超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第十六話 それはとても貴重な経験

旅の中でわたし達は守護者としても指導者としても成長する事が出来て、無事犯罪神も倒して信次元に平和を取り戻せた。

でも、取り戻せた平和が永遠に続く保証なんてなくて、いつか今のわたしじゃ対抗出来ない程の脅威が現れるかもしれない。そうでなくても、わたし達女神には国の為にシェアを競い合うという仕事(…仕事?使命?)があるんだから、今のままで十分…なんて事はない。それに今のままで満足していたらお姉ちゃんには追い付けないし、同じ女神候補生の皆に…ライバルのユニちゃんに置いていかれちゃう。だから、わたしは仕事と並行して自己鍛錬も積んでいたんだけど……

 

「うーん、釣れないねぇ」

「釣れないですね」

「さっぱり釣れないな」

「…………」

 

……何故か今、わたしは二人のファルコムさん…それにマジェコンヌさんと共に、釣りをしています。

 

「…あ、ネプギアさん魚かかってない?」

「へ?あ、ほ、ほんとだ…!えと、引き上げれば良いんですか?」

「うん、でも闇雲にじゃなくて、相手の反応を見ながらね。釣りは戦いと同じく、駆け引きを制した者が勝つんだよ」

「駆け引き……むむ、む…ここですっ!」

 

新パーティー組ファルコムさんの指示を受けて、わたしは意識を釣り竿とうっすら見える魚に集中。見える動きで、伝わる感覚で掛かった魚の状態を読んで、慌てそうになる心を鎮めて、勝敗を決する瞬間を待つ。

これは、わたしと魚の勝負。一瞬が勝ち負けを左右する、本気の戦い。そしてわたしは、直感的に「ここだ!」と思った瞬間釣り竿を引き上げ……水から揚がった釣り糸の先には、針を飲み込んだ魚が跳ね回っていた。

 

『おー……!』

「や、やった…やりましたよ皆さん!」

「そのようだね、ネプギア。中々筋が良いじゃない」

「ふふっ、それもファルコムさんの指示があっての結果です。だからこの魚は、ファルコムさんのおかげで釣れたようなもの……って、違ぁああああぁぁぁぁうっ!」

 

釣り糸を掴んで魚を掲げるわたしに、拍手をしてくれる三人。それにわたしはにこりと微笑んで……その直後、魚諸共釣り竿を地面に叩き付ける勢いで(実際にやってはいないけど)、この現状へと突っ込んだ。

 

「わっ!?ね、ネプギアさん…?」

「な、なんで釣りなんですか!?何故に釣りをしてるんですか!?」

「え?それはあたしの数少ない趣味だから……」

「そういう意味じゃないです!ファルコムさん、訓練を手伝ってくれるって言ってましたよねぇ!?」

 

そう、わたしはこの三人と釣りをしに来た訳じゃない。訓練も兼ねてクエストをしようとギルドに向かっていたらファルコムさん二人もばったり会って、新パーティー組のファルコムさん…大人ファルコムさんに今言った事を提案されて、それで同行する事にしたのが数時間前。

そこからの道中今度はマジェコンヌさんとも出会って、凄い剣士のお二人に、マジェコンヌさんまで訓練に付き合ってくれる事になったわたしは、きっといい経験が出来ると期待に胸を膨らませていたんだけど……わたし今のところ、釣りしかしてないよ!?…いや、勿論釣り自体を悪く言うつもりはないし、何なら釣り上げた瞬間思わず喜んじゃう位には爽快感があったんだけど…本来やろうとしてた事とかけ離れ過ぎてるよこれ……。

 

「あー、うん。ごめんねネプギア。でも、一旦落ち着いてくれる?」

「落ち着いてましたよ!釣りを始めてから暫くは、穏やかな心で訓練に臨む為の時間かな〜とか、何かを待っているのかも〜とか考えてましたし!」

「…じゃあ、今は?」

「何か騙された気分です!」

 

まさかあのファルコムさんが、頼れる大人の女性って感じのファルコムさんが堂々と嘘を吐くなんて、と怒り…じゃないけど軽くは流せない感情に動かされるわたし。でもそこで、落ち着いた…でも深みを感じさせる声が、わたしにかかる。

 

