リリネギカルま! 改訂版   作:藍上 尾

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第三話

 あ、と思ったときには視界の上下が逆転していた。渾身の力で突き出した拳は呆気なく捌かれ、どうやったのか投げ飛ばされたのだ。

 

 軽い浮遊感の後、スパンと地面に叩きつけられ息が詰まる。

 

「うん。今のはなかなか良かったよ」

 

 赤毛の青年……今は十歳前後の少年の姿に化けている相棒のネギが、頬をかきながらそう言ってきた。

 

 もうこの様に軽くあしらわれたのは何度目だろう。百回を超えた辺りから数えていない。自惚れるつもりはないが自分はかなり強くなったと思う。思うのだが、強くなればなるほど、目の前に佇む相棒との実力差が天と地ほど離れているとわかってしまう。

 

 だが、

 

「うがーっ!! 今度こそいっぱつくらい入れてやる!!!」

 

 やられてばかりでは性に合わない。フィーは手甲に包まれた拳を強く握り締め、ネギに向けて再び突貫していった。

 

 

 

 

 

 

『おーい、朝だよー』

 

「ほぇ?」

 

 頭に響くそんな声で、フィーは目を覚ました。眠気の残るまぶたを擦り、ふらふらとベットから起き上がる。窓のカーテンに手を掛け、一気に開いた。

 

 朝の清涼な空気と、眠気を蹴散らす眩い日差しが部屋に満ちる。

 

「うーんっと。おはよう、ネギ」

 

 背筋を伸ばし、首を回してコキコキ音を立てながら、相棒へ一言。

 

 昼には地下闘技場へ入り浸り、夜から朝に掛けて、精神世界で通常の何十倍も濃い戦闘訓練。フィーとネギがこの街に辿り着いてから、あっと言う間に二週間が過ぎていた。

 

『おはよう、フィー。頭がすごいことになってるから、早く直してきたら?』

 

「ぅん~~~~って、うひゃー」

 

 赤毛の長髪があっちへひょこひょこ、こっちへぴょんぴょん、ボサボサになっている。精神世界での修業は、どうやら酷い寝相として現実にも影響してきていたらしい。

 

 放っておけば何時までもジャージの上下で過ごしてしまいそうな……実際、今のところジャージしか服と呼べるものを持っていない……身嗜みなんて最低限にしか気を払わない少女が思わず声を上げるほど、凄まじい髪の跳ね具合だ。

 

 慌てて洗面所で顔を洗い、髪をなんとか整えようと四苦八苦し始めるフィー。今日も一日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 プロペラによく似た大型の回転翼が勢い良く回転し、重力の戒めを解き放つ。

 

 時空管理局地上本部の新型武装ヘリコプターである。

 

 その中で揺られる局員たちの中に、一人の巨躯の男が居た。

 

 無駄なく鍛え上げられた肉体と、強大な魔力。地上本部が誇る切り札の一枚。魔導師ランクS+、一騎当千の英雄と称されるゼスト隊隊長、ゼスト・グランガイツその人だ。

 

 そんな男が、自身の部下たるゼスト隊の隊員達へ向けて口を開く。

 

「当初の作戦通り、俺、ナカジマ、アルピーノの三名で内から崩す。各員は外部でラインを敷き、拘束に当たれ」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

『さあ、本日もこの時間がやってまいりました! 赤コーナー、まさかまさかの五十連勝中! リングを彩るピンクジャージ、フィー選手! 対する青コーナーはこの人! 十連勝中の期待のルーキー、大剣使いのレイ選手だーっ!! 両者ともに近年稀にみる猛者です! いったいどちらに勝利の女神は微笑むのでしょうか!!』

 

 五十メートル四方のリングに立つ赤毛の少女、フィー。もはやトレードマークと成りつつあるピンクジャージと下駄、一房飛び出たアホ毛がチャーミング?だ。

 

 そして、十メートル程の距離をおいて対峙するのは、銀髪を短く刈り上げ、黒いタンクトップに同色のズボンという出で立ちの青年。

 

『それでは試合、開始です!!』

 

 司会の合図と共に会場内に響き渡るゴング。超満員の客席から上がる怒声、野次、何やらピンク色の法被を着て『フィーちゃん頑張れ!!』なんて大きく描かれた旗を振り回す一団の声援、一切合切を無視し、ゴングの音色が鳴り止む前にフィーは突っ込んだ。

 

 ……先手必勝ッ!

