超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
犯罪組織への諜報と情報収集に加え、それが終わった直後からのパーティー合流。当然ながらそれは激務に次ぐ激務で、別次元から来た旧パーティー組は皆、暫く休むと言っていた。生活が激変した女神候補生以外の新パーティー組の皆も溜まった疲れを取る為に、暫く旅はお休みする(旅してないメンバーもいるけど)との事だった。
その事から、私は皆が長期休暇を取っているものだと思っていた。人外…っていうかそもそも人じゃない私達女神と違って、あくまで人の身である皆は、のんびりと過ごす日々を送るんじゃないかなぁ…と。…でも、こんな表現をしている事から分かる通り……皆は、そんなのんびりとするような人達じゃなかった。
「……あれ?」
とある日の午前中、エレベーターを降りてプラネタワーのフロントへと出た私。そこから数歩歩いたところで、私は一ヶ所によく知る人物が四人も集まっている事に気付いた。
(MAGES.にブロッコリー、ケイブに5pb.…?)
何やら話をしている四人は、全員が同じパーティーメンバーとして戦ってきた仲間。旧組が二人、新組が二人の混合編成(?)にはなっているけど……それはまぁ、そんなに重要な事じゃない。
「…まあ、戦えない訳ではないんだし、無益に時間を消費するよりはこのまま…って、あら…?」
「おはよ、皆。久し振り…って程でもないかな」
私の存在に気付いたケイブ、それに振り向く三人へ手を振りながら、私は四人の下へと合流。
「あ、イリゼさん…今からお仕事…?」
「ううん。……あー、いや…一応、仕事…って言えなくもないかも…」
『……?』
「ま、まぁそういう反応になるよね…。えっと、特務監査官の仕事ではないよ。でも、信仰してくれる人を持つ女神として、クエストをしようと思ってたんだ」
我ながら酷い回答だ…と思った私は、苦笑いしつつ自分の意図を言い直す。
クエストは前から時々こなしていたけど、特務監査官に就任した辺りまでは、あくまで一個人として「皆の助けになるかな」とか、「これは放置しちゃ不味いよね…」という考えでやっていた。でも今の私は、自分にも信仰してくれる人達がいるって知っているし、その人達の期待に応えたいって思いもある。だから今は、一個人としてだけじゃなく……『オリジンハート』としても、私はクエストを行っている。で、今日やろうとしていたのも…それが目的。
「ふふ、イリゼも女神らしくなったものだな」
「でしょ?…って、それだと前は女神らしくなかったようにも聞こえるんだけど…?」
「まさか。そんな意図はないさ」
「というか、それを言うなら穏やかに『そう感じてくれたなら嬉しいよ』とか言った方がずっと女神らしいと思うにゅ」
「うっ…そ、それは確かに……」
「…まぁ、大丈夫よイリゼ。多分今のは、ベール様や他の人でも同じような反応していたと思うから」
さらりと毒を吐いてくるブロッコリーに、フォローしてくれているのか他の皆にも飛び火させてるのかよく分からない発言をするケイブ。…ケイブは前者のつもりがこうなっちゃっただけだと思うけど…いつ見ても(聞いても)ブロッコリーは外見とのギャップが凄いよね……。
「こ、こほん。皆こそ、集まって今からお出掛けでもするの?」
「ブロッコリー達もクエストにゅ」
「へぇ…え?クエスト?…休暇中じゃなかったの…?」
「無論休暇中だ。だが、休んでばかりでは腕が鈍ってしまうからな」
「だから、都合があったボク達四人で行こうって事になったんだけど……あ」
「……?」
返答の途中、5pb.は何かを思い付いたような顔に。続いて三人も何か…恐らくは同じ事に気付いていくけど、私には何の事だかさっぱり分からない。
さっきとは、完全に逆の立場。だから四人の言葉を待っていると、真っ先に口を開いたのはMAGES.。
「丁度良い。イリゼよ、私達と共にクエストを…いや、私達に助力してくれないか?」
「助力?…そんなに難しいクエストを受ける気なの?」
「いいえ、でも私達は探していたところだったの。正面戦闘を得意とする、前衛をね」
「正面戦闘……あ、そういう事ね」