「まぁ、一先ず落ち着くんだネプギア。確かにこれは、明らかに彼女の説明不足だが……君も分かってはいるだろう?ファルコムが、君を悪意から騙そうとするような人物ではない事は」

「…それは、分かってますけど……」

 

釣り糸を垂らしたまま、座ったままで私に言葉と視線を送ってきたのはマジェコンヌさん。元々マジェコンヌさんは風格のある人だったけど、今はその風格が五割増し位になっていて、わたしもはっと我に返る。…そう、だよ…説明不足なのは間違いないけど、それでも…ううん、ファルコムさんの真意が分からないからこそ、まずはちゃんと聞かなきゃなのに……。

 

「…すみません、冷静さを欠いてました……」

「いや、謝る必要はないよネプギア。…ほんとに申し訳なかった、この件は全面的に謝罪するよ」

「あ…は、はい…」

 

クールダウンしたわたしが謝ると、大人ファルコムさんもまた、わたしに向き直って二度目の謝罪を口にする。勿論、今のわたしにはもうどうこう言うつもりなんてないんだけど……代わりに気不味い空気になってしまった。わたしはなんと言えばいいか分からなくて、大人ファルコムさんもちょっと目を逸らしていて……

 

「もー、駄目ですよファルコムさん。あたしと同じ調子で何かを伝えようとしても、それは無理があるってものです」

「う……それは確かに…」

 

そこでもう一人のファルコムさん、少女ファルコムさんが肩を竦めつつやれやれと首を横に振った。その発言に大人ファルコムさんがダメージを受けて、わたしはきょとんとする中、少女ファルコムさんは言葉を続ける。

 

「ごめんね、ネプギアさん。多分ファルコムさんは、いつもの調子で進めようとしちゃったんだよ。…同一人物のあたしと接する時と、同じ調子で」

「…それ故、説明不足だったという訳か」

「そ、そういう事になるね…三人共、ご迷惑をおかけしました……」

 

ひゅん、と釣り竿を上げたマジェコンヌさん(でも魚はかかってなかった)に返答した後、大人ファルコムさんは今日三度目の謝罪。…なんか、段々大人ファルコムさんがいたたまれなくなってきちゃった…大人なファルコムさんにも、こんなおっちょこちょいな一面があるんですね……。

 

「…だからさ、ファルコムさん。ネプギアさんに、説明してあげた方がいいんじゃない?」

「あ、あぁ…それは勿論するよ。…悪いね、気を遣わせちゃって」

「いえ。ファルコムさんの力になれたなら、あたしも嬉しいです」

「…ふっ、何やら君とネプテューヌを彷彿とさせるやり取りだな」

「え、そ、そうですか…?」

 

そんな感じでやり取りは続いて、やっと気不味かった雰囲気も完全に霧散。…マジェコンヌさんは、わたしを少女ファルコムさん、お姉ちゃんを大人ファルコムみたいだって思ったのかな…確かにお姉ちゃんもおっちょこちょいで、女神化すると格好良いけど…わたしは少女ファルコムさんと似てる、かなぁ…?

 

「…こほん。じゃあ…結論から言うと、釣りには戦闘の極意が詰まっているんだよ。少なくともあたしは、そう思ってる」

「戦闘の極意、ですか…?」

「そう。例えばさっき言った駆け引きもそうだし、釣り上げ方だってそうだ。力がなくちゃ大きな魚は釣れないし、力があっても技術が疎かだったら釣り上げる途中で逃げられてしまうからね」

「どちらかに偏るんじゃなく、どちらも伸ばして調和させる……確かに、それは戦闘における攻防のどちらにも大事な事ですね…」

 

そうして大人ファルコムさんは咳払いの後、わたしに説明を始めてくれる。言われてみれば確かにそうで、戦闘だって力だけじゃ簡単にあしらわれちゃうし、技術だけでも強い相手には通用しない。

 

「それに、釣りは時に諦める事…糸を切る事も必要になる。理由は分かるかい?」

「……無理に釣り上げようとして、怪我をしたり釣り竿を駄目にしちゃったりする事があり得るから…ですか?」

「その通り。これはそのまま戦闘の中断や戦術的撤退を判断する思考力、そして勇気に繋がるよね」

「後は、釣り具選びもそうじゃないかな?目的や自分に合った道具を選ばなきゃ、100%の力は出せないでしょ?」

「功を焦らず、ここぞという瞬間まで待ち続ける忍耐力も、釣りの中では鍛えられるだろうな」

「お、おぉー……!つ、釣りって凄いですね…!」

 

ぽんぽん出てくる釣りの有用性に、なんだか軽く興奮してしまうわたし。スポーツは勿論の事、日常の中にあるふとした事が役に立ったりするのも戦闘ってものだけど…ここまで戦闘に繋がる要素があるなんて、わたしちっとも知らなかったよ…!…あ、じゃあまさか……!

