超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay 作:シモツキ
「実戦仕様に改修はしていますが、操作系統や各種性能はデータ収集の際と変わりはありません。武装も同様なので、これまでと同じ感覚で動かせる筈です」
「はい、分かりました」
リーンボックス国防軍による、想定を遥かに超えた策略によって、ルウィー国防軍の前線部隊は瓦解。直掩部隊も押さえられ、遂に目前へと迫ったリーンボックスのルイースフィーラ。そして拠点として後方に構えていた二隻の陸上艦の内、一隻が攻撃を受ける中……もう一隻のヨトゥンヘイム級の中では、あるMGの出撃シークエンスが進んでいた。
「…ごめんなさいね。こんな急に、しかも間に合うかどうかも分からない中で出てもらう事になっちゃって」
「大丈夫です。どんな状況であろうと…自分は、全力を尽くすだけですから」
開発主任として簡素ながらも説明を伝えたガナッシュに続き、コックピット内に聞こえてくるのは艦長の声。その声に応えながら、パイロット……朱雀は機体の振動をその手に感じる。
(…確かに、感覚はこれまでと変わらない。これなら…──っ!)
いける、という確信を持った瞬間、聞こえてきたのは僚艦の行動不能を伝えるオペレーターの声。開いたままだった艦橋からの通信に、朱雀は一瞬緊張を強めるが…すぐに肩の力は抜け、出撃前の最終確認を完了させる。
「敵機は前方及び直上!パラディン7、お願いします!」
「パラディン7、了解!…アロンダイト、MEブースト…ッ!」
相手は目前という事で、出撃に選ばれたのはカタパルトではなくハッチ。ルイースフィーラからの攻撃で艦が揺れる中ゲートは開き、見えてくるのは雪原と砲撃。
開き切る直前、朱雀は機体の姿勢をスピードスケーターの様に下げ、同時に踝部の推進装置を床に付けるよう九十度回転させる。更に急加速の為の術式を作動させ……ゲートが開き切った瞬間、彼の乗機、アロンダイトは飛び出した。
「……っ!」
MEブーストにより一気に最高速度にまで到達したアロンダイトは、一瞬でハッチから甲板へ。そこから脚部で甲板を蹴り、スラスターも下へと向ける事によって大跳躍。
推力はそのままに凄まじい速度で飛び上がったアロンダイトは、MVSこと出力可変式魔力剣を引き抜くと同時に一閃し、今正に重粒子砲を放とうとしていたルイースフィーラを両断する。
「まずは、一機……!」
斬り裂かれたルイースフィーラからすぐに次の機体へと目を移し、朱雀は対空砲火を避けながら連射モードの携行可変魔力砲で攻撃。それ自体はルイースフィーラの高エネルギーシールドに阻まれるものの、艦の機銃との十字砲火にMGクラスの高エネルギーシールドが耐え切れる筈もなく、発生器のショートと同時にルイースフィーラは蜂の巣に。
数十秒前までは、勝利を確信すらしていたリーンボックス部隊。だがアロンダイトの登場により想定は狂い、既に突進体勢を取ってしまっていたが為に離脱する事も出来ず、本体も無人機も次々と砲撃によって散っていく。そして、アロンダイトが剣と銃を携え雪原へと着地した時……ルウィー国防軍を絶体絶命の窮地に立たせていた対艦攻撃部隊は、全て撃墜されていた。
*
──それは、犯罪神が討ち倒され、再封印されるよりも少し前の事。魔術機動部隊の隊長を務めていた朱雀は、その日ルウィー国防軍のある施設に呼ばれていた。
「第二魔術機動部隊隊長朱雀、ただ今到着致しました!」
「ご苦労様。急に呼んで悪かったわね」
「いえ、問題ありま……って…ぶ、ブラン様…?」
指定された区画に入った朱雀が自身の到着を口にすると、返答したのは先に居たブラン。朱雀はまさか彼女がいるなどとは思っておらず、反射的に目を丸くしてしまう。
「そうよ、こうして話すのは…操られた残党が現れた時以来、かしら?」
