超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
「よーし!行くよロムちゃん!」
「う、うん…っ!」
舞台裏からステージへ、ふりふりの衣装を着て駆け出すお姉ちゃんとロムちゃん。その二人とすれ違う形で戻るのは…わたしと、ブランさん。
「ふぅぅ…無事完遂ですね、ブランさん」
「えぇ。やるわね、ネプギア。最終確認の時から、更に仕上げてくるなんて」
「そ、そうですか?わたしは必死にやってただけですけど…それにブランさんこそ、完璧にこなした上で細かいアドリブを入れるなんて、流石です…!」
「ふふっ、まぁあれはやりたくなっただけよ。…あんなに歓声を受けちゃったら…ね」
裏に戻ると同時に大きく息を吐いてしまったわたしに対して、ブランさんは小さく微笑んでくれる。疲れ…それに多分高揚感でブランさんの頬はほんのりと赤くなっていて、それが頬を伝う汗と合わさる事で何だかとっても大人な感じ。…あんなに歓声を受けちゃったら、かぁ…その気持ち、凄く分かります…!
「お疲れ様…と言ったところかな、お二人共」
「ドリンクは必要かい?」
「あ、はいありがとうございま……へ?」
一息つこうとしたわたし達へと差し出される、二つのタオルとスポーツドリンク。それをわたしは受け取ろうとして……気付いた。タオルとドリンクを渡してくれたのが、スタッフさんではなく兄弟のお二人である事に。
「…貴方達、何をしているの…?」
「ふむ、これを見て分からないとは…やはり胸の貧相な方は嘆かわしいな…」
「……ネプギア、覚えておくと良いわ。適度に中身の減ったペットボトルは、鈍器として優秀だって事をね」
「わわっ!?だ、駄目ですよブランさん!今の発言が非常に失礼だという点には全面的に同意しますが、だからって撲殺しようとするのは駄目ですって!」
「いや、撲殺までするつもりはなかったんだけど…」
ぐっ、とペットボトルの中身を口にしたブランさんは、やれやれ…と首を振る兄さんへ向けてそのボトルを振り被り……そこで慌ててわたしが止めた。い、今本気の顔してなかった…!?
「あぁ恐ろしい、これも胸の無い事による弊害かもしれないね兄者…僕は正直、成長すら絶望的な彼女に同情心すら覚えるよ…」
「全くだ。その点ネプギア様はまだ希望がある。女神が明確な成長をするのかどうかは分からないが…ネプテューヌ様の妹ならば、或いは……」
「……ネプギア、よく覚えておくと良いわ。放送機材は特に工夫しなくても、鈍器として十分な強度と重量を……」
「だから駄目ですって!でも素手で殴る位は良いと思います!」
「あ、良いのね……ふん。冷やかしなら帰ってくれる?今は貴方達に構っていられる程暇じゃないの」
「それは出来ない相談さ、ブラン様。今帰ってしまうと、フィナンシェの代役が出来なくなってしまう」
「は……?」
さっきは止めたけれど、わたしだって女の子。二人の発言は聞いてて気分の良いものじゃないし、加えて遠回しに今を否定されたら不愉快な気持ちにもなっちゃう訳で、ついブランさんに同調しちゃった。…んだけど、その後に兄さんの口から発されたのは意外な言葉。
「フィナンシェは今日一日、ずっとここでサポートに当たると言っていたけど…ブラン様が歌うのを楽しみにしていたのは目に見えていたからね。だから少し位はゆっくりと見てもらおうと思ったのさ」
「…目に見えていた……?」
「見えていたとも。…っと、もう帰ってくるとは……」
こういう意図ですが、何か?…とばかりに答える弟さん。それにブランさんが目を瞬かせる中、ぱたぱたと走ってフィナンシェさんが帰ってくる。
