超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

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第六話 少しずつでも積み重ねて

創作の中じゃよくある(?)記憶喪失と同じように、私も失ってしまったのは思い出や自分の経歴…所謂エピソード記憶であって、知識や基本的な行動能力(歩くとか喋るとか、ね)は保持したまま目覚める事が出来た。でも記憶喪失の私としては、覚えている事も本当に正しいのかどうか、欠落がないのかどうか不安があって、この第三の試練でも「私が記憶違いをしていたせいで何か大きなミスをしちゃったらどうしよう…」と思っていた。

でも、それは杞憂だった。はっきり言って、要らぬ心配だった。だって……

 

「ボーナス系のマスに止まれますように…っ!」

【三回休み】

「……多い…ギリギリじょーしき的なレベルで、三回休みはシンプルに多いよ…」

「こういうのは、無心でやると案外上手くいくもんなんだよな。よっと」

【サイコロを10回投げ、前半5回で出た分だけ進み、後半5回で出た分だけ戻る】

「……何この面倒なマス…かなり凝ったカードゲームかよ…」

「大きく投げると良いマスに止まれたり、して…?」

【ガラガラチャンス】

《ガラガラマシン、カモーン!》

「何で脳ベルSHOW!?しかもこれ双六とは別のコーナーのやつだよねぇ!?」

 

──記憶とか知識云々以前に、出てくるマスが悉く酷かったり意味不明だったりするんだから。

 

「あぁっ、しかも赤が出てきた…ちょっと運が良いけど、これ意味ある…?」

《ううん。あ、でも一応ポイント加算しておいてあげよっか?何にも使えないけど》

「なら要らないよ…はぁ……」

「全然上手くいかないよね……えー君だったら、運動エネルギーとか反発力とかを計算して出る目を操作出来たかもしれないのになぁ……」

((出る目を操作…?そんな高度なイカサマみたいな事を出来る人が…?))

 

おふざけ満載だった食事タイムの事をまだ引きずっているかのように、全体的に私達はローテンション。偶に良いマスに止まれたり、予想の斜め上をいくマスに突っ込んだりでテンションが上がったりする事もあるけど、割合としては低い状態の方が多い。少なくとも、楽しい感じは全くない。

 

「…双六とか人生ゲームって、本来皆でワイワイ遊べるものですよね?」

「そうッスねぇ」

「自分が駒になって進む双六なんて、本来ワクワクするものですよね?」

「その筈ッスねぇ」

「……なのになんで、こんな気分が沈むんでしょうか…」

「…それは、ウチだって訊きたいッスよ…」

 

偶々隣接するマスで止まった私とアイさんは、二人揃って肩を落とす。いやほんと、試練じゃなきゃこれでも楽しめてたかもしれないんだよ?イマイチ進めないのも娯楽目的なら長く遊べる事に繋がるし、変なマスに止まっちゃってもそれはそれで笑い話になるんだから。でも私達は遊びじゃなくて元の次元に帰る為にやってる訳だし、そうなるとマイナス系のマスは勿論被害はゼロでもおふざけが過ぎてたりすると、正直ちょっとイラッとくる事がある。それに……

 

「……っ…遠いな……」

 

五という良い方の目を出せたにも関わらず、表情をしかめたのはワイトさん。何故かといえば、それは今が最終ターン…つまり、もうワイトさんに順番が回ってこないから。

そしてワイトさん含む全員が、とても後一投ではゴール出来ない位置にいる。だから『ゴールまで飛ぶ』という無茶苦茶なマスを引き当てない限り……この周回じゃ、クリア出来ない。

私達から娯楽性を奪っている最大の要因。それは、ターン制限という壁だった。

 

「……駄目だった、みたいッスね…」

 

もしかしたら、何か奇跡が。…そんな淡い期待も虚しく、最後であるアイさんが移動を終えた瞬間どこからかブザーが鳴り、サイコロもマスも消滅する。後に残ったのは閉ざされた扉とスタート地点だけで……その意味を理解した私達全員がスタート地点へ戻った瞬間、サイコロとマスが復活した。

 

「…やり直しが効くんだから、最初は情報収集感覚で…とは思ってましたが……」

「惜しくも何ともないところで終わっちまうってのは、流石に少し残念だな…」

 

