超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
同人活動は、わたしにとって趣味であると同時に夢。勿論わたしの一番大切な職務は女神としての務めで、国民の皆がわたしを必要としてくれる限りは何があろうと続けるつもりだけど…もし普通の人間だったらきっと作家を目指していただろうと言える位、わたしは物語の創作に熱意を持っている。
でも、熱意とセンスは別のもの。わたしがルウィーの守護女神であり、魔法に対する探求心ならミナや一流の魔法使いにも負けてないと自負していながらも、魔法使いとしての適性が致命的に低いのと同じように、残念ながらわたしの同人誌はあまり売れない。わたしの中では面白いと思うものが出来たとしても、読んだ人の反応は芳しくないというのが大概のパターン。だけどいつかは皆にも面白いと思ってもらえる作品が出来る日を夢見て、わたしは執筆を続けてきた。そして、その夢が……今日、現実となった。
「サンプル?勿論構わないわ。…こちらの世界に足を踏み入れるなら、相応の覚悟が必要だもの…」
「じゃあ早速…ふむふむ……ん?…うーん…?」
「…………」
「いや、これは…だが……あ、れ…?」
「…………」
「……おぉ、おぉぉぉぉ!?そうか、これか…この感覚だったのか…ッ!」
即売会参加者へ見本として用意した同人誌の閲覧を許可すると、興味あり気に彼は読み始める。初めは首を傾げ、気分が冷めていくような雰囲気を放っていたものの…数十秒程したところで様子が変化。次第にその目が輝き始め……他の人の例に漏れず、サンプルの終盤に差し掛かる頃には興奮を露わに楽しんでいた。
「凄ぇ、確かにこれは新感覚だ…!あの、一冊いいですか!?」
「ふふ、ようこそ混迷を極める新たな世界へ」
代金を受け取り、同人誌を渡し、創り上げた物語が彼の手元へ。楽しそうに立ち去るその姿を、充足感に溢れた思いで見送る。
「また一人、こちらへ誘ってしまったようだな」
「ふふっ、いいじゃない。こっちの世界は、凡ゆる可能性を秘めているんだから」
わたしの左右でそう口にするのは、友人であり仲間、そして何より同士であるアイエフとMAGES.。これまで構想も各種設定構築も執筆も、全てを一人でやっていたわたしにとって、三人で作るというのは初めての試みで……その試みが、功を奏したと言っても過言ではない。
(……本当に、二人が興味を示してくれて良かったわ。本当に、二人を誘ってみて良かった…)
切っ掛けは、何気ない雑談だった。偶々三人共知っていたマイナー作品の話をしていて、そこから世界観や異能の話で盛り上がって、楽しくなったわたしがつい口にした「この三人でアイデアを出し合ったら、凄い作品が生まれそうね」…という深い意味のない言葉。その時は、本当に作るなんて思ってなかったし、こうなるなんて考える事も出来なかった。
あまり深くは考えず、とにかくわたし達の趣味と好みを突っ込んだ結果生まれたのは、半ば闇鍋状態の作品。だけど完成時点では全員変にハイテンションになっていて、物凄い量の印刷を注文してしまった。それが届いた時にやっと「やってしまった…」という気持ちになったものの、既に届いているんだから後の祭り。大量の在庫を抱える不安に駆られながら、わたし達は即売会へと訪れた。
「…化学反応、或いは突然変異とでも言うべきかしらね」
「うん?急にどうしたのだ、ブランよ」
「何でもないわ、独り言よ」
流石に女神がそのままの格好でいる訳にはいかないから、と用意しておいた簡単な衣装に着替えてお客を待つ事数十分。元々宣伝もあまりしておらず、無名サークルという事もあって殆どお客は訪れず、何とも気不味い時間を過ごしていたある時、一人がサンプルを閲覧した。その時はパラパラと数ページ見ただけで去ってしまい、わたし達は落胆したけど…風向きが変わったのはその数分後。去った筈の人が興奮気味に戻ってきて、またサンプルを読んで、今度はじっくりと最後まで読み……迷う事なく、わたし達の作品を買ってくれた。
気落ちしていたわたし達にはそれだけでも嬉しかったけど、その人が知り合いにも勧めてくれたらしく、また十数分後には数人が来訪。驚く事にその全員が買ってくれて、またまたその後数人来て……気付けば、そこそこの頻度で人が来てくれるようになっていた。しかもそれは、今もペースが上がり続けている。
「ここから暫くは、休めないかもしれないわね。…二人共、まだいける?」
「勿論。これは私達の熱意を込めた作品だもの、捌き切ってやろうじゃない」
「ふっ、これも一つの戦い。ならば完売という勝利を目指すのは当然の事さ」
「二人共…そうね、目指すは完売……頑張るわよ…!」
わたしとしては、二人の疲労を案じてかけた言葉。けれど返ってきたのは、無理だと思っていた完売を目指そうとする頼もしい言葉。二人が…同士がそんな返答をしてくれるのなら、わたしが返す言葉も一つ。
元々は作る事自体が目的で、売るのはオーバーランのようなものだった。でも、今はもう違う。今はただ……完売に向かって突き進む…!
