超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第十八話 楽しい楽しいお泊まり会?

ネプテューヌと二人でピクニックだと思ってたら、ノワールも交えた三人でのピクニックだった。…それが今日の朝、私が置かれた状況。

三人でピクニックというのは、何も嫌じゃない。むしろ二人でピクニックなんてちょっと人が足りない感あるし、皆でピクニックなんて考えるだけでわくわくする。だから普通なら、私は掛け値無しに大歓迎していた…と思う。

でも、二人きりになる予定の相手がネプテューヌだったから、そこに来たのがノワールだったから、いつも通りにはいかなかった。多分それは、ノワールからしても同じ事で、だからこそ私達は時々張り合ってしまった。駄目だなぁとは思ってたけど、ノワールの事は友達として好きだけど、それでもいつもの様にはいかなかった。…ただまぁ、それはそれとして私達はピクニックを楽しんで……今は、プラネタワーの脱衣所にいる。

 

「でね、入れる部屋を限定する代わりに範囲を複数階に増やすのもいいかな〜って思うんだ。二人はどう思う?」

「どうも何も、私は本気で企画してる事に驚きなんだけど…でもまぁ、いいんじゃない?どの階に行くかが選択肢に入ると、一気に行動の幅が広がるし」

「だよね。でもそうすると複数のフロアが一気に使えなくなる訳だし、実行の難易度も上がっちゃうと思うよ?」

 

最近何人かとやったらしいプラネタワーでのかくれんぼを話題にしながら、私達は服を脱ぐ。

当たり前だけど、今日のピクニックはプラネタワーに帰ってきた時点で終了している。でも帰ってきたところでネプテューヌがノワールに泊まる事を勧めて…というか泊まってってよ〜、と引っ付いて、それをノワールが嘆息しながらも了承して、今は夕食後のお風呂の時間。…あ、勿論私も誘われたよ?折角なんだから、今日はわたしの部屋でお泊まり会しようね!…って。

 

「あー、そっかぁ…むむ、やっぱりまだまだ考える必要があるかなぁ……」

「考えるのは結構だけど…普段の仕事もそれ位やる気出しなさいよ……」

「ちょっと、折角今から三人でお風呂に入るんだから、仕事の話はノンノンだよノワール。って事で、先行くねー!」

 

脱ぎ終わったネプテューヌは、逃げるようにお風呂へとダッシュ。それに私達は呆れつつも、下げたショーツを脚から抜いて後を追う。因みに今から私達が入るのは大浴場で、お昼同様こっちも今は貸切状態。…って言っても、ここはプライベートフロアにある大浴場だから、基本いつも貸切状態なんだけどね。

 

「はふぅ…汗でべたべたって訳じゃないけど、シャワーってそれだけで何かすっきりするよねぇ…」

『うんうん…』

 

脱衣所から大浴場に移動して数十秒後。私達は三人並んで、浴槽に浸かる前にまずはシャワー。何か理由がなくても、シャワーを浴びるとすっきりする…これは女の子なら誰しも思う事なんじゃないかな。

 

「しっかし、ほんとよく走ったわね今日のネプテューヌは。そんなに投げてもらうのが嬉しかったの?」

「ちょっ、投げてもらうのがじゃなくて、上手くキャッチするのが楽しかったの!それじゃわんちゃんみたいになっちゃうじゃん、もー…」

「…わんちゃんみたいっていうか……」

「……?みたいっていうか?」

「…何でもないよ、ネプテューヌ」

 

そのまんまわんちゃんだったよ、という言葉をネプテューヌのきょとんとした顔を見て飲み込む私。ネプテューヌは本気で楽しんでたみたいだし、その気持ちに水を差すのは野暮ってものだからね。

 

「そういえばノワール、仕事は大丈夫?元々泊まってく予定じゃなかったでしょ?」

「大丈夫よ、仕事はいつも余裕を持ってやっているもの」

「だって。ネプテューヌ、聞いた?」

「だ、だからこういう時位仕事の話は止めようよー…」

「こういう時も何も、ねぇ…?」

 

