超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第五話 憩えない時間

第一の試練、自己紹介。第二の試練、台座からの剣抜き。…また二つしか達成していないけど、薄々わたしは感じ始めていた。ここは前に一度迷い込んだあの場所、創滅の迷宮ではないと。

あそこはここより、ずっと無機質的だった。ここも無機質的だけど、何となく『意図的に無機質っぽくした』感じがあるし、ワンガルーなんてぬいぐるみなのに人間味があり過ぎる。どちらかと言えばここは、エスちゃんの言っていた次元の狭間に近いと思う。…思うだけで、全然確信はないんだけど…仕方ないじゃん、まだ情報が少ないんだから……。

 

「名推理だったね、アイ」

「いやー、それ程でもないッスよ〜。ルナの行動あっての推測だった訳ッスし、ワイトも同じ結論に至ってたッスからね?」

「でもシノちゃんが正解を見付けたのは事実だよね。……はぁ、私は何してたんだろ…」

 

最初の試練を達成した時と同じように、今現れた扉から次の階へと向かうわたし達。…目の前では、賑やかな会話が展開中。

 

(…ラムちゃんやエスちゃんなら、自然と入れたんだろうなぁ……)

 

その会話を、わたしはじーっと傍観中。…全員知らない人ならともかく、一人は友達なのに全然この会話の輪に入れない自分が、我ながらちょっと恨めしい。…べ、別に寂しい訳じゃないけど…でもほら、会話の中で思わぬ情報が手に入るかもしれないし……。

 

「…………」

「…次の試練の事考えてるんですか?ワイトさん」

「あぁ、まぁね。けどそれ以上に考えていたのは食料の事だよ。腹が減っては戦は出来ぬ、とも言う通り、飲食物を確保出来なければ達成の難易度は加速度的に上がっていくからね。…どうしたものか……」

《ふふん、それなら問題ないよ。お腹が空いて力が出ない〜…なんて事にならないよう、各階段の踊り場から……》

 

同じく会話中のカイトさんとワイトさんのやり取りに対し、首を突っ込むワンガルー。某アンパンヒーローの真似をしながらワンガルーが何かを言いかけた矢先……きゅるるるる、と空腹時特有の音が鳴った。……わたしの、お腹から。

 

「……っ!?」

《…うん、丁度良いし…食事タイムにしよっか》

 

皆の「うん?」って視線が一気に集まり、一気に顔が熱くなる。しかもこんな時に限って、ワンガルーはふざけもせずに優しく食事の提案なんかを口に。そ、そんな気を遣われたら…余計恥ずかしくなるだけなのに…!

 

「…だって。良かったね、ディールちゃん」

「う……別に減ってません、減ってませんから…っ!」

「まぁまぁ、次の試練は体力使うかもしれないし…ね?」

「そうだよーディールちゃん。ご飯食べよ?」

「ディール様、無理をなされる必要はありませんよ」

「な、何故お二人まで…!?…う、うぅぅぅぅ……!」

 

全員に温かい目で見られ、しかもイリゼさん茜さんワイトさんからは保護者みたいな声音で諭されて、完全にわたしは子供扱い。…いや確かにこの中じゃ一番小さいけど…!そういう立場であるけど…!だ、だからってこんなの…こんなの辱めだよ……っ!

 

「ま、行こうぜディール。実を言えば、俺も少しお腹空いてたしさ」

「あ、実は私も…だから…えと、ありがとうございますディールさん」

(こ、こういう気遣いも今は辛い…うぅ……)

 

…こんな事まで言われたら、ほんとにもう断る事なんて出来ない。という事でわたしはまだ顔から熱が引かないまま小さく頷いて……わたし達は、踊り場にあった扉からワンガルーの言う食事エリアへと移動した。…したんだけど……

 

《じゃーん!これぞ即応料理マシーンだよ!》

『……ガチャガチャ…?』

 

