リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第六話

 

 

 

 フィーがアースラにやって来てから、早十日が過ぎた。

 

 食堂のテーブル席。目の前で湯気を上げるラーメンをすすりながらすっかり見慣れた栗色のツインテールが視界の端で揺れるを認める。

 

「フェイトちゃん、出てきてくれないね……」

 

 オレンジジュースが注がれた紙コップを両手で包み、なのはが俯く。

 

 フェイトと対話するために協力を申し出たと言っても過言ではない少女にとって、あまり良い状況ではないだろう。そしてそれは、自分にも言えた。

 

 ……フェイトが出て来ないと、話が進まないんだけど

 

 ジュエルシードは着実に集まってきている。この十日間で自分たちが集めたものとフェイトたちのものを全て合わせれば、未発見はおそらくあと六個だけだ。

 

 ずずーっと三人の他に誰も居ない食堂に麺をすする音が響く。

 

「こっちとは別にジュエルシードを集めてるみたいだけど……」

 

 ユーノの言葉。

 

 金髪の少女は活動を止めた訳ではない。残り少ないジュエルシードを巡って、今後は激しい戦いになるのではないか、とフィーたちは考えている。

 

「まあ、焦らなくても大丈夫だよ。お互いにジュエルシードを集めてるんだから、最後は取り合いになる。気長に待とうよ」

 

「……そう、だよね。うん!」

 

 少年のそんな励ましに、なのはは何度も頷いた。

 

 その言葉が不測の事態を考慮しない、希望的観測だとフィーにはわかっていたし、ユーノも理解しているだろう。だが、悲しい眼をしていたフェイトを放っておけない、なんて言う優しいなのはにこれ以上気落ちして欲しくなかった。

 

「あ、みんなご飯かな?」

 

 ふいに背後から陽気な声が掛けられた。

 

 振り向くと、片手を上げて歩み寄ってくるエイミィの姿。

 

「エイミィさんもお昼ですか?」

 

 なんてユーノの言葉にエイミィが頷く。

 

「うん。一人で食べるのも寂しいし、ご一緒させてもらっていいかな?」

 

 サンドイッチの詰まった容器を片手に首を傾げるエイミィ。そんな彼女にユーノとなのはが席をすすめる。四人掛けのテーブル席の、なのはの隣にエイミィが腰を下ろす。そんな間にも、フィーは二杯目のラーメンに手をつける。今度は味噌味だ。

 

 口の中に広がる濃厚な味噌の香り。前々から思っていたが、ここの料理長はなかなか出来る。毎度の如く舌を楽しませる食堂のおばちゃんの技量に感動していると、そんなフィーを楽し気に見つめてエイミィが口を開く。

 

「……それにしても、フィーちゃんって何時もジャージなんだね」

 

「うぅむん?」

 

 ちゅるん、と麺をすすり、首を傾げる。

 

「いやね? この前、本局で小耳にはさんだんだけど、『ジャージの小悪魔』って犯罪者がどうこうって噂があったんだ~」

 

「ぶふっ!?」

 

「にゃっ!?」

 

「ちょっ、フィー、汚いよ!!」

 

 思いも寄らぬ不意の一撃に、フィーは盛大にむせることとなった。

 

「だ、大丈夫っ!? フィーちゃん!?」

 

 なんて咄嗟に仰け反りフィーの味噌スープブレスを回避したなのはの言葉に、目じりに涙を浮かべながら首肯。

 

「あっちゃ~、驚かせちゃった? 大丈夫、フィーちゃん?」

 

「けほっ、げほっ、ご、ごめん。大丈夫です……と、ところでエイミィさん。その、『ジャージの小悪魔』って?」

 

 なのはがジュースしか飲んでいなかったのは不幸中の幸いか。危うく彼女のご飯を味噌味にするところだった。謝罪もそこそこ、布巾でテーブルの上を拭きながら尋ねる。

 

「あれ、知らない? ……そっか~、管理局の中じゃ結構有名だったんだけど、一般人の耳にはあんまり入らないよね」

 

 サンドイッチをかじり、続ける。

 

