「これは……」
リンディ提督の指示で、渡航申請も何もかもを省略して転移中継ポートを使用したクロノ。海鳴市上空へと急行し、展開されている正体不明の封鎖結界内へ侵入した彼の目に飛び込んできたものは、中央に大穴が穿たれた倒壊寸前の高層ビルだった。
立ち上る砂煙に、形成されたクレーター。路上のアスファルトが一部生々しい破壊痕を晒している。
そして、
「……っ!!」
力なく路上に身を横たえる二人の少女を目にした瞬間、クロノは反射的に杖型デバイス『S2U』を構えた。
瞬時に形成される魔力弾。高速誘導弾『スティンガースナイプ』を三つ同時に制御。なのはとフェイト、倒れる二人の付近にて、ロストロギアと思わしき書物を閉じようとしている赤いバリアジャケットの少女目掛けて射出する。
霞む速度で大気を穿つ三条の流星。
不意打った筈の攻撃に、赤毛の少女は即座に対応した。前後左右上下、緩急をつけ縦横無尽に複雑な軌道を描く流星を、手に持つ鎚型のデバイスの一振りであっさりと掻き消したのだ。
飛行魔法で宙を駆け、虚空に佇んで冷静にこちらを窺ってくる少女。探ろうと投げ掛けられる冷徹な眼光に、クロノは背筋に悪寒を感じざるを得なかった。
熟練した腕前、なんて言葉では足らない技の冴えだ。明らかに尋常ではない数の戦闘経験を持つだろう少女の反応に、
「……フェイト達がやられるわけだ」
思わず、そう呟く。
あのレベルを相手にするには、なのはやフェイトでは力不足、いや経験不足だ。純粋な魔力量や出力の差、そんなものは戦術と経験、己の利点を相手に強要することで如何様にも埋めてくるからだ。
クロノが過酷な訓練を自らに課し続け、漸く足を踏み入れた領域に敵も立っているのだ。
……これは、一筋縄ではいかないか
飛行魔法を維持しながら周囲の状況を確認し、内心で毒づく。
なのはとフェイトは意識不明。生命反応はあるため命に別状はない様子だ。アルフも、路上で倒れ伏している。
そして、
「ユーノはビル内で戦闘中、と言うことか」
乱立するビル、その一つから発生している戦闘音と魔力反応から、クロノはそう結論付ける。
ならば、どうする。
高速回転する頭脳は、程無くして解答を弾き出した。
……二人の救護を優先
現状、命に別状が無いとは言え、あの本型のロストロギアで何をされたのか不明だ。更に、戦闘行動に移った際に流れ弾によって負傷、または人質にされる可能性すらあるのだ。
方針を決め、行動に移そうと赤い少女へ視線を向けて、
「……」
その腕に抱えられた厚い書物の正体に、クロノは気付いてしまった。
普通なら、本の表紙を目にした程度でその正体が分かる筈もない。しかし、『それ』だけは違った。かつて、父を暴走に巻き込み殺した元凶。第一級捜索指定ロストロギア……
「……闇の、書」
脳が沸騰しそうな、言い様の無い感覚がクロノを支配する。哀しみ、怒り、悦び、あらゆる感情をごった煮にしたような言葉に出来ない衝動。
その感情を押し殺そうと、ほんの一瞬だけクロノの警戒が少女から外される。
敵から意識が逸れたのはほんの一瞬だ。されど、コンマ一秒を争う戦場でそんな隙を見せることは、致命的と言わざるを得ない。
「あたしを知ってやがるのか、管理局員?」
何て軽い声が、クロノの間合いの内から掛けられる。
「っ!!」
気付けば、瞬間加速によって三十メートル近くあった距離が瞬く間に詰められていた。既に鎚の間合いに捉えられている。
悟ると共に、シールドを展開。それでは足らぬと脳裏に走った悪寒に従い身体を逸らすのと、一瞬の拮抗も許されず障壁が打ち砕かれ、クロノの黒衣の肩口が引き裂かれるのはほとんど同時のことだった。
「ぐっ」
弾かれるように距離を取りつつ魔力の刃を形成。
……スティンガーブレイド
澄み渡った青い燐光を携え、十の斬撃が虚空を切り裂く。並の魔導師なら一撃で昏倒を免れない強烈極まる魔力刃の檻が、赤の少女を囲むように封殺。同時に、スティンガースナイプによる高速誘導弾を解き放ち、魔力刃の間隙より狙い穿つも、
