超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
一騎当千、文字通り千の…或いはそれ以上の兵に匹敵する女神の離脱は、プラネテューヌ国防軍にとって戦力の激減に他ならない展開。
しかしこの作戦において、女神オリジンハートの離脱は既定路線。彼女の離脱を想定した、離脱前提の戦術と準備をしているのであり……戦線は、崩れる事なく続いていた。
「お待たせしました、ヴィオレ2、ヴィオレ3…!」
「お帰りヴィオレ1!それじゃ、アタシ達も…」
「補給に戻りますねー…!」
噴射炎をなびかせながら戦線復帰を果たしたリヨンのルエンクアージェは、ビームカノンの一撃で鳥類系モンスターを撃墜。ブレーキングを兼ねた変形でノーレ機、副会長機に並ぶと、両機は一頻り射撃を放った後に反転しながら航空形態へと変形。残った推進剤を使い切る勢いで機体を飛ばし、ムスペルヘイムへと補給に向かう。
「弾薬も推進剤も十分…ヴィオレ1、戦域を飛翔します……!」
機体の背中で二機を見送ったリヨンは、小声で見得を切って敵空中部隊へと突撃。主翼の可動と姿勢制御スラスターの併用で滑らかに迎撃の砲火を避け、無駄のない機銃の攻撃で着実に被弾をさせていく。
「逆転なんてさせないわよ…ッ!」
「終わらせてやるよ、このまま一気になッ!」
無論、戦線維持を担うのはエース達だけではない。主砲に副砲、長距離ミサイルという豪快な支援砲撃を受けたヴィオレ隊各機が連携の瓦解しつつある残党部隊を蹴散らし、キラーマシンは鉄屑に、モンスターは光の粒子に変えていく。
イリゼの離脱により、確かに総合的な戦力は低下した。女神という最大の脅威が離脱した事で、一度は残党の勢いも増した。だがその状態でも優劣が覆らなかった結果、国防軍側は自信の強化へと繋がった一方、残党側に生まれたのは焦り。ただでさえ押されている中でチャンスをものに出来ない状況に焦り、稚拙な戦力投入をしてしまい、更に逆転が遠退くという悪循環。…そして、国防軍側には精神的余裕を持てる大きな理由がある。
「この調子なら、私達だけでも勝てそうですね隊長!」
「かもしれませんね。ですが油断は禁物です。勝負を決めるのは、友軍が到着してからでも遅くはありませんからね」
機体の両脚部を振るって滑るように飛ぶリヨンは、隊員を軽く諌めながらちらりと視線をコンソールの端へ。その視線の先にあるのは、友軍の状況を示す情報。
現在プラネテューヌでは、フォビドゥンライブの名の下複数の戦闘艦が展開している。それは残党の出現する可能性がある地点全てをカバーする為の出撃だが、迅速な増援に対応する為の布陣でもある。
例え予定通りにイリゼが離脱しても、単艦で小規模艦隊に対抗し得る戦闘艦と、その艦載機部隊が援軍として合流出来る。これこそが、後のない残党と国防軍との違いだった。
(…とはいえ、あまり消極的になり過ぎるのも考えもの。功は焦らず、けれど及び腰にもならない絶妙なラインを……)
慎重に、冷静に。そう言えば聞こえは良いが、安全な手ばかりを打てば相手にも余裕を与えてしまう。故により大切なのは、攻勢と守勢の配分を見極め、その時々に合わせた動きを選択する事。…そうリヨンが思った次の瞬間、機体が新たな敵機の存在を伝えた。
「……!?この反応は、向こうの……けど、速い…ッ!?」
モニターに映る、敵のマーカー。その反応はキラーマシンのものだが、明らかに動きの質が違う。
そこから反射的に自身の目、機体の目の両方でマーカーの位置する方角を見るリヨン。するとそこにいたのは、空戦仕様の…されど他の機体より武装が豊富な二機のキラーマシン。
「この機体、確かデータにあった……ぐぅぅッ!」
その二機に最も近かった一機が、変形をし弾かれたようにその場から旋回。だが鋭い機動で二機は追い縋り、十字砲火でルエンクアージェを落とす。
当然ながら、ここまでにも落とされた機体はあった。だがここまで一方的に落とされたのは今の機体で初めてであり……アラートによって高まったヴィオレ隊に緊張は、一気に最高潮まで上昇する。
「全機、一度あの二機から離れて下さいッ!」
真っ先に動いたのはリヨンの彼女の駆るルエンクアージェ。退避を指示しつつも可変と同時にスラスターを吹かし、ハイエンドタイプのキラーマシンへと接近をかける。
対するキラーマシンも即座に反応。モノアイでリヨン機を捉えると方向転換し、加速しながら迎え撃つ。
(正面から…ッ!?)