*
ブラン達の同人活動を目にしたわたしは、一先ず戻る事にした。だって忙しそうな三人の邪魔はしたくなかったし、今は衣装だからお財布もないしね。
「グリーンP、流れの先には面白いものがあったよ!」
「何故アイマス的言い方を…そしてそれではグリーンピースの略称みたいになってしまいますわ…」
「あ、じゃあ佐藤Pの方がよかった?」
「いやより元ネタっぽくはなりましたけど、それより普通に名前で呼んで下さいまし……」
戻った事が分かるよう大きめの声でボケるわたしと、ローテンションになっちゃうベール。因みにベールPって呼ばなかったのは、賑わってる中ベールの名前を大声で呼んだら不味いかな、っていう配慮だよ。
「で、売れ行きはどう?完売出来そう?」
「ふふっ、心配ご無用ですわ。何せ強力な助っ人が売り子になってくれたんですもの」
「え、助っ人?ここに来て追加メンバーなんて、一体誰……」
誰なの?と言いかけたところで聞こえてくる、聞き覚えのある声パート2。…っていうか、聞き覚えがあるどころか完全に分かる。だってさっきまで聞いてた声だもん。聞こえたその声は……
「ありがとうございますっ!きっと楽しんで頂けると思うので、もし良ければお知り合いの方に勧めてあげて下さいね!」
「焦らなくてもまだあるから大丈夫よ。淑女たるもの、常に落ち着いて余裕を持った行動をしなくちゃ。…そうでしょ?」
……休んでいた筈の、イリゼとノワールのものだったんだから。
「…何故二人が……?」
「変な注目を集めてしまった事と、心配をかけた事へのお詫びと言っていましたわ。後者はともかく、前者は迷惑どころか更なる集客になったのですけど」
「あ、あー……さっきからやる事なす事、全部プラスになってるよね…」
「えぇ、もしかするとわたくしには商才があるのかもしれませんわ」
聞いてみると、売り子をしている理由は何とも二人らしいもの。二人は男の人でも男装をしている訳でもないけど、天性のカリスマ性で上手い事売り上げに貢献してくれている。……ならわたしも男装の必要なかったんじゃ…っていうのは悲しくなるから考えないでおこうかな…。
「…でも、そっか。二人の調子が戻ったなら良かったよ」
「そうですわね。…ネプテューヌも大丈夫でして?」
「うん、思い返すと頭を壁に打ち付けたくなる程恥ずかしいけど…それはそうとして色々吹っ切れたからね。ふふん、わたしの実力で完売までノンストップにさせちゃうよっ!」
「…では、わたくしも戦線復帰と致しましょうか…!」
何はともあれ、こんなお祭りの中うじうじし続けるのはわたしらしくない。そう思えるようになったわたしは軽く啖呵を切って、売り子の活動を再開しにいく。…っとそうだ、二人にも一応謝っておこうかな。
「二人共、さっきはごめんね!もう大丈夫みたいで安心したよ!…って、原因のわたしが言うのも変だけどね…」
『え?あ……』
「……二人共?」
『……うきゅぅぅ…』
「えぇぇぇぇっ!?全然大丈夫じゃなかった!?」
わたしを見た途端に表情が固まり、小動物みたいな声を漏らして後ろにぶっ倒れていく二人。咄嗟にわたしが二人の手首を掴んだ事で床に倒れる事は防げたけど……完全に二人はぷらーんとなっていた。脱力度、100%だった。
「おぉ、揺れる揺れる…」
「サイズはベール様に劣る、大きいと言えるか微妙なラインだけど……うんうん、この揺れは素晴らしいね」
「ど、どこ見てるのさ二人共!今のは女としても二人の友達としても普通に不愉快だから止めてよね!?」
しかもそこに口を挟んでくるのは目敏く反応した兄弟。…相変わらずこの二人は……。
「これは失礼。では、再び運ぶとしようか」
「……って言いつつ、しれっと胸触ったりする気なら殴るよ?」
「そんな事はしないさ。僕も兄者も紳士として弁えているつもりだからね」
「紳士って……(絶対その前に『変態』が付くんだろうなぁ…っていうか、嗜好は真逆なのにこっちの変態も紳士を名乗るんだ…)」