ここまでよりやや狭い部屋にあったのは、わたし達の誰よりも大きいガチャガチャ…っぽい機材だった。

 

《うん、仕組みとしてはガチャガチャみたいなものだよ。そこのレバーを回すと、その下の取り出し口に食べ物とそれの名前が書いた紙が出るから、回した人が出てきた物を受け取ってね。一人一回だけだよー?》

「…食べられる物が出てくるんッスよね?」

《それは勿論。でも何が出るかは…皆の、運次第っ!》

((…怪しい……))

 

軽快に、曇りのない顔でワンガルーは言う……けど、基本誰一人信じてない。だって、信じられる要因なんてほぼ皆無だし。むしろまた何か悪戯仕掛けてそうだし。

 

《ささっ、早速回してみよー!最初はディールちゃんね!》

「どうしてわたしが最初なんですか……」

《え、お腹ぺこぺこなんでしょ?》

「だ、だからわたしは…っ!……わ、分かりましたよ…引けばいいんでしょ、引けば…」

 

乗り切ったと思ったのに、また空腹の話を持ち出されてしまった。しかも否定しようとしたら「いいんだよ〜我慢しなくて」みたいな温かい視線を向けられるし、この話に関してわたしのアウェーは確定的。…いいもん、子供扱いする方が子供だもん……多分…。

 

(……しいたけとかゲテモノ料理じゃありませんように…)

 

そう心の中で祈りながら、レバーを掴んでくるりと捻る。見た目ガチャガチャだしガタン、とかいって落ちてくるのかな…と思っていたけど、実際には奥からスライドされて出てくるシステムだったみたいで、蓋が開いて何かが登場。…えっと、これは……

 

【パン一斤】

「……え?」

 

出てきたのは、ご飯と双璧を成す朝のお供と、それの名前が書かれた白地の札。

それはいい。それ自体は何にも変じゃないし、思っていたよりずっと普通の物が出てきてくれた。…けど、一斤って……切られたパンを何枚かじゃなくて、丸ごと一つ…?

 

「何が出たの?……って、これは…」

「…あの、多過ぎるんですが……」

《あー…でも出したんだからちゃんと食べてね?食べ物を粗末にするのはいけないよ?》

「う……ならその、ジャムとかバターは…」

《ないよ?》

「……パン自体に、味が付いているパターン…」

《でもないよ?》

「…………」

 

ひょっこり覗いてきたイリゼさんは、身体の小さなわたしにはミスマッチな一斤の存在に苦笑い。確かに第三者視点だったら、わたしも多分苦笑していたと思うけど……当事者としては、ちょっと笑えない。

…つまりこれ、何の味も付けられてないパン一斤を、そのまま齧って全部食べろって事……?…え、ちょっ……何これ、ちょっとした苦行…?今、第三の試練の最中だっけ…?

 

《まぁまぁ、流石に吐いてでも全部食べろとは言わないから、食べられるだけは食べようね?》

「なんで食育指導みたいな事言ってるんですか……」

 

…という訳でここまでグリモワール(人の姿取ってる方じゃないよ?)を両手で抱えていたわたしは、新たにパン一斤も抱える事になるのだった。

 

《じゃあどんどん回してこー!次は誰にするのかな?》

「お前楽しんでるな…この状況を…はぁ……」

 

カイトさんの呆れ気味突っ込みを安定のスルーで流すそのさまは、最早なんていうか…筋金入り。そんな姿に全員で溜め息をついて……わたしの一斤で一気に期待値を落としながらも、回す順番を決めていった。

 

「私が最初…じゃなくて、ディールちゃんが先にやったから二番目かぁ……良いのが出るといいなぁ」

 

二番手となったのは茜さん。これまでのちょっとふわっとした雰囲気は今も変わらず、躊躇いもなしにレバーを一捻り。…茜さんも変なのじゃなきゃいいけど……。

 