驚いたのは先に仕掛けたリヨンの方。ロールで機関砲を避けると同時にこちらも機銃での反撃を撃ち込むが、甘くなった狙いは敵機に届かず両者は高速ですれ違う。
次の瞬間、リヨン機は可変反転。両腕部の火器を同時に放って二機を狙うも、二機は左右に旋回する事で回避。再びリヨン機に向き直る直前、頭部だけが先行して回り……口腔を彷彿とさせる砲口より、重粒子ビームが放たれた。
「ビーム兵器…やはり、この機体は……!」
空中戦の主力を担っていた機種には無い系統の武装を目にし、リヨンは目の前の機体がハイエンドタイプであると確信。そこから激しい高機動射撃戦が始まり、リヨン機は果敢に喰い下がるも、射撃は虚しく空を切る。
(くっ……こんな物を、隠し持っていたとは…!)
逆にキラーマシンの射撃は何度も迫り、ルエンクアージェの装甲を掠めていく。有効打こそ受けていないものの、どちらが押しているかは火を見るよりも明らかな事。
ならばどうするか。どんな手で攻めれば、押し返せるか。回避の為に急加減速とロールを繰り返しながら、リヨンは神経をフル稼働させて考え……そんな中、複数発のビームが遮るように割って入った。
「加勢するよ、隊長!」
「……っ!助かります!では一機は私が受け持ちますので、お二人はもう一機を!」
「ヴィオレ3、りょーかい…ッ!」
ビームに続けて双方の間を駆け抜けたのは、補給を終えたノーレと副会長の機体。三人は素早く意思疎通を交わすとスラスター全開で一度距離を取り、次の瞬間機関砲を乱射。二機のキラーマシンが分かれるとその間へ機体をねじ込み、完全に二機を分断する。
(…さて、一先ずこれで状況は変わりました…ですから、ここからは……)
旋回しながら上昇するキラーマシンを見やりながら、コックピット内で小さな吐息を一つ。
まだ安堵の出来る状況ではない。分断に成功したとはいえ、ハイエンドタイプは二機共ほぼ無傷。油断しようものなら、次の瞬間には撃墜されてしまうような相手。
だが、それを分かっていながらも…いや、分かっているからこそ、リヨンは瞳に強い輝きを灯す。
「ドッグファイトと、行きましょうか…ッ!」
航空形態の機首を真上に向けて、リヨンは上昇。上方を取っているキラーマシンからの射撃をフレキシブルスラスターの逆噴射で避けると、ビームカノンを撃ち込み反撃。即座にフレキシブルスラスターの噴射口を後方に戻し、再度高度を上げていく。
機関砲とビームカノンによる撃ち合いは数秒。高高度に至ったリヨン機は、キラーマシンの背後を取る…と見せかけてその一歩手前の位置で変形。人型になると同時にビームサーベルを引き抜き、勢いに乗せた斬撃を仕掛ける。
「……ッ!」
振り出された斬撃を、キラーマシンは戦斧で防御。阻まれたと見るや否やリヨンは機体を後退させ、代わりとばかりに機銃を発砲。キラーマシンは大きく左へ旋回し……その真後ろを変形したリヨン機が追う事により、一対一のドッグファイトが幕を開けた。
「逃がしません…ッ!」
大出力に物を言わせて振り切ろうとするキラーマシンを、推力全開でリヨン機は追従。同時に機体の軸が合う度機銃やビームカノンによる攻撃を放つが、キラーマシンは大きな回避行動で何度も凌ぐ。それは些か無駄の多い動きではあるが…そもそも力任せの挙動こそが、キラーマシンの代名詞。そして、そこからキラーマシンの真髄が猛威を振るう。
