超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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今回のタイトルも、一応『緑白』は『りょくはく』と読むつもりです。…が、前回同様好きに読んでくれて構いません。


第十三話 守護女神と支部長・緑白編

サブカル全般を趣味に持つわたくしにとって、映画もまた趣味の範疇。それはアニメの劇場版や小説、漫画のメディアミックスは勿論の事、オリジナルや実写であっても嗜好に合えば見てみたいと思うのがわたくしというもの。

それと同時に、同人活動も勿論範疇。職業に貴賎がないように、そこに悪意がない限りは創作活動にも貴賎は決してありませんもの。実際同人活動に手を出したりもしている訳で……だからこそわたくしにとって、エスーシャからの申し出は、素直に参加してみたいと思うものだった。

 

「……相変わらず凝っているな」

「当然ですわ。至らぬもてなしをしては、リーンボックスの女神の名折れですもの」

 

二人で囲ったテーブルの向こう側から、エスーシャが発した一言。それにティーカップ片手に答えるわたくし。現在わたくしは、訪れたエスーシャとティータイムの真っ最中。

 

「…従者ではなく国の長がもてなしの準備をするのは、名折れじゃないのか?」

「それはいいのですわ。だってわたくしが自分で淹れたかったんですもの」

「……サブカル趣味といいこれといい、わたしは君が貴族的なのか庶民的なのか時々分からなくなる…」

「まぁ、それに関してはどちらも併せ持つ、と言ったところですわ」

 

エスーシャは釈然としない顔をしているものの、わたくしからすれば普通の事。だって、そうでしょう?もてなしは女神として疎かに出来ない事で、それと趣味とは全く別の話ですもの。…まぁ、「興味ないね」を筆頭にインパクトは強いものの基本は常識的なエスーシャが変に思うのも、理解自体は出来るのですけれどね。

 

「併せ持つ、か…まあいい。それより本題に……」

「その前に一つ。…イーシャと身体は、大丈夫でして?」

 

何度か口にしたカップを置いて、訪れた目的に入ろうとしたエスーシャ。そこにわたくしがあの出来事以来何度か訊いている問いを口にすると……エスーシャは、小さく笑う。

 

「全く、君は随分と心配性だな。…この通り、わたしも身体も…イーシャも元気さ」

「それは良かったですわ。けれど、何度も訊くのは当然ではなくて?わたくしあの件で、危うく殺されかけたのですわよ?」

「うっ……それは…」

「…と言うと気不味い雰囲気になるので、今後言うのは控えようと思いますわ」

「…それは言う前に思うか、心の中だけで言ってくれないかベール……」

 

普段は無表情か仏頂面でいる事の多いエスーシャが、笑みを見せるのは珍しい事。そこでつい魔が差してしまったわたくしですけど…流石に今のは盛り上がりませんわね、当たり前と言えば当たり前なのですが……。

 

「…こほん。して、本題というのは何かしら?」

「あぁ。…だが、その前にこちらからも一つ。あの日、最後にわたしが言った事を……」

「勿論忘れてはいませんわよ。…という事は、本題というのも……」

 

咳払いで仕切り直したわたくしが訊くと、エスーシャからと質問が一つ。それを経てエスーシャが取り出したのは、左上を留められた紙の束。やはり、本題というのは……エスーシャの抱えていた、イーシャとの問題を解決した日にわたくしへ向けて言ってくれた、映画に関する事らしい。

 

「まだ最終決定はしていないが、これが次に作ろうと思っている映画の脚本だ」

「つまり、ここに貴女達の作りたい映画の内容が載っているんですのね。…ほぅ、これは中々しっかりと……」

「当然だ。基礎となる脚本を適当にする訳があるか」

「ですわよね。では、少し読ませて頂きますわ」

 

恐らくはプリントアウトしたのであろう脚本をぱらぱらと捲りながら目を通すと、書いてある文章は小さく文字数も多い。要はびっしりと書かれていて、それだけでも少し期待は増す。

一通り捲り終わったわたくしは、二枚目(一枚目は表紙)に戻り、今度はじっくりと読書開始。…って、この場合読書という表現で良いのかしら…書を読んではいますけれど…。

 

「…………」

「…………」

 