復活後最初に発されたのは、ディールさんとカイトさんの気落ちした言葉。その気持ちは私も分かるし、多分皆同じ気持ちなんだと思う。

 

「…とはいえ、多少なりともどんなマスがあるか分かったのは事実。これなら作戦を考える目処も立ったというものです」

「まあ、それは確かに…。…マスの中には自分じゃなくて誰かを進めるマスとかもありましたし、やっぱり誰か一人を六人で支援するのが良さそうかな?」

「うーん…でもそれって、その一人が振り出しに戻るとか踏んじゃった場合、一気に達成が困難になっちゃいますよね?…いや、勿論イリゼさんの案を否定する訳じゃないですが……」

「リスクが大きい、って事だよね。私もそれには同感かな」

 

でも、私と違って皆さんは歴戦の戦士。気落ちしたとしてもすぐ気持ちを切り替えて、建設的な作戦会議を開始する。

一点集中でクリアを目指すか、リスク分散として皆で進むか。前者の危険性はディールさんが言った通りだし、かと言って安全性を取ればターンの壁に潰されてしまう可能性もある。要はどっちも短所がある策で……十分弱の会議を経て、暫定的な目標は一応決まった。

 

「一極集中と安全策、それぞれの効果と効率を実際に試して確かめてみる、ッスか…。無難ッスけど、選択の先延ばし感がなくもないッスね」

「厳しいねぇ、シノちゃんは。でも色々試してみるのは大切だと思うよ?」

「だな、それにリトライ上限はないみたいだし。…つっても、可能なら全力でゴールを目指す。そうだろ?皆」

 

皆を見回してそう言い切るカイトさんに、私も皆さんもこくりと頷く。…だよね。あくまで実験が主目的だけど、それでいいや…じゃなくてそれ以上を目指そう、って気持ちでいなくちゃ。……口に出すには私はあまりにも活躍してない(頭突き?…あれは狙ってやった訳じゃないし…)から、言うのはちょっと憚れるけど…。

とにかく方針が決まった事で二回目スタート。順番はそのままでワイトさんがサイコロを振ると、出た目は一番小さな一。

 

「一、か。…という事は……」

 

今度は幸先が悪い、と言いたげな表情のワイトさん。その理由はたった一って事もあるだろうけど…一番の理由は、そこが振り出しに戻されるマスだから。既に分かってる以上、残念に思うのも普通だよね……と思っていた私だけど、止まった瞬間表示されたのは『ゴールへ向けた第一歩。……一歩なので、一マス進む』という文章だった。

一マスって…それじゃ足しても二マスじゃん……プラスといえばプラスだけど、三分の二でそれより前に進めていた事を考えると、これは効果が地味過ぎる…って……

 

(え……?…振り出しに戻る、じゃない…?)

 

表示された文章に、全員が驚いていた。誰一人予想していなかったから、皆振り出しに戻るだと思っていたから、全員が一瞬目を疑う。

そして、ある可能性が脳裏をよぎった。まさか、でも一マス目がこうだったって事は…と思いながらも私達は進行を続け……数ターン経過したところで、その予想は確信へと変わった。

 

「…ちょっと、これは…誤算だね…」

 

今の状況を、イリゼさんは誤算と称する。…私達は、マスの内容が変わるなんて思ってなかった。内容が変わるって事は、先のマスの内容を計算に入れた動きが取れないって事。

 

「…どう、しますか……?」

「…どうもこうも、そういうものだって割り切るしかないよね。これは……」

「ですよね……あ、次私の番か…」

 

ちょっとだけ顔をしかめた茜さんの返答に頷いて、サイコロを放る。止まったマスは自分以外の全員を二マス進めるという中々ありがたいものだったけど、今の空気を変えられる程の力はない。

そのまま思った程の成果も出せずに、二回目は終了。結果は一回目と似たようなもので、士気の上がる要素はない。

それでもやっぱり、皆さんは苦境や苦難を超えている人達。まだまだこれからだ、とばかりにすぐに三回目へと移行して……その中盤、ちょっと空気の変わるイベントが起こった。

 