 

 小細工なし、正面から高速で距離を詰める。

 

 十にも満たない少女の身体は魔力で強化され、人間の限界をあっさりと突破する。ネギが元居た世界では瞬動術《クイック・ムーブ》と呼ばれる高速移動術。精神世界での特訓で、フィーが習得した技法の一つだ。

 

 まだまだ荒削りながら、十メートルの距離を一秒に満たない一瞬でゼロにする。

 

 直後、男の手元が閃いた。

 

 

「シャッ!!」

 

 短く鋭い呼気。刃渡りだけで少女の身の丈を超える大剣が、横凪に振るわれる。

 

 ビュオッ、と風切り音を全身で感じ取った瞬間、フィーは三十メートル近くある試合会場の天井目掛けて跳躍し、大剣の一閃を回避する。

 

 ……あんなのもらったら、身体が真っ二つになっちゃう

 

 この闘技場に殺傷設定の規制は存在しない。まあ、あったとしても武器を基にしたアームドデバイスでは、刃引きされる程度だ。どちらにしろ大怪我は免れない。

 

 天井へ逆さまに着地したフィーは強く拳を握り、眼下の青年へ天井を蹴ることで落下する。重力すら味方につけた加速。常人なら反応できないだろう頭上という死角からの攻撃に、黒い青年はしっかりと反応。迎撃を間に合わせてくる。

 

「やぁ!!」

 

「はっ!!」

 

 頭上から迫るフィーに、青年はすくい上げるように大剣を振り上げた。背筋を走る寒気を冷静に感じ取り、霞む速度で迫る大剣の軌道を予測。

 

 一瞬の判断。握り込んだ手と逆の左手を鋭く伸ばす。

 

 剣閃が轟風と共にフィー目掛けて煌めき、

 

「っ!!!」

 

 見開かれる青年の目。

 

 甲高い金属音と火花が散り、大剣が手甲の上を滑っていく。

 

 重い手応えがフィーの腕に鈍く残り、赤毛が数本宙を舞う。

 

「もらったぁぁあ!!」

 

 刹那、少女の拳が青年の顎を捉えた。

 

 くるくると回転し、地面へ着地。

 

 ほぼ同時、青年は崩れるように膝から倒れた。

 

 ……あぶなかった~

 

 苦しいほど跳ね回る心臓を落ち着け、フィーは観客へブイサイン。大喝采が小さな身体に叩きつけられ、少女は小さく笑みを浮かべた。

 

『おぉっとッ、注目のルーキーレイ選手を一蹴!! フィー選手、やはりその実力は本物だ~! あっさり瞬殺してしまいました!!!』

 

 

 

 

 

 

 大剣使いとの戦い。いかに精神世界で通常の何十倍もの濃い時間を過ごし、自分が基礎を叩き込んだとは言っても、身体の動かし方もよく知らなかった素人の少女が、短期間で達する域ではない。

 

 はっきり言って、異常だ。

 

 才能はある。むしろ天才と言っても過言ではないだろう。我流で手甲を使った戦いを既に構築し始めているのだから。だが、やはりその成長速度は異常だ。

 

 その他にも、フィーの成長に合わせるように魔力量も増大してきている。まるで、以前のネギの肉体に戻ろうとでもするように。

 

 十年以上世界を巡ってきたネギの目には、そんな違和感がはっきりと感じられてしまう。

 

 ……元々、フィーは金髪だった

 

 しかし、今や自分と同じ赤毛。ネギは己の師、吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの言葉を思い返す。

 

 ……精神は肉体の影響を受ける、か。なら

 

 ならば、肉体もまた精神の影響を受けて何ら不思議ではないのではないか。

 

 ネギの身体は王族級の魔族に言われたとおり、闇の魔法《マギア・エレベア》の侵食により魔の眷属へと変質し、十八で肉体は時を止めた。確証はないが、フィーの肉体もネギの魂につられ魔の眷属へと近付いていく可能性があるのではないか。

