超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第十七話 楽しい楽しいピクニック?

──わたしは、そういう事を望んでいたんじゃなかった。ただ楽しそうだと思っただけで、ただやりたいなと思っただけで、それ以上の理由も動機もなかった。

確かに、わたしはそれを先延ばしにしていた。本当は考えなきゃいけないのに、どうでもいい事なんかじゃないのに、理由を付けて考えないでいた。…だから、もしかすると…わたしがそんなんだったから、だから…………

 

「というモノローグはどっかにどーん!今回は楽しい楽しい、ピクニック回だよーっ!」

 

早朝…という程早くはないけど、お昼にはまだまだ早い時間。所謂普通の朝。普段早い時間は眠くてテンションが上がらない…事もないけどそこまで元気にはなれないわたしだけど、今日は別。今日のわたしは、思わず某黒いセールスマンの代名詞的な事言っちゃう位ハイテンションなのさー!

 

「ご、ご機嫌だねお姉ちゃん…」

「もっちろんだよネプギア!ご機嫌もご機嫌、大ご機嫌だよ!」

「そ、そうなんだ……ごめんねお姉ちゃん、わたし行けなくて」

「ううん、気にしないでネプギア。ネプギアだってユニちゃん達と遊ぶんでしょ?なら、急に決めたわたしより友達を優先しなきゃ駄目だよ」

 

扉を開けて共用部屋に来たネプギアと、にっこにこの笑顔で話すわたし。今答えた通り、ネプギアはピクニック不参加なんだよね。わたしが誘うより先に、女神候補生の四人で遊ぶ約束をしてたみたいだから。

 

「今度機会があれば、その時は参加するね。…お姉ちゃん、時間は大丈夫?」

「ふっふっふー、集合場所はここのフロントだからね!ギリギリになっても大丈夫なのさ!」

「へぇ…じゃ、集合時間はもう少し先なの?」

「うん、よゆ……」

「……?」

「……よーし、それじゃあ行ってくるねネプギア!」

「もうギリギリだったの!?」

 

ちらり、と部屋の時計を見たわたしは、数秒の硬直の後荷物を持ってフロントへとダッシュ。あ、危ない危ない…流石にプラネタワー内で集合するのに、わたしが遅れたら弁明のしようがないもんね。にしてもほんと、ネプギアは何気なくわたしを助けてくれるなぁ…。

 

「〜〜♪」

 

エレベーターに乗って、わたしは下へ。一番早いのは女神化して外に出てから、地上まで降りて入り直す方法だけど…そこまでギリギリじゃないもん。……と、いう事で鼻歌なんて歌っちゃうわたし。

 

「ねっぷねぷ〜、っと。えーっと、多分もう……」

「あ、ネプテューヌこっちこっちー」

「おおっとこっちだったか…お待たせー!」

 

フロントまで来たわたしは、声をかけられる形で今回のピクニック参加者、イリゼを発見。わたしは走って、イリゼは小走りでお互いに近付いて、わたし達はすぐに合流。

 

「待った?」

「ううん、私も今来たところだよ」

「おー、お約束の返しで来たね?…でもこれ確か、第十一話でもベールとあいちゃんが……」

「そ、そうだね…別の返しの方が良かった?」

「あはは、別に大丈夫だよ」

「なら良かったよ。…じゃあ、早速行く?」

 

ちょっぴり期待を感じさせるイリゼの言葉に、わたしは首肯。そうしてわたし達は出発を……って、え?…あー、そっか、言ってなかったね。実を言うと、今回はもうびっくりする位皆都合が付かなくて、今日のピクニックに行くのはわたしとイリゼの二人だけなんだ。でも、ご覧の通りわたしは落ち込んでないよ?だってネプギアに言った通り急に決めた事だし、落ち込んでたらイリゼに悪いもんね。

そう、大切なのは人数じゃなくて楽しめるかどうか。そして二人だとしても、イリゼとだったら楽しめるってわたしは確信してる。だから期待に胸を躍らせて、イリゼと共にわたしは外へ。

 

「よーし、それじゃあしゅっぱーつ!」

「テンション高いねぇ…でも、気持ちは分かるよ。ふふっ…今日は楽しいピクニックにしようね──」

 

 

 

 