「いち、にっ…っと。このマスは……」

【〜〜♪】

「え…!?今のドラゴンなクエストでお馴染みの音は、まさか……」

「グルルゥ……!」

「やっぱり……!」

 

とんとんっ、と移動したディールさんが止まった瞬間、とある名作ゲームを彷彿とさせる音が鳴ったと同時にディールちゃんのマスが広がり、彼女の周囲に何体ものモンスターが現れる。…それだけで分かった。それが、バトルマスだって。

 

「ディールちゃん…ッ!」

「こんなマスもあったのか…!」

 

私が驚く中、弾かれたようにイリゼさんが地を蹴り、ワイトさんは早撃ちの如く腰から引き抜いた拳銃を発砲。それはモンスターの行動より早く……けれど銃弾はマスの中に入る直前に突然落ちて、イリゼさんも立ち止まった。

…いや、違う。はっきりとは分からないけど……不可視の壁か何かに、阻まれている。

 

「……っ…なら…!」

「…大丈夫です、イリゼさん。それに皆さんも助太刀は必要ありません。この程度…わたし一人で、倒せますから」

「……本当に大丈夫か?ディール」

「はい。これでも一応…女神ですから…ッ!」

 

今の二人に続く形で全員が増援の体勢を取り、私も少し位なら役に立てる筈と走り出す。でも始まったモンスターの攻撃を連続ステップで避けつつ周囲を見回したディールさんは、動く私達を制止した。そしてその言葉の証明をするように、手にした杖を横に一振り。杖の軌跡が青い魔法の刃となり、飛び掛かったモンスターを撃ち落とす。

それから数十秒。女神様とはいえディールさんは小さな女の子で、しかもその子を見ていると思い出すのは気弱そうな女の子と、元気だけど危なっかしい女の子。だから、最初は不安だったんだけど……

 

(……凄い…)

 

暫く回避を優先していたディールさんは、ある時大きく後方へ跳んで、ずっと持っていた本を真上に投擲。続けて杖を右手から左手に持ち替え、右手で先端を掴み…その先端が外れたと思った時、そこには一本の刀があった。

そこからの動きは正に圧巻。次々と襲うモンスターを刀で斬り伏せ、鞘となっていた杖から魔法を放ち、小柄さを活かして軽快にモンスターの側面をすり抜けていく。流石に女神化したネプギア程じゃないけど……女神化してもいないのに、私よりも小さいのに、なのにあんなに動けるその姿は、私達にさっきの言葉を信用させるだけの力が十分にあった。

 

「……ディールちゃん、仕込み刀なんて持ってたんだ…」

「…やっぱり自己紹介のあれは、謙遜だったんだ……」

「え?あぁ、あれは謙遜じゃないと思うよ?あくまでディールちゃんの本分は遠距離戦だし。…詳しくは知らないけど…あの近接戦能力は努力の賜物、らしいからね」

 

偶々声の聞こえていたイリゼさんが、私の言葉に返してくれる。…努力の賜物、か。頑張る事と成功する事は別の問題だけど、頑張れば頑張ったなりの結果が現れる。そういう事、なのかな。

そう私が思っている間も制圧は続き、空中でくるくると回っていた本が落下しディールさんがそれをキャッチした時には、なんと敵残存数たったの二。残っているのは、つぶらな目をしたホエール系のモンスターと、その上にちょこんと乗ったスライヌ系のモンスター。……うん?あのホエール系モンスター、そこはかとなく……

 

「……エル君に似てる…?」

「…ちょっと、ライヌちゃんっぽいかも…」

「え?」

「へ?」

 

ほぼ同時に呟いた私とイリゼさんは、その事で顔を見合わせる。で、互いに状況から予想と想像をして…数秒後。

 

『あー…』

 

これまた同じ反応をした事が、想像の…イリゼさんも私にとってのエル君的な存在がある事の裏付けとなった。…そっか、そんな事があったんだ。別に距離を空けてた訳じゃないけど、それならこれを切っ掛けにイリゼさんとは仲良くなれるかもしれな……

 

「これで、最後…ッ!」

『あっ……』

 