 

「…もしや、本業は戦士じゃなくて冒険家のファルコムさんがこんなに強いのも、釣りで趣味と鍛錬を両立していたから…?」

「え?…う、うーん…それは、どうなんだろうね……」

「いやファルコムさん、そこは肯定的な事を言わなきゃ説得力ガタ落ちですよ…」

「まぁ、鍛錬を目的としない事で身に付いたものは、案外自覚出来ないものさ。…ふむ、また逃げられたか……」

 

……なんかちょっと空振っちゃったけど、とにかく釣りが凄い事は事実。…本格的な釣り…はすぐ出来る事じゃないし、今日以降も時間があれば釣り堀とか行ってみようかな。

 

「ファルコムさん、もっと釣りについて色々教えてもらえますか?わたし、今日一日で出来る限り吸収したいんです…!」

「ネプギア…そういう事なら勿論だよ。…と、言いたいところだけど……」

「……?」

「…実を言うと、さっきの事は凄く気にしてしまっていてね…だからネプギア、今日はネプギアのしたい訓練に付き合うよ。何か、したい事はある?」

 

わたしはもう…というかそもそも怒っていた訳じゃない。だからそんなに気にしなくても良いのに…と思うわたしだけど、こういうのは相手がどう思うかじゃなくて、自分がどう思うかがもやもやとした気持ちの根元部分。それに、ファルコムさんがそう言ってくれるなら…わたしだって、遠慮し過ぎるのは悪いよね。

 

「…じゃあ、ファルコムさん…わたし一度、手合わせをしてみたいです」

「手合わせ?…その相手は、あたしでいいの?」

「ファルコムさんがいいんです。…あ、も、勿論こちらのファルコムさんやマジェコンヌさんが相手をしてくれると言うなら、それだって凄く光栄ですっ!」

「あはは、別に怒ってないから大丈夫だよネプギアさん」

 

三人共立派で尊敬出来る人達で、例えそのつもりじゃなくても不快な気分にさせたくはない。そう思って慌てて付け加えたわたしだけど、少女ファルコムさんは笑って許してくれたし、マジェコンヌさんも口元に浮かべたのは小さな笑み。それで安心したわたしは大人ファルコムさんに向かい合って……

 

「一応訊くけど、実戦用の武器のままで良いんだよね?」

「はい。真剣での模擬戦も慣れてますから」

「…本気を出しても…いや、こんなのは訊くまでもない事だね」

 

わたしはビームソードを、ファルコムさんは両手剣を構えて対峙する。

 

(……分かってはいたけど、全然隙がない…イリゼさんやノワールさんと手合わせした時と、まるで変わらない…)

 

同じ刀剣類使いという事もあって、思い出すのは今上げた二人とお姉ちゃん。女神化状態ならともかく、人の姿のお姉ちゃんは一見隙だらけ(なのに対応力が凄い)だからちょっと違うけど、イリゼさんとノワールさんの事は本当に彷彿とする。…緊張、するな……。

 

「二人共、頑張って!でも怪我には気を付けてね!」

「女神化すれば間違いなくネプギアが有利だが、そうではない今はどうなるか…見もの、だな」

 

聞こえてくるのは二人の声。少女ファルコムさんは既にこっちを向いていて、マジェコンヌさんも糸を引き上げながらこっちを向いて(また針には何もかかってなかった)、注視が更にわたしを緊張させる。

でも、戦闘の緊張なら何度も経験してきたし、これは本気であっても殺し合いじゃない。だったら、気負わず、いつも通りに……全力を尽くす…ッ!