【胡麻(大袋)】

「あー、ゴマかぁ……ゴマ!?え、ゴマ!?……ゴマのみ!?」

《……?荏胡麻じゃないよ?》

「荏胡麻とは言ってないよ!え、ゴマって言ったの!」

 

……駄目だった。全然普通じゃなかった。…いや、ゴマ自体は変な食べ物じゃないけど…ゴマだけって…。

 

「嘘でしょ……ゴマだけって…ゴマって普通、それ単品で食べるものじゃないよね…?」

《えーと…でもほら、量はそれなりにあるしね…?》

「うるさいワンガルー……うぅ、こんなひもじいご飯なんて、はは…ちょっと昔を思い出すかも……」

 

ゴマの入った袋を手に乾いた笑い声を漏らす茜さんは、打って変わってしょぼくれ状態。つい数分前まで纏っていたふわっとした雰囲気は、今や完全に霧散していた。…む、昔何があったんだろう……。

 

「次は俺か……」

「あぁ…カイト君、がんばれ〜…」

「おう、何をどう頑張るのかよく分からないけどな。…よし、仇を討ってやろうじゃねぇか…!」

「あ、うん…(ゴマ引いちゃった仇ってなんだろう…)」

 

そんな茜さんとは対照的に、カイトさんは何かちょっと燃えている感じ。…経歴聞く限りどこかからゲイムギョウ界に飛ばされた点以外は、この面子の中でもかなり普通の方な筈なのに、この人最初から調子乱されてる感じあんまりないよね…度胸がある、って事なのかな…。

 

「しかしガチャガチャなんて、久し振りだな…っと」

 

わたしの予想を裏付けるように、カイトさんはささっと回す。二度ある事は三度あるになってしまうのか、それとも三度目の正直で文句なしの物が出てきてくれるのか。そう思ってわたし達が見つめる中、カイトさんの引いた食べ物が登場する。

 

【チーズフォンデュ(のチーズ)】

「お、チーズフォンデュか。これは中々良いものが引け……」

『……?』

「……のチーズ?…って、まさかこれ…チーズだけ、だと…!?」

((チーズだけなの!?))

 

表情を綻ばせ、固まり……そして戦慄。バックに雷が落ちたような表情を浮かべるカイトさんの手からはらりと落ちる、食べ物の名前が書かれた札。……確かにそこには、書いてあった。『チーズフォンデュ(のチーズ)』と。

 

「おい誰だこれ考えた奴…チーズフォンデュってパンとか果物とかを熱いチーズに絡めて、それをあっついなぁとか思いながら食べるものだろ……なのに、なのにチーズフォンデュのチーズって…そりゃただの溶けたチーズじゃねぇか……」

「うわぁ…私のもそうだけど、カイト君のもそれはそれでキツいね…一回期待させてから最後に落とす辺りがエグい……」

「くそう、その癖具材刺す為の鉄串はあるとか……せめてスプーンにしてくれよ…鍋からがぶ飲みしろっての…?」

 

美味しそうに湯気を立たせるチーズを前に、意気消沈のカイトさん。……なんか段々、まだわたしはマシなもの引けたんじゃないかって気がしてきた…。

パン一斤に、ゴマ一袋に、チーズフォンデュのチーズのみ。完全に二度ある事は三度あるのパターンとなってしまった食べ物ガチャに残り四人は既にローテンションモードとなっているけど、引かなきゃ何も食べられない。という事で、ガチャガチャ回しは続き……悲劇も、続く。

 

「ぬか喜びさせるようなものが出てきませんように…!」

【ねるねるねるね(三袋)】

「楽しく作れる子供向けのお菓子…!?さ、三食として食べるものですらないの……!?」

《でも美味しいよね、結構》

「そういう事言ってるんじゃないんですけど…!?しかも三袋ってまた微妙な…一袋ならシンプルに少ないって怒れるのに、三袋って……」

 