読む途中、ちらりと視線を上げてみると、エスーシャは混じり気のない真顔のまま。…メンタル強いですわねぇ、エスーシャは……わたくしにどう思われようが興味ないだけかもしれませんが。

 

(…って、流石にそれはないですわよね。この映画においては、わたくしも演者になる訳ですし)

 

そんな事を考えながら読む事約十分。ざっくりとながら読み終わったわたくしは、軽く息を吐いて脚本を置く。

 

「…どうだ」

「えぇと……何か、出版社に作品を持ち込んだ新人と編集者みたいな構図になりましたわね」

「…………」

「あ、冗談は要らないと…早く感想を聞かせろと……」

 

ふと思い付いた他愛ない冗談を言ってみたものの、返ってきたのは微動だにしない完全な無言。…もし軽い冗談ではなく渾身のボケでこの返しをされたら、わたくし心折れていた可能性ありますわね……。

とまぁ普段の調子で話すわたくしながら、実はちょっと困っている真っ最中。それは何故かと言いますと……

 

(…思った以上に、厨二チックですわね……)

 

…よく言えば特定層によく刺さる、悪く言えば少々イタい部分が散見される内容であった為。いえ、勿論そういう要素そのものを否定するつもりではありませんわよ?それに面白いかつまらないかで言えば、面白い上中々練られている脚本ですし。ただ、なんと申しますか…サブカルにどっぷり浸かっている者としては、どうしても厨二感が目に付いてしまうのですわ…。

 

「……ベール?」

「あ、あぁ何でもありませんわよ?えぇ何でもありませんとも…」

「…怪しいな」

「うっ……」

 

訝しげな視線を向けてくるエスーシャに、口籠ってしまうわたくし。…というかまさか、エスーシャもそちら側の人間だったとは…確かにその片鱗がない事もありませんでしたけど、こんな形で明白になるとは……。

…と、わたくしが言葉に詰まっていると、エスーシャはほんのり表情を曇らせる。そして彼女は、言った。

 

「…あまり君の気には召さなかったようだな…」

「あ……い、いえそんな事はありませんわ!」

「いや、いいんだ。誰にも好き嫌いはあるもので、加えてわたしはアマチュアの人間。君を唸らせるとは言ったが…こうなる事も、想定してはいたさ」

「ですから本当にそうではありませんの!…ただ、その…少々、厨二要素が気になると言いますか……」

 

肩を竦め、落ち着いて…けれど少しだけ残念そうに「いいんだ」というエスーシャを見ていると、わたくしまで悲しく、また申し訳ない気持ちになってしまう。そしてそんなエスーシャを見ていられず、わたくしは躊躇いながらも口にした。どうしてもスルーの出来ない、気になる事を。

当然ながら、真偽はどうあれ『厨二』と呼ばれて喜ぶ人は滅多にいない。大概はあいちゃんやブランのように(ブランは厨二というより、作品に対してその要素が出易いタイプですけど…)恥ずかしがりながらも否定するもので、だからこそわたくしはエスーシャに対しても同様の反応を覚悟した。…したの、ですけど……。

 

「…厨二…?…この、脚本が……?」

「え……?」

 

エスーシャが返してきたのは、予想とはほぼ真逆の反応。一瞬、厨二という表現そのものを知らないという可能性を想像したものの、反応から見てそうではない様子。

 

「いや、あの…?そうでは、ありませんでして…?ここのネーミングセンスや、このシーンの台詞回しなどは、厨二的だと思うのですけど……」

「……そう、なのか…?」

 

明らかに違和感のある反応に、わたくしは具体的な部分を指差して言ってみるものの、エスーシャの反応は相変わらず。へ、平然を装っている訳…ではなさそうですわよね…それにエスーシャが、こんな締まりのない反応を好き好んでするとも思えませんし……で、では…まさか……

 

(まさか…エスーシャは、無自覚タイプの厨二病なのでして……!?)