肩を竦めながらノワールに視線を送ると、ノワールも肩を竦めてくすりと笑う。一方のネプテューヌはと言えば、またもや逃げるように浴槽の方へ。そんなネプテューヌに苦笑いしながら、私達はネプテューヌより少しだけ時間をかけて身体を洗い、その後はシュシュで髪を軽く纏めて浴槽に向かう。

 

『…はぁぁ……』

 

で、肩まで浸かった私達は、その気持ち良さにゆっくりと溜め息。…プラネテューヌとラステイションの守護女神に加え、原初の女神の複製体にまで揃って脱力させるんだから、そこらの兵器よりお風呂の方がよっぽど女神殺しだよねぇ……なんちゃって。

 

「この、疲れが溶けてく感じが良いわよね…」

「分かる分かる。天然の魔法って感じだよね…天然じゃなくて人工物だけど」

 

三人どころか十人以上でも余裕の大浴場だけど、私達が使っているのは精々2〜3畳。だって、離れて座ったら話し辛いしね。

 

「あったかいねぇ…」

「だねぇ……」

「癒されるねぇ…」

「そうねぇ……」

「気持ち良いねぇ…」

『同感……』

「お胸、浮いてるねぇ…」

『それも同か……えぇぇっ!?』

 

肯定しかけて慌てて胸を隠す私とノワール。あ、あっぶなぁぁ…!ゆるふわムードで同感出来る事を次々言ってくから危うく言いかけたけど、凄い罠だったよこれ!?ネプテューヌ…な、なんて強かな…っていうか、セクハラだし……!

 

「ネプテューヌ、あんたねぇ…!」

「お、出たね胸がむにっとなる隠し方!いやぁ……羨ましいなぁ…はぁ…」

「じ、自分から仕掛けておいて落ち込まないでよ…」

「反応に困るわね……」

 

私とノワールの、腕と身体に挟まれた胸を見てネプテューヌははしゃいだ……と思いきや、自分の胸に両手を当ててしょぼくれる。

こんな時、普通なら慰める私だけど、胸となるとどうしようもない。だってネプテューヌより胸の大きい私じゃ、どうやっても憐憫とか皮肉を感じさせちゃうもん。それに、そもそも私もこっちの姿は「それなり」ではあっても「大きい」訳じゃないから、内容次第じゃ自分が悲しくなってくる可能性もあって……なんて思っていたら、気付けばネプテューヌは私の方をじぃっと見ていた。

 

「…じー……」

「え……な、何…?」

 

凝視…とまでは言わずとも、がっつりと見てくるネプテューヌに段々と感じる恥ずかしさ。同性且つお風呂とはいえ、じろじろ見られたら落ち着かない……というか、ドキドキする。しかも無言で見られると、気を紛らわせる事も出来ないしほんとに見られてるって感じがあって、う…うぅ…うぅぅぅぅ…………

 

「…傷跡、大分消えてきたね」

「…あ…そ、そういう事……」

 

──と思ったら、見られていたのは胸元であって胸じゃなかった。…一回ほっとした後、勘違いしていた事にまた恥ずかしくなったんだけど…それは内緒。

 

「……と、油断したところでノワールにアターック!」

「のわぁ!?あ、危ないじゃない急に突っ込んできて!」

「ふっ…実戦だったら死んでるよ?」

「現実に即さない『もしも』で偉そうにするんじゃないわよ!ふん、だったら…!」

「ほぇ?どしたの急に腕組んで。そんな事しても何の意味も……って…う、腕に胸が乗ってる…!?」

「ふふーん」

「くぅぅ…!ま、まさかメンタル面へ攻め込んでくるなんて…ノワールの鬼畜ー!」

「私も貴女が突っ込んでこなきゃこんな事はしなかったわよ。おあいこだと思って諦めなさい」

 

こっちのやり取りが終わるや否や、今度はノワールにちょっかいを出して手痛い反撃を受けるネプテューヌ。お風呂でも、二人の関係性は変化なし。

 

「むむむ…いいもーん!わたしの無駄のないスレンダー体型が好きだった人も一杯いるもーん!」

「…スレンダー……?」

「ネプテューヌは色々小さいだけで、別にスレンダーではないわよね」

「す、スレンダーだもん!スレン・ダーだもん!」

「誰よスレン・ダーって……じゃ、例えば?」

「た、例えば?…え、えっと……」

『…………』

「……トリック、とか…?」

「…それ、言ってて悲しくならない…?」

 