四番手のルナさんが引いたのは、どう見ても間食用の食べ物。ロムちゃんラムちゃん辺りなら、それでもまだ喜んでたと思うけど…流石にルナさんを喜ばせられるような代物じゃない。っていうか多分この状況じゃわたしでも喜ばないのに、ルナさんにこれじゃ悲し過ぎる。…それに、わたしよりずっと大人な見た目のルナさんが粛々と練ってる姿を想像したら……どうしよう、見てられなくなりそう…。

 

「いやー、もうこうなると取り敢えずお腹に溜まる物が出てきてくれれば何でもいいッスね。最悪生魚とかでも良い気がしてきたッス。ほいっと」

【カップ焼きそば】

「…お、おおぉ!?ふ、普通の…普通に食事として食べられる物が出てきたッス!やったッス〜!……でも、あれ…?…ワンガルー、熱湯はどこッスか?」

《え?……あっ、ごめん…熱湯用意するの忘れちゃった…》

「はぁぁ!?じゃ、じゃあどう食べろって言うんスか!?」

《……そ、そのままガリガリと…とか…?》

「そういう食べ物じゃないんスけど!?…はぁ、とんだしょんぼり状態ッス…」

 

何だか開き直った様子のアイさん(待ってる間に髪を梳かしてもらったみたいで、見た目の雰囲気がちょっと変わっていた)は、なんとカップ焼きそばをゲット。……と喜んだのも束の間、熱湯が用意されていないという衝撃の事実が発覚し、アイさんのテンションは急降下。…あっ、でもわたしが魔法で熱湯出せば……と思ったけど…え、衛生的に大丈夫なのかな、それは…。

 

「…………」

【食べられる野草盛り合わせ】

「…………」

『…………』

「……まさか、こんなところで野草とはな…だが戦場では、野草と言えど食べられるだけありがたいというものさ…」

((背中から感じる哀愁が凄い……!))

 

何も言わず、作業的にレバーを回したワイトさんの下へ現れたのは、お皿になった葉っぱや茎。それをワイトさんが、ワイトさんをわたし達が見つめる中、発されたのは物悲しさがひしひしと伝わる声。……見られない…ルナさんもだけど、パンとかお菓子とか食べてる中で一人野草食べてるルウィー軍の大佐さんなんて直視出来ないよ…!

 

「もう正直回したくない…回したくないけどこの流れで引かないのは何か駄目な気がするし……えぇいままよ!」

「いやどういう動機してるんですかイリゼさん……って、え?…これは……」

【カロリーメイト】

「…………」

「…うん?どうしたんだよイリゼ──」

「メイトぉぉぉぉおおおおおおッ!?」

『えぇぇぇぇッ!?』

 

そして最後はイリゼさんの絶叫。もしかするとこれまでで一番いいものを引けているかもしれないのに、ご覧の通りのこの絶叫。わたしは叫ぶ気持ち…というかイリゼさんと共にメイトと水だけの生活を送った事があるから、その動機は分かったけど……傍から見れば、一瞬にして大分ヤバい人みたいになってしまったイリゼさんだった。

 

「…一斤……」

「ゴマのみ……」

「フォンデュのチーズ……」

「…ねるね……」

「湯のない即席麺……」

「野草……」

「…メイト……」

 

ともすれば賑やかになったかもしれない、食事タイム。でも結果はご覧の有様。だからわたし達は思うのだった。……何これ、って。

 

 

……因みにその後、わたしへカイトさんが自分の食べ物を何割かずつ交換する事を持ちかけてくれたおかげで、わたしの食べ物は味付けなしの一斤から、チーズを乗せたパンへとクラスチェンジするのでした。

 

 

 

 

食事休憩とは名ばかりの酷い時間から数十分後。主観での三階に到達した我々を待っていたのは、これまで以上に広い部屋と、その部屋の床を彩るパネル群だった。

 

《いらっしゃーい!皆、準備はばっちりかなー?》

『…ぅーぃ……』

《低っ!テンションひっく!ちょっ、面子の豪華さにあるまじきテンションの低さだよ!?》

『…誰のせいだと思って……』

 