……とか思ってた正にその時、ディールちゃんの氷塊によって二体のモンスターは、無慈悲にあっさりと押し潰された。…あははは、は…うんまぁ仕方ないもんね!っていうか似てるだけでエル君は小さな子を襲うような乱暴者じゃないし、そもそも仲間の勝利を悲しむとか私はそんな捻くれてないって。…いや強がりとかじゃなくて、本当に。

 

「お疲れ、ディール。小さいのに凄かったな」

「凄かったッスね。ちびっ子なのに」

「凄かったねぇ、小さい見た目に反して…いや、ある意味見た目通りかな…?」

「…皆さん、わたしをからかってません…?……はぁ、疲れた…」

 

決着となったからかマスのサイズが元に戻り、壁も消えて皆は次々ディールさんの下へ。さっきまで氷の刃のように鋭い雰囲気を纏っていたディールさんは、あっという間に元の女の子に戻っていた。…ほんとに凄かったよね、見た目は小さい子なのに。

…とまぁ、ここで一度空気は変わった。だけどこの回では、もう一つ空気の変わる出来事があった。それは、イリゼさんがあるマスを踏んだ時。

 

「げっ……何この明らかにヤバそうなマスは…」

《ゲヘヘヘヘッ!とうとうこのマスに止まってしまう奴が現れたなぁ!》

「うわぁ何!?え、いや…何その派手な格好!?やっぱこれ、大魔王さん呼んじゃう例のマスだったの!?」

《その通りだ!因みにこれは操られてるとかじゃなく、ノリでやってるだけだから心配は無用だぞぅッ!》

 

刺々しい姿で現れたワンガルーと、漫才みたいなやり取りをするイリゼさん。…ワンガルー、ノリッノリだなぁ…。

 

「やなマス踏んじゃったなぁ…で、どうなるの?何か盗られたりする訳?」

《あ、ううん。このマスを踏んじゃった哀れなイリゼには、誰かを道連れにお化け屋敷に行ってきてもらいまーす》

「もう演技止めてるし……っていうか…お、お化け屋敷…?」

 

イリゼさんがぴくんと軽く肩を震わせる中、部屋の一角に現れたのはいかにもお化け屋敷っぽい建造物。…つまりこれは、プラスにもマイナスにもならない、無駄マスの一つ…?

 

《そうだよー。…あ、もしかして怖いの?》

「な…ッ!?べ、別に怖くないけど?げ、原初の女神がお化け屋敷を怖がるとでも?」

《なら大丈夫だよね?因みに一人で行くのは禁止だよ?もし守らなかった場合、某映画のボードゲームばりにがっつりとした罰ゲームを受けてもらうから覚悟しておいて》

「きゅ、急に重いペナルティが……でも、道連れって…」

 

ちらりと私達の方を見たイリゼさんは、目を伏せ首を横に振る。

自分の出してしまったマスで、誰かにも負担を強いるのは申し訳ない。多分イリゼさんが思っているのはそういう事で、それは皆さんにも伝わっている。

 

(……個人的には、お化け屋敷に付き合う位なんて事ない、が…)

(…女の子、それも女神様と異性が二人きりでお化け屋敷…大人としてやってはいけない一線を踏み越える事になるな、それは……)

(お化け屋敷、ッスか…うっかり蹴り壊したりしたら、不味いッスかね……?)

(お、お化け屋敷…おばけ……)

「…ふーむ…仕方ない。ここはあかねぇが一緒に行ってあげよう!」

「え……?」

 

訪れた沈黙の中、明るく声を上げた茜さんは、きょとんとしているイリゼさんへと近付いていく。

 

「い、一緒にって…私は何も……」

「え、気付いてなかったの?皆に悪いし、ペナルティがあろうとここは一人で…って顔してたよ?」

「そ、そんな具体的な顔を…?…でも、別に気を遣わなくても大丈夫だよ…?」

「いやいや、私達に気を遣ってるのはイリゼちゃんの…イリゼちゃん?…んー……」

「……?」

「…なーんかイリゼちゃん、って言い辛いっていうかしっくりこないし、ぜーちゃんって呼んでいい?」

「ぜ、ぜーちゃん…!?」

 

それから話は少し脱線し、茜さんはイリゼさんをぜーちゃんと言う。イリ『ゼ』だからぜーちゃん。うん、分かり易いね。

…というのはともかくとして、それを訊かれたイリゼさんは何故か衝撃が走ったような顔に。

 

