超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第二十一話 エデンズライブ、目前編

時間ってさー、いっつも過ぎる前は「わー、一杯あるなぁ」って思っても、いざ過ぎると「あれ?もう過ぎちゃったの?」ってなるよね。喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うし、終わっちゃったものはあっさりと感じるのが人の性なんだろうけど、なんだか勿体ない感じがあるよねぇ。……まぁ、わたしは女神なんだけど。

って訳で、今回はライブをもうすぐに控えたわたし達の話だよー!

 

『おぉー!』

 

女神のライブ、通称エデンズ・ライブ(エデンなんて、大層な名前付けたよねぇ。その会議はわたしも参加してたし、何なら賛成もしたけど)の事がもう十分に知れ渡って、当日までのカウントダウンをちらほら見かけるようになったある日、わたし達は一度会場…コンサートから新女神プロレスの興行まで、何でもござれのプラネスタジアムへと来ていた。

その舞台へと上がった時、思わず声を上げるわたしとイリゼ、それにユニちゃん以外の女神候補生三人。理由は勿論、そこから見える景色に圧倒されたから。

 

「凄い…これまでにも大きな会場で話をする機会はあったけど……」

「独特の雰囲気っていうか、心にぐっとくるものがありますね…」

 

前を見ても、左を見ても、右を見ても席。斜めに上へと広がっていて、その席全てがここを見る為に設置されている。イリゼの言う通り、女神にとって大勢の前に立つ事は慣れっこなんだけど……それでもここには、普段の活動じゃ感じられないものがある。

 

「うんうん、確かにこれは言いたくなるよ…」

「言いたくなる?何をよ」

「え?『後ろの席まで、ちゃんと見えてるからねー!』だけど?」

「あ、そう…それ言われると、私も何か言わなきゃいけないような雰囲気になりそうね…」

 

まだ本番は目前じゃないから、スタジアムはライブ仕様になってないけど、それでもわたしの目には当日の光景が思い浮かぶ。当日の事を考えると、ちょっと緊張するけど……すっごく楽しみなんだよね。

 

「ここって何人入れるのかしら…えーっと、いち、にー、さん、しー……」

「ラム、そんな事しなくても収容人数は資料に載ってるわよ…」

「ふぇぇ…こんなにたくさん、来てくれるかな…?」

「その心配は不要ですわよ、ロムちゃん。チケットは予約開始直後に完売しましたもの」

「あぁ…あの日は予約出来なかった人の嘆きがネットでも街頭インタビューでも溢れ返ってましたね…」

 

ロムちゃんへ対するベールの回答に、ユニちゃんは苦笑い。わたしもユニちゃんと同じようにあの日の事を思い出して、やっぱり苦笑い。喜んでもらう為のライブなのに、それを準備の時点で逆に悲しませてしまうなんて、わたし達女神も罪な女だよ…。

 

「仕方ない事だけど…見に来たかった人全員の気持ちに応えられないのは、やっぱり悲しいね…」

「それはそうだね。だからさネプギア、本番では頑張ろうよ。予約出来なかった人が、会場で見る事は出来なかったけど、TVの生放送でも文句無しに楽しめた…って思ってくれる位の、最高のライブにする為にさ」

「お姉ちゃん…うん、そうだよね!」

 

…と思っていたら、冗談半分のわたしと違って、ネプギアは本当に悲しませてしまった事、悲しいって思ってたみたい。だけどわたしの言葉を聞いて、すぐに前向きになってくれる。

 

「ふふっ、その意気だよネプギア!わたし達の目指すところは笑顔と感動、そして観客全員をねっぷねぷの境地に至らせる事なんだからね!」

「ね、ねっぷねぷの境地!?」

「そう、ねっぷねぷの境地だよ!ネプギアなら…わたしと同じ、『ネプ』の名を持つ選ばれし女神のネプギアなら分かるでしょ?この境地が…ねぷねぷの意味が…!」

「……っ!それって、まさか…この胸の中で湧き上がる、この気持ちが……!」

「……それ以上の言葉は要らないよ、ネプギア」

 

はっとした顔をした後、胸の前で右手を握って目を輝かせるネプギア。その瞳の奥に、ねぷねぷの先導者としての素質を再確認したわたしは、小さく笑い……わたしとネプギアは、二人の『ネプ』は、頷き合う。

 

「……何言ってるのかしらね、あの子達は…」

『…さぁ……』

 

…なんかノワールの呆れた声と、それに応える皆の声が聞こえてきたけど問題なーし!これはネプの名を持つ者にしか到達出来ない領域、言うなればネプの世界、ネプ・ザ・ワールドだからね!