墓穴を掘ったネプテューヌが絞り出したのは、まさかのロリコン四天王(あ、これだと四人共ロリコンみたいになっちゃうか…)。そして案の定、訊いてみたらネプテューヌは物凄く複雑そうな顔になっていた。…私もあんまり人の事は言えないかもだけど…自爆には気を付けようね、ネプテューヌ……。

 

「…っていうか、お風呂位ゆっくり入らせなさいよね…三人だけなんだから、ゆっくりしようと思えば出来るでしょ?」

「えー、じゃあゆっくりまったりしてみよっか?」

「え、ネプテューヌ出来るの?」

「いややろうと思えば出来るよ…本気で『え?』みたいな顔しないでよイリゼ…」

 

某お笑い怪獣さんと同じタイプと思いきや、ネプテューヌはやろうと思えばゆっくり出来るとの事。……いやほんとは知ってたけどね、冗談だけどね。

という事で、ノワールは勿論私もゆっくり入りたいという気持ちはない事もなかったから、一回ネプテューヌには黙ってもらう事に。

 

「……ふぅ…」

 

有言実行、とばかりに静かになるネプテューヌ。黙ってると雰囲気が変わるっていうか、普段賑やかな分黙ってるだけでかなり落ち着いた女の子って感じになるなぁと私達が思う中、ネプテューヌは両手で湯を掬って、そこへふっと息を吹きかけて、それによって生まれた波紋を見ながら柔らかい笑みを……

 

『…って、こんなのネプテューヌじゃなあぁぁぁぁああああいッ!!』

「ねぷぅ!?お、オーダー通りにやっただけなんだけど!?」

 

……謎のおしとやかモードに突入したネプテューヌに対し、ネプテューヌの賑やかさを求める性分より先に私達の方が耐えられなかった。

 

「ご、ごめんなさいネプテューヌ…貴女はいつも通りでいて頂戴……」

「う、うん……それはそれでちょっと不服だけど、そうさせてもらうね…」

 

湧き上がった違和感に耐えられなくなった私達の言葉を受けて、ネプテューヌは気遣い混じりに首肯。結果、意味の分からない空気が生まれるだけの展開になってしまった。…お、おしとやかなネプテューヌもそれはそれで魅力だよ?魅力なんだけど…コレジャナイ感が凄過ぎて、慣らしの時間がないと無理だよあれは……。

そんなこんなで落ち着かないお風呂の時間を過ごす事数十分。十分に身体が温まり、温かいから熱いに変わり始めたところで、私達はお風呂から上がる事に決めた。

 

「うっかり時間を忘れそうになるのがお風呂の難点よね…疲れてると特についつい長風呂しちゃうわ」

「それもある種の魔法だよね。…で、このすやすや寝てる子はどうしよっか?」

 

浴槽から出て片膝を突いた私は、指でネプテューヌの頬をつんつん。でもネプテューヌからの反応は無し。だって熟睡してるんだもの。

 

「そうね…気持ち良さそうに寝てるし、もう少しこのままにさせてあげましょ。すぐ起きてくるならそれでいいし、着替えてもまだ寝てるならそこで起こせばいいし」

「それもそうだね」

 

ノワールの言う通り、起こすのはちょっと忍びない位ネプテューヌの寝顔は気持ち良さそう。…うっかり時間を忘れそうになったのは、この寝顔にほんわかしてたから…というのは内緒…って、このパターンは今日二度目だった……。

 

「そういえばさっき長風呂の話ししたけどさ、ノワールって普段お風呂短かったり、シャワーだけで済ませちゃったりするの?」

「そんな事はないわ。忙しい時は別だけど、お風呂はゆっくり入りたいし」

「あ、言ってたねそれも。やっぱりお風呂はゆっくり入ってこそ……」

 

所変わって脱衣所。話しながら私達はタオルと着替えの置いてある場所に移動して、タオルを頭に当てて……その瞬間、私とノワールの目にある物が映った。

 

『…………』

 

それは、白と水色のストライプ。サイズはB5用紙にも満たない程で、形はざっくり言うと三角形。もうここまで言えば分かると思うけど……ある物というのは、ネプテューヌのショーツ。