ただの前衛ではなく、正面戦闘を得意とする前衛。ケイブのその表現で、私は四人が何を考えていたのかを理解する。
言うまでもなくMAGES.は後衛で、5pb.もギターで近接戦が出来るとはいえ基本は後衛タイプ。ブロッコリーとケイブは前衛だけど、ブロッコリーは体格的にも能力的にも正面から殴り合うタイプじゃないし、機動力に長けるケイブは動き回ってこそその真価を発揮出来る。詰まる所、今ここには後衛と正面戦闘を主軸としない前衛しかいない訳で、だから私が誘われたって事。…まぁ、この面子なら壁役がいなくても大概は何とかなると思うけどね。
「それで、どうだにゅイリゼ。イリゼにも確固たる目的があるみたいだし、どうするかはイリゼに任せるにゅ」
「そう?でも大丈夫だよ。私に断る理由はないしね」
「そっか。それじゃあ、宜しくね」
そう、私にも『信者の皆の期待に応える』って目的がある。でもそれは、四人への助力と何の不都合もなく両立出来る目的だから、5pb.の宜しくねという言葉にこくんと頷いて…私は今日、四人と一緒にクエストをする事となった。
*
クエストの内容は指定されたモンスターの討伐で、目的地はとある谷。この谷自体はあまり人の来ない場所らしいけど、近くには鉱山があって、そこでの採掘作業中に襲われる危険性があるという理由から、ギルドへモンスターの討伐が依頼されたんだとか。
「風が強いわね…5pb.、気を付けて」
「あ、うん…」
「足場も所々脆いな…あまり大きくは跳ばない方が良いぞ、5pb.」
「う、うん…二人共ありがとう…」
現在私達は、ゴツゴツとした道無き道を下降中。整備されてない場所は、慎重に一歩一歩歩くのがベストではあるけど、ここは起伏が激しいから時には跳ぶ事も必要となる。
(…5pb.、二人から気にかけられてるなぁ……)
5pb.を気にかけるMAGES.とケイブに、「言われなくても分かってるよ…?」と言いたげに苦笑いを浮かべる5pb.。そんな三人の様子を眺めつつ、軽快に降りていく私。
何故二人がこうも気にかけているかと言えば、MAGES.にとって5pb.は親戚で、ケイブにとってはパーティーの仲間となる前から交流のあった相手だから。でも、私からすれば5pb.にそんな危なっかしい感じはなくて……何というか、二人からはちょっと過保護感が漂っていた。
「…そういえば、一つ気になる事があったんだにゅ」
「気になる事?」
芝居掛かった言動が特徴のMAGES.と、クールビューティーなケイブが過保護感を醸し出しているのは、何とも言えない光景だなぁ…と思っていたところで、横から聞こえたブロッコリーの声。…因みにブロッコリーは背が低い分、ぴょこぴょこ具合が私達の中で断トツだったり…。
「今回の依頼の事だにゅ。こういう事は、民間のギルドじゃなくて教会が処理すべき案件じゃないのかにゅ?」
「あぁ…依頼者さんは手っ取り早く解決してほしかったんじゃないかな。教会…っていうか国が動くとなるとどうしても手続きとか色々面倒な事が付き纏うし、その点クエストならギルドっていう仲介はあれど、基本的に個人と個人のやり取りで済むんだからね」
「あー、そういう事かにゅ」
「あ、でもモンスターの強さや鉱山の経済的影響力次第じゃギルドから教会に回る事もあるし、教会だって言われなきゃ動かない訳じゃないから、結局はケースバイケースかな。…後はまぁ……」
「まぁ?」
「…不正や違法を採掘業者がしてて、それを知られたくないから教会に話すのを避けた…ってパターンもあるかもね」
例えとして言っただけだけど、もしその気配があるなら特務監査官として動く必要もあるかな…と思いつつ、私は説明を締め括る。…にしても、まさかこんな場所でこんな説明をする事になるなんてね…。
「…にしても、ほんとに風が強い…やっぱり、ホットパンツってのもありかなぁ……」
「ホットパンツ?イリゼさんイメチェンするの?」
「まあ、ちょっと短パン…というか、またちょっと別次元にすっ飛ばされる経験をしまして…そこで体操着のボトムスを着る機会が、ね……」
「ほぅ、そうだったのか……気を付ける事だ、イリゼ。そういう事が続けば、気付かぬ内に世界線が変わってしまう可能性もゼロではないのだからな」