 

「それじゃ、いくよ…ッ!」

「はい、わたしも…いきますッ!」

 

わたしもファルコムさんが動いたのはほぼ同時。殆ど同時に地を蹴って、接近しながら得物を振るう。

 

『……っ…!』

 

激突するビームの刃と実体の刃。衝撃が右腕を駆け上がり、二本の剣を間にわたしと大人ファルコムさんの視線が交錯する。

 

「ふ……ッ!」

「くっ……やぁぁッ!」

 

拮抗していたのは一瞬の事。片手持ちのわたしと両手持ちの大人ファルコムさんじゃ押す力に歴然の差があって、わたしはそのまま押し返される。

だけどそれは分かってた事。だから着地と同時に膝を曲げる事でかかる力を吸収し、そこから今度は脚をバネの様に伸ばす事で再突撃。一直線に刺突を仕掛けて……避けられた。

 

「へぇ、速いね…動きも、判断も……ッ!」

 

ファルコムさんの回避行動は、わたしの頭上へ跳んで後方に回るという大胆なもの。ターンをかけてわたしが振り返った時にはもう攻撃体制に入っていて、咄嗟にわたしはビームソードを斜めに掲げる。

 

(…ビーム刃に当たってるのに、影響を受けてる様子が殆どない…かなり上質な素材を使ってるんですね、その剣は…!)

 

攻め立てられる形で数度刃をぶつけるわたし。ファルコムさんの剣撃は、速いし重いし武器も丈夫。連撃を受けると反撃する余裕もなくて、どんどん後退を強いられてしまう。

けど、対応は出来てる。目も身体も反応は出来てるんだから……勝機はゼロじゃ、ない…ッ!

 

「重さと、鋭さの両立…さっき言ってた事ですね…!」

「そう、なるね…!」

「けど……ここですッ!」

「……っ!」

 

縦の斬撃へビームソードを横からぶつける事で軌道を逸らし、手首を捻って左の肩口へ刺突。すると狙い通りにファルコムさんは右側に避けてくれたから…そこに合わせて、左手の拳を叩き込む。

 

「お、っと……!」

(よし、連撃が途切れた…!)

 

回避先へ突き出された拳にファルコムさんは驚くけど、バックステップで難なく回避。だけどそこまで含めて狙い通りで、わたしはファルコムさんの後を追う。

攻撃は最大の防御。相手を守勢に回らせる事が出来れば、攻撃をさせない、出来ない状況を作り出せれば、それだけで有利に立ち回れる。勿論、同格以上の相手にそんな状況を作るのは難しい事なんだけど…難しい事もせずに勝てる程、ファルコムさんは甘くない……!

 

「…攻守が入れ替わったな」

「振りが速い…こうしてみると、ほんとにビーム武器って凄いな……」

 

力勝負じゃ押し切られる。それは最初の激突で確信したから、踏み込み過ぎずに素早い攻撃を重ねていく。

少し聞こえてきたけど、ビームソードの長所の一つは非実体故の軽さ。その上でビームソードは高い切断力を持っていて……尚且つその切れ味は、触れるだけで発揮される。『振るわれた剣』じゃなくて、『そこにある剣』の状態でも、一定の脅威を感じさせられる。だから今ファルコムさんは…間違いなくわたしに対して、攻めあぐねている。

 

(だけど、焦っちゃ駄目…!一瞬でも油断すれば、また主導権を奪われる……!)

「…ふふっ、これは予想以上だ…やっぱり対面して、初めて分かる事ってあるよね…ッ!」

「同感、です…ッ!」

 

何度目かの剣撃が通り過ぎた瞬間、後退から転じてぐっと突っ込んでくるファルコムさん。一瞬で距離を…剣をまともに振るえないような近さにまで接近してきたファルコムさんの行動に、わたしの身体は反射的に後退を選ぼうとしたけど……それを意思の力で押し留めて、ビームソードの柄を振り出す。後退ではなく、柄の底部での打撃を選択する。そして次の瞬間、柄の底部と両手剣の鍔が激突した。

 

「……やるね。後ろに跳ぶと思ってたのに…」

「…だから、振ったんですね。わたしが跳べば、剣を振るえる間合いになると見込んで」

「ご明察。…これも読まれるとなると、不味いなぁ…今日は情けない姿を見せてるし、格好良く勝ちたかったんだけど…さッ!」

 

最初は押し切られた衝突。でも今度はすぐに左手でも柄を握る事により、力はある程度拮抗。力比べの中、ファルコムさんは困ったような表情を浮かべて……不意にかかっていた力が消える。

