超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
思えば、あの時も……全ての始まりとなったあの日も、今と同じだったように思う。
ゲイムギョウ界に来る前日、遊び疲れた俺は帰ってすぐ自室のベッドに伏した。その時に何か兆候はあったかもしれないが、今となっては知る由もない。
ぐっすり眠り、目を覚ました時には既に、ゲイムギョウ界の草原──バーチャフォレストにいた。もう見慣れたものではあるが、当時の俺にとっては何があるか分からない、未知の世界だった。……そう、今のこの空間の様に。
「で、えぇと……とにかく私達は自己紹介すれば良いの……?」
《そう! これなら技術とか身体能力なんて関係ないし、チュートリアルにうってつけでしょ?》
「チュートリアルって……」
この空間に飛ばされた者は俺以外にもいたらしく、大部屋には俺を含め七人。それとぬいぐるみ。どうもぬいぐるみは案内役らしく、出る当ても無い俺達は取り敢えず説明を聞いていた。
《あれ? もしかして自己紹介苦手? わたしは割と得意だよ?》
「苦手じゃないし、別にそっちの事は聞いてないから……」
今は白より黄色い髪をした少女が、若干げんなりしつつもぬいぐるみと話している。げんなりしてしまう理由は、俺にもよく分かる。
見回すとそんな感じで困惑の表情を浮かべている者が何人かいた。…皆不安なんだろうな、当然か。
《まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。制限時間とか無いし、気負う必要も無いんだからね》
「試練とかじゃなければ、そもそも気負う必要なんてないんだけど……?」
《はーい!それじゃあ質問タイムいってみようか!》
少女の言葉は流され、質問タイムに移る。ぬいぐるみは中々図太い性格らしい。
…といっても、自己紹介に関する質問など早々浮かぶはずも無く、俺達を取り巻く周囲に微妙な空気が流れ出す事十数秒。
「一つ……いや、二ついいか?」
《うん、どうぞ!》
このまま始まるかと思いきや、ここまで無言だった年上らしき男性が手を挙げた。
「自己紹介しろという事は理解した。だが、全員が自己紹介すればそれで達成なのか? 名前さえ名乗ればそれで成立と見なされるのか?」
『あー…!』
鋭い視線のままで訊いたその人の言葉に、俺達ははっとした声を上げる。言われてみればその通り、今のままじゃ達成条件がはっきりしていない。名前を言うだけでクリア…って事は流石にないと思うが、それだって分からない。
《あー…!》
「いやお前もかよ…で、どうなんだ?」
《それについては心配ご無用! こっちでモニタリングして、十分お互いを知れたと判断したらそこの扉が開く様になってるよ》
「へ? そっちに扉なんて……あれ? あんな所に扉あったッスか?」
俺の言葉も軽く流したぬいぐるみが示した先には、今まで無かったはずの鉄格子、そしてそれに閉ざされた扉があった。…いつの間に現れたのだろう。俺達が気付かないように、ぬいぐるみが事前に隠していた物だろうか。
《他に質問ないかな? 無いならこれで試練開始だよ……あっ、そこの床は収納スペースになってて椅子が入ってるから、それに座って自己紹介してね~》
「あっ、ちょっ……消えた」
薄黄色髪の少女の制止より早く、ぬいぐるみはどこかへ消えていった。……ぬいぐるみ、図太い上に自由奔放過ぎる。
『…………』
「……えっと…取り敢えず、椅子…出す…?」
一応何をすればいいかは分かった俺達だが、突然投げ出される形で始まったって即座に自己紹介なんて出来る訳がない。その結果、初っ端から沈黙が訪れ…そこで頬を掻きながら、赤髪の少女が椅子の用意を提案してきた。
という訳で、指定された場所から椅子を取り出す俺と男性。一応とはいえ力仕事な以上、やっぱり女の子にやらせるのは忍びないしな。
「これでよし、っと。…ん?」
「…どうかしたかい?」
