超次元ゲイムネプテューヌ Origins Relay   作:シモツキ

9 / 57
第七話 ボーイズ&ガールズトーク

遊びのような内容と、楽しんでる場合じゃなった展開。それでも挑戦と積み重ねで第三の試練も突破した俺達は、休息を取る事にした。第三の試練だけでも結構な時間、加えてここまで食事以外じゃノンストップだったんだから、流石にそろそろ休まないと…って事で。

という訳で次の階に案内しようとするワンガルーを止めると、寝る為の場所もある事が判明した。…試練の準備は適当な癖に、そういうところはしっかりしてるのな。

 

「おぉ……」

「これは……」

 

要望通りに用意されたキッチンにてイリゼと茜が量産したパンケーキで改めて食事を取り、男女で分かれている部屋の片方へと入った俺とワイトさん。すると、そこは……旅館の大部屋みたいな場所だった。

 

「……広いっすね」

「広いね、無駄に…」

 

アイの真似…とかではなく、シンプルに驚きと呆れの感情から適当な敬語になってしまった。

いやでもほんとに広い。修学旅行における男子部屋的な、数十人が余裕で寝られるような、そんな部屋が広がっている。…俺達は二人なのに。

 

「しかも、真ん中にぽつんと布団が二つ……」

「…物悲しいね、はは……」

 

隣から聞こえる、ワイトさんの乾いた笑い。ワイトさん、最初は厳格な軍人ってイメージだったけど、俺や茜、ルナには物腰柔らかく接してくれるんだよな。そういう事が出来る大人は、格好良いと思う。

 

「さて…カイトくん、無理強いはしないが早めに休んだ方が良いと思うよ。状況が状況だけに、自分じゃ分からない心労が溜まっているかもしれないからね」

「あ、はい。…ワイトさんは寝ないんですか?」

「私は少し考えたい事があってね。寝ようと思えば寝られるけど、気になる事は整理してから休みたいんだ」

 

布団の前に辿り着くと、ワイトさんはそう言った。それに頷き横になり、少ししてからちらりと目だけを動かした俺が見たのは、考え込んだワイトさんの硬い表情。…気になる事、か…こんなのは、余計な世話かもしれないが……

 

「…俺で良ければ、一緒に考えますよ?」

 

俺は身体を起こし、ワイトさんに向き直る。それを聞いたワイトさんは、一瞬目を丸くし…それから軽く頭を掻いた。

 

「あぁ…すまないね、気を遣わせちゃったかな」

「あ、いえ、気を遣ったとかじゃなくて……」

「…とかじゃなくて?」

「…何つーか…向こうの五人も含めて、今俺達は同じ目的に向かって協力してる仲間じゃないですか。だから、何か力になれるならと思って…はは、生意気でしたかね」

 

答えながら、俺も無意識に頭を掻いていた。理由は…まぁ多分、歳上の人に仲間じゃないか、というのが気恥ずかしかったから。けど仲間だと思ってる事は事実だし、力になれるのなら俺はそうしたいと思っている。

とはいえワイトさんは大の大人。俺程度が役に立てるかどうかは怪しいし、不要だと言われたら引き下がるしかないんだが……結果から言えば、この時俺は言って良かった。

 

「…いや、生意気なんかじゃないよカイトくん。……ありがとう、それじゃあ…少し話に付き合ってくれるかい?」

「はい、勿論!」

 

なぜ良かったと言えば、それは小さく笑みを浮かべて、ワイトさんがそう返してくれたから。

もしかすると、そこには俺を気落ちさせない為の気遣いがあったのかもしれない。けど、それだけじゃないと…俺は信じたい。

 

「なら、まずはカイトくん。君はここを…どう思う」

「ここ……えぇと、それはこの部屋限定の話じゃないですよね?」

 

そうして始まったワイトさんとの話。俺の訊き返しに、ワイトさんは首を縦に振る。…どう、って…うーん……。

 

「…変な場所、ですかね。場所も、試練も、ワンガルーも…全部において変な気がします」

「そうだね、それは私も思うよ。後者二つは、変というよりふざけてると言いたくなるけどね」

「はは、同感です」

 

思い付いた事をそのまま答えると、ワイトさんは肩を竦めて頷いた。

ふざけてる。確かにそうだ。例えば俺の元居た世界にモンスターなんかいなくて、だから俺にとってモンスターがいる世界というのは『変』だった訳だが、試練やワンガルーから感じる『変』はそれとは違う。……まあ、ぬいぐるみが喋ってるのはまた別だけど。

 

「…ワイトさんは、どう思っているんですか?」

「君と似たようなものだよ。…けど、より正確に言うなら…違和感を覚えている、ってところかな」

「違和感…?」

 

少しさっきまでの顔に戻るワイトさん。彼の言葉に訊き返すと、ワイトさんは話を続ける。

 