不味い、と思ったけどもう遅い。力を抜いたファルコムさんが横に逸れる中、わたしは前へとつんのめって、横から斬撃に襲われる。正面への力に抗わず、そのまま倒れる事で間一髪斬撃は避けられたけど、当然ファルコムさんの攻撃がこれで終わる訳がない。

 

「逃がさないよ、ネプギア!」

 

続く攻撃を転倒から移行した前転で避けて、更に前へ跳び出す事で距離を取るわたし。気配を感じて振り向きざまに横薙ぎを放つと、再びファルコムさんの両手剣と打ち合う形に。でも突進の勢いがあった分、今度は一瞬と持たずに押し退けられる。

 

「逃げる訳じゃ、ありません…ッ!」

「だろうね…ッ!」

 

弾かれたわたしは反撃を試みるけど、もう攻撃権はファルコムさんのもの。危惧していた攻守再逆転を許してしまって、しかもさっきより攻勢は苛烈で、わたしは体勢を立て直せない。

多分、ファルコムさんは一気に勝負を決めるつもり。この勢いは短期決戦を狙う人のそれで…もしかしたら、ここまでの攻防で「じっくり攻めても勝ちには届かず、わたしに手の内を知られるだけ」と判断したのかもしれない。…もしそうなら、嬉しい。嬉しいけど……わたしだって、やる以上は勝ちたい。

 

(攻撃は最大の防御…だけど、攻撃に力を入れている間はその分防御が疎かになる……ッ!)

 

袈裟懸け、斬り上げ、回転斬り。全てが確実に対処しなきゃ不味い斬撃の連打に押されて、遂にわたしの体勢は崩れ切る。…でも、反撃を仕掛けるなら今。ファルコムさんが攻撃に意識を集中している今こそ、再々逆転のチャンスはある。

その思いの下、わざと後ろへ倒れ込みつつビームソードを持つ右手は下から上へ。狙うはファルコムさんが踏み込んできた瞬間。幾らファルコムさんでも、対応し切れないと思う瞬間。そして、わたしは右手を振り抜いて……

 

「……──ッ!…あ、危なかった…!」

「……ッ!」

 

…ビームソードは、紙一重で届かなかった。ファルコムさんの髪が数本、宙に舞ったけど……ファルコムさんは、見切ってギリギリ回避していた。

 

(……でも、まだ…まだ負けてない…ッ!)

 

無念な気持ちをまだだって気持ちで押し出して、わたしは左手を地面へ。その手を軸に一回転して、後退と立て直しを同時進行。だけど着地した時、わたしの目の前にあったのは投げ放たれた両手剣。

 

「わわ……ッ!?」

 

さっきビームソードを掠めさせたわたしが言える事じゃないけど……こんなの当たったら洒落にならない。最悪ピピンさんや某太陽の竜さんみたいになってしまう。流石にその焦りもあってわたしはしゃがみ込み、姿勢は半ば無防備状態。でもファルコムさんは、わたしの横を駆け抜けていく。

 

(このチャンスに、攻撃してこない…!?何か策があるって事…!?……いや、でも何にせよ…今度こそ確実に立て直す…!)

 

ミスであろうと策であろうと、しゃがんだままじゃ勝てる訳がない。それに今の両手剣はかなりの勢いがあったから、飛んでった先は結構離れている筈。つまり、次の攻撃までには十分な時間がある。

そう思ってわたしは、立ち上がりつつ振り返る。とにかくまずは、向き直る事が大事だから。……けど、その瞬間…振り返る動作に入る直前、後ろで聞こえたどすっ、という音。金属や肉体ではない何かに鋭い物が刺さったような、鈍い音。

 

「まさか……ッ!」

 

あまりの衝撃に、心の声が口に出てしまうわたし。いけない、その場での反転は絶対にいけないと思いながらも、既に動き始めた身体は止まらない。そして……

 

「…きゃ……っ!」

 

……間一髪、後ろに跳んだ事で攻撃は……わたしのすぐ後ろにあった木に刺さった両手剣を、引き抜きながら放ったファルコムさんの斬撃は、わたしの胸元を掠めるだけで済んだ。でも、無理な跳び方をしてしまったわたしは上手く着地出来ずに尻餅をついてしまい、じーんとした痛みがお尻に走る。