 

いやまさか、そんな馬鹿な…思わずそう言いたくなる程に、落とした筈の前大戦の英雄が立て続けに現れたが如く戦慄するわたくし。厨二病である事は、多少驚きではあるものの十分許容範囲内。それを映画に反映させる事も…まぁ、趣味でやっている事ですしよくある話。けれど、エスーシャ……貴女、夕弦さんタイプの厨二病だったとは…。

 

「……興味ないねの一点特化型かと思いきや、別の属性も有していたんですのね…」

「話は読めないが、何かその言い方は不服だ」

「あ、これは失礼…しかし、これは……」

 

不服と言いつつエスーシャの表情は変わらぬまま。…が、エスーシャはあまり感情を露わにしないだけで、感情の起伏自体が乏しい訳では決してない。…って、今はそれよりも考えるべき事がありますわね……。

 

(…どうしたものかしら……)

 

エスーシャは、わたくしの顔を見つめたまま。彼女がわたくしの次の言葉…感想や参加不参加の表明を待っているのは明白で、わたくしが何かしら言わなくてはこの状況は進まない。

けれど、けれどもしかし、わたくしは今大きな決断を迫られている。……厨二病の件を掘り下げるか否かという、今世紀(…では、ないですわね…妥当なところで今月辺りかしら…)最大の選択を。

 

「あ、あー…こほん。エスーシャ、脚本というのはこれ一本でして?もしや、他にもあるのでは?」

「…聡いな、何故それを?」

「ふふっ、女神の目は誤魔化せないのですわ(実際には根拠ゼロで、取り敢えず言ってみただけですけど…)」

「大したものだ…その通りだ、ベール。これとは別に、もう二本考えた脚本がある」

「でしたら……」

「…が、一番良い出来なのがこれだ。正直言えば、これまでの中でもかなりの自信作になったと思っている」

「…そ、そうですの……」

 

もしこの件を掘り下げた場合、エスーシャは厨二病を自覚してしまう可能性がある。かと言って掘り下げなかった場合、わたくしは内容に関して気になったまま参加する事になってしまう。…そんな二択に対し、まずわたくしが選んだのは……別の脚本という、第三の選択肢。そして訊いてみた結果、別の脚本自体は合ったものの…自信作と言われてしまうと、そちらにしたいとは言い辛いですわ…。

 

「あぁ、まさか君を組み込む事でこんなに良い脚本が出来上がるとは思っていなかった。ずっと自分とイーシャ、ヌマンにレディの四人でやっていたわたしにとって、君は新風そのものだったという訳さ」

「そ、それは光栄ですわ……」

「感謝しているよ、ベール。それに…わたしは君とこの脚本で映画を撮る事を、楽しみにもしている」

(あぁっ!エスーシャが、小さくも爽やかな笑みを…!)

 

続くエスーシャの言葉に、彼女の見せた楽しそうな雰囲気に、第三の選択肢開拓どころか何も言えなくなってしまう。いや、だって…それはそうでしょう…あのエスーシャが、頬を緩ませて「楽しみにもしている」って言うんですのよ…?…とはいえ一度気になってしまったものはそう簡単には拭えないですし、エスーシャの天然厨二病を自覚させるのも何か抵抗がありますし…うぅぅ、この状況は一体どうすれば……。

 

「……はっ…!」

「……?」

「…エスーシャ、イーシャを呼んで頂けまして…?」

「イーシャを?…構わないが、イーシャに何か用事が?」

「えぇ…とても、とても大事な用事があるのですわ」

「そうか…そういう事なら……」

 

わたくしの表情から真剣さを受け取ったように、エスーシャは首肯した後瞳を閉じる。そうして数秒後、瞼を開けたエスーシャの瞳は…緑色。それはエスーシャではなく、その身体の本来の持ち主……あれ以降、わたくしの使った魔法で何かしらの変化が起きたのか、それとも二人の心境が関係しているのか、少しだけ前より表面に出易くなったイーシャの瞳。

彼女を呼んだのは、迷うわたくしの頭に浮かんだ一つの疑問と可能性を確かめる為。そして、イーシャと対面したわたくしは……言う。

 

「イーシャ、もしや……貴女やレディ、ヌマンはエスーシャの厨二病を分かっていて…その上でまさか、言わずに見守っているのでして…?」

「──はい」

「…や、やっぱりそうでしたのね…はは……」

 

しっかりとした…けれど若干苦笑も混じった、イーシャの「はい」。その言葉で、その反応で、わたくしは理解した。…お三方は、エスーシャの天然厨二病を微笑ましい一面としてみているのだと。そうして……