「あーいや、椅子の他にも何かありまして……」
収納スペースから背もたれの無い一人用のソファを配置し、それぞれ腰を下ろした俺達。ちなみに椅子の他にもボタンの付いた半球状の機械が落ちており、押すと上から「やっほー、呼んだ?」という声が。…ファミレス方式の理由は分からないが、ぬいぐるみを呼び出す為のボタンらしい。
「ありがとうございます、二人共。…それで、誰からやります…?」
「わたしは、出来れば後の方で……」
「私は何番でも良いかな。でも、こうやって集まって自己紹介なんて、まるで学校みたいだね」
『あー……』
『へぇー……』
ぬいぐるみがまた消えた後薄黄色髪の少女、栗色髪の少女と発言が続き、赤髪の少女は俺にとって少し懐かしい単語を口にした。…が、その赤髪少女以外の女子四人は初耳みたいな反応をしている。……という事は、さっき強烈な蹴りを見せていた少女だけじゃなく、残りの三人も女神だとか…?…いや、まさかな。
そうして訪れた、「誰かやる…?」の雰囲気。…うーん、これじゃ先に進まないし……やるか。
「んじゃあ、俺からで良いかな?」
「おっと、誰もいないからウチがって思ってたッスけど……お先にどうぞッス」
「悪いな、ありがと」
軽く手を挙げながら皆に訊くと、偶然にも黄色髪の少女も同じタイミングで名乗り出ようとしていたらしい。だが、その少女は気さくに順を譲ってくれた。
まずは一番手、こういうのに慣れてる訳じゃないが、後の奴がやり易いように自己紹介だ。
「俺の名前はカイト。プラネテューヌ特命隊って組織に入ってるんだ。短い間だけど、これから宜しくな」
「特命隊……名前からして、それは軍の一部隊なのかい?」
「うーん、教会がモンスターから守る為に作った組織ですけど、軍と言って良いのか……まぁ、戦いが仕事って意味では軍隊と同じですね」
男性の質問に答え、自己紹介を一旦区切る。これで皆の気分が楽になると良いけど……どうなるかな。
「プラネテューヌ……って、事は…カイト、さんもゲイムギョウ界から…?」
「あぁ。けど俺の場合、ゲイムギョウ界から飛ばされてはいても、ゲイムギョウ界生まれじゃないっていうか……ここら辺の事は、俺もまだ分かってない部分が多いんだけどな」
「出生地と現在住んでいる場所の違いッスね。分かるッス」
一番最初の返答は、銀に見える金髪の少女の質問。カイトさん『は』じゃなくて『も』って事は、この少女もゲイムギョウ界から飛ばされたんだろう。
「後は…そうだな。俺は戦闘の時は大剣を使ってて、攻撃にはそこそこ自信があるんだ。だから何かあったら頼ってくれ」
「って事は、私と同じなんだね。私もそれなりに自信があるから、負けないよ?」
「ははっ、だったら何かの機会に手合わせしてみるのもいいかもな」
そう、ここには少なくとももう一人大剣使いが…今返答してくれた赤髪の少女がいる。彼女も結構なパワーを見せていたし、愛想じゃなくて本当に手合わせはしてみたい。
…という感じで、俺の自己紹介は終了。そんなに色々は話してない気もするけど、皆からは温かい拍手を貰う事が出来た。…こういう拍手って、気分良いよな。
「じゃ、次はウチがいくッス。あ、二番目やりたい人がいるなら譲るッスよ?」
さっきのやり取りの通り、黄色髪の少女は二番目に立候補。それに対する異論もなく、周囲の反応を確認した少女は自己紹介を始める。
「こほん。ウチは篠宮アイ。色々あって女神になったごく普通……とは言えない女の子ッス。因みにウチもゲイムギョウ界から飛ばされてきた訳ッスけど、神次元…って言って分かるッスかね?」
(神次元…?…聞いた事あるような、無いような…というか……)
『女神になった……!?』
「あー、神次元を知らなきゃそうなるッスね……」
軽快な調子でスタートを切った金髪の少女──アイが気になる事を言った。
女神になった。神次元。確か女神は生まれつきだと聞いていたが、どうも違うらしい。いや、神次元の女神がそういう仕組みなのか?