「お二人がご迷惑をおかけしました、ブラン様ネプギア様…!」
「お、お帰りフィナンシェ……今の会話、聞こえていたの?」
「いえ…ですが、お二人ならば確実に失礼な発言をしているかと思いまして…」
『あー……』
開口一番の謝罪は、兄弟のお二人の発言を予期してのもの。大正解な言葉にわたし達が声を漏らす中、フィナンシェさんは二人を睨む。
「全く…もういいですから、お二人も席に戻って下さい。というか、邪魔をしないように…!」
「はは、これは厳しい言われようだね」
「相変わらず容赦がないな、仕事中の君は」
「ブラン様の侍女なのですから当然です。さぁ、早く…!」
「分かってるよフィナンシェ。じゃあ、僕達は戻るけど……楽しめたかい?」
「…………」
「…ふっ、それならば良かった」
ぐいぐいと背中を押してまで立ち去らせようとするフィナンシェさんへ折れたように、お二人は肩を竦めながら舞台裏を後に。その間際、弟さんの発した質問に対して、フィナンシェさんの返しは無言。表情もむっとしたような感じのままで……なのに兄さんも弟さんも満足したように、小さく笑みを浮かべて去っていった。
「……もう…」
その十数秒後、お二人の姿が完全に見えなくなったところでフィナンシェさんは大きく溜め息。…でも、何故か…その溜め息からは、どこかまんざらでもなさそうな雰囲気が感じられた。それはまるで、内心では感謝をしているかのように。
「……ほんとに謎ね、この関係性は…」
「へ?関係性…?」
「今見た光景の話よ…。…さて、二人のせいで変な感じになっちゃったけど…まだ気を抜いていい時間じゃないわ、ネプギア」
「あ…は、はい!」
ブランさんの言葉で気付かされ、気持ちを引き締め直すわたし。そうだよね、ブランさんとのユニットパートは終わったけど、まだまだライブは続くんだから、最後までこの熱は維持しなきゃ…!
*
元気印のわたしと、純粋無垢なロムちゃんによる、異色のユニット。正直、どんな感じになるか最初は全然分からなかったけど…結果は、文句なしの大成功。
「いやー、楽しかったねロムちゃん!一生懸命歌って踊るロムちゃんの姿、とっても可愛かったよ!」
「そ、そう…かな…?…えへへ……」
ユニット曲を全て歌い切ったわたし達は、舞台の上でちょっとだけトーク。ただ歌うだけじゃなくて、こうして色々やるのもライブの醍醐味の一つだよね。
「でもでも皆、わたしだって可愛かったよね?」
『わぁああああぁぁぁぁっ!!』
「ありがとーっ!なんて言ってるか全然分からないけど、気持ちは伝わってきたよー!」
「ふぇぇ…もう何曲もうたってるのに…みんなまだまだ、すっごいげんき…(びっくり)」
「それはそうだよロムちゃん!だって歌ってるのは、可愛い可愛いわたし達なんだからね!」
そして観客の皆とのやり取りも、醍醐味の一つ。もー、ほんとに一曲目からずーっと楽しいな〜!わたしもしかしたら、女神と同じ位アイドルとしての適性もあったのかも!…なーんちゃって!
「あ…ネプテューヌさん、そろそろ……」
「っと、そうだったね!それじゃあ次は、ノワールとラムちゃんの二人だよっ!」
わたしとしてはまだまだ話したいところだけど、待ってる二人の時間を奪ってまでやるのはただの自分勝手だもんね。だからわたしはロムちゃんと共に、爽やかに舞台裏へ……うん?さっきから見覚えのある組み方じゃないかって?ふふーん、そのとーり!わたしとロムちゃん、ノワールとラムちゃん、ブランとネプギア、それにベールとユニちゃんっていうコンビは、ちゃあんと元ネタが……
(……って、ん…?)