次の瞬間、わたしの前に突き出される両手剣。それも勿論、ファルコムさんのもので……勝負は、決着した。

 

「……大丈夫?ネプギア」

「あ…だ、大丈夫です…」

 

一瞬だけファルコムさんは警戒の視線をわたしに向けて、それからすぐに剣を降ろす。その代わりに差し出されたのは左手で、声音もわたしを心配するもの。その左手をわたしは握って、手を借りながら立ち上がる。

 

「…ありがとうございました、ファルコムさん」

「ううん、こっちこそ良い経験になったよ。…強者との、貴重な経験にね」

「きょ、強者だなんてそんな……今のは、わたしの完全な敗北ですし…」

 

嘘の感じられない声でそう言ってくれる大人ファルコムさん。そう言われるのは嬉しいし、ちょっと気恥ずかしさもあるんだけど……だけどこれは、わたしの敗北。運とかコンディションの差とかが関係しない、誰が見ても同じ判断をするような敗北。…落ち込みは、しないけど……やっぱり、悔しい。

 

「…まだまだですね、わたし。もっと駆け引きとか、地形の利用も出来るようにならないと……」

「うーん…まだまだって事はないんじゃないかな?良い勝負だったでしょ?」

「それはそうですけど、まだまだです。女神として、まだまだわたしは…!」

 

ソードのビームを切って、しまって、空いた右手をぎゅっと握る。もっとわたしは強くなりたい、もっと強くならなきゃいけない。今に満足していたらきっと未来で後悔するし、わたしより強い人の存在を肌で感じる事も出来たんだから。

重ねて言うけど、落ち込んでる訳じゃない。でも、大人ファルコムさんにはそう見えたみたいで……大人ファルコムさんの手が、不意にわたしの肩に置かれた。

 

「…気にする事はないよ、ネプギア。だって今の勝負は女神化していなかったんだから。ネプギア達女神にとって、こっちは仮の姿なんでしょ?射撃も出来て、空も飛べるパープルシスターこそが、ネプギアにとっての『真の力』でしょ?」

「…その通りです。でも、射撃は武器ありきですし、飛行は完全に『能力』ですし、技術や技量とは別のものです。だから……」

「でも、それにだって訓練の時間は割かなきゃいけないでしょ?射撃は勿論、飛行だって戦闘にあった動きをする為には練習が不可欠だと思うんだけど…違う?」

 

わたしに向けられる、大人ファルコムさんの優しい声。勇気付けてくれてる事は分かるけど、何を言いたいのかが分からない。だから素直に首肯をすると、大人ファルコムさんは言葉を続ける。

 

「だったらそれはつまり、ネプギアは剣術だけじゃなくて射撃術や飛行術にも力を入れてるって事になる。色んな力があって、それぞれ頑張ってるって事になる。…そのネプギアが、剣術一筋のあたしにここまで追い縋ってきたんだ。だったらそれは、あたしから見て凄いに決まってるし……そんなネプギアを、あたしは尊敬しているよ」

「…ファルコムさん……」

 

ぽんぽん、と軽く肩を叩いて言葉を締め括る大人ファルコムさん。その言葉を聞き終えた時、わたしは…凄く、嬉しい気持ちだった。さっきよりずっと嬉しくて、温かい気持ちで胸が一杯になった。…こんなに凄い大人ファルコムさんに、尊敬してるって言われたんだもん。そんなの…嬉しくない訳ないに決まってるよ…。

 

「そうだよ、ネプギアさん。それにネプギアさんは、あたしやファルコムさんよりずっと重ねてきた時間が短いんだから、あたしからすればまだまだどころか『もうそんなに…!?』のレベルだからね?」

「ネプギア、君は女神として犯罪神を打ち倒し、信次元に平和を取り戻したのだ。勿論それは、君一人の力ではないが…この平和に、君の力が関わっている事もまた事実。…だから、お節介ならば聞き流してくれても構わないが…自分は十分な強さが既にある、と自覚しても問題ないと、私は思うぞ」

「…ファルコムさん、マジェコンヌさん…うぅ、皆さんありがとうございます…!」

 