「詳しく説明すると長くなるんで簡単に言うと、神次元の女神っていうのはそういう物なんッス。どうしても知りたいというなら話すッスけど、今は自己紹介を続けてもいいッスか?」
「うん、だいじょーぶだよ」
「どもどもッス。…女神としての名前はローズハート、さっきの通り蹴りを中心にした近接戦が得意ッス。……あ、でもだからって自爆を何度もしてたりブーメランの対処が蹴り返しだったりはしないッスよ?」
赤髪少女からのゆるーい返答を受けたアイは、冗談混じりに自己紹介を続行。やはり女神なだけあって、人前で話すのは慣れている模様。
ローズハート。さっき変身していた赤い髪の女神の名前か。思い返せば、雰囲気が全然違う。ネプテューヌやうずめもそうだったけど、女神化すると見た目は勿論、性格も結構変わる物なんだろうか。
「で……他にも言おうと思えば色々言えるッスけど、最初からガッツリ言っても覚えられないッスし、ウチの自己紹介はこの辺にしておくッス。あー、それと……」
『……?』
「…この髪、誰か梳かしてくれると嬉しいッス…」
てへへ、と苦笑いを浮かべながら自己紹介を終えたアイ。確かによく見ると、髪が跳ねているのが分かった。そういえば俺も起きてすぐにこの部屋に来たんだっけな。手入れもしていないだろうし、自分でやらないのか…というのはさておき、跳ねているのは仕方ないのかもしれない。……後、俺の髪は跳ねてないだろうか。ちょっと心配だ。
「人の髪を梳かす時は、鏡があると楽なんだけどね……さて、次は私がしても大丈夫ですか?」
「じゃあ、私はその次にしよっかなー」
その後、アイの髪梳かしを買って出た白黄色の少女と赤髪の少女が名乗り出る。雰囲気からして、この二人も誰も先陣を切らなければ自分が最初を…と考えていたのかもしれない。
「じゃ、やらせてもらいますね。私の名前はイリゼ。私がいたのは信次元っていうゲイムギョウ界で……って言うのは掘り下げても仕方ないですよね。実は私も女神なんですけど、普通とは少々違いまして……」
『…違いまして……?』
「……原初の女神の複製体、原初の女神が生み出したもう一人の原初。それが私。って言っても、もう一人の私程強くはないんだけどね」
途中から口調を変え、自分が女神…それも普通の女神が違う事を説明したイリゼ。原初の女神の複製体……複製体というのも気になる所だけど、原初の女神っていうのが一番気になる。
「……原初の女神、ッスか…」
「……?そうだけど…何か気になるところがあった?」
「…いや、何でもないんで続きどうぞッス」
「あ、うん……ええと、信次元では女神だけど国を持っている訳じゃないっていうちょっと特殊な立ち位置で、平時は特務監査官って職務を務めてるんだ。それで……何の因果か、これで別次元かそれに準じる場所へ飛ばされるのは、計四回目だったり……」
「あぁ…そういえば、もう四回目になるんですねイリゼさん……」
「あはは…でも、ディールちゃんももうそこそこの回数じゃない?」
……凄いな、もう四回も別の次元に行ってるのか。原初の女神……の複製体となるともう何回も行くようになるんだな。…いや、勿論原初の女神の複製体だからかどうかは分からないが…その時の話、ちょっと話を聞いてみたいな。
ところでイリゼの発言で、栗色髪の少女の名前が分かった。ここにいる奴らは全員初対面かと思ってたけど、あの二人は知り合いみたいだ。
「なぁ、もしかして二人は同じ次元から来たのか?」
「私とディールちゃん? それなら違うよ。でも私達は前にも今と似たような事があって、今ではすっかり友達になったんだ。最初は結構本気で戦ったりもしたんだけど、ね」
「似たような事……では、イリゼ様は過去にもここに来た事があるのですか?」
「うーん……正直、まだここがあの時の場所と同じかどうかは分からないです。ただでも、ここは何となく違うような……」
「そうですか…すみません、自己紹介の腰を折ってしまい」
「大丈夫です、気にしないで下さい。…えー…ちょっと話が色んなところに飛んじゃった気もするけど、とにかく皆宜しくね!」
女神とあってか、声色に敬意が含まれた男性の質問に答え、ニッコリと笑ってイリゼは締め括った。女神化後にどうなるのかはまだ知らないけど、ここまでだとイリゼからは割と普通な印象を感じる。…うちの同僚みたいに何かを切っ掛けにガラッと変わるタイプの可能性もあるけど。……しかし、原初の女神か……ローズハートもだけど、興味が湧いてきたな。
