リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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 本日より更新再開。

 少しでも楽しんで頂けたら幸いです( ̄▽ ̄)


EpisodeⅣ 意馬心猿
プロローグ


 

 

 

 夜の闇を引き裂き、霞む速度で肉薄する幼い少女。三つ編みにされた赤毛がはためき、冷徹な光を宿す青の眼光が空間へ軌跡を残す。

 

「ぉらぁあああああッ!!」

 

 烈帛の気合いと共に振るわれるのは、魔鎚の重撃。十に満たない外見からは想像もできぬ莫大な打撃力。幾度も強敵の害意を阻んできた桜色の障壁が軋みをあげる様に、なのはは目を見開くことしか出来なかった。

 

「くぅっ!?」

 

 無意識のうちに吐き出される吐息。

 

 衝撃に逆らわず背後へ吹き飛び、何度も視界の上下を入れかえながら、ようやく飛行魔法の制御を取り戻す。

 

「……やるな、高町なんとか」

 

 相対距離にして三十メートル。結界によって封鎖された海鳴市の上空に、少女の声音が響く。

 

 鎚型のデバイスから蒸気が排出され、赤い三角形の魔法陣が虚空に描かれる。

 

「どうして、こんなことを」

 

 突然だった。一日を終え、ベッドで寝ようと寛いでいたなのはに、目前の少女は唐突に襲い掛かってきたのだ。

 

「言ってんだろ。てめぇの魔力を貰いに来たって、よッ!」

 

 言い終わると共に振るわれる鎚。

 

 虚空に出現した十の鉄球。拳ほどのそれらが、その一振りで魔弾と化す。

 

「っ!!」

 

 音に迫る速度。だが、魔力に強化されたなのはの知覚はそれらを確実に捕捉する。瞬時に生成した三発の誘導魔力弾を高速で飛翔させて、飛来する鉄球を迎撃。少女たちの間に赤と桜の炸裂が瞬き、

 

「あめぇよ」

 

 その時には既に、赤い影が懐に飛び込んでいた。

 

「ぁぐっ!?」

 

 鮮血混じりの空気が肺から強制的に絞り出される。

 

 咄嗟の障壁など紙のように貫かれ、鳩尾に魔鎚が直撃。内臓が口から飛び出してもかおかしくない衝撃が全身を軋ませ、地上目掛けて弾き飛ばされる。

 

 衝撃。

 

 激震。

 

 二度の激痛を背中に感じて、なのはの肉体は何処かの大通りの中心に巨大なクレーターを形成した。ちかちかと明滅を繰り返す歪んだ視界で、大穴の空いた高層ビルを眺める。それでようやく、自分がビルを貫通して地面に叩き付けられたのだと実感した。

 

「ぁ……ぐ……くっ」

 

 衝撃に痺れる全身に活を入れなんとか立ち上がるものの、なのはには襲撃者に打ち勝つビジョンがまったくと言っていいほど思い描けなかった。

 

 バインドは見切られ拘束できない。誘導弾はあっさり躱され、砲撃魔法は射線を読まれて逆に手痛い反撃を受けた。

 

 圧倒的な魔力量の差、などではない。寧ろ魔力だけならこちらの方が上回っているにも関わらず、繰り広げられたのはあまりにも一方的な展開だった。

 

 武装の差、それもあるだろう。瞬間的に魔力を跳ね上げる弾丸のような装備によって、戦闘を有利に運ばれてしまったことは確かだ。しかしそれ以上に、戦闘者としての力量差が如実に出てしまった結果が、今のこの苦戦であるようになのはには感じられた。

 

 襲撃者の少女は、外見からは信じがたいほどに戦い慣れているのだ。ライバルであるフェイトよりも、もしかすると執務官であるクロノよりも。

 

 思考を空回りさせているうちに、赤毛の少女が頭上から降りてくる。なのはの目にはその姿が死神の如く映った。

 

 ……嫌だ

 