 

「…うん……?もう、用事は済んだのか?」

「そんなところですわ……さて、エスーシャ…」

「何だ、ベール」

「…映画、一緒に頑張るといたしましょうか…」

 

映画作りが楽しみな事は間違いない。面白い脚本だと思っている。良い作品にしたいというやる気もある。けれど……改めて参加を表明した時、わたくしの心の中を席巻するのは、何と言ったら良いのかよく分からない気持ちだった。

 

 

……因みに、用事やその後急に参加を表明した事について、疑問や違和感がないのか訊いてみると……

 

「興味ないね」

 

──やはりというか何というか、これぞエスーシャと言わんばかりの代名詞が返ってくるのでしたわ…。

 

 

 

 

きちんとした理由も伝えられず、ある日急にシーシャに呼び出された。ルウィーの中では比較的温暖な、だだっ広い草原の中に。

 

「やぁ、来たねブランちゃん」

「えぇ、来たわよシーシャ。ブランちゃんは止めて」

 

飽きもせず会う度にしてくるちゃん付けと共に、わたしへと手を振るシーシャ。その足下には、何やら色々な物が置かれている。

 

「……?これは…肉に調味料?それに……」

「まぁまぁ座ってよブランちゃん。…あ、駆け付け三杯いっとく?」

「…こんな昼間からお酒…?」

「大丈夫よ、これ水だから」

 

近付くわたしにシーシャが勧めてきたのは、背もたれのないアウトドアチェアとコップに入った透明の液体。どうやら本当にただの水らしいけど……そういえばそもそも、シーシャってアルコール大丈夫なのかしら…。…って、お酒が駄目な年齢でこのスタイルはないか。……ちっ。

 

「え、ブランちゃん…?今一瞬、ブランちゃんから敵意を向けられた気がするんだけど…?」

「大丈夫よシーシャ。気にしないで」

「そ、そう…?ならいいけど……」

 

たらりと冷や汗を垂らすシーシャに平然と返してみると、シーシャは「う、うん…そうしておこう…」みたいな顔をしていた。賢明ね。

 

「で、結局用事は何?キャンプでもするの?」

「あ、ううん。アタシが今日呼んだ理由は…これよ」

「これは……」

 

アウトドアチェアに座りつつ本題を切り出すと、シーシャはレジャーシートの中央に置いてあった何か…の上に被せられていた布を取って、その中身を見せてくれる。

その形状は、至ってシンプル。何か火が点きそうな機材の左右に、何かを引っ掛ける為にあるような棒が二本。更に端にはハンドルが付いていて……

 

「あぁ…これだったのね」

「そう、これだったのよ」

 

──それは正しく、骨付き肉や生魚を上手に焼けるアレだった。

 

「…焼肉がしたかったの?」

「間違ってはいないけど、ブランちゃんが考えてるような理由じゃないわ。まぁでも取り敢えずは、一本食べてよ」

 

そう言ってシーシャは肉をセット。点火し、鼻歌交じりにセットした肉を焼き始める。

 

「〜♪〜〜♪」

「楽しそうね」

「楽しいわよ?一番の理由はタイミング合わせだけど」

「あ、実際にそれで焼け具合を調整するのね…ん、段々良い匂いがし始めて……」

「よし、完成!」

「早っ!?」

 

しゅばっ、と肉を掲げるシーシャ。いやそんなまさか、こんなに早く焼ける訳がない…と思ったわたしだけど……結論から言うと、もう焼けていた。こんがりだった。

 

「…まさかそれ、原始的な装置に見えてその実時空を歪ませる機能があったり…?」

「あはは、それはないわよブランちゃん。まぁアタシが色々と改造して、肉の方もすぐに火が通るよう下準備をしておいた結果だから、市販品で形だけ真似てもこんな短時間じゃ焼けないだろうけどね」

「それにしても早過ぎるわ…」

 

何かもう、焼くという調理方法を冒涜しているんじゃないかと思う程の速度にわたしは辟易。…というか、この肉下拵えがしてあるのね…。

 

「…絶対、メタ的な何かが作用しているわね……」

「そこは深掘りしなくていいから……さ、ブランちゃん。食べて食べて」

「…こ、このまま?」

「そう、このままがっつりと。ブランちゃんなら似合うと思うわよ?」

 

そんな中、シーシャは焼けた骨付き肉をわたしの前へ。ナイフもフォークも無しに渡されたって事は、元ネタ宜しくがっつけという事で……正直、恥ずかしい。だってわたし、淑女だもの。……淑女よ?女神化している時、多少粗暴になる事は認めるけど…ルウィーの守護女神たるわたしが、淑女じゃない訳がないでしょう?