「はーい、じゃあ私の番だね。私は仙道茜。髪が赤いから茜、って考えれば覚え易いと思うな。出身……は多分そんなに特筆する事がある次元じゃないと思うから飛ばすけど、私も前の三人と同じくゲイムギョウ界出身だよっ!」
「おー、お嬢さん…じゃなくて茜もゲイムギョウ界なんッスね。…これもしや、全員そうなんじゃ…?」
「そんな事は流石に……あるかもね、この流れだと…」
イリゼに続く四番手である、赤髪の少女──茜の言う通り、確かにここまで自己紹介をした奴は俺含めて全員ゲイムギョウ界の出身だ。もしかすると、残りの三人もそうなのかもしれない。
実際ディールは魔法を使っていたし、男性も女神のイリゼに対する態度から分かる。唯一、金髪の少女だけは分からないが、ここにきて違うって事は無いだろう。…違ってたらごめん。
「それで……うーんと、こんな見た目だけど一応先生をやってるんだ。ふふん、だから子供の扱いは中々得意だったりするんだよ?特に色々あってルウィーの子とは先生関係無しに付き合いがあったりするし」
「は、はぁ……(…それは、茜…さんの次元のわたしやラムちゃんの事を言ってるのかな…)」
「…あの、まさかそれって、先生は先生でも剣術教室の先生だったりは……」
「へ? あ、いやいやそれは流石に違うって。そんな物騒な先生……いない事もないか…何があったのか敵の幹部から先生にジョブチェンジしちゃった人とかいるし…もっと言えば、私も経歴が経歴だし……」
どうも静かな印象を受ける金髪の少女からの指摘に対して、茜も茜で物凄く気になる事を言った。敵の幹部から云々も気になるが、過去に何があったんだろうか……知りたいけど、訊かないでおくか。
「…まあ、とにかく今やってるのは普通の先生だよ。でもさっきの通り戦闘面にもそこそこ自信はあるから、何かあったらこのあかねぇにお任せあれっ! ……あ、茜でも茜ちゃんでもあかねぇでも、好きに呼んでくれていいからね!」
「ほうほう、じゃあ茜ちゃん…はちょっと長いんで、略して『かねち』って呼ぶッスね!」
「それだと渋谷系パリピ芸人っぽくなっちゃうからそれは止めてほしいかな!?」
「おぉ、もうすっかり仲良くなってるみたいだな。宜しくな、茜」
自己紹介が始まって十数分。このやり取りの後普通に呼び捨てで呼ぶ事にしたアイと茜は勿論、最初の引き締められた空気が段々と和らいでいる気がする。これならこの調子で行けるんじゃないか。
「ふぅ…じゃ、次はどなたかな?」
「…え、と……」
「…………」
「……それでは、私がやらせて頂いても?」
…と思った矢先。茜の次に出る者が現れず、再び沈黙が漂った。金髪の少女はまだ馴染めてないのか迷った様子。栗色髪の少女……ディールも気乗りしないようだ。和らいだ空気が再び張りつめていく。
そんな状況から判断したのか、すっと男性が手を挙げる。当然他にやりたいって人がいない訳だから、駄目という意見もない。
「では…こほん。私はミスミ・ワイト。ルウィー出身で、現在は軍人を務めております。…正直、異世界だの別次元だのはつい最近まで信じておりませんでしたが…とある知人の関係で、一先ず現在は現状を受け止めている。といった状態です」
「軍人……あぁ、やっぱりその系統の方だったんですね」
「……という事は、雰囲気が漏れていたのですね。お恥ずかしい限りです」
それまでの緩い空気がビシッと引き締まる、ワイトさんの自己紹介。やっぱり、本物の軍人は雰囲気が違うな……。
「因みに、階級はどの辺りなんですか?」
「階級?…まあ、おかげさまで今は大佐だね」
「大佐って言えば……良く分からないですけど、結構高い方ですよね? 参ったな、仮面のエースパイロットがよくやってる階級の人と一緒か……」
「まぁ、確かに私もなった時は『遂にこの階級に…』とは思ったけどね…でも、私なんて女神様の前じゃ吹けば飛ぶようなものさ」
「えっ……そんな偉い人でも吹けば飛ぶなら、ニートの私は何もなくても吹っ飛んでいく、紙くず同然の存在なんじゃ……」
『え……』
階級について話してる途中、金髪の少女が放った言葉は場の空気が凍る物だった。…もしかしてこの少女、静かっていうか…ちょっと後ろ向きな思考なんじゃ……?