 

 なにぶん、闇の魔法の使用者がエヴァンジェリンとネギの二人しかおらず、正確なことはわからないのだ。

 

 ……むぅ、危険か。だけど、止めようにも精神防壁が意味をなしていないみたいだし、このままじゃどうしようもない。それに

 

 例え魔の眷属に変質しようとも、父やラカンを思わせる、良い意味でバカっぽい性格の少女なら意外とあっさり乗り越えてしまうのでは、と思わなくもない。だがしかし、危険であることに違いはないのだ。

 

 ……とにかく、闇の魔法を使わないに越したことはないか

 

 余程のことがない限り切り抜けられると思うが、何があるかわからないのが世の中なのだから。

 

 

 

 

 

 

「うりゃーっ!」

 

「ゴブロッ!?」

 

 手甲に包まれたフィーの裏拳によって、また一人男が宙を舞った。

 

『勝負あり! フィー選手、まさしく瞬殺! 瞬★殺、です! 本日既に五連勝、果たして少女の快進撃はいったい何処まで続くんだ~……そろそろカードが組みづらくなってきたんで、誰か止めてくださーいッ』

 

 地下闘技場に響き渡る司会の声に反応し、リングの周囲で試合を観戦する観客たちがヒートアップしていく。

 

 十歳に満たない少女が、並みいる屈強な拳闘士たちを打ち破っていくのだ。注目度としてはピカイチだろう。

 

 大歓声を浴び、普通の少女なら萎縮してしまうだろう舞台の上で、フィーは決めポーズまでとる余裕を見せていた。むしろ、身体を震わせる大歓声に心地良さすら感じていた。

 

『そろそろ終わりにしておいた方がいいよ。体力的にも魔力的にも、消耗してきてるでしょ?』

 

『うーん……』

 

 ネギの言葉にフィーは考え込んだ。

 

 殺傷設定ありの違法賭博試合。医療施設は充実していると言っても、下手すれば死の危険が当然あるのだ。出来る限りベストな状態で挑むべきだ。しかし、

 

 ……この歓声をもう少し浴びたいな、なんて

 

 そんな欲求が頭に浮かぶ。

 

 自身の状態を可能な限り客観的に鑑みて、後一試合だけ戦うことに決める。

 

『……はあ。危なかったら、僕が無理矢理にでも表に出るからね』

 

『さっすが相棒! わたしにまっかせなさーい』

 

 拳と拳、手甲を叩き合わせてフィーは気合いを入れた。

 

 すると、ちょうど次の挑戦者がリングへ上がって来る。

 

『さあ、次のカードが組まれたぞ! リングを駆けるピンクの小悪魔、フィー・T・N・スプリングフィールドーーーーッ!!!』

 

 大歓声が再び地下闘技場の空間を響き渡り、フィーの肌を叩く。

 

『対するは、女に年を聞くな! 年齢不詳、匿名希望のAさーん!!!』

 

 両腕に大きなリボルバー状のナックル。両足にはローラーブーツを装着した若い女性だった。

 

 白い即興で作ったように簡素なバリアジャケットに包まれた身体が、自然体で佇む。その姿に、フィーは隙らしい隙を見出すことが出来なかった。

 

 ……強い

 

 ネギの声か、それとも自分の呟きか。フィーにはわからないが、そんな言葉がぽつりと脳裏に過ぎる。

 

『それでは試合、』

 

 サンダルがギシ、とリングを踏みしめフィーの腰がわずかに落ちる。まるで、短距離走のスタートを待つかのように全身に意識を行き渡らせて合図を待つ。

 

 そして、

 

『開始!!』

 

 ゴングと同時、フィーは弾丸の如く一直線に飛び出した。

 

 ……よし!