「しゃらくせぇッ!!」
気合一閃。
デバイスの機構が空薬莢を排出し、魔力の猛りが跳ね上がる。
魔鎚の一振りが全てを打ち砕く重撃と化し、幾重ものクロノの迎撃を正面から突破していく。
止まらない。
幼い外見など全く当てにならない、勇猛果敢な強行軍。
一瞬でも気が逸れれば、それだけで撃墜されかねない痛いほどの気迫。闇の書を発見したことによる動揺に、何時までも気を取られていられない。
……窮地にこそ、冷静な判断を
かつて教えを受けた恩師の言葉を脳裏に反芻し、クロノは襲い来る少女の鋭利な眼光に、己の積み上げてきた技量で以て返答する。
衝突し合う魔力の奔流が大気を掻き混ぜ、火花を散らす。互いに一挙手一投足の距離。武器を振るえばそのまま敵を殺傷できる超至近距離。
故に、
「ぉおおお!!」
「っ!?」
クロノは敢えて間合いを詰めた。
袈裟懸けに振るわれる一撃。鎚頭による圧倒的な打撃力を避け、柄に近い部分に杖を合わせることで必倒の重撃を受け流す。
鎚と杖の柄同士が甲高い金属音を奏で、鮮烈な火花を撒き散らす。
一撃を流された少女は目を見開き、しかし隙など晒さない。
歯を剥き出すような凶悪な笑みを浮かべ、上等と言わんばかりに返す刀の重撃が閃いた。
轟、と大気を引き裂くその一撃は、容易く鋼鉄を穿ち、巨岩を打ち砕く威力を秘める。直撃を受ければ死すら覚悟せねばならない凶悪な暴力に、クロノは己の愛機『S2U』を携えて挑む。
「くっぉおおおおおお!!」
「オラオラオラァアアアッ!!」
秒間十撃にも達する重撃の弾幕を己が身に付けた技術、杖術をフル活用して耐え凌ぐ。魔力で強化した肉体が、限界に近い杖捌きに悲鳴を上げる。
両者の間に咲き誇る無数の火の粉の花束。
瞬く間に鎚と杖の削り合いは百を越え、クロノは辛うじて拮抗、
「ぐっ」
出来ていなかった。
捌き切れなかった鎚が身体を掠め、バリアジャケットを打ち据えていく。それは直撃ではないものの、クロノの魔力体力を削ると共に、衝撃が体勢を崩していくのだ。
クロノ自身は近中遠距離全てに対応するオールラウンダーだが、ミッドチルダ式魔法が中遠距離を主体にする以上、近接戦闘に特化している敵の土俵で戦うことは悪手に他ならない。だがしかし、相手もそのことは理解している。このレベルが相手では、間合いを取るのも至難の技なのだ。
限界は近い。どうにか自身の有利な距離を保たなければ。
そんな思考を裏切るように杖が空を切り、
「ッラアアアアア!!!」
「がっ!?」
杖の防御をすり抜けた戦鎚がクロノの鳩尾を捉え、その身体を遥か彼方へ吹き飛ばした。
直撃の瞬間に展開した三重のシールドなど薄氷の如く崩れ去り、バリアジャケット越しに響いた衝撃はクロノの肉体に多大なダメージを蓄積させる。
痛みに悶絶し、空中を錐揉みするように弾き飛ばされつつも、クロノは己の状況を把握。幸い肋骨の数本に罅が入った程度だ。痛みを考慮に入れなければ、まだ戦闘に支障のない範囲内だ。だが、全身の所々で筋肉の断裂が起き始めている。これ以上、近接戦に付き合っていては命がいくらあっても足りない。
辛うじてシールドの展開が間に合ったことで、あの戦鎚の勢いを弱めることが出来たのだ。もしも無防備に受けていたら、クロノの意識は無かっただろう。
「……!!」
視界の上下が忙しなく反転していく様子を冷静に眺めながら詠唱を開始。勢いに乗って十分に距離を取ると、宙を蹴って飛行体勢を調整し、高速で距離を詰めてくる少女の姿を視界におさめる。
翳した杖の先へ魔法陣が展開。魔力を集束し、ほとんど溜めの無い砲撃魔法『スティンガーレイ』の砲火を喰らわせようと青の閃光を解き放ち、
「なめんじゃねえよ!」
その砲撃を杖を翳した時点で見越していた少女が、瞬時にクロノの背後を突いてくる。術後の一瞬の硬直を狙われたクロノに、その一撃を回避する術はなく、
「そっちこそ舐めるなよ、闇の書の騎士」
いや、回避する必要すら無かった。