「い、いや…えぇとだね、今のは言葉の綾であって、更に言えば謙遜であって、別に君が自分を卑下する必要は…」
「いいんです、自覚はありましたから…っていうかプロフィールに『職業:ニート』って書いてあるマジもんのニートさんなので、むしろ自分のヤバさを自覚する良い機会になったっていうか……」
「や、ほんとに大丈夫だって!えぇとほら、私も最初の旅じゃずっと無職だったから!全然セーフだよセーフ!」
「そッスよお嬢さん!ウチも一時期家出からのニートみたいな状態あったし、割とニートはありふれたもんッス!」
「いや、ニートがありふれてる社会はちょっと……」
『フォローしたのに斬り返された!?』
ヤバいな、良くない流れになってきてる。フォローに回ったイリゼとアイが逆に斬られてしまった。俺もフォローに回りたいけど、こういう時は何と言えば良いのか……。
「……あー…お嬢さん、クエストの経験は?」
「クエスト…? 一応、ありますけど…」
「では貴女は賃金の発生に見合うだけの仕事をしている、つまり俗に言うニートはともかく正式な意味でのニートに該当するとは限らないよ。それにニートは本人だけが悪いとも限らないんだから、君はもっと自信を持ってもいい」
「そ、そうですかね…?積極的にクエストで稼いでない以上、私はやっぱり……」
「まぁまぁ、この場所じゃ女神とか軍人とかニートとか関係ないし、自分を卑下する事は無いと思うぜ。今は俺達皆同じ境遇だし、な?」
「えっ……けど皆さん程……」
「えー、こほん。そういえば私の自己紹介が途中でしたね!軍では近衛連隊長をしており、不肖ながらブラン様に付き従っている形です。しかし別次元の礼儀作法というのは流石に分かり兼ねますので、無作法があればどうぞ指摘を、以上!」
……今、かなり危なかったかもしれない。ワイトさんのアシストがあって何とか収まったものの、それがなければどうなっていた事やら。ありがとうございます、ワイトさん。
「い、いやー近衛の人がいるのは心強いね!それより次はどっちがやる?この勢いに乗っちゃった方が楽だと思うよー?」
「…どの勢いに乗れと…?」
「うっ、それは……」
一方、イリゼの方は躓き気味。でもこれで空気が再び和らいだ気がする。アシストの内容はともかく、何とかなって良かった…。
「…あの、お姉さん…次、どっちがやります…?」
「お、お姉さん…!?……あ、うん…そう、だね…」
「…………」
「…じゃあ、次…やらせてもらっていいかな…? ほら、今のままだと私、皆に気遣いばっかりかけちゃいそうだし……」
「あ…はい、ではお先どうぞ…」
…というやり取りの結果金髪の少女が先にやる事になり、結果的にディールが一番最後となった。
「あの、私はルナって言います。得意な事…はちょっと分からないです。苦手な事は、スタミナを必要とする事…かもしれません。宜しくお願いします。…じゃ、流石に短いですよね…?」
「いや、それで良いんじゃないか。別に長くしないといけないって訳じゃないし、自己紹介なんて無理に捻り出すものでもないし」
「そうなんですね…けど、もう少し何か……あ」
『……?』
「……記憶喪失です、私」
『え、貴女も?』
「へ?」
多分ここまでで一番普通の、金髪少女ことルナの自己紹介。そんな彼女が追加する形で言った『記憶喪失』という言葉。当然それは誰にとっても驚きなものの……その言葉に、イリゼとディールの二人も驚きの反応を返した。
「…えっと、実は私も記憶喪失だったんです。今はもう、記憶を取り戻せましたけど……」
「私も、ね。尤も私の場合、記憶を『失った』じゃなくて、そもそも記憶が『無かった』訳だけど」
「……あれ…もしかして私が誤認していただけで、記憶喪失って…探せばそこそこいるレベルで見つかるものなの…?」
『いやいやいやいや……』
七人中、三人が記憶喪失経験者。一人は既に取り戻しているが、一人は現在進行形、もう一人に至っては記憶自体が無かったという事実。正直これは、ここに飛ばされたのに次ぐレベルで驚きな気がする。…こうやって和気藹々としてるから分からなかったけど、皆結構苦労してるんだな……。