「あ…はい。…何故、ブラン様が……?」
外見は自分よりも小さな少女だが、彼女は紛れもなくこの国の長。そんなブランが何故軍の施設で、それも自分を待っていたのかという朱雀の疑問は、至って当然のもの。そして同時に、部屋の奥に見える『ある存在』も、彼の意識を引き寄せる。
「それは、貴方に頼み事があるからよ」
「自分に、ですか…?」
「勿論。で、内容だけど……やっぱり、気になる?」
「……MG、ですよね…?」
「その通りです。…が、これはMGであってMGではないのですよ、朱雀さん」
視線に気付いたブランが尋ねると、朱雀は首肯。彼の言葉の通り、部屋の奥に控えているのは白と金が特徴の、巨大な鉄騎。それは正しくMGの様な外見であり…しかしそれを、同じく奥から現れたガナッシュが含みを持って否定した。
「…どういう事ですか?」
「まず確認ですが、MGには魔法と科学を融合させた機関、魔光動力炉を採用した機体が普及し始めている事は知っていますね?ですがこの機体は動力炉だけでなく、センサーや推進器、武装等にも魔法技術を活用した、魔法の扱いに長けた人間が乗る事を前提とした機体…マルチプル・ガーディアンならぬ、マルチプル・ゴーレムなのです」
「
言われた上で改めて見てみれば、確かに目の前の機体には魔導具らしき結晶や細工が各部に施されている。これまでは世論や技術の関係からMGは勿論パンツァーも軍には採用してこなかったルウィーだが、犯罪組織との戦いにおけるMGの戦果を鑑みれば、導入の流れが出来てもおかしくはない。
…と、そこまで考えた朱雀だが、当初の疑問にはまだ回答を得られていない。……が、回答はなくとも推測は立つ。突然呼ばれて頼み事、ルウィー独自のMGの説明、そして守護女神から直々にとなれば……思い当たるのは一つ。
「…まさか、これを自分が…?」
「そうよ。と言ってもこれはテストとデータ収集を目的とした、実験機なんだけどね」
「つまり、テストパイロットという訳ですか…」
それにしてはあまりにも華美な外見を…と一瞬思った朱雀だったが、新兵器群の先導者となり得る機体ならば、外見にも力を入れるのは強ちおかしな事でもない。そう朱雀は結論付けて、次なる疑問を口にする。
「…何故、自分なのでしょうか?」
「あら、不服だったかしら?」
「い、いえそうではなく…今後の軍の方針にも関わり得る機体のテスターを、他国出身の自分に何故……」
「…まだそれを気にしていたのね…何故かと言えば、貴方が相応しいからよ。ガナッシュも言ったけど、これは魔法使いとして高い能力がなければ使いこなすどころか、満足に動かす事も出来ない機体。だから…他の人より魔法に触れている時間が短いにも関わらず、第二魔術機動部隊の隊長にまでなった貴方に頼みたいの」
卑下の言葉を発した朱雀にブランは少しだけ伏し目となった後、朱雀の目を見て問いに答える。
外見だけならば年端もいかない少女のブラン。しかしその目に籠るのは、深くも穏やかな精神の明かり。その瞳に見据えられた朱雀は、数秒口を閉ざし……小さく、頷いた。
「…分かりました。女神様がそう仰るのでしたら、お引き受け致します」
「ありがとう、助かるわ。…取り敢えず、今日はその言葉を聞けただけで十分ではあるけど……ガナッシュ、今この機体は動かせるの?」
「はい。お時間があれば、ですが…少し試してみますか?」
「そう、ですね…はい。折角なので、試してみます」
ガナッシュにも頷きを返し、ブランに軽く礼をした後朱雀は機体に向かって歩き出す。
彼がテスターを引き受けた事に、深い理由はない。あるのはただ自分は軍属であり、断るだけの理由もないから…という、淡白な動機だけ。だが、ブランの横をすれ違う瞬間……
「──テストが順調に進めば、多くの成果が上がる事になる。それは貴方が目標へと到達する上でも、役に立つでしょう?」
「……っ…!?」