十数秒前に下心を丸出しにしていた二人の手を借りるのは避けたいところだけど、わたしの体格じゃ二人を纏めて運ぶなんて無理だし、場所が場所だから女神化っていう選択肢も取れない。それにベールやイヴォワールさんは接客中だったから……わたしは仕方なく、二人の手を借りるのだった。……因みに、その後二人はイリゼ達を丁重に運んでくれた。…何だかなぁ……。
そうして販売にラストスパートをかける事十数分。ブランの所に比べれば少し劣る、でも順調な客足は最後まで続いて……
「残り物には福がある、じゃないけど…最後の一冊を手にしたというのも何かの縁。この本と共に、君へ幸福が届いた事を祈っているよ」
「は、はい!ありがとうございます…!」
「どう致しまして。……イヴォワール」
「はっ。…申し訳ありません、お嬢様方。皆様からのご盛況につき、只今完売致しました。ここまでご足労頂いたにも関わらずご購入が叶わなかった方々には、心からお詫び申し上げます。そして何より、温かな応援……ありがとうございました」
最後の一冊を手渡したベールが呼び掛けると、イヴォワールさんは恭しくお辞儀。その瞬間歓声と嘆息の混じったお客さんの声が方々から聞こえてきて……誰かが拍手をしてくれた。それはどんどん広がっていって、気付けば拍手に包まれる。皆、わたし達を……ベールのサークルの完売を、祝福してくれていた。
「…気持ち良い拍手だね」
「えぇ。…感謝致しますわ、ネプテューヌ。ここまでわたくしに、付き合ってくれて」
「まー、友達との約束を破る訳にはいかないからね。それに、色々あったけど…良い経験になったと思うな、わたしは」
「…つまり、今後も売り子を引き受けてくれると?」
「あはは、ならそれ相応の対価を用意してもらおうかなー」
ふぅ、と安堵の溜め息を吐くベールの隣に行って、微笑むわたし。するとベールもにこりと笑顔を返してくれる。
最初は嫌で嫌でしょうがなかった。ノワールとイリゼに見つかった時は、絶望しかけた。その後は完全にやらかした。…だから全体的に見れば、今回の事はマイナスの方が大きかったのかもしれない。でもそれは客観的に見たらって話で、今のわたしは…主観のわたしは、そんな事を思ってない。だって能天気な気もするけど、終わり良ければ全て良しって言うように、喉元過ぎれば熱さ忘れるって言うように……今となっては、楽しかったかもって思ってるんだから。
「よーし、それじゃあベール!終わった事だし…まさかの人気を誇ってる友達の所へ、行ってみよー!」
*
気付いた時には、意識がどっかに吹っ飛んでいた。普段は見せない、妖しい魅力に溢れたネプテューヌに迫られた私は頭が完全にパンクしちゃって、その後何をしたのかは正直記憶がぼんやりしている。
そんな私とノワールは、少なからず迷惑をかけたベールのサークルに協力していた。だけどその最中も戻ってきたネプテューヌを見た途端またノックダウンしちゃって、二度目の静養をする羽目になり……漸く今、普段の調子を取り戻しつつある。
「ほらほらここ、凄いでしょ〜」
「いや、自分の手柄みたいに言うんじゃないわよ…凄いのは否定しないけど…」
ふふんと軽く胸を張るネプテューヌに、ノワールが半眼でクールに突っ込む。私達がいるのは、ネプテューヌが案内してくれたどこかのサークルの最後尾。…ほんとに盛り上がってるなぁ、ここ…。
「凄いと言えば、先程のネプテューヌも……」
『わぁぁ止めてッ!やっと落ち着いてきたんだからぁ!』
「あ、ネプテューヌよりも二人がまず反応するんですのね……」
某ブロックワード並みに聞いたら不味い言葉を言いかけたベールに、慌てて制止をかける私&ノワール。もう一人の当事者であるネプテューヌもびくぅ!…と肩を震わせてたけど、ちらりと私達を見て安心したような表情を見せる。…その格好は、既に純粋な男装じゃない。