 

「…子供っぽいわよね、見た目や性格に合ってはいるけど」

「ニーソと合わせてるんじゃない?っていうか、合わせてるんだと思うよ。…ニーソに合わせてるのか、ニーソを合わせてるのかは分からないけど…」

「まぁそうよね、同じ柄だって気付かない訳ないし。……」

「パーカーワンピもだけど、ネプテューヌってこの二色の組み合わせが好きなのかもね。……」

 

さっきまでと同じ流れで、話題はネプテューヌのショーツへと移行。けれどそれはあくまで同性、友達としてのものであって、ファッション的な話であって、他意なんてない。ちっとも、少しも、全然全くこれっぽっちも存在しない。いや、それはそうでしょ。だって何の変哲もない、至って普通の場所に当然の物があるだけなんだよ?やだなぁ、もう…。

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

 

 

 

「……いや駄目だよ!?それは犯罪だよノワール!?」

「ちょぉっ!?わ、私何も言ってないんだけど!?私何も変な事は考えてないんだけど!?イリゼこそ女神がそんな事していいと思ってる訳!?」

「ぶふぅっ!?わ、私だって具体的な事は言ってないよ!?言ってないし考えてもいないもんッ!」

 

初手から混乱しているという謎の状態で言い争う私達二人。ほ、本当だよ!?私何も変な事は考えてないもん!ノワールの暴走を危惧しただけだもん!…え?ならどうしてそんなに動揺してるのか…?…し、してないもん!それもこれもぜーんぶ違うんだもんねッ!

……という、どこまでが心の声でどこから先を口にしてるのかよく分からないまま言い争う事数十秒。

 

「はぁ、はぁ……い、一旦落ち着きましょイリゼ…私達はお互い、何にも邪な事は考えてない、清廉潔白な女神…そうよね…?」

「そ、そうだねノワール…私達が考えてたのはとんでもない事じゃなくて……整理整頓…そう、整理整頓だよ!ちゃんと畳まないと、服にもショーツにも皺が付いちゃうし!」

「あ、そ、そうよ!どうしてもそれが気になっちゃったのよね!同じ女神として、身嗜みには気を付けてほしいものだし!」

 

ぱっと思い付いた『整理整頓』という言葉を言い聞かせるように私達は連呼しながら、また私達は数秒わちゃわちゃ。でも言い訳…もとい真っ当な理由を出せたおかげで私達は落ち着いて……整理整頓が建前ではない事を証明すべく、視線を交わらせ頷き合う。

 

(そう、これは整理整頓…綺麗に畳むだけなんだから……!)

 

証明も何もここには二人しかいないじゃないか…とか、自分達の着替えより優先する事ではないのでは?…とか言われそうな気もするけど、そんなのは関係ない。これは大切な証明であり、最優先事項なんだから。

そう私達は心の中で言い切って、ネプテューヌの服へと手を伸ば──

 

「ふぁぁ…まさかお風呂で寝ちゃうなんて……」

『──〜〜〜〜ッ!!?!?』

 

……その瞬間の私達は、間違いなく神速だった。もしかしたら女神化してる時と遜色ないんじゃと思う程の、ぽけーっとしてるネプテューヌには認識出来ない程の、圧倒的な速度で私達は……洗面台下の収納スペースへと飛び込んだ。

 

「んなぁぁっ!?な、なんで同じ所に入ってくるのよぉっ!?」

「ひぁあ…っ!?し、仕方ないじゃん他に隠れる所なんてないんだから…っ!っていうかくすぐったい!腋に息吹きかけるの止めて…っ!?」

「す、好きでしてるんじゃないわよ!私だって貴女の息が太腿にかかるのを我慢してるんだからね…!?」

 

テンパり再燃の私達二人。当たり前だけど、洗面台下の収納スペースは人が入る事を想定なんてしていない。あまり物が入っていないのが、せめてもの救いだけど……そんな所へ二人一遍に飛び込んだら、余裕なんてある訳がない。

 

「そもそもなんで隠れたのよっ!邪な事は考えてなかったんでしょ…!?」

「ノワールだって隠れてるじゃん…!しっかり戸まで閉めて隠れようとしてるじゃん…!ならどうしてノワールこそ隠れ……」

「…あれ?わたしのショーツ、落ちてる?」

『……──ッ!!』

 

殆ど光の差し込まない中、言い争う私達はネプテューヌの声に硬直。それまでどちらかというと熱くなっていた身体は、背筋を起点に一気に全身凍り付く。

 

(ショーツが落ちてる…!?まさか、隠れる拍子に私かノワールが指を引っ掛けて…!?)