「…そっか、こんなところで記憶喪失仲間が得られるなんて……な、なんかちょっと元気になってきました…!」
「安心出来るもんね、同じ経験してる人がいると。因みに、私の友達にも記憶喪失者がいたりするんだよ?」
「ほ、ほんとに多いですね…あ、でも記憶喪失って言っても一般常識はある…と思うので、そこは心配しないで下さい。後多分、月に一度位のペースでへろへろになっちゃいますけど、それも体質なので気にしないで下さい」
「それはまた難儀な体質だね……」
「じ、自覚はあります…そんな感じで皆さん程力強さはないですけど、足を引っ張る事はしないよう頑張ります!終わりですっ!」
茜からの苦笑いに苦笑いを返した後、深々と頭を下げてルナも自己紹介を終えた。周囲から拍手を受けるとルナはほっとしたような表情を浮かべ、ぽふんと尻餅をつくようにソファへと座る。お疲れ、ルナ。
「それじゃあ…お待たせ、えっと…ディールさん、でしたっけ…?」
「は、はい……しまった、今更だけどわたしが最後を務める事になっちゃった…」
安堵の溜め息を吐くルナと、トリを務める事を忘れていた様子のディール。とはいえ自ら順を譲った事もあってか、嫌がる事なく立ち上がって自己紹介を始める。
「…すぅ、はぁ……」
『…………』
「…とある事情でロムちゃ…こほん、女神候補生ロムとラムの侍女をしているディールです。…自己紹介って、これでいいのかな…(ドキドキ)」
「…うん、それメガミラの自己紹介だよね!?何代用で済ませようとしてるの!?」
「……冗談ですよ、冗談…」
「ならその間は何!?」
……ディールの自己紹介だった筈なのに、始まったのは漫才だった。…それにしても、ディールは以前会ったロムとラム…確か、ルウィーの女神候補生だったかな…に凄く似ている。それこそ、二人同様双子であるかのように。
「…緊張してたんですよ、ふざけたんじゃないです…今言った通り、わたしは二人の侍女をしています。…しては、いるんですが……」
「…ディールちゃん?」
「…わたしもカイト、さん…と同じく生まれた次元と飛ばされる前にいた次元が違う人間……じゃなくて、女神です。どういう経緯かは…長くなるので、ここでは省かせてもらってもいいですか…?」
緊張故の冗談だったのだと話し、改めてディールは自己紹介を開始。…歯切れの悪さを感じるものの、ディールから見た目以上の落ち着きを感じられる。それこそ似ている二人よりも、どことなく大人な雰囲気が。
「それで、ええと…得意なのは、魔法です。けど色々あって、近接戦も少しは出来ます。……でも女神だからって、アイさんや茜さんレベルを想像はしないで下さい…わたしはごく普通の、並な女神ですから」
((壁に最後の一撃を入れたのに…?…というか、並の女神って一体……))
「…な、何ですか……?」
…と思ったけど、どうやら完全に大人な性格って訳でもないみたいだった。
そこでふと、この部屋から出る為に壊された壁に目を向ける。先にアイと茜が取り掛かり、既にボロボロだった所をディールの魔法によって完全に破壊された壁。二、三人なら余裕で通れる程の大きな穴が出来たが、並の女神ならあれぐらい朝飯前なのだろうか。
「あはは…見ての通りディールちゃんは大人しい子だけど、すっごく優しくて良い子だから皆仲良くしてあげてね」
「む…なんで保護者みたいな事言ってるんですか…まぁ自己紹介締めてくれたので良いですけど…」
「元々知り合いだけあって、二人は打ち解けてるッスねぇ。……で、これで全員自己紹介が終わった訳ッスけど……」
「…開き、ませんね」
これで全員の自己紹介が終わった。だが開かれるはずの扉はワイトさんの言う通り閉ざされたままで、何の変化も起こらない。
まだ何か足りてないのだろうか。そう考えていたのは、ルナも同じらしくて口を開く。
「…まだ、紹介が足りない…って事、でしょうか…?」
「かもしれないけど…どうなんだろう?私達全員それなりには話した訳だし、これ以上ってなると出会って数十分から数時間の相手にするレベルじゃない話になりそうだし…」
イリゼの言葉通り、自己紹介は十分の筈だった。それでも開かないとなると紹介が足りないか、まだ自己紹介していない者がいるか。…と言っても八人目以降なんて見当たらないし、足りない場合だって後どの程度やればいいのか分からない。