「…分からないんだよ、ワンガルー側の目的が。初めは私達を亡き者にしようとしているのかと思ったけど、ここまでの試練で凡そ殺意と言えるものはなかった。一応ディール様がモンスターとの戦闘にはなったけど、女神様を倒す為の刺客としては戦力不足も甚だしいし、そもそも殺す事だけが目的なら、私達が意識のない間に致命傷を負わせればいいだけだからね」

「…確かに…。最初はちょっとデスゲーム的なのを想像しましたけど、自己紹介なんて死ぬ要素全然ないですもんね」

「で、次に考えたのはドッキリだ。それならふざけた試練にも、そこに殺意がない事にも頷ける。…けど、超常的な出来事が次々と起こる場所を用意し、様々な世界から女神を含む人を全く気付かれない内に運び出すなんて、ドッキリとしては度が過ぎているにも程がある。それに……カイトくん、ここまで君は汗をかいたかい?」

「へ?…そりゃ、剣を抜こうとした時結構踏ん張りましたし、その時多少は……って、んん…?」

 

何を急に…と思いつつ俺は答えかけて、そこで気付く。今までは全く気にしてなかった…というより出なかったからこそ気付かなかったが、俺はここまで全く汗をかいていない。少し位かいていてもおかしくないのに、これっぽっちもべたつきや不快感は感じてない。

 

「…私より動いている君もかいていないなら、かく程動いていないからではなく、ここがそういう場所なんだという事だろう。…身体機能にすら干渉する世界を、生半可な人間が用意出来る訳がない。いや、そもそも…こんな事を、本当に出来る存在なんているんだろうか、カイトくん」

「…それは……」

 

…どうなんだろう。一番素直に答えるなら、俺の答えはそうなる。だっているにしてもいないにしても、確固たる証拠なんてないんだから。……けど、論理的な回答は出来なくても、個人的な感想なら言える。

 

「…はっきりとは言えないですが…実際にこんな世界がある以上は、出来る存在がいるんじゃないでしょうか。いやほんと、答えとしては弱いかもですけど……」

「いや、答えてくれてありがとう。…話を聞いてもらうだけの筈が、こんな質問までしてしまうとは…。気にしないでいいよ、これには私も答えを出せていないからね」

「そ、そうなんですか…にしても、やっぱり凄いですね。俺は試練を達成する事しか考えてなかったのに、ワイトさんはそこまで考えていたなんて……」

「いいや、恥じる事はないよ。こんなの目の前の事だけに集中する事が出来なくなった、おっさんの思考に過ぎないからね。…集中すべき時にそこへ意識を全て注げる、それは半端にごちゃごちゃと考えてしまう人間よりよっぽど戦場では強いというものさ」

 

視野の、思考の広さの違いを知って少しばかり気落ちしてしまう俺。けれどワイトさんは、苦笑い気味に自嘲した後そう言ってくれた。

結局俺は、気を遣わせてしまったらしい。これが俺とワイトさんの、人生経験の差なのかもしれない。…ならせめて、俺は俺らしくいなきゃだよ、な。

 

「…そう言ってもらえると、俺も自信が持てます。でもほんと、何なんでしょうね」

「何だろうね。…今思ったけど、案外電子空間とか、SF的な世界なのかもしれないよ」

「あー。……いやそれを言うなら、もしかすると夢オチという可能性も…」

「ははっ、それは……無いとも言えないのが恐ろしい…」

 

そうして最後は雑談…のようなやり取りとなって、ここが何なのかという話は終了した。はっきりとした答えは出てないが、話せて良かったと俺は思う。ワイトさんは肯定してくれたが、少し位は俺も考えようかな、と思っている。

さて、それはそうとそろそろ寝なきゃな。次の試練も、皆と頑張る為に。

 

 

 

 

三人寄れば文殊の知恵、という諺がある。あれは有り体に言えば質を量で補う事が出来るというものだが、加えていえば『複数人の視点を思考に組み込む事が出来る』、『話す事で考えを整理し、聞く事で考えと共に思考の仕方も取り入れられる』という利点もあるのだろう。…少なくとも私は、カイトくんとの話でそう感じた。

 

「…………」

 

話を終えてから十数分。若いだけあって寝付きがいいのか、彼はもう寝入っている。睡眠という人にとって最も効率のいい休息方法を無理なく取れるのは、正直言って羨ましい。…まぁ私も、昔はそうだった訳だが。

 

「これが若さか…」

 

どこぞのノースリーブエースの如き心境を抱きながら、ふと考える。

何も睡眠の話だけではない。一つ一つの行動の積極性、状況に対する意欲的な態度、そして何より前向きな思考。どれも今の自分にはないもので、普通の若者ならば大体は持ち合わせている専売特許。