「…あ、ごめん、ぜーちゃんは嫌?」

「う…ううん!全然嫌じゃないよ!嫌じゃないどころか、むしろ嬉しいよ!ぜーちゃんってつまり、愛称だよね!?」

「え?…う、うん…」

「だよねっ!…わぁ、わぁぁ…ぜーちゃん…私初めて、愛称で呼ばれた……!」

 

顔を輝かせ、興奮気味に話すイリゼさんはもう見るからに嬉しそう。どの位嬉しそうかっていうと、さっきまでの遠慮がちな様子が完全にどっかいって、「それじゃあお願いねっ!」と、意気揚々と屋敷へ向かってしまう位には嬉しそうだった。イリゼさんの受けた衝撃は、どうやら歓喜のものだったらしい。

 

「…イリゼ、目がキラッキラしてたなぁ……」

「いやぁ、微笑ましくなる位嬉しそうだったッスねぇ」

 

そのある意味子供っぽい様子に、自然と雰囲気もほっこりと。……え、これが二度目の空気変化の内容かって?ううん、真に変わったのはこの数十秒後。二人の入っていった屋敷から聞こえた……

 

「きゃあぁぁぁぁああああああっ!!」

『──!?』

 

……イリゼさんの、悲鳴だった。思わず全員がびくっと驚いてしまう程の、大きな悲鳴が屋敷から上がった。

 

「ひにゃああああぁぁぁぁっ!?」

『…………』

「うきゃああぁぁぁぁああっ!?」

『…………』

「ぬわーーーーっっ!!」

((断末魔……!?))

「…そ、そんなに怖いのかな……(ぶるぶる)」

 

絶叫、絶叫、また絶叫。なんだかこっちまで冷や汗をかいてしまいそうな悲鳴が、何度も外まで響いてくる。聞こえるのはイリゼさんの声だけって事と、その悲鳴も命の危機を感じさせるようなものじゃない事から、助けに行こうという流れにはならなかったけど……な、中では一体どんな脅かしが…?

そうして待つ事十分弱。悲鳴の頻度が落ち始めたところで、出口から二人の姿が現れた。

 

「ほら、もう終わったよぜーちゃん。よしよし、よく頑張ったね」

「うぅ…ぐすっ、ひっく……」

 

──片や保護者、片や妹又は子供みたいな状態となった茜さんとイリゼさんが。…え、っと…これは……。

 

「ふぇ…?……ぁ…」

「…だ、大丈夫ですかイリゼさ……」

「……ないもん…」

「へ?」

「イリゼ泣いてないもんっ!」

「えぇっ!?」

 

泣いてないもんっ!…と目尻に涙が溜まったまま声をかけたディールさんに言い切るイリゼさん。…イリゼさんは泣いてない。誰が言い出すでもなく、そう言い切られた瞬間私達は「そういう事にしよう」と心の中で共通認識を持つのだった。

…因みに、茜さんもそこそこ怖かったんだとか。でも、イリゼさんがそれどころじゃない状態になっちゃったから、結果的に恐怖が薄れたらしい。……あかねぇ、凄い。

 

 

 

 

第三の試練は、何度も何度もリトライする事になった。考えようによっては失敗のしようがない自己紹介、仕組みに気付けるかどうかだった剣抜きと違って、この試練は運の比重が段違いに大きく、尚且つ積み上げたものがターン制限という壁に潰されてしまうからこそ、何度も挑戦しては失敗して…という繰り返しを余儀なくされる。

それでも回数を重ねる事で作戦を立て、その作戦を洗練させ、出てくるマスの傾向を範囲ごと大体でも掴む事によって、少しずつゴールまでの距離を縮めていった。

そして気付けば数時間。前二つの何倍もの時間をかけて、漸く光明が差し始める。

 

「三マス進む…と見せかけて誰か一人を二マス進める…?……うん、もう何がしたいのか全く分からないが…まあいいや。じゃ、この権利はルナに」

「は、はい。分かりました」

 

軽く肩を竦めたカイトさんから進む権利を貰って、私は二マス前進する。

この回では、運の良かった私が抜きん出て進んでいた。だから作戦通り先行する私へ支援が集まって、私は今ゴール目前にいる。ふっふっふ…この回で試練を達成出来るかどうかは、私の腕にかかっているのだっ!