「……ふぅ…待たせたわねネプテューヌ。ギリギリになっちゃったけど、偶々用事が早く済んだから来てあげたわよ」

「え?」

「え?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

『……え?』

 

 

 

 

「全くもう……」

「あのねぇ……」

「うぅ、ごめんってばー……」

 

プラネタワーを出てから数分後、わたしは左右から厳しい視線を向けられていた。……このピクニックの参加者である、イリゼとノワールからの視線を。

 

「本当に反省してる訳?私わざわざ来てあげたのに、危うく置いていかれるところだったのよ?」

「そうだよネプテューヌ。知ってたらどうこう…って事はないけど、私ついさっきまで他には誰も来ないと思ってたんだからね?」

 

右からは文句寄りの、左からは注意寄りの指摘がどストレートにぶつけられる。いつもなら、上手い事雰囲気崩して逃げるところなんだけど……今は二つの理由からそれが出来ない。

一つは、流石に適当に流せるようなミスじゃないから。皆都合が付かなかったとは言ったけど、思い返せば確かにノワールは電話で「…まぁ、もしかしたら行けるかもしれないわ。でも、あんまり期待はしないでよね」…って言っていた。それが所謂「行けたら行くね」的発言だったとはいえ、誰が悪いかって言ったら…そんなの勿論、勝手に来ない前提でいたこのわたし。

でもこれは、まだマシな方の理由。より大きい…っていうか、わたしがうぅ…ってなっちゃうもう一つの理由は……

 

「はぁ……ほんと、聞いてないわよ…イリゼが来るなんて…」

「私だって、ノワールが来るなんて知らなかったよ……」

 

……なーんか、二人はいつもの二人じゃない。なんていうか、ほんとに分かり易く言うなら…ちょっと、空気が悪い。

 

(どうしたんだろ二人共…もしかして、喧嘩してたのかな……)

 

二人共、わたしを見てる時は何にも変じゃないのに、二人で向き合うと何だかいつもの和やかさがない。それがわたしは気になっちゃって、誤魔化すどころじゃなくて……むぅぅ、これじゃピクニック楽しめないよ…。

 

「…あのさ、二人共……」

「うん?どうしたのネプテューヌ」

「……二人は…ピクニック、一緒に行きたくなかったの…?」

『へ?』

 

ここにあいちゃんがいれば、「ちょっ!?ストレート過ぎるでしょ!」って言いそうな気もするけど、わたしは回りくどいのなんて好きじゃないし、嫌な気持ちにさせてまでわたしに付き合ってほしいとも思わない。だから、わたしは不安な気持ちになりながらも二人に訊いた。

すると二人は驚いたように目を丸くして、まずわたしを、それから互いを数秒見つめた。その様子をわたしが見つめる中、感情の読めない表情をしていた二人はまたわたしの方を向いて……言う。

 

「いや、そんな事ないよね?」

「えぇ、そんな事はないわね」

「え、あれ?(いつもの二人に戻った?)」

 

この子は何を言ってるの?…とばかりに肩を竦める二人。一体わたしが訊いてから答えるまでの数秒間で何があったのかは分からないけど、猫を被ってる様子もない。つまり……え、どゆ事?さっきまでわたし、幻術か何かにでもかけられてたの?

 

「あれって何よあれって。私の言葉を忘れてた事といい今といい、まさかまだ寝惚けてるんじゃないでしょうね?」

「そ、それはないよ。だって楽しみ過ぎて昨日は眠れなかったもん!気付いたら意識が無くて朝になってたけど」

「また子供みたいな…ってそれ寝てるよね!?ベットにいたのならそれは一般的な睡眠だよ!?」

「ネプテューヌが子供なのは今更じゃない。それよりほら、ぼーっとしてると置いてくわよ?」

「ちょ、待ってよ二人共ー!」

 

なんて思っていたらわたしは歩くのが遅くなってたみたいで、しかも二人は待ってもくれずにぽてぽて先に行ってしまう。えぇぇ!?主催者置いてくピクニックってある!?放置される系女神なんてわたし御免だよーっ!