……ディレイドバインド
設置型の魔法トラップが発動し、魔力の鎖に縛り付けられる赤の少女。
「なっ!? てめぇ、いったい何時の間にっ」
「、喰らえ」
吹き飛ばされている最中にした詠唱は、この為の布石だったのだ。しかし、驚き声を上げる少女に反応せず、クロノは全霊の魔力を練り上げる。
虚空に出現する青い魔力の刃。
加速的にその数を増やす魔力刃は、あっという間に百を越え……
「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」
中規模範囲攻撃魔法が、たった一人の少女目掛けて加速を始める。魔力刃の一本一本に環状魔法陣が展開され、弾丸のような斬撃の雨へと変貌を遂げる。
バインドの拘束は未だに健在。回避は不可能。高位魔導師とて、豪雨の如き刃の一斉掃射の直撃を受ければ墜ちざるを得ない。
『処刑』の名を持つ剣群が、守りを固める違法魔導師へ向けて、容赦なく牙を剥いた。
☆
それは、完成された一つの『武』だった。
躍動する肉体。
淀みなく流麗に連動する四肢。
「ォオオオオッ!!」
「、っ!!」
拳法衣を翻し、雷霆の如き踵落としが堅固な防御力を有するユーノの障壁を砕いた。一拍も置かず白銀の魔力の残滓を煌めかせ、芸術的な軌道を描いて繰り出される手甲に包まれた拳撃が、辛うじて身を逸らした少年の頬を掠め、バリアジャケットを削り取っていく。
冷や汗が虚空を飛び散り、ひび割れたタイル張りの床に落ちた。
「く、……そっ……」
身を沈め、今にも飛び掛かってきそうな猛獣を幻視させる男の構え。反撃の糸口など毛ほども見えてこない絶体絶命に、ユーノは短くそう吐き捨てた。
……場所が悪すぎる
ビルの屋内。エントランスホールのように比較的広い空間とは言え、空と比べればどうしても飛行魔法は制限されてしまう。そして、相手は地に足を着けて本領を発揮する近接格闘の達人だ。
敵が防御を得意としていること。ユーノ自身も補助や防御を得意とし、逃げに徹しているからこそ、未だに戦闘は継続できているものの、それも何時まで続けられるかわかったものではない。
……もう少し
自分自身にそう言い聞かせ、針の穴に糸を通すような精神集中を途切れさせない。一撃でもまともに受けてしまえば、それを堪えられたとしても連撃に巻き込まれて瞬時に意識を刈り取られてしまう。
「……まさか、ここまで粘るとはな」
構えを崩さないまま、男が呟く。それにユーノは苦し紛れの笑みを不敵に浮かべ、
「外の仲間を助けにいかなくて良いんですか? 僕達の増援があの子を捕まえてる頃ですよ」
なんて、希望的観測をさも事実のように語る。
結界内にクロノが突入してきたことを、ユーノはその魔力反応から悟っていた。だが、念話で話し掛けるほどの余裕が無いため、未だに連絡が取り合えていなかった。クロノはクロノで赤い少女との戦闘に突入したようであるし、ユーノとしては早いところあの少女を倒してこっちを助けに来てほしいところだったが、
「ベルカの騎士が一対一で遅れをとるなどそうあり得ん。それに、例えお前達の増援が相当の手練れであろうとも、私がお前を仕留めてから増援に向かえば良い話だ」
ユーノ側の状況は変わっていない。言外にそう告げられ、ため息を口内で噛み殺した。
まったくの図星。そもそもクロノが赤い少女に勝てるかどうかすら定かではないのだ。敵を焦らせようとして口にした言葉で、逆にユーノが焦りそうだ。
内心の焦燥を頭を振るうことで掻き消そうとして、
「フンッ!!」
男はその隙を狙い済ましたように踏み込んできた。滑るように左足を踏み出しつつ、風切り音を突き抜けて掌底が虚空を抉る。咄嗟に身体を投げだしたユーノの民族衣、そのマントの端に掠めて千切れ飛ぶ。
「くぅッ!?」
「ハッ!!」
宙に横たえた身体を飛行魔法で操作して間合いを離そうとするも、その発動よりも先に鋭い呼気が大気を貫く。神速で腕が引き戻され、左足を軸に男の身体が大きく跳躍。