「……っ…厄介な…ッ!」
ぐるりと180度回転した頭部が、リヨン機に向けてビームを発射。咄嗟に機首を上げて回避すると、キラーマシンは力任せに回転しながら機関砲で追撃。迫る弾丸を寸前で避け、姿勢を戻した時にはキラーマシンも回転を終えており、何事も無かったかのような勢いでリヨン機から距離を開けていく。
背後に回り込もうとするキラーマシンと、背後を維持しようとするルエンクアージェによる、互いに好位置を奪い合うシザース機動。キラーマシンが機体を立てて抵抗で無理矢理下がろうとすれば、リヨン機はフレキシブルスラスターの逆噴射とメインスラスターの瞬間的な停止で対応し、更なる無理で背後を奪われれば、リヨンはわざと姿勢制御を崩した予測不能な動きで巧みに背後を取り戻す。
(ここまで空戦能力が高いとは…!ですが、それでも小回りならば…ッ!)
視線を忙しなく動かし続け、リヨンは視界からキラーマシンを逃さない。彼女の目は、確実にその動きへ対応している。…だが、相手の動きを分析し、判断するのは何もリヨンだけではない。
高出力高馬力の無人機である事を活かし、力で敵をねじ伏せる。飛行能力の為に一度は手放していた本来のコンセプトを取り戻したキラーマシンは、追われながらも逆に撃ち墜とさんばかりの挙動でリヨンにプレッシャーをかけ続ける。そして……
「な……ッ!?」
スラスター全開でリヨン機を引き離したキラーマシンが開放する、背部に背負った二基のコンテナ。そこで静かに、しかし虎視眈々と狙いを研ぎ澄ませていたのは無数のミサイル。意思無き機械の猟犬は、放たれた瞬間上空へと飛び出し……そこからリヨンのルエンクアージェへと殺到する。
(マイクロ、ミサイル……ッ!)
反射的に機首を下げ、推進力そのままに下降していくリヨン機。一気に機体の高度を落としたリヨン機だったが、マイクロミサイルは全弾が追随。標的であるリヨン機へと追い縋り、容赦無くその距離を詰めていく。
一発一発は小さな、しかしその数と追尾性で迫る誘導兵器。正面には、凄まじい速度で近付いていくプラネテューヌの大地。速度を落とせば喰らい付かれ、かといって直進を続ければ間違いなく木っ端微塵となる危機的状況。避けるにしても、タイミングを見誤ればどちらか…或いはどちらからも逃れられない、文字通り追い詰められたリヨン。……だが、リヨンには見えていた。追い詰められた今を覆し、大空へと舞い上がる自機の姿が。
「……ッ!はぁぁぁぁッ!」
地面に衝突する直前、リヨン機は大地を背にする形で人型へと変形。メインとフレキシブル、計四基のスラスターを全て下へと向ける事で落下の勢いを殺し切り、尚且つその姿勢のまま地表スレスレを流れるように飛行しミサイルを地面へ叩き付けていく。
勿論、そんな機動で機体に負荷がかからない訳がない。可変機構の存在によってキラーマシンやラステイション製MGよりもフレーム強度で劣るルエンクアージェは、無茶な動きに軋みを上げる。しかしそれでもリヨンは窮地を脱し、ミサイルの数割を処理する事に成功した。
(ここで…ッ!)