…という事で、慌てて二人を追っかけると、二人は意地悪にも軽く走ってわたしから逃走。がびーん!…とショックを受けながらわたしがやっと合流すると、二人は面白そうに笑っていて、そんな二人に憤慨するわたし。でも、その頃にはもうわたしの中の変に思う気持ちも薄れていて……楽しい楽しいピクニックは、今度こそスタートするのだった。

 

 

 

 

ネプテューヌがピクニックの行き先に選んだのは、生活圏からは大きく離れたプラネテューヌのとある草原。疎らに木が生えている以外は何もない、見晴らしが良くて気持ち良い風の吹くここは確かにピクニックにうってつけの場所だけど、私達以外に人影はない。だって、ここには交通機関が敷かれていないんだから。

 

「ふふーん!今日はここを貸切だよー!」

「貸切っていうか、普通の人はここに来ないってだけでしょ…でも、良い場所ね」

 

私達の前に出たと思いきや、ネプテューヌはばっと振り返って両手を広げる。色々あってプラネタワーを出てからすぐは、ちょっとテンション低めだったけど……今はもうすっかり元気。

 

「まずは〜レジャーシートを敷いて〜荷物を置いて〜♪」

「ほんとにご機嫌だね、ネプテューヌ。シートが飛ばされたり…は、しないか。そんなに風強くもないし」

「まぁ、今のネプテューヌなら飛ばされてもすぐに取りに行ってくれるでしょ」

「それは、まぁ……」

 

おままごとの準備をする子供みたいにうきうきなネプテューヌと、いつも通りの中々に容赦ない発言を放つノワールに、私は思わず苦笑い。…いや、私もそんな気はするんだけどね。

 

「準備完了、っと!よーし、それじゃ早速遊ぶよ二人共ー!」

「はいはい。で、何する気なの?まさかこんな野外に来てゲームとか言うんじゃないでしょうね?」

「まっさかー。こんな見晴らしの良い場所で、レジャーシートまで持ち出したんだよ?だったらやる事なんて一つでしょ?」

 

ぴっ、と右手の人差し指を立てるネプテューヌ。その言葉を受けて私は自然と考える。うーん…一つって何だろう?人数的に鬼ごっこやかくれんぼではないだろうし、一対一で出来るテニスとかバトミントンかな?あ、でもこれ二つはネットの問題があるし、ネプテューヌの事だからオリジナルの遊びという可能性も……

 

「……そう、TCGだよ!」

『何故カードゲームを!?……って、まさかのOAネタ!?』

「おー、流石二人共!第九十一話のネタ、再びだよ!」

「なんでこんな懐かしいネタ掘り起こしてるの…え、本気…?」

「んーん、冗談だよ?本当にやりたいのは…じゃーん!」

 

私が考えていた間に一拍置いていたネプテューヌの、まさかの発言に私達二人はハモり突っ込み。でも流石にこれは冗談だったらしく、すっとネプテューヌが取り出したのはフライングディスク。

 

「…それ、フライングディスクよね?…まさか……」

「ふふーん…さぁ二人共走って!わたしの右腕から放たれる円盤をキャッチ出来るのはどっちかなー!?」

「やっぱり……なんでそんなディスクドッグみたいな…っていうかほぼディスクドッグな事しなきゃならないのよ。ドッチビーとかアルティメットならまだしも……」

「えー、でもこれネプギアのお墨付きなんだよ?」

『ネプギアの?』

「うん。何だかよく分からないけど、やってると段々楽しくなるって」

「…そ、それほんとにネプギア……?」

「違う国の領主さんじゃないかしらその人…」

 

…非常に気になる発言はあったけど、とにかくネプテューヌはフライングディスクを使って遊びたいらしい。

けど、正直私もノワールもあんまり気乗りはしていない。だって、ノワールも言ったけど…ねぇ……?

 

「やろうよ〜最初はほぼ投げるっていうか、真下に落とすレベルから始めるからさ〜」

「真下に落とされたら逆に難しいっての…それに貴女の場合、普通に投げてもとんでもない方向に飛びそうだし」

「そんな事はないよ、失礼だなぁ。…でもそういう事なら仕方ない、最初はわたしがキャッチ役をやってあげるよ」

「それなら、まぁ……って、なんで譲歩してあげるみたいな言い方なのよ。そこは『わたしがキャッチ役をするから、お願い』みたいな感じに言うべきじゃないの?」

「それはわたしのプライドが許さないかなー」

「…………」

「ど、どーどーノワール…どっちかって言えば私もノワールに同意だけど、ここは一つやってみない?…ネプテューヌ、ほんとにこのピクニックを楽しみにしてたみたいだしさ」

 