ただただ五月蝿い、鬱陶しい一歩手前のぬいぐるみへ全員が揃って恨みを込めた視線を向ける。

私はまだいい。だが女神様や少年少女にまであんなふざけた食事を出しておいてこの態度……いや、前言撤回しよう。ジャングルや無人島ならともかく、こんな場所で事もあろうに野草など……この怒り、どうぶつけたものか…。

 

《うーん、わたしはイベント感覚で食べ物を用意出来る良い手だと思ったんだけどなぁ……じゃあ次からは、キッチンと食材だけ用意しとくとかの方がいい?》

「それが出来るなら、最初からそうしてほしかったかなぁ〜…?」

《あ、は、はい。じゃあそうします…》

 

呑気にまともな改善案を出すワンガルーに対し、茜さんがにこりと一言。しかしその言葉に乗っていたのは、胡麻一袋という恐らく最も腹の足しにならない物を出された怨念。…その言葉に萎縮するワンガルーを見て少し心が晴れたのだが、それはまた別の話。

 

「…で、ここでの試練は何ッスか?このパネル、見たところ双六っぽいッスけど」

《え、あ…こほん。…うん、そのとーり!ここでの試練は、双六っていうか人生ゲームっていうか…とにかくそういう感じのパネルを進んでいくってものだよ!》

「わー、ふわっとしてる……」

 

何故実質強要してる側がいまいち把握していないのか。イリゼ様に続きわたしも文句の一つでもつけたいところだったが…喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。

パネルの数は、ぱっと見では数え切れない程に多い。となれば恐らくこの試練は長丁場となるのがほぼ必至であり、しがない軍人に過ぎない私はこんな導入部分で無駄な体力を使っている場合じゃないだろう。

 

「双六、人生ゲームねぇ…じゃ、進む為にはサイコロを振らなきゃいけなかったり、止まったパネルで何かしらイベントが起きたりするのか?」

《そーゆー事。達成条件は誰かしらがゴールに辿り着く事で、ルールも大体は双六とかと同じだから、その感覚で進めてくれれば基本OK!…あ、でも規定のターンを過ぎたら一からやり直しになるから、そこは気を付けてね!じゃ、順番を決めてスタートだよ!》

 

その言葉と共にスタート地点と思しきパネルへ双六が現れ、代わりにワンガルーが消失。…相変わらず雑な説明しかしないぬいぐるみだ……。

 

「試練というか、何だかゲームみたいですね…いや元々ゲームな訳ですけど。双六も人生ゲームも」

「だね〜。うーん、試練とかじゃなければ楽しくやれそうなのに…(ロムちゃんとラムちゃん…それに黒君や白ちゃんだったらはしゃいでるんだろうなぁ…)」

「それは…そうかもですね(ロムちゃんとラムちゃん…それにエスちゃんでもこれは喜びそう…)」

 

第二の試練に続き、この試練も単純そうだが恐らく一筋縄ではいかないだろう。…が、幸い士気は悪くない。という訳で私達は順番を決め、一先ず試練を開始する。

 

(…で、私が一番手か…まあまずは様子見、だな)

 

近くで見てみると、使用するサイコロは通常の数倍どころではないサイズ。だが私達自ら駒として動く事を考えれば然程おかしな大きさでもないだろうと考え直し、軽くサイコロを放り投げる。すると出た目は……六。

 

「幸先良いですね、ワイトさん」

「えぇ。流れを作るという意味では良い目が出てきてくれたか…と……」

 

サイコロが止まると私から見て六つ目のパネルが「ここへ進め」とばかりに光り、私はそこへ小走りで移動。別に何の目でもいいと思っていたとはいえ、最大の六が出てきてくれればそれは当然ありがたい事。…と、移動中までは思っていたものの……

 

【六マス戻る】

『あっ……』

「…恥ずかしながら、帰還しましたイリゼ様……」

「あ、えと……め、女神にとっては生きて帰ってきてくれる事が一番嬉しいですから!いやもうほんとに!」

「お気遣い感謝します…」

 