機関砲と機銃により更にミサイルを減らしたリヨンが次に選んだのは、再度の急上昇。遥か上方からキラーマシンの射撃が降り注ぐ中、見据えた瞳でマルチロックオンをかけ、追加ユニットと追加パック、それぞれのマイクロミサイルポッドをオープン。意趣返しの意味も込めて、都合三十六発にも及ぶマイクロミサイルを撃ち放った。
それぞれの機体が放った、それぞれのミサイル。空中を乱舞する誘導兵器の束が、急速に戦いを決着へと向かわせていく。
「貴方に、空を好きになどはさせません…ッ!」
本体の全スラスターに加え、追加パックのスラスター及びブースターをもフル稼働させ、あらゆる機動を駆使してミサイルの猛追を振り払うリヨン機と、大推力で振り切り火器の乱射で撃ち落としていくキラーマシン。その僅かな合間にも攻撃は行われ、放たれた弾丸はミサイルと共に迫り来る。
(いける…やれる……ッ!)
十、九、八、七。追撃も挟撃も両者は凌ぎ、残るミサイルは一桁台へ。
六、五、四。ミサイルが減るに連れて射撃の頻度が増し、少しずつ軌道が着弾コースへ迫っていく。
三、二、一。遂に残り数発となったところで、リヨンは捻るような回転でミサイルをオーバーシュートさせる事を、キラーマシンは多少のダメージを許容する…即ち装甲で受ける事を選択。そして両者は……武装と共に正対した。
「……──っ!!」
回避の放棄と変形の隙を突く事で、一瞬早く放たれたのはキラーマシンの凶弾。重粒子の光芒は、まっすぐに伸びて機関砲を貫く。だが爆ぜる直前にパージされた事によりリヨン機は被害を逃れ、ビームカノンが上空のキラーマシンへ。回転からの変形、その直後の発射という安定性もへったくれもない砲撃は僅かに逸れるも、頭部にまだビームの軌跡が残るキラーマシンの左肩部へ直撃。装甲を吹き飛ばされ、姿勢を崩すキラーマシンに向け……リヨンは、トリガーを引く。
「……強引ながらも、中々良い飛び方でした」
胸に抱いた同じ空を飛ぶ『もの』への賛辞と共に、この瞬間の為最大出力で待機していた右腕部荷電粒子砲がキラーマシンの胴体を撃ち抜く。
一条の線となった光に胴を食い破られたキラーマシンは、慣性に従い数秒間は飛行が継続。そして、荷電粒子砲を下ろすリヨン機の隣をすれ違い……爆散した。
「…敵ハイエンドタイプの撃墜を確認。ヴィオレ2、3、援護を……」
「いーや、隊長…!」
「こっちももう、終わります…!」
戦場においての棒立ちは、何か意図がない限りは確実に悪手。故に撃破の余韻もそこそこにリヨンは機体を可変させ、もう一機のハイエンドキラーマシン戦へ向かおうとしたが…返答通りに、そちらも決着は目前だった。