 

私達の姿は、戸を開けられない限りまず分からないし、ネプテューヌはお風呂から上がったらさっさと身体を拭いて出ていくタイプ。だから動揺しつつも心のどこかでやり過ごせる…と思っていた私だけど、こうなってしまうと話は別。

もし、ネプテューヌがショーツの落下に疑念を抱いたら。その理由を探る為に、原因やその手掛かりを探し始めたら。そして、その中でこの収納スペースを空けてしまったら……そこにいるのは、拭いていないせいで濡れたままどころか冷や汗でじっとりと湿った全裸の身体を、そういう関係なのかと思われる程に密着させ、しかも慌てて入ったのだと容易に想像出来る姿勢となった私達二人。そんな姿を、ネプテューヌに見られたら……私もノワールも、終わる。

 

「うーん、おっかしいなぁ…自然に落ちるような所には置かなかったと思うけど……」

 

既に跳ね上がりまくっていた動揺と焦りが、ネプテューヌの次なる言葉で更に加速。あまりの動揺に私達はお互いの震えが伝わってきてしまう程で、最早それは緊張なんて域じゃない。いつくるか分からない死刑宣告を待つ虜囚が如き絶望感こそ今の私達を包むもので、しかもそれは完全に自業自得だから弁明なんてしようもない。

ノワールと全裸で密着している。ちょっと手脚を動かすだけでノワールの柔らかな身体をぐにぐにと押す事になってしまうし、何なら現在進行形で私は脚を触られている。でも、こっちもどうしようもない。だって物音なんて立てようものなら、確実に今まで積み重ねてきたものが崩れ去るから。

 

((お願い、見ないで…ここだけは見ないで……っ!))

 

為すすべのない私達が唯一出来るのは、見られない事を祈るだけ。女神として情けないというか、色んな意味でこんな姿誰にも見せられないけど、それでも必死に祈る私達二人。そして、一秒が何倍にも感じられる時間がゆっくりと過ぎ……

 

「…まぁいっか。それにしても、ここに服あるのに二人はどこ行ったんだろ。…まさか、お風呂に溶けちゃったとか?なーんちゃって!」

 

一人で愉快にボケつつ、わしゃわしゃという音や衣擦れの音から恐らく着替えているのであろうネプテューヌ。体感では然程長くない時間でネプテューヌは着替えを終えて、軽快な足音がしたかと思えばすぐにその音は遠ざかっていく。

そうして待つ事十数秒。完全に音が聞こえなくなり、戻ってくる様子もない事を感じた私達は……いつの間にか止めてた息を、二人同時に吐き出した。

 

「あ、危なかったぁぁ……」

「危うく社会的に死ぬところだったわね…流石に今は反省しかないわ……」

 

全身を包む脱力感と安心感。全くもって味わいたくなんてなかった経験に、私も今は反省の念しか出てこない。

 

「…ほんと、自制心と冷静な判断って重要だよね…何がとは言わないけど……」

「同感よ…慌てそうになる時こそ落ち着いて、よね…具体的にどうとも言わないけど……」

 

実際に危機に陥る事で分かる、落ち着くという事の大切さ。落ち着けない状況だったんだから仕方ないとも言えるけど、今後の自分の事を考えれば、それでも落ち着けるようになった方がいい。…再認識の仕方がアレ過ぎるけど……まぁ、うん…そこは触れないで…。

…という事で、危うく事案になりかけた私とノワールは無事(?)危機を脱し、今度こそ着替えを始めようとするのだった。…にしても、ほんとにとんでもない危機だったなぁ…女神的にはTHE突破ファイル級と言っても過言じゃないね。…なーんて、はは……。

 