振り返る事なく発されたブランの言葉に、朱雀は目を見開いた。そしてその反応を予想していたように、ブランはゆっくりと振り返る。
「何故その事を、って顔ね。……別に、知っている訳じゃないわ」
「…では、どうして……」
「これでもわたしは女神。国の長として、色んな人を見てきたわ。願いの為に頑張る人も、復讐の為に歩む人も、楽しいという気持ちで努力をする人も、沢山ね。だから強い思いを秘める人の事は、何となく分かるの。…本当に、何となくだけど」
肩を竦めて強調するブラン。そこには傲慢さも過剰な意識もなく、ただ事実を述べただけという印象しかない。
だがそれ故に、そこには「そうなのだ」と思わせるだけの雰囲気があった。口だけでは、上部だけの言葉ではないのだという、空気感が。
「……やはり、凄いものですね…女神というものは」
「勿論よ、女神だもの。…けど、その女神を生むのは人の思いな以上、わたし達は貴方達人がいてこその存在よ。だからわたしは、貴方達一人一人の力になりたいと思っているの」
「…では、まさか……」
「察しが良いわね。…マルチプル・ゴーレムが実用化出来れば、国民も、共に戦ってくれる軍人も今以上に守る事が出来る。より多くの人の幸せに繋げる事が出来る。その上で、それに協力してくれる人の願いにも手を貸す事が出来るのなら……それはただ、自分一人で頑張るよりも、ずっと素敵な事だとわたしは思うわ」
同じ調子で、いつものように静かな声でブランが発した、ブランの思い。
そこに、特別な意思や考えがあった訳ではない。ブラン自身も誇示しようとは思っていない、普通の気持ち。……だからこそ、朱雀は思った。あぁ、それがこの人なのかと。ごく普通の人間が、ごく普通に家族や恋人の幸せを願うように、彼女は国民の…優劣などなく、ルウィーに住まう者全ての幸せを願い、個人に対しても全体に対しても出来る事をしようとしているのだと。…そして溢れる、小さな笑み。
「…国防という、実用化という結果だけでなく、その過程も大切にするんですね」
「えぇ、するわ。過程は結果の為のものだけど、結果は過程を含めてのものだもの」
「自分もそう思います、ブラン様」
肯定を示したブランに頷き、朱雀は再び歩き出す。主君を守る騎士の様な、そんな気品も感じさせる機体の前に。
「…早速乗ればいいんですか?自分はMGの操縦をした事はありませんが……」
「大丈夫ですよ、それは私達も分かっていますから。…ところで、朱雀さん」
「…はい?」
「……素晴らしい方でしょう?ルウィーの、女神様は」
「…えぇ、そうですね」
──こうして、彼は実験機『アロンダイト』のパイロットとなった。そうして、彼はブラン達の期待通りにテストパイロットを務め……ルウィーのMG開発は、進んでいくのだった。
*
確信していた勝利の瓦解。終わる筈だった模擬戦の続行。そして何より、自身の描いた勝利までの流れを覆されたという事実は、ニルを大きく動揺させていた。
「くっ……グリューンβ!後退しつつ敵増援の姿を確認しろ!」
「こ、こちらグリューンβ!α及びγ隊を撃破した機体、発見しました!」
「よし、 増援は何機だ!機種や武装はどうなっている!」
「敵機の携行武装はライフルと実体剣!機数は……い、一機です!」
「一機!?そんな訳があるか…!たった一機で、あの状況を……」
心をかき乱されながらも、ニルは直掩部隊を相手していたグリューン隊の隊員に通信。そこから新たに現れた敵の詳細を得ようとするも、返ってきたのは想定外の情報。一機という返答を信じられず、ニルは感情そのままに言葉を発してしまったが……次の瞬間、通信が途絶。同時に通信していた機体のマーカーも消え、更にその数秒後には別の機体のマーカーも消える。
(状況とタイミングから考えるに、ギリギリで間に合わせただけの機体が一機。その一機が、戦況を覆すだと…?)