 

 今日一番の手応え。上手く瞬動術に入れたと思いながら、勢いを殺さず渾身の回し蹴りを女へ向けて叩き込む。

 

「はぁっ!!」

 

「……っつ!」

 

 剃刀のように鋭いフィーの回し蹴り。だが、女は身体を仰け反らせてスウェーのみで回避して見せた。

 

 空を切る蹴り足。少女の身体が空中で独楽のように回転する。

 

 蹴りをあっさりと避けられたことに多少なりとも驚いたが、それだけだ。毎日のようにネギとの模擬戦を続けているフィーにとって、そんなことは予想の内。

 

「なっ」

 

 息を呑む女。

 

 独楽のような回転で体を入れかえたフィーによって、遊んでいた軸足が後ろ回し蹴りへと変化したのだ。しかし、やはり手強い。易々と直撃を受けてはくれず、脇腹を狙った蹴りが片腕のナックルでガードされる。蹴り足とリボルバーナックルが鈍い音を上げて衝突した。

 

 フィーの回転は止まらない。

 

 回転の勢いをそのまま上体へと移行。手甲による裏拳を、女の側頭へと繰り出す。完璧なタイミングだった。少なくとも今の少女にとってはこれ以上ない三段構えの攻撃だった。だが、

 

「くっ」

 

「うっそぅ」

 

 防がれる。意識を隙間を突いたはずの裏拳すらも、あっさりと手の平に止められてしまったのだ。

 

 弾かれるように距離を取るものの、必倒のコンビネーションを安々と防がれてしまった以上、状況は最悪と言っていいだろう。こちらの最大速度、間合い、凡そながら図られてしまった。もう瞬動術による動揺も期待出来ない。

 

 嫌な汗が、背筋を伝った。

 

 

 

 

 

 

 フィーの対戦相手、匿名希望のAさんことクイント・ナカジマは、手に残る鈍い痺れに思わず内心で驚嘆の声を溢した。

 

 一瞬でも反応が遅れていれば、或いは今のコンビネーションで昏倒する程のダメージを受けていたかも知れない。十に満たない、まだまだ幼い年齢にしてこの戦闘センス。

 

 ……凄いわね

 

 クイントとフィーの距離は五メートル。瞬き一つの内に詰められる間合いだ。

 

 違法賭博を潰すために内部へ潜入してみれば、なんだか凄い逸材に出会ってしまった。今はまだ自分にもかなわないだろう。しかし、将来的にはどうだ。或いは英雄とまで呼ばれる隊長に匹敵するのではないだろうか。

 

 そこまで考えてクイントは、自分が目の前の少女との戦いを楽しんでいることに気が付いた。それは、青春時代を熱い戦いに燃やしたインターミドル・チャンピオンシップ都市決勝すら彷彿させる心の猛り。

 

 ……いけない、いけない

 

 危うく任務を忘れて少女との戦いに燃え上がるところだった。頭を振るって向き直る。

 

 いずれにしろ、ここはあんな真っ直ぐな瞳をする少女が居るべき場所ではない。どんな理由でこんな違法な場所で戦っているのか知らないが、自分たちのような大人が道を正すしかないだろう。

 

 そして気付けば、クイントは少女へ声を掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 フィーは呼吸を整えながら、相手の隙を探る。

 

 何かを考え込むように俯いているが、自分がどう打ち込んでも、さっきのように避けられ、防がれて、今度は反撃を受ける気がした。

 

 次にどう動くか考えている内に、女の口から問いが投げ掛けられた。

 

「……あなた、何でこんな場所にいるの?」

 

「え?」

 

「七、八歳ってところでしょ? こんな違法な闘技場で戦ってるなんておかしいでしょ? なにか事情があるの?」

 

 質問してきた青髪の女性の目は、真剣なものだった。だからか、フィーも少しの間を置き、本心を口にしていた。

 

「……目的のために、お金が必要なの」

 

「借金があるとか、親に無理矢理、とかかしら?」

 

 そんな言葉に首を振り、フィーは拳を突き出して微笑んだ。

 

「わたしの、わたしによる、わたしだけの目的のためだよ。だから、……負けない!!」

 

 既に何試合もこなしているフィーには、魔力的にも体力的にも余裕があまりない。ましてや、格上が相手だ。

 

 ……それなら

 

 一撃に賭ける。

 