…とはいえ、食べなきゃ何も進まない雰囲気。それに恥ずかしくはあるけど、骨付き肉をこのまま食べる事への興味も……実を言えば、ない事はない。だから数秒の逡巡の後、わたしは口を近付けて……

 

「…ぁ、ん……」

「ち、小さい一口ね……可愛いけど」

 

興味を満たしつつも自尊心の傷付かない微妙なラインで、香ばしい肉を口にした。

パリッとした皮に、肉汁溢れる柔らかな肉。予め揉み込まれていたのであろう塩が主張し過ぎない程度に良い塩気を醸し出していて……有り体且つ少々品のない言い方すると、旨い。美味しいじゃなくて、旨いというべき味だった。

 

「…………」

「あ、無言の二口目を……ふふっ、気に入ってくれたかしら?」

「…ふぅ……えぇ、美味しいわシーシャ。貴女の肉料理好きは知っていたけど、自分で作るのも上手だったのね」

「好きこそ物の上手なれ、ってね。でも良かったわ。ブランちゃんに気に入ってもらえなかったら、伝授するのも気不味いし」

「そう、杞憂で済んで良かったわね……って、伝授…?」

 

思わず口にした二口目を飲み込んだ後、わたしは頬を緩ませシーシャに返答。お世辞無しにシーシャの肉焼き技術は達者で、ロムラムだったらきっとはしゃぐだろうなと思う程。でも、それはそうと……で、伝授…?

 

「あれ、言ってなかった?」

「あれも何も、何一つ言ってないでしょうが……」

「冗談よ冗談。それとも、伝授されるのは嫌だったりする?」

「いや、別にそうじゃないけど…どうして伝授なんて……」

「それは……アタシとブランちゃんの友情の証として、みたいな…?」

「取って付けた感が凄い言い方ね…」

「まぁ、そう言われると否定は出来ないわね…。…でも、ブランちゃんである事にはちゃんと理由があるのよ?…ブランちゃんには、色々とお世話になったし…ね」

 

多少ふざけた後、シーシャは少しだけ目を逸らし、ほんの僅かに照れ臭そうな顔をして理由を言う。

お世話をした覚えはない。わたしは、わたしがしたいようにやっただけ。…もしシーシャが謝罪や自虐の意図を込めて言ったのなら、わたしもこう返していたと思う。でも、シーシャの言葉に籠っていたのは、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」の気持ち。だったら言い返す必要なんてないと思って……わたしはこくんと、頷いた。

 

「…ありがと、ブランちゃん。それじゃ…早速伝授するとしましょうか」

「そうね、宜しく頼むわ」

 

そうして肉焼き…というか、美味しい肉料理を作る技術の指導がスタート。因みにこの段になって漸く分かった事だけど、こんな草原に来たのは「何度も焼く練習をしていたら、周囲に匂いが付いてしまうから」らしい。

 

「……これ、モンスターが寄ってきたらどうするつもりなの?」

「どうするもなにも、アタシとブランちゃんがいて心配するような事がある?」

「そういう事じゃなくて…まぁ、いいわ。実際それはそうだし」

 

最初に教わったのは、肉の下拵え。さっき言っていた火が通り易くなる加工や調味料を使った味付けで、ここは中々頭を使う。わたしも多少料理はするけど肉と調味料の組み合わせに対する知識において、シーシャはわたしより数段上だった。

 

「……そろそろかしら…」

「まだよブランちゃん。今はまだ生焼けだもの」

「…あんなに素早く焼き上がるのに?」

「あんなに早くても、外から中の順で焼ける事には変わりないわ。それはブランちゃんも分かるでしょ?」

 

下拵えを一通り教わった後は、焼く練習。凄まじい勢いで焼ける分、回転率は良いんだけど……その代わりに、油断は一瞬も許されない。ほんの一瞬見逃すだけで、ベストな状態は通り過ぎてしまうから。