「…おい、手の動きが鈍っているぞ」
「……っ…分かってる…!まだだ、戦略が戦術に負けて堪るか…!」
圧倒的な力でルイースフィーラを薙ぎ払っているのか。それとも艦や友軍の最大限に引き出し優勢を作ったのか。何れにせよアロンダイトがニルの思い描いた必勝を、先の策が生み出した有利を飲み込みつつあるのは事実。部隊でも超大型兵器でもない、初戦は一機に過ぎない敵戦力が。
無論、ニルも強大な『エース』の存在を否定している訳ではない。実際視認している十式、即ちアズナ=ルブもまた間違いなくエースであり、彼ならば個人で戦局に影響を与え得るであろうと、ニルは予測し、それを踏まえて策を講じていた。つまり、ニルはアロンダイトという敵機そのものではなく、登場から今に至るまでアロンダイトが引き起こした『結果』に動揺をしているのだった。
「β隊!敵機に突破されても構わない、全機後退しろ!その機体はこちらの総力で迎え撃つ…!」
だが、まだ負けた訳ではない。そう自分に言い聞かせ、ニルは残存する部隊に後退を指示。続けて母艦に待機戦力の展開を要求し、少しずつ最前線自体も後ろへ下げ始める。
「油断するな!窮地は脱したとはいえ、未だ不利なのはこちら側。各個撃破されないよう、味方との連携を意識せよ!」
一方のルウィー側は、最大の危機を凌いだ事である程度士気が回復したものの、物量で言えばやはりリーンボックス側に押され気味。戦っているというより劣勢の状態から持ち堪えていたというべき現状の戦力では相手を減らす事も難しく、十式はガラティーンの合流以降はほぼ一貫して集中砲火の渦中。自分一人が切り抜けるだけならどうとでもなるものの、味方の損耗を抑える為には自身が放火を引き付け続けるしかないという状況が、実質的にアズナ=ルブを封殺している。
とはいえ、裏を返せばそれは、アズナ=ルブが何機も同時に抑え込んでいるという戦況。故に彼には敵の動きがよく見えているのであり……リーンボックス側の後退を、部隊内でもいち早く感じ取った。
(…僅かにだが、下がっている…?アロンダイトの登場で立て直しを考えたのか、それともまだ何か策があるのか…。……だが、これは好機でもある…!)
前者ならともかく、後者だった場合、迂闊な行動は命取りとなる。…が、かと言って何もしないでいれば、相手に策を練る時間やその策を進める時間をみすみす与えてしまう事にもなり兼ねない。ならばすべきは、一手でも早く動き、可能な限り主導権を握る事。そう判断したアズナ=ルブは、進軍中の朱雀へと通信をかける。
「パラディン7!合流出来るまでの予測時間は!?」
「十…いえ、後九分半でいけます!」
「承知した!ならば…ッ!」
短いやり取りで意思疎通を終え、次の瞬間十式はスラスター全開でリーンボックスの本陣側へと突進。その進路を塞ぐように降り注ぐ光芒を鋭いターンとスピンで回避し、空へと一発ビームを放つ。
「乾坤一擲だッ!リーンボックスが次の策を展開する前に、勝負をかけるッ!」
「了解ッ!ヴァイス9、14、中佐に続くぞッ!」
得意とする高機動戦の見せ所、とばかりに十式がリーンボックス部隊の中央へと突っ込み、残存するレグファも次々と後を追う。当選リーンボックス側はそれを阻止しようと攻撃をかけるが、突撃の先導をするのは他ならぬアズナ=ルブ。彼が道を切り開いているが故に、そう簡単には止まらない。
「ほぅ……(ここで仕掛けてくるか。突破されれば一気に手詰まりになるが、この動き自体はむしろ都合が良い)」
「おい、どうする!向こうからは増援も近付いてきてるんだろう!?」
「問題はない!このまま指示通りに下がりつつ、進路妨害に専念しろ!無理に撃墜を狙うより、速度を落とさせる方が確実だ!」
横に広がった陣形を維持したまま、押されるように後退するリーンボックス部隊。再び環境が雪原から草原に変わり、森林や丘も見えてくる中、少しずつ激突地点はリーンボックス側へと移動していく。
そしてその戦線に一直線で向かうアロンダイト。殆どフルスロットルのまま大地を駆け抜け、スラスターを吹かして最前線へ突き進む。
乾坤一擲の攻勢により、リーンボックス側は後退を選ばされた。足を止めようとしているのはこれ以上戦線を押し込まれない為であり、アロンダイトが最前線に合流すれば、ルウィー側の突破は盤石となる。双方かなりの人数が、今の戦況をそう捉えていたが……しかし、ニルの考えは違う。
(もう少しだ…既に準備は整っている。後は焦らず、タイミングを待つだけ。強大な質が相手にあるなら、それを押し潰すだけの物量を叩き付ければ良いだけだ…!)