「そ、そうだね…今度も油断はしないでおくよ…(どうしよう、MAGES.が言うとネタ発言なのかどうか分からない……)」
危うくフルオープンになりかけたスカートを押さえつつ呟いていると、何故か全然違う話に。……あ、違うよ?ここで言うネタ発言っていうのは、普段MAGES.が言ってる組織とか計画とかと同じ軸の話なのかなって事であって、それを普段MAGES.が冗談として言ってるんだって事ではないからね?…一体何のフォローしてるのかは、私にも謎だけど……。
そんなこんなで数十分。降りられる所まで降りた私達の探索は、下降から横移動へと移行する。
「…視界の妨げになる物が多いわね……」
「それに、岩や地面が保護色になる可能性もあるにゅ」
「うーん…討伐対象自体の危険性もあるし、これ四人が受注しなかったら教会に回っていた可能性あるね」
今回討伐対象となっているのは、ドラゴン系のモンスター。となれば茶色系の体色を持っている場合が多いから、前に宝玉を取りに行った時みたいに岩と見間違える恐れがある。…っていうか、ドラゴンはつい最近も戦ったなぁ……。……と、何気無く思った瞬間だった。
「…あれ……?」
「ん?どうしたのだ、5pb.」
「あ…うん。今なんか、変な音が混じったような気がして……」
「…どういう事?」
「えっとね、こう…ここを吹く風の流れに、何かが入り込んだみたいな……って、まさか…!」
『……ッ!』
音楽活動をしている5pb.ならではの、変な音が『した』ではなく『混じった』という表現。そしてケイブからの言葉に答えていた5pb.は、途中ではっとしたような表情になり……それで全てを理解した私達四人は、同時に跳んだ。
次の瞬間、私達のいた場所へ砲弾の様に飛来する火球。それを視認した私達が視線を上げると…そこにいたのは、翼をはためかせてこちらを睨む一体のモンスター。
「やっぱり、ボクの感じた音は…!」
「奴の羽ばたきだったって事ね……!」
「気付いてくれて助かったにゅ…!」
各々武器を取り出しながら、私達は散開。するとドラゴンはもう一度火球を放ってきた後、唸りを上げて急降下。狙われているのは……一番小柄なブロッコリー。
「……っ!…ブロッコリーはブロッコリーであって、ブロッコリーじゃないにゅ…!」
「何その一瞬意味分からない発言!?野菜ではないよって事!?」
「っていうか、ドラゴンって肉食じゃないの…?」
「余裕があるのは良い事だが、もう無駄話をしている場合ではないぞ二人共…!」
空中からの喰らい付くような突進をギリギリで避けたブロッコリーは、その頭に向けてゲマで一撃。けれどダメージはゼロ…ではないんだろうけど致命傷には程遠く、すぐに身を翻して咆哮を上げる。
「包囲…は、難しそうだね。じゃ、予定通り…私は突っ込むよ!」
「うん、援護するよイリゼさん…!」
ここは障害物が多い上に、相手のドラゴンは飛行能力持ち。となれば五人での包囲なんて簡単に抜けられてしまうに決まってるから、私は真正面からの接近を選択。振り下ろされた爪をバスタードソードで横に逸らすと、すぐに援護の遠隔攻撃が飛んでくる。
戦い易い環境じゃないし、ドラゴンもモンスターの中じゃかなり強い方の存在。でも…所詮は単なるモンスター。マガツちゃんこと八億禍津日神クラスや、最早天災級のグランディザストスライヌなんかに比べれば驚異度は落ちるし、こっちは女神が一人に超人が四人。なら、油断しない限りは負ける筈がない…と、思ってたんだけど……
「うわ……ッ!」
「くぅッ…ここまで伸びてくるか……!」
……私達の考えていた想定には、大きな誤算が一つあった。
「読み切れない、わね…ッ!」
岩を足場に三角飛びで斜めから肉薄をかけたケイブは斬り付けるも、最初のブロッコリーの攻撃と同様ドラゴンに苦しむ様子はない。だけどそれも仕方ない事。だってケイブは、元々私とMAGES.の同時攻撃に合わせた陽動攻撃をする予定だったんだから。
連携の直前、私達二人は炎の放射を受けた。それ自体は何の変哲もない、軌道も十分に読める攻撃だったけど……激しい風に煽られた瞬間、炎は一気に拡散した。紙一重で避けようとした私の進路を塞ぎ、届かないと読んでいたMAGES.に回避行動を強いる程に。
(……っ…このドラゴン、ここの環境を十分に理解してる…ッ!)