結局のところ、男装がいけないんじゃないのか。その結論に辿り着いたネプテューヌは、髪を解いてメイクも落として(メイクしなくてもネプテューヌは素敵……はっ!?わ、私は何を…)、更に衣装も極力ラフな感じにする事で大分普段のネプテューヌっぽく戻っていた。今のネプテューヌは男装というよりボーイッシュな格好をしているだけって感じで、それなら私やノワールも倒れたりはしない。……少なくとも、現状では。
「ほんと、ほんと止めようかベール…三度目は流石に医療関係の人呼ばれちゃうかもしれないし…」
「まぁ、それはそうですわね。…しかし……」
『……?』
「…何でもありませんわ。それより、先程から何となく聞こえる凛々しくもどこか可愛らしく、抱き締めたい気持ちを抱かせるこの声は…もしやあいちゃんではなくて?」
何とも意味深長な表情を浮かべたのも束の間、いきなりベールはらしさ全開の発言を口に。当然私達は「えぇ、急に何言ってるのこの人…」…的な反応をしちゃう訳だけど、ネプテューヌだけは苦笑いしつつも訳知り顔。…あれ、って事はもしや……
「…ネプテューヌが言ったサークルって、アイエフがいるの?」
「そうだよ。でも、あいちゃんだけじゃないんだなーこれが」
「…言われてみると、確かに他にも聞き覚えが……」
私とノワールには二度目の、ネプテューヌが経験したのも含めれば今日三度目の聞き覚えがある声に、私は「二度ある事は三度ある、って本当なんだなぁ…」と思いつつも目を凝らす。それは丁度列も進み、サークルの姿が見えてきたところで…ネプテューヌの言う『他の人』も、私達は視認する事が出来た。……わぉ。
「…まさか、ブランにMAGES.までいるなんてね。守護女神全員集合じゃない…」
「この分だと、他にも誰かいそうですわね。何とも世間は狭いものですわ」
「でも、どんな本を作ったんだろう…?ブランがいるなら、多分小説なんだと思うけど……」
「ふっふっふ、それはねぇ…読んでのお楽しみだよ!っていうかわたしも実はまだ読んでないしね!」
((だから何故自分の手柄かのように……))
そんな話をしながら私達は列に沿って近付く。ブラン達はお客さんの対応に忙しい様子で、まだ私達の事に気が付いていない。そして遂に私達の番となった時……私達は、お互い驚く事になる。
「あ……残念だけど、もう全ての魔書が望みし者の手に渡ってしまったようね…申し訳ないわ、我等が魔力に惹かれし……って、ねぷ子!?それに皆も!?」
「え、完売しちゃったの!?…そっかぁ…でもおめでとーっ!」
何とまさかの『前の人で売り切れてしまう』という、ありそうで中々無いレアシチュエーションに遭遇してしまった私達四人。一方三人の方もやっぱりここに来るまで気付かなかったらしく、ブランとMAGES.も「え!?」って顔をしながらこちらに顔を向けてくる。
「あ、ありがとう…でもなんで貴女達が…?しかもそれ……皆でコスプレ…?」
「合ってるけど少し違うよ。私とノワールはお客として、ネプテューヌとベールは販売側として別々に参加してたからね」
「…驚いた、まさか私達以外にも女神が参加するサークルがあったとはな……」
「それはこちらも同じですわ。…にしても、凄いですわね…大手という訳でもなく、わたくし達の様に販促に力を入れた訳でもないのに、ここまでの人気を得てしまうとは……」
「それにはわたし達が一番驚いているわ。…ね、皆」
歓声や拍手が沸き起こる中で話していると、ブランは肩を竦めて二人を見やる。するとアイエフとMAGES.もうんうんと頷き、三人でちょっと楽しそうな苦笑を浮かべ合う。…何かそれを見るだけで、三人がどんな思いで同人誌を作り、それを売っていたのかが分かるような気がしてきた。
「…でも、残念ね。完売する程の作品なら、試しに一度読んでみたかったんだけど…(後、三人共ちょっとダークなコスプレしてるわね…こういうコスも悪くないかも……)」
「…なら、読む?」
『え?』
「あるのよ、記念に取っておこうと一人一部は手元に残しておいたからね」