 地面すれすれに体勢を倒してからのアッパー。一瞬、消えたようにすら錯覚するだろう。

 

 しかし、

 

「そっか……ま、あなたの年なら軽い罪で済むでしょうしね」

 

 ナックル部分の回転に、拳が受け流される。

 

 伸びきった姿勢。危ないと思考が追いつくよりも前に、女の膝ががら空きの腹部にめり込んだ。

 

「ぐっぅつつ!?」

 

 ジャージの上に纏っている透明な常時展開障壁≪バリアジャケット≫を貫く衝撃。胃が口から飛び出てしまいそうなそれが腹部から全身へと伝播し、呼吸を浅くさせる。宙を舞う浮遊感に次いで走った全身の痛みで、自分が場外の壁に叩きつけられたのだ、とフィーは悟った。

 

「が……ぅう……」

 

『勝負あり! ピンクジャージのフィー選手を沈めたのは、名も知れぬ飛び入り参加、匿名希望のAさんだーッ!!』

 

 司会の声と観客の怒号、歓声が飛び交う中、フィーは何とか自力で立ち上がった。駆け寄ってくる医療班のスタッフに大丈夫だと手で合図して、お腹をさすりながら選手控室への出入り口へ歩き出たす。

 

『大丈夫かい、フィー?』

 

『うん。いやー、負けた負けた。やっぱり上には上が居るもんね。ネギでわかってるつもりだったけど、手も足も出なかった』

 

 しかも、フィーには手加減されたことがわかってしまった。やられて直ぐ歩き出せたのが証拠だ。試合再開不能と判断されるぎりぎりを狙ってダメージを与えられたのだろう。

 

「でも、次は……」

 

 今回は負けた。しかし、自分は死んでいない。次やるとき、それでも駄目ならその次の次……フィーは学習し、成長していく。殺されない限り、完全な敗北ではないのだと、ネギに戦いの基礎を仕込まれるとき一番初めに教わったのだから。

 

 自分はもっと強くなれる。そう確信し、フィーは頷いた。

 

『わたしは強くなる。大魔導師って呼ばれてたお母さんよりも強く。……だから付き合ってね、相棒さん』

 

『……ふぅ~、相棒の頼みじゃ仕方ないね。それじゃあ、修行の内容を一段階上げてみるかい?』

 

『うん!』

 

 そんなこんなで今日はもう帰ろうかな、と思っていると、リングの上でまだ佇む青髪の女性が司会にコメントでも求められたのだろうか、マイクを片手に持ってスポットライトを浴びていた。

 

 何を言うのか聞いてからでいいや、とフィーが出口へ向かっていた足を止める。

 

 同時、ネギが何か訝しむ様子で呟いた。

 

『……なんだろう。建物の外に人の気配が……この人数は』

 

「え? どういうこと?」

 

 首を傾げる。

 

『わからない。でも、用心した方が良いかも知れない』

 

 その時、

 

「!」

 

 女が自分を見た気がした。いや、違う。その視線の先にあったのはこの地下闘技場の出入り口だ。

 

『皆さん……違法賭博、及び危険魔法行使の罪で逮捕よ!! 抵抗すると罪が重くなるから、そのつもりでね』

 

 マイクを投げ捨て、腕に魔法陣が絡み付く。

 

 あっ、と思ったときには、砲撃魔法が観客席を守っている魔法障壁を素通りし、人々を吹き飛ばした。

 

 阿鼻叫喚。

 

 ばったばったと非殺傷設定砲撃魔法による魔力ダメージで気絶していく観客。続いて、フィーの背後、つまり施設の出入り口から爆発音と同時になだれ込んでくる白を基調としたバリアジャケットを纏う集団。

 

 頬がひきつるのを感じた。

 

『ね、ねえ、ネギ』

 

『……なんだい?』

 

『これって、ピンチってやつじゃないかな? もしかして……』

 

『もしかしなくてもピンチだね』

 

 混乱し、一周回ってむしろ冷静になった脳内での会話。

 

 そして爆発した扉の向こう側から、

 

「時空管理局だ。抵抗せず、大人しく武器を捨てろ」

 

 巨躯の男が歩み出てきた。

 

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