「…はぁ、それにしてもこの私がこんな情けない姿をする羽目になるなんてね…イリゼ、私膝が引っかかっちゃって手が届かないから、開けてくれる?」

「え?私ももう手が届かないっていうか、上手く動かせない状況なんだけど……」

「はい?いや、貴女…さっき半分閉めてたわよね…?」

「その後のごたごたで動かせなくなっちゃって…ノワールこそ、もう半分は閉めてたよね…?」

「私も気付いたら伸ばせなくなってたから、貴女に頼んだんだけど……え、じゃあこれ…」

 

 

 

 

『……出られない…?』

 

 

 

 

私服女神からパジャマ女神(パジャマも私服だけど)にチェンジした私達は、それから暫くネプテューヌの部屋で遊んだ。ゲームをしたり、TVを見たり、一回連れてきたライヌちゃんと戯れたり…は、やっぱりライヌちゃんがびくびくしてて皆苦笑いになっちゃったけど…して、何気ない、でも楽しい時間を満喫した。……収納スペースからどう出たか?…それはもう、頑張ってだよ、頑張って。

その内に夜も更けていき、そろそろ寝ようかという事で私達はベットに入った。…ネプテューヌがいつも寝ている、ネプテューヌのベットに。

 

「ねぷぅ…ねぷぅ……」

 

一日はしゃいで疲れていたのか、或いはほんとに楽しみ過ぎて寝不足になっていたのか、「えー!三人なんだから一緒に寝ようよー!ほら、わたしのベット大きいし!読者の皆さんだってわたし達が一緒に寝てるシーンをきっと望んでるって!」…と言っていたネプテューヌが夢の世界へ一番乗り。それを雑談しながら私達二人が眺めているというのが、今の状態。

 

「寝ると電源が切れたみたいに静かになるわよね、ネプテューヌって。…寝息で個性を発揮する辺りはもうなんか流石だけど…」

「あはは……可愛くない?この寝息」

「…正直言うと、まぁ…可愛いわね」

 

またネプテューヌの頬をつんつんしながら私が同意を求めると、肩を竦め…それからノワールも逆からつんつん。左右から頬を弄られるネプテューヌは、一瞬「うぅん…」と軽く首を動かしたけど、その後浮かべたのは小さな笑み。

 

「…………」

「…………」

 

穏やかに、幸せそうに寝息を立てるネプテューヌから指を離し、何も言わずに見つめる私達。ネプテューヌの寝顔と同じく、部屋の中にも穏やかな空気が流れて……その中で私は、呟くようにノワールへ言う。

 

「…ねぇ、ノワール」

「…うん」

「……今日、何回ネプテューヌを…意識した?」

 

それは、言うかどうか迷った、言わずに済ませちゃう方がきっと楽な、私達にとってデリケートな質問。私の言葉を受けたノワールは、ぴくりと肩を震わせて……私と同じような声音で、静かに答える。

 

「…きっと、貴女と同じ位だと思うわ」

「…そっか…やっぱり、そうなんだね……」

 

目を合わせず、背中を軽くもたれかからせて言葉を交わす。

ネプテューヌを意識する。それは、私とノワールが持つ、ネプテューヌに対する特別な気持ち。大事な友達とか、大切な仲間とか、そういう気持ちも勿論あるけど…それ以上の、秘めた想い。

 

「…ピクニック、ノワールも楽しみにしてたんだよね」

「えぇ、楽しみにしてたわ」

「それは……ネプテューヌと『二人きり』だと思ったから、だよね?」

「…全部が全部そうとは言わないわ。でも…その通りよ、イリゼ」

「…………」

「…………」

 

楽しい話題じゃない。一言一言不安になって、やっぱ止めようかとも思って、でも訊かずにはいられない。

私とノワールがネプテューヌを意識し出したのは、もう随分と前の事。お互いの気持ちを知ったのも、かなり前の事。でもそれから、私もノワールも踏み出す勇気がなくて、今のままの関係も決して嫌じゃなくて、何より少し前までは犯罪組織絡みでそれどころじゃなかったから、私達の関係は変わらないまま。…だけど、いつまでもこのままでいるかどうかなんて……分からない。

 

「…駄目よね、私も貴女も…ネプテューヌは、純粋に今日一日を楽しんでたのに…」

「うん……きっとネプテューヌに、気を遣わせちゃったよね…」

 