ステージから舞台裏に移る直前、視界に移ったのはステージへと近付く人と、最前列から立ち上がってすれ違ったもう一人の人、それに……すれ違った次の瞬間、ふらりと近付いていた方の人が倒れる光景。それを見てわたしは、もしや…と思いつつ舞台裏に入っていく。
「ご苦労様ですわ、ネプテューヌ、ロムちゃん」
「どうどう?凄かったでしょ?」
「それは勿論。けれどわたくしとユニちゃんも負けませんわよ?」
「わたし達を超えられるかなー?…で、さ…さっきちょっと見えたんだけど…」
「はい。今し方、残党と思しき人物を確保しました。周囲の方には体調不良で倒れた、と説明してあるので問題ありません( ̄^ ̄)ゞ」
ぱたぱたとブランの方へ走っていくロムちゃんを見送ってから、ベールへと言いかけた問いかけ。けれどそれに答えたのは、丁度そのタイミングでわたし達の下へと来たいーすん。
「やはり、紛れ込んでいましたのね…何かされる前に確保出来て幸いですわ」
「わたしとしても、ネプテューヌさん達や観客の皆さんに被害が及ばなくて一安心です( ˘ω˘ )」
「うんうん、何もないのが一番だよね。正直わたし達なら狙われても何とかなるけど、無差別攻撃なんてされたら被害ゼロに抑えるのは難しいし」
残党、という言葉に一瞬ピリッとしたけど、続く確保という言葉にわたしやベールも一安心。
今、このライブを狙っているであろう残党の一団は、イリゼとうちの国防軍が迎撃をしてくれている。けど今みたいに会場へ潜り込んで直接狙ってくる可能性もある訳で……だから観客席には、パーティーの皆を始め手練れが何人も待機(何もなければ楽しんでくれてOK!)していて、更に狙撃手さんも沢山展開している(何もなければ以下略!)のが、この会場。ただのアイドルライブやコンサートじゃなくて、四ヶ国が主催するライブだからこそ出来る、大盤振る舞い…ってやつだね。
「けれど、まだ油断は禁物ですわ。一人居たのであれば、他にも複数人潜入していたとしても何らおかしくはありませんもの」
「だね。警戒を厳に!だよ、いーすん」
「了解です。そしてもう一つ報告ですが、イリゼさんと軍は残党の第一陣と思しき部隊を撃破成功。続く部隊にも優勢を保っているとの事ですd(*´∇`*)」
「おー、それは朗報だね。じゃあ…こっちももう少ししたら、いっとく?」
一つ目の報告は起こらないのが一番の類いだったけど、二つ目は素直に喜べる事。負ける心配なんてしてなかったけど、勝ってるって報告は安心するし嬉しいからね。
それに、大切なのはただ勝ってるんじゃなくて、かなり勝ってる(ってニュアンスなんだよね、いーすんの声音は)って事。ギリギリ、何とか勝ってるだったら予定が狂っちゃうけど……これなら、サプライズを進められるもん。
「そうですわね。…けれどまずは、ユニちゃんとのユニットで更に会場を盛り上げると致しますわ」
「ふぁいと、ベール!じゃあ、わたしはノワールとラムちゃんの歌を聴きながら休んじゃうよー!」
「随分と元気な休憩ですわね…」
そうしていーすんからの報告が終わって、わたし達はそれぞれの行動に。まだまだ続くライブの為にわたしは休んで、ベールは言葉通りに更に盛り上げて、その後も皆で歌って皆で踊る。……え、サプライズは何かって?それはすぐに分かるから…もうちょっとだけ待っててね!
*
弾丸と光芒が空を駆け、推進器からは噴射音が迸り、撃ち抜かれた機体が火の玉となって散っていく。プラネテューヌ国防軍と犯罪組織残党の戦いは、時を追う毎にその激しさを増していた。
「そこです…ッ!」
直上から弾丸を次々と撃ち込まれ、黒煙を上げて落ちていく空戦仕様のキラーマシン。機関砲で撃ち落としたリヨンのルエンクアージェは即座に変形し、更に上空から肉薄をかけたキラーマシンを回避。背面へと回り込み、機銃とビームカノンの同時射撃で撃墜する。
「空戦能力なら…!」
「こっちの方が上ってね!」
複数機のルエンクアージェとキラーマシンが高速で空を疾駆。推力こそほぼ互角の両者ながら、小回りの面ではルエンクアージェが一枚も二枚も上手。加えて満足な整備を受けられていないキラーマシン側はその性能を十全には発揮出来ず、一機、また一機と落とされ数を減らしていく。
「よっ、とぉ!」
「邪魔…!」
その下、低空域では対地戦を受け持つ機体が残党を圧倒。特に目を見張るのはノーレと副会長の駆る機体で、飛行能力というアドバンテージを活かして一撃離脱を仕掛け、キラーマシン及びモンスターの攻撃を封殺する。
足の止まった機体や個体を襲うのは、集中砲火とミサイルの爆撃。乱戦ともなればキラーマシンの高エネルギーシールド…特に前面に限定されたタイプでは対応し切れず、戦力の損耗は残党側が圧倒的に速い。
だが、何よりも素早く、鋭く、華麗に宙を飛んでいたのは、最前線に立つイリゼだった。
「は……ッ!やぁぁッ!」
正面から来るキラーマシンの左翼を、すれ違いざまに長剣で両断。急旋回から別の機体へと接近をかけ、機関砲による迎撃を難なく避けて胴体を一突き。その背後へと三機目が迫り、勢いそのままに掲げた戦斧を振り下ろすも、イリゼは振り返る事なく沈黙した二機目の背面へ回り込んでそのまま盾に。そして二機目が叩き斬られた次の瞬間その上を駆けるように接近し、一直線の薙ぎ払いで三機目の頭部を吹き飛ばす。
「…こうして同じ戦場で見ると…やっぱ凄ぇ……」
「まるで、舞ってるみたい……」
頭部を失った三機目を蹴り落としつつ、そのキラーマシンを足場に再加速をかけるイリゼ。そんな彼女の戦いぶりに、何人かのMGパイロットは感嘆の声を漏らしていた。
ヴィオレ隊の操縦技術も、決して低い訳ではない。特にヴィオレ1から3は文句無しのエースであり、新兵の操縦と比べればそれは別格。しかしそんなエース達の動きを何度も見ている彼等ですら息を飲む程、それこそ全く別の次元と言わしめる程の存在が、信次元の守護者たる女神。
更に言うならば、舞っているようという認識はかなり正しい。何故なら、各機のコックピット内でライブの音声が中継されているのと同じように、イリゼのインカムにも同様の音声が流れており……その曲に合わせてイリゼは『翔んで』いたのだから。
(こっちも向こうも好調、だね…ッ!)