 

「よーし、まずは観客席を回ってみようか!向こうからはどう見えるかって大事だからね!」

「だよね、お姉ちゃん!」

 

滾る思いを胸に、わたしとネプギアは揃ってダッシュ。今回も皆で力を合わせて頑張る事が必須だし、ライブは皆で作り上げるものだけど…本番は会場に来た人達もTVの前の人達も、皆わたしとネプギアが釘付けにしちゃうんだからね!何せわたし達、主人公ですからっ!

 

 

 

 

「…行ってしまいましたわね。そこそこごもっともな事を言って……」

 

軽快に観客席の階段を上がっていくプラネテューヌの女神二人を、私達は肩を竦めて苦笑い気味に眺める。今日の二人は、いつもに増して元気一杯だった。

 

「ねっぷねぷの境地って…なんでネプギアはそれが分かるのよ……」

「というか、驚きね…ネプテューヌはともかく、ネプギアまであんなに乗るなんて……」

「あはは…でもネプギアって感化され易いところあるし、何だかんだ言ってもネプテューヌの妹だからね。根っこの部分は結構共通してるんじゃないかな」

 

ユニとブランの言葉に重ねて私は苦笑しつつも、旅の中でずっとネプギアを見ていた私としては、その行動は分からない事もない。…あくまで行動は、だよ?ねっぷねぷの境地は私にもさっぱりだからね?

 

「さてと…じゃ、どうする?私達も向こうからの景色、一応見ておく?」

「あ…うん、アタシもそれがいいと思う。色々分かってた方が精神的にも余裕が出来るし」

「ねぇねぇおねえちゃん、わたしはうらの方行ってみたい!」

「わたしも…ぶたいうら、もっと見てみたい…(ちらちら)」

「二人は本当に好奇心旺盛ね…いいわ、着いて行ってあげる」

 

それからネプテューヌとネプギアが行っちゃった事で各々行動する流れになって、ノワールとユニは二人同様観客席へ、ブランとロムちゃんラムちゃんは舞台の裏へとそれぞれ移動。舞台の上には私とベールの二人だけになって、私はくるりと向き直る。

 

「ベールはどうするの?何かするなら、手伝うよ?」

「助かりますわ。…けれど、手伝う…ですのね」

「……?うん、そのつもりだけど…何か問題だった?」

 

最初の練習の時はネプテューヌと並んでボケまくってたベールだけど、練習に対してはいつも真摯で真面目そのものだった。それが女神としての矜持なのか、ライブに心を躍らせていたからなのかは分からないけど、私が手伝いを申し出たのもそんなベールのやる気を見てきたから。…でも、それを受けたベールは最初に一度笑顔になって……けれどすぐに、その顔は浮かない表情に変わる。

 

「問題がある訳ではありませんわ。ただ、気になりましたの。手伝うという、その表現が」

「表現…?あ、そっか……まぁ、私は万が一に備えて助っ人に入れる準備をしてきただけだからね。やっぱり皆と立場は違うよ」

 

不都合な事でもあったのかと訊いてみると、どうやらベールが気になっていたのは私のスタンスらしい。

確かに『手伝う』って言葉には、違う事をしていた人が助ける…みたいなニュアンスがある。そして実際に私は違う立場だという認識があったから、「一緒にやるよ」じゃなくて「手伝うよ」と言った。…って言っても、意識して言葉を選んだ訳じゃないけどね。

 

「…不満や、残念だと思う気持ちはありませんの?」

「それは、自分だけ舞台に立てない事へ対して?」

「そうですわ。自分も女神なのに…とは思わないんですの?」

「うーん……興味はあるよ?やれたら楽しそうだなぁ、とも思うよ?けど…そういう後ろ向きな気持ちはない、かな」

 

舞台への憧れ…って言うと若干の語弊もありそうだけど、そういう気持ち自体がない訳じゃない。だけど私は、小さく笑って肩を竦める。

 

「だってさ、別に出し抜かれて私だけ出られなくなった訳じゃないし、これは企画の段階で私も了承した事だもん。それに…私には私の、務めがあるからね」

「…自分がやらなきゃ他の誰かが代わりにやらなくちゃいけなくなるから…そういう理由では、ないんですのね?」

「違うよ、そんな嫌々やってる訳じゃないから安心して」

 

薄々感じてはいたけど、今の言葉で確信した。ベールは私を、今の信次元の女神の中で、唯一舞台に立たないであろう私の心境を気にかけてくれていたんだと。…ほんと、些細な事でもベールは私の事を気にかけてくれるよね…前のめりになり過ぎたり、そもそも友達の妹を狙うというスタート地点からぶっ飛んでるせいで空回りしてるけど、普通にしていればベールもきっと良いお姉さんに……