 

(…いや、違うな。彼の行動力は、何も若者だからというだけじゃない)

 

と、そこまで考えたところで私は軽く頭を振る。今挙げた事は多くの若者に該当するものだが、多くの若者が彼の…カイトの様な性格を持ち合わせている訳ではない。

例えばそう。ひょんな事から私の住む世界に飛ばされたあの少年は、良くも悪くも彼より繊細だった。行動力は負けていない…というか本当に目を見張るものがあったが、あの少年と彼は違う。それは勿論一人で放り出されたのと、同じ境遇の人間が他にもいるという差もあるのだろうが、それを差し引いてもカイトは良くも悪くも楽観的な性格だと言える。

 

「…ほんとにいいものだな、若さは」

 

我ながらじじくさいとは思いながらも、ついそんな呟きを口にしてしまう。

彼にも言ったが、実際にこの楽観さは強みだ。自分の様な人間ばかりでは、自然と空気が重くなってしまう。集団行動において、空気を好転させられる存在は案外重要であり……女神でもなければ恐らくは変に重いバックボーンもない彼だからこそ、彼は間違いなく雰囲気の好転に一役買っているだろう。そして私は大人として、人生の先輩として、彼が…いや、全員が持ち味を発揮出来るよう、フォロー出来れば幸いだと思う。

……そんな結論を出したところで私は思っていたより長考してしまっていた事に気付き、彼からかなり遅れる形で休眠を取るのだった。

 

 

……というか、私はボーイではないだろう。年齢的にも、外見的にも。

 

 

 

 

「ガールズトーク、してみようよ!」

 

部屋の広さと円形に並べるというちょっと謎の布団配置に皆で苦笑いした後、一先ず布団へ腰を下ろしたところで茜が発したその一言。…それが事の始まりだった。

 

「ギャールズトークッスか?」

「うん、ガールズトーク!」

「……え、突っ込まないの!?それじゃギャルのトーク又はギャートルズを語らうみたいになっちゃうよ!?…って突っ込まないの!?」

 

ボケのスルーに思わず突っ込んでしまう私。ここまでで大分掴めてきたけど、この二人は突っ込みよりもボケる人。…まぁ、これまでで一番ボケてるのは多分ワンガルーだけど。

 

「あはは、誰か突っ込んでくれるかな〜って思ったんだ。…それで、どう?なんかちょっと修学旅行みたいだから、私やってみたいの」

「ウチは構わないッスよ?何話せばいいかはよく分からないッスけど」

「…私もあんまり面白い話は出来ないと思うけど…ガールズトークは、楽しそうですね」

「…わたしは、まぁ…どっちでも……」

 

女神の私は当然そんな経験なんてないけど、確かに言われてみれば『皆で大部屋で寝る』というのはちょっと修学旅行っぽい。…つい最近皆で旅館に泊まった時も同じようにしてたけど、あの時と今とじゃ面子が全く違うし、ガールズトークというのも良い響き。だから私も頷いて……ガールズトークを、する事になった。

 

「それで、ガールズトークって具体的にはどんな話をするんですか…?スイーツの話、とか…?」

「うーん、それも良いけど…やっぱり寝る前のガールズトークと言えば、恋バナでしょ?」

『こ、恋バナ……!?』

 

恋バナ。普通の女の子にとってはありふれた、でも私にとっては馴染み深そうでその実全然馴染みのない単語の登場に衝撃を受ける。そしてそれは皆にとっても同じだったのか、私達は妙な驚きに包まれていた。……やっぱり、ここに普通の女の子はいないみたいだね…はは…。

 

「ね、どーかな?どーかな?」

「…え、と…あの……」

「……?どうしたの、ルナちゃん」

「申し訳ないんですけど…その、恋バナってなると…記憶喪失の私は、ほんとに話す事がなくて……」

「あっ……ご、ごめんねルナちゃん…別の話に、する…?」

「い、いえ、聞くだけなら私でも出来ますし…茜さん、恋バナしたいんですよね?なら、私は大丈夫ですよ」

「ルナちゃん…ふふっ、そう言ってくれるなら話そっかな〜。一番手は私でもいい?」

 

それはそうと、やけに茜は気分良さげ。最初その理由は分からなかったけど、別の話にするか訊いた時にしょぼんとしていた事、大丈夫だと言われて再びご機嫌になった事から、私達は自然と察した。……あ、この人話したい相手がいるんだろうな〜、って。

という訳で皆が首肯すると、提案者である茜の恋バナが始まった。

 

「えっとね、私には気になってる…ううん、大好きな人がいるの」

「…それって、えー君…って人の事?」

「ふぇ!?ぜ、ぜーちゃんなんで知ってるの!?」

「いや、何でも何も…さっきの試練の時、えー君だったらって言ってたよね?」

「あれ、そうだっけ?」

((無意識だったん(だ・スか)……))