立て直しからの再攻撃をかける私達。でも私達の攻撃が届く直前、ドラゴンは翼を大きく広げると、その翼で風を捉えて一気に上昇。回避が済むと即座に翼を閉じ、その重量を利用してこれまた一気に飛び込んでくる。
私達にとっては、動きを阻害される強風。でもドラゴンにとってそれは、攻撃にも防御にも活用出来る天然の武器。
たかが風、されど風。自然環境は等しく影響を与えてくるけど……来たばかりの私達と、ここを縄張りとしていたドラゴンでは、得られる効果に雲泥の差があった。
「これは…思った以上に、厄介にゅ……!」
「ちぃ…!攻撃がブレる……ッ!」
ドラゴンの火球と、MAGES.の氷塊、ブロッコリーの水流。三者はほぼ同時に攻撃を放ったものの二人の魔法は向かい風を受けてしまい、逆に火球は追い風で加速。私とケイブは挟撃をかけようとするも、風で走る速度が落ちてドラゴンの隙に間に合わない。5pb.の飛ばした音波も飛翔によって避けられてしまい、上空のドラゴンは旋回しながら見下ろしてくる。
「…どうした、ものかしらね……」
「兎にも角にも、風に対する対応を考えん限りは手詰まりだな…」
向こうが距離を取ってくるなら、と私達は一度集合。今のところ被弾はないけど、MAGES.の言う通りとにかく今は手詰まり状態。もしかするとそのうち風が止むかもしれないし、逆にドラゴンでも想定出来ないような風向きになるかもしれないけど…それはあんまりにも運任せっていうか楽観的過ぎる。もっと現実的に、真面目に討伐を考えるなら……こっちから、働きかけなきゃいけない。
「…思い付く方向性は、二つだよね。一つ策を練って、この環境下でも着実に詰めていく戦い方かな」
「…普通に考えたら、その策を講じる作戦の方が安全…だよね」
「えぇ、私もそう思うわ。向こうだって地の利を活かすという策を講じてきてるもの」
「だがその場合、我々は策を講じなければ勝てなかった…という事になるな」
「そんなの些細な事だにゅ。けど……癪だにゃ」
私が提案し、5pb.とケイブが肯定的な意見を出し、MAGES.があくまで事実だけを言って……ブロッコリーが、ばっさりと切り捨てた。それは癪だと、オブラートもへったくれもない表現で。
結構過激な、ブロッコリーの言葉。だけど、全員苦笑いはしても否定はしない。だって、私達も同意見だから。…一応これでも、二回世界を救ってるんだよ?もっと強い、あり得ない相手も打ち倒してきたんだよ?その私が、私達が所詮は通常のモンスター相手に、五人がかりで、策をフル活用して……それで勝ったとしても、あぁ良かった…なんて思えると思う?
…言うまでもなく、そんなの思える訳がない。だから、私達はもう一つの作戦を選ぶ。策を講じて、戦術的に勝つのではなく……
(……純粋に力で…ねじ伏せる…ッ!)
急降下の姿勢を見せたドラゴンを睨め付け、私は女神化。地を蹴り、飛び上がり……空中でドラゴンと激突する。
「悪いけど、ここからは…全力だッ!」
突き出された爪に斬り上げからの長剣をぶつけ、強風吹く中ドラゴンを押し切る。風は強い、ドラゴン自体も筋力は凄い、だけど……私は女神。多少環境が悪くとも……その程度で押し負けるようなら、私はここに立っていない…ッ!