実際今日、何度か私とノワールは張り合った。ネプテューヌを困らせてしまったし、意地悪な質問もしてしまった。

この気持ちのせいで、ノワールと険悪になる…って事はないと思う。だってともすればノワールは私にとって競争相手だけど、それ以前に友達だから。ノワールと仲が悪くなる位なら、この気持ちには一生蓋をしたままで良いって私は思ってるし…ノワールもきっとそうだと、私は信じてる。

だけどそれでも、これが現実。ネプテューヌがいなきゃ、私達はここまで楽しめてなかったと思う。…まぁ、身も蓋もない事を言えば…その場合、そもそも張り合う事もなかったんだろうけど。

 

「…イリゼ、貴女はどうしたい?…このままでいるか、それとも……」

「…踏み出す、って言ったら?」

「……止めないわ。でも、きっと…黙って諦めるなんて事も、私はしない」

「だよね。…私も同じだよ、ノワール」

 

多分、今の言葉で伝わったと思う。今の私に、踏み出すつもりはないって事が。そして逆に、ノワールからも伝わってきた。ノワールも、まだ踏み出す気はないって事が。

理由は沢山ある。さっき挙げた今のままの関係も嫌じゃないってのもそうだし、ネプテューヌを困らせたくないってのもあるし……踏み出す事への恐怖も、理由の一つ。

戦いは怖くない。死ぬ事も、嫌だけどもしかしたら怖くないのかもしれない。だけど……今の関係が壊れてしまう事は、凄く凄く…怖い。

 

「…難儀だよね。進むのは怖くて、でも今のままでいるのもちょっと不安で……進みたい気持ちも、このままでいたい気持ちも、両方あるなんて」

「…きっと、そういうものなのよ。ほんと、困ったものよ…私にもイリゼにも、こんな気持ちを抱かせるんだから」

「ふふっ。…でもいつかは、変わるのかもしれないよ?」

「その時はその時よ。…これは先送りなんかじゃないわ。この気持ちも、今の関係も、ネプテューヌも…貴女の事も全部大切だから、今はまだ今のままでいるの。……イリゼも、そうでしょう?」

 

そうしてノワールは、私の方を向く。向いたノワールは、ちょっと苦笑いの…でも前向きな、良い表情。

そのノワールに向けて、向き直った私は頷く。……言い訳に聞こえるのかもしれない。一片足りとも言い訳の気持ちがないのかと言われたら…そんな事はないと、断言までは出来ないと思う。

だけどそれが本心だから。私もノワールも、全部大切だから……何かを失ってもだなんて、そんな思いじゃ進まない。だからあの時、私とノワールは握手をして…今もまた、友達として笑い合う。

 

「…でも、こうまで言って私達のどっちも想いが成就しなかったら、もうなんて言えばいいか分からないわよね。……実際、そうなる可能性はあるんだし」

「だね。…もしそうなったら、私はノワールの隣に居よっかな。勿論、ノワールが嫌じゃなければだけど」

「それ、絶対傷を舐め合う関係になるじゃない……でもまぁ、ほんとにそうなったら…それも、悪くないのかもね」

 

それから私達は、縁起でもない事を…と仲良く自嘲しながら、ネプテューヌの左右に横になる。…今のやり取りが、どこまで冗談だったかは分からない。ノワールも言ったけど、それはそれで悪くないのかもしれない。

でも、願わくばそうならない事を。私もノワールも、ネプテューヌも悲しまない関係に、いつかは辿り着ける事を……そう心の中で願いを込めて、私は瞼を閉じるのだった。

 

 

 

 

「ん、ぅぅ……」

 

深夜に、ふと目が覚めた。理由はよく分かんないんだけど…実際目が覚めたんだもん、仕方ないじゃん。そう思ってわたしは時間を確認しようとして……身体が動かない事に気付く。

一瞬、「金縛り!?」って思った。次に、毒でも盛られたのかと思った。でも……違った。

 

「すぅ…くぅ……」

「んっ…すぅ……」

「…おおぅ……」

 

右にはノワール、左にはイリゼ。これは寝る前と同じ陣形で、一緒に寝ようと言ったのもわたし。けど、けどさ……左右から同時に抱き枕にされるってある…?これ、某墓場が落ち着くゾンビさんと同じ状況じゃん……。