「半年以上前なんだけどね。地上……ミッドチルダって言う管理局の地上本部がある次元世界で、ゼスト・グランガイツって人と戦って、逃げ切った犯人の通り名だよ。そのゼストって人の魔導師ランクがなんとSオーバー。英雄、なんて呼ばれてる人でね。そんな人が取り逃がしたって話があったから、どんな人間だーって凄い噂になったんだ。しかも、その犯人の姿が噂によって違ってね? ジャージ姿って言うのは同じなんだけど、筋骨隆々の女性だったとか、はたまた年端も行かない女の子だったとか……一説によると、地上本部が事態を隠蔽しようとして、根も葉もない噂を流したんだ~、とかね。名前は確か~」

 

 次元世界に詳しくないなのはのために懇切丁寧に説明してくれたエイミィは、顎に手を添え考え込む。

 

 冷や汗が額に滲むのをフィーは感じた。

 

 十中八九、その『ジャージの小悪魔』とやらは自分のことだろう。

 

「なんだっけ? 忘れちゃったよ。なんか珍しい戦い方をするんだってさ~」

 

「へー、そんな人が居るんですかー」

 

 なんてとてもいい笑顔で相づちを打つユーノ。しかし、その瞳は笑ってなどおらず、フィーへと向けられている。

 

 どうやら付き合いの長いユーノには、少女の不審な挙動を見破られてしまったらしい。

 

 ……話を。誰か話を変えて~

 

 ユーノにバレたかも、と内心の絶叫を必死に堪えていると、そんなフィーに救いの女神が舞い降りた。

 

「ところでエイミィさん。その、『まどうしらんく』って言うのは何なんですか?」

 

「魔導師ランク? そうだね~、簡単に言っちゃうと、その魔導師がどれだけ強いかって指針になるものかな?」

 

 一息にサンドイッチを口へと詰め込み、何処からともなく緑茶が注がれた紙コップを取り出して、飲み込む。

 

「ぅむ、ング、うにゅ、んんっ、例えばあの金髪の子……フェイトちゃんだっけ? あの子は空戦でAAAランクは行くかな。なのはちゃんも魔力量ならAAAクラス以上の資質があるよ。まあ、純粋に魔力量だけで測られるわけじゃなくて、その運用効率とか、術式の選択とか、判断材料は多岐にわたるよ。うちのクロノ君とか、なのはちゃんより魔力は低くてもAAA+ランクの魔導師だしね~……ま、急に言われても理解できないよね」

 

「……にゃはははは」

 

 おそらく良くわかってないだろうなのはが、苦笑する。

 

 にゃのは、とからかいたいのも山々だったが、ユーノの無言の圧力がフィーを押し潰すような気がしてそれどころではなかった。

 

「……」

 

「……」

 

「な、なーんだユーノさん、なのはにそんなことも教えてなかったんですかですわ~」

 

 訳。お願いだから深く突っ込んでこないで。

 

「……はははっ、ごめんごめん。なのはには自分の魔力が並の魔導師よりも相対的に遥かに高レベルなものだと教えて慢心するよりも、もっと実践的な魔法を教え込んだ方が為になると思ったのさ。いやー、ははっ、ごめんごめん、完全に失念していたよ~」

 

 訳。しょうがないな。後で必ず教えてよね……なんて、念話を用いらないアイコンタクトで会話し、その場は何事もなく切り抜けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 警報が鳴り響く艦内。

 

 危険を示す文字が、アースラの艦橋に据え付けられた巨大モニターを埋め尽くす。

 

 稲妻を纏った幾つもの竜巻が海上を荒らす映像が、サーチャーからライブ映像として映し出されている。

 

「なんて無茶を……!」

 

 艦長であるリンディ・ハラオウンは、常軌を逸した無謀に挑む金髪の少女と、その使い魔を食い入るように見つめていた。

 

 白い手袋に包まれた手の平に、嫌な汗を感じた。

 

「あれは明らかに個人が出せる魔力の限界を超えています……!」

 

 息子、クロノの声。

 

 冷静になろうと感情を殺しているのが、親であるリンディには手に取るようにわかった。

 