幸せな気持ちになったわたしへと続くのは、またまた嬉しい言葉。少女ファルコムさんもマジェコンヌさんもわたしを評価してくれていて、なんだかじーんとした気持ちになる。…まさか、負けてこんなに褒められるなんて…こんなに凄いって思われてるなんて……でも、だったら…だからこそ…。

 

「……皆さん、わたしはもっと強くなります。皆さんがそう思ってくれるなら、その思いに応えてみせるのが…女神ってものですから!」

「…ふふっ、随分と逞しくなったものだ。流石は女神だな。……っと、なんだ…タイヤか…」

「えへへ……って、さっきからマジェコンヌさん全然釣れてませんね!?しかもタイヤって…スローライフを過ごせるあの村以外で釣れるのは逆に凄いですからね!?」

「そういうネプギアは、あたし達が釣れない中何気に唯一釣り上げてたけどね…で、さ。もし良ければ、あたしとも一戦してくれないかな?二人の勝負を見ていたら、あたしも身体を動かしたくなっちゃって…」

「あ……はい、勿論です!わたしはすぐにでもいいですよ、ファルコムさ……」

 

強くなろう。…その気持ちを改めて固めたわたしは、三人の前ではっきりと宣言。これも昔のわたしなら、出来なかったらどうしよう…と言わなかったんだろうけど、今はもう違う。違うんだから…もっと上を目指したい。

そう思う中で、少女ファルコムさんから模擬戦を頼まれるわたし。断る理由なんてないんだから、わたしは大きく頷いて了承。そうしてちょっと変な感じで始まった今日の訓練は、一人でやるよりずっと有益な経験と共に、まだまだ続いていくのだっ…………

 

「……え?」

『あ……』

 

──その瞬間、はらりと捲れる…いや、切れるセーラーワンピ。さっき大人ファルコムさんの振り抜いた両手剣が掠めていった、わたしの服。その部分が思いっ切り開いて、肌色の胸元とお腹が露わになって、更には白とピンクの下着まで見えて……って、えぇぇぇぇええええっ!?

 

「きゃああああああぁぁぁぁっ!!」

「うわぁごめん!それあたしのせいだよね!?ご、ごめんねネプギア!っていうか怪我は!?怪我はない!?」

「な、ないです!ないから見ないで下さいぃぃぃぃっ!」

「そ、そうはいかないよ!もし君がお嫁にいけない状態になったら……あたしが責任を取らなきゃいけないんだから!」

「ぶぅぅっ!?ふぁ、ファルコムさん!?何を言ってるんですか!?ちょっ、ほんとに止めて下さい!同じあたしとして見ていられないです!」

「そうですよその通りです!ファルコムさん、もっとファルコムさんに言って下さい!」

「じ、字面だけだとかなり混沌としたやり取りだな……というか、ネプギア…言い辛いのだが……下着も、切れかけていないか…?」

「へ……?…きゃああああああああっっ!!」

 

…凄く良い経験になった。訓練としては、普段の訓練よりもずっとずっと為になったと思う。それは間違いなく思う、思うけど……こんな経験は、もうしたくないと本気で思うわたしだった。

 

 

 

 

……因みに服の問題から、女神化状態で帰ったわたし。で、女神化を解除した時、ちょっとそのタイミングでお姉ちゃんと遭遇して、そうなるとは思ってなかったわたしは今のあられもない姿を見られてしまって……それを見たお姉ちゃんは、見た瞬間「…ネプギアにこんな辱めを受けさせたのは、一体どこの誰なのかしら」と女神化。大太刀を手にしたお姉ちゃんは、いつにも増して威圧感を放っていて……その時の大人ファルコムさんは、びっくりする程青い顔になっていました…。




今回のパロディ解説

・ピピンさん
フェアリーフェンサーエフに登場するフェンサーの一人の事。もしあんな感じに両手剣が刺さったら無事じゃすみませんね。阿鼻叫喚間違いなしです。

・某太陽の竜
フューチャーカード バディファイトのモンスターの一体、バルドラゴンの事。もしこんな感じに刺さっても洒落になりません。刺さるのはゲハバ…いやこれも駄目ですね。

・スローライフを過ごせるあの村
どうぶつの村シリーズの事。このシリーズを遊んだ事がある人の殆どは、一度はタイヤを釣り上げた事もあるでしょう。…何気に凄いですよね、タイヤ釣るって。
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