 

(……なんて調子のいい事言えないよ…うぅ、失敗したらどうしよう…)

 

光明が差したのは間違いない。確かに私は、これまでで最もゴールに近付いているし、達成出来る可能性は十分ある。

でも、余裕なんてちっともない。だってどの目を出せるかは完全に運次第だし、今はラスト2ターン。で、私はもうこのターン振り終わっているから…私が自分から進めるのは後一回。達成の可能性は見えているけど…確実性は、どこにもない。

 

「さて、クリアの為にもここでルナをブーストさせられるマスを出したいッスね。よ、っと!…っと、ん?これ、サイコロに何の数字も出てな……」

【悲しかった話】

《お、悲しかった話だね!悲しかった話!うぅ、しくしく!》

「いやそれごきげんようじゃないッスか…確かにこのサイズのサイコロはあれを彷彿とさせるッスけど……でもまぁ…うぅ、しくしく!」

《ノリいいね、アイ!よーし、それじゃあそのノリの良さへのご褒美として、ちゃんと話してくれたら次のターンは全員出た目の二倍進める事にしてあげるよ!》

「それはありがたいッスね。じゃあ……」

 

最後を担うアイさんが振ったサイコロには、何故か数字ではなくお題が書かれてあった。何気に一マスも進まなかったアイさんだけど、それより二倍のメリットを重視しているらしくて、彼女はこほんと咳払い。で、言ったのは……

 

「これは、ほんとに最近あった事なんスけど……」

《うんうん、何があったの?》

「…食事が出来ると思って楽しみにしてたら、カップ焼きそばをお湯無しで食べる羽目になったッス」

《あっ……それは、その…》

「…………」

《…よ、よーし!約束通り次は二倍!ラストターン、皆頑張ってね!》

 

実際に悲しく、その上でばっちり皮肉を効かせた話で見事アイさんは二倍の権利をゲット。…あの柔軟な発想力は、見習いたいと思う。

…と思っていたら、最初のワイトさんもまた誰かを進められるマスを引き当てて、再び私はゴールへと前進。そして、私の番になった時……私とゴールとの間にあるのは、たった三マスにまで縮まっていた。

三マス。これは、二分の一でゴール出来る距離。けど、それだけじゃない。今は二倍の恩恵があるから…二分の一どころか、二以上でゴール出来るという千載一遇のチャンスが私の前へと舞い降りている。

 

「……っ…!」

 

どくんと跳ねる心臓。現れたサイコロを持ち上げると、ほんの僅かに震えているのが見て取れる。…理由は勿論、緊張しているから。冗談でも何でもなく、この一投が試練達成の分かれ目になるから。

 

(…いや、大丈夫…大丈夫だよ私。だって一さえ出さなければいいんだよ?この回じゃ私、結構運が味方してくれてるんだよ?…だから大丈夫、きっと出来る…!)

 

皆さんからの期待を背中に感じながら、ゆっくりと放る姿勢に入る。良い目、或いは狙い通りの目を出す技術なんて私にはないから、ただ幸運に期待するしかない。だから私は大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせ……サイコロを、投げた。

放物線を描いて飛び、そのまま落ちるサイコロ。ころころと床を転がり、次第に動きが緩慢になって、最後には回転し切れず揺れて停止。そして、停止したサイコロが天井へと向けていたのは…………赤い丸が一つあるだけの面だった。

 

「……──っ!?…そ、んな……」

 

その瞬間、私は全身から血の気が引いた。胸が締め付けられる。全身に激しい怖気が走る。目眩の様に視界が歪んで……それから激しい自己嫌悪が、私の心に襲いかかった。

一。六分の一でしか引かない筈の、二倍になっても二マスまでしか進めない……唯一、達成失敗となってしまう最悪の目。…そんな目を引いてしまった。

 

(…最悪だ…皆さんが私を支援してくれたのに…私に期待してくれたのに……)

 