複数箇所から火を噴き距離を開けようとするキラーマシンを、ノーレと副会長が猛追。そこから次々と放たれるビームカノンに耐え切れなくなったかのように、リヨンの戦った機体同様力任せの回転とその流れでの機関砲乱射で二機を追い払おうとするが、それこそが二人の待っていた動き。副会長機は回避と同時に追加パックのマイクロミサイルを撃ち込み、その処理の隙を突いてノーレ機が肉薄。脅威度に従いキラーマシンは戦斧での迎撃を図るも、残りのミサイルがキラーマシンを打ち付け、衝撃で空振る戦斧を前にノーレ機は一閃。光を放つ剣が上昇する弧を描き、キラーマシンの右腕が宙を舞う。
「これで……ッ!」
「終わりだッ!」
右腕を肩から斬り飛ばされた次の瞬間には、副会長機のビームライフルが左腕を貫通。瞬く間に両腕を失ったキラーマシンは頭部のビーム砲で最後の抵抗を試みようとしたが、それよりも早くノーレ機が振り上がったビームサーベルを突き立て離脱。出力を止める事により引き抜く動作を必要としない利点を活かし、滑らかにノーレ機が下がる中でキラーマシンは動きを止め……落下と共に四散爆発していった。
「…お疲れ様です、今の動きは素敵でしたよ」
「まー、二対一でしたからね。…隊長は大丈夫ですか?」
「当然です。機関砲は失いましたが…それだけで戦えなくなる程、私も柔ではありません」
「さっすが隊長。じゃあ、この調子でもう一踏ん張りしましょうか…ッ!」
にぃっ、と口角を上げたノーレの言葉に二人も小さく笑みを浮かべ、三機はそれぞれ見据えた敵に向かって突進開始。虎の子のハイエンド機を失った影響か残党の攻勢は大きく乱れ、第三陣も国防軍によって駆逐されていく。そして……
「早期警戒機より報告!残党の人員を発見、撤退の動きを見せているとの事です!」
「よし、待機中の突入部隊に情報を送れ!確実に全員捕らえよ!」
敗色濃厚と判断した残党の逃走を、広域監視を続けていた早期警戒機が捕捉。位置情報を受け取った部隊が潜伏地点から行動開始し、静かに…だが迅速に逃げようとする犯罪組織残党へと迫っていく。
エースの勝利により、完全に流れは国防軍のものとなったフォビドゥンライブ。無人機は与えられた命令に従い、モンスターは本能のままに戦いを続けるが、そこへ現れるのは遂に到着した国防軍の増援部隊。物量というアドバンテージすら失った残党戦力には、最早逆転の芽などなく……エデンズライブがクライマックスを迎える中、もう一つの戦いは、体制側の勝利で終幕を迎えるのだった。
*
戦いは激しければ激しい程、相手が強ければ強い程心が躍る。高揚感が胸を焦がして、ゾクゾクとした感覚が全身を走る。怖いなんて微塵も思わなくて、楽しいとすら思ってしまう。
それは、戦闘の中だけで感じるものだと思っていた。女神が共通して持つ、好戦性あってのものだって。…だけど今、私は…いや私達は、それに匹敵する程の昂りを感じていた。
「ふふっ、まだ終わりはしないぞ皆!君達もまだ、満足し切ってはいないだろう?」
『いえぇぇぇぇええええぃッ!!』
吹き出る汗の滴りを感じながら、熱を込めた言葉で投げかける。返ってきた割れんばかりの歓声に、自然と上がる私の口角。嗚呼、ああ、あぁ……楽しい、楽しいよ皆…っ!