「……っと…!5pb.、お願いッ!」
「うん…!届けるよ、ボクの音楽を……風に、乗せて…ッ!」
風の強い中を強引に突っ切り、空中で何度も激突していた私は皆の動きを見て離脱。次の瞬間、衝撃波となった音波が地上から空へと駆け上がり、私を追撃しようとしていたドラゴンの身体を強かに打ち付ける。
音波は風の影響を受け易い。受け易いから、減衰もし易いんだけど…逆に言えば、風で一気に加速も広範囲攻撃化も出来るのが音波攻撃。そして頭や身体は勿論、揚力を受ける翼をも衝撃を受けたドラゴンは空中で呻き、一気に高度が落ちていく。
「撃ち込むぞ、ブロッコリーよ!」
「了解にゅ…!」
落ちるドラゴンの先へと放たれたのは、岩塊と巨大な杭の様な氷塊。不定形故に風で軌道を逸らされるなら、大質量で邪魔な風を貫けばいいという、シンプルながらも強力な攻撃。寸前のところでドラゴンは立て直し、二つの塊はドラゴンの真下でぶつかりそのまま砕け散るけど……二人はそれも、想定済みだった。
ほんの数秒、砕けた岩と氷はドラゴンの視野から真下を奪う。それは僅かな間の事で……だけどケイブにとっては、十分な時間。
「ふ……ッ!」
ドラゴンの見えない真下に走り込んだケイブは、そこから跳躍。それが単なる跳躍ならば、多少落ちたとは言ってもまだそれなりの高度にいるドラゴンには届かないけれど、そこでケイブは砕けた岩を足場にして更に跳躍。落ちてくる破片を軽やかに、最小限の動きですり抜けて……手にした鋏を素早く一閃。真横に振られた刃がドラゴンの首を捉え、深く鋭く斬り付ける。
「グッ……ガァアアアアアアァッ!!」
「す、凄く怒ってるね…」
「あぁ、だが狙い通りだ」
「ケイブ、これを使うにゅ」
空で悶えながらも、怒りで目を爛々と輝かせるドラゴン。そのドラゴンの眼下で私達は再集合し、軽く言葉を交わして意思疎通。ケイブがブロッコリーから『あるもの』を受け取った事で、全ての準備が完了する。
「さぁて、それじゃあ…一気に仕留めるよッ!」
軽く長剣を振った私は、掛け声と共に急上昇。見据える先は、今まさに火球を放った激昂のドラゴン。
その火球を真っ二つに斬り落とし、更に接近をかける私。加速し、近付き、長剣を引く。そして私との激突を予期したドラゴンは、急降下しながら噛み付こうとし……
「……おおっと」
……くるりとその場で、宙返りした。その瞬間、ドラゴンの牙は上下反転した私の翼を掠め……だけど虚しく空を切る。
前傾姿勢となったドラゴンと、逆さでドラゴンに背を向けた私。普通にいけば、お互い姿勢を立て直しつつ次の攻撃に移る流れで……だけどそこへ、再びケイブが跳び上がった。
「貰った……ッ!」
鋏の斬っ先を向け、どんどんケイブはドラゴンに接近。けれど岩がない分、今度は本当に届かない距離で、それに気付いたドラゴンは笑う。けれどケイブが鋏を持つ手とは逆の、左腕を振るった瞬間……ドラゴンはぎょろりと目を見開く。
ケイブの手から投げられ、ドラゴンの眼前でネットの様に広がる物体。ドラゴンの視界を完全に奪い去ったそれは……ブロッコリーが渡していた、武器でもあるゲマ。
「イリゼ、今よッ!」
「うん、任せてッ!」
予想外の妨害を受けたドラゴンは、慌ててゲマを振り払う。…けど、時既に遅し。ドラゴンが視界を取り戻した時にはもう……私は股の下へと滑り込んでいた。
そして、長剣を手放した私は両手でドラゴンの尾を掴み……そのまま真下に、投げ落とす…ッ!