そう言ってアイエフはテーブル裏から同人誌をチラ見せ。どうするの?という視線を受けた私達は、勿論全員がこくこくと首肯。けれどまだ人だかりが出来てるし、その中には私達同様買えなかった人がいるって事もあって、読む事が出来たのはそれから数十分程してからの事だった。
「何だか、ドキドキしてきたね…」
「ですわね……あ、これはうちの同人誌ですわ。出来ればこちらもお読みになって下さいまし」
「ほう、これがベール達の……って、な…ッ!?」
「び、BL……ベール様、遂に熱意は作る側にまで到達したんですね…はは…」
テーブルに差し出された同人誌を見てMAGES.は目を白黒させていたものの、私達からすればそれはもう通った道(MAGES.のこういう反応はちょっと珍しいかも…)。一体どんな内容なのか。何がそこまで人気を集めていたのか。そんな事を想像しながら、代表して私が本を開く。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
((…これは……))
漫画やアニメと違い、小説は一ページから物凄いインパクトを受ける事なんてまあまずないもの。だから始めの数分は特に何か言う訳でもなく読み進め……ある程度したところで、私達は揃ってある事を胸に抱いた。…え、これって…面白いの?……って。
(…文章は、読み易いけど……)
(序盤から設定の嵐状態じゃない……)
(言い回しも変に凝り過ぎですし……)
(……所謂、痛い系じゃない…?)
友達の作った作品だから、あんまり酷評はしたくない。出来るだけ良い点を挙げたい。…でも、敢えて言うなら…この本は、まるでごった煮だった。それも、味の調和なんて一切考えず、好きな物を好きなだけ入れたような、カオス状態。正直、それでありながら一応物語としては成り立っている事が驚きな位……この作品はどこもかしこも尖っていた。
「…こう、友達にまじまじと読まれるのは少し恥ずかしいわね…」
「丹精込めて作り上げた作品に、恥ずかしい事など何もない……と言いたいところだが、確かに恥ずかしいな…」
「それが作家の宿命よ。…アマチュアであっても、ね」
聞こえてくる、この本の作者達の言葉。いつもなら誰かしら返答してもおかしくないところだけど、今に限っては誰も言わない。
五分、十分、十五分。私達は読み進める。次第にページを捲る速度が上がり、頭の中から雑念が消えて、意識の大半が文章に…描かれた世界の中へと注がれていく。
ページを捲っても捲っても、ごった煮状態は変わらない。読んでるこっちが恥ずかしい気さえしてきてしまう。だけど私達は読むのを止めない。止めようとは思わないし、むしろどんどんどんどん続きが気になって読んでしまう。それは何故か。そんなの……
──私達にだって、全くもって分からない。
「な、何ですのこれ…これはどういう現象ですの…?」
「素直に面白いと言える内容じゃないけど…手が、止まらない……」
「こ、これはプリンを初めて食べた時以来の衝撃…とは方向性が違うけど、とにかく謎の凄さがあるっていうか……」
「…と、取り敢えず最後まで読ませて頂戴…いいわよね…?」
理解の及ばない状況に戦慄しながらも、私達は読み続ける。読み続け、読み耽り続け……最初は痛いと感じていた本を、気付けば本当に最後のページまで読み切っていた。そして、読み終えた私達は本をアイエフに返し……呟く。
『…す、凄まじかった(ですわ)……』
はぁ……と、極度の集中による疲労を吐き出すように溜め息を零した私達の、思いを集約させた一言がそれ。
ここまで私は、この本をごった煮と表現していた。それは最後まで変わらなかったし、狙ってやった訳じゃないのは間違いない。けれど熱意が引き起こした奇跡とでも言うべきか、それぞれの尖りが絶妙なバランスで相互的に作用し合い、増幅し合う事でこの本は読む者の心を奪う、それこそ魔術的な力があるかのような作品へと昇華されていた。
面白い、とは違う。感動した、とも違う。この本は、この作品は……月並みな言葉じゃ、その魅力を言い表すなんて出来はしない。
「…一応訊くけど…これ、何か魔法を付加させてるとかじゃないのよね…?」