 

(単純作業だからこそ、誤魔化しが効かないのね…思っていたより、奥が深いわ……)

 

焼いて、焼いて、また焼いて。肉はシーシャが沢山用意してくれたし、焼いた肉も次々と食べてくれている(シーシャは中々健啖家)事もあって、とにかく回数は重ねられた。そして、その甲斐もあって……

 

「うんうん、一日でここまで上手くなれば上出来よ、ブランちゃん」

「そう、ね……ふぅ…」

 

通算十回を超える肉焼きと、火を点けずに行ったその数倍の練習の末に、わたしはそれなりの技術を得るに至った。…勿論それは『それなり』であって、最初にシーシャが焼いてくれた肉からは明らかにレベルが落ちているけど。

 

「…疲れた?」

「まぁ、ね。思ったよりも精神的に消耗したわ…」

「ま、ずっと集中しっ放しだったものね。じゃあ、今日の伝授はこの位にして……頑張ったブランちゃんの為に、疲労回復にぴったりな一品を振る舞ってあげようじゃない」

「へぇ、そんなものが…って、み、水色……?」

 

そう言いながら、また新たな肉を取り出すシーシャ。折角だから、シーシャの好意に甘えようかしら…と思ったわたしだけど……出てきたのは、どう見ても自然じゃあり得ない色をした骨付き肉。

 

「大丈夫よブランちゃん。火はちゃんと通すから」

「そういう問題じゃない……本当に大丈夫なのね?」

「勿論」

「……なら、お願いするわ」

 

不安しか感じない色ではあるけど、シーシャの事は信用している。それに、飲み物ならば水色のものもある訳で…きっと大丈夫だと判断したわたしは、その肉の調理をお願いした。

 

「このタイミングで、少しだけ胡椒をかけて…っと……」

(…やっぱり、良い匂い…この時点でわたしとの差が出てくるのね……)

「…よし。焼けたわよ、ブランちゃん」

「ありがと、シーシャ。それじゃあ早速、頂くわ」

 

先程かけられた胡椒が匂いの質を一層高めた、焼きたてほやほやの骨付き肉。…色合いは焼けた事でこっちも一層凄い事になっているけど…まぁきっと大丈夫な筈。そう思ってわたしは飛び出した左右の骨を掴んで、最初よりも少しだけ大きな口を開けて頬張った。

 

「…はふぅ…ほんとに美味しいわね……」

「どんどん食べてくれて良いわよ、っていうかアタシも食べようかしら…」

 

口の中に広がる味と、身体に広がる温かさにほっこりするわたし。わたしの反応にご満悦なシーシャ。焼いたのはシーシャで、わたしは食べている側だけど…そういう反応をされると、こっちまで嬉しくなる。

そんな気持ちも手伝って、わたしはすぐに二口目へ。肉に歯を立て、ぐっと一息に噛み付こうとして……そこで、違和感が生じ始めた。

 

「……ぅ、え…?」

「…うん、やっぱりアタシももう一本食べるとするわ。味は…って、ブランちゃん…?」

「…な、何だか…急に、眠気が……」

「眠気?はは、疲れて食事中に眠くなるなんてブランちゃんもまだまだ……って、急な眠気…?…まさか……」

 

突然身体の奥から湧き上がる、強烈な睡魔。疲労によるものとはとても思えない、眠いという激しい衝動。そんなわたしに対してシーシャは最初、にやにやしながら見ていたけれど……不意に表情から笑みが消えて、わたしが落としかけていた骨付き肉を調べ始める。

そうして経つ事約十秒。恐ろしい速度で眠くなり、意識の維持も難しくなる中……いつの間にか青い顔になっていたシーシャは、言った。

 

「…あ、あのねブランちゃん。非常に、ひっじょーに言い辛いんだけど……」

「…な、に……?」

「……間違って、対猛獣用の眠り生肉あげちゃった」

「…………」

 

……眠り、生…肉……?…睡眠作用のある、肉で…うっかりシーシャは、それを焼いて…わたしに、渡した…って事……?