撹乱と陽動を兼ねて空中戦力の間を飛び回るイリゼは、その口元に小さな笑みを浮かべる。ライブが大盛況な事は音を聞くだけで分かる上、戦場も自身の存在と一人で複数の相手を容易にこなすエース達、機体特性を活かして優位に立ち回るパイロット達の力によって、開戦から一度も崩れる事なく優勢を保ち続けている。数こそ残党側が上回っていたが……数だけではどうにもならない質や差が、イリゼと国防軍の側にはあった。
「皆さん、お願いしますッ!」
『了解!』
変幻自在に飛ぶイリゼに、キラーマシンと数体のモンスターが何とか背後へ喰らい付く。しかしそれはイリゼの思う壺。直角に近い角度で突如イリゼが急上昇を掛けた事でキラーマシンとモンスターは標的を逃し、更にその前方にいたのは回り込んでいたルエンクアージェ。数機による重粒子砲の一斉射で瞬く間に撃ち抜かれ、辛うじて避けた機体もリヨン機の追撃によって全て爆散。
もしも有人機、それもある程度の経験を積んだパイロットが乗っていたのなら、曲がりなりにも女神へ喰らい付く事が出来ている状況に違和感を抱き、周囲への警戒を強めていただろう。だが、イリゼを追従していたのは無人機とモンスター。人の有無が如何なる結果をもたらすか…それが如実に表れた瞬間だった。
「イリゼ様!」
「えぇ!皆さんは対地攻撃を!」
元々地上戦力の方が多かった事もあり、制空権の確保がほぼ完了した対空部隊。その判断を下したリヨンとイリゼは言葉を交わし、それぞれ次なる行動へ。イリゼは残った空中戦力を一手に引き受け、その間に対空部隊は砲門を下へ。対地部隊との連携で挟み込むような弾幕を張り、残党を一定の箇所へ集めていく。
「艦長、地上戦力の誘導が完了しました!」
「あぁ、射線上の機体は退避!光学主砲一番二番、てぇぇッ!」
交戦地点から大きく離れた陸上艦でも、戦闘の状況は随時モニタリング中。前線からの判断とモニタリング情報を受け取ったオペレーターからの報告を受け、鋭い目付きで指示を放つ艦長。指定されたムスペルヘイムの主砲は、激しい光と輝きを灯し……次の瞬間、膨大な粒子の奔流が照射された。
MGのそれとは比べ物にならない、連なる四条の光の柱。真正面から迫る光芒に対し、キラーマシンは次々と高エネルギーシールドを展開し、モンスター群は本能的にキラーマシンの背後へと隠れたが、主砲はシールド諸共キラーマシンを飲み込み、モンスターをも消し飛ばしていく。
友好条約改定案に則って建造された戦闘艦の主砲は、同格の標的…即ち400mクラスの鉄塊を想定した威力を有している。それは、通常のモンスターや重装甲と言えど『普通の』大型兵器に過ぎないキラーマシン相手にはあまりにも過剰と言える攻撃であり……粒子の光が消えた時、射線上の標的は全て消え去っていた。
「第二陣…制圧、完了!但し、第三陣の存在は既にレーダーが捉えています!」
「総員気を抜くなよ。それとヴィオレ隊各機に、例の件に関する合否の確認を急げ」
「はっ!」
残った空中戦力もイリゼが斬り伏せ、僅かに生まれた安堵の時間。そこで艦長が口にした、『例の件』といういかにもな言葉。命令を受けた艦載機部隊との通信役が頷きと共に設定を済ませておいた通信を飛ばし、待っていましたとばかりにヴィオレ隊のパイロットは次々と返答。そして、その結果がムスペルヘイムから教会へと送られた事で……エデンズライブとフォビドゥンライブ、二つの作戦は次のステージへと移行した。
*
インカムから聞こえ続ける歓声と、一瞬たりとも飽きない歌声。思わず曲に合わせて飛んでしまう程、心の踊るライブの中継。それを聞きながら私は国防軍と共に残党の第一陣、第二陣を迎撃し、第三陣を前に長剣を構え直していた。
(…今度、皆を誘ってカラオケにでも行こうかな……)
ベールには気にしてない風に返した…っていうか、納得の上で私はここにいるんだけど、それでもいざライブの中継を聞いていると、私もあそこに居られたらさぞ楽しかっただろうなぁ…って気持ちが心の底から湧き出してきた。だから、何気なくカラオケなんかを思い浮かべた……その時だった。
「ふふっ、ここまで盛り上がってくれるのでしたら、わたくし達も頑張った甲斐があるというものですわ」
「けど、当然じゃない?なんたって私達が全力で取り組んでいるんだもの」
「だよねだよね!でもさ、皆……最初からずっと、一人足りないって思わない?」
(え……!?)
不意に始まった舞台上のトークに驚愕する私。だって、予定じゃもう一曲守護女神の四人で歌ってから、ちょっとしたお遊びも兼ねたトークパートに移る筈。勿論、このライブは状況に合わせて順番や内容を調整する前提で計画はされているんだけど……今入れ替えた理由が分からない。それに、一人足りないって…。
「そうね。確かに四ヶ国の守護女神と女神候補生、その全員がここにはいるけど…確かに一人、足りないわ」
「大事な人が欠けてるわね。今のままでも十分盛り上がってはいるけど…このままじゃ、全てが揃ったライブとは言えない…そうでしょう?」
「それに、単純な話として…一人だけ仲間外れなんて、楽しくありませんわ」
「…貴女が言いたいのは、そういう事でしょ?」
「うん、そのとーりっ!って訳で……」
ブラン、ノワール、ベールと言葉を続けて、再び口を開いたブランがネプテューヌへとトス。
そのやり取りを、私は唖然としながら聞いていた。まさかそんな、あり得ないって。突然過ぎて、何が何だか分からないって。
だけど、分かる事がある。四人が何を言いたいのか、誰を指しているのかという事は、誰が聞いても明らかで……けれどそれは、予定になんか無かった事。予定にない筈の事。だからこそ、私は唖然としていて……そんな私の反応が分かっているかのように、ネプテューヌは言った。
「──聞こえてるでしょ、イリゼ!これは女神全員が集まる、女神全員のライブなんだよ!なのにイリゼが、信次元の女神の一人であるイリゼがいないなんて、そんなの絶対おかしいよね!だから……おいでよ、イリゼっ!」
「……──っっ!?」
言い切ったネプテューヌの言葉と、巻き起こる賛同の声。その投げ掛けによって確立した、私がライブに出るという流れ。…でも、思わず私は叫ぶ。
「ちょっ…な、何言ってんの!?そんなの出来る訳ないでしょ!?だって私は……」
そう、出来る訳がない。私は今迎撃作戦に参加していて、こっちも大事な…絶対に成功させなきゃいけない行いなんだから。幾らそっちの方が盛り上がると言っても、流石にそれは無茶過ぎる。明らかに、四人は勢い余って無理な事を言っている。…と、思っていたのに……気付けばヴィオレ隊は、陣形が組み変わっていた。残党の第三陣を迎え撃つ形から、私に道を開ける形へ。
「……これ、って…まさか……」
「はい。後は私達にお任せ下さい」
「……っ!」
再び私は驚愕。四人は軍の負担を考えていないのかとも思ったけど、当の部隊は誰一人動揺していなくて…むしろこの通り、私に行くよう勧めている。…じゃあ、やっぱり……これは四人のアドリブじゃなくて、
「で、も…まだ、残党の部隊は……」
「心配無用です。私とて、艦長として無理な作戦を部下に強要する事などしません」
「…そういう指示、なんですか……?」
「はい。…同意の上の、作戦です」
「…いいん、ですか……?」
「もっちろんですよ、イリゼ様!アタシ達にお任せあれ!」
「イリゼ様のお言葉通り、必ずこの戦いは勝利で飾ります。ですから、ご安心を」
「というか、ねぷ子様が呼んでいるんですよ?だったらそれを無視なんて、女神様と言えども許しませんからねー?」
艦長とリヨンさんは真面目に、ノーレさんと副会長さんは個性的に私の背中を押してくれる。声にはしていないけれど、他の人達からも行って下さいという雰囲気が伝わってくる。
不思議な気持ちだった。驚きと動揺が大部分を占めていて、だけど段々とじーんとした思いが膨らんでくる、上手く形容出来ない気持ち。正直、まだちょっと混乱していて、驚きと動揺も消えていないけど……これだけは言える。嬉しいって。この気持ちには…応えなきゃいけないって。
「……分かりました。なら…」
少しずつ近付いてくる第三陣。それを前に私は深呼吸し、右手には大弓を、左手にはモーニングスターを彷彿とさせる柄の長い矢を精製。普段よりも時間をかけて作り出し、矢を弓に番えて、第三陣の中心へと発射。放った矢には目もくれず、弓も離して振り返る。
「総員、必ずや完全勝利を収めよ!そして、私は約束しよう!貴君等の期待に応える…いいや、その期待を超える歌と舞を、八人と共に次元中へと届けると!」
心の向くままに、要約すれば「頑張って、私も頑張るから」で済みそうな内容を大仰に言って、会場へと私は突進。シェア爆発も併用して、どんどん加速し飛んでいく。
その真逆、私の放った矢はある程度飛んだところで、筈の部分の圧縮シェアエナジーが爆発。多段式ロケットの要領で再加速を得た矢は第三陣の中へと飛び込み、今度は矢尻の側が破裂。その衝撃を受けて棘の部分が四方八方へと飛翔し、散弾の如く敵陣形を崩していく。
「各員、今のお言葉はきちんと受け取ったな?ならば待機中のヴィオレδは全機出撃!パンツァー隊を甲板に出し、本艦も副砲全門の有効射程圏内にまで前進する!イリゼ様が抜けた穴を、決して奴等に突破させるなよッ!」
私がムスペルヘイムの上空を駆けていく時、エレベーターからカタパルトに向けて残りの戦力も上がっていく。ムスペルヘイムとヴィオレ隊が、全力の構えに移っていく。
真っ直ぐ、一直線に、飛んで、飛んで、飛んで。会場に、私の到着を待つ人達の元へと私は空を疾走する。
「…だから、私にも練習をさせたんだね…最初から、私も出演させるつもりだったから……」
何となくそのままにしていた疑問が、今この瞬間に繋がった。それは気持ちの良いような、してやられたなぁ…みたいな、これまた上手く表現出来ない気持ち。それを抱きながら、私は全速力で飛び続けて……遂に会場が見えてくる。
(……全く、もう…)
丁度タイミングの良い事に、そこで今流れてる曲がアウトロに突入。このまま突入すれば、さぁ次の曲というところで会場に入る事が出来る。
色んな気持ちがあった。一つ二つ文句も言いたいと思う。でもこれから歌えると思うと、会場の皆が私を待ってくれてると思うと、自然に笑みが溢れてしまう。
それは気分の良い、きっと素敵だと思ってもらえる笑顔。だからその笑顔のまま、私も皆と同じように設定しておいたライブ仕様プロセッサに着替えて……舞台の上へと、舞い降りる。
「──皆!抱き締めてっ!次元の、果てまでっ!」
今回のパロディ解説
・ちゃあんとした元ネタ
原作シリーズの一つ、ネプテューヌUの特典であるドラマCDの事。このシャッフルユニットでそれぞれ歌っている姿を想像して頂けると、私としても幸いです。
・「──皆!抱き締めてっ!次元の、果てまでっ!」
マクロスfrontierのヒロインの一人、ランカ・リーの代名詞的な台詞の一つのパロディ。この後イリゼは…まぁ、星間飛行を歌っているのでしょう。