 危険な事態だ。放置すればあの少女たちは勿論のこと、次元断層すら発生しかねない程。だが、アースラ艦長、提督としての責任が、部下を今あの場へ送り込むことを戒めている。放っておけば自滅する犯罪者を、リスクを犯してまで助けるわけには行かないのだ。

 

 ……少女たちが自滅してからでも、封印までの時間的余裕は十分にある

 

 蓄積された今までの発現例から、冷徹な思考が少女たちの命を天秤に掛ける。

 

 助けには行かない。そんな答えを頭が弾き出そうとした矢先、軽い駆動音を立てて、扉が開いた。

 

「フェイトちゃん!? あの……わたし、急いで現場に!!」

 

 息を荒げて入ってきたのは現地協力者の高町なのはだった。モニターを目にした瞬間、そう言った少女にクロノが努めて冷静を装う。

 

「その必要はないよ。……放っておけばあの子達は自滅する」

 

 自分たちは正義の味方ではなく、法の守護者なのだ。目につくもの全てを救う救世主ではない。

 

「私たちは常に最善の選択をしなければならないわ。残酷に見えるかも知れないけど、これが現実」

 

 こんな幼い子供たちに、こんなことしか言えない自分が、リンディは口惜しかった。

 

 モニターの向こうで、金髪の少女が竜巻に弾かれて苦悶の表情を浮かべる。

 

「っつ!? 君たちは!!」

 

 クロノの上げた声で、リンディはなのはが転移ゲートの中に立っていることに気が付いた。そして、立ち塞がるユーノ・スクライア。

 

「……っ」

 

「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動を取ります!!」

 

 ……しょうがないわね

 

 すとん、と心に落ちたそんな言葉。

 

 自分たちのしがらみをあの子達に押し付けるのは、あまりにも酷なことだ。転移の強制停止は可能だった筈なのに、リンディは指示を出せない……いや、出さなかった。

 

「結界内へ、転移!」

 

 ユーノが魔法を制御して、なのはを現場へと転移させる。

 

 ……後でしっかり怒らなくちゃいけないわね

 

 流石に命令違反をしてお咎めなしでは不味い。けれど、

 

「……行くならしっかりね、なのはさん」

 

 そう小声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

「おー、すっごいことになってるね~」

 

 巨大モニターに映るジュエルシード六つVS魔法少女二人の怪獣大決戦を眺め、フィーは間の抜けた声を上げた。そんな少女に、クロノが意外そうな表情を向ける。

 

「君は行かなかったのか?」

 

「冗談もほどほどにしてよ、クロのん。AAAが二人も居れば十分でしょ? それにわたし、足場を蹴って空戦出来るけど、飛行できるってわけじゃないんだから」

 

 本当は今後のために色々と細工に時間が掛かったために出遅れたのだが、そんなことはおくびにも出さない。

 

 モニターの向こうでは桃色のなのはの魔力光と、鮮やかな金色をしたフェイトの魔力光が混じり合い、画面が漂白されて凄まじいことになっている。或いは二人の大出力な魔法によって、散布しているサーチャーに異常が発生したのでは、と思わせるほどの莫大な魔力の猛り。

 

「……艦長、僕もそろそろ」

 

 なんてクロノの言葉に首を傾げる。

 

「? どうかしたの?」

 

「封印を終えたあと、またそれの奪い合いになるだろ。今のうちに準備しておくのさ」

 

「天下の執務官様も、二人の邪魔はしたくないって感じ?」

 

「……ふん」

 

 少女の言葉に照れているのか少し頬を赤く染め、クロノはモニターに向き直った。

 

 にしし、と笑みを浮かべて観戦にもどる。

 

 なのはの放つディバインバスターの余波が大気を揺るがし、フェイトのサンダーレイジが天に轟く。

 

「ジュエルシード、六個全ての封印を確認しました」

 

「なんて出鱈目な魔力……」

 

「でも凄いわ」

 

 艦橋のアースラスタッフ一同から驚きの声が上がる。

 

 封印されたジュエルシードを挟み、なのはがフェイトに何かを告げている。

 

 ……友達になりたい、かな?