一体どうしたら開くのか。皆で考え込んで数十秒。途中、俺も拾ったボタンを手に取りつつ考え……
(…そういえばこれ、ぬいぐるみ呼び出せるんだっけ)
どうしてこんな物があるのか、最初は分からなかったが、もしかすると手詰まりの時に使う物かもしれない。俺はそう考えて、早速ボタンを押してみる。
《はいはーい、何かご用かな?》
ボタンに反応し、どこからともなく現れたぬいぐるみ。…色々思うところはあるが、とにかく訊いてみよう。
「俺達、もう自己紹介終わったんだけど、扉が一向に開かないのはどうしてだ? まだ何か足りないって言うのか?」
《それはねぇ……ってあれ?…うーん、おっかしいなぁ…わたし的にももう開くと思ってたのに……何でだろう…》
「いや、何でアンタがそれを分かってないんッスか……」
《いやそんな事言われても……あ、もしや…》
どうやらぬいぐるみも分かっていない様子。嘘をついてる感じはしない。答えてくれるかどうかは分からない、とは思っていたが……何なんだ、このぬいぐるみ。
…と思っていると、何かに気付いたようにぬいぐるみは考え始め…それから、言った。
《こほん。わたしは……っと、皆はわたしをなんて呼びたい? 適当に決めてくれると嬉しいけど、出来れば可愛いのが良いな》
「えっ? うーん……何かカンガルーっぽいから、カンガルー・ケン……いや、イヌンガル…?」
「……じゃあ、ワンガルー…とか…」
《お、ディールちゃんそれいいね!じゃあわたしはワンガルー!皆の案内役兼マスコットだよ!好きなものは賑やかな事と楽しい事!嫌いなものは…まぁ何かしらあると思うな!という訳で宜しくね!》
「いや、なんで君が自己紹介を始め……えぇ!?開いた!?」
何故か自分についてあのぬいぐるみ…いやワンガルーが口にし終えると、ゴゴゴゴ……と物音が鳴り、突っ込みから転じて驚きを見せる茜。見た先には鉄格子で閉ざされた扉が開かれ、通行可能になっていた。つまり……自己紹介というのは、このワンガルーも含まれていたようだ。
《ははーん、やっぱりね!わたしも含められてたんだね!いやぁ、確かにこれは初見じゃ気付けない気付けない!でも開いたんだから結果オーライ、という事でお疲れ様皆!次の試練へGOだよ!》
さも自分の手柄であるかのように言って、開いた扉の方を指し示すワンガルー。何となく分かっていたが、謝罪や反省をする様子は微塵もない。
ワンガルーから与えられた第一の試練、自己紹介。それを無事に達成した俺達だが、あの扉の先に何が待ち構えているのかは分からない。
でも、然程不安は感じない。確かに見知らぬ場所へ飛ばされたが、それは俺だけじゃない。先に進む仲間がいる。そう、俺と同じ六人が──
『…………』
「あれ、皆どうした?」
結果オーライと言えば結果オーライ。さぁ次も頑張ろうと俺が思って歩み出す中……何故か六人は全員、脱力していた。
今回のパロディ解説
・「〜〜自爆を何度も〜〜蹴り返し〜〜」
ガンダムSEEDシリーズの登場キャラの一人、アスラン・ザラの戦場における特徴の事。赤くて近接戦が得意でよく蹴る……やっぱりアスラン(特にdestiny時)を連想しますね。
・敵の幹部から先生にジョブチェンジしちゃった人
原作シリーズのメディアミックス作品、超次元ゲイム ネプテューヌはいすくーるにおけるブレイブの事。あ、勿論茜が言っているのは彼女の知るブレイブですよ?
・かねち、渋谷系パリピ芸人
お笑い芸人のコンビ、EXIT及び兼近大樹さんの事。茜ちゃん、略してかねち…それが成り立つと気付いた時、我ながら驚きました。完全な余談ですが。
・仮面のエースパイロット
ガンダムシリーズにおける、文字通り仮面を付けたエースの事。シャアを始め、ガンダムシリーズには仮面の大佐がそこそこいるんですよね。…様式美、かもしれません。
・「〜〜女神候補生〜〜(ドキドキ)」、メガミラ
メガミラクルフォース及びその中におけるロムのキャラ画面での発言のパロディ。あくまでネタなので、ここから皆がディールの正体を…的な事はありません、はい。