 

「…………」

「……イリゼ?」

「…まさか私も視野に入れてるの!?遂に友達にまで手を出す気!?私また妹扱いされる展開!?」

「え、は、はい……?」

「……あれ…違った…?」

「違います、けど……」

「……あぅ…」

 

好感情から一転。ベールの魂胆が見えて思わず叫んでしまった私。でも……勘違いだった。完っ全に、私が思い込んでいただけだった。しかも例の如く、まるっと私は思っている事全てを言ってしまって……ご覧の有様です。

 

「…ほんとに直りませんわね、それ……」

「言わないで…泣きたくなるから言わないで……」

「しかも、読者さんの視点で言えば前々回にもしでかしたばかり……」

「だから言わないでって!ねぇ!?」

 

さっきまでの優しい気遣いは何処へやら。傷心の私へベールがしてきたのは、メタ視点まで用いた弄りだった。うぅぅ…これが私の持ちネタだとかお約束だとか思わないでよね!私は認めないんだからっ!

 

「イリゼー、どうかしたのー?」

「声反響してたわよ、ばっちりとね」

「何か、問題でもあった…?」

「うわぁ!?皆集まってきた!?」

 

観客席の上の方からは駆け下りるようにネプテューヌが、中腹辺りからは普通に歩いてノワールが、舞台裏からはひょっこりとブランが続々と登場。「呼んでない呼んでない!大丈夫だから!」と言って何とか難を逃れたけど、もし今の流れで三人…というか他の皆にまで参加されたら、絶対もっと弄られてた。それこそ前々回の再現にすらなっていたと思う。

 

「何で皆、こんなに弄りチャンスに敏感なの…?」

「いや、今のに関してはイリゼが大声で叫んだからだと思いますわよ…ノワールの言う通り、声も反響致しますし……」

「え、じゃあ…会場まで、私を弄る為の仕様になってるって事…?」

「そんな訳ありませんわよ…落ち着きなさいなイリゼ。深呼吸して、もう一度考えてみるのですわ」

「落ち着くって…まぁ、いいけど…。…すぅ…はぁ……」

「…どうでして?」

「…うん、中々に意味不明な事言ってたね、今さっきの私……」

 

言われた通りに深呼吸してみて、もう殆ど旅お兄さん並の被害妄想みたいな事を言っていたと気付く私。…数分前まで気立ての良い私と優しく気遣いが出来るベール、みたいなやり取りだったのに、どうしてこんな展開になっちゃったんだろうね……。

 

「…こ、こほん。とにかく私は大丈夫だよ。でも、気にかけてくれてありがとね」

「わたくしは気になった事をそのままにしなかっただけですわ。…それに、ネプテューヌ達も少なからず同じ事は思っていたのではないかしら」

「…かもね。…もしかしたら、三人もそれを気にして聞き耳を立てていて、だからさっきも反応出来た…とかだったりしてね」

「いや、それはほんとにイリゼの声とこの場が噛み合った結果だと思いますわよ」

「うっ…ここは同意してよベール……」

 

ふふっ、そうかもしれませんわね。…って感じの返しを期待してたのに、やる時はやるリーンボックスの守護女神は容赦がなかった。

ともあれ今日の目的は会場の下見と、動きの軽い確認だけ。十数分後には皆舞台に戻ってきて、何曲かのダンスをやったらそれでお終い。だから準備とか、練習って意味じゃその内容はいつもより薄かったけど…舞台でダンスをしている時の皆は、輪を掛けて真剣な顔をしていた。…やっぱり、本番はここで、皆の期待を受けながら歌うんだって事を実感すると…色々、変わるよね。

 

 

 

 

最初は音程を取るのも、振り付けを最後まで覚えるのも大変だった。舞台で楽しそうに歌って踊る人達が、どれだけの努力と練習の末にあの場所へ立っているのかが、よく分かる日々だった。

出来るだけ全員で練習して、無理な時はわたし一人やお姉ちゃん、イリゼさんとやって、時にはコンパさんやアイエフさん、来てくれたパーティーの皆さんに手伝ってもらって、わたし達は準備を進めてきた。ちょっとでも良いライブになるように、より多く、より深く楽しんでもらう為に。…そして今日……ライブ前の、最後の練習が終わる。

 

「皆、ありがとーっ!」

 

アウトロが終わる直前、曲の余韻の中で叫ぶお姉ちゃん。…あんまり良い印象にはならないから公言はしないけど、少なくともこの曲においてお姉ちゃんがこう言うのは、予め決めた通りの行動だったり。