 

 読唇術モドキで唇を読み、フィーは微笑む。

 

 瞬間、

 

「     」

 

 肌が粟立った。

 

『フィー、何か来る!!!』

 

 相棒の鋭い警告。六個のジュエルシードの発動に倍する、これ以上ない危機を示す特別警戒態勢の警報が鳴り響く。

 

「ッ!? 本艦及び戦闘区域に次元干渉!? あと六秒、魔力攻撃、来ます!!!」

 

 普段の陽気な言葉遣いとは違った、悲鳴のようなエイミィの言葉。

 

「なっ……!?」

 

「……っ」

 

 轟く雷鳴。

 

 超高難度。大魔導の名を冠する者にしか手の届かないだろう次元跳躍魔法。

 

 アースラに、紫電が直撃した。

 

 ……お母さん!?

 

 鳴動する艦船。アースラを護るシールドすら突破した轟雷に、フィーは母の、プレシアの面影を幻視した。

 

 

 

 

 

 

 サーチャーを通して映し出されるモニターで管理局の次元航行艦、そしてフェイトとアルフに雷が落ちたのを確認した。

 

 ズキリ、と心の奥底が痛んだ。

 

 ……私はまだ、人間ね

 

 痛む心があったことに少なからず驚きながらも、プレシア・テスタロッサは自身の脇に佇む白髪の少女に呟いた。

 

「…………頼むわ」

 

「……もう、後戻りは出来ない。本当にいいんだね?」

 

 見つめ返してくる、灰燼色の瞳。

 

 その相貌は娘のそれに酷似している筈なのに、身に纏う鋭い空気がアリシアやフェイトと比較することを躊躇わせる……天文学的確率によって偶然生まれた、異常個体。

 

 ……いえ

 

 違う。偶然とは、必然の別名。この世の万象は起きるべくして起こる。『この領域』に至ったプレシアには、何となく理解できた。きっとこの少女にも、何か因果が働いているのだろう。

 

 記憶を失い、それでも確固とした己を保つ彼女は、自分を心配してくれているのだろうか。

 

 そのことを嬉しく思いながらも、首を縦に振る。

 

「ええ。私は、もう立ち止まれないのよ」

 

「……そうか」

 

 そう言って、サーティは広間から消えた。代わりに残ったのは小さな水溜まり。

 

 ……見事なものね

 

 大魔導師と呼ばれた自分ですら感心する程の術式精度、展開速度だった。

 

「…………」

 

 目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。胸の奥から心音は聞こえない。呼吸、という行為そのものが生身の名残だ。それでもプレシアは長く息を吐き出しながら、心を落ち着けた。

 

 ……さあ

 

 内心で己へ言い聞かせるように呟き、彼女は腰掛けていた華奢な椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 途切れていた意識が、何かの拍子に一気に覚醒する。脳裏を走るのは意識を失う一瞬前のこと。白い魔導師と協力して六つのジュエルシードを封印し、そして、身体を貫いた紫の稲妻。

 

 ……母さん

 

 自分は見捨てられたのだろうか。横にはアルフの姿もある。まだ意識を失っているようだ。

 

「あ、目が覚めた?」

 

「っ!?」

 

 急に声を掛けられ、フェイトは弾かれるように顔を上げた。目の前には自分……によく似た、でも違う顔。

 

 カチ、と手元から鳴った硬質な音で、両手首に枷がはめられていることに気がついた。そんなことにも気付かなかったほど自分は動転しているらしい、と何処か冷静な頭の奥でぼんやりとそう考える。

 

 ……わたし、捕まったんだ

 

 よく見れば、自分の周りには黒い執務官や、協力してくれた白い魔導師の女の子も居る。

 

「……っ」

 

「しばらく動かない方がいい。非殺傷とは言え、君はオーバーSクラスの雷撃を受けたんだ」

 

 そう無愛想な口調で、でも何処か心配そうに声を掛けてきたのは、執務官の少年だ。

 

 重い身体を引きずるように、ゆっくりと立ち上がる。すると年の頃は二十半ば程だろうか、一人の女性が歩み寄ってきた。

 