よせばいいのにあっけらかんと煽るものだから、ノワールの額に怒りマークが。でも私が宥めつつ目配せすると、ノワールは数秒考えて……嘆息。

 

「…はぁ…じゃあ、ちょっとだけよ?」

「やったー!じゃ、早速スタートだね!でもわたしも投げる側やりたいし、ちゃんと交代してくれなきゃ駄目だよ?」

 

ノワールのその言葉でネプテューヌは顔を輝かせ、フライングドッグならぬフライングヴィーナスをやる事に決定。取り敢えずは私とノワールで交互に投げる事にして、第一投はノワールが担当。

とはいえ、結局のところやるのはキャッチボールと似たような事。だから最初の数投はともかく、割と早い段階で他ならぬネプテューヌ自身が飽きちゃうかもなぁ、と思っていた私達だったけど……

 

「あははははははっ!ねぇもっかいもっかい!もっかい投げてっ!」

 

──十数分後、ネプテューヌはびっくりする程楽しんでいた。それはもう、ぴょこぴょこ跳ね回ってしまう程に。

 

「…子犬、みたいね……」

「うん…子犬感凄いね……」

 

走って距離を開けながら満面の笑みで求めてくるネプテューヌの姿に、私達は苦笑い。それこそネプは喜び草原駆け回り状態で、交代の話はどこへやら。

そんなネプテューヌがある程度走ったところで、私がディスクを投げてあげると、ネプテューヌは目一杯走って、ぴょこんと跳んで、空中でのキャッチと同時に一回転。軽く草原をスライディングしながら華麗に着地すると、ぶんぶんと腕を振りながら振り返ってくる。

 

「ね!見た見た!?今の凄いでしょ!凄いでしょ!もっと凄いのもやれるよっ!」

 

まるで疲れを感じさせずに戻ってきたネプテューヌの、楽しくてしょうがないとばかりの発言。もし比喩じゃなくほんとにネプテューヌが子犬なら、きっと尻尾を千切れそうな勢いで振ってたんだろうなぁと感じる私達。ディスクを受け取り、また交互に私達が遠くへ飛ばすと、ネプテューヌもまたすっ飛んでいく。飽きる事なく、体力も尽きる事なく、これ以上ない位の元気一杯さで。

さて、じゃあそれに付き合う私達はどうなのか。飽きてたり、呆れてたりしないのか。…それに対する答えはNO。私達も私達で、この状況を楽しんでいる。…いや、楽しんでいるっていうか、もっとストレートな表現をすると……

 

((はぅ…ネプテューヌがずっと可愛い……))

 

……萌えていた。いや、ほんと私もノワールも、がっしりハートを掴まれてた。…うん、活字じゃとにかく元気だって事しか伝わらないと思うよ?でもね、表情と動きと声が組み合わさるとね、もうどうしようもなく可愛いの。元々ネプテューヌは子供っぽいとも言える可愛らしさがある訳だけど、今はそれが極限まで引き出されてるっていうか、可愛いのステータスが振り切っちゃってるっていうか、なんていうかもう……ほんとにほんとに可愛いよぉ…。

 

「とりゃーっ!やたっ、これで十回連続キャッチ成功だね!ほらほら褒めてくれていいんだよー?ご褒美くれてもいいんだよー?ねぇねぇどうだったどうだったー?」

『…どうもこうもない位可愛い……』

「……ほぇ?二人共どしたの?どうもこうもない的な部分しか聞こえなかったけど、投げ過ぎて腱鞘炎になっちゃった?」

「…へ……?あ、な、何でもないわよネプテューヌ!」

「う、うん何でもない何でもない!それよりほら、また投げる?」

「うんっ!……あ、でも…ちょっとお腹空いてきちゃったかな…」

 

私だけならいざ知らず、ノワールまでもが気持ちをそのまま口にしてしまうという始末。そのせいで危うくネプテューヌに引かれる(…よね?いきなりこれ言われたら……)ところだったけど、幸いぼそりと言っただけだったおかげでギリギリセーフ。慌てて誤魔化した私達は、また受け取ったディスクを投げようとして……そこで初めて、ネプテューヌが遊びに待ったをかけた。