 

「当たってる当たってる…色んなところが当たってるって……」

 

腕にはふわふわぽよんの胸と、パジャマの裾からちらっと出てるお腹。脚にはすべすべむにむにの脚。顔…っていうか耳の辺りには二人の吐息もかかっていて……これは、うん…わたしが男の子だったら、それはもう大変な事になってただろうね…だって同性のわたしでも、正直ドキドキしちゃうんだし…。

 

「…………」

 

「……ドキドキ、か…」

 

頭の中に思い浮かべた感想を、わたしは天井に向けてぽつりと呟く。

多分、ドキドキする気持ちは変じゃない。この二人にこんな事をされたら、女神を含む世の中の九割の人は心がドキドキしちゃうと思う。だけど、それは…他の人の場合と、同じ気持ち?わたしのドキドキは、ただそれだけの思いなの?

 

「……なんて、疑問形にしちゃう辺り…わたしって、ズルいなぁ…」

 

自分のズルさっていうか、普段は出てくるくせにこういう時だけはどっか行っちゃう積極さに呆れながら、わたしは一人、静かに思う。

分かってる。今日一日、二人は何度か変だったけど……どうして変になってしまったのかを、薄々とだけど分かってる。勘違いの可能性も、ゼロじゃないけど…だけど多分、これは合ってる。それに……わたしの中にある、なんて言えばいいのか分からない、実はまだその正体もはっきりしてない気持ちの事も…ずっと前から、気付いてる。

だけどわたしは動かない。踏み出さない。その気持ちを認識する事が、認識する事で今の関係が変わってしまう事が怖くて……踏み出せない。

 

「…だけど、二人だってズルいんだよ…?はっきりする訳でも、中途半端にする訳でもなくて……中途半端ですらない、あやふやな状態のままで居続けられたら…わたしだって、怖くなっちゃうもん……」

 

もしも、二人がはっきり気持ちをぶつけてくれたら。表明はしなくても、分かり易かったら…そしたらわたしも、踏ん切りがついたのかもしれない。

でもそれは現実じゃなくて、現実じゃないもしもで言い訳したって、わたしがちょっと納得出来るだけの事。だからわたしは、薄々でも感じている以上は……これからもちゃんと、踏み出さずとも目は逸らさずに、向き合わなきゃいけない。向き合いたい。二人はわたしにとって……大切な二人だから。

 

「…でも、拒絶だけはしないよ。どんな事になったとしても、わたしは二人を否定しない。だから、さ…もう暫くは、三人で迷ってようよ…どこに辿り着けるかは分からないけどさ、迷ってる今の関係も…楽しくて、幸せでしょ…?」

 

ゼロじゃない可能性を、互いに求めてる…じゃないけど、わたしの願う未来も、ノワールが願う未来も、イリゼが願う未来も…皆が望む未来が、きっとある。そしてそんな未来関係なしに、今この瞬間にも幸せがあって、その幸せはちっぽけじゃないって、わたしは信じてる。

だからわたしは、二人の手を握…るのはちょっと位置的に難しかったから、二人の指に触れて、二人を感じて……わたしはまた、眠りにつく。

 

 

──そうして迎えた朝、わたし達は言うのだった。笑顔を浮かべて、友達として……おはよう、って。




今回のパロディ解説

・某お笑い怪獣さん
お笑いタレント、明石家さんまこと杉本高文さんの事。彼とネプテューヌは笑いにおいて、かなり近いスタンスなんじゃないかなー、と勝手に思っています。

・THE突破ファイル
TV番組のタイトルの事。…作中の展開みたいなものを、この番組に出されても困りますね…二人も分かってはいますが、完全に自業自得ですし。

・某墓場が落ち着くゾンビさん
これはゾンビですか?の主人公、相川歩の事。これはユーとセラに抱き枕にされてた場面の事ですね。ネプテューヌも同じ感じに…なってたのかもしれません。

・ゼロじゃない可能性、互いに求めてる
アニメ版アンジュヴィエルジュのED、Link with Uのワンフレーズのパロディ。サビ前のフレーズですね。ここからの流れはいいなぁと思う私です。

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