 

「はぁ…はぁ…どうですか?5pb.さん…」

「うん…歌唱指導担当として、一言で言うなら……」

『…………』

「…ばっちりだよ、皆」

 

問いかけたわたしは勿論、全員が5pb.さんを緊張の面持ちで見つめる中、5pb.さんはにこっと笑ってサムズアップ。続けて振り付け師の皆さんからもお墨付きを貰って、わたし達は安堵に表情を緩ませる。

 

「ふぅ…無事仕上がったね、お姉ちゃん」

「えぇ。途中手こずった時期もあったけど…これは自分で考えても上々の出来だと思うわ」

「おねえちゃん、わたし…さいごまで一個も、まちがえなかったよ…?」

「わたしもわたしもー!かんっぺきにできちゃった!」

「そうね、歌や動きは勿論、細かな部分もきちんと形になっていたわ」

 

ちょっとした戦闘なら汗一つかかずにこなせるわたし達だけど、今は全員がじっとりと汗をかいている。それ位に大変で、緊張感もあったのがライブの練習。

でも、完成した。ここ数日間は、楽曲の最終確認をしていて、これで全部の曲の確認が終わった。だからこその安堵感で、わたしもリストバンドで額の汗を拭いながら、お姉ちゃんに向き直る。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃん、最後の格好良かったよ」

「あ、そう?わたし的には可愛い系だと思ってたけど、格好良かった?」

「え?あ、えーっと…格好良いし、可愛くもある系…かな?」

 

Tシャツにショートパンツのお姉ちゃんはいつも以上に活発な雰囲気があって(練習中は皆似たような服装だけどね)、そんなお姉ちゃんが汗を滴らせながら叫ぶ姿は、格好良かったし…なんというか、素敵だった。上手く言語化出来ないけど、なんだかとっても素敵な感じ。

 

「かな?って…そこはきっちり言い切らなきゃネプテューヌさんも反応に困るでしょ…」

「あはは、大丈夫だよユニちゃん。こういう返しもネプギアらしいからね。後、ユニちゃんも格好良かったよ?クールで、でも愛らしさもあるって感じで」

「そ、そうですか?」

「うんうん、だよねネプギア?」

 

と、そこへ入ってきたのはユニちゃん。わたしより先にお姉ちゃんが返答すると、話の話題はユニちゃんの事に。…ユニちゃんかぁ…ユニちゃんは……

 

「…うん、ユニちゃんも格好良かったよね。動きのキレが良いのは勿論、激しい動きでも全然表情が崩れてなかったし、でもここぞという時の笑顔はとっても可愛くて、しかもただ可愛いだけじゃないって言うか、こう…何か悪戯っぽさがあるって言うのかな?そんなドキッとさせる面もあって……お姉ちゃんに負けない位、素敵だったかも…」

「な、何よそのベタ褒めは……そう言うネプギアだって、凄かったと思うわよ…?アタシは表情が崩れてなかったって言うけど、ネプギアは明るい表情が絶えない感じだったし、動きは正確なのに柔らかさもあったし、ちょっと悔しいけど…身体のメリハリも綺麗に出来てる分、動き一つ一つに魅力があったじゃない……」

「…ユニちゃん……」

「…………」

 

 

『…あぅ……』

「…おっと…これはまた、予想外の展開に……」

 

気付いたら流れるように言葉となっていた、ユニちゃんの素敵なところ。言い終わる頃にはユニちゃんは顔を赤くしていて、そこから今度はユニちゃんからの褒め言葉が始まって、それを聞いたわたしは嬉しかったけど…それ以上に感じたのは、むず痒いというか段々ユニちゃんを直視出来なくなるような気持ち。そしてユニちゃんも言い終わった後、わたし達は目が合って……思わず同時に目を逸らしてしまった。

 

(あぅぅ…わたし、あれ以降ちょっと調子悪いよぉ……)

 

頬の熱さを感じながらわたしが思い出すのは、色々とハプニングがあった例の写真撮影。あんな事があれば、お互い変な意識持っちゃっても当然だとは思うけど…うぅ、モヤモヤする……。

 

「…何よこの雰囲気。ネプテューヌ、貴女何か変な事でも言ったの?」

「あーいや、これはわたしっていうか…むしろ、わたしも『何この雰囲気』状態っていうか……」

「よ、お疲れ様皆」

「あぁうん、ありがとう…って、シアン?」

 

ユニちゃんに続いて今度はノワールさん。変な雰囲気になってたらしいわたし達二人に気付いたらしくて、お姉ちゃんを軽く問い詰めて……そこで不意に、今日初めて聞く声がした。

