光無き守護機竜   作:春宵

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第二話

しばらく移動して、学園に着いた。

警備兵に顔を見せ、人払いがしたい旨を言うと

「少しお待ち下さい。」

と言って、奥へ下がっていった。

 

 

「しばらく時間がかかりそうだ。

今の内に質問があるならするといい。」

と、声をかけると、

「なら・・・フィルフィさんは元気かな?

君なら今の状態を知ってるでしょ?」

と返ってきた。

 

少し思い返して、薄々気が付いていると考え、私は

「元気だが・・・やはり健康すぎる。」

と返した。

 

「きっと身体が強くなったんだよ。

・・・僕らがそう信じないでどうするのさ?」

そう言っている彼の表情は後悔に溢れていた。

 

彼は今でも、あの時の事へ囚われているのだろうか。

もっと早く気がつけば。

もっと早く助けられれば。

などとずっと考えていたのだろうか。

 

そのような事を考えていると、今のフィーちゃんに会わせたくなってきた。

 

私はあの子に伝えなかった。

あの子にあの時の事を聞かれたとしても。

 

しばらくして、そのことについて聞かれることは無くなった。

だが、あの子の顔を見た時に長い付き合いだからこそ分かってしまった。

あの子が何処かで事実を知ってしまった事に。

 

それでもあの子は変わらなかった。

変わらず前を向き続けた。

だから、お前も過去に囚われるな、などと言ってやりたくなった。

 

そのような事を考えすぎて思考の海に沈みかけた瞬間。

 

「応接室を使って下さい。」

という警備兵の声で引き戻された。

 

「あ、あぁ・・・了解した。」

一瞬、何のことだったか出てこなくなってしまったが、

すぐに人払いの件だと理解出来た。

 

「ルクス、出発するぞ。」

 

「・・・考え事は終わった?

言いたいことがあるなら言ってくれないと分かんないよ?

僕はあの子ほど君との付き合いは長くないから。」

 

「・・・今度あの子に会ってみるか?

無事に帰ってこられたらだが・・・。」

そうルクスと会話しながら移動を始めた。

 

 

「もしかして・・・今さっきの考え事って

僕があの子に何かすると思ったってことかな?」

 

「違う。あの子ならまだマシだ。

・・・立場上フォローが楽だからな。」

 

「それなら何考えてたのさ?」

 

「・・・どんな反応を示すのかを考えていただけだ。」

 

「・・・そういうことにしておいてあげる。」

そう返したのを最後に会話は途切れ、

目的地まで何も話は無かった。

 

 

「着いたぞ。応接室だ。」

 

「入って少し待っていろ。

・・・周囲を探ってくる。」

 

「了解したよ。」

そう会話を交わし、索敵を行うことにした。

 

本来なら罪人から目を離してはならない。

だが、今回の相手、ルクスはよく知った相手だ。

性格上逃げないと判断して周囲を探りに向かった。

 

 

周囲を探っていると、人の気配がした。

そろそろ生徒達が帰ってくる時間だが、

無警戒ではなく、何かを監視するかのように物陰に潜んでいる。

つまりは何者かに私の任務が既に漏れている可能性が高い。。

気づいていないふりをして角を曲がり、

後ろにまわる形で気配を消して潜んでいた存在を確認すると

一人の生徒を発見した。

 

「何をやっているのですか?

私なんてつけても何も有りませんよ?」

 

「貴方が心配で、つい・・・。」

 

「大丈夫ですよ。これが私の仕事ですから慣れています。

・・・取調べを行いますので、聞かないようにしてください。」

そう会話を交わしたものの、返事がないので少し脅しを入れることにした。

「さぁ、行ってください。・・・今なら目を瞑ります。

それとも人に見つかって後で説教される方がお好みですか?」

 

「ごっごめんなさい! すぐ行きますからやめて下さい!」

少し脅しを入れてみたところ、すぐに立ち去ってくれた。

 

「他には・・・居なそうかな?」

周囲を探っても他に潜んでいる気配はないので、応接室に戻ることにする。

 

 

応接室前に戻ってきたのでノックをして一言、

「ルクスー居るかー?」

と、部屋の中に言うと

「居るよー。」

と、返事が返ってきた。

「部屋に入っていいか?」

と、聞くと

「ご自由にどうぞ。」

と、返ってきた。

とりあえずルクスから許可は得たので部屋に入ることにする。

 

部屋に入って見ると、ルクスはソファに座ってこちらを見ていた

どうやら心の準備も言うことの準備も終わっているようだ。

これならすぐに本題に入って大丈夫だと判断して、私は口火を切った。

「それで・・・お前は何を見たんだ?」

 

「簡単に言うと旧帝国の奴隷の焼印だよ。」

 

「見間違え・・・という訳でもなさそうだな。」

 

「それに前の話から考えるにあの人はアティスマータ家でしょ?