「あら、絶好調ねイリゼ。さっきは忙しい中呼び出すなんて、って言ってなかったかしら?」
「さて、何の事やら。主役は…いいや、主人公は遅れてやってくるものだよ、ノワール」
「主人公?…聞き捨てならないわね、主人公を引き合いに出すのなら」
「どこで張り合ってんだよネプテューヌ…てか、イリゼもイリゼで珍しい事言うじゃねぇか」
「そうですわねぇ。しかしこれは、二言三言では終わらない様子。皆様、少々お待ち下さいな」
今し方歌ったのは、女神状態の私とネプテューヌ達との曲。ネプテューヌと軽く張り合っていると、観客席から聞こえてくるのは笑い声。おっと、今のは少しばかり脱線し過ぎていたかな。
「もー、次はわたしたちのばんなんだから、あんまり待たせないでよね!」
「っと、悪いなラム。それにユニも」
「いえ、大丈夫ですよ。その分アタシ達も好きにやらせてもらいますから」
「へぇ、ユニも中々言うじゃない。じゃ、皆…また後でね」
早く裏に戻ってくれ、とばかりに出てくるユニとラムちゃん。二人の言葉に押される形で、ネプテューヌ達はステージ裏へ。そうして残った、ユニとラムちゃんと女神化を解除した私。
そう、私だけは残って続投。大人っぽくもあどけなさの残るユニと、元気一杯天真爛漫なラムちゃんと、この私による三人の歌…今度はどれだけ観客の皆を魅せられるか、楽しみだね。
「よーし、それじゃあユニにイリゼちゃん!ちゃーんとわたしについてきてよね!」
「はいはい、ラムこそ間違えないでよ?」
「ふふっ、少し位のミスは私がカバーしてあげるよ、二人共」
そうして三人で続けて二曲。一曲目はラムちゃんをメインに据えた曲で、二曲目はセンターが激しく入れ替わる曲。ああは言ったけど、二人共ミスは一切なく、完璧な形で二曲共完遂。その後はネプテューヌとネプギアの姉妹コンビとバトンタッチし、私達は裏へと帰還する。
「気張りなさいよ、ネプギア!」
「まっかせてよ、ユニちゃん!」
「ネプテューヌちゃんもがんばってね!」
「エール受け取ったよ!…って、ね、ネプテューヌちゃん!?まさか、わたしも『さん』から『ちゃん』にチェンジされるの!?」
「ふふ…こちら側へようこそ、ネプテューヌ……」
「うわ何この気持ち!?ちょっ、せ、せめて理由は後で聞かせてよ!?」
こんなやり取りをした後、私達は簡易更衣室で素早く着替え。ぱぱっと衣装を脱いで、下着姿で汗を拭いて、そのタオルもその場に落として新たな衣装へ。普段ならきちんと畳んでおくところだけど、今はそれより次の準備。
「お疲れ様です、皆さんこちらを」
「ん、ありがとフィナンシェちゃん」
「それと…つい先程、ハイエンドタイプの空戦用キラーマシンが、全機無事撃墜されたとの報告がありました」
「……!そうですか…それは良かった…」
スポーツドリンクを飲む私達へ、フィナンシェさんから告げられる朗報。勿論戦闘の事は二人も知ってる訳で、あぁ良かった…みたいな顔をしていたけど、やっぱり一番安堵しているのは私。無事に脅威を排除出来て良かったという思いと共に、やはり任せて正解だった…と思うと女神として誇らしい気持ちにもなる。
「…にしても、交戦に入ったタイミングには驚きましたね……」
「うん、だって今から正にAXIA歌うって状況だったもんね…死亡フラグにならなくて良かった……」
苦笑い気味に談笑する事数十秒。飲み過ぎない程度に飲んだ私達はボトルを返し、すぐに舞台が見える位置へ。
もうライブは終盤に入っている。何十曲と歌って、舞台トークも何度もして、私達演者も、スタッフの皆さんも、観客の皆も全員がとっくに疲労状態。
けれどまだ、観客の皆は熱烈なエールをくれている。スタッフの皆さんも、生き生きとした目で仕事を続けてくれている。だから私達も、疲れたなんて言ってられないし……言うつもりも、全くない。だって、疲れは感じているけど…そんなのどうでも良いって思える位に、今は心から楽しいんだから。
