あのね二人共…!二人も物凄く驚いてるとは思うけど、どうか今のは忘れて……」

「…………」

「…………」

「…えぇと…お二人共?一体何をご所望で……」

 

 

『ここの商品全部貰おうかぁああああああああッ!!』

『えぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』

 

後ろから駆け寄ったわたしと、一度会計に回っていたベールの声が完全にハモる。その時、その瞬間ノワールとイリゼは……目が爛々と輝いた状態で、ブラックカードをテーブルに叩き付けていたのだった。

 

 

 

 

「いやぁ、驚いたね…色々と……」

「驚きましたわね、色々と……」

 

それから十数分後。一応…恐らく…多分……ま、まぁとにかく窮地を脱したわたしは、あれで改めて吹っ切れた事もあって売り子の役目を再開していた。…因みに同人誌の買い占めは例え完売するとしてもベールや皆の望むところじゃないって事から、それぞれ一冊だけ買ってもらった。そしてテンションがヤバい状態のままだったから、二人には今涼しい所で休んでもらっている。

 

「我ながら、自分が恐ろしいよ…いやほんと、冗談じゃなくて……」

「ほんとに凄かったですわね、先程の貴女は。正直、見ているだけのわたくしですらあの時は少し胸が高鳴ってしまいましたわ」

「言わないで…お願いだからこれ以上は掘り返さないで……」

 

ぶんぶんと首を横に振りながら耳を塞ぐわたし。こんな事で凄いって言われても嬉しくないし、今の流れでベールにまでときめかれたらいよいよわたしも冷静さを保てなくなる。…いやさっきまでも全然冷静じゃないんだけど。今は一周どころか二周回ってやっと、って感じだけど。

 

「……というか、自分の事で頭が一杯で忘れてたけど…そういえば二人、コスプレしてたよね?」

「あぁ、してましたわね。しかもまぁまぁ大胆なものを」

「あはは…二人ってコスプレ仲間だったのかな?わたしは知らなかったんだけど…」

「あー…それは、何というか……」

 

そこでふと、二人の格好について思い出したわたしはそれをベールに投げかける。するとベールは肯定でも否定でもない、それだけじゃ判断のしようがない反応をして……その時、ちょっと変な事が起きた。

 

「……?何だろう、何かあったのかな?」

「…というより、これは…どこかのサークルに行こうとする流れでは?…事前情報に乏しかったサークルから、とんでもない作品が出てきたのかしら……」

「へぇ…ね、ちょっと行ってみてもいい?」

「構いませんわよ。この調子ですと、今のままでも完売出来そうですもの」

 

わたし達が見つけたのは、これまでとは何か違う人の流れ。ベールの推測で興味が湧いたわたしが行っていいか聞くと、ベールは快諾してくれる。…まぁ、さっきのアレが更なる集客に繋がったしね…はは……。

 

「じゃ、行ってきまーす」

 

ぶつからないよう早歩きで進むわたし。ベールの推測通りどこかのサークルに向かう流れらしくて、次第に流れの人数も増えていく。そうして移動する事数分。BLコーナーからかなり離れたコーナーで、わたしは一つの大きな人だかりを発見した。

 

「わ、壁サークル並みの人気…って、あれ?この声、聞き覚えが……」

 

何の流れか分かったからはいお終ーい、なんてなる訳がなくて、わたしは人だかりの中に潜入開始。わたしの体型は普段悲しくなる事もあるけど、こういう時はむしろ便利。楽々じゃないけど、わたしは着実に中心へと進んでいき……半分程抜けたところで、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

ノワール達は声でわたし(というか知り合い)の存在に気付いたらしいけど、まさか同じ日に同じ出来事が起こるかもしれないなんて。そう思いながらわたしは進み続け、漸く抜けた先で目にしたのは……

 

「この本…いいえ、禁断の黙示録を手にしたいのなら、この空間における秩序に従う事ね」

「世界の理は、それを破る事しか出来ぬ者に掌握など出来はしない……」

「だが安心するといい!この貯蔵量、そう簡単に尽きるものではないのだからな!」

「え……ブラン!?あいちゃん!?それにMAGES.!?」

 

──見るからに厨二っぽい言動で、見るからに厨二っぽい同人誌を売る、わたしの友達三人だった。……い、一日の間にこんな何度も驚く事って、ある…?




今回のパロディ解説

・某騎士王
Fateシリーズの登場キャラの一人、セイバーことアルトリア・ペンドラゴンの事。でも男装ですし、衣装はむしろプロトタイプセイバー風かもしれません。

・ネガティブゾーン
大乱闘スマッシュブラザーズXにおける、ルイージの最後の切り札の事。あの妙なダンスとBGMは発生してません。ただただネガティブ状態なだけです。

・第三の爆弾
ジョジョの奇妙な冒険第三部 ダイアモンドは砕けないに登場するスタンド、キラークイーン(バイツァ・ダスト)の事。勿論、矢が手元にあるとかではありませんよ?

・ハーレム王
生徒会の一存シリーズの主人公、杉崎鍵の事。作中で指しているのは桜野くりむと出会った日の出来事ですね。この日ネプテューヌはハーレムルートの第一歩を…?
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