 

不思議そうに訊き返してくる茜。先程のえー君というのが、やっぱり茜の意中の相手だったらしい。

 

「まあそれはともかく、そのえー君とやらはどんな人なんッスか?」

「よくぞ訊いてくれました!えー君はねぇ、格好良くて、強くて、頭が良くて、優しくて、格好良くて、多芸多才で、クールで、格好良いのっ!」

「へ、へぇー……そ、そうなんッスか…」

「……あの、今格好良いが三回程…むぐっ…」

「ディールちゃん、そこを指摘するのは無粋だよ…言いたくなる気持ちは分かるけど…」

 

にへ〜、と恋する乙女全開のふわふわな雰囲気を醸しながら、茜はえー君の人となり…というか好きなところを挙げていく。…うん、まぁ「その人の事を思うと、幸せな気持ちになって周りが見えなくなる」ってのは分からないでもないけど……茜って、実は天然入ってる…?

 

「えっと…凄い人なんですね、えー君…さん?…は」

「すごいよ〜えー君は。一対一なら女神にも勝てちゃうし、それなりに準備をする時間があって、勝利条件が相手の全滅じゃないなら、私達五人で戦っても負けちゃうかもしれないよ?」

「え……私はともかく、四人でもですか…?…それはちょっと、戦闘能力が凄過ぎる気が……」

「あ、でも勿論えー君の魅力は他にもあるんだよ?クールだけど時には大胆だし、寝起きのふにゃっとしてる姿は可愛いし、それに頭脳も実力も余裕で飛び級出来ちゃう程で……」

 

茜の熱弁が続く中、さらっと驚きの情報が入り込む。…いや、これは流石に贔屓目だとは思うけど…私達五人でもって……(ふと横を見てみると、アイは驚いたというより「へぇ、随分大きく出るじゃねぇッスか…」みたいな顔をしていた。…と思ったら、ディールちゃんから似たような指摘をされた。……まぁ、女神の誇りってものがあるから、ねぇ…)。

そんな感じで、茜によるえー君自慢(?)は再始動。魅力の羅列に私達はつい苦笑い気味になってしまうも、こういうのが普通の女の子らしさかなぁなんて感じ始めて……

 

「……何より、えー君はずっと私の事を思っていてくれたから。身を呈して私を救ってくれた、私の為に初めて涙を流してくれた、かけがえのない私のヒーロー。…あんな事されたら、惚れない訳がないよ」

『…茜(さん)……』

「…だけど、うん…私にとってはヒーローでも、世界を救うような本物のヒーローじゃないんだよ、えー君は。そんな人じゃない、筈だったのに……」

 

……不意に茜の雰囲気が、変わった。えー君への思いは、変わらずひしひしと伝わってくる。でもそれはここまでの惚気じゃなくて、心の底からの愛と憂い。そしてどこか悲しそうに、茜は微笑む。

 

「…えー君はね、本当に優しいの。優しくて、傷付き易くて、誰かの為に頑張り過ぎちゃうの。それに力も技術もあって、才能も生い立ちも特別で、一杯不幸も味わってきたから……自分で心に壁を作って、自分が何とかしなきゃって、自分はどれだけ傷付いてもって全部背負っちゃったんだ。抱えきれない程のものを無理にでも背負って、壁で本当の自分に触れられないようにして……それで選んだのは、行くしかなかったのは、茨の道」

『…………』

「…独りぼっちじゃなかったんだよ?氷の壁は高くて厚かったけど、私と…それにもう一人の子は、えー君の心に寄り添えた。でもそれは、内側に入れただけで、壁を壊せた訳じゃない。壁はそのままで、全部自分から背負ったままで、きっと今も自分じゃない自分を演じてる」

「…寄り、添えた……」

「……だけど、えー君はバカだよ。頭はいいのに、大バカさんだよ。だって、自分で壁を作って見えないし干渉も出来ないようにしちゃったんだもん。心の底では助けを求めてた筈なのに、隠しちゃったんだもん。…助ける側が手を伸ばしただけじゃ、それは相手を掴むだけ。手を握るには、両方が手を伸ばさなきゃいけないなんて単純な事に気付いていれば…もっと、違ったかもしれないのに……」

 

これまで茜は、明るく快活に振る舞ってきた。多分それは、茜の演技なんかじゃない。…でも、茜には愛があるからこその辛さも胸にあって…えー君という人の事が、垣間見えたような気がした。それと同時に、そんなえー君を止められなかった茜自身の後悔も。

 