罪悪感と後悔。こんな事になるなら早めに支援を辞退するべきだったと、別の人を勧めるべきだったと、今更どうにもならない思いが駆け巡る。

振り返るのが怖かった。幾ら優しい皆さんでも、こんな失敗をしたら不満や怒りの一つや二つ、抱いていてもおかしくない。私は責められて当然の事をしたんだから、貶されたってしょうがない。

だけど……そんな声は、一つも上がらなかった。部屋は、静寂に包まれていた。一瞬、声をかける気にもならない程呆れられてしまったのかと思ったけど…何か違う。何となくだけど、感じるのは息を飲んだ時の雰囲気。それの意味が分からなくて、どういう事か理解出来なくて、でも私がクリアのチャンスを潰してしまった事だけは変わりようのない事実の筈で……

 

【ゴールから最も離れた人と、場所チェンジ】

「え……?」

 

見えたのは、俯いた私が目にしたのは、呆然としながらも無意識に進んで踏んだ二マス目の文字。そこに書いてあった、イベントの内容。

場所チェンジ?ゴールから一番離れてる人と、私とが場所を変えるって事?……って、事は……

 

 

──まだ、終わってない?…いや、終わってないなんて、レベルじゃ…ない?

 

「……やりましたね、ルナさん」

「あ……ディール、さん…」

 

いつの間にか私の側に来ていたのは、条件に該当するディールさん。マスの内容通りに動くのなら、ディールさんがここで、私はディールさんがいた場所に移動する事になる。

三番手のディールさんはまだサイコロを振っていない。だから二倍の恩恵が残っている。そして、私が二マス進んだ訳だから、ゴールまでは残り二マス。つまり……

 

「……折角だし、最後は両足で…ていっ!」

 

投げられたサイコロの目は四。でもそんなのもう関係ないとばかりにディールさんは進んで、最後は跳んで……ゴールのマスへ、両足で着地。その瞬間、小気味の良いファンファーレが響いて……ゴールからすぐの所にある扉が、ゆっくりと開放された。私が失敗したと思ったマスの結果、私が皆の期待を裏切ってしまったと思った『一』という目の結果……達成へと、繋がった。ゴールそのものではなく、アシストととして。

 

「よっし!長かったが、やっとクリアだな!」

「これまでで一番遊びっぽい試練に、まさか一番苦労させられるなんてね…でも、その分達成感も一入、かな?」

「同感だよ。しかし、あの土壇場で逆転のマスを引き当てるとは……ルナさん、やっぱり君は何か運を……ルナさん?」

 

聞こえてくるのは歓声と安堵の混じった声。茜さんの言う通り、これまでで一番大変だったんだから、それだけに喜びたくなる気持ちはよく分かる。

でも、私は歓声なんて一言も上げなかった。それどころか、ワイトさんに心配そうな顔をされてしまった。それは何故かって?だって、私は……

 

「…よ、良かったぁぁぁぁ……」

 

……喜びよりも安堵の感情が強過ぎて、その場にへたり込んじゃうような状態だったから、ね。




今回のパロディ解説

・ガラガラチャンス、脳ベルSHOW
クイズ!脳ベルSHOW及びその中のコーナーの一つの事。今回は双六ネタが盛り沢山です。何気に最後の場所チェンジも少し違いますが、これのパロディと言えますね。

・ドラゴンなクエスト
ドラゴンクエストシリーズの事。要は、すごろく場におけるモンスターマス的なマスを踏んでしまった訳です。一人で戦う前提の敵が出てくるんですよね、ドラクエでは。

・大魔王さん呼んじゃう例のマス
マリオパーティーシリーズにおける、クッパマスの事。大魔王さんとは勿論クッパ。これも双六ゲームと言えばお馴染みの作品の一つですね。

・某映画
映画版ジュマンジの事。双六ではなくボードゲーム(双六もボードゲームですが)の作品ですが、この作品を連想した方も多いのではないでしょうか。

・「ぬわーーーーっっ!!」
ドラゴンクエストⅤの登場キャラの一人、パパスの断末魔の事。遂にコラボにて死人が……なんて事はありません。っていうか、そんな事は出来ませんよ、はい。

・ごきげんよう
ライオンのごきげんようという番組の事。この中でのトークコーナーにて、お題の書かれたサイコロが出るんですよね。今回は、殆どが最初から考えていたパロディです。
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