 痛いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。何でこんな酷いことをされなければならない。

 

 ぐちゃぐちゃの思考。目頭に涙を溜めながらも、それでも、抵抗するためにレイジングハートだけは強く握りしめる。

 

 そんななのはを見下ろし、赤毛の少女は言う。

 

「こんだけ痛め付けても立ち上がってくる根性は認めてやるよ。ニアSクラスの魔力、正確な魔力操作に、精密な誘導弾制御……その歳にしちゃあ見事なもんだ。誇っていいと思うぜ。けど……」

 

 可憐な少女の姿をした死神は、外見に似合わぬ老獪な笑みを浮かべて嘯く。

 

「それだけだ。砲撃魔導師として高いレベルで纏まっちゃあいるが、あたしらベルカの騎士を相手にするにゃあ、ちっとばかし早すぎた。……ま、こっちから襲っといて言うのもなんだけどな。死にはしねぇよ。運が悪かったと思って諦めてくれ」

 

 振りかぶられる鉄鎚。

 

 立っているのがやっとの状態で、その一撃を回避することは不可能。

 

 死の恐怖が思考を真っ白に焼き尽くし、呆然と見つめることしか出来ない。嫌だ嫌だ、と目前の現実を否定しようにも、頭の冷静な部分が現実逃避を許してくれない。

 

 もうだめだ。そう、なのはが諦めかけた次の瞬間、

 

「ちっ」

 

 赤毛の少女がその場から飛び退いた。一瞬遅れて虚空を縛る黄金色の鎖。バインドの拘束から少女が逃れたのだ、と理解すると同時、空から見知った金髪の少女が舞い降りる。

 

 フェイト・テスタロッサ。とある事件で知り合い、戦いを通して友達になった少女。

 

 そして、

 

「大丈夫、なのは?」

 

 肩に手を置かれ、ようやくなのはは友人であり自分の魔法の師でもあるユーノ・スクライアが背後に立っていることに気が付いた。

 

「ユーノ、くん? フェイトちゃ、ん?」

 

 助けが来てくれたのだ。

 

「増援か。二人、いや三人か……」

 

 本当に久しぶりに会った友人達。頼もしい彼らとの再会に、しかし、なのはの心は嫌な予感にざわついたまま。

 

 こちらに背を向けたまま、フェイトは赤毛の少女へ教わったのだろう口上を述べていた。が、

 

「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。同意するなら、武装を解除し……、っ」

 

「……てめぇ」

 

 そんな、怒気を含んだ呟き。

 

 襲撃者はフェイトと対峙したまま、その眼光を一層鋭く光らせた。

 

 空気が、変わる。

 

 打倒しようと言う戦意に満ちた闘争の気配から、敵を排除しようとする殺意に満ちた鋭利なそれへ。

 

 フェイトの口上を聞いたから、ではない。フェイトの姿を注視していた赤毛の少女の瞳孔が、何かに気付いたように細く引き絞られたのだ。まるで親の仇を目の前にしたかの如く、怒気にざらつく魔力圧がなのはの肌へ突き刺さる。

 

 冷や汗がポタリと一滴、ひび割れた路上に垂れ落ちる。

 

「……やれやれ、なの」

 

 口元を引き攣らせながら、思わず零れた嘆息。

 

 ふと脳裏を過ぎったのは、何時だか父が口にしていた言葉。

 

 強大な力はさらなる力を引き寄せる。あの時の父は、だからこそ力を制御しなければならない、なんて続けていたか。

 

 どうやら自分が手にした魔法という力は、非常に厄介な運命をこの身に呼び込んでいるらしい。

 

 全身を苛む痛みに、なのはは嫌が応にもそのことを悟らざるを得なかった。

 

 

 

 




 忘れたころにやって来る……どうもこんにちは、藍上尾です。

 ブログやYouTubeやらに挑戦しているうちに随分と間隔が開いてしまいましたが、本日からEpisodeⅣの更新を進めていきます!

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