元々貴族の血縁者だし今は皇女という立場、

奴隷に堕ちる事なんてそうそう無いはずだよね。」

 

「・・・普通は無いだろうな。」

(まず間違い無くあの空白の時間だろうな)

「・・・仕方がない、帝国時代の奴隷商を探ってみよう。」

 

「焼印はだいぶ時間の経ったものだったから後でもいいかもね。」

 

「時間がかかりそうだし、何があったか知ってる可能性があるからな。」

 

 

「それで対価は何か欲しいか?

・・・情報を一方的に聞くのも悪いから何か教えようと思うんだが

いい話が無いんだ。」

 

「別に見返りを求めてる訳じゃ無いから何も返さなくていいんだけど・・・。

君の性格上、貸し借りは作りたく無いんでしょ?」

「流石に知られてるか・・・まぁそれも有る。」

 

「それなら僕に対する話とかは無いの?」

 

「確かに有るが、知らなくとも問題はないと思うぞ。」

 

「それでもいいよ。 元々貸し借りを無くすのが目的だから。

君の事だから、それでも重要な事を話してくれそうだし。」

 

「・・・では一つ目、お前の妹であるアイリが学園に入学したぞ。」

 

「・・・無事で良かった。

・・・あれ? もしかしてこの騒ぎも知られてる?」

 

「知られている可能性はあるな。」

 

「・・・アイリから白い目を向けられそうだ。

関係修復・・・出来るかな?」

 

「それより先に今の事を考えろ。」

(関係修復など必要ないだろうがなぁ)

「そして二つ目だ。簡単に言うならお前を探している奴がいるぞ。

正しく言うなら黒の英雄を、だがな。」

 

「・・・ッ!」

私がその名を出した瞬間、ルクスは目を見開いた。

 

「聞かれた時は面倒事の予感と本人の許可が無いから知らないと言ったが、

素性は出自以外は判明しているし、お前を発見したと言っていいか?」

 

「それはやめてほしいな、騒ぎになるし。

というか、なんで知ってるのさ?」

 

「逆になんで知らないと思った?

アイングラム家はお前のやった事を知っているんだぞ。

それに黒い機竜を持つ人間は限られているだろうが。」

 

「・・・君らはもう一つの黒い機竜を知っているけど、

普通は知らないし、機竜を見られるとバレてしまうか・・・。

その上であの子や君のお父さん経由で確認をしたんだね。」

 

「まぁ・・・否定はしない。」

そう会話を交わしたのを最後にルクスは報告が終わったようなので、

取り調べに移ることにした。

「・・・そろそろ取り調べに移るが、

報告は他に何かあるか?」

と言いつつ、メモを取リ出した。

「取り調べって・・・あれは事故なんだけど。」

皇女相手の時点で単なる事故では済ませられない事を、

ルクスには察して欲しい。

「・・・何故天井裏にいたんだ?」

 

「何故って、人のバッグを取った猫を追いかけてだけど?」

・・・予想が当たってしまった。

「何故、女性用下着を持って居たんだ?」

 

「バッグの中身が下着だったからだけど・・・。」

それを聞いた瞬間、彼に哀れみの目を向けてしまった。

「そんな目で見ないでよ・・・。」

咄嗟にそう返してきたルクスとため息をつきあった。

「気を取り直して・・。・何故警備に申告しなかったんだ?」

 

「・・・君が居たのなら話は通したと思うけど・・・。

見ず知らずの誰かに迷惑をかけたくないという独りよがりだよ。」

・・・お願いだから一声かけて欲しかった。

なんでも一人でやりたがる所は変わっていないようだ。

「了解。嘘はついていないだろうから真偽は聞かないでおく。

次はお前を呼んでいる人が居るから連れて行く。」

 

「まさか・・・黒の英雄を探していた人の所へ?」

 

「お前が望むなら後で連れて行くが・・・どうする?」

 

「つまり違うのか・・・。

というかすぐには牢に入れられないと言ってるように聞こえるけど?」

 

「・・・呼んだのがレリィお嬢様だからな・・・。」

 

「それなら・・・沙汰は追って下りそうだね。」

 

「まぁ現場検証の結果にもよるがな。」

 

「・・・こちらは聞くことはもう無いが、そちらはどうだ?」

 

「こっちも無いよ。」

 

「それでは移動開始するぞ。

・・・ちゃんと付いて来いよ?」

 

「言われなくとも。」

 

 

学園内の人気が無い場所を選んで進むこと十分程度。

やっと学園長室に着いた。

 

ノックをしようと部屋に近づくと、部屋の中から

「ど・・行っ・・・・か。」

という怒りのこもった声が聞こえてきた。

2メートル程扉から離れていたから余り聞こえなかったが、

この声は・・・リーシャ様の声だろうか?

ラボ関係のトラブルかと思い出直そうとした時、

リーシャ様が怒る可能性がある事がもう一つある事に気付いた。

(もしかして隠していたもの関係か?

そうだとすればルクスが見てしまったし、

口止めの為に探しているといったところか。)

などと考えつつ

「フューゼ、只今戻りました。

・・・しばらくしてからまた来ましょうか?」

と、扉越しに言うと

「ちょ「入ってこないでくれ!」入っていいわよ」

という声が帰ってきた。

レリィお嬢様の声色は変わっていないが、

リーシャ様の声色には明らかに焦りがあった。

「本当に入ってよろしいので?