「そんな事はしてないわ。同人誌でそれをしても悲しいだけだもの」
「…ほんと、凄いよ三人共…これ、出版社から声かかるんじゃない…?」
「いやいやまさか……え、本気で言ってるの…?」
ネプテューヌの言葉にアイエフはジェスチャーを交えて否定しようとするも、私達の表情を見て目を見開く。
これを天才的、というのは結構違和感があると思う。でも…天才的じゃなく、奇才的であれば…私も皆も、間違いなく言える。
「…ま、まぁないとは思うけど…もしほんとにそうなったら、どうする…?」
「ど、どうと言われてもな……」
「そうよね…ブランはどう…?」
「わたし?…わたしは……」
顔を付き合わせ、ネプテューヌの口にした『もしも』について話す三人。アイエフとMAGES.はすぐに答えを出せない感じで、二人の視線はブランへと向く。そして意見を求められたブランは、一瞬だけ考えるような表情を浮かべ……それから満面の笑みで、言った。
「…なんであれ、自分の書いた作品を楽しんでもらえて、それが正式な商業作品にまでなるのなら……それは、凄く凄く幸せだわ」
『…ブラン……』
一片の曇りもない、私達全員が目を奪われてしまう程の、本当に素敵で最高の笑顔。ブランの同人活動にかける思いが、気持ちが余すところなく伝わるその表情は……一瞬とはいえ、今日起こった事への衝撃全てを消し去ってしまう程、印象的なものだった。
*
とにかく色々な事があった、半日にも満たない時間としては詰め込み過ぎな程内容の濃かった即売会は、遂に終了を迎えた。楽しかったと笑顔を浮かべる人、目当ての物が買えず残念がる人、終了を記念して打ち上げに行こうとする人など参加者の反応は様々で、ここへ来る人がどれだけの熱意を持っていたのかを私や皆は改めて感じられた。
で、私達は即売会終了後、片付けをしなきゃいけないという事情と、今日は共に頑張ってきた人達と帰りたいって思いから、それぞれに帰る事にした。だから、私はノワールと一緒に、今は帰路に着いている。
「濃密な一日だったね…」
「そうね。こんなに色々な事があるとは思わなかったわ」
出来事一つ一つを思い返しながら歩く私達は、揃って今日何度目かの苦笑いを浮かべた。…いやもう、ほんとに濃かった…特濃だったよ……。
「…でも、来て良かったわねほんと。疲れたけど、それに見合うだけの楽しい経験が出来たと思うわ」
「だね。…ありがと、ノワール。私を誘ってくれて」
「…こちらこそ感謝してるわ、イリゼ。私の誘いを受けてくれて」
苦笑いの後、私達が浮かべるのは真面目な顔。ちょっとお堅い感じもあるけど…私とノワールなんだから、これ位が平常運転。
ほんとに今日は沢山楽しい事があったし、来て良かった。だからこのまま帰ってもいいんだけど……一つだけ、私には引っかかったままの事がある。そして、今訊かなきゃそのまま流れてしまう気がした私は…その真面目な顔のまま、ノワールに問う。
「…で、さノワール。一つ、訊きたい事があるんだけど、いいかな?」
「良いけど、何かしら?」
「うん。……ノワールってさ、ほんとはコスプレがしたくてここに来たの?…隠れ蓑、っていうのも私を誘ったのも…それを誤魔化す為の、方便だったの?」
「……っ…」
……それは、ずっと気になってた事。行動や時々見せる目線から、私に言ったのとは別の理由があるような気がしていて、それをはっきりさせたかった。
私の問いを聞いたノワールは、表情が固まる。それからノワールは数秒黙り込んで、一瞬目を伏せ……それから、問いに対する答えを口に。
「……その通りよ、イリゼ。ずっと隠してたけど…私は、コスプレ趣味があるの。…でも、それを言うのは恥ずかしくて…貴女や周りが私に向けてくれるイメージが崩れるのが嫌で……」
「…大丈夫だよ、ノワール。別にノワールがコスプレ好きだからって私の見る目が変わる訳じゃないし、そもそも趣味に貴賎なんかないもん。…あ、趣味をオープンにしなよって事じゃないよ?私だって秘密にしたい事の一つや二つはあるし」