「……って、なんか湿っぽい話になっちゃったね。むむ、私はただえー君の自慢がしたいだけだったのに…」

「…茜、大丈夫……?」

「大丈夫?…ってあぁうん、大丈夫だいじょーぶ!だって私、そんなところも含めてえー君大好きだから!間違ってる事まで肯定する気はないけど、ちょっと間違えちゃうえー君も魅力的だから!私の愛は、こころのめからのぜったいれいどでも消せないんだよっ!」

 

それでも茜は笑った。無理なんてしてない、心からの思いで。……なら、私達がする事は一つ。

 

「そっか…だったら茜、私はその恋を応援するよ!全力で応援するから!」

「そうッスよ茜!ウチはあんまり恋愛に興味ないッスけど、茜の恋は成就させてあげたいッス!…えぇっと、女神仲間に恋の女神っていたッスかね…」

「素敵だと思います、茜さん!私もその思い、応援します!いえしてます!」

「……頑張って下さい、茜さん…!(ぐっ)」

 

皆で詰め寄るようにして、茜に応援の言葉を送る。私達は同じ目的を持つ仲間だし、茜と同じ女の子。だったら、その恋を応援したいって思うのは…当然の気持ちだよ!

 

「み、皆…その気持ちはほんとに嬉しいけど…あは、ははは……」

『……?』

(…私がIF以外で恋を成就させる場合、重婚か不倫かNTRしかないんだけど……これは黙っておいた方がいいかな…)

 

そうして茜の恋バナは終了。最後に茜は何とも言えなさそうな顔をしていたけど…多分、最初に考えていたのとは違う流れになっちゃったからとかだろうね。

…という訳で、これは茜の話を聞く会じゃなくて恋バナだから、勿論話は次の人へ…移る、訳だけど……

 

「…誰か、話したい人いる?」

「うっ……えぇと、私は…」

「……それじゃ、ウチいいッスか?」

「シノちゃん?いいよ〜」

「じゃあ…あ、でも一応言っとくッスけど、これは恋バナじゃなくて家族の話ッス。茜の話を聞いて、話したくなっただけッスから、そこは勘違いしないでほしいッス」

 

私がまごまごしていると、控えめにアイが手を挙げた。…家族、って事は…女神候補生の話とかかな?それかもしや、逆にアイのお姉さんの話だったり?

 

「…ウチには家族みたいな存在が何人もいるんスけど、中でも一人、本当の兄みたいな人がいるんッス。名前はヤマトっていって……あれ?ヤマトの事、話した事あったッスか?」

「(あ、違った…)ううん、無い……けど、一回言ってないっけ?ほら確か、アイの第一声の中で」

「あー、そういえば言ったような気もするッス。…そッスねぇ、ヤマトは…優しいし頭も戦闘能力もそれなりに良いッスけど、えー…って呼び捨てにすると、雲隠れの雷影っぽくなるッスね…ごほん。えー君程凄い奴じゃないと思うッス。…少なくとも、ウチが女神になるより前は」

 

恋い焦がれる相手ではなく、兄(同然の相手)の話。その違いがあってかアイはさっきの茜みたいなぽわぽわした雰囲気になる事もなく、落ち着いて話をしている。…でもすぐに、アイは少し神妙な顔に。

 

「でも、それは過去の事。今のヤマトは、昔とは違うッス。見た目も、戦闘能力も大違いッス。優しいのは相変わらずッスけど……優しさの根源も、もしかしたら少し変わってるのかもしれないッスね」

「…ヤマト…さんに、何かあったんですか?」

「あったッスよ、そりゃもう色々と。……今思えば、ウチもヤマトもまだまだ子供だったッス。信用してる相手に裏の面なんかあるとは思わなくて、頑張れば何でも何とかなると思ってて、感情が先行しがちで…だから一度、ヤマトは自分すらも失いかけて、ウチもどうしたらいいか分からなくなっちゃったんッス。…もし信用していた相手が根っからの屑で、ブランちゃん達がもっと非情だったら……二人共、今も独りぼっちだったと思うッス」

 

女神に子供も大人もない。…なんて事は、誰も言わない。ブランちゃん?…なんて訊き返しもしない。これがガールズトークなのかはさておき、私達は全員真摯にその話を聞いていた。

 

「でも、おかげさまで今はこの通り、篠宮アイは元気ッス。ヤマトも元気で、家族とも友達とも良好で、何なら女神としてのレベルの高さを見せ付けたりもしてるッス。…でも、それはある意味ウチ等がバラバラになった要因が関係してもいて……結果的に言えば、良かったのかもしれないッス。…ヤマトが、ただのヤマトじゃなくなった事は」

「……どういう、事?」

 

含みのある言い方に、茜が訊く。そういえばさっき、茜の寄り添えるという言葉に、アイは反応していた。…それは嘗て寄り添えなかった自分への自責か、それとも今は…という思いか。

 