「せッ、えぇぇぇぇええぇいッ!」
掴んだ尻尾を右肩に担ぎ、力の限りで背負い投げ。流石に体格差もあって肩や上半身には相当な負荷がかかったけど……私を見失っていたドラゴンは踏ん張りが利かず、凄まじい遠心力と共に地面へ激突した。
地面が割れ、叫びを上げ、それでもすぐに飛び上ろうとしたドラゴン。でも、もう……勝敗は決まっていた。
「ふっ……散れ」
地面を叩いてドラゴンが飛ぼうとした時、その周囲には攻撃準備を完了させた少女が三人。MAGES.は、ブロッコリーは、5pb.は跳び……斜め上方から、全力の攻撃を叩き込んだ。風が強いならば、厄介ならば、受けても問題ない距離で放てば良いとばかりに、超至近距離で。
三人の同時攻撃がドラゴンの身体に喰らい付き、容赦無く抉り、攻撃同士が衝突をして爆発を起こす。三人がその爆発をバックステップで避ける中、爆発音に混じってドラゴンの絶叫が聞こえ……爆煙が晴れた時、そこにいたのは物言わぬ亡骸だけだった。
「……はふぅ…」
「討伐完了、にゅ」
警戒による数秒の沈黙の後、消え始めたドラゴンを見て5pb.が一息。続いてブロッコリーも安堵混じりの声を漏らし、私達も軽く脱力。周囲にモンスターの気配もなく…ドラゴン討伐は、これにて終了。
「皆、お疲れ様。思ったよりは手間取っちゃったね」
「環境が環境だったもの、仕方ないわ。それに、中々良い緊張感もあったし…私としては、満足よ」
「満足と言えば…イリゼはこれで良かったのか?目的から考えれば、もっと人目につく方が良いのだろう?」
「あぁ…大丈夫だよ、これでも。採掘業者さんへの報告の時に私も同行させてくれればそれで良いし……皆の助力が出来たなら、私だって満足だから」
女神化を解きつつ、にこりと笑みを浮かべて私は言う。すると皆も頬を緩め、微笑みを私に返してくれる。
確かにMAGES.の言う事も一理ある。だけど私は、一つの理由だけでクエストをやりたかった訳じゃない。色んな理由、色んな目的が私にはあって……更に言うなら、四人に助力を求められた時点で、私の目的の中には『四人を手伝う』ってものが入っていた。で、それを達成出来たんだから……不満なんか、ある訳ないんだよね。
「…ありがとう、イリゼさん」
「助かったにゅ、だからこれからも何かあれば頼むにゅ〜」
「あはは、どう致しまして」
そうして私達はもう一度だけ周辺を確認し、それから帰還。今回のクエストは案外大変だったけど、その分良い経験になったと思う。それに皆にとっては腕を鈍らせない為のクエストだったんだから、多少大変な位で良かったのかもしれない。
そんな事を考えながら、私達は谷を後にするのだった。…にしても……
「…今更だけどさ、鋏にギターにバランスボールっぽい何かって、皆は武器の独自色が強いよね」
『え……?』
「へ?何その反応……独自色強い、よね…?」
「そう、かな…?ギターならライダーさんが武器にしてるけど……」
「世の中には断ち切りバサミという、鋏そのものな武器が……」
「
「え、えぇー……」
──軽ーい感じで前々から思っていた事を口にしたら、三人から真顔で返された私。なんて返せばいいのか分からない状況の中、隣を見ると……そこではMAGES.が、肩を竦めて苦笑しているのだった。
今回のパロディ解説
・世界線
STEINS;GATEにおける、主にタイムリープで分岐するパラレルワールド…のようなもの。実際MAGES.も別次元から来てる訳ですし、決して荒唐無稽ではないのです。
・「〜〜ギターならライダーさんが武器に〜〜」
仮面ライダー響鬼に登場するライダーの一人、仮面ライダートドロキ(とその武器)の事。ギターを一時的ではなく常に武器にするキャラと言えば、まず彼ですね。
・断ち切りバサミ
キルラキルに登場する武器の一つの事。一応言っておきますが、ケイブの鋏で生命繊維は断ち切れません。だってそういう武器ではありませんし。
・
七つの大罪に登場するキャラの一人、キングの武器(霊槍)の形態の一つの事。あのぬいぐるみ的な奴です。流石にゲマはあそこまで多機能ではない…と思いますけどね。