(…ほんとにこれは、皆に感謝しなくちゃいけないね…)
そんな思いが出来るのも、皆が私を呼んでくれたから。私も出演者として参加出来るライブを、密かに計画してくれたから。ここは大丈夫だって、軍の皆が私を送り出してくれたから。例えそれが、最初から予定されていた事だとしても、私としては感謝してもし切れない。
なら、その感謝をどう伝え、どうやって恩返しするか。…そんなの、最高の、最高潮のパフォーマンスで観客の、信次元の心を震わせる事に決まってる。もし前の私なら、どの国の女神でもない私が必要以上に前へ出過ぎるのは……なんて考えていたかもしれないけど、今はそんな事思わない。私は私の思いで、私を求める人の事を思って歌う。…ただ、それだけの事だから。
「……すぅ、はぁ…」
そうしてまた、時間が経って……遂に、その時がやってきた。エデンズライブ最後の曲が、女神の舞台の最後を飾る、その瞬間が。
「…さ、行こっか皆」
一度皆がステージ裏に戻って、開演の時にもやった(らしい)円陣を組む。顔を見合わせて、笑顔を向け合って、それから一度送り出してくれる皆さんの方を振り返る。
そして私達は、ステージへ。歩きながら、ステージの上で女神化して、九人で堂々と並び立つ。
「皆さーん!ここまで、最後まで見続けてくれてありがとうございまーすっ!」
「まさかほんとに最後まで熱を維持してくれるなんてね…皆の応援、嬉しいわ!」
「でも、もうおしまいなの…ちょっと…ううん、すごくざんねん…(しゅん)」
「わたしもー…もっともーっとやってたいよね……」
女神候補生四人の、愛らしくも魅力ある言葉。ネプギアは素直に、ユニはちょっと波を入れて感謝を伝え、ロムちゃんとラムちゃんは名残惜しさを言葉に乗せる。
「なーに言ってんだよ二人共。…そりゃ、終わりってのは寂しいもんだが……最後は華々しく、楽しくいこうぜ?」
「そうですわ。こんなに盛り上がったんですもの、湿っぽい締め括りなど似合いませんわ」
「ふふっ、覚悟しなさいよね。これが最後だなんて思わない位、貴方達の理性を飛ばしてあげるわッ!」
「いいわね、皆の記憶にも心にも…今日この日を、刻み付けてあげるわよッ!」
守護女神四人の、凛々しく堂々とした言葉。ブランとベールが最後は明るく、と道を示して、ノワールとネプテューヌが熱く激しく皆の心を響かせる。
そして最後は、私。大きく息を吸って、この会場の空気と雰囲気で目一杯胸を膨らませて……叫ぶ。
「いつまでも、この煌めき輝く次元を共にッ!Dimension tripper!!!!」
私の声を合図に、響き渡るイントロと歓声。これ以上ない程の熱量の中で、感情の中で、最後の曲が始まり……エデンズライブは、幕を閉じた。
*
犯罪組織との戦いに、その爪痕に終止符を打つべく開催された二つのライブ。面のエデンズライブと、裏のフォビドゥンライブ。そのどちらも文句なしの大成功で終了となり……特に前者は、誇張なしに四ヶ国全てを大歓声の渦に包んでいた。
「なんていうか、もう…上手く言葉に出来ない位、本当に凄かったわね」
「ですです!やっぱりねぷねぷ達女神さんは、凄いです!」
未だ冷めやらぬ興奮を言葉にしながら、会場の廊下を歩くパーティーメンバー。彼女達の向かう先は…勿論、ライブを終えた九人が休む控え室。
「…あ、でも皆疲れてると思うですから、あんまり長居は駄目ですよ?」
『はーい』
到着の直前、医療従事者としてのケアも兼ねて練習を見続けてきたコンパが忠告。それに皆が頷いたところで控え室前へと到着し、各々賞賛の言葉を思い浮かべながら先頭の彼女が扉をオープン。するとその瞬間、部屋の中から広がってきたのは……
『あふぅ……♪』
『……!?』
──一瞬くらりとしてしまう程の、濃密過ぎるとしか言いようのない、艶かしさ溢れる雰囲気だった。
「はわわ…こ、この空気は……?」