 

「そう?…って、あんだけ動き回れば当然よね。それに途中飛びもしたとはいえ、ここまでは歩いてもきたんだし」

「でしょ?って事でさ、お昼にしようよ!腹が減っては遊びは出来ぬ、だよ!」

「…これは、分かってて言い換えてるんだよね…?」

「ま、まぁ流石にこれはそうでしょ…」

 

言うが早いかネプテューヌは大きな木の下に敷いたレジャーシートの下へ。その後ろ姿に今日何度目か分からない苦笑を浮かべつつも、私達も後に続く。そしてレジャーシートの上に座ったネプテューヌは、荷物に手をかけ……固まる。

 

「……?ネプテューヌ?」

「……れてた…」

「…れてた?」

「…お弁当用意するの、忘れてたぁぁ……」

『えぇー……』

 

ずがーん、と分かり易く落ち込むネプテューヌ。揃って唖然混じりに呆れる私達二人。…用意するの忘れてたって…置いてきちゃったならともかく、用意すらしてないって…しかも一度探してた辺り、用意してない事すら忘れてたね……?

 

「うぅぅ、折角のピクニックなのにお弁当無しって…帰るまでお腹ぺこぺこのままになるなんて…そんなのピクニックじゃないよぉぉ……!」

「それは言い過ぎ……でもないか、元々ピクニックって自然の中での食事を指す言葉らしいし…」

「私の事といいお弁当といい、うっかりし過ぎでしょう貴女……」

「ぐすん…お弁当楽しみにしてたのに……」

((用意すらしていないお弁当を……?))

 

今日のネプテューヌはテンションのバランサーが故障しているのか、一気に調子が最低レベルに。色々突っ込みたいところはあるんだけど、多分この調子じゃ言っても更に落ち込ませるだけ。それ位にネプテューヌは落ち込んでいて……でも、実を言うと私は…やった、と思っていた。

勿論それは、私がネプテューヌを嫌いになった訳でも、変な趣味に目覚めた訳でもない。私がやったって思ったのは、そんなネプテューヌにぴったりな、絶対喜んでもらえる物を用意してきたから。その為に私は、朝早く起きて準備をしてきたんだから。だからこその、この感情。

しょぼんとしたままのネプテューヌから一度目を離して、自分の荷物に手を入れる私。そしてそれを手にした私は、満を持して……言う。

 

「ふふっ、しょうがないなぁネプテューヌは……でも安心して。もしかしたらって思って…お弁当、ネプテューヌの分も作ってきたよ」

「ったく、しょうがないわねネプテューヌは……見てらんないし、私の分を分けてあげるわ。…で、でも勘違いしないでよね!一人分じゃ食材が半端に余っちゃうから二人分作っただけで、別に貴女の為に作ったんじゃないんだからね!」

「へ……?」

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 

 

『……えっ?』

 

 

 

 

ネプギアの言った通り、ディスクキャッチは自分でも意味が分からない程楽しかった。楽しくて楽しくて、気付けばお腹が減っていた。だからお弁当を食べようとしたんだけど……そこでまさかのお弁当忘れ。…いや、準備自体してないんだから無くて当然なんだけど…それでもわたしは、愕然とした。

そんな中、ショックで落ち込む私に差し伸べられた、優しい優しい友達の手。それは本当に嬉しくて、救われる思いで、落ち込んでいたわたしのテンションはまた舞い上がりかけてたんだけど……

 

「もしかしたら、ねぇ…予期してたなら先に言ってあげるのが本当の優しさってものじゃないの?それとも、さっきのは単なる口実なのかしら?」

「うぐっ……の、ノワールこそ偶々用事が早く済んだ、って割には用意がいいんだね。これはどういう事なのかな?」

「うっ……で、出来る女神は常に多くの事を想定して用意を欠かさないのよ…」

 

……差し出された手は、お弁当は、まさかの二つだった。しかも、何故かノワールとイリゼがバチバチと視線をぶつけ合う展開になってしまった。

 

「あ、あのー…二人共……」

『(うん・あら)、どうしたのネプテューヌ』

「…な、何でもないです……」

 