総身で螺旋を描いた右回し蹴り。強力な魔力が込められたその一撃は、宙にあるユーノ目掛けて正確無比に綺麗な円を虚空へ引く。
「!!」
回避不可能。
だが、伊達に毎度のように繰り出されるフィーの出会い頭の不意打ちを防いではいない。
踏み込まれた瞬間にどうやっても回避出来ない一撃が来ることを察していたユーノは、掌底からコンマ数秒の微かな間でマルチタスクの一つを用いて構成した防御シールドを展開。強烈な回し蹴りを辛うじて防いで見せる。
硬質な音を奏でて砕け散る障壁。その破片が薄緑の燐光をほのかに湛えて宙を舞う。
防ぎ切れなかった蹴りの衝撃に逆らわず吹き飛ぶことで、間合いを離す。だが、
……敵ながら、凄い
その時には既に、ユーノには予備動作の全く見えない動きで距離が詰められてしまう。
拳と言う牙を剥くその姿、地を這う獣の如く。
ユーノが知る筈も無かったが、その動きは長い歴史を持つ古流ベルカ武術の中で、戦乱の中に消えた名も無き源流の一つだった。ネギが男を見れば、獣の動きを模したそれに、象形拳の完成形、とでも口にするだろうか。
何れにせよ、フィーとの交流から多少は格闘術をかじっていたユーノには、男の動きがどれ程洗練されたものかがよく分かった。
とても勝ち目など無い。
だが、
「かかった」
それだけで常勝が約束されるほど、魔法戦闘は甘くない。
極限の集中が時間を緩やかに遅滞させ、空気を鉛の如く重く感じさせる。男は既にユーノを殺傷範囲に捉えている。鉄拳が拳銃の撃鉄を上げるように振りかぶられた瞬間、
……
男の回し蹴りで砕け散ったシールドの破片から、魔力の鎖が迸った。
「ぬぅっ!?」
背後から絡み付くバインド。
いかな男とは言え、虚を突かれた拘束には一瞬だけ反応が遅れた。ぶちぶちと容易に千切られ、拳が振り抜かれるものの、吹き飛ばされる過程にあったユーノの身体は既に男の間合いから脱出している。
その勢いのまま飛行魔法の制御を取り戻し、全速力でビルの外へと宙を駆ける。
「逃がさん!!」
「逃げるっ!」
捕縛盾の拘束を一秒足らずで粉砕した男の追撃の咆哮に、ユーノもまた全力の宣言を返し、
……発動
刹那、縛鎖の檻が顕現する。
ビルの中へと叩き飛ばされた時点で張り巡らせていた
背後から響く、無数のグラスが割れるような硬質な破壊音。嫌になるほど永く感じる僅か数秒を駆け抜ける。
そして、屋内から脱出すると同時にユーノは振り返り、渾身の気合いを込めてキーワードを吼えた。
「『爆』ッ!!!!」
刹那、幾百の轟雷を思わせる連続した炸裂音が、ビル内より轟き渡る。
「ぐ……ッ!?」
視界の先、驚愕に目を見開いた男の姿が、爆煙に呑み込まれて掻き消える。
突然の大爆発。それはユーノがビルの支柱に幾つも仕込んだ発破用使い捨て魔導具『
あらかじめ魔力を込めておき、設定したキーワードを発声すれば、お手軽に強力な魔力爆発を引き起こせる優れ物。本来は土砂に埋まった遺跡の発掘等に使われる物だ。管理局の定める取扱い免許を所持していなければ、危険物所持でしょっぴかれる程度には危険な物で、勿論、ユーノはその免許を持っている。と言うか、スクライアの移動都市自体が免許発行の認可を受けた数少ない場所の一つだ。
一枚でも中々の、携帯端末が買えてしまう程度には高価なお値段なのだ。しかも、今回はそれを五枚も使う大盤振る舞いだ。正直、一瞬で塵と消えた高額紙幣の枚数を思うだけで胃が軋みそうだ。
迅速に路上に横たわっていたなのはとフェイト、二人の少女を両脇に抱え込み、その場を離脱。
轟く地鳴り。
鳴動する高層ビル。
強烈な魔力爆発の連鎖によって傷付き、支柱を失った百メートルはある巨大建造物が、褐色の男を巻き込みユーノの背後で倒壊を始める。
空に上がりながら高層ビルが崩れていく大気の震動を肌で感じ、ユーノは一つ息を吐いた。
「…………ふう、やれやれ」
爆発から完全に倒壊するまで、二十秒と言ったところだろうか。
……これは死んだ、かな?