真っ直ぐに私を見てくれながらも、瞳にどこか躊躇いを感じさせるノワール。そのノワールに安心してほしくて、私は肯定の言葉を返す。……でも、そういう理由なら…これだけは言っておきたい、って思いもある。
「…でも、ちょっとだけ悲しいかな…。友達にそういう理由で嘘吐かれるのは、信用されてないみたいに感じちゃうから……」
「あ…そ、そんな事はないわイリゼ!貴女を信用してないなんて事はないし、嘘を吐いたのも、隠す為に周りを出汁にしたのも、全部私が見栄を張ってただけなんだもの!…だから、その……ごめんなさい、イリゼ…」
私が吐露した心情に、ノワールは慌てて、悪いのは自分だって言って……それから俯きがちに、ノワールは私へ謝った。
もし私が怒ってたのなら、そうしてくれて良かったと思ってると思う。でも、私は怒ってた訳じゃなくて…だから、真っ先に浮かんだ思いは『そんな顔しないで』…って感情だった。嘘を吐かれたのは嫌だったけど……ノワールの気持ちが沈むのは、もっと嫌。
「…顔を上げてよ、ノワール。ノワールは謝ってくれたんだから、もうこの話はお終いだよ。振った私が言うのもアレだけど…折角楽しかったんだから、楽しい気持ちのまま帰らなきゃ損だよ、きっと」
「……許してくれるの?」
「当たり前だよ、友達だもん。…でも、そうだね…もし私の反応に関わらず、ノワール自身が気になっちゃうっていうなら……」
「いうなら…?」
「…また誘ってよ、ノワール。今日は凄く楽しかったし、沢山の経験が出来たから…また誘ってくれたら、私は嬉しいな」
にっこり笑顔で、私は頼む。また誘ってほしいって。また一緒に楽しみたいって。これが私の本心で…後悔よりも、ずっとノワールに望む事。
それを聞いたノワールは、まず目を丸くして、それから「ほんと、貴女は…」って言いながら肩を竦めて、最後に力強く頷いてくれる。…うんうん、やっぱりそうだよ。ノワールは自信満々で、堂々といてくれる方がノワールらしいよ。
「さ、それじゃあ帰りましょ。……あ、それともちょっと寄り道していく?近くに丁度コスプレショップがあったりするのよ?」
「あはは、今日は疲れたしそれは遠慮しようかな。……一応言っておくけど、私はコスプレに目覚めた訳じゃないからね?…楽しかったのは事実だけど」
「うっ…わ、分かってるわよそんな事。貴女の考えてる事なんて、全部お見通しなんだからねっ!」
「それはちょっと失礼だと思うんだけど…?…まぁ、いっか。私だってそこまで単純な思考はしてないもんねー」
……そんな雑談なんかも交わしながら、私達は帰っていった。身体には疲労を、胸には充実感を抱えながら。
楽しい事も、驚きも、ちょっと深くは考えない方が良さそうな事もあった今日一日。感想なんて、言い出せばキリがないけど…ノワールとの絆が深まった事も、行って良かったと言える一つだって、この時私は思うのだった。
今回のパロディ解説
・グリーンP、アイマス
アイドルマスターシリーズ及び、アニメにおけるプロデューサーの通称のパロディ。でも実際、ベールは原作でアイドルプロデュースをしてるんですよね…。
・佐藤P
ベールの声優、佐藤利奈さんの事。それこそ上記のアイドルプロデュースネタをアイマスっぽく言うなら、ベールの通称は佐藤Pになりますよね。
・某ブロックワード
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場する、エクステンデッドに設定されたとある言葉の事。…別に幼児化はしませんからね?またまた倒れる可能性はありますが。
今回の話を一旦の区切りとし、次回からはOPのあとがきや活動報告にて紹介していたコラボストーリーに入ろうと思います。様々な作品のキャラが参戦して下さる事となりましたので、皆様是非期待していて下さい。……あ、キャラをお貸し下さった皆様は、「うちのキャラはこんな感じじゃない…」と思った際にはすぐに言って下さいね…?