「…見えたぞ、例の機体が」
「あぁ。…確かに速いな、だが……」
遂に最前線へと辿り着いたアロンダイトが、レグファ部隊の最後尾に合流。そのままの速度で更に進み、レグファ部隊は道を開ける。
十式とアロンダイトの二機がいれば、完全に形勢が逆転する。このまま一気に、本陣である陸上艦の下まで押し込む事が出来る。……そんな強い希望が、ルウィー部隊のパイロット達の心に浮かんだ…次の瞬間だった。
「……!今だッ!全機、放てッ!」
『……──ッ!?』
何の目印もない、しかしニルからすれば狙っていた通りの地点へとルウィー部隊が到達した瞬間、左右の森林から無数の光芒がルウィー部隊へと殺到した。
「これは……ッ!」
「しまった、伏兵…!?ぐあぁぁぁぁッ!」
何十条もの重粒子ビームが、部隊を襲う。不意打ちの十字砲火で瞬く間に複数機が撃ち抜かれ、咄嗟に魔力障壁で阻んだ機体も逆からのビームが機体を直撃。全機がかなりの速度を出していた為急に止まる事も出来ず、何機かは自ら光芒へと突っ込んでしまう。
その砲撃は、ニルが要請していた戦力。待ち構えていた、パンツァー部隊。見つかったら諦めるしかない、と割り切る事でニルはパンツァー部隊を最小出力で待機させ、その結果ルウィー側からの目を欺いていた。
本来は陸上艦の移動砲台として活用されるパンツァーの前線展開は、拠点の防御力を落とすも同然の行為。だが、ここで戦力を削り切ってしまえば……その問題は、消失する。
「く……ッ!」
「ええい……ッ!」
「やはり跳ぶか…!だが、この勝負……貰ったッ!」
十字砲火は次々とルウィー部隊の数を減らしていくが、大地の崩壊と同様全機を飲み込めた訳ではない。数機のレグファ、それに十式とアロンダイトは跳び上がる事で地上に張られた砲撃の網を抜け、推進器をフル稼働させる事でルイースフィーラからの追撃も回避。
だがそれでも…その行為すらも、ニルは予測していた。地上の砲撃だけなら避けるだろうと予測し、先を読み、その為の位置取りもして……十式とアロンダイト、その両機を撃てる位置にガラティーンはいた。
生半可な物量では返り討ちになると判断したが故の、出し惜しみなしの展開。その砲撃で追い詰めた上で、最も考えた通りに動く戦力…即ち自機での詰め。無論、二機とも確実に撃墜出来る保証はなかったが…ニルはそれでいいと考えていた。被弾さえさせられれば、後は低下した質を残存戦力で押し切れば良いのだからと。
(今度こそ…終わりだ……ッ!)
ガラティーンが両腕部に備える重粒子砲と、ニルが操る二機の無人機の光学機銃が全て両機をロックオン。情報のほぼないアロンダイトはともかく、十式はもう今の状態から一気に移動するだけの余力などない筈。そして十式に盾はなく……被弾は間違いなく、免れない。
その思いからくる自信と共に、ニルは重粒子砲に合わせて無人機へと攻撃の指示を出し……
「……ッ!パラディン7、私を使えッ!」
「はい…ッ!」
「な……ッ!?」
──二種四門の砲から光が放たれる直前、アロンダイトは十式の肩部に足をかけた。そこからアロンダイトが十式を踏み付け足場にする事により……アロンダイトは上へ、十式は下へと
「ふっ…流石だ、少年!」
一瞬前まで両機の居た、しかし今は何もない空間を駆け抜けるガラティーンと無人機のビーム。避けられた瞬間愕然とし、すぐに次なる攻撃を仕掛けようとしたニルだったが……もう遅い。
「来るか…!……何…!?」
ガラティーンよりも上空を取ったアロンダイトは、推力全開で突進。反射的に機体操作を行う女性がビームサーベルを出力し、迎え撃つ姿勢を見せるも……アロンダイトはガラティーンの上を素通りし、そのままリーンボックスの本陣へ再侵攻開始。そこでガラティーンは振り返り追撃しようとするが……そこに放たれる十式の射撃。
「ち……ッ!奴を追うぞ、振り切れ!」