「これはウチもッスけど…ヤマトは小さい頃に色々あって、ウチと違って能天気でもなかったから、ずっと心の底で悩んでたらしいッス。自分は価値のある、意味のある存在なのかって。今のヤマトは、そんな昔の自分を若気の至りとか言いそうな気もするッスけど、昔は本当に悩んでいて……だから、何者かもちゃんと答えられないまま何者でもない存在になるのを、恐れていたッス」

「…それは…価値とか、意味とかは……」

「自分で決めれば、いい。…その通りッスよ、イリゼ。それは本当にその通りで…バラバラになる切っ掛けがあって、ヤマトとウチも皆変わっていって、でも変わらない思いや自分を受け入れてくれる人がいて、守りたいものもあって……戦いの果てに、やっとヤマトは『ヤマト』を見つけられたんス。手に入れたんッスよ、誰でもない自分を」

 

そう言ってアイは嬉しそうに、自慢げに頬を緩める。これがウチのヤマトッス、とでも言わんばかりに。

私はヤマトさんの事を今聞いた限りでしか知らないし、アイが語ったのも彼の人生のほんの一部。…だけど私は、ヤマトさんと仲良くなれそうな気がした。だって…私も誰なのかを探し求めて、自分が自分を形作る『過去』のない存在だって知って、絶望して……それでも大切な人のおかげで、今を生きる『イリゼ』だって分かったから。

 

「今のヤマトの事を、怖がる人や可哀想って思う人もいるッス。けど悩んで迷って苦しんで、それでも進み続けた先で手にした自分に、今にヤマトは満足してて、胸を張って生きているッス。…だから、そんなヤマトと一緒に居られて、二人で力を合わせて自分達の場所を…誰かにとっての力になれる場所を守れる今が……ウチは、最高に幸せッス」

 

屈託のない、本当に幸せそうな、アイの笑顔。自分自身の幸せ、大切な人の幸せ。その二つに彩られた、満面の笑み。…そんな笑顔を見せられたら…私達だって、自然と笑みが溢れてしまう。笑顔に、なってしまう。

 

「……愛、だねぇ」

「へ…?い、いやいやだから違うッスよ!?最初に言ったッスよね!?なんでそうなるんッスか!?」

「まぁまぁアイ、愛って言っても恋愛だけじゃなくて、家族愛とか隣人愛とかあるでしょ?だからそんなに慌てなくても大丈夫だって」

「うっ、そ、それはそうッスけど…なんかそれじゃウチが本当の気持ちに気付いていないブラコンで、二人がそれを微笑ましげに見てるみたいじゃないッスか!後会話だとアイと愛が分かり辛いッスね!」

「うんうん、とにかく何かあったら力になるからね、シノちゃん」

「相談とかも受け付けるからね、アイ」

「だから…なんでそっちに結び付けるんッス!?ウチがヤマトの事を大切に思ってるのは事実ッスけど、だからって今言われてるような感情でも、ましてやウチはブラコンでも……って、黙ってると思ったら何温かい目で見てるんスかそこ二人!うぅぅ…こんな辱めを受けるなら話さなければ良かったッス!…あー後、ウチもヤマトも半分ズルだったり純粋な戦闘能力以外の要素が悉く味方していたとはいえ、女神数人を相手に優勢を保った事があるんスからねっ!」

「え、あれ!?私最後に軽く挑発された!?」

 

温かな気持ちとほんの出来心の合わせ技で、つい私と茜はアイを弄ってしまった。するとこの会話で初めてアイは赤面して、テンパって……最後は布団に潜り込んで顔だけを出す蓑虫みたいな状態になってしまった。…挑発(?)はともかく……アイは可愛いなぁ。

 

「恋バナっていうか、幸せな話だったねぇ。…じゃ、次!えっと、ルナちゃんは聞き手だから…ぜーちゃんかディールちゃんかな」

「……こ、恋バナは、その…ディールちゃん、何かある…?」

「……こ、子供はもう寝る時間なので…」

「あ、ズルい!じゃ、じゃあ私も目覚めてからの時間は女神候補生の皆と大差ないって事で、もう寝る時間……」

「イリゼ……ウチを辱めておいて、自分は話さず済まそうなんて随分と虫がいいんじゃないッスかねぇ…?」

「うぐっ、そう言われると……わ、分かったよ、私も話すから…。…あ、相手の名前は伏せてもいいよね?」

「…それ位は許すッス」

 

しれっと横になったディールちゃんに逃げられ、お布団アイに恨めしそうな視線を向けられ、逃げられなくなった私は観念。興味津々な注目が集まる中(ちらっとディールちゃんも見てた。…ズルい…)、確かに聞くだけ聞いといてはいお終い…ってのはって気持ちもあって、私はゆっくりと話し出す。…な、名前出さなきゃセーフだよね……?