自身が原因で引き起こされた大破壊に若干、違う意味で冷や汗を滲ませていたユーノは、しかし、すぐさま己の考えの甘さを自覚した。
もうもうと立ち上る盛大な砂煙から突き出す、無数の突起。白銀色のそれが瓦礫を吹き飛ばしたかと思うと、僅かに拳法衣に血を滲ませ、煤煙を付着させた男の姿が現れたのだ。
あれだけの大爆発に巻き込まれてなお、ほぼ無傷。
想像を遥かに上回る防御力の高さに辟易しつつも、頭の中ではどうやってこの窮地を乗り越えるべきか高速で思考を巡らせて、
「ここまでだな」
男が呟いた。
その視線の先では鎚を繰る赤毛の少女と、黒衣に身を包んだ執務官の少年が、互いにバリアジャケットをボロボロにしながら空中の睨み合いを続けていた。
「……ようやくお帰りで?」
「ふむ。まさか、仕留めきれんとは思いもしなかったぞ、強き少年よ」
血のように濃い赤の瞳を僅かに細め、男は頭を振るうと、
「我が名はザフィーラ。蒼き狼にして主を護る盾の守護獣。……お前の名は?」
なんて言った。
まるで騎士のようなそんな名乗りにユーノは苦笑を浮かべ、
「移動都市スクライア第十四発掘隊隊長、ユーノ・スクライア。この子達の友達ってところです」
そう嘯いた。
そしてそんな言葉に男は小さく頷くと、言う。
「友達、か。襲ったこちらが言えた義理ではないが…………すまなかったな。主を救うためとは言え、幼い少女すら手を掛ける我らの身勝手を怨むが良い」
「主……? さっきは守護獣とも」
目前の男はアルフと同じような使い魔なのか。ならば、主はあの赤い少女だろうか。
……違う
男の言葉が正しければ、赤い少女も男と同じ存在と言うことになる。つまり彼らは、使い魔とは違う主を護る存在。おそらく、その大元はなのはとフェイトに何かをした
そこまで情報を整理して、ユーノは更に敵の正体を確かめようと言葉を続けようとするものの、
「あなたは一体、なんだ?」
「我らは守護騎士ヴォルケンリッター。主を護る夜天に集いし浮き雲なれば」
刹那、紅の極光が結界内を埋め尽くした。
「ッ!?」
赤い少女が放った閃光弾。
目を焼かれ、一時的に視力を喪失しながらも光の原因を悟るユーノ。この状態で攻撃を受けるのは不味い、と魔力と気配の察知を一際鋭敏にして周囲を探るも、
「次があればお前の魔力、必ず貰い受けよう」
そんな捨て台詞が宙を漂った。次いで、封鎖結界が解除されて褐色の男と赤い少女の気配が掻き消える。
「…………逃げたの、か」
先程までの修羅場が嘘のように、活気の戻った夜の街の上空。
ポツリと呟く言葉に、返答はない。
赤い少女が居たであろう空間へ目をやれば、そこには悔しそうな渋面を窺わせるクロノの姿。
視線に気付いてこちらへ近付いてくるクロノに、ユーノは肩を竦めて見せる。
「やれやれ……」
吐き出されるため息。
なんだってこんな管理外世界の片田舎で、一年も経たない内に魔導に絡んだ事件に巻き込まれるのやら。
意識不明の負傷者が三名。しかも、犯人は古代ベルカ式を高い次元で使いこなす猛者達だ。この事件はこれでは終わらない。濃密な厄介事の気配を感じ取り、ユーノは内心で毒づく。
爆発魔法符は果たして経費で落とせるだろうか。なのはとフェイト、二人の容態はどうだろうか。フィーと遺跡発掘に行きたいな。あの守護騎士達は再び襲ってくるのだろうか。そんな諸々の考えは一先ず脇に置き、
「あ、そう言えばアルフ……」
気を失ったまま路上に放置されたアルフを忘れていたことを、ユーノは不意に思い出した。結界が解除されたと言うことは、異相空間から現実空間に帰還したと言うわけで、つまり、路上のアルフは正に車両に引かれても可笑しくないわけで……
………………
…………
……
「……………………まぁ、頑丈だしきっと大丈夫でしょ。たぶん」
そんなこんなで、激動の一夜は過ぎたのだった。
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