二人の雰囲気に返り討ちとなるわたし。と言っても、威圧感があった訳じゃない。それどころかわたしの方を向いた時の二人はさっきまでの調子で、でも二人で向き直るとまたバチバチし始めるという意味不明な状況になっているものだから、わたしとしてもつい手を引っ込めてしまう。…でも、多分これは…眺めてても解決するようなものじゃない。

 

(さっきまであんなに楽しかったのに…急展開って怖いよぉ……)

 

怒りとも戦闘時のそれとも違う、けれど剣呑さを感じる雰囲気にわたしはタジタジ。だけど、このままでいいや…とは思わない。…やっぱり、わたしが何とかしなきゃだよね…切っ掛けはわたしがお弁当忘れた事だし、二人共親切心で言ってくれた訳だし…よ、よーし……!

 

「あ、あのさ!確認なんだけど…二人共、用意したお弁当は二人分なんだよね?自分とわたしの分なんだよね?」

「え?…うん、そうだよ。私はネプテューヌと二人だけのピクニックだと思ってたからね」

「だ、だから別に私は貴女の為に作った訳じゃ…でもまぁ、何人分かって言えばその通りよ。私も二人だけだと思ってたし…」

「だよね、なら……両方わたしが食べるよ…じゃなくて、わたし両方食べたいな〜!」

 

精一杯の笑顔を浮かべて、わたしが打ち出したのは状況打破を狙う一手。だって、どっちかじゃなくてどっちも食べれば一挙に解決…って問題、でしょ?

 

「両方って…いや、それ二人分って事なのよ?分かってる?」

「うん、だいじょーぶ!わたし今一杯走ってお腹ぺこぺこだもん!ねぷねぷ、お弁当一杯食べたいなー!」

「…本当に?私達に気を遣って、無理に食べようとか思ってない?」

「お、思ってないよ?うん、思ってない思ってない。この左の十字コンに誓ってないと言えるよっ!」

「いや、ヘアアクセに誓われても困るんだけど……でも、そういう事なら私は良い、かな…。…ノワールはどうする?」

「…まぁ、私もそういう事なら構わないわ」

(よ、良かったぁぁ……!)

 

若干自分でも苦しい主張な気もしたけど、一先ず納得してくれてわたしは一安心。……けど、これはあくまで第一段階。まだ解決はしてないし…言っちゃった以上、もうわたしは食べ切るしかない。

 

「それじゃあ…はい、ネプテューヌ」

「ほら、折角作ったんだから残さず食べてよね」

 

お弁当の為に気を引き締めるという謎の心境にわたしがなる中、開かれる二つのお弁当箱。

片方は、イリゼの用意した普通のお弁当。片方にはハムチーズとかポテトサラダとかのサンドイッチが入っていて、もう片方には唐揚げとか卵焼き、プチトマトなんかが入っている、これぞピクニックって感じのラインナップ。凄い料理が入ってたりはしないけど、この着飾らない感じが逆にイリゼっぽくもあって、きっと楽しく食べられそう。

もう片方は、ノワールの持ってきた重箱っぽいお弁当。こっちも一方には海苔の巻かれたおにぎりが、もう一方には焼き豚や煮物、ほうれん草のお浸しなんかが入っていて、見るからに美味しそうな料理の数々。その内容たるや朝早くどころか前日から準備してたって言われても不思議じゃないレベルで、正直すぐにでも食べてみたい。

 

(…一人分なら、絶対手放しで喜べたよこれ…って、ううん。二人が作ってくれたお弁当を食べるのに、こんな後ろ向きな考えじゃいけないよわたし。二人分食べるのは大変だけど…それはそれ、これはこれ。美味しく食べなきゃ、二人に悪いもん)

 

もう一度気を引き締めて(やっぱり謎だけど)、楽しもうって事を心に決めるわたし。二人が料理下手っぴじゃないのは分かってる事だし、お腹ぺこぺこなのは事実だもん。だから食べられる、食べられるよわたし…!