「無茶を言うな…!付け焼き刃の私がどうにか出来る相手じゃない…!」
展開したガラティーンの高エネルギーシールドに、何発も光弾が撃ち込まれる。一発足りともシールドを抜ける事は無かったが、アズナ=ルブの目的はアロンダイトの突破支援。落下していく十式に対してガラティーンは上昇し、何とか安定して避けられる距離まで引き離す事には成功したが……その時にはもう、アロンダイトはリーンボックスの前線を突破していた。
「このチャンス、絶対に無駄にはしない……!」
前線に残ったレグファ全てが決死の思いでルイースフィーラに喰らい付き、立ち塞がる者のいなくなったリーンボックス本陣までの道。パンツァー隊の砲撃も軽やかに避けたアロンダイトは、最低限艦の撃破に必要となるエネルギー以外は全て使い切る勢いで進み続ける。
「何なんだ奴は…ッ!全門、奴を狙え!あの機動力に取り付かれる前に打ち払え!」
リーンボックスの陸上艦、ニヴルヘイム級の二隻は主砲から機銃まで揃って開き、全力の迎撃でアロンダイトの撃破を狙う。しかし普通のパイロットには単騎での突破など困難を極める戦闘艦の砲撃も、トップエース級にとっては決して躱し切れないものではない。障壁で防ぎ、MVSで斬り払い、縦横無尽に動き回って艦へと接近。
そうして近付いたアロンダイトだが、後一歩の所で機銃に追い払われて旋回……と見せかけて、前腕に魔力障壁発生器と一体化したアンカーを射出。打ち込んだアンカーによって速度を落とさず艦側面へと回り込み、そこから一気に甲板へ跳躍。
「これで……ッ!」
両腕に構えたMVSが纏う、魔力の光。そして、朱雀はアロンダイトにMVSを振り上げさせ……
──次の瞬間、戦場に…電脳空間全てに、ブザーの音が響き渡った。
「……っ!?…そん、な……」
アロンダイトは止まり、二隻のニヴルヘイム級も砲撃を止め、前線で未だ戦う両軍も次々と戦闘行動を停止していく。誰もが息を呑み、続けてモニターへと目を走らせ、そこからリーンボックス側には歓喜の声が、ルウィーには落胆の声が広がっていく。
……それは、制限時間の終了を告げるブザー。戦闘が膠着状態となり、時間だけが過ぎていく事態を避ける為の制限時間がゼロになった事を伝えるブザーであり……この瞬間、リーンボックス国防軍の判定勝ちが確定した。
*
「……おめでとう、ベール。貴女の…リーンボックスの勝ちよ」
ブザーはモニタールームにも流れ、続けて映し出されるリーンボックス勝利の表示。加速度的に白熱していった模擬戦の終了に多くの者が息を吐き出し……立ち上がったブランが、隣のベールへ声をかけた。
「ありがとう存じますわ、ブラン。…けれど、もしあのまま戦っていれば、恐らく二隻とも落とされていた筈。こちらは制限時間が味方したに過ぎませんわ」
「確かにそうかもしれないわ。けれど実戦だって、往々にして無制限の時間では戦えないもの。それを考えれば、やっぱり勝利は貴女達のものよ」
「ふふっ。であれば、その賛辞は感謝と共に受け取らせて頂きますわね」
呼応するようにベールも立ち上がり、二人は謙遜の言葉を投げかけ合う。
それからベールは右手を差し出し、ブランもそれに応えて固く握手。勝利を誇示する事も、敗北に表情を歪める事もなく、しかし決して淡々とはしていない二人のやり取り。そんなやり取りは、自然とモニタールーム内の視線を集め……
「……けれど、次は負けないわ。そうでしょう?皆」
「ならば、こちらは次も勝ちますわ。ですわよね?皆さん」
注目が最大となったところで、ブランもベールもそれぞれ、自国民に向かってそう言った。
その言葉に両軍の人間が強く頷き、笑みを浮かべたノワールが拍手。ネプテューヌにイリゼ、女神候補生の四人と拍手は繋がり、最後には四ヶ国の軍人全員がベールとブランに、最後まで勇ましく戦った軍人達に賞賛を送る。