 

「…私もその、大切…っていうか特別だって人はいるよ?…その人を、そう思うようになったのは…気付かせてくれたから、かな。過去のない私でも、今があるって、友達や仲間がいるって事に」

「過去……そうだ、イリゼさんの記憶喪失は…」

「うん。過去を…自分を求めて旅をしてた私にとってそれは、自分が空っぽの存在だって事実があまりにも辛かったからね。今はその空っぽってのも間違いで、もう一人の私から愛を込めて創られたんだって分かってるんだけど、あの時は本当に辛くて……嬉しかったんだ、私を見つけて受け入れてくれたのが」

 

話してる内に、あの時の感情を思い出す。今となっては恥ずかしいような、情けないような…でもやっぱり胸の温かくなる、私にとっての大切な瞬間。

 

「…でもその人は切っ掛けであって、皆の存在のおかげで私は立ち直れた訳だから、その人じゃなきゃ駄目だった訳じゃないんだよね。…同じように私に光をくれそうな人は、私の友達の中にも沢山いるから。…はは、二人の話の後にこれを言うのはちょっと恥ずかしいね」

「そんな事ないよ、ぜーちゃん。大切なのは経緯じゃなくて気持ちだもん」

「…ありがと、茜。…それから、それがあったから私は、大切な人と大切な人が守りたいものを守るって決めたの。だからその人は、私にとっての友達だし、恩人だし、今の私に大きな影響を与えてくれた人でもあって……だから、嬉しかったなぁ…その人と、大切な友達三人とを助ける事が出来た時は…」

 

続けている内に、ふと私は気付いた。私は特定の一人じゃなくて、その一人を中心に友達全体の事を話してるなぁって。

それはちょっと、流れからは逸れちゃうのかもしれない。でもそれは仕方のない事。だって私には順位なんて付けられない位、付けたくないと思う位に、皆が大切な人だから。

 

「…私の思いは多分、二人の思いとは少し違うと思うし、恋バナとしては適切じゃないのかもしれないね。…だけど、気持ちは負けないよ。その人が大切だって、大好……あぅ…」

『……?』

「…こ、こほん。…大好きだって気持ちは絶対負けない。えー君やヤマト君もきっと魅力的な人だとは思うけど……私の大切な人だって、凄く魅力的なんだからね!」

 

大好き。その言葉を言おうとした瞬間物凄く恥ずかしくなっちゃって、やっぱりこの気持ちは茜やアイが(…っと、アイのは兄妹愛だったね兄妹愛)抱く気持ちと同じなのかなって思っちゃって、一度は言えなかったけど……ここで言えなかったら私の思いが二人の思いに負けてるような気がして、それは嫌だったから…はっきりと言い切った。この思いは、本当に誰にも負けたくないって思ったから。

これで私の恋バナもお終い。…と思ったけど、私は私の経験を話しただけで、その相手については殆ど言っていなかった。そしてそれは皆も気付いてた様子で、茜が質問を投げかけてくる。

 

「ふふっ、私だって負けてるとは思わないよ?…それで、その相手はどんな人なの?ぜーちゃんがそんなに言う位だし、やっぱりじょーねつ的なの?」

「情熱的…っていうか、思いを大切にしてくれる人かな。基本的にはぐーたら…っていうか良い点より悪い点の方が多く出てきそうな人なんだけど、自分の思いも皆の思いも大切にしてて、いつも気付けば心に触れて側にいてくれる…そんな人なの。自分を含めた誰もが笑顔でいられる道をいつも本気で追いかけてくれるのも私としては嬉しいし……その、普段は可愛いんだけど、偶に凄く格好良くもなるんだよね。特に最近、とある事情で男装をした時なんかは頭が真っ白になっちゃいそうなレベルで……」

「そんな相手がイリゼさんにはいたんですね……って、あれ…?」

 

最初の茜の様に、ちょっと浮ついた話し方になってしまう私。いつの間にやらディールちゃんが起きていて、文句を言おうかなと思ったけど今は温かい気持ちだからまぁいいやってなって、私は話をもう少し続ける。

と、そんな中で何かに気付いたようにして、ルナ以外の三人は顔を見合わせる。…なんだろ、何か私変な事でも言っちゃったかな──

 

『……男装…?』

「へっ?……あ、あぁ……ああああああっ!?」

 

その瞬間、私の頭と心に激震が走った。それはあまりにも初歩的なうっかりミス。誰かは分からない、けどかなり大きな事実を一つ露呈させてしまうという脇の甘さ。……一気に私は、顔が赤く熱くなる。

 