 

 

……へ、ぇ…………。

 

「……っ…!」

「…え、ブランちゃん……?」

「……っあッ…は、ぁぁ……あっぶねぇ…」

 

全てを知ったわたしは、僅かに残っていた意識を振り絞って女神化。シーシャが不意の女神化に驚く中、わたしは女神の姿に変わり……睡魔を吹き飛ばす事に成功する。

 

「…目、覚めたの……?」

「あぁ…もう一口食べてたら、アウトだったのかもしれねぇけどな」

「……どういう事…?」

「耐性だよ耐性。わたし達女神は人の姿でも毒やら何やらにそれなりの耐性があるが、こっちの姿はそういう害に対する耐性が段違いに高いんだ。だからこっちの姿になる事で、摂取した睡眠薬の力より耐性が上回って……」

「眠気を振り切れた、って事なのね。…へぇ、やっぱ女神って凄いわね…」

「だろ?……さて、と…」

 

確かに一口とはいえ、対猛獣用の睡眠薬に打ち勝てる女神の身体は凄い。それに異論はねぇし、助かったとも思ってる。

…が、別に今はそんな事どうでもいいんだよな。…って訳で、置いてある生肉の一つを下拵えし始めるわたし。

 

「……?ブランちゃん、何を…?」

「何って……そりゃ、シーシャに食わせてやろうと思ってるんだよ。今のお返しに、わたしの特性焼肉をな」

「…え、っと…いや、あの…じゃあ、七味やハバネロ、タバスコなんかを惜しみなく入れて生肉が真っ赤になりつつあるのは……」

「シーシャに素敵な体験をしてほしいからに、決まってるだろ♪」

「女神化状態のブランちゃんが語尾に音符を付けた!?あ、ちょっ…アタシ急用が……わぁぁ!?」

 

ぱぱっと手早く完成させた、特性骨付き肉。だらだらと冷や汗をかくシーシャ名前で焼き始めると、すぐに刺激的な匂いが立ち始め……シーシャは逃走を図った。だがそれを予期していたわたしは立ち上がろうとするシーシャをひっ捕らえ、肉焼き片手に組み伏せる。

 

「うぐっ…何本も食べたせいで、動きに鈍りが……」

「抜かったな、シーシャ。…さて、焼き上がったぜ」

「そ、そうね…焼き上がってるわね…あの、ブランちゃん…アタシもう、お腹一杯で……」

「そう言うなよシーシャ。さっきもう一本食べようとしてたろ?」

「してたけど、してたけども…!それは…それは無理だってブランちゃん!絶対大変な事になるって!」

「心配すんな、シーシャ。何かあったら……わたしが運んでやるからよ」

「倒れる前提!?いや、ち、近付けないで!?もう刺激臭が凄い!この時点で危ない感じMAXだから!」

「あーもう往生際が悪いなおい!さっさと往生しやがれッ!」

「往生させる気なの!?無理、本当に無理だってブランちゃん!アタシが悪かった、謝るわ!だから、だから許し……〜〜〜〜ッッ!!?」

 

ぎゃーぎゃー喚くシーシャと、それに構わず近付けるわたし。途中からはもうほんとに怯えていたが、止める気なんてさらさらない。だってそうだろ?わたしとシーシャは対等な、遠慮なんていらない間柄なんだから。

そうしてわたしはシーシャが声を発し、口を開けた瞬間に肉を投入。驚いたシーシャは反射的にかぶり付いてしまい……その日ルウィーのとある草原では、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の絶叫が響き渡るのだった。




今回のパロディ解説

・落とした筈の前大戦の英雄
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人(二人)、キラ・ヤマトとアスラン・ザラな事。視点としてはもう一人の主人公、シン・アスカのものですね。

・夕弦さん
デート・ア・ライブに登場するヒロインの一人、八舞夕弦の事。彼女は狙っていない、自覚のないタイプの厨二病らしいですね。…これはあくまで狂三の評価ですが。

・骨付き肉や生魚を上手に焼けるアレ
モンハンシリーズに登場するアイテム、肉焼きセットの事。もう殆どこれに関するネタでしたね、今回のブランとシーシャは。

・眠り生肉
上記同様、こちらもモンハンシリーズに登場するアイテムの一つの事。罠肉を焼いたらどうなるんだろう…多くのモンハンユーザーが、これは思った事があるかと思います。
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