そうしてリーンボックスとルウィーによる模擬戦は終了。親善試合としても、新兵器と練度のお披露目としても十分に成功し……四ヶ国全てが、今日この日の戦いに劣らないような軍作りを強く意識するのだった。
*
模擬戦終了から暫しの時間が経った、ラステイションの軍事施設。その中の人気のない一角を、ニルは歩いていた。
「…まさか、あんな戦力がいたとはな……」
仮面を被ったまま、歩きながら呟くニル。彼にとってリーンボックス国防軍の勝利はさして重要ではなく、負けるなら負けるでもいいと考えていたが……絶対の自信を持った策を二度も破られた事が、彼の中で強く引っかかっていた。有り体に言えば……ニルは、悔しがっているのである。
「相変わらず負けず嫌いだな、お前は」
「負けを負けと思わないようになれば、人間の成長は止まるものだ。……にしても…」
「…にしても?」
女性の声に言葉を返しつつ、ニルは考える。胸中には悔しさが渦巻いていたが、頭に浮かんでいるのは別の事。
ニルは、あの機体……アロンダイトに何か感じるものがあった。上手く言葉には出来ない、だが確かに感じるものが。そしてそれについて、口にしようと思った時……
「…しまった、ここはさっきの場所じゃないか……あれ?」
「……!?」
廊下の先から、若い一人の男性が現れた。どうも道に迷った様子のその人物は、すぐに二人の事に気付き……彼が振り向いたところで、ニルは仮面の下で目を見開く。
「…君達は…もしや、リーンボックスの?」
「…………」
「……?」
「……あ、あぁ…そう言う貴方は、ルウィーの…」
「えぇ。ルウィー国防軍の、朱雀です」
返答のないニルに男性…朱雀が不思議そうな表情をすると、数拍置いてニルは反応。その言葉を受けて朱雀は手を差し出し…一瞬の躊躇いの後、ニルは彼からの握手に応じる。
「……アロンダイト…あの白と金の機体のパイロットは、もしや…」
「あ…はい。アロンダイトのパイロットは、自分です」
「……そうか、お前が…だから…」
「……はい?」
「…いえ、良い腕前だったと思っただけです」
「そうですか…っと、すみません。自分は呼ばれているので、これで」
頭の中で繋がる、驚きと疑問。それが正しい事だと分かった時、ニルは小声で言葉を発し……すぐに肩を竦めて、誤魔化した。
朱雀はその反応に一瞬疑問を抱いたものの、用事を思い出してその場を後に。立ち去る中で、朱雀は「そう言えば、妙な風体の彼と隣の女性はパイロットだったのか、それとも艦側の人間だったのか」と思ったものの、もし縁があるのならまた会う事もあるだろう、と考え疑問と共に頭の隅へ。一方ニルは静かに、一言も発する事なく朱雀の後ろ姿を見送っていく。
「…………」
「……どうした、何かあったのか?」
「…いや、何でもない」
それから数秒後。朱雀が角を曲がったところで、女性は尋ねた。そこはかとなく感じ取った、ニルの感情の機微に対して。
その質問には首を横に振り、ニルもまた歩き出す。歩きながら……心の中で、小さく呟く。
(……久し振りだな、朱雀…)
教会を訪ねたあの日と同じように、一切表情の見えないニル。だが、その仮面の下で彼は……懐かしそうな、それでいて酷く複雑な表情を浮かべていた。
今回のパロディ解説
・新しいMGレグファ
機動戦士Vガンダムにおける、各話タイトルの内の一つのパロディ。えぇ、新しい機体ですよ?新型ですし、コンセプトという意味でも新しい機体なのです。
・「〜〜戦略が戦術に〜〜」
コードギアスシリーズの本編主人公、ルルーシュ・ランペルージの代名詞的な台詞の一つのパロディ。もうこれは、言う事が約束されていたというレベルですね。
・「〜〜パラディン7、私を使えッ!」
ガンダムビルドダイバーズの登場キャラの一人、クジョウ・キョウヤの台詞の一つのパロディ。踏み台にしてるので、ガンダム的には別のネタも思い浮かびますね。