「あなたがフェイトさんね。はじめまして。私はリンディ・ハラオウン。この船の艦長です」

 

「……」

 

「お話は傷を癒してからにしましょう。……クロノ、医務室に案内してあげて」

 

 自分はどうなるのだろう。母親の笑顔を取り戻すことは出来ない。もう自分には出来ることは何もない。

 

 黒い少年に連れられて歩き出そうとした途端、

 

『ぶ、武装局員待機室に侵入者!! 現在応戦するも……ぐあぁっ!?』

 

 甲高い警報と共に、天井のスピーカーから絶叫が走った。

 

「ぁ……」

 

 巨大なモニターに、母さんの姿が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 背筋を走る、怖気。

 

 ……この感覚は

 

 命を刈り取る鎌が首の皮一枚先を通り抜けていくような、そんな死の気配。こんな管理局の艦船内に似つかわしくない、ネギが渡り歩いた戦場の匂いがほんの一瞬、香った気がした。

 

 思考とほぼ同時にネギは声を上げる。

 

「フィー、代わって!!」

 

『えっ、あ、うんっ!!』

 

 気付いてはいないだろうが、声に宿る危機の響きに、フィーはほとんど抵抗することなくネギへと身体の主導権を引き渡した。

 

 表に出たと同時、ネギは飛び退く。

 

 刹那、閃光が走った。

 

 一瞬前まで佇んでいた場所が、光線に照らされ石と化す。

 

『なになに!? 一体何なのっ!?』

 

『襲撃だ。あれはまさか……石化の邪眼《カコン・オンマ・ペトローセオース》!?』

 

「一体何が……」

 

 クロノの呟き。リンディがオペレーターたちへ持ち場を離れないよう声を張り上げる。

 

 コツコツ、と背後から何者かが歩み寄る足音がした。

 

「僕の存在に気付くとは……君、一体何者だい?」

 

 見覚えのありすぎる制服姿に、白髪。しかし、ネギは胸の内で頭を振るった。

 

 ……ありえない。アイツは確かにあの時

 

 外見は多少異なるが、自分の感覚が歩み寄ってくる存在が、あの時消滅した『彼』だと告げている。

 

「そんな……アースラには結界がある筈なのに……まさか、さっきの雷撃で……っ」

 

 呆然とした様子で呟かれたエイミィの言葉が、警報に掻き消される。

 

 なのはやクロノは杖を構え、ユーノやリンディも臨戦態勢を取っている。

 

 ネギも一挙手一投足を見落とさぬよう、眼前の少女を睨みつけるが、

 

「僕と戦うのかい? 止めはしないけど……」

 

 それでも他人を庇う余裕はなかった。

 

「っ!?」

 

 クロノの声にならない苦悶の声。

 

 刹那、白髪の少女の拳が黒衣の鳩尾に埋まっていた。その場に崩れ落ちる少年。

 

 ブリッジにいる誰もが、白髪の少女の動きを追えていなかった。

 

「クロノッ」

 

「クロノ君!?」

 

 リンディとエイミィの叫びが艦橋に響くが、ネギも、それになのはやユーノも微動だに出来ない。

 

 以前の肉体ならばまだしも、術式兵装すら纏っていないフィーの身体では勝負にならない。

 

 このまま正面から戦闘行動に移行したならば、一分以上持ちこたえられる確率は五パーセント未満……そう、冷徹な頭脳が告げていた。

 

 白髪の少女の周囲を漂う、六つのジュエルシード。先程の海上での戦いで封印した物だ。クロノのデバイスに収容されていた物が、どうやらかすめ取られたようだ。

 

 ……これが、狙い!?

 

 見覚えある姿に騙されていたが、その容姿はフェイトやフィーに類似している。つまり、アリシアクローン。

 

 ……落ち着け

 

 ネギは自身に言い聞かせる。

 

 感覚が正しければ、ここで石化して全滅もあり得る。より一層、気を引き締めたネギの目に飛び込んできたのは、大型モニターに映し出された女性、

 

『……お母、さん?』

 

 プレシア・テスタロッサの姿だった。

 

 

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