それには「あれ?」と思って、わたしもユニちゃんも揃って振り向く。するとそこにいたのは、ノワールさんが言った通りの人物。

 

「ちょっとプラネテューヌに用事があってな。邪魔しないようにって、差し入れだけしようと思ったんだが……」

「丁度練習が終わる時間だったですから、わたしがここまで案内したんです」

「え、なになに差し入れ?シアンお手製のケーキか何か?」

「いや、わたしは機械以外からっきしだって…ケーキ屋のシュークリームだよ」

 

微笑むコンパさんと一緒に入ってきたシアンさんは、手にした白い箱を軽く掲げる。それに目を輝かせたお姉ちゃんが受け取って開けると、中には見るからにふっくらとしたシュークリーム。…あ、これって確かうちの大通りにある、結構お高いシュークリームだった気が…。

 

「わぁ、おいしそー!おねえちゃん、食べてもいい?」

「ラム、それを訊くならわたしじゃなくてシアンでしょう?」

「あ、そっか…シアンさん、食べてもいーい?」

「あぁ、勿論。…じゃなかった、はい、どうぞ」

「貴女はわたし達の友達なんだから、別にラムへ敬語を使わなくてもいいのに…頂くわね、シアン」

 

最後の確認も終わったからというのもあって、早速わたし達はシュークリームを手に。一口食べると、口の中に広がるのはふんわりとした生地の食感と、自然に頬が緩む甘さ。シュークリームに合わせてコンパさんも紅茶を用意してくれていて、心も身体も癒されていく。

 

「シアン、シアンは当日来られるんだよね?」

「そりゃ、チケットまで貰ったしな。当日は一日楽しませてもらうよ」

「ならば、その期待に応える事をお約束致しますわ」

 

イリゼさん、ベールさん、シアンさんの和やかなやり取りを聞きながら、わたしはシュークリームをもう一口。…っとと、クリームがちょっとはみ出ちゃった……。

 

「〜〜♪(にこにこ)」

「…あ、ロムちゃんお鼻にクリーム付いてるよ?」

「ほぇ…?あ、ほんとだ……」

「そういうネプギアも、同じく鼻に付いてるけどね」

「へ?…あ、あはははは…これは恥ずかしいね……」

 

人に指摘しておきながら、同じミスを自分もしてるなんて…。そんな恥ずかしさから、わたしは頬を掻きつつ苦笑い。ほんとにこれは恥ずかしかったけど……それを言ったユニちゃんを、今度はちゃんと直視出来た。ユニちゃんの方も、呆れ混じりに笑っていて…ほっと一安心。

 

「はふぅ、ごちそー様っ!よーし、甘いもの食べて元気も出たし、明日は頑張っちゃうよー!」

「気が早いよネプテューヌ…でも、その心意気は大事だよね」

「ボクも舞台裏から見守ってますから、皆さん頑張って下さいね…!」

「貴女も気が早いですわよ…ふふっ」

 

まるで今から本番みたいな事を言った5pb.さんに軽く突っ込んだ後、ベールさんは小さく笑う。

それは、気の早いお姉ちゃんや5pb.さんに対してじゃなくて、明日へ向けての気持ちからくるもの。どうしてそれが分かるかと言えば……わたしもその気持ちから、自然と笑みを浮かべていたから。

勿論それは、わたしだけじゃない。笑顔の、気持ちの輪が広がるように気付けば皆やる気に満ちた表情になっていて、それからわたし達は頷き合う。

 

(…きっと、本番は凄く緊張すると思う。大変さだって、練習の比じゃないと思う。だけど……)

 

頑張ろう。大成功させて、最高のライブにして、見ている人皆に幸せになってもらおう。…言葉は交わす事なく、わたし達はその思いを共有して……明日の本番へと、わたし達は臨む。




今回のパロディ解説

・後ろの席〜〜からねー!
アイドルマスターシリーズの登場キャラの一人、天海春香の代名詞的台詞の一つの事。やはりライブ(アイドル)ネタというだけあって、アイマスパロが増えますね。

・ネプの世界、ネプ・ザ・ワールド
ジョジョシリーズの登場キャラの一人DIO(ディオ・ブランドー)及び空条承太郎のスタンドのパロディ。後者はネプラチナ・ザ・ワールドの方が分かり易かったかもですね。

・旅お兄さん
ギャグマンガ日和に登場するキャラの一人の事。この後イリゼが「もういい!帰る!」とか言って帰ったりしたら、物凄く気不味い雰囲気になってしまいますね。
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