そうしてわたしは一瞬考え、貰ったウェットティッシュで手を拭いた後お弁当へと手を伸ばす。最初に手にしたのは、イリゼの作ってくれたサンドイッチ。その内のポテトサラダを持って…一口ぱくり。

 

「…ん、美味し。ちょっと塩気があって、でもじゃがいもとか人参そのものの味も消えてなくて、美味しいよイリゼ」

「そ、そう?…ふふっ、それなら良かった」

 

食べた感想をそのまま伝えると、イリゼは一瞬ほっとしたような表情を浮かべて、それから嬉しそうに微笑んでくれる。それを見て安心したわたしは、続けてノワールの焼き豚へ。今度はお箸で一切れ取って…こっちもぱくり。

 

「…ねぇノワール、これって自分で作ったんだよね?」

「え?そうだけど…何か変だった…?」

「ううん、全然。美味しいし、凄いよノワール!わたし作り方知らないけど、ちょちょいと作れるものじゃない事だけは分かるもん」

「あ…こ、これ位普通よ普通。…でも、それは褒め言葉として受け取っておくわ…」

 

一度ツンとした態度を取って、でもその後ちょっと頬を赤くしながら嬉しそうにするノワール。もう、ノワールもイリゼみたいに普通に喜べばいいのに…。

 

「次は…んーと、どれ食べよっかな……」

「じゃあ、この卵焼きはどう?左半分は甘く作ってあるし、右はチーズを巻いてあるんだよ?」

「私のおにぎりも食べてみて頂戴。あ、勿論中身は食べてからのお楽しみよ?」

「あ、う、うん…二人は食べないの…?」

「私は後で食べるから大丈夫」

「私もよ。そうそう、お茶もあるから安心しなさい」

 

そう言って次々と差し出される料理の数々。どれも美味しいし、感想を言う度嬉しそうな顔をしてくれる二人を見るとわたしも嬉しくなるんだけど…二人共競い合うようにして出してくるものだから、わたしはどうにも落ち着かない。しかも食べる姿をずっと見られてるから、気になっちゃってしょうがない。

 

(…うぅ、それに多い…食べてると段々量の多さを感じるよ……)

 

最初は「あれ?案外ぺろりと食べられそう?」…と思ったけど、食べ進める事で、お腹に溜まり始める事で、次第に不安になっていく。…や、なんとしても食べるけどね。食べ残したら勿体ない味だし。

 

「い、いやー…どれも美味しいなぁ…うん、ほんとに味は美味しいよ……」

『…………』

「…前言撤回、味『も』美味しいから!だから不安と疑いを混じらせたような視線を向けないで!?」

 

ぱくぱく、もぐもぐ、ごくん。もぐもぐ、ぱくぱく、ごっくん。取って、咀嚼して、飲み込んで、また取って。ずーっと続く変な心理戦も意識しながらわたしは食べ続けて、内心でわたしの食欲を頑張れふぁいとふぁいとして、一人で二人分を食べ進めていく。

そうして気付けば数十分。最後の一口であるレンコンを飲み込んで……わたしは二人の作ってくれたお弁当を、完食した。

 

「…はふぅ…ご馳走様ぁ……」

「お粗末様。ふふっ、ほんとに二人分を食べ切るとはね…」

「でも、流石に大変だったみたいだね。…ありがと、食べ切ってくれて」

 

満腹…というかお腹パンパンのわたしは両脚を前に投げ出して、手を突き身体を後ろに傾ける。ふぅ、食べた食べたぁ…食べ過ぎると、こういう楽な姿勢を取りたくなるよね……。

 

「ありがとうなんて、それはわたしの言葉だよイリゼ。…ほんとに美味しかったよ、ありがとね二人共」

 

ちょっとの間楽な姿勢を取って、それから姿勢を正したわたしは二人にお礼。すると二人は照れ臭そうに目を逸らして、そしたら二人で目が合って、二人揃って柔らかく微笑む。そこにはもう、さっきの剣呑さなんかちっともなくて……わたしはまた、姿勢を崩した。だって、気が抜ける位安心したんだもーん。

という訳で、わたしのお昼ご飯はこれにて終了。一時はどうなるかと思ったけど、美味しいお弁当を二つも食べられたんだから、これは怪我の功名ってやつだよね。さーて、じゃあこの後は何して遊ぼうかな──

 

「もう、お礼なんていいのに…。でも、それならさネプテューヌ……」

「どう致しまして、ってとこかしらね。…じゃ、訊きたいんだけどネプテューヌ……」

『……私達のお弁当、どっちが美味しかった?』

「え"……?」

 

……と、穏やかな感じで終わりそうだったのに、投げかけられたまさかの質問。…うっそぉ……。

 