「あっ、違っ、違うよ!?…えっと、その…違うの!違うから!違うんだからっ!」

「お、落ち着くッスよイリゼ。別にウチ等はそこをどうこう言うつもりは……」

「ど、どうもこうもないよ!さっきのは間違……いじゃないけど、とにかく…とにかく違うのっ!」

「…えっと、違うって言うのは…違う人の話だったって事?」

「そ、そうでもなくて……そ、そう!そっちの人じゃない!そっちの趣味の人じゃ断じてないって事!私違うもーん!男の人にだって興味あるし、現にカイト君は爽やかで親しみ易い感じが良いなぁとか、ワイトさんは冷静で思慮深い感じが大人っぽくて素敵だなぁとか思ってるもーん!……って、何を言ってるのさ私はぁぁああああああああッ!」

 

あまりの恥ずかしさと混乱から、私はとんでもない事を口走ってしまう。訂正どころか一層の勘違いを誘発させるような事を言ってしまう。そんな失敗も恥ずかしくて、しかも私を見る三人が軽く苦笑いしてるのも恥ずかしくて、羞恥心から私は絶叫。うぅぅぅぅ、穴があったら入りたい…いや無いなら某アイドルばりに自分で掘って埋まりたいよ!布団なんかじゃ収まり切らないこの恥ずかしさ、最早天元突破級……

 

「──素敵ですっ!」

「……ふぇ…?」

 

がっ、と突如掴まれる私の両肩。それと同時に聞こえたのは……目をキラキラと輝かせた、ルナの声。

 

「自分でもよく分からないんですけど、イリゼさんの好きな方は、とっても素敵な人だって思うんです!だからその人の話、もう少し聞かせて下さい!」

「え、いや、あの…ルナ……?」

「……駄目、ですか…?」

「…だ、駄目じゃ…ないけど……」

 

あれ、ルナってこんな性格だっけ?…と思う程熱を持って、それこそ情熱的にルナは続きを求めてくる。当然急にそんな事を言われたら動揺しちゃう訳だけど……自分の大切な人を、素敵だって言ってもらえるのは素直に嬉しい。それに、考えてみればこれに乗れば話の流れを変えられる訳で、私にとっては渡りに船の申し出でもある。だから私は頷いて……その人の話を再開した。話をルナは嬉しそうに、胸を踊らせながら聞いてくれて、私も喋りに熱が入って、気付けば私達二人は懇々と話し込んでいた。

そうして茜が言い出したガールズトーク…というか恋バナは、色んな意味での盛り上がりを見せ、私達は長く話していた。結果から言うと恥ずかしい思いもしてるし、大切な人として挙げられた人は今頃くしゃみが止まらなくなってるのかもしれない。……でも、この恋バナによって私達はお互いを今までより一歩も二歩も多く知り…共に頑張る仲間として、一層仲良くなれたんじゃないかと、私は思う。

 

 

 

 

「なんか、ほっこりしたッスね。…ところでディールは話さないんッスか?」

「話さないというか……無理に話を捻り出すのが、恋バナってものですか?」

「それは確かにそうだね。無理に話す事はないと思うよ」

「ですよね。それに……」

『それに?』

「……かけがえのない家族と友達、それに家族同然の人達と笑顔でいられる…それだけで私は、十分幸せで嬉しいですから」

「……もー、やっぱりディールちゃんってば可愛いなぁ♪」

「これはウチも可愛いと感じざるを得ないッスね。ふっふっふ、撫でてあげるッスよ〜」

「わ、ちょっ……こ、こういう事になるって分かってたから、言いたくなかったんですよ…!うぅ……」




今回のパロディ解説

・「これが若さか…」
機動戦士Zガンダムの登場キャラの一人、クアトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)の名台詞の一つのパロディ。ワイトが言うと、何やら趣がありますねぇ。

・ギャートルズ
文字通り、ギャートルズの事。ガールズトーク→ギャールズトーク→ギャートルズという流れは、いつも浮かんでしまうんですよね、私。

・こころのめ、ぜったいれいど
どちらもポケモンシリーズにおける技の一つの事。それは如何なる氷でも消えない、愛の炎。…というと、ロマンチックですね。ぜったいれいどでは氷状態になりませんが。

・雲隠れの雷影
NARUTOシリーズに登場するキャラの一人、エーの事。…一応言っておきますが、えー君…というのは本名ではありませんからね?発音的には似たようなものですが。

・某アイドル
アイドルマスターシリーズの登場キャラの一人、萩原雪歩の事。穴を掘って埋まりますぅ〜、的な事を言い出してしまいそうな位、イリゼは恥ずかしがってた訳ですね。

天元突破
天元突破グレンラガンにおける、造語の一つの事。恥ずかしさが天元突破ってどういう事でしょうね。しかも天元なのに、向かう先は下(埋まる)という……元はドリルですが。


今回はかなり各キャラの思いを勝手に想像して書いてしまった面があります。ですので参加して下さった方皆様、それは違うという点があれば率直にお伝え下さい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。