そしてリーシャ様・・・防音壁では無いので大声を出すと、

他の人の迷惑になりますよ。」

私がそう反応すると部屋の中から

「そうね。・・・落ち着いて深呼吸なさい。

ほら、ヒッヒッフー、ヒッヒッフーっと。」

・・・レリィお嬢様、それはお産時の呼吸法です。

この場には似つかわしくありません。

貴方含めて既婚者はこの場には居ないのですから。

などと考ながら部屋を離れてルクスを連れてくると、部屋の中から

「ヒッヒッフー ・・・ヒッヒッフー。ってこれはラマーズ法だ!

落ち着く為の呼吸法では無ーい!」

というリーシャ様のツッコミが聞こえてきた。

ここに在籍して一年以上経つが、未だに

この漫才に対する対応の仕方が定まらない。

とりあえず、取り調べの結果を簡単にまとめておくことにする。

これを提出すれば、報告は必要なくなるだろう。

 

メモを書き終わり、部屋の中に

「落ち着きましたか?

落ち着いたら言ってください。」

と言うと

「・・・フューゼ・レヴェオン。 こちらもOKだ。」

と、リーシャ様らしき人の声が返ってきた。

「それでは改めて・・・フューゼ、只今戻りました。

例の人間も連れてきています。」

 

「連れてきなさい。」

 

「それでは失礼します。・・・ほら、ついて来い。」

 

 

私が学園長室に入って中を見渡すと、

ほぼいつもと変わらない様子の二人がいた。

そして、二人の視線が私から後ろのルクスの方を向いた。

来賓用のソファに座っていたリーシャ様がルクスを見た瞬間、

頰がリンゴのように赤く染まった。

予想はついていたが、ルクスは顔を覚えられていたようだ。

そのまま私がルクスを机の前まで連れて行くと、

リーシャ様が徐に口を開き、自己紹介を始めた。

「知っているかもしれないが、一応名乗っておく。

 私の名はリーズンシャルテ・アティスマータだ。」

 

「これでも新王国第一皇女をやっている。

 まぁ・・・陰で不相応と言うものもいるがな。」

 

「よろしくな、王子様。」

と、リーシャ様が名乗り、ルクスは困惑しながら、

「えーっと・・・よろしくお願いします。お姫さま。」

と、返した。

見た限りだと反応の仕方が見つからなかったように感じた。

そのような、困惑混じりの会話を終えたところで、

「自己紹介も終わったところで本題に移りましょう。

どうして浴場に忍び込んだの?

裏を取るからフューゼは調べに行って頂戴。

 そうね・・・騒ぎを起こさないのなら機竜を使って構わないわよ。 

 ただ,話が終わる頃には帰って来てもらうわ。」

 という学園長からの指令が入った。

長く見積もって一時間、その間に現場検証と移動を済ます必要が有る。

「j'ai compris.」

私はそれだけ言って、学園長室を飛び出した。

 

 

機竜を展開して高空を飛行すること約三分、浴場付近に着いた。

高空から浴場を見ると確かに屋根に穴が開いている。

ルクスの証言を信じて飛行しながら調べてみることにする。

 

「これは・・・梁の一部が腐食しているのか。」

 近づいてみてすぐに分かった事だが、梁の一部が腐食していた。

確かに耐久性が落ちているようだ。

詳しい腐食具合は落ちた部分を見てみなければ分からないが、

このまま放置していれば,突如として天井が落ちてくるという事態が起こった可能性があったことは理解出来た。

原因は予想出来たので裏付けの為次は内部から見てみることにする。

懐からナイフを取り出して一応浴場の扉をノックして無人なことを確認した後内部に入ることにした。

浴場内部に入り、落ちた部分を確認すると芯まで腐っていた。

この時点でこれは人が乗っても大丈夫なように作られた屋根が弱っていた事による事故な事が分かった。

・・・ここは崩れた部分をそのまま塞いで大丈夫なのだろうか?

再度機竜を展開して崩れた部分と離れた梁をナイフの背でつつくいてみるとポロリと表面が剥げた。

この様子だと作業しようと数人が屋根に乗った時点で崩れてしまいそうだ。

これは報告が必要な事なのでまとめて、剥げた部分は崩れた部分と一緒にサンプルとして持ち帰る事にした。

今の浴場の状態では屋根の貼り直しが必要になってしまうだろう。

その上工事の間は浴場の使用が禁じられるか、時間が短くなることも予想出来る。

この事を生徒にも知らせなければならないが、知れ渡るのには時間が必要だ。

その時間を出来るだけ確保する為に十全に調べ尽くしたとは言い難いが戻る事にした。

ルクスのヒロインは誰が良いですか?

  • リーズシャルテ・アティスマータ
  • フィルフィ・アイングラム
  • クルルシファー・エインフォルク
  • セリスティア・ラルグリス
  • 切姫 夜架

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