「…ど、どっちがって……どっちも美味しかったよ…?」

『…………』

「……え、と…じゃあ、お互いに食べて比べるのは…」

『駄目』

「おおぅ…何故ここにきてそんな酷な質問を……」

 

有無を言わせない雰囲気で求める二人の様子に、思わず座ったまま後退るわたし。でもそんな事したって逃げられる訳がなくて、多分これはきちんと答えなきゃどうにもならないパターン。だからわたしは食べ過ぎとは違う理由でお腹が痛くなりそうになって……でも、考える。二人の求める、答えの為に。

どう答えればいいか。なんて言えば、このピクニックを楽しく続けられるか。難しい問いだけど、ほんとに今日の二人は変だけど、答えるしかない。その思いで考えて、考え抜いて……わたしは二人に、向き直る。

 

「…ほんとに、聞きたいんだね?」

『(うん・えぇ)』

「そっか、なら…どっちが美味しかったかって言えば……それは、ノワールの方だよ。僅差だとは思うけど、上手だって思ったのは…ノワールの方」

「……そ、そっか…」

 

答えた瞬間、イリゼは悲しそうな表情を浮かべた。その隣のノワールも、喜ぶどころか後味の悪そうな顔に変わる。…だけど、わたしの言葉は終わってない。

 

「…でもね、どっちがよりわたしの好みを理解してたかって言うと、それはイリゼの方だと思うんだ。お肉は大体どれも好きだから差はなかったけど、野菜の選択はイリゼの方が良かったかなって思うもん」

「…そう、なの……?」

「うん。だから技術の面ではノワール、選択の面ではイリゼ…って感じじゃ、駄目…かな?」

 

美味しいって感じるのは、何も料理の技術だけで決まるものじゃない。例えばナス料理だったら、どんなに上手な人が作ってもわたしは美味しく食べる事なんか出来ないと思うし、プリンなら何でも(流石に名前だけプリンの別物だったら無理かもだよ?)美味しく食べられるのがわたしだもん。

だから技術と好み、その二つを分けてわたしは答えた。もしかしたら二人が求めてる答えは違うのかもしれないけど、ひょっとしたらちゃんと優劣を決めてほしかったのかもしれないけど、わたしはこれ以外で答えるつもりはない。優劣を付ける位なら、まともに決められない優柔不断女神って思われる方を迷わず選ぶ。そっちの方が、ずっといい。

…って格好良く表現してみたけど、やっぱりどんな感情を抱かれるかは気になるしドキドキする。だから疑問形になっちゃって、逸らしそうになる目を真っ直ぐにするので精一杯で……

 

「…私は技術、イリゼは選択、ね。……じゃ、今回は引き分けって事にしとく?」

「だね。でも次は負けないよ?」

 

……二人は無事、わたしの望んだ形での納得をしてくれた。その表情に、また温かな微笑みを浮かべて。も、もー…ほんとにドキドキさせないでよね、二人共…。

 

(…って、また競い合う気なんだ…はは……)

 

……という訳で(本日二回目)、今度こそわたしのお昼ご飯は終了。一抹の不安を感じさせる終わり方だけど、まぁ多分次も何とかなるよね。って事で、今回のお話はおしまーい!次回の後編もお楽しみにね──

 

 

 

 

 

 

「じゃ、次はデザートだよね。私カップケーキ作ってきたんだ。はいどーぞ」

「へぇ、奇遇ね。私も杏仁豆腐を作ってきたわ。…勿論食べるわよね?ネプテューヌ」

 

──えーっと…はい。わたしのピクニック受難は、まだまだ続くみたいです…。




今回のパロディ解説

・某黒いセールスマン
笑ゥせぇるすまんの主人公、喪黒福造の事。ご覧の通り初っ端から酷い間に合う話…とかではありません。ネプテューヌ的には良くも悪くも色々ある話ですけどね。

・違う国の領主さん
DOG DAYSのヒロインの一人、ミルヒオーレ・F・ビスコッティの事。子犬の様に駆け回るネプテューヌ…それはとても可愛いと思うのです、はい。

・ネプは喜び草原駆け回り
童話、雪のワンフレーズのパロディ。上のパロディもそうですが、ネプテューヌ(とネプギア)は犬耳&尻尾が似合うと思います。逆に猫はノワールとユニでしょう。
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