…一ターン目の第一投は、私が軽いジョギングをするだけの結果となってしまった。しかもイリゼ様に気を遣わせてしまった。…申し訳ない……。

 

「つ、次は私ですね。…あの、何かアドバイスは……」

「…六を出してはいけない、としか……」

「あ…で、ですよね!…よーし……!」

 

二番目を担うのは、この中では比較的緊張を見せているルナさん。しょうもないアドバイスよりは緊張する必要はない、と言った方がまだ彼女の為になるとは思ったものの、考えてみればそのアドバイスもまた気休め以上の効果を出すとは思えない。という訳で肩を竦め、苦笑い気味に前者を採用すると、ほんの僅かにその緊張が解けた……ような、気がした。

そうして彼女が投げた結果、出た目は一。…さて、今度は何と声をかけたものか…と思いきや……

 

【振り出しに戻る】

「……地味っ!い、一マス目にこれって…こんなショックの小さい振り出しに戻るなんてある!?」

 

逆に話のネタになりそうなパネルのおかげで、なんと助かってしまった。先程の転倒といいこれといい、彼女は謎の『引き』を持っているのかもしれない。……多分。

 

「…まさかこれ、大半がスタート位置に戻されるマスとかじゃないですよね…?」

「それは…ないと思いたいッスね……」

「ですね…よいしょ……わ、大きい…」

 

そんな彼女に続くのは、我等がルウィーの女神候補生、ロム様とラム様によく似たお方。物静かな様子からは二人というよりブラン様を、されどイリゼ様の背後に隠れていた時の雰囲気的にはやはりロム様を彷彿とさせるディール様は、若干の不安を抱きながらもサイコロを抱える。……そう、持つではなく、その小さな両腕をぐっと伸ばして抱えているのである。

 

「むむ……えい…っ!」

((和むなぁ……))

 

そのまま掛け声と共に、ディール様はぽーんと投げる。その何とも愛らしい姿に私達は暫し和んでしまうも、流石に今は状況が状況。ディール様が歩き出した事で私達も我に返り、転がったサイコロを見てみると……上を向いていたのは、本日二度目となった六。そしてディール様のいる位置は、私が六を出した時と同じ場所。即ち結果は……下記の通り。

 

【六マス戻る】

「……虚しいですね、振る前より戻ってしまうとかじゃない分余計に…」

『分かります、ディール(様・さん)……』

 

死んだ魚の様な目をして戻ってきたディール様に、思わず私とルナさんははっきりと首肯。他の方々も、これには何とも言えない様子。…プラマイゼロは、時にマイナスよりも虚しい。……そういう事も、あるのである。

さて、それはさておき一度状況を整理しよう。私、ルナさん、ディール様が投げ、出た目は一と六。開いたマスは、どちらもスタート地点へ戻ってしまうもの。部屋の端にあるゴールは、まだまだ遥か先の位置。そして、ここから導き出されるのは……この試練、恐らくではなく絶対長丁場になるだろうという事。

…と、ここまで考えた私は、これならば例え死の危険があっても慣れたアームズ・シェルでの戦闘の方がずっと楽かもしれない…と心の中で深い溜め息を吐くのだった。




今回のパロディ解説

・某アンパンヒーロー
それいけ!アンパンマンの主人公アンパンマンの事。この指摘がどの部分に対して出されているものなのかは…流石に書かなくても分かりますよね。

・「お前楽しんで〜〜状況を〜〜」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの登場キャラの一人、クダル・カデルの台詞の一つのパロディ。上記とは逆に、かなり分かり辛くなってしまったと思います。

・「〜〜とんだしょんぼり状態ッス…」
DMデッキ開発部シリーズの登場キャラの一人、アンの台詞の一つのパロディ。でもこれは同じ開発部のアンの真似をした台詞なので、そちらを連想する人も多いと思います。
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