「な、なんだにゅ!?何が起こってるにゅ!?」
「あ、皆〜…いらっしゃ〜い…♪」
あり得ない、香水や薬品ではとても出せないような空気の色香に、目を剥くパーティーメンバー達。鉄拳とブロッコリーの声で彼女達に気付いたらしく、とろんとした瞳のイリゼが声を返す。
「い、いやうん…君達に、一体何が……?」
「もしかして、打ち上げとしてアルコールを…?」
「ううん〜、飲んでないよ〜…♪」
「の、飲んでないのにこの雰囲気を…?」
二人のファルコムとサイバーコネクトツーも、イリゼ同様蕩けたネプテューヌの返答に困惑。
正面を見ても、左を見ても、右を見てもそこにいるのは只ならぬ雰囲気の女神達。イリゼと守護女神の四人は犯罪を誘発しかねない領域の妖しい色気を醸し出し、ネプギアとユニの肩を寄せ合う姿は同性のコンパ達をもドキリとさせ、ロムとラムの二人に至っては七人に匹敵する色香という、それ自体が異常以外の何者でもない空気感を放っている。
そんな状態の九人を前にして、パーティーメンバー達が考えていた賞賛の言葉など、早期の時点で吹き飛んでいた。
「わわっ、皆お肌つやつや…今日の嫁候補達は、いつもよりずっと魅力的だよ……」
「ど、ドキドキしちゃうねこれは…ほんとに、ネプちゃん達に何があったの…?」
「……恐らくこれも、シェアの影響だろうな…」
困惑する一方のパーティーの中で、一人思い当たる節がある様子のマジェコンヌ。その言葉に全員が振り向くと、頬を掻きつつ彼女は言う。
「女神はシェア…即ち人の思いに影響を受ける存在だ。シェアエナジーそのものは基本、一度教会のクリスタルを介して送られるが、シェアは時にその場で直接女神に影響を及ぼす事もある。…そんな彼女達が、今日一日あれだけの歓声を浴び続け、興奮と熱狂の思いを抱かれ続けたんだ。だとすれば……」
「…アルコール酔いならぬ、シェア酔い…という事か…」
「あぁ、実際にはそんなレベルじゃないんだろうが…酩酊にも似た状態である事は間違いない。…少々俗な事を言うのなら……絶頂感、といったところだろう…」
MAGES.の言葉に頷いた後、マジェコンヌは自身の見解を締め括る。彼女の説明により、一応の理解が出来た彼女達だが……それを聞いた事で、結果的にはより声をかけ辛くなってしまうのだった。
「…女神様って、ほんとにボク達と同じなようで色々と違うんだね……」
「え、えぇ…凄いというか、最早凄まじいわね……」
乾いた声で感想を述べる5pb.とケイブに、またも全員揃って首肯。それから全員はアイコンタクトで意思疎通を交わし、くるりとその場で反転。また後で、余韻がある程度冷めてから改めて来ようと胸の中で呟き、控え室を後にする。
こうして終わった彼女達のライブ。見る者全てを魅了し、幸福感に包んだ女神の歌。だが、誰よりも至福に満ちていたのは他ならぬ彼女達であり……その感覚を一度限りのものとしてしまうのはあまりにも惜しいと思った、有り体に言えばその感覚に『嵌まって』しまった女神達は、今後も不定期ながらライブを行う事にするのだった。
今回のパロディ解説
・「貴方に〜〜させません…ッ!」
スパロボシリーズにおける、早乙女アルトの戦闘時台詞の一つのパロディ。やはりMG乗りの台詞には、同じくロボット作品のパロを入れたくなるものです。
・AXIA
マクロスΔの挿入歌の一つ、AXIA 〜ダイスキでダイキライ〜の事。これが何故死亡フラグになるかは…マクロスΔ視聴者さんなら分かりますよね。
・「〜〜貴方達の〜〜あげるわッ!」
ポケモンシリーズに登場するキャラの一人、ホミカの代名詞的な台詞の一つのパロディ。書いてから気付きましたが、これユニが言うとよりパロディ要素が増しますよね。
・Dimension tripper!!!!
ネプテューヌシリーズのメディアミックスの一つ、THE ANIMATION(アニメ版)のOPの事。